3行まとめ
特許技術が価格競争を回避し利益成長を実現
P&Gの2025年度純売上高は843億ドル、Core EPSは+4%成長を達成。250件以上の特許で保護されたOral-B iOや50件以上の特許を持つTide evoなど、知財で守られた高付加価値製品がコモディティ化への防壁として機能している。
約10万件超の特許ポートフォリオで技術参入障壁を構築
全世界で約103,800件の特許を保有し、アクティブ特許は約20,600件。近年は化学配合中心から物理的構造設計・サステナビリティ・デジタル統合へとシフトし、Tide evoの「繊維状タイル」構造特許など模倣困難な参入障壁を形成している。
年間21億ドルのR&D投資で2030年サステナビリティ目標を推進
R&D投資額は約21億ドル(売上高比2.5%)で消費財業界最大規模を維持。PureCycle社との提携で2026年に再生樹脂製品を市場投入予定、2030年までにバージンプラスチック50%削減を目指す技術ロードマップを推進中。
この記事の内容
プロクター・アンド・ギャンブル(以下、P&G)の2025年度(2024年7月〜2025年6月)における財務実績は、独自の知的財産によって保護された「技術的優位性(Superiority)」が、コモディティ化の圧力に対する最も有効な防壁として機能し、直接的な収益貢献を果たしていることを定量的に示しています。純売上高は843億ドルに達し、有機的売上成長率は前年比+2%を記録しましたが、この成長の中身は単なる販売数量の増加ではなく、技術革新による「価格ミックスの改善」が大きく寄与しています 1。特筆すべきは、原材料費の高騰や物流コストの上昇、さらには関税リスクといったマクロ経済的な逆風下においても、コア一株当たり利益(Core EPS)が+4%成長し、6.83ドルに達している事実です 1。この利益成長の背景には、特許技術を搭載した高付加価値製品群(Premium Tier)へのシフトがあります。例えば、オーラルケア部門では、250件以上の特許群に裏打ちされた電動歯ブラシ「Oral-B iO」シリーズが、高価格帯の「iO10」からエントリーモデルの「iO2」までラインナップを拡充し、同部門の売上を一桁台後半(high single digits)の成長へと牽引しました 3。同様に、ファミリーケア部門においても、特許取得済みの「波形カット技術(Scalloped Edge)」を導入したトイレットペーパー「Charmin Ultra Soft Smooth Tear」が、消費者の物理的な不満(Pain Point)を技術的に解決することで、同カテゴリーの一桁台半ばの成長を支えています 3。これらの事例は、知財によって保護された機能的優位性が、消費者の支払意欲(Willingness to Pay)を高め、競合他社との価格競争を回避しながら利益率を維持する「Moat(堀)」として機能していることを実証しています。
P&Gの技術開発は、従来の「化学配合(Formulation)」中心のアプローチから、物理的構造設計(Physical Structure)、デジタル統合(Digital Integration)、およびサステナビリティ・プロセス技術へとその領域を劇的に拡大しています。ファブリックケア領域における最大の革新は、液体洗剤から水分を完全に排除し、有効成分をナノレベルの繊維状に加工して積層化する「Tide evo」の市場投入です。これは50件以上の特許で保護された独自技術であり、従来の液体洗剤と比較して輸送重量を劇的に削減し、冷水洗浄によるエネルギー効率を最大90%向上させるという、環境性能と経済合理性を両立させた構造的イノベーションです 4。デジタル領域では、製造現場における「デジタルツイン」の実装が加速しており、Microsoft Azureとの戦略的提携を通じて、全世界100以上の製造拠点から収集されるデータを統合・可視化する「AIファクトリー」構想が具現化しています 6。これにより、ベビーケア製品(Pampers)の生産ラインにおける品質予測やメンテナンスの自律化が実現され、製造コストの削減と歩留まり向上に寄与しています。また、消費者向けデジタルサービスとして、Oral-BアプリにおけるAIブラッシングガイド機能が強化されており、ハードウェア販売に留まらない「コト売り」へのシフトが、特許技術である3D歯面トラッキング技術によって支えられています 8。
P&Gの全世界における特許保有数は約103,800件(出願中を含む総数)に達し、そのうち登録済み特許は約39,000件、現在も有効なアクティブ特許は約20,600件という膨大な規模を誇ります 10。特許ファミリー数は約27,000件であり、2019年から2024年にかけての特許活動は安定して推移していますが、その質的な構成には明確な変化が見られます。かつて主流であった単一の製品機能(洗浄力や吸収力)に関する特許から、近年は「サステナビリティ」と「パッケージング技術」に関する特許網の構築へのシフトが顕著です。特に「ホーリーグレイル2.0(HolyGrail 2.0)」プロジェクトに関連するデジタル透かし技術や、PureCycle Technologies社との提携によるポリプロピレン(PP)の溶剤ベース精製リサイクル技術など、循環型経済を実現するためのプロセス技術への知財投資が加速しています 11。また、Tide evoに見られるような「製品形状そのものの変革(Form Factor Innovation)」に関する特許群(繊維化技術、積層構造など)は、化学メーカーや後発ブランドによる模倣を極めて困難にする強力な参入障壁として機能しており、化学組成だけでなく物理的構造に関する権利化が強化されている点が特徴的です 13。
主要競合であるUnileverやColgate-Palmolive、花王と比較した場合、P&Gの技術的優位性は「既存カテゴリの再定義力(Category Reinvention)」と「サプライチェーンのデジタル化」の深度にあります。Unileverがアイスクリーム事業の分離や多角的なポートフォリオ整理を進め、ブランドパーパス重視の戦略をとる中 14、P&Gは洗剤や紙製品といった成熟しきったコモディティカテゴリにおいて、Tide evoやCharmin Smooth Tearのような破壊的イノベーション(Constructive Disruption)を投入し、カテゴリ単価そのものを引き上げることに成功しています。一方で、Colgate-Palmoliveはチューブのモノマテリアル化(リサイクル可能なHDPEチューブ)に関する技術を早期に確立し、その知財を競合他社にも開放する「オープンソース戦略」をとることで、業界標準の主導権を握る動きを見せています 15。これに対しP&Gは、独自の素材革新(例:Head & Shoulders BAREボトルの薄肉化技術)による「プロプライエタリ(独占的)」なアプローチで対抗しており、サステナビリティ領域における技術覇権争いが激化しています。P&Gの課題は、こうした環境技術において、自社規格をデファクトスタンダード化できるか、あるいはColgateのようなオープン陣営に対抗しうる独自の回収・再生エコシステム(PureCycle等)を早期に確立できるかにあります。
P&GのR&D投資額は2025年度において約21億ドル(売上高比約2.5%)で推移しており、絶対額において消費財業界最大規模を維持しています 17。今後の技術ロードマップは、全社的な経営目標である「Ambition 2030」および「Net Zero 2040」に強く紐付けられており、特にパッケージングにおけるバージン石油由来プラスチックの50%削減(2030年目標)が技術開発の主要ドライバーとなっています 19。これを達成するため、自社開発だけでなく「Connect + Develop」プログラムを通じた外部技術の導入が加速しており、直近ではA*STAR(シンガポール)との共同研究契約の更新や、PureCycle Technologiesとの提携による再生樹脂の実装計画(2026年の店舗展開予定)が具体化しています 20。また、デジタル領域では、AIを活用した消費者インサイトの解析から製造プロセスの自律化まで、バリューチェーン全体へのテクノロジー実装が継続的な投資重点領域として定義されており、特に生成AIを用いた分子探索や処方開発の効率化が次なるフロンティアとして位置づけられています 22。
P&Gの過去5年間の研究開発費(R&D Expenses)および対売上高比率は、安定した高水準を維持しています。この投資規模は、同社が掲げる「Constructive Disruption(建設的破壊)」戦略を支える財務的基盤となっており、短期的なコスト削減圧力に屈することなく、長期的競争力の源泉であるイノベーションへの再投資を継続している姿勢を示しています。
表1:P&G R&D投資推移および収益性分析(2021-2025年度)
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会計年度 (Fiscal Year) |
純売上高 (Net Sales) |
R&D投資額 (R&D Expenses) |
対売上高比率 (% of Revenue) |
営業利益 (Operating Income) |
備考 (Strategic Notes) |
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2025 (FY25) |
$84.28 B |
$2.10 B |
2.5% |
$20.45 B |
インフレ下でも投資増額。Tide evo等の大型新製品への投資集中。 |
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2024 (FY24) |
$84.04 B |
$2.00 B |
2.4% |
$18.55 B |
デジタル製造プロセスへの投資拡大。サプライチェーン効率化。 |
|
2023 (FY23) |
$82.01 B |
$2.00 B |
2.4% |
$18.13 B |
原材料高騰への対抗策として、配合効率化技術へ注力。 |
|
2022 (FY22) |
$80.19 B |
$2.00 B |
2.5% |
$17.81 B |
コロナ後の需要変化に対応する新カテゴリ開発。 |
|
2021 (FY21) |
$76.12 B |
$1.90 B |
2.5% |
$17.99 B |
衛生意識の高まりを受けた抗菌・洗浄技術への投資。 |
※データソース: 17
戦略的解説:
P&GのR&D投資は、絶対額において年間21億ドル(約3,150億円)という、消費財業界において突出した規模を誇ります。2025年度の投資額は前年比で微増しており、売上高の伸びと連動して健全な比率(約2.5%)を維持しています。この一貫した投資態度は、経営陣が「技術的優位性こそが価格決定力(Pricing Power)の源泉である」と認識していることを示しています。特に2022年から2025年にかけての急激なインフレ局面においても、投資額を削減するどころか維持・拡大させている点は、製品性能の向上によってコスト上昇分を価格に転嫁し、それでも消費者に選ばれ続けるための「Superiority(圧倒的優位性)」戦略が機能している証左です。投資の内訳としては、サステナビリティ対応(パッケージ技術、代替原料)およびデジタル化(AI、スマートファクトリー)への配分が増加傾向にあります。
P&Gの経営トップのメッセージは、技術と知財が企業の成長戦略の中核にあることを明確に示しており、単なるスローガンではなく、具体的な経営指標として落とし込まれています。
CEO ジョン・モラー(Jon Moeller)による戦略定義:
「We remain committed to our integrated strategy – a focused product portfolio of daily use categories where performance drives brand choice, superiority – across product performance, packaging, brand communication, retail execution and consumer and customer value – productivity, constructive disruption and an agile and accountable organization...」
(我々は統合戦略へのコミットメントを堅持します。それは、性能がブランド選択を左右する日常使用カテゴリーに焦点を絞ったポートフォリオ、製品性能・パッケージ・ブランドコミュニケーション・小売店での展開・消費者価値の5つのベクトルにおける優位性(Superiority)、生産性、建設的破壊、そして俊敏で責任ある組織です。)
— 2
この発言における「Performance drives brand choice(性能がブランド選択を左右する)」というフレーズは、P&Gの技術経営の根幹をなす思想です。マーケティングやイメージ戦略の前に、まず物理的・化学的な「性能差」が存在しなければならないという考え方であり、その性能差を担保するのが特許ポートフォリオです。
「My confidence could not be higher in the collective ability of P&G people to deliver balanced growth and value creation to delight consumers...」
(消費者を喜ばせるためのバランスの取れた成長と価値創造を実現するP&G社員の総合力に対し、私の信頼はこれ以上ないほど高いものです。)
— 2025 Annual Report Letter 25
また、P&Gは「Constructive Disruption(建設的破壊)」を掲げ、自社の既存ビジネスモデルや製品形態を、他社に破壊される前に自らの手で破壊し、進化させることを是としています。Tide evoのような新形態製品は、既存の液体洗剤ビジネスを共食い(カニバリゼーション)するリスクがありますが、それでも他社による参入を防ぐために先行して投入するという経営判断が、このコミットメントに基づいています。
本セクションでは、P&Gの技術経営を支える主要なイノベーションを詳細にカタログ化し、その技術的特徴、知財による保護状況、およびビジネスへの貢献を記述します。
技術概要:
Tide evoは、洗剤業界における数十年ぶりの構造的革新であり、液体でも粉末でもポッド(カプセル)でもない、全く新しい「繊維状タイル(Fiber Tile)」形状を採用しています。この製品は、数十万本の微細な繊維(Fibers)を積層させて石鹸層を形成する技術により製造されています。各繊維は、6層の100%濃縮洗浄成分を含んでおり、不要な水分や充填剤を一切含んでいません 26。特筆すべきは、その溶解メカニズムであり、水に触れた瞬間に繊維構造が崩壊し、成分が即座に活性化するため、冷水洗浄においても高い洗浄力を発揮します。製造プロセスにおいては、再生可能エネルギーを使用した工場で生産されており、環境負荷の低減も製造工程レベルで組み込まれています 5。
知財・特許:
本製品の処方、繊維化プロセス、および積層構造は、P&G独自の技術であり、50件以上の登録特許によって強固に保護されています 4。
ビジネス貢献:
技術概要:
Oral-B iOシリーズは、電動歯ブラシの駆動機構を根本から再設計した製品です。従来のアナログ的なギア駆動や機械的なモーターではなく、「リニア磁気ドライブ(Linear Magnetic Drive)」システムを採用しています。このシステムは、磁気エネルギーをブラシの毛先まで摩擦なく直接伝達し、制御された「微細振動(Micro-vibrations)」と「回転運動(Oscillation-rotation)」を組み合わせることで、静音性と歯垢除去力を飛躍的に向上させています 8。さらに、ブラシヘッドには「Tuft-in-Tuft(タフト・イン・タフト)」構造を採用し、毛束の中にさらに毛束を配置することで清掃効率を高めています。また、内蔵されたスマート圧力センサーは、ブラシを押し付ける力が弱すぎる場合と強すぎる場合の両方を検知し、最適な圧力範囲(0.8N〜2.5N)にあるときのみ緑色に点灯してユーザーにフィードバックを与えます 27。
知財・特許:
この製品は、6年以上の研究開発期間を経て開発され、全世界で250件以上の特許によって保護されています 28。
ビジネス貢献:
技術概要:
トイレットペーパーの切り取り線を従来の直線ミシン目ではなく、波形(Scalloped edge)にする技術です。一見単純に見えますが、高速で回転する製造ライン上で、紙の引張強度を維持しながら波形のミシン目を正確に入れるためには、高度な製造技術と刃型の設計が必要です。この技術により、消費者が抱える「ミシン目で綺麗に切れずに破れてしまう」という不満を解消し、どの方向から引っ張ってもスムーズに切断できるように設計されています 3。
知財・特許:
独自の刃型設計(Blade Design)およびミシン目加工プロセスに関する特許技術によって保護されています。
ビジネス貢献:
P&Gの特許ポートフォリオは、米国および欧州を中心に構築されており、技術的な参入障壁として機能しています。
表2:P&G グローバル特許ポートフォリオ概況(2024-2025)
|
指標 |
数値 |
解説 |
|
全世界特許総数 (Total Patents) |
103,813 件 |
出願中を含む累積総数。圧倒的な技術蓄積を示す。 |
|
登録済み特許数 (Granted Patents) |
39,192 件 |
審査を経て権利化された有効な特許数。 |
|
アクティブ特許数 (Active Patents) |
20,646 件 |
現在権利が維持されている特許。 |
|
特許ファミリー数 (Patent Families) |
27,386 件 |
同一発明の各国展開数。グローバル市場での独占権確保の指標。 |
|
主要出願国 |
米国、欧州、日本 |
本社機能および主要R&D拠点が集中するエリアを防衛。 |
|
主要CPC分類 |
A61K, C11D, A46B |
ヘルスケア製剤、洗剤組成物、ブラシ製品が中核。 |
※データソース: 10
詳細解説:
P&Gの特許戦略の特徴は、出願数に対する「登録率」と「維持率(Active率)」のバランスの良さにあります。約27,000件のユニークな特許ファミリーを保有しており、これは単一の発明を複数の国で権利化し、グローバル市場での独占権を確保していることを意味します。近年は、従来のCPC分類(A61K:医薬品・化粧品、C11D:洗剤)に加え、G06Q(データ処理)やG16H(ヘルスケア情報学)など、デジタルヘルスやデータ解析に関連する特許出願が増加傾向にあります。これは、製品単体だけでなく、アプリやIoTデバイスを含むシステム全体を知財網で保護しようとする戦略の表れです。
P&Gは、単発の製品販売(One-time Sales)から、継続的な関係性を構築するサービスビジネスモデルへの転換を、知財とデジタル技術を用いて推進しています。
Oral-B アプリとコネクテッド・ヘルスケア:
Oral-B iOシリーズは、Bluetoothでスマートフォンアプリと連携します。このアプリは、特許取得済みの「AIブラッシング認識技術」を活用し、ユーザーのブラッシング習慣データを蓄積・解析します。
P&Gは自社開発(In-house R&D)の限界を認識し、「Connect + Develop」プログラムを通じて外部の技術を積極的に取り込むことで、イノベーションの速度と効率を最大化しています。
表3:主要な技術提携・パートナーシップ(2024-2025)
|
パートナー企業/機関 |
提携内容・技術領域 |
戦略的意図と進捗 |
ソース |
|
Microsoft |
Azureクラウド、AI、IoTを活用した「デジタル・マニュファクチャリング」。 |
全世界100以上の製造拠点のデータを統合。ベビーケア(Pampers)ライン等でAIによる品質予測・予知保全を実装し、コスト削減と歩留まり向上を実現。 |
6 |
|
PureCycle Technologies |
ポリプロピレン(PP)の溶剤ベース精製リサイクル技術。 |
P&Gが開発した技術をライセンス供与。高純度再生樹脂(Ultra-Pure Recycled Resin)の供給を受けるエコシステム。2025年末までに生産開始、2026年初頭に洗剤キャップ等で店舗展開予定。 |
11 |
|
A*STAR (シンガポール) |
マスターリサーチ共同契約の更新。 |
NTU, NUS, NUHS等のシンガポールの大学・病院と連携し、生理学、材料科学、AI、デジタルヘルスケア領域の先端研究を加速。 |
20 |
|
Donghua University (中国) |
デザイン協力プロジェクト。 |
中国市場の消費者ニーズに特化した製品デザインと直感的なコミュニケーションの開発。 |
20 |
|
Imperial College (João Cabral教授) |
マイクロ流体工学(Microfluidics)。 |
製品の安定性と予測的洗浄(Predictive Cleaning)のスケールアップ技術開発。複雑な流体挙動の解析による処方最適化。 |
35 |
|
Université libre de Bruxelles (IRIDIA & LISA) |
AIおよび画像解析研究所との連携。 |
社内AI専門知識の構築と、製品分析および消費者理解のための新アプリケーション開発。 |
35 |
詳細解説:
特筆すべきは、PureCycle Technologiesとの提携モデルです。P&Gは自社で開発した「汚れたポリプロピレンを新品同様の純度に戻す」リサイクル技術を、自社で抱え込まずにPureCycle社にライセンス供与(スピンアウト)しました。そして、PureCycle社が設備投資を行って生産する再生樹脂を、P&Gが優先的に購入するという契約を結んでいます。これにより、P&Gは設備投資リスクをオフバランス化しつつ、サステナビリティ目標達成に必要な高品質再生樹脂の安定調達ルートを確保しています。2025年第3四半期のアップデートでは、P&G向け洗剤ボトルの小型キャップ(10オンス用)がプロセス適性試験に合格し、2026年の市場投入に向けた準備が整いつつあることが報告されています 21。
技術概要:
欧州ブランド協会(AIM)が主導する「HolyGrail 2.0」イニシアチブにおいて、P&Gは主導的な役割を果たしています。これは、パッケージ表面に目に見えない「デジタル透かし(Digital Watermarks)」を埋め込み、廃棄物処理施設の選別カメラが素材、食品用途/非食品用途などの属性を瞬時に識別・選別できるようにする技術です 12。
進捗状況:
2025年には、産業規模での試験運用(Industrial Trials)において、デジタル透かし技術の有効性が実証されました。P&Gはこの技術を自社製品に実装することで、高精度なリサイクル素材の回収ループを構築しようとしています。これは、単なる寄付やCSR活動ではなく、将来的な原材料コストの安定化と規制対応(プラスチック税回避など)を見据えた、極めて実利的な技術投資です。
P&Gは、自社の市場優位性を守るために、特許侵害訴訟を戦略的ツールとして活用しています。特に、急成長するD2C(Direct to Consumer)ブランドに対しては、知財権を行使して技術タダ乗り(Free Riding)を許さない姿勢を鮮明にしています。
事例1:対 Dr. Squatch, LLC(デオドラント特許侵害訴訟)
事例2:対 CAO Group(ホワイトニング技術)
取締役会による監視体制:
P&Gの取締役会および監査委員会は、サイバーセキュリティリスクの監督に明確な責任と権限を持っています。全取締役会は少なくとも年に1回、サイバーセキュリティを含む企業の最重要リスク(Enterprise Risks)のレビューを実施し、防御体制の有効性を評価します 3。
CISOの役割と組織:
最高情報セキュリティ責任者(CISO)は、サイバーセキュリティ、情報セキュリティ、および情報リスク管理において15年以上の経験を持つ人物が任命されています。CISOの指揮下には、専任のセキュリティチームだけでなく、各ビジネスユニットに「埋め込まれた(Embedded)」セキュリティ専門家のネットワークが存在し、現場レベルでのリスク管理と全社的なポリシーの整合性を担保しています 3。
主要競合3社(Unilever, Colgate-Palmolive, 花王)との比較において、P&Gの戦略的特異性は「圧倒的なR&D投資規模」と「プロプライエタリ(独占)技術へのこだわり」にあります。
表4:主要競合4社のR&D・財務指標および技術戦略比較(直近会計年度)
|
企業名 |
売上高 (Revenue) |
R&D投資額 (R&D Expense) |
R&D比率 (% of Sales) |
主要技術フォーカス |
構造改革・特記事項 |
|
P&G |
$84.3 B |
$2.1 B |
2.5% |
洗剤の形態革新(Tile)、電動歯ブラシ(Magnetic)、デジタル製造 |
5分野での優位性(Superiority)戦略を徹底。独自の技術(Proprietary)で差別化。 |
|
Unilever |
€59.7 B ($66B est) |
€0.96 B ($1.0B est) |
1.6% |
バイオテクノロジー、植物由来成分、プラスチック削減 |
アイスクリーム事業の分離、7500人の人員削減を含む生産性向上策を実施中 14。 |
|
Colgate-Palmolive |
$20.1 B |
Not Disclosed* |
N/A* |
チューブのリサイクル性(Mono-material)、ペット栄養学(Hill's) |
オープンソース戦略: 開発したリサイクル可能チューブ技術を競合他社にも開放し、業界標準化を主導 15。 |
|
Kao (花王) |
¥1,532 B ($10B est) |
¥62.1 B ($0.4B est) |
3.8% |
界面科学、ファインファイバー技術(Fine Fiber) |
ROIC経営導入、構造改革による収益性改善 42。売上比のR&D投資率は最も高い。 |
※Colgate-PalmoliveのR&D費は「Corporate operations」に含まれ、個別の数値は10-Kで開示されていないため "Not Disclosed" としていますが、Corporateセグメントの費用として計上されています 44。
※Unileverの数値は2024年度アニュアルレポートベース 41。
比較分析とインサイト:
P&Gは「Ambition 2030」および「Net Zero 2040」に向けた明確なマイルストーンを設定し、技術開発を推進しています。
本調査において、以下の事項についてはIR資料や特許DBから具体的な数値や詳細が確認できませんでした。
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本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。
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ご利用にあたって
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