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AIは創造力を奪うのか、育てるのか? 〜 美術教育で検証された生成AIの可能性〜

AIは創造力を奪うのか、育てるのか? 〜 美術教育で検証された生成AIの可能性〜

AIは作品を作れるが、人の創造力は育つのか?

文章の内容を1枚のイラストにしてくれたり、写真をあっという間にジブリ風の絵にする…。そのような生成AIによる作品は、みなさんも良く知るところだと思います。
でもこれは、AIを道具や機械として作らせた作品で、人間の絵を描く力や創作力自体が向上した結果ではありませんよね。
人間の創造力は、このような一発で絵を生成してしまうAIによって、奪われてしまうのではないかと、少々心配にもなりますが、みなさんはどうお考えでしょうか。

これまで、英語や数学や物理など、考え方や解き方を教えてくれたり、理解が深まるようなAIツールやアプリなどは存在していて、コラムでご紹介もしてきました。しかし、美術教育の分野において、学生たちの創作力の向上につながるようなAIツールというのはあまりなかったように思います。


そこで、人間が絵を描く作業に対してAIがリアルタイムでサポートしてくれるシステムを開発し、その効果を芸術学部の大学生60人に検証した、という論文がありましたので、ご紹介します。

論文タイトルは「Enhancing art creation through AI-based generative adversarial networks in educational auxiliary system」(AIベースの敵対的生成ネットワーク(GAN)を通じた教育補助システムにおける芸術創作の強化)です。

 GAN(Generative Adversarial Networks)とは、翻訳すると「敵対的生成ネットワーク」となりますが、これは「作るAI(生成役)」と「評価するAI(鑑定役)」が競い合う(敵対する)ことで、精度を高める技術です。

 

「描き方がわからない」をどう支えるか 〜 美術教育が抱えていた課題

この研究のきっかけには、教育現場での課題があったようです。論文によると次のような背景と目的が書かれています。

 「従来のデジタル芸術ツールは、学生の創造的なプロセスに教育的な寄与をしない『受動的』なものであるという課題があった。初心者は技術や構成、自信のなさに直面することが多く、リアルタイムのフィードバックや適応的な学習支援を必要としている。
本研究の目的は、AIを単なる自動生成ツールとしてではなく、学生の創造性を増幅させ、反復的な学習を支援する『共創パートナー(コ・クリエイター)』として位置づけることにある」

 
つまり、これまでのパソコンの描画ソフトはただのデジタルな紙とペンという受け身の道具でしかなく、どう描けば上手になるか学生たちも壁にぶち当たることが多かった。教育現場でもリアルタイムの支援ができず、そこが課題だったというわけですね。

そこでこの研究では、リアルタイムでアドバイスしてくれるAIツールによってどう変わるかを実験検証した、ということです。

 

描くたびにAIが応える共創システム「GAN」とは

このAIツール「GAN」は何をしてくれるのかというと、学生の入力に応じて次のようなことをしてくれると書いています。

・ラフなスケッチを、完成度の高い絵に変換する

・「水彩風」「油絵風」など、画風を変えて見せてくれる

・描き直すたびに、すぐ結果を返してくれる

・「どこが良かったか」「どこが弱いか」を視覚的に示す

  
つまり、描く→ AIが反応 →直す → また反応 ということですね。

もう少し説明すると、「ラフなスケッチを、完成度の高い絵に変換する」については、手書きのスケッチからでも、それにプロンプト(指示)を与えることで、色をつけたりしながら芸術的な出力を生成する」ということです。

また、「どこが良かったかどこが弱いかを視覚的に示す」というのは、AIが絵のどの部分に注目して色を塗ったかを、ヒートマップ(色付きの地図)で見せてくれるので、これを見ることで、学生自身が「なるほど、ここをこう描けばいいのか!」と自分で気づくことができるわけです。

 要するに、このGANは自動で絵を描いてくれるツールではなく、あくまで人間の創造性をサポートしてくれる役割なんですね。

 さらに、「教育管理システムとの連携で、教師が生徒の進捗を追跡したり、個別のフィードバックを行うことができる」ものだと書いています。

 

AI活用で創造力と学習意欲はどれほど向上したのか

実験は、中国国内の3つの芸術系大学の学生60名を対象とし、従来のデジタルツールと比較しました。結果は以下です。

  • 創造性の向上:
    専門家による評価で、創造的な成果の質が35.4%向上した

  • エンゲージメントの増加:
    学生の学習への関与(エンゲージメント)が42.7%増加した

  • 高い画像品質:
    定量的指標(FIDやIS)において、Pix2PixやStyleGANなどの既存の主要モデルを上回る性能を示した

 
つまり、従来のツールより、作品への完成度も学生たちの学習への集中や意欲もかなり向上したということですね。エンゲージメントの増加については、具体的に「描くのが楽しい」「自信がついた」という声が増加した、と書いています。 

最後に著者は「本システムは、AIが人間の創造性を代替するのではなく、「拡張(augmentation)」するものであるという新たな指針を示している」と結論を述べています。

 

ただ、このGANについてはまだ課題はあるようです。「現在の学習データでは、西洋美術に偏っているといった文化的バイアスがあり、今後はアフリカやアジアなどの多様な芸術伝統を取り入れ、文化的な包摂性を高めることを計画している」と書いてありました。

 

AIは「先生」でも「代替者」でもなく創作の相棒

以上が論文の内容です。

従来のデジタルツールが、真っ白なキャンバスと筆だとすると、この研究が目指したシステムGANは、学生が一本の線を引くたびに「次はこんな色を塗ってみたら?」「君の目指すゴールからするとこういう表現があるよ」というように優しくアドバイスをくれる経験豊富なサポーターのような存在を作ることだった、ということです。

行き詰まったときにヒントをくれたり、フィードバックしてくれることで、何度でも考え、試行錯誤の回数が増えることで、むしろ学びが深くなるということなのでしょう。AIに頼る=考えなくなる、とならないところが教育によさそうです。

使い方次第で、絵を描くという創作力も引き出すこのシステムは、美術だけでなく、作文や探究学習などにも応用できそうですね。

◾️論文タイトル:Enhancing art creation through AI-based generative adversarial networks in educational auxiliary system  ◾️著者:Yongjun He、Shijie Zhang. ◾️発行日:2025年8月9日 ◾️ 掲載元:SPRINGER NATURE


この記事のまとめ

  1. 生成AIは、作品を自動で作る道具ではなく、人間の創造力を引き出す支援ツールとして活用できる。
  2. 美術教育では、描き方が分からない初心者ほど、リアルタイムのフィードバックが大きな助けになる。
  3. 生成敵対ネットワークを用いた共創型AIは、描く→直す→考えるという試行錯誤を自然に増やす。
  4. 実験では、作品の完成度が35.4%向上し、学習への意欲や集中度も大きく高まった。
  5. AIは創造性を奪う存在ではなく、人間の表現を「拡張」するパートナーになり得る。

文:鈴木素子

 

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