3行まとめ
技術とデータによる「安定収益型モデル」への転換
市況依存からの脱却を進め、2024年度の経常利益見通しは4,908億円に到達するなど収益構造を強靭化。「運航データと脱炭素ソリューション」を資産化し、Recurring Profit Model(安定収益型)へのシフトを実現している。
脱炭素・自律運航技術の社会実装と標準化
NEDO基金最大408.8億円を活用した世界初のアンモニア燃料船「魁」の竣工や、自律運航プロジェクト「DFFAS+」を主導。2026年の商用化を見据え、技術開発のみならず国際ルール形成や標準化を牽引している。
異業種連携による独自経済圏と知財ポートフォリオの変化
船員向け電子通貨「MarCoPay」でクボタ等と連携し独自の経済圏を構築。知財戦略はハードウェアからソフトウェア・ビジネスモデル特許へ重心を移し、シミュレーション技術や監視システムの権利化を加速させている。
この記事の内容
日本郵船グループ(以下、NYKグループ)の知財・技術戦略は、海運業特有の激しい市況変動リスクを「技術」と「データ」の力で制御し、安定収益型ビジネスモデル(Recurring Profit Model)へと転換させるための核心的な経営基盤として機能している。2026年2月時点での財務・非財務データの分析に基づくと、同社の技術戦略は、従来の「船舶ハードウェアの保有」から「運航データと脱炭素ソリューションの資産化」へと明確にシフトしており、これが財務パフォーマンスの質の向上に直接的に寄与していることが確認される。具体的には、2024年度の経常利益見通しは4,908億円に達しており、海運不況期であった2017年度の280億円と比較して、事業ポートフォリオの強靭化が数字として具現化している。この収益構造の変革において、知財・技術部門は、LNGやアンモニアといった代替燃料船の早期投入による長期契約の獲得や、自律運航技術による安全性向上とコスト削減の両立という形で、損益計算書(P/L)の上段(売上高)と中段(コスト)の双方にインパクトを与え続けている 1。
注力している技術領域の進捗に関しては、「脱炭素(Green)」と「デジタル(Digital)」の二軸において、実証実験フェーズを超えた「社会実装」の段階に突入している点が特徴的である。脱炭素領域では、グリーンイノベーション基金事業として最大408.8億円の予算規模を持つアンモニア燃料船開発プロジェクトを主導し、2024年には世界初となるアンモニア燃料タグボート「魁(Sakigake)」の改造・竣工を完了させた。デジタル領域においては、自律運航船プロジェクト「MEGURI2040」の第2ステージとして「DFFAS+(Designing the Future of Fully Autonomous Ships Plus)」コンソーシアムを組成し、技術開発のみならず、国際海事機関(IMO)等の国際ルール形成や標準化活動を牽引している。これらの進捗は、単なるR&D活動にとどまらず、将来の海運市場における「技術標準」を日本郵船が握るための布石として機能している 2。
特許ポートフォリオの規模と質的変化については、物理的な船体構造や機関に関する伝統的な特許出願から、運航データの解析アルゴリズム、陸上支援システム、およびビジネスモデルに関連するソフトウェア特許への重心移動が鮮明である。2025年から2026年初頭にかけての特許登録状況を調査した結果、「船舶監視システム」や「フライホイールの慣性モーメント特定プログラム」といった、運航の最適化と安全性向上に直結するデジタル技術の権利化が加速していることが判明した。これは、同社が船舶というハードウェアから得られるデータを「排他的独占権のある資産」として定義し直し、競合他社が容易に模倣できないデジタル・ツイン環境や遠隔監視プラットフォームの構築を急いでいる証左である。知財活動は、自社の運航効率化を守る「防衛」の役割に加え、他社へのソリューション提供やライセンスビジネスを見据えた「攻撃」の準備段階にあると分析される 5。
競合他社に対する技術的優位性については、商船三井(MOL)や川崎汽船("K" LINE)等の国内競合と比較して、異業種連携による「エコシステム形成力」において顕著な差別化が見られる。特に、フィリピン人船員向けの電子通貨プラットフォーム「MarCoPay(マルコペイ)」の展開は、海運会社が単独で行う技術開発の枠を超え、農機メーカーのクボタや金融機関を巻き込んだ独自の経済圏(プラットフォーム)を構築している点で特異である。競合他社が風力推進装置などのハードウェア技術で差別化を図る中、日本郵船は「船員」という人的資本と「金融データ」を結びつけることで、労働力不足という構造的課題に対する独自の解決策(ソリューション)を提示し、かつそこから手数料収益を得るという新たなビジネスモデルを確立している。また、サイバーセキュリティ領域においても、日本で初めてノルウェー船級協会(DNV)や日本海事協会(ClassNK)から高度な認証を取得するなど、デジタルリスク管理の実装スピードにおいて競合を一歩リードしている 6。
今後のR&D投資計画と長期ロードマップに関しては、2030年に向けた温室効果ガス(GHG)排出量の45%削減(2021年度比)という定量目標を必達ラインとして設定し、これを支えるための技術投資を聖域なく継続する方針が示されている。中期経営計画においては、2030年度に経常利益4,400億円レベルを維持する目標が掲げられており、この持続的な収益力を支える柱として「ESG経営」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が不可分の両輪として定義されている。特にDXに関しては、2025年に「DX銘柄2025」に選定されるなど、その戦略性が外部市場からも高く評価されており、今後は自律運航技術の商用化展開(2026年目処)と、アンモニア・水素などの次世代燃料船隊(フリート)の拡張が投資キャッシュフローの主要な配分先となることが確定している。経営陣は、これらの技術実装を通じて、海運業を「市況に翻弄される産業」から「技術で価値を創出するインフラ産業」へと再定義する意図を明確にしている 1。
日本郵船における技術開発投資は、単発的なプロジェクト費用ではなく、長期的な企業価値向上と事業ポートフォリオ変革(Transformation)のための「戦略的資本投下」として位置づけられている。過去の財務データおよび直近の統合報告書(NYK Report 2025)に基づき、R&D投資と経営パフォーマンスの相関、およびその背後にある戦略的意図を時系列で分析する。
表1:経営指標と技術投資の相関データ(連結ベース)
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会計年度 (FY) |
経常利益 (億円) |
ROE (%) |
ROIC (%) |
技術・投資トピックおよび戦略的注力領域 |
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2024 (予) |
4,908 |
17.2 |
13.2 |
[実装フェーズ] 世界初のアンモニア燃料船「魁」竣工、DFFAS+による自律運航標準化推進。利益水準は高位安定。 1 |
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2023 |
(非開示) |
8.9 |
8.3 |
[エコシステム拡大] MarCoPayとクボタの提携開始。DXグランプリ選定によるデジタル戦略の社会的認知獲得。 2 |
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2022 |
(非開示) |
48.3 |
35.7 |
[財務基盤強化と大型投資] コロナ禍の海運好況による記録的利益。グリーンイノベーション基金への採択(予算上限408.8億円)により脱炭素投資を加速。 2 |
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2021 |
(非開示) |
86.0 |
47.1 |
[デジタルリスク対応] 日本海事協会(ClassNK)初のサイバーセキュリティ表記(Notation)取得。デジタル化に伴う守りの投資を先行実施。 2 |
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2017 |
280 |
-- |
-- |
[構造改革期] 海運不況下での徹底的なコスト削減。技術投資は「生存のための効率化」に集中。現在の利益体質の原点。 1 |
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2005 |
1,404 |
-- |
-- |
[過去のブーム] 従来の市況依存型ビジネスモデルのピーク。現在の「安定収益型」への転換前夜。 1 |
【データ分析と戦略的意図の詳細解説】
上記データの時系列推移は、日本郵船が直面してきた海運市場の構造的変化と、それに対する技術経営的な応答(Response)を鮮明に映し出している。2000年代中盤の海運ブーム期には1,400億円規模の経常利益を上げていたが、リーマンショック後の長期不況(2010年代)を経て、2017年度には経常利益が280億円まで落ち込むという厳しい局面を経験した。この時期の苦い経験が、現在の「市況に左右されない強靭な事業構造(Recurring Profit of 200-300 billion yen)」の構築という経営執念につながっている 1。
特筆すべきは、2020年代に入ってからの驚異的な利益率(ROE 86.0%等)と、そのキャッシュを原資とした「次世代技術への再投資サイクル」の確立である。2024年度の経常利益見通し4,908億円は、単なる運賃高騰の結果ではなく、コンテナ船事業(ONE)の統合効果に加え、物流事業の強化やLNG/アンモニア船といった「技術的差別化」が可能なアセットへの投資が結実した結果であると分析できる。
R&D投資の具体的な金額については、最新の決算短信や有価証券報告書の抜粋において「研究開発費」として単独で切り出された数値が一般管理費等に埋没しており、明確な数値(金額)の時系列データは「該当情報なし(Not Disclosed)」となる部分がある。しかし、プロジェクト単位の予算規模からは、その投資が巨大であることが裏付けられる。特に、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「グリーンイノベーション基金事業」において、アンモニア燃料船開発プロジェクトに対し最大408.8億円の予算配分がなされている事実は極めて重要である 3。これは、日本郵船一社のR&D予算の枠を超え、国家プロジェクトとして巨額の資金をレバレッジ(活用)しながら、技術開発リスクを分散しつつ大規模な実装を進めるという、高度な「官民連携型の技術投資戦略」を実行していることを示している。
また、2021年から2022年にかけてのROIC(投下資本利益率)の高さ(47.1%→35.7%)は、資本効率を極限まで高める経営方針の表れであり、技術投資においても「自前主義」にこだわらず、MarCoPayのようなパートナーシップや、DFFAS+のようなコンソーシアム方式を採用することで、投資負担を抑制しながら成果を最大化する戦略が採られていることが読み取れる。
企業の技術戦略が「絵に描いた餅」で終わるか、現場の実装まで到達するかは、経営トップのコミットメントの質と量に依存する。日本郵船の経営陣は、技術を単なる「手段」ではなく、企業変革(Corporate Transformation, CX)の中核ドライバーとして定義し、ステークホルダーに対して一貫したメッセージを発信し続けている。
以下に、CEOおよび主要な経営幹部による技術・知財に関する発言を引用し、その戦略的含意を分析する。
"KANDO" Project: Securing a Bright Future for Logistics
"One approach to addressing this issue is to enhance the value of logistics itself within society. That said, traditional value aspects such as speed, cost, and safety are already close to saturation. Our project aims to pioneer a new kind of value in logistics. It's an initiative to establish fresh value standards and spread them throughout society."
(物流の価値そのものを社会の中で高めることが課題解決の一つのアプローチです。しかし、スピード、コスト、安全性といった従来の価値は既に飽和状態に近いです。私たちのプロジェクトは、物流における『新しい種類の価値』を開拓することを目指しています。これは、新たな価値基準を確立し、それを社会全体に広めるためのイニシアチブです。)
— Daisuke Nakagawa, Offshore Business Group, NYK 10
DX Strategy Statement
"The NYK Group positions DX not only as a means of promoting management strategy, but also as a driving force that creates new value. At the same time, DX is regarded as an essential tool for fulfilling the NYK Group's responsibilities to the environment and society. Through DX, the NYK Group will continue to support Japan's maritime industry, achieve sustainable growth, and take on the challenge of enhancing corporate value and creating new value."
(NYKグループはDXを経営戦略推進の手段としてだけでなく、新たな価値を創造する原動力として位置づけています。同時に、DXは環境や社会に対するNYKグループの責任を果たすための不可欠なツールとみなされています。DXを通じて、NYKグループは日本の海事産業を支え続け、持続可能な成長を達成し、企業価値の向上と新たな価値の創造に挑戦し続けます。)
— NYK Official News Release, Nov 12, 2025 11
Ambidextrous Management & Technical Ability
"Technical abilities and services are central to the Group's 'Ambidextrous Management' strategy to increase the value of the entire group business by matching megatrends with internal insights."
(技術力とサービスは、メガトレンドと内部の知見を照らし合わせることでグループ事業全体の価値を高める、当グループの『両利きの経営』戦略の中心にあります。)
— Medium-Term Management Plan "Sail Green, Drive Transformation 2026" 2
【経営メッセージの分析】
これらの一連のメッセージからは、日本郵船の経営層が抱く「危機感」と「野心」が鮮明に読み取れる。
第一に、オフショア事業グループの中川氏の発言にある「スピード、コスト、安全性といった従来の価値は既に飽和状態に近い」という認識は、技術経営において極めて重要な現状分析である。従来の海運業が追求してきた「より大きく、より速く、より安く」という競争軸が限界を迎えていることを認め、そこからの脱却を宣言している。これは、同社のR&Dが単なる既存船舶の改良(Sustaining Innovation)にとどまらず、MarCoPayのような非連続なイノベーション(Disruptive Innovation)を志向せざるを得ない論理的根拠となっている。
第二に、DXに関する公式声明では、デジタル変革を「環境・社会責任(ESG)」の文脈と直接リンクさせている点が特徴的である。通常、DXは効率化やコスト削減の文脈で語られることが多いが、日本郵船においては「DXなくして脱炭素なし(No DX, No Green)」という認識が定着している。例えば、SIMSによる精密な燃費計測がなければGHG排出量の削減証明は不可能であり、自律運航技術がなければ船員不足による安全運航の維持は困難になる。経営陣は、DXを社会的責任(License to Operate)を維持するための必須インフラとして定義している。
第三に、中期経営計画における「両利きの経営(Ambidextrous Management)」への言及は、既存の中核事業(Shipping)の深化(Deepening)と、新規事業(New Business)の探索(Exploring)を同時に進めるという高度な経営戦略を示している。技術力は、この両者をつなぐ共通言語として機能しており、既存事業で培った知見(Internal Insights)を、脱炭素やデジタル化というメガトレンド(Megatrends)に適合させるための「変換装置」として技術部門が位置づけられている。
日本郵船の技術ポートフォリオは、ハードウェアとしての「船舶技術」と、ソフトウェアとしての「デジタル・プラットフォーム」が相互に連携する二層構造で構成されている。本セクションでは、その具体的な技術内容、特許動向、およびビジネスへの貢献について詳細に記述する。
日本郵船が「技術戦略」の中核として定義し、経営資源を集中的に投下している主要な技術領域は以下の3点に集約される。
日本郵船グループの研究開発子会社である株式会社MTIを中心に、国家プロジェクトと連携した開発が進行している。
2050年のネット・ゼロエミッション達成に向けた最重要領域であり、既存燃料(重油)からの転換を物理的な船舶改造と新造によって実証している。
船舶IoTデータを活用した運航最適化と、船員経済圏の構築によるバリューチェーンの拡張。
日本郵船の特許戦略は、従来の「重厚長大」なハードウェア特許から、制御・システム・ビジネスモデルに関連する「ソフトパワー」特許へと重心を移している。2025年から2026年初頭にかけての公開データに基づく特許動向を以下に詳述する。
表2:直近の主要登録特許リスト(2025年-2026年初頭)
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登録日/公開日 |
特許番号/名称 |
技術分類 (IPC/CPC推定) |
戦略的意図とビジネスへの応用 |
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2025/02/26 |
特許7608677: 船舶監視システム、船舶監視方法、情報処理装置、及びプログラム 5 |
G08G (Traffic Control), B63B (Ships) |
**** 船陸間の通信とデータ解析を用いたリアルタイム監視技術。DFFAS+で構築中の「陸上支援センター」の機能を法的に保護し、他社の模倣を防ぐための基本特許と推測される。 |
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2025/01/06 |
特許7608677: 船舶のフライホイールの望ましい慣性モーメントを特定するためのプログラム、及びシステム 5 |
B63H (Propulsion), G06F (Computing) |
**** エンジンや推進器の設計最適化シミュレーション技術。物理的な実験に頼らず、デジタルツイン上で最適解を導出するための「設計プロセスの知財化」を意味する。 |
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(Not Disclosed) |
AI-based Car Carrier Allocation System 4 |
G06Q (Logistics), G06N (AI) |
[配船最適化/GHG削減] MTIおよびGridと共同開発。数百万通りの航路・配船パターンを数分で計算し、GHG削減とコスト最小化を両立するアルゴリズム。物流効率そのものを特許化。 |
【データ分析と知財戦略の詳細解説】
上記の特許リストから読み取れる日本郵船の知財戦略の特徴は、以下の3点に集約される。
第一に、「モノ(Hardware)」から「コト(Process/Software)」への権利化対象のシフトである。2025年から2026年にかけての特許登録状況を見ると、「プログラム」「システム」「情報処理装置」「監視方法」といったキーワードが頻出している。これは、同社の技術的競争力の源泉が、船体の形状やエンジンの機構そのものから、それらを制御し最適化する「ソフトウェア」や「アルゴリズム」に移行していることを示している。特に「船舶監視システム」の特許化は、MEGURI2040プロジェクト等で開発された自律運航技術や遠隔操船技術を、同社の独占的な知的財産として保護する意図が明確である。
第二に、**「シミュレーション技術の権利化」**である。フライホイールの慣性モーメント特定プログラムのような特許は、実際のモノを作る前の「設計段階」におけるノウハウを知財化するものである。これは、東京大学との「MODE Lab」や大阪大学との「OCEANS」におけるMBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)研究の成果が、具体的な知財として結実していることを示している 4。これにより、日本郵船は造船所に対しても技術的な主導権を持ち、最適な船型や推進システムの設計を指示できる立場を確立しようとしている。
第三に、**「オペレーションの知財化」**である。自動車船の配船計画システムのように、従来はベテラン社員の経験と勘に依存していた業務プロセスをAI化し、そのアルゴリズム自体を特許として保護している。これは、業務効率化ツールであると同時に、競合他社に対する「参入障壁」としての機能も果たしている。
日本郵船の知財戦略の独自性は、知財を単なる「防衛(自社製品の模倣防止)」のツールとしてではなく、サービス収益(Service Revenue)を生む「攻撃(新規ビジネス創出)」のツールとして活用している点にある。IR資料ベースで確認できるビジネス連動事例を解説する。
日本郵船は「自前主義」からの脱却を鮮明にしており、異業種・スタートアップ・アカデミアとの連携(オープンイノベーション)による開発スピードの加速を戦略の根幹に据えている。
表3:主要なオープンイノベーション・パートナーシップ
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パートナー企業・機関 |
連携形態 |
プロジェクト・目的 |
戦略的狙いとシナジー |
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株式会社クボタ |
業務提携 |
MarCoPayを通じた農機購入サポート 6 |
フィリピン人船員のライフサイクル(乗船後〜帰国後の農業)を支援し、船員のエンゲージメント向上と、プラットフォーム手数料収益の獲得。異業種顧客基盤の相互活用。 |
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Grid |
共同開発 |
自動車専用船の配船計画最適化AIシステム 4 |
複雑な配船パターンの最適化アルゴリズム開発。Grid社のAI技術とNYKの物流現場知見を融合し、GHG削減と運航コストの圧縮を実現。 |
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東京大学 (MODE Lab) |
産学連携 |
海事デジタルエンジニアリング (MBSE) 4 |
海事産業におけるシミュレーション基盤の共通化。自動車・航空産業の手法(MBSE)を導入し、設計プロセスの効率化と高度化を図る。 |
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大阪大学 (OCEANS) |
産学連携 |
システムズエンジニアリングと自動化 4 |
次世代の自律運航船設計に必要な基礎理論の構築と人材育成。アカデミアの知見を取り込み、理論的裏付けのある技術開発を推進。 |
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TheDOCK |
投資 |
Navigator II Fundへの出資 12 |
イスラエルのスタートアップエコシステムへのアクセス。脱炭素・DX領域の革新技術(Deep Tech)の早期発掘と、グローバルな技術トレンドの把握。 |
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Oceanic Constellations |
投資 |
オーシャン・テック分野のスタートアップ 2 |
2026年2月に投資実行。海洋関連の先端技術を取り込み、海洋事業の多角化を模索。 |
【詳細解説】 日本郵船のオープンイノベーション戦略の特徴は、その「射程の広さ」にある。イスラエルのイノベーション・ハブである「TheDOCK」のファンドへ出資することで、シリコンバレーや国内だけでは捕捉できない中東・欧州発の先端技術へのアクセス権を確保している 12。これは、社内リソースだけでは対応しきれない急速なデジタル技術の進化を取り込むための「外の目」を持つ戦略である。
また、国内では東大・阪大といったトップアカデミアと連携し、MBSE(モデルベース開発)のような自動車・航空宇宙産業で標準化されている高度な設計手法を海事産業に導入しようとする動き(MODE Lab, OCEANS)が顕著である。これにより、長年「経験と勘」や「すり合わせ」に頼っていた日本の造船・運航プロセスを、データと論理に基づく「エンジニアリング」へと昇華させようとしている。これは、日本の海事産業全体のデジタルトランスフォーメーションを牽引する動きとも言える 4。
船舶のデジタル化と自律運航化が進むにつれ、サイバーセキュリティは物理的な運航安全(Safety)と同義の最重要リスク管理事項として浮上している。日本郵船はこの領域においても「守りの知財・技術戦略」を徹底している。
現時点(2026年2月)において、日本郵船の経営に重大な影響を及ぼすような大規模な特許侵害訴訟や係争案件についての公開情報は確認されていない(該当情報なし / Not Disclosed)。これは、同社が他社の権利侵害を回避するための十分なクリアランス調査を行っていること、および係争に至る前にクロスライセンス等の交渉で解決している可能性を示唆するが、公式なディスクロージャー資料からは具体的な係争事実は発見されなかった。
日本郵船は、船舶のサイバーセキュリティ対策において業界のフロントランナーとしての地位を確立し、これを「安全品質」というブランド価値に転換している。
国内大手海運3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)は、いずれも脱炭素とDXを掲げているが、そのアプローチと重点領域には明確な差異が存在する。
表4:国内大手海運3社の技術・財務戦略比較
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比較項目 |
日本郵船 (NYK) |
商船三井 (MOL) |
川崎汽船 ("K" LINE) |
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R&D投資・注力技術 |
[アンモニア・自律運航] タグボート「魁」によるアンモニア実装先行。DFFAS+によるシステム標準化。 |
[風力・水素] 硬翼帆「ウインドチャレンジャー」の積極展開。水素サプライチェーン構築に強み。 |
[風力・カイト] 自動カイトシステム「Seawing」の導入。電気推進タグボートの開発。 14 |
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DX戦略の特徴 |
[プラットフォーム型] MarCoPayによる経済圏構築、SIMSによるデータ資産化。DX銘柄2025選定。 |
[営業・マーケティング主導] デジタルマーケティングの強化、CVCを通じた多角的な投資。 |
[現場最適化型] AIを活用した最適運航、データ可視化による効率化徹底。 |
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財務指標 (参考) |
ROE 8.9% (FY23), ROIC 8.3% 2 |
ROE/ROIC等の同条件比較データは本調査範囲外 15 |
(同左) |
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特許・知財傾向 |
[ソフト・システム重視] 運航データ解析、監視システム、シミュレーション技術の特許化が顕著 5。 |
[ハードウェア重視] 風力推進装置や特殊船倉など、物理的デバイスに関する知財発信が多い印象。 |
[環境機器重視] 環境対応機器や風力補助装置の運用ノウハウに関連する知財。 |
【比較分析と競争優位性】
日本郵船の独自性と優位性は、技術を「船」そのものだけに留めず、「人(船員)」や「金融」にまで拡張している点(MarCoPay)にある。商船三井や川崎汽船が、硬翼帆やカイトを用いた風力推進補助装置などの「ハードウェアによる省エネ(目に見える技術)」に強い対外発信を行っているのに対し、日本郵船はアンモニア燃料への転換という「燃料そのものの変革」と、自律運航・シミュレーション・Fintechという「システム・ソフト面の変革(目に見えないが基盤となる技術)」にリソースを集中させている印象が強い。
特に、アンモニア燃料船の社会実装においては、タグボート「魁」の実績により一歩リードしており、NEDO基金の活用も含めて国策との連動性が極めて高い。また、DX戦略においても、単なる業務効率化を超えて「MarCoPay」のような新規事業創出に成功している点は、他社に対する明確な差別化要因となっている。日本郵船は、海運会社という枠組みを超えた「総合物流・データプラットフォーマー」への脱皮を、技術戦略を通じて最も積極的に推進している企業であると評価できる。
企業発表資料および中期経営計画に基づき、将来の技術マイルストーンを時系列で整理する。
本調査において、以下の事項については公開情報(IR資料、プレスリリース、特許DB)からの特定が困難であったため、今後の継続調査における「未確認事項(Missing Information)」としてリストアップする。
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本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。
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