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AIで読解力は鍛えられるのか? 〜高校国語授業での新しい挑戦〜

AIで読解力は鍛えられるのか? 〜高校国語授業での新しい挑戦〜

読解力は経験でしか伸びない?という疑問

すべての活動の土台であると言われているのが国語力です。考える力、感じる力、想像する力、表現する力など、言葉を通して学ぶ国語は、社会生活においても必要ですし、学問・勉強という意味においてもすべての教科の基礎となっています。

 今回は、その国語力の中でも大事な「読解力」についてです。

読解力というと国語の授業では評論や小説や随筆といったいわゆる「現代文」を思い出します。個人的には、高校生の時、まったく共感できない小説や、小難しい言い回しの多い評論の読解に苦戦した記憶があります。

 学習の中でも読解力というのは、数多くの文章や書物を読みこなすこと(いわゆる経験値)でしか向上しない気がしているのですが、今の時代ならAIを活用することによって向上するのでしょうか。

 探してみたところ、「生成AIを用いた概念探究型読解指導 ―高等学校国語科における実証的実践―」という論文がありましたので、ご紹介します。

 

読解力を支える4つの要素と「概念志向型読解指導(CORI)」

論文によると、読解力を伸ばすには、
知識(概念理解)
動機づけ(やる気)
読解方略(どう読むかというテクニック)
社会的相互作用(他者と話をしたりする社会的な関わり)
という4つの要素が重要だとされています。

その具体的な実践として提唱されているのが「概念志向型読解指導(CORI)」というもの。興味のあるテーマについて、自ら問いを立て、方略を使って読み、他者と議論しながら理解を深める有効性が報告されている学習法です。

概念志向型読解指導が上手くいくためには「学習者一人ひとりのニーズに合わせたテキストを用意すること」が必要ですが、現場の教師にとって非常に負担が大きく、実践のハードルが高いという課題がありました。

そこで、その解決策としてAI(ChatGPT-4)を用いて、生徒自身が探究用テキストを生成する、という読解指導を検証することが目的だと書いてあります。

 つまり、著者はAIによって生徒の興味関心に合わせた個別のテキストを即座に提供することが可能になり、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を同時に実現できると考えたということです。

 

AIで対立する意見を生成し、止揚へ 〜実験授業の具体的な流れ〜

実験は以下の通りです。

静岡県の公立高校2年生38名(主に理系志望)を対象に、2025年1月から2月に、計11時間の授業で行いました。

1時間の授業は、以下の4つのステップで構成されています。      

  1. 生成
    ペアで「生命」や「正義」といったテーマを決め、それに対する対立する2つの立場を設定する。それをAI(ChatGPT)に入力し、それぞれの立場からの2500字程度の評論文を作らせる。
  2. 要約(個別読解)
    AIが作った異なる立場のテキストを、各自がこれまでに習った読解方略(既有知識の活用や構造への注目など)を用いて120字程度にまとめる。
  3.   止揚(対話と統合、アウフヘーベン)
    ペアでそれぞれの要約を持ち寄り、対立する意見を議論する。単なる多数決ではなく、両者の主張を統合した新しい視点や結論を導き出すこと(止揚)を目指す。
  4.   省察
    学習の成否を振り返り、次の問いへと繋げる。


少し補足すると、生成ステップでは、例えば、「人間と動物は共存できるか」といった問いを考え、それに対する「共存できる」「できない」という2つの対立する立場を設定します。それをプロンプト(指示文)に入力し、大学入学共通テスト風の評論文として、それぞれAIに作成させる、ということです。

また、著者は授業の核心は、ペアで協力して「概念」を深掘りするプロセスにある、と述べています。

 

読解力・自信・スキルは向上 〜実証結果から見えた効果〜

この実験の分析は、指導の前後で異なる評論文を使用した読解力テストと、実験後のアンケートによって行われています。

結果は以下の通りです。

  1.  読解力テストの結果(120字の要約テスト:5点満点)
     指導前:2.16点 指導後:2.92点
    この結果から、AIを用いた授業が読解力の向上に効果があったと考えられている。なお、採点における採点者間の一致率は89.5%と高く、客観的な評価がなされている。

  2. アンケート結果 (7点満点)
    ・自己効力感(評論文を読めるという自信)
     指導前:3.53 指導後:4.05
    自分たちで問いを立てて解決するという目標を持ったことや、読解のコツ(方略)を学んだことが自信につながった。

    ・読解方略(「構造に注目する」「接続詞に注目する」などのスキル)
     指導前:4.07 指導後:4.44
    同じ学習パターンを繰り返すことで、無意識に使っていたスキルを自覚して使えるようになった可能性がある。

    興味(評論文への好奇心)
     指導前:4.47 指導後:4.70
     数値はわずかに上がっているが、統計的な有意差(はっきりとした変化)は見られなかった。

 

これらの結果から、このAI活用授業が「読解力」「自信」「スキルの習得」に明確な効果があったことがわかりますね。

補足すると、生徒からは『論理の構成を探すのが得意になった』『自分の言葉で要約できるようになった』といった肯定的な振り返りが多く見られた、と書いてありました。
このあたりの意見は、読解力や学力の向上を示す重要なポイントだと思います。

一方で、「評論文そのものへの興味」については、有意な上昇が見られなかった結果になっています。その理由として「自分が選んだテーマには熱心に取り組むものの、その興味が国語の教科書全般や、未知の評論文にまで広がるには至らなかった」と書いてあります。


私見ですが、興味についてはすべてのテーマに興味を持つことは大人になってもなかなかできないことなので、正直な結果だと感じます。何かを好きになるというのはテクノロジーだけでは難しい人間の領域なのかもしれませんね。

 

AIは“答え”を出す道具ではなく思考を促すパートナー

著者はこの実験の分析結果として、一人ひとりが異なる文章を読むため評価する難しさや、どう国語という教科全体の興味を広げていくか、AI技術のリスクなどの課題をあげていますが、最後にこう結論づけています。

「この論文は、生成AIを単なる『答えを教えてくれる道具』としてではなく、『思考を刺激し、対話を促すためのパートナー(あるいは素材提供者)』として位置づける新しい授業モデルを提示した。生徒が自ら問いを立て、AIが生成した「異なる意見」と向き合い、友人と議論して新しい結論を導き出す――この一連のプロセスこそが、これからの情報社会を生き抜くために必要な、真の読解力を養う手立てとなる」

 

深く考える力はAIで育つ

以上が論文の概要です。
高校生にもなれば、個々にAIを駆使して、わかりにくい内容や問題文を読解することをやっていそうですが、「読解力を養う」という意味では、先生が考え、授業でしかできないAI活用の仕方だと感じました。

「読解方略 × 動機づけ × 協働 × 生成AI」という、能動的な授業も素晴らしいと思いました。

論文の中で、「ハルシネーションを含め、生成された文章を鵜呑みにせず、話し合ったり批判的に読み取ったりする姿勢を見せた」という記述もありました。授業で、誰かと行うことでAIリテラシーも育っているんですね。

 AIが生徒たちの本来持っているはずの深く考える力を最大限に引き出してくれる――。 今後、学校教育では、このようなAI活用が広がるのを期待したいです。

 

◾️論文タイトル:「生成AIを用いた概念探究型読解指導 ―高等学校国語科における実証的実践―」◾️著者:安田元気◾️掲載誌:『読書科学』2025年10月号◾️DOI:10.19011/sor.66.4_212 ◾️公開日:2026 年 1 月

 

このコラムのまとめ

  1.   生成AIを活用した読解授業は、実証的にも読解力の向上を後押しする結果を示した。
  2.   読解力は才能ではなく、「方略」と「対話」によって鍛えられる力である。
  3.   AIは答えを出す存在ではなく、思考を揺さぶる“知的な対話相手”になり得る。
  4.   対立する意見を統合する止揚のプロセスこそ、これからの時代に必要な思考力である。
  5.   情報があふれる社会では、「読む力」こそが自分の軸をつくる。
  6.   AI時代の教育の鍵は、テクノロジーではなく、それを使って深く考えさせる授業にある。

 文:鈴木素子

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