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日本たばこ産業の知財戦略:RRP時代における事業防衛と成長加速の分析

3行まとめ

RRP事業を軸とした知財戦略の転換と米Ploom社技術の獲得

JTは加熱式たばこ(HTS)を中心とするリスク低減製品(RRP)への事業転換に伴い、米Ploom社の特許・商標権取得を基盤に独自の技術ポートフォリオを構築。従来の防衛的戦略から成長加速のための攻守一体型へと進化している。

2028年RRP黒字化に向けた具体的な事業展開と知財活動の実績

主力製品「Ploom X」を2026年末までに40以上の市場へ展開し、2028年までにRRP事業の黒字化を目指す。2025年の特許取得件数は247件で国内第85位と、食品・嗜好品業界では極めて活発な知財活動を展開している。

研究開発初期からの知財連携による競争優位の確立

研究開発の初期段階から知財担当者が関与する統合的な組織体制により、競合他社の特許網を回避しつつ独自技術を保護。PMI・BATが繰り広げる特許訴訟とは異なる「戦略的忍耐」により、独自のポジションを構築している。

エグゼクティブサマリ

 

本レポートは、日本たばこ産業(JT)の知的財産(知財)戦略について、事業環境の変化、特にリスク低減製品(RRP)市場の拡大を背景に、その全体像、競合との比較、および将来展望を網羅的に分析するものです。

  • 基本方針は「4Sモデル」に基づくバランス重視: JTの知財戦略は、経営理念である「4Sモデル」(お客様、株主、従業員、社会)を基盤としています¹¹。これは、競合他社に見られるような攻撃的な訴訟戦略とは一線を画し、事業の自由度(Freedom to Operate)を確保し、ブランド価値を守るという、防御的かつバランスの取れたアプローチを基本としていることを示唆しています。
  • M&Aによる知財ポートフォリオの形成: JTの現在のグローバルなブランドポートフォリオは、RJRナビスコ社の米国外たばこ事業やギャラハー社の買収といった大規模なM&Aを通じて形成されました³。これにより、初期の知財戦略は、取得した多数のブランドを管理・維持することに重点が置かれていたと推察されます。
  • RRPへの戦略的転換と知財の役割変化: 近年、JTは経営計画の中核にRRP、特に加熱式たばこ(HTS)を据え、事業の主軸を転換しています。この転換に伴い、知財戦略も従来の「事業防衛」から、Ploomブランドを核とした「成長加速」のための攻守一体の戦略へと進化していることが確認されます。
  • 研究開発と知財の緊密な連携体制: JTの強みは、研究開発の初期段階から知財担当者が関与する組織体制にあります⁶⁹。これにより、技術的優位性と法的保護を両立させ、競争の激しいRRP市場での事業リスクを低減し、イノベーションの価値を最大化する仕組みが構築されています。
  • 特許戦略は「Ploom」技術が中核: 特許ポートフォリオの中心は、加熱技術、たばこスティックの構造、フレーバー技術といったPloomプラットフォームに関連するものです。米プルーム社からの特許・商標権の取得がその基盤となっており⁶¹、以降の自社開発技術でポートフォリオを強化しています。
  • 商標戦略はグローバルブランドの構築: 「マイルドセブン」から「メビウス」への大規模なリブランディング³¹²⁷や、「Ploom」ブランドのグローバル展開¹²⁵は、規制対応とブランド価値向上の両面から極めて戦略的に実行されており、JTの巧みなブランドマネジメント能力を示しています。
  • 競合との戦略的差異: Philip Morris International(PMI)やBritish American TobaccoBAT)が巨額の投資と大規模な特許訴訟を繰り広げる中⁵⁵JTは直接的な衝突を避け、自社の技術領域の深耕と市場拡大に注力してきました。この「戦略的忍耐」が、結果としてJTに独自のポジションを築く機会を与えた可能性があります。
  • 主要リスクは「事業の自由度(FTO)」: RRP市場は競合他社の特許で飽和状態にあり¹¹⁶JTが次世代製品を開発・販売する上でのFTO確保が中期的な最重要課題です。PMIBATの和解⁴³により、両社がクロスライセンスで技術的障壁を築く可能性も懸念されます。
  • 模倣品対策が短期的な重点: Ploomブランドの市場浸透に伴い、模倣品や互換品による特許・商標権侵害が顕在化しており、ブランド価値と消費者の安全を守るための法的措置が積極的に講じられています⁶²⁶⁹
  • 長期的な課題は「Pharmaceuticalization(医薬品化)」: ニコチン送達技術が進化し、治療目的の応用が視野に入る中で¹¹⁶、将来的に製品が医薬品・医療機器として規制されるリスクがあります。これは、現在の知財ポートフォリオの価値を根本から揺るがしかねない長期的課題です。
  • 戦略的示唆: 今後JTには、RRP市場での成長を確実にするため、重点技術領域における質の高い特許網の構築、ブランドIPの積極的な活用、そしてFTOリスクを管理するための戦略的な提携やライセンス活動が一層求められます。

 

背景と基本方針

 

日本たばこ産業(JT)の知的財産(知財)戦略を理解するためには、まずその経営の根幹をなす理念と、事業の歴史的変遷を把握することが不可欠です。JTの知財戦略は、単独で存在するものではなく、企業全体のフィロソフィーと事業戦略の進化に密接に連動しています。

JTグループが経営の基本理念として掲げているのが「4Sモデル」です¹¹。これは、「お客様(Customers)を中心として、株主(Shareholders)、従業員(Employees)、社会(Society)の4者に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく」という考え方です¹¹²¹。この理念は、短期的な利益追求や特定のステークホルダーのみを利するのではなく、持続的な成長と企業価値の向上を目指すJTの姿勢を象徴しています。この「バランス」を重視する思想は、知財戦略においても、競合他社との関係性や社会からの期待を考慮した、過度に攻撃的ではないアプローチの基盤となっていると推察されます。競合他社が繰り広げる大規模な特許訴訟合戦とは一線を画し、事業の持続可能性を重視する姿勢は、この4Sモデルから派生している可能性が高いと考えられます。

JTの事業構造は、1985年の民営化以降、劇的な変化を遂げてきました³。当初、国内のたばこ事業を独占的に手掛けていた同社は、国内市場の縮小リスクを見据え、医薬品や加工食品事業への多角化を開始しました。しかし、JTを真のグローバル企業へと変貌させたのは、積極的なM&A戦略でした。特に、1999年のRJRナビスコ社からの米国外たばこ事業の買収、そして2007年の英国ギャラハー社の買収は、画期的な出来事でした³。これらのM&Aにより、JTは「ウィンストン」「キャメル(米国外)」「LD」といった世界的なブランドと、グローバルな販売網、そして多様な製造拠点を手に入れ、世界第3位のたばこメーカーへと躍進しました³。この歴史的経緯は、JTの知財ポートフォリオが、自社開発技術だけでなく、買収によって獲得した膨大な数の商標権や関連知財を内包していることを意味します。したがって、初期の知財戦略の重要な柱の一つは、これらの買収資産を効果的に管理し、グローバルでブランド価値を維持・向上させるための防御的な商標管理であったと考えられます。

しかし、近年のJTの事業戦略は、新たな局面を迎えています。世界的な健康志向の高まりと規制強化を背景に、従来の燃焼式たばこ(Combustibles)から、喫煙に伴う健康へのリスクを低減させる可能性のある製品、すなわち「リスク低減製品(Reduced-Risk Products, RRP)」への戦略的シフトが鮮明になっています¹¹⁰。経営計画2024では、RRPカテゴリの中でも特に成長が見込まれる加熱式たばこ(Heated Tobacco Sticks, HTS)への優先的な投資が明記されており、RRP事業を「JTグループの利益成長の中核かつ牽引役」と位置づけています。具体的には、主力製品である「Ploom X」を2026年末までに40以上の市場へ展開し、2028年までにRRP事業の黒字化を目指すという野心的な目標が掲げられていますᴮ²

この事業ポートフォリオの抜本的な転換は、知財戦略の役割にも大きな変化をもたらしました。従来のブランド管理中心の防御的戦略に加え、HTSという新たな技術領域で競争優位を確立し、事業成長を加速させるための、より積極的かつ攻撃的な知財戦略が求められるようになったのです。RRPは、デバイスの加熱技術、エアロゾル生成技術、たばこスティックの加工技術、さらにはバッテリーやソフトウェアに至るまで、多数の技術要素が複雑に絡み合う製品であり、特許による技術保護が事業の生命線となります。

JTが公式に開示している有価証券報告書では、知的財産権に関する方針として、「事業活動を保護するため、知的財産の権利化及び知的財産権の適切な管理等の対策を講じております」と述べられています²⁴。さらに、「他者が有する知的財産権の侵害を未然に防止するため、知的財産権の権利状態の調査・モニタリングの実施等、適時適切に対応しております」とも記載されています²⁴。この記述は、自社のイノベーションを特許等で保護する「権利化(攻め)」の側面と、他社の権利を侵害しないように配慮する「クリアランス(守り)」の側面の両方を重視する、バランスの取れた基本方針を示しています。これは前述の4Sモデルの精神とも整合しており、JTの知財戦略が、事業防衛と成長加速という二つの目的を両立させながら、慎重かつ戦略的に推進されていることを裏付けています。

 

当章の参考資料

 

  1. ³ https://magicalir.net/Disclosure/-/file/1124128
  2. https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/report/2023/business/plan/index.html
  3. https://files.microcms-assets.io/assets/fa7ebd3c9a484c6197223084f64eb8d7/1b3b7ec3682c482ea22f54b906140731/0511JT%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%8F%96%E3%82%8A%E7%B5%84%E3%81%BF.pdf
  4. https://mitsukitax.tkcnf.com/jt-ma-cases
  5. ¹¹ https://www.ullet.com/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%9F%E3%81%B0%E3%81%93%E7%94%A3%E6%A5%AD/%E6%A6%82%E8%A6%81/type/task
  6. ²¹ https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250326/20250325599972.pdf
  7. ²⁴ https://www.jti.co.jp/investors/library/securities_report/pdf/20250326_01.pdf
  8. ᴮ² https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/report/2023/business/plan/index.html
  9. ¹¹⁰ https://www.jt.com/investors/results/integrated_report/pdf/2025/integrated2025_E_all.pdf
  10. ¹²⁷ https://en.wikipedia.org/wiki/Mevius

 

全体像と組織体制

 

JTの知財戦略の効果的な遂行は、その組織体制と、研究開発(R&D)部門との緊密な連携によって支えられています。特にRRPのような技術集約型の製品開発においては、知財活動を単なる法務手続きとしてではなく、事業戦略と一体化したプロアクティブな機能として位置づける組織設計が競争力の源泉となります。

JTのR&Dグループと知財部門の連携体制は、極めて体系的かつ統合的であると見られます。採用情報やプロジェクト事例に関する資料からは、「研究開発員は開発初期の段階から、知的財産の担当者と連携してアイデアを共有し、最適なタイミングで特許出願を行います」という方針が明確に示されています⁶⁹ᴮ³。これは、研究開発のプロセスに知財戦略が深く組み込まれていることを意味します。RRPのような複雑な製品は、加熱技術、材料科学、エアロゾル物理学、電子工学、バッテリー技術、ソフトウェアなど、多岐にわたる技術分野の集合体です¹³¹⁶。このような製品の特許戦略を、開発が完了した後の段階で検討するのでは手遅れになる可能性があります。開発の初期段階から知財担当者が関与することで、競合他社の特許網を回避しつつ、自社の独自技術を効果的に保護するための「パテント・ランドスケープ」分析を行い、研究開発の方向性を戦略的に定めることが可能になります。この統合的アプローチは、他社の権利侵害リスク(事業の自由度を脅かすリスク)を最小限に抑え、同時に研究開発投資の価値を最大化するための、競争の激しいRRP市場における必然的な組織的適応と言えます。

JTのR&D活動は、複数の専門的な研究拠点が担っています。神奈川県横浜市にある「たばこ中央研究所」は、たばこの味・香りの基礎研究や新製品開発の中核を担う拠点です¹⁵。ここでは、煙化学、感性工学、認知科学、材料研究といった多様な分野の専門家が、Ploomなどの加熱式・電子たばこ関連の技術開発に従事しています¹⁵¹⁶。一方、栃木県小山市の「葉たばこ研究所」では、たばこ製品の根幹である葉たばこそのものの研究、例えば遺伝子解析による品種改良や栽培・乾燥プロセスの研究が行われています¹³¹⁵。これらの研究所は、JTクリエイティブサービス(JTCS)といった関連会社による分析、圃場管理、施設管理などの包括的なサポートを受けており¹⁵R&D活動が効率的に進められる体制が整っています。このような専門分化された研究拠点が有機的に連携し、基礎研究から製品開発まで一貫したイノベーション創出を可能にしています。

知財管理を担う組織体制についても、高度に専門化されています。例えば、JTの知財部内には「特許第2チーム」といった部署が存在し、たばこを加熱するデバイス(Ploom Sなど)に関する特許業務を専門に担当していることが確認されています⁶³。これは、製品カテゴリや技術領域ごとに専門チームを編成し、深い知見に基づいた知財戦略を立案・実行していることを示唆しています。RRPデバイスという特定の技術分野に特化したチームを置くことで、競合の技術動向や特許出願状況を常に監視し、自社のR&D成果を迅速かつ的確に権利化する体制を構築しているものと推察されます。

JTの知財活動の規模を定量的に見ると、その戦略的な位置づけがより明確になります。特許情報データベース「IP Force」によると、2025年の特許取得件数ランキング(日本国内)において、JT247件で第85位にランクインしています⁷⁰。また、同年の出願公開件数は88件で第316位でした⁷⁰。これは、トヨタ自動車やパナソニックのような日本のトップティアの出願企業と比較すれば小規模ですが、食品・嗜好品業界においては非常に活発な知財活動を行っていることを示しています。特許分析サービス「パテント・インテグレーション」のデータを見ても、JTは継続的に特許出願を行っており、その活動が安定的であることがうかがえます⁷²⁷⁴。これらのデータは、JTが知財を単なる副次的な活動と捉えず、事業戦略を支える重要な経営資源として継続的に投資していることの証左と言えるでしょう。

 

当章の参考資料

 

  1. ¹³ https://www.jti.co.jp/recruit/fresh/rd/rd_special/research_and_development/scienceresearch.html
  2. ¹⁵ https://www.jtcs.co.jp/company/tobacco_rd/index.html
  3. ¹⁶ https://hrmos.co/pages/jt-career/jobs
  4. ¹⁷ https://compass.labbase.jp/articles/897
  5. ᴮ³ https://www.jti.co.jp/recruit/fresh/rd/rd_special/research_and_development/technologydevelopment.html
  6. ⁶³ https://www.fastgrow.jp/articles/jt-uemura
  7. ⁶⁹ https://www.jti.co.jp/recruit/fresh/rd/rd_special/research_and_development/technologydevelopment.html
  8. ⁷⁰ https://ipforce.jp/applicant-933
  9. ⁷² https://patent-i.com/report/jp/applicant/0000274/
  10. ⁷⁴ https://patent-i.com/report/jp/applicant/0000274/

 

詳細分析

 

JTの知財戦略は、技術的優位性を確保するための「特許ポートフォリオ」と、顧客との関係性を構築しブランド価値を保護するための「商標ポートフォリオ」という二つの柱で構成されています。これらは相互に連携し、特にRRP事業の成功において不可欠な役割を果たしています。

 

技術領域別分析:RRPを核とする特許ポートフォリオ

 

JTの特許戦略の現在の最重要領域は、間違いなくRRP、特にPloomプラットフォームに関連する技術群です。この分野におけるJTの強みは、2011年に行われた米国のベンチャー企業Ploom社への出資と、その後の特許権および商標権の取得に端を発しています⁶¹¹²⁵。この戦略的な一手により、JTは加熱式たばこ市場の黎明期において、基本的な技術基盤と、伝統的なたばこブランドとは一線を画すモダンなブランド名を同時に確保することに成功しました。この初期の買収は、後にPMIBATが繰り広げる熾烈な特許戦争とは異なる、独自のポジションを築くための重要な布石となりました。

JTが保有するPloom関連の特許は、製品の競争力を支える複数の核心技術をカバーしています。これには、デバイスの心臓部である加熱技術(競合のブレード式や誘導加熱式とは異なるアプローチ)、エアロゾルの質と量を最適化する技術、そしてPloom製品の独自性を際立たせるフレーバーデリバリーシステムが含まれます。特に、特定の香料を特殊な基材に包接させることで香りの揮発を抑制する「フレーバー・マイクロ・チップ」技術や、低温加熱式デバイス(Ploom TECH)向けに開発された、味・香り成分の放出効率を高める「たばこ顆粒」の加工技術などは、JTの独自性を象徴するイノベーションであり、積極的に知的財産権として保護されていますᴮ³。これらの技術的知見は、模倣品や互換品に対する法的措置の根拠ともなっており、実際にJTPloom TECHの互換品を巡る訴訟で和解を成立させるなど⁶²、自社の特許権を積極的に行使して市場の健全性を維持しています。税関での輸入差止申立の対象となった特許(特許第6552028号)の事例⁶⁴は、JTが水際対策においても知財を有効に活用していることを示しています。

一方で、JTRRPへの投資を加速させつつも、収益の基盤である燃焼式たばこ事業におけるイノベーションも継続しています。例えば、漂白されたたばこ残渣や再生たばこ材料の製造方法に関する特許(特許第7681726号)⁷¹などは、品質向上やコスト効率化、さらにはサステナビリティといった観点から、既存事業の価値を最大化するための研究開発が続けられていることを示しています。

さらに、JTの多角化事業である医薬・加工食品分野も、グループ全体の知財ポートフォリオに厚みを与えています。医薬事業は「JTグループの利益成長を補完する」役割を担い、「次世代戦略品の創薬研究開発」が重要なテーマとされていますᴮ²。医薬総合研究所では、膨大な化合物の中から有望な候補を探索・検証するために、ITシステムを活用した効率的な研究開発体制が構築されており¹⁴、創薬という極めて知財集約的な分野で着実に成果を上げています。また、植物バイオテクノロジーの分野では、トヨタ自動車独自のDNA解析技術「GRAS-Di」に関するライセンス契約を締結し⁶⁶、葉たばこの品種改良などに応用する一方、自社の関連資産をカネカ社へ譲渡する⁶⁸など、外部技術の導入(オープンイノベーション)と自社資産の選択と集中を組み合わせた、ダイナミックなポートフォリオマネジメントを行っています。

 

ブランド・市場別分析:グローバルブランドの商標戦略

 

技術を保護する特許と同様に、あるいはそれ以上に、消費者との直接的な接点となるブランドを保護する商標戦略は、JTのグローバル展開において極めて重要な役割を担っています。

その最も象徴的な事例が、基幹ブランド「マイルドセブン(Mild Seven)」から「メビウス(Mevius)」へのリブランディングです。1977年に誕生したマイルドセブンは、日本国内およびアジア市場で絶大なブランド力を誇っていましたが、「マイルド」といった表現が健康への影響を誤認させる可能性があるとして、世界各国で規制が強化される流れにありました³⁹⁵¹²⁷。この規制リスクに対応し、かつグローバル市場で通用するプレミアムブランドを再構築するため、JT2013年にメビウスへのブランド名変更という大胆な決断を下しました³。このプロジェクトは、単なる名称変更にとどまらず、世界130以上の市場で新たな商標を出願・登録し、パッケージデザインを刷新し、大規模なマーケティングキャンペーンを展開するという、莫大な投資と緻密な計画を要するものでした。WIPO(世界知的所有権機関)のGlobal Brand Databaseなどのデータベースで検索すると⁹³⁹⁴¹²⁶JTが世界各国で「MEVIUS」の商標をいかに広範かつ緻密に登録しているかがうかがえ、その戦略の徹底ぶりが見て取れます。

RRP事業においては、「Ploom」ブランドの商標戦略が成功の鍵を握っています。前述の通り、Ploomの商標権は特許権と共に米Ploom社から取得したものであり⁶¹、これによりJTは「たばこ」のイメージから切り離された、テクノロジー志向でクリーンなブランドアイデンティティを獲得しました。これは、新たな顧客層にアピールする上で非常に大きなアドバンテージとなります。JTは「Ploom」をグローバルなRRPブランドとして確立するため、Ploom XPloom AURAといった製品ラインナップを拡充し¹²⁴、世界各国での商標登録を着実に進めています。WIPOのデータベースを介して、JTが「Ploom」および関連商標を国際的に保護している様子が確認できます¹²⁰¹²¹¹²²。また、Ploom X用のたばこスティックに「メビウス」ブランドを冠し³¹³³、既存の強力なブランド資産と新しいテクノロジーブランドを組み合わせることで、顧客の信頼を獲得し、スムーズな市場移行を促すという巧みなブランドアーキテクチャ戦略も展開しています。「ACTIVBLEND®」といった技術ブランドを登録商標として併記する³¹など、多層的なブランド保護を行っている点も注目に値します。

これらの自社ブランドに加え、JTM&Aによって獲得した「ウィンストン」や「キャメル」といったグローバルブランドの商標管理も行っています¹²⁴。これらの歴史あるブランドの価値を維持しつつ、各国の市場特性や規制に合わせたマーケティングを展開するためには、国ごとに最適化された緻密な商標管理が不可欠です。JTの知財戦略は、未来への投資であるPloomとメビウスのブランド構築と、過去からの資産である買収ブランドの価値維持という、時間軸の異なる二つの課題に同時に対応しているのです。

 

当章の参考資料

 

  1. ³ https://magicalir.net/Disclosure/-/file/1124128
  2. https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/report/2023/business/plan/index.html
  3. ¹⁴ https://www.fujitsu.com/jp/solutions/business-technology/tc/sol/patcore/case-studies/jt-jchem/
  4. ᴮ² https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/report/2023/business/plan/index.html
  5. ᴮ³ https://www.jti.co.jp/recruit/fresh/rd/rd_special/research_and_development/technologydevelopment.html
  6. ³¹ https://www.jti.co.jp/investors/library/press_releases/20230221_01.html
  7. ³³ https://www.bcnretail.com/market/detail/20230329_321670.html
  8. ⁶¹ https://www.yanagino.com/yanagino/office/ipnews/2015_vol.01-06.pdf
  9. ⁶² https://www.jti.co.jp/news/pdf/2021/20210122.pdf
  10. ⁶⁴ https://sato-ta.com/topics/%E6%B0%B4%E9%9A%9B%E3%81%A7%E7%A9%8D%E3%81%BF%E4%B8%8A%E3%81%8C%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%B7%AE%E6%AD%A2%E5%93%81%E3%81%AE%E5%B1%B1-%E2%80%95-%E7%89%B9%E8%A8%B1%E7%AC%AC6552028%E5%8F%B7%E3%81%AE%E6%8A%80/
  11. ⁶⁶ https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/25439115.html
  12. ⁶⁸ https://www.kaneka.co.jp/topics/news/2020/nr2008241.html
  13. ⁷¹ https://ipforce.jp/patent-jp-P_B1-7681726
  14. ⁹³ https://www.intepat.com/blog/wipo-global-brand-database
  15. ⁹⁴ https://www.cabinetm.com/product/world-intellectual-property-organization-wipo/global-brand-database
  16. ⁹⁵ https://en.wikipedia.org/wiki/Mevius
  17. ¹²⁰ https://www.wipo.int/en/web/global-brand-database
  18. ¹²¹ https://www.intepat.com/blog/wipo-global-brand-database
  19. ¹²² https://www3.wipo.int/madrid/monitor/en/
  20. ¹²⁴ https://www.jti.com/en/our-brands
  21. ¹²⁵ https://en.wikipedia.org/wiki/Ploom
  22. ¹²⁶ https://www.wipo.int/en/web/global-brand-database/faqs_branddb
  23. ¹²⁷ https://en.wikipedia.org/wiki/Mevius

 

競合比較

 

JTの知財戦略の独自性と有効性を評価するためには、グローバルたばこ市場を寡占する主要な競合、すなわちPhilip Morris InternationalPMI)およびBritish American TobaccoBAT)との比較が不可欠です。RRP市場における三社の戦略は、投資規模、技術的アプローチ、そして知財に対する姿勢において、顕著な違いを見せています。

以下の比較表は、三社の知財およびRRP事業に関する主要な指標をまとめたものです。この表は、各社の戦略的ポジショニングを定量的に把握するための基礎情報を提供します。

指標

日本たばこ産業 (JT)

Philip Morris Int'l (PMI)

British American Tobacco (BAT)

情報源

主要RRPブランド

Ploom (Ploom X, Ploom AURA)

IQOS (IQOS ILUMA)

glo, Vuse

¹²⁴, ⁴⁰, ⁵⁵

総特許件数(グローバル、概算)

競合比で少数、重点分野に集中

28,446件(76%が有効)

14,173件(69%が有効)

⁷⁰, ⁷⁵, ⁸¹

RRP特許の重点領域

デバイス加熱方式、消耗品、フレーバーポッド

ブレード/誘導加熱、スマート制御

エアフロー、アロマ制御、ベイパー技術

ᴮ³, ᴮ⁹, ¹¹⁵

年間R&D投資額(最新年度)

明示的開示なし、RRP拡大への重点投資を明言

75900万ドル (2024)

明示的開示なし、新カテゴリへの投資を重視

¹⁰⁹, ¹⁰¹, ¹⁰²

R&D投資に占めるRRP比率

HTSへの優先的投資

99.5% (2024年)

R&Dの主要な焦点

¹¹¹, ¹⁰⁰, ᴮ⁸

RRP/新カテゴリからの収益

2026年に2023年比で約2.5倍増が目標

総純収益の約39% (2024)

34億ポンド / 総収益の17.5% (2024)

ᴮ², ⁹⁸, ᴮ⁸

知財訴訟に対する姿勢

防御的、模倣品対策が主

極めて攻撃的、BATとの大規模訴訟

極めて攻撃的、PMIとの大規模訴訟

⁶², ³⁸, ⁴⁶, ⁵⁵

主要な知財訴訟イベント

互換品メーカーに対する訴訟

BATとのグローバル特許戦争、IQOSの米国輸入禁止措置(後に和解)

PMIとのグローバル特許戦争(後に和解)

⁶², ⁴⁹, ⁴³, ⁴⁴

この表から、三者三様の戦略的アプローチが浮かび上がります。

PMIの「オールイン」戦略: PMIは、RRPへの転換を最も早く、かつ最も大規模に推進してきた企業です。2008年以降、スモークフリー製品に累計140億ドル以上という巨額の投資を行い⁹⁸、その結果として約28,000件以上という圧倒的な数の特許ポートフォリオを構築しています⁷⁵。その戦略は、主力製品「IQOS」によってHTS市場を完全に支配することにあります。そのために、自社の加熱ブレード技術や誘導加熱技術(IQOS ILUMA)に関する特許を網羅的に取得し、他社の参入を困難にする「パテント・ウォール(特許の壁)」を築き上げてきました。さらに、PMIは知財を攻撃的な武器として用いることを躊躇しません。BATとの間で繰り広げられた世界規模の特許侵害訴訟³⁸⁴⁹はその典型であり、自社の市場支配を脅かす可能性のある競合を徹底的に排除しようとする強い意志の表れです。この戦略は、高いリターンをもたらす可能性がある一方で、訴訟費用や、敗訴した場合の市場からの製品撤退(実際に米国でIQOSの輸入が一時禁止された⁴⁹)といった大きなリスクを伴います。

BATの「マルチカテゴリ」戦略: BATは、PMIのようにHTSに特化するのではなく、加熱式たばこ「glo」と、Vapour(電子たばこ)製品「Vuse」という、複数のRRPカテゴリで事業を展開する戦略をとっています⁵⁵。そのため、同社の知財ポートフォリオも、加熱技術からリキッドの気化技術、ニコチンパウチに至るまで、幅広い技術領域をカバーする必要があります。BATの特許件数はPMIに次ぐ規模であり⁸¹、彼らもまた、自社の事業領域を守るためにPMIと同様に攻撃的な訴訟戦略を展開しました⁴⁶PMIBATの間で繰り広げられた訴訟合戦は、最終的に20242月にグローバルな和解に至りました⁴³⁴⁴。この和解は、両社が互いの既存製品に関する訴訟を取り下げ、将来の製品開発における一定の自由度を確保するためのものと見られますが、これはRRP市場における二大巨頭による技術的な寡占体制の始まりとも解釈できます。

JTの「戦略的チャレンジャー」戦略: これら二社に対し、JTは異なるアプローチを選択したと見られます。JTの特許ポートフォリオは競合二社に比べて規模が小さく⁷⁰R&D投資額も(公表されている範囲では)PMIほど巨額ではありません。JTは、PMIBATが繰り広げる「特許戦争」の主戦場から距離を置き、直接的な衝突を避ける戦略をとりました。彼らの訴訟活動は、主にPloomの模倣品や互換品を市場から排除することに焦点を当てており⁶²、これは自社のブランド価値と市場を守るための防御的な活動です。

この一見すると控えめな姿勢は、実は極めて戦略的な意味合いを持っていた可能性があります。PMIBAT2020年から2024年初頭にかけて、莫大な訴訟費用と経営資源を互いへの攻撃に費やしている間⁵⁵JTはその影響を受けることなく、自社の製品開発と市場拡大計画を着実に実行することができました。競合他社が法廷闘争に注力している間に、JTは「Ploom X」をグローバル市場へ展開する(2026年までに40市場以上という目標)という自社のロードマップに集中できたのです。競合間の紛争は、JTにとって避けるべきリスクであったと同時に、自社のポジションを固めるための貴重な時間的猶予、すなわち「戦略的機会」をもたらしたと言えるでしょう。結果として、PMIBATが和解によって戦線をリセットした今、JTは独自の技術基盤とグローバルな販売網を持つ、強力な「第三極」としての地位を確立しているのです。

 

当章の参考資料

 

  1. ᴮ² https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/report/2023/business/plan/index.html
  2. ᴮ³ https://www.jti.co.jp/recruit/fresh/rd/rd_special/research_and_development/technologydevelopment.html
  3. ᴮ⁸ https://www.bat.com/content/dam/batcom/global/main-nav/investors-and-reporting/results-centre/pdf/FY_2024_Announcement.pdf
  4. ᴮ⁹ https://patentskart.com/heated-tobacco-products-vs-e-cigarettes-patentskart-insights/
  5. ³⁸ https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/cafc/22-1227/22-1227-2023-03-31.html
  6. ⁴⁰ https://www.pmi.com/resources/docs/default-source/investor_relation/pmi_2024_annualreport.pdf?sfvrsn=4b9c42c8_2
  7. ⁴³ https://www.londonstockexchange.com/news-article/BATS/bat-and-pmi-announce-global-patent-settlement/16316694
  8. ⁴⁴ https://www.bat.com/media/press-releases/_2024/february/british-american-tobacco---bat-and-pmi-announce-global-patent-se
  9. ⁴⁶ https://www.bat.com/media/press-releases/_2021/september/sep-30---bat-s-response-to-yesterday-s-u-s--international-trade-
  10. ⁴⁹ https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11544331/
  11. ⁵⁵ https://www.juve-patent.com/cases/philip-morris-and-bat-end-global-patent-clash-over-heat-not-burn-cigarettes/
  12. ⁶² https://www.jti.co.jp/news/pdf/2021/20210122.pdf
  13. ⁷⁰ https://ipforce.jp/applicant-933
  14. ⁷⁵ https://insights.greyb.com/philip-morris-international-patents/
  15. ⁸¹ https://insights.greyb.com/british-american-tobacco-patents/
  16. ⁹⁸ https://www.pmi.com/resources/docs/default-source/pmi-sustainability/pmi-integrated-report-2024.pdf?source=AUBI-plus
  17. ¹⁰⁰ https://www.pmi.com/sustainability/performance-metrics
  18. ¹⁰¹ https://www.pmiscience.com/en/about/pmi-smoke-free-future-progress/
  19. ¹⁰² https://www.bat.com/content/dam/batcom/global/main-nav/investors-and-reporting/results-centre/pdf/FY_2024_Announcement.pdf
  20. ¹⁰⁹ https://www.jti.co.jp/investors/library/presentation/2023_online/pdf/20230508_04.pdf
  21. ¹¹¹ https://www.jt.com/investors/results/forecast/pdf/2024/Full_Year/20250821_02.pdf
  22. ¹¹⁵ https://patentskart.com/heated-tobacco-products-vs-e-cigarettes-patentskart-insights/
  23. ¹²⁴ https://www.jti.com/en/our-brands

 

リスク・課題

 

JTの知財戦略は、これまでのところ効果的に機能していると評価できますが、事業環境の変化に伴い、短期・中期・長期の時間軸でそれぞれ異なる性質のリスクと課題に直面しています。これらのリスクを適切に管理することが、今後の持続的な成長の鍵となります。

 

短期的なリスク・課題(12年)

 

短期的に最も顕在化しているリスクは、模倣品・互換品の流通と不正取引です。Ploomブランドが市場に浸透し、その認知度が高まるにつれて、JTの特許権や商標権を侵害する安価な模倣デバイスや互換消耗品が市場に出回る可能性が高まります。これらの製品は、JTの収益機会を奪うだけでなく、品質や安全性が保証されていないため、消費者に健康被害をもたらし、結果としてPloomブランド全体の信頼性を著しく損なう危険性があります。JTが知的財産権の確保を「健全な市場とお客様の安全のために重要な役割を果たす」⁶⁹と位置づけているのは、このリスクを深刻に受け止めている証拠です。実際に、Ploom TECHの互換品を巡る訴訟⁶²や、税関での輸入差止措置⁶⁴など、具体的な法的措置を講じていることからも、この問題への積極的な取り組みがうかがえます。今後、Ploomのグローバル展開が加速するにつれて、特に規制や法執行が脆弱な市場において、このリスクはさらに増大すると予想されます。

もう一つの短期的なリスクは、競合他社からの特許侵害訴訟の提起です。JTはこれまでPMIBAT間の大規模な訴訟合戦からは距離を置いてきましたが、Ploomの市場シェアが拡大し、競合の収益を脅かす存在になれば、彼らがJTに対して訴訟を提起する可能性は十分に考えられます。また、大手たばこ会社だけでなく、小規模な技術系企業や、自らは製品を製造せず特許ライセンスで収益を上げる「パテント・トロール」と呼ばれる非事業主体(NPE)から、侵害の警告や訴訟を受けるリスクも常に存在します。

 

中期的なリスク・課題(25年)

 

中期的に見て最も重大な課題は、「事業の自由度(Freedom to Operate, FTO)」の確保です。特許ランドスケープ分析に関するレポートが示すように、加熱式たばこ(HTS)やニコチンベイパー技術の分野は、数万件に及ぶ特許で密集しており、極めて混雑した状況にあります¹¹⁶¹¹⁷JTが次世代のPloom製品を開発し、新たな機能を搭載しようとする際、意図せずして競合他社の膨大な特許網のいずれかに抵触してしまうリスクは非常に高いと言えます。このFTOリスクを管理するためには、開発のあらゆる段階で徹底的な先行特許調査と分析が不可欠となり、研究開発のコストと時間を増大させる要因となります。

特に懸念されるのが、20242月のPMIBATのグローバルな特許訴訟和解の影響です⁴³⁴⁴。この和解には、両社間のクロスライセンス契約が含まれている可能性が高いと推察されます。もしそうであれば、PMIBATは互いの広範な特許ポートフォリオを自由に使用できる「パテント・プール」を形成し、技術的な参入障壁をさらに高めることになります。JTがこの技術的同盟の外に置かれた場合、両社が保有する重要な基本特許を利用できず、製品開発において技術的な制約を受けたり、不利な条件でのライセンス交渉を強いられたりする可能性があります。

また、規制による知財価値の毀損リスクも中期的な課題です。例えば、オーストラリアで導入されたたばこのプレーン・パッケージ(ブランドロゴや色彩の使用を禁止し、統一されたパッケージを義務付ける規制)は、商標権という重要な知的財産の実質的な価値を大きく損なうものです。JTもこの規制に対して法的に争いましたが、最終的に合憲と判断されました⁶⁷。このような規制が世界的に拡大すれば、JTが長年かけて築き上げてきたメビウスなどのブランド資産の価値が希薄化するリスクがあります。

 

長期的なリスク・課題(5年以上)

 

長期的な視点では、より構造的で破壊的なリスクが浮上します。その一つが、**「ニコチン製品の医薬品化(Pharmaceuticalization)」**という潮流です。近年の特許ランドスケープ分析では、たばこ会社がニコチンを送達する技術について、単なる嗜好品としての用途だけでなく、アルツハイマー病などの神経疾患の治療といった、治療目的の用途を示唆する特許を出願している傾向が指摘されています¹¹⁶。これは、たばこ会社が将来的にウェルネスやヘルスケア領域への事業拡大を視野に入れていることを示唆しています。しかし、この動きは諸刃の剣です。もし将来、RRP製品がその作用機序や健康への影響から「ニコチン送達システム」として医薬品や医療機器として再分類され、規制されることになれば、事業全体が根本から覆される可能性があります。その場合、製品の承認プロセスは格段に厳しくなり、マーケティング活動も厳しく制限されます。また、特許の要件も医薬品分野の基準で判断されることになり、現在のRRP関連の特許ポートフォリオの一部が無効と判断されるリスクさえあります。

もう一つの長期的なリスクは、破壊的技術の出現による現行技術の陳腐化です。現在のRRP市場はHTSVapourが主流ですが、将来的には全く新しい原理に基づくニコチン送達技術(例えば、経皮吸収、超音波エアロゾル化など)が登場する可能性があります。もし競合他社や異業種の新規参入者がそのような破壊的技術の基本特許を押さえた場合、JTを含む既存のプレーヤーがHTSに投じてきた莫大な研究開発投資と特許ポートフォリオが一挙に価値を失う「技術的陳腐化」のリスクに直面することになります。

 

当章の参考資料

 

  1. ⁴³ https://www.londonstockexchange.com/news-article/BATS/bat-and-pmi-announce-global-patent-settlement/16316694
  2. ⁴⁴ https://www.bat.com/media/press-releases/_2024/february/british-american-tobacco---bat-and-pmi-announce-global-patent-se
  3. ⁶² https://www.jti.co.jp/news/pdf/2021/20210122.pdf
  4. ⁶⁴ https://sato-ta.com/topics/%E6%B0%B4%E9%9A%9B%E3%81%A7%E7%A9%8D%E3%81%BF%E4%B8%8A%E3%81%8C%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%B7%AE%E6%AD%A2%E5%93%81%E3%81%AE%E5%B1%B1-%E2%80%95-%E7%89%B9%E8%A8%B1%E7%AC%AC6552028%E5%8F%B7%E3%81%AE%E6%8A%80/
  5. ⁶⁷ https://www.corporate-legal.jp/news/1126
  6. ⁶⁹ https://www.jti.co.jp/recruit/fresh/rd/rd_special/research_and_development/technologydevelopment.html
  7. ¹¹⁶ https://globalactiontoendsmoking.org/wp-content/uploads/2024/02/Patent-Landscape-Report.pdf
  8. ¹¹⁷ https://tobaccointelligence.com/patents-for-hnb-and-smokeless-tobacco-products-on-the-rise-research-finds/

 

今後の展望

 

JTの知財戦略は、静的なものではなく、急速に変化する技術、市場、政策の動向に適応し、進化し続ける必要があります。今後の展望をこれらの三つの側面から考察することで、JTが取るべき戦略の方向性が見えてきます。

 

技術動向との接続

 

RRPの技術革新は、デバイスの性能向上という単一の軸から、より多面的な価値創造へと向かっています。今後の特許戦略において重要となる技術トレンドは、スマート化・コネクテッド化AIによるパーソナライゼーション、そしてサステナビリティです¹¹⁵ᴮ⁹

将来的には、PloomデバイスがIoTデバイスとしてスマートフォンアプリと連携し、使用状況の追跡、最適な味わいの提案、消耗品の自動注文といった機能を提供することが考えられます。また、AIがユーザーの吸引パターンを学習し、ニコチンの送達量やエアロゾルの温度をリアルタイムで最適化するような、高度にパーソナライズされた体験も技術的には可能です¹¹⁵。これらのイノベーションは、ハードウェア(デバイス本体)の特許だけでなく、ソフトウェア、データ処理アルゴリズム、ユーザーインターフェース(UI/UX)に関する特許や意匠権、さらには収集されるデータの取り扱いに関する知見(トレードシークレット)など、多岐にわたる知財ポートフォリオを必要とします。JTの知財戦略は、従来の機械工学や化学工学といった領域から、情報技術やデータサイエンスの領域へとその範囲を拡大させていく必要があるでしょう。

また、環境意識の高まりを受け、デバイス本体やたばこスティックに使用される材料のサステナビリティも重要な差別化要因となります。植物由来の生分解性プラスチックの使用や、リサイクルしやすいモジュール構造の設計に関する技術は、新たな特許取得の対象となり得ます。JTR&Dグループが「サステナブルな材料品の開発」を研究テーマの一つに掲げていること¹³は、このトレンドを既に見据えていることを示唆しています。

 

市場動向との接続

 

JTの事業成長は、グローバル市場、特に成長ポテンシャルの高い新興国市場への展開に大きく依存しています。しかし、これらの市場における知財環境は、先進国とは大きく異なる場合があります。特許ランドスケープ分析によれば、アフリカをはじめとする多くの開発途上国では、RRP関連の特許出願活動が非常に低調です¹¹⁶。これは、現時点では市場規模が小さく、知財保護のインフラも未整備であるため、企業が特許出願のコストに見合うリターンを期待できないためと考えられます。

しかし、これらの市場が将来的に成長することを見越した場合、早期に基本的な特許や商標権を確保しておくことは、長期的な競争優位を築く上で極めて重要です。JTは、各国の経済発展の段階や法制度の成熟度に応じて、知財戦略を柔軟に調整する必要があります。例えば、主要な新興国市場ではまず中核となるブランド商標(Ploom, Mevius)と基本技術に関する特許を確実に押さえ、市場の成長と共に保護範囲を拡大していく、という段階的なアプローチが有効と考えられます。

 

政策・規制動向との接続

 

たばこ事業は、常に政策や規制の動向に大きく左右される宿命にあります。今後の知財戦略も、各国の規制当局の動きを常に予測し、それに先回りする形で構築されなければなりません。

例えば、メンソールを含むフレーバー付きたばこ製品に対する規制が世界的に強化される可能性があります。このような規制が導入されれば、香料技術に関する特許の価値は相対的に低下し、代わりにたばこ葉のブレンド技術や、エアロゾルの「口当たり」や「喉ごし」といった物理的感覚を向上させる技術の重要性が増すでしょう。知財ポートフォリオも、このような規制のトレンドを反映して、重点を置くべき技術領域をシフトさせていく必要があります。

また、RRPの健康への影響に関する科学的データの開示要求が強まることも予想されます。規制当局への承認申請プロセスにおいて、従来は企業秘密(トレードシークレット)として管理されてきた詳細な製品仕様や毒性試験のデータを、より広範に開示する必要に迫られるかもしれません。これは、知財戦略において、特許(公開を前提とする)とトレードシークレット(非公開を前提とする)のどちらで技術を保護するかのバランスを、より慎重に検討する必要があることを意味します。

 

戦略的アライアンスとの接続

 

今後の複雑な技術開発と市場開拓を単独で行うことには限界があります。JTが既に示しているように、戦略的なアライアンスや技術提携は、知財戦略の重要な一部となります。トヨタ自動車から植物のDNA解析技術のライセンス供与を受けた事例⁶⁶は、異業種の先進技術を自社のコア事業(葉たばこ研究)に応用するオープンイノベーションの好例です。逆に、自社が保有するものの、コア事業とは言い難い植物バイオテクノロジー関連資産をカネカへ譲渡した事例⁶⁸は、経営資源を集中させるための戦略的なポートフォリオマネジメントを示しています。

将来的には、バッテリー技術で先進的な企業、データ解析に強みを持つIT企業、あるいは新しいサステナブル素材を開発する化学メーカーなど、様々な分野のパートナーとの連携が考えられます。こうした提携においては、共同開発で得られた知財の帰属や、互いの背景特許のライセンス条件などを定める知財契約が極めて重要になります。JTの知財部門には、単に自社の権利を守るだけでなく、こうした複雑なアライアンスを円滑に進めるための交渉力と契約設計能力が一層求められることになるでしょう。

 

当章の参考資料

 

  1. https://mitsukitax.tkcnf.com/jt-ma-cases
  2. ¹³ https://www.jti.co.jp/recruit/fresh/rd/rd_special/research_and_development/scienceresearch.html
  3. ᴮ⁹ https://patentskart.com/heated-tobacco-products-vs-e-cigarettes-patentskart-insights/
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  6. ¹¹⁵ https://patentskart.com/heated-tobacco-products-vs-e-cigarettes-patentskart-insights/
  7. ¹¹⁶ https://globalactiontoendsmoking.org/wp-content/uploads/2024/02/Patent-Landscape-Report.pdf

 

戦略的示唆

 

本分析を通じて明らかになったJTの知財戦略の現状、競合環境、そして将来のリスクと機会を踏まえ、経営、研究開発、事業化の各観点から、今後取るべき具体的なアクション候補を以下に示します。

 

経営(Management)への示唆

 

  1. 知財投資の最適化と重点化:
    JTは、PMIBATのような特許件数で競う「量的拡大」路線を追随すべきではありません。それは莫大なコストを要し、JTのバランスを重視する経営理念とも乖離します。むしろ、限られた経営資源を、Ploomの次世代製品ロードマップに直結する核心的技術領域(例:熱効率の飛躍的向上、新規エアロゾル生成技術、バイオメトリクスと連動したパーソナライゼーション技術など)に集中投下し、回避困難な質の高い特許網(いわゆる「キラーパテント」)を構築することに注力すべきです。これにより、特許ポートフォリオのROI(投資対効果)を最大化することが可能となります。
  2. 訴訟戦略の堅持と抑止力の構築:
    これまで通り、訴訟は模倣品対策など市場の健全性を守るための防御的手段として位置づけ、競合との全面的な特許戦争は回避する方針を堅持することが賢明です。ただし、競合からの攻撃を抑止するためには、強力な報復能力、すなわち質の高いカウンターアサーション(対抗主張)用の特許ポートフォリオを整備しておくことが不可欠です。これにより、訴訟を仕掛けられた際に有利な交渉(クロスライセンス等)に持ち込むことができ、事業の自由度を守るための「戦略的抑止力」として機能します。
  3. FTO(事業の自由度)リスクの経営課題としての認識:
    中期的な最大リスクであるFTO問題を、法務・知財部門だけの課題とせず、全社的な経営リスクとして取締役会レベルで定期的にモニタリングする体制を構築することが求められます。特に、PMIBATの和解後の技術動向や、両社が構築する可能性のあるパテント・プールがJTの事業に与える影響について、シナリオ分析を行い、対抗策(代替技術開発、戦略的ライセンス交渉、M&A等)を準備しておく必要があります。

 

研究開発(R&D)への示唆

 

  1. 「デザイン・アラウンド」から「IP主導開発」へ:
    研究開発プロセスにおいて、単に競合の特許を回避する「デザイン・アラウンド」に留まらず、知財部門と連携して**特許情報解析(パテント・ランドスケープ)から導き出される「技術的な空白地帯(ホワイトスペース)」を積極的に狙う「IP主導開発」**へとシフトを強化すべきです。これにより、競合のいない領域で独自の技術的優位性を確立し、強力な特許網を構築することが可能になります。
  2. 隣接技術領域の積極的な探索と権利化:
    RRPの将来像を見据え、たばこ産業の枠を超えた隣接技術領域(例:次世代バッテリー技術、生体適合性材料、マイクロ流体技術、AIによる嗜好性予測モデルなど)のモニタリングを強化し、将来Ploomプラットフォームに適用可能な有望技術については、早期に特許出願を行うべきです。これにより、将来の技術革新の波に乗り遅れるリスクを低減し、より広範で強固な特許の壁を築くことができます。
  3. オープンイノベーションの戦略的活用:
    全ての技術を自社で開発する「自前主義」には限界があります。トヨタ自動車とのライセンス契約⁶⁶のように、大学や研究機関、異業種のスタートアップが持つ優れた基盤技術を積極的に導入(ライセンスイン)する体制を強化すべきです。同時に、自社が保有する非中核技術を他社にライセンスアウトすることで、R&D投資の回収や、新たな技術エコシステムの形成を促進することも検討すべきです。

 

事業化(Business/Commercialization)への示唆

 

  1. ブランドIPの多角的活用:
    Ploom」と「メビウス」は、単なる製品名ではなく、極めて価値の高い知的財産です。これらのブランドが持つ「テクノロジー」「クリーン」「信頼性」といったイメージを、製品そのものだけでなく、関連サービス(例:サブスクリプション、カスタマイズサービス)や顧客体験全体にまで拡張し、ブランド価値を最大化する戦略を推進すべきです。商標権の保護も、単なる名称だけでなく、製品の形状(立体商標)、UI/UXデザイン(意匠権)、ブランドを象徴するサウンド(音商標)など、多角的に行うことが望まれます。
  2. 市場別の知財執行戦略の精緻化:
    グローバル展開を加速する上で、各市場の特性に応じた階層的な知財執行戦略を策定することが重要です。日本、西欧、北米といった主要市場では、模倣品に対して迅速かつ厳格な法的措置を講じ、ブランド価値の毀損を徹底的に防ぎます。一方、法執行インフラが未整備な新興国市場では、まずは税関との連携による水際対策を強化し、市場の成長に合わせて段階的に国内でのエンフォースメント活動を本格化させるなど、費用対効果を考慮したアプローチが求められます。
  3. 規制動向を先取りしたブランドコミュニケーション:
    将来の規制強化(プレーン・パッケージ、フレーバー規制等)を見越し、特定のデザインや文言に過度に依存しない、より本質的なブランド価値を構築するためのコミュニケーション戦略を今から準備すべきです。製品の科学的根拠や、企業のサステナビリティへの取り組みといった、規制の影響を受けにくい要素をブランドストーリーに組み込むことで、長期的に揺るぎないブランドロイヤルティを育成することが可能となります。

 

当章の参考資料

 

  1. ⁶⁶ https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/25439115.html

 

総括

 

本レポートで詳述した通り、日本たばこ産業(JT)の知的財産戦略は、同社の経営理念「4Sモデル」に根差した、慎重かつバランスの取れたアプローチを特徴としています。M&Aを通じて獲得したグローバルブランドの価値を守る防御的な商標管理から始まり、RRP(リスク低減製品)という新たな事業の柱を確立するために、技術的優位性を確保する攻守一体の特許戦略へと、事業環境の変化に応じてその重心を巧みに移行させてきました。

特筆すべきは、競合であるPMIBATRRP市場の覇権を巡り、巨額の費用と経営資源を投じて世界規模の特許戦争を繰り広げた渦中において、JTが直接的な衝突を回避し、独自の道を歩んだ点です。この「戦略的忍耐」とも言える姿勢は、結果としてJTに、自社の主力製品であるPloomプラットフォームの技術を磨き、グローバルな市場展開を着実に進めるための貴重な時間と資源をもたらしました。米プルーム社からの特許と商標の同時取得という先見性のある一手は、この戦略を可能にした重要な基盤であり、JTの知財戦略における優れた判断力を示すものです。

しかし、競合間の和解が成立し、市場が新たな競争フェーズに入る現在、JTはこれまでの成功体験に安住することはできません。最大の課題は、RRP技術に関する膨大な特許で埋め尽くされた競争環境の中で、いかにして「事業の自由度(FTO)」を確保し、持続的なイノベーションを可能にするかという点にあります。これは、単に他社の特許を回避するだけでなく、自らがゲームのルールを変えるような画期的な技術を創出し、それを強力な知的財産権で保護していくという、より一層攻めの姿勢が求められることを意味します。

今後のJTの成功は、経営、研究開発、事業化の各部門が、知的財産を単なる法的権利ではなく、事業成長を牽引する核心的な戦略資産として位置づけ、三位一体でその価値を最大化できるかにかかっています。今後3年から5年の間に、重点技術領域への選択的投資、FTOリスクに対する戦略的対応、そしてグローバルブランド価値のさらなる向上といった課題にどう取り組むかが、JTRRP時代における真の勝者となるための試金石となるでしょう。

 

参考資料リスト(全体)

 

  1. ¹ https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/report/2025/index.html
  2. ² https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/index.html
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  4. https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250326/20250325599972.pdf
  5. https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/report/2023/business/plan/index.html
  6. https://files.microcms-assets.io/assets/fa7ebd3c9a484c6197223084f64eb8d7/1b3b7ec3682c482ea22f54b906140731/0511JT%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%8F%96%E3%82%8A%E7%B5%84%E3%81%BF.pdf
  7. https://mitsukitax.tkcnf.com/jt-ma-cases
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  9. ¹⁰ https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250213/20250212569284.pdf
  10. ¹¹ https://www.ullet.com/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%9F%E3%81%B0%E3%81%93%E7%94%A3%E6%A5%AD/%E6%A6%82%E8%A6%81/type/task
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  12. ¹³ https://www.jti.co.jp/recruit/fresh/rd/rd_special/research_and_development/scienceresearch.html
  13. ¹⁴ https://www.fujitsu.com/jp/solutions/business-technology/tc/sol/patcore/case-studies/jt-jchem/
  14. ¹⁵ https://www.jtcs.co.jp/company/tobacco_rd/index.html
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  17. ᴮ² https://www.jti.co.jp/investors/library/integratedreport/report/2023/business/plan/index.html
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