3行まとめ
ソニーを抜き特許総合力ランキング1位へ
日本のエンタメ業界においてソニーグループを抜き去り、特許総合力ランキングで初の1位を獲得。トイ(物理)とゲーム(デジタル)を融合させる技術プラットフォーマーへと変貌を遂げています。
自前主義の再考と戦略的パートナーシップ
『BLUE PROTOCOL』の教訓からインフラの自前主義を見直し、Google Cloudやソニーとの戦略的提携を加速。ガンプラを即座にデジタル化する「High-Quality Gunpla Scan」などの技術実装を進めています。
3年間で1,500億円規模の戦略投資
新中期計画「Connect with 360」に基づき、技術基盤整備や新規IP創出へ1,500億円規模の戦略投資枠を設定。プラスチックのケミカルリサイクルなど、社会課題解決と連動した技術経営を推進します。
1. エグゼクティブサマリ
1.1 戦略的総括:IP軸戦略の「360度展開」と技術実装の深化
2025年度(2026年3月期)におけるバンダイナムコホールディングス(以下、BNHまたは同社)の技術経営は、長年掲げてきた「IP軸戦略」を物理的・デジタル的双方から極限まで拡張する「Connect with Fans」の第2フェーズ(実行フェーズ)にある1。特筆すべきは、日本のゲーム・エンターテインメント業界において、同社がソニーグループ(SIE)を抜き去り特許総合力ランキングで1位を獲得した事実である3。これは同社が単なるコンテンツホルダーから、ハードウェア(トイ・アミューズメント)とソフトウェア(ゲーム・メタバース)を融合させる「技術プラットフォーマー」へと変貌を遂げつつあることを示唆している。
一方で、デジタル事業においては、大型オンラインRPG『BLUE PROTOCOL』のサービス終了(2025年1月18日)およびグローバル展開の中止という痛恨の挫折を経験した5。これにより、自社開発エンジンの限界とサーバーインフラのスケーラビリティ課題が浮き彫りとなった。これを受け、2025年以降の技術戦略は「自前主義の再考」と「戦略的パートナーシップ(Google Cloud, Sony等)の活用」へと大きく舵を切っている7。
経営陣は、2025年4月から開始された新中期経営計画において、IPファンのみならず、従業員、株主、パートナー企業、社会全体を含む全ステークホルダーとの「360度のつながり(Connect with 360)」を掲げ、これを実現するための技術基盤整備に1,500億円規模の戦略投資枠を設定した9。
1.2 財務・非財務ハイライト (FY2025.3基準)
本レポートでは、直近の確定した財務データに基づき、同社の技術投資余力を評価する。
- 売上高: 1兆2,415億1,300万円(過去最高、前年比2%増)10。
- 営業利益: 1,802億2,900万円(前年比7%増)11。デジタル事業の評価損計上があった前年度からのV字回復を達成。
- R&D投資: 年間約243億円〜323億円規模で推移(セグメントにより変動あり、後述詳細)12。売上高研究開発費比率は約9%〜3.3%の範囲でコントロールされている。
- 特許保有数: 2,084件(2024年3月末時点、国内のみ)14。2025年には「パテント・リザルト」評価で業界1位を獲得3。
- 構造改革: 開発子会社バンダイナムコオンラインの吸収合併(2025年4月1日予定)15、およびアミューズメント事業の再編(バンダイナムコエクスペリエンスの設立)9。
1.3 コア・テクノロジーの重点領域とアナリスト視点
本調査により特定された、BNHが現在リソースを集中させている技術領域は以下の3点である。
- フィジカル・デジタル融合(Phygital):
ガンプラ(プラモデル)をスキャンし、即座に3Dバトルへ反映させる「High-Quality Gunpla Scan」技術の実用化。これはソニーグループとの協業による成果であり、トイ事業の物的資産をデジタル資産へ転換する極めて重要なイニシアチブである8。
- データ・ユニバースの社会実装:
全IPファンの行動データを統合管理する基盤構築(Data Universe)。FY2026以降、蓄積されたデータの本格的なマーケティング活用フェーズへ移行し、ファンエンゲージメントの深化を図る2。
- AI・自動化の現場導入:
アミューズメント機器のQA(品質保証)自動化および、創作活動支援AIの導入。特にジェネレーティブAIを用いた開発効率化と、倫理チェック(ワードチェック)の自動化が進んでいる16。
2. 戦略的背景とIR資料のアーカイブ
2.1 中期経営計画の変遷とR&Dの位置付け
バンダイナムコの技術戦略は、3年ごとに策定される中期経営計画(Mid-term Plan)と密接に連動している。特に2022年4月から2025年3月までの計画と、2025年4月から開始された新計画の連続性と断絶を理解することが、同社の技術投資判断を評価する上で不可欠である。
前中期経営計画(2022.4 - 2025.3):基盤構築と試行錯誤
この期間は、コロナ禍からの回復と、デジタルシフトの加速がテーマであった。
- ビジョン: Connect with Fans
- 重点戦略:
- IP×Fan: ファンとの新しいつながり方(メタバース等)の開発。
- IP×Value: IP価値の最大化。
- IP×World: グローバル展開。
- 技術的成果と課題:
- 成果: ガンダムメタバースの試験運用開始、データ・ユニバース(データ基盤)の構築着手2。
- 課題: 大型オンラインゲーム開発の長期化と品質管理(『BLUE PROTOCOL』の遅延とサービス終了)、開発費の高騰。
新中期経営計画(2025.4 - 2028.3):実行・拡張と組織再編
2025年4月に開始された新計画では、「Connect with Fans」が中期ビジョンから「中長期ビジョン」へと格上げされ、より恒久的な経営指針となった1。
- 新コンセプト: CW360 (Connect with 360)
- IPファンだけでなく、従業員、株主、パートナー企業、社会全体と360度のつながりを構築する。
- CW360部の新設と、3年間で1,500億円規模の戦略投資枠(360投資)の設定9。この投資枠は、新規IP創出だけでなく、技術基盤の強化やM&Aにも充当される見込みである。
- 組織再編による技術機能の分化:
- エンターテインメントユニットの再分割: 2021年に統合された「エンターテインメントユニット」を、再び「トイホビーユニット」と「デジタルユニット」に分割9。これは、デジタルゲーム開発と物理的なトイ製造という異なる技術体系を持つ事業部において、それぞれの専門性を先鋭化させる意図がある。
- アミューズメントユニットの機能分化: 施設運営に特化する「バンダイナムコアミューズメント」と、機器・コンテンツ企画開発に特化する新会社「バンダイナムコエクスペリエンス」へ再編9。ハードウェア開発の迅速化が狙いである。
2.2 R&D投資および財務データのアーカイブ (5年間の推移)
過去5年間の研究開発費および関連財務指標の推移を詳細にカタログ化する。BNHはR&D費用を主に「販売費及び一般管理費」内の研究開発費として計上しているが、コンテンツ制作費(売上原価)としても多額の投資を行っている点に留意が必要である。
表2-1: 連結業績およびR&D投資の推移 (FY2021.3 - FY2025.3)
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会計年度 (FY)
|
売上高 (百万円)
|
営業利益 (百万円)
|
親会社株主に帰属する当期純利益 (百万円)
|
研究開発費 (百万円) *販管費内
|
R&D対売上高比率
|
設備投資額 (百万円)
|
減価償却費 (百万円)
|
主要トピック
|
ソース
|
|
FY2021.3
|
740,903
|
84,654
|
48,894
|
24,684
|
3.3%
|
31,507
|
24,684
|
コロナ禍による巣ごもり需要
|
12
|
|
FY2022.3
|
889,270
|
125,496
|
92,752
|
29,494
|
3.3%
|
36,554
|
25,726
|
『ELDEN RING』発売による大幅増益
|
12
|
|
FY2023.3
|
990,089
|
116,472
|
90,345
|
30,363
|
3.1%
|
45,737
|
28,671
|
開発費高騰トレンド継続、メタバース投資開始
|
10
|
|
FY2024.3
|
1,050,210
|
90,682
|
101,493
|
32,316
|
3.1%
|
49,116
|
38,364
|
オンラインゲーム評価損計上による減益
|
13
|
|
FY2025.3
|
1,241,513
|
180,229
|
129,301
|
24,360 (Est)
|
2.0% (Est)
|
62,004 (CFベース)
|
Not Disclosed
|
過去最高益、コスト構造改革の奏功
|
10
|
アナリスト注記: FY2025.3の研究開発費(販管費内)は、12等のデータプロバイダーによる直近12ヶ月(TTM)等の推計値では約243億円とされており、FY2024比で減少傾向にある。これは、大型開発サイクルの谷間であることや、『BLUE PROTOCOL』等の開発資産の減損処理が完了したことによる影響が考えられる。一方、設備投資(Capex)の増加は、アミューズメント施設や新規IPへの物理的な投資が継続していることを示している。
表2-2: セグメント別売上高構成比の推移 (技術実装領域の特定)
|
セグメント
|
FY2024.3 売上 (百万円)
|
FY2025.3 売上 (百万円)
|
増減率
|
技術的特徴
|
ソース
|
|
トイホビー
|
509,880
|
Not Disclosed
|
-
|
金型技術、素材リサイクル、組込チップ
|
22
|
|
デジタル
|
372,667
|
Not Disclosed
|
-
|
ゲームエンジン、サーバーインフラ、AI
|
22
|
|
IPプロデュース
|
82,468
|
90,738
|
+10.0%
|
映像制作技術、モーションキャプチャ
|
22
|
|
アミューズメント
|
119,667
|
141,485
|
+18.2%
|
筐体設計、通信対戦技術、VR/AR
|
22
|
2.3 経営陣の技術コミットメントとメッセージ
経営トップの発言からは、技術を単なるツールではなく、ファンとの「接続」を実現するための核心的手段として捉えている姿勢が読み取れる。
- 川口 勝 (Group CEO):
- メッセージ: 「Purpose経営」の徹底と「360度接続」を掲げる。特に、失敗に終わったオンラインゲーム事業の立て直しに対し、自前主義に固執せず外部パートナーシップ(Sony, Gaudiy等)を強化する姿勢を明確にしている9。
- 技術的含意: 従来の「ALL BANDAI NAMCO(グループ内連携)」から、外部エコシステムを巻き込んだ「Connect with 360」への拡張。これはクローズドな開発体制からの脱却を意味する。
- 内山 大輔 (Bandai Namco Studios CEO):
- メッセージ: 技術とネットワークの進化によるエンターテインメントの激変を好機と捉え、「発想・制作・届ける」の3点におけるイノベーションを推進する23。
- 技術的含意: スタジオ部門においては、AI活用による開発効率化と、新しい遊びの創出(Innovation of ideas)に重点を置いている。
- チーフ・ガンダム・オフィサー (CGO):
- メッセージ: ガンダム45周年(2024年)から50周年(2029年)に向けたロードマップにおいて、ガンダムメタバースと映像作品の融合、そして「実物大ガンダム」を通じたフィジカルな感動体験の提供を強調24。
3. 知的財産・技術ポートフォリオ
2025年、バンダイナムコは日本のゲーム・エンターテインメント業界における特許ランキングでソニー(SIE)を抜き首位に立った3。これは同社の技術戦略が「デジタル信号処理」だけでなく、「物理的な玩具のギミック」や「フィジカルとデジタルの接続技術」に及んでいることの証明であり、競合他社にはないユニークな強みとなっている。
3.1 知的財産権・特許戦略のカタログ化
特許分析機関パテント・リザルトによる2025年の評価において、バンダイナムコグループ(特にバンダイ)は、特許の「質」と「量」の両面で圧倒的なプレゼンスを示した。
表3-1: ゲーム・エンタメ業界 特許総合力ランキング (2024.4 - 2025.3)
26
|
順位
|
企業名
|
パテントスコア
|
特許件数
|
特徴・傾向
|
|
1
|
バンダイ (Bandai)
|
8,565.2
|
245
|
トイ・ギミック、温度変化素材、業務用サービス機器
|
|
2
|
Sony Interactive Entertainment (SIE)
|
6,631.0
|
208
|
VR、画像生成、触覚フィードバック
|
|
3
|
Gree
|
5,121.9
|
176
|
モバイルゲーム、ガチャシステム、コミュニティ機能
|
|
4
|
COLOPL
|
4,978.0
|
137
|
タッチ操作UI、位置情報ゲーム技術
|
|
5
|
MIXI
|
4,664.8
|
241
|
通信対戦、マッチングロジック
|
|
6
|
Nintendo
|
4,210.8
|
154
|
ゲームシステム、UI/UX(件数は多いがスコアで劣後)
|
|
10
|
Bandai Namco Amusement
|
2,021.6
|
20
|
アミューズメント筐体機構
|
アナリスト分析: バンダイ(トイ事業)が1位、バンダイナムコアミューズメントが10位に入っており、グループ全体での技術資産の厚みが際立つ。特に、デジタル専業のGreeやCOLOPLに対し、物理デバイス(トイ)と連動する特許網がスコアを押し上げている。
表3-2: 主要特許技術カタログ (2024-2025公開・登録分)
以下は、直近で公開・登録された特許の中から、同社の技術戦略を象徴するものを抽出したものである。
|
技術カテゴリー
|
特許内容・メカニズム
|
登録/公開番号
|
出願人
|
戦略的意義
|
ソース
|
|
AIマッチング
|
キャラクター間の「一般的相性」と「個別の相性」に基づいたマッチング計算システム。対戦履歴データから動的に係数を調整し、常に接戦となるようマッチングを最適化する。
|
US 2025/0262549
|
Bandai Namco Ent.
|
eスポーツ/オンライン対戦のUX向上、ユーザー離脱防止
|
27
|
|
メタバース管理
|
複数のサイバースペース(メタバース)への参加可否を、ユーザー条件やサーバー負荷に基づき動的に判定・制御するポータルシステム。大規模同時接続時のトラフィック分散技術。
|
US 2025/0001291
|
Bandai Namco Ent.
|
ガンダムメタバース等の大規模接続制御、安定稼働
|
27
|
|
トイ変形機構
|
第1形態と第2形態に変形可能な玩具構造(シェルパーツの結合制御)。特定の結合端の向きによって異なる形状を維持する物理的なロック機構。
|
US 12,208,341
|
Bandai Co., Ltd.
|
変形ロボット玩具の独占性維持、安価な模倣品の排除
|
29
|
|
3Dスキャン・生成
|
物体の外観スキャン画像(テクスチャ含む)から3Dモデルデータを生成し、仮想空間内に配置・映像化するシステム。スキャン台上の物体を認識し、自動でボーン(骨組み)を入れる処理を含む。
|
US 2025/0177876
|
Bandai Co., Ltd.
|
「Gunpla Scan」の中核技術。フィジカル製品のデジタルツイン化
|
29
|
|
仮想空間UI
|
タッチスクリーン操作における座標受容と仮想タッチエリアの動的関連付け処理。画面上の仮想パッドの操作性を向上させる技術。
|
US 11,759,702
|
Bandai Namco Ent.
|
モバイルアクションゲームの操作性向上(『鉄拳』モバイル等への応用)
|
27
|
|
グループ・ミッション
|
複数プレイヤーによるグループ形成と、共有ミッションに対する個別オプション設定機能。プレイヤーごとの難易度調整や報酬分配ロジック。
|
US 12,220,630
|
Bandai Namco Ent.
|
コミュニティ型ゲーム(Co-op)のエンゲージメント強化
|
27
|
3.2 重点プロジェクト:Gundam Metaverse & Gunpla Scan
バンダイナムコの技術ポートフォリオの中で、最も野心的かつ「IP軸戦略」を体現しているのがガンダム関連プロジェクトである。ここでは、物理とデジタルを融合させる具体的な技術実装に焦点を当てる。
ガンダムメタバース (Gundam Metaverse)
- 現状 (2025年時点): 第4回期間限定オープンを実施(2025年4月20日〜5月19日)30。
- 技術的特徴:
- ブラウザベース: 高スペックPCや専用コンソールを不要とし、スマホや一般的なPCからアクセス可能なWebメタバース技術を採用。
- ハイブリッドイベント: 大阪・関西万博の実物大ガンダム立像のデジタル展示に加え、初音ミクとのコラボレーションライブを実施31。キャラクターIPのクロスオーバーをシステムレベルで実現。
- EC・UGC連携: 仮想空間内でのガンプラ購入(EC連携)と、ユーザーが制作したガンプラ写真・データの展示スペース(UGC連携)を統合。
High-Quality Gunpla Scan (HGQS)
この技術は、バンダイナムコ(トイ・ホビー)とソニーグループ(イメージング技術)の戦略的提携の結晶である。
- 概要: ユーザーが組み立てた物理的なガンプラを専用筐体でスキャンし、高精細な3Dモデルとしてデジタル空間に取り込む技術。
- 協業パートナー: ソニーグループ、ソニー・ミュージックエンタテインメント (SMEJ)。SMEJ主導の「PV (Physical to Virtual) Project」の一環8。
- 技術仕様 (SCANOSYS™):
- ハードウェア: ソニー製ミラーレス一眼カメラ「αシリーズ」を4台使用し、多角的な高解像度撮影を行う。
- データ処理: テクスチャ(表面の色、シール、ウェザリングなどの汚し塗装)と形状データを統合。ユーザーごとの「改造」や「塗装」の個性を完全にデジタル化する。
- Auto-skinning技術: ガンダム特有の複雑な関節構造に特化したリギング(骨組み設定)を自動化するアルゴリズムを開発。これにより、スキャン直後から違和感のないアニメーション動作が可能となった8。
- ロードマップ:
- 2025年2月〜4月: 福岡ガンダムベースで第1回トライアル(3,300円/回)。
- 2025年11月〜12月: 東京ガンダムベースで第2回トライアル。ユーザーがスキャンデータを使ってショートムービーを作成できる追加コンテンツを実装32。
3.3 失敗事例の分析:BLUE PROTOCOL (ブループロトコル)
技術経営において「撤退の意思決定」とその要因分析は、成功事例以上に重要である。BNHは、このプロジェクトの失敗から「自前主義の限界」を学び、後述するGoogle Cloudとの提携へと戦略を転換した。
- 経緯:
- 2014年頃: プロジェクト始動。
- 2023年6月: 日本版サービス開始。
- 2024年8月: サービス終了発表。
- 2025年1月18日: 日本版サービス終了、グローバル版(Amazon Games協業)開発中止5。
- 2025年4月1日: 開発子会社バンダイナムコオンラインをバンダイナムコエンターテインメントに吸収合併15。
- 技術的・構造的敗因:
- 開発期間の長期化 (Technical Debt): 発表からリリースまで約9年を要し、その間に『原神』などの競合が高品質なオープンワールド体験を確立。リリース時にはグラフィックやシステムが陳腐化していた33。
- インフラの脆弱性: サービス開始当初から「Failed to retrieve server list」エラーや無限ローディング問題が頻発34。独自のサーバーアーキテクチャが大規模アクセスに耐えきれず、スケーラビリティの設計に致命的な欠陥があった可能性が高い。
- クロスリージョン対応の不備: グローバル展開を前提としていながら、リージョンロックやデータ同期の問題を解決しきれず、Amazon Gamesとの協業においても技術的な統合が難航したと推測される。
4. オープンイノベーションとエコシステム
『BLUE PROTOCOL』の教訓を経て、BNHは「自前主義」からの脱却を目指し、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じたスタートアップ投資と、大手テック企業との提携を加速している。
4.1 Bandai Namco 021 Fund (旧 Bandai Namco Entertainment 021 Fund)
2022年に設立されたCVCは、2025年の中期計画に合わせて名称を変更し、投資対象をエンターテインメント単体からグループ全体のシナジー創出へ拡大した36。
- ファンド規模: 総額60億円(約4000万米ドル)36。
- 投資戦略: "0 to 1"(ゼロイチ)の創出。既存事業の補完だけでなく、破壊的イノベーションへのアクセス。チケットサイズは1,000万円〜5億円。
- 主要ポートフォリオ詳細 (2025年確認分) 37:
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企業名
|
拠点
|
技術・事業領域
|
投資理由・協業シナジー
|
|
Gaudiy
|
日本
|
Web3/ブロックチェーン、ファンコミュニティ
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ファン経済圏(トークンエコノミー)の構築実験。ID統合基盤との連携。
|
|
DeepMotion
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米国
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生成AIモーションキャプチャ
|
動画から3Dモーションを生成するAI技術。アニメ・ゲーム制作の効率化およびUGCツールへの応用39。
|
|
SuperGaming
|
インド
|
モバイルゲーム開発、独自エンジン
|
インド市場へのアクセス。新興国向けの軽量かつ高品質なゲームエンジンの活用39。
|
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Look North World
|
米国
|
UGCゲーム (Fortnite/Roblox系)
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元BungieのAlex Seropian氏らが設立。Z世代・α世代へのリーチと、UGC型開発ノウハウの獲得40。
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|
Genies
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米国
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アバター技術、NFT
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メタバースにおけるアバター表現の強化。デジタルグッズの流通基盤。
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Gangbusters
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英国
|
ブロックチェーンゲーム
|
GameFi領域の知見蓄積。コミュニティ主導型ゲーム運営の実験。
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Phoenixx
|
日本
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インディーゲームパブリッシング
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インディーゲームクリエイターの発掘と支援(「GYAAR Studio」との連携)。
|
4.2 戦略的パートナーシップ
- Google Cloud:
- プロジェクト: 新作スマートフォン向けアクションゲーム『DRAGON BALL GEKISHIN SQUADRA』(2025年9月リリース)7。
- 採用技術:
- Spanner: グローバル規模でのデータ整合性を保証するデータベース。
- Agones & GKE: オープンソースのゲームサーバー管理とKubernetesエンジン。
- Memorystore for Redis: 超低遅延のマッチメイキングを実現。
- 戦略的意義: 自社サーバー運用のリスクをGoogleにオフロードし、グローバル規模でのクロスプラットフォーム対戦を安定させる。「インフラは買ってくる」という明確な方針転換。
- Sony Group:
- プロジェクト: 資本業務提携(ソニーがBNH株の5%を取得)および「High-Quality Gunpla Scan」8。
- 戦略的意義: ソニーのセンシング技術・映像技術と、バンダイのトイ・IP力を結合。メタバースやライブエンターテインメント領域での共創。
5. リスク管理とガバナンス
5.1 知的財産保護と模倣品対策:AIによる自浄作用
IP軸戦略の根幹を揺るがす模倣品リスクに対し、テクノロジーを用いた能動的な対抗策を講じている。
- AI監視システム: グローバルECサイト上の模倣品を画像認識AIで検知・削除申請するシステムを運用。年間30,000件以上の削除実績を上げている41。
- 物理的認証技術: 高額フィギュアブランド「TAMASHII NATIONS」等に対し、偽造防止加工を施した特殊シール(ホログラム、マイクロ文字等)を導入し、真贋判定を容易にしている41。
- 法的執行の実績: 2024年度には、中国当局との連携によりガンダム模倣品製造工場を摘発し、約19,000点の完成品と39,500個のランナーパーツを押収した41。
5.2 サステナビリティとプラスチック削減技術
トイ事業(特にガンプラ、カプセルトイ)はプラスチック依存度が極めて高く、環境規制リスクに直面している。これに対し、BNHは「削減」だけでなく「循環」させる技術に注力している。
- プラスチック環境配慮方針 (2025年4月制定):
42
- ケミカルリサイクル技術の実用化: 使用済みランナー(プラモデルの枠)を熱分解し、再びプラスチック原料(モノマー)に戻す技術を2025年4月に実用化43。従来のマテリアルリサイクル(粉砕して再利用)は品質劣化が避けられず黒色製品などに用途が限られていたが、ケミカルリサイクルにより新品同様の有色プラモデルの製造が可能となった。
- 削減目標: 2030年までにGHG排出量を2020年比で50%削減(従来目標35%から引き上げ)44。
- 実績: 「ガンプラリサイクルプロジェクト」で年間37トンのランナーを回収(3)。カプセルトイの殻(カプセル)回収量は47トン43。
5.3 開発体制と人材のリスク管理
- 「追い出し部屋」報道と実態: 2024年末から2025年にかけ、Bloomberg等のメディアにより、開発中止に伴う従業員の配置転換(いわゆる追い出し部屋)の存在が報じられた。会社側は「Oidashi Beya」の存在を公式に否定しているが45、データ上ではバンダイナムコスタジオの従業員数が1年間で100名以上減少(1294名→1177名)していることが確認されている46。
- リスク: 開発リソースの流出と、クリエイターのモチベーション低下は、中長期的な開発力(特に内製エンジンや新規IP創出)の弱体化につながる恐れがある。これを補うために、外部スタジオへの委託やAI活用(省力化)が進められている側面もある。
6. 競合ベンチマーク
国内エンターテインメント企業とのR&Dおよび技術戦略の比較。BNHは「フィジカル×デジタル」の領域で独自性を発揮している。
表6-1: 主要競合との技術戦略比較
|
比較項目
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Bandai Namco
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Sony (Game & Network)
|
Sega Sammy
|
Square Enix
|
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R&D投資規模
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年間約320億円前後 (連結)
|
圧倒的規模 (グループ全体で数千億円)
|
年間約500-600億円 (遊技機含む)
|
年間約400-500億円前後 47
|
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特許戦略
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玩具ギミック×デジタル制御 (ランキング1位)
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VR、触覚フィードバック、ハードウェア
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アーケード筐体技術、サーバー技術
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AI、ブロックチェーン、グラフィックス
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|
メタバース
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IP特化型 (ガンダム等)
|
インフラプラットフォーム型 (PlayStation)
|
Super Game構想 (開発中)
|
Symbiogenesis (NFT活用)
|
|
技術的強み
|
フィジカル製品(トイ)との連動、IPポートフォリオの広さ
|
ハードウェア垂直統合、グローバルインフラ
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アミューズメント機器の技術蓄積
|
RPGにおけるハイエンド映像表現技術
|
|
技術的弱点
|
大規模オンラインゲームの運営・インフラ技術
|
-
|
コンシューマゲームの爆発力不足
|
開発費の肥大化と回収リスク
|
|
AI活用
|
QA自動化、創作支援、模倣品検知
|
ゲームAI、画像認識、センシング
|
データ分析、NPC AI
|
AIによるアセット生成、QA
|
データソース: 各社IR資料および47等に基づく分析。
アナリスト分析
- 対 Sony: 特許数で逆転したものの、基礎研究やインフラ投資額では桁が違う。BNHはSonyのインフラ(カメラ、クラウド技術)を利用する側に回ることで、投資効率を上げている。
- 対 Sega Sammy: セガサミーはR&D費が高いが、これはパチンコ・パチスロ機器のハードウェア開発費が含まれるためである。BNHもアミューズメント機器を持つが、IP展開の多様さでリスク分散ができている。
- 対 Square Enix: スクウェア・エニックスは「HDゲーム」への集中投資を行っているが、BNHは「トイ」という安定収益源があるため、デジタル事業のボラティリティ(『BLUE PROTOCOL』の失敗など)を吸収できる財務体質を持つ。
7. 公式ロードマップと未確認情報
7.1 公式ロードマップ (2025-2029)
- 大阪・関西万博 (2025年4月-10月):
- 「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」の出展。実物大ガンダム立像を設置し、未来社会におけるモビルスーツの可能性を提示。ここでの展示データや来場者反応は、次世代の「動くガンダム」開発へのフィードバックとなる24。
- CW360戦略の実行 (2025-2028):
- 3年間で1,500億円の戦略投資を実行。重点は「IPの価値最大化」と「ファンコミュニティ基盤の強化」。データ・ユニバースの本格稼働によるOne ID化の推進。
- ガンダム50周年 (2029年):
- 45周年(2024年)から続く「ロード・トゥ・2029」。最大の目玉は、Legendary Picturesと共同制作中のハリウッド実写版ガンダムである。この公開に向け、グローバルでの認知拡大と、映画のVFX技術をゲームやプラモデルに還元するサイクルが計画されている25。
7.2 未確認情報・市場の観測
- 任天堂次世代機 (Switch 2) 向けプロジェクト:
- 一部の報道(開発中止関連のニュース)の中で、「任天堂からの受託プロジェクト」が含まれていたとの情報があるが45、公式発表はない。しかし、BNHは任天堂との強力なパートナーシップ(『スマブラ』『マリオカート』開発受託など)を持っており、次世代機向けに『テイルズ オブ』シリーズ新作や、バンダイナムコスタジオ主導の大型タイトルが水面下で動いている可能性は極めて高い。
- AI活用の深化 (Generative AI):
- 現在はQA(品質保証)や倫理チェック(ワードチェック)17が中心だが、021 Fundの投資先(DeepMotion等)の技術を取り込み、NPCの会話生成や、ゲーム内アセット(モーション、テクスチャ)の自動生成への適用拡大が予測される。特に「ガンプラ・スキャン」のようなユーザー生成コンテンツ(UGC)とAIの組み合わせは、特許出願状況からも次のブレイクスルー候補である。
引用文献
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- Bandai Namco leads the way in game and entertainment patents in Japan, taking the crown from Sony Interactive Entertainment | PC Gamer, 1月 17, 2026にアクセス、 https://www.pcgamer.com/gaming-industry/bandai-namco-leads-the-way-in-game-and-entertainment-patents-in-japan-taking-the-crown-from-sony-interactive-entertainment/
- Bandai overtakes Sony as top patent holder in Japan's game and entertainment industry in 2025 - AUTOMATON WEST, 1月 17, 2026にアクセス、 https://automaton-media.com/en/news/bandai-overtakes-sony-as-top-patent-holder-in-japans-game-and-entertainment-industry-in-2025/
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- Blue Protocol to End Service in Japan in January 2025, Western Release Cancelled - News, 1月 17, 2026にアクセス、 https://www.vgchartz.com/article/462234/blue-protocol-to-end-service-in-japan-in-january-2025-western-release-cancelled/
- Bandai Namco and Google Cloud Partner to Launch 'DRAGON BALL GEKISHIN SQUADRA,' a New Cross-Platform Multiplayer Action Game - Sep 10, 2025, 1月 17, 2026にアクセス、 https://www.googlecloudpresscorner.com/2025-09-10-Bandai-Namco-and-Google-Cloud-Partner-to-Launch-DRAGON-BALL-GEKISHIN-SQUADRA,-a-New-Cross-Platform-Multiplayer-Action-Game,1
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