3行まとめ
特許件数よりも現場での「社会実装」を重視する実践的知財戦略
大林組の知財戦略は特許の保有数を外部にアピールするのではなく、長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」と連動し、現場への技術適用や事業実装を通じた実質的な競争優位の確保を最重視しています。
総額1000億円規模の目標に裏付けられた強固な技術・DX投資
中期経営計画において技術関連に累計505億円、DX関連に累計512億円の投資枠を設定し、最初の2年間で合計651億円を着実に執行するなど、確固たる財務基盤に基づく資本投下が行われています。
グリーン(GX)とデジタル(DX)による次世代インフラの具現化
二酸化炭素排出量を約66.2%削減する環境配慮型素材の実利用や、力触覚伝達技術を活用した危険作業の無人化・遠隔操作など、2050年のサステナビリティ実現に向けた社会実装が強力に推進されています。
大林組の技術および知的財産戦略は、中長期的な企業価値向上を目指す経営の根幹として位置づけられており、同社が掲げる長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」と不可分の関係にある。統合報告書「Obayashi Corporate Report 2025」において、経営基盤戦略の柱として「技術とビジネスのイノベーション」および「建設事業の基盤の強化と深化」が明記されている。同社は長年にわたり蓄積してきた「技術力」を競争優位性の源泉(Our Strength)として定義しており、これを通じて「誠実なものづくり」を実践することが事業戦略の土台となっている。具体的な技術開発の目的は、単なる知的な権利保全にとどまらず、実際の営業力および生産力に直接的に資することに置かれている。建設事業における開発から設計、施工、そしてリニューアルに至る全バリューチェーンにおいて、提供するサービスの付加価値を最大化することが求められている。また、技術力の強化は品質の確保と顧客からの信頼維持に直結するものとして、環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からも重要なマテリアリティとして認識されている。「Obayashi Sustainability Vision 2050」は、2011年に策定された「Obayashi Green Vision 2050」を2019年6月に改定したものであり、従来の環境・低炭素志向から、「地球・社会・人」の全体的なサステナビリティ実現へと対象領域を拡張している。バックキャスティング手法を採用することにより、2050年における「あるべき姿」を起点として、2030年および2040年を達成に向けた重要なマイルストーンに設定しており、この長期的な枠組みが全ての技術開発テーマの選定と推進を規定する最上位のガバナンス機構として機能している。1
これら一連の技術革新を支える研究開発投資および財務的基盤は、明確な計画のもとで継続的に拡充されている。「中期経営計画2022」(2022年度から2024年度)において、大林組は大規模な技術投資およびDX投資の枠組みを設定している。統合報告書2025における開示内容によれば、同計画期間内の技術関連投資額として累計505億円、DX関連投資額として累計512億円の目標が設定されている。2022年度から2023年度までの2年間の累積実績として、技術関連投資額は332億円、DX関連投資額は319億円がすでに執行されており、計画に準拠した着実な資本投下が確認できる。直近の財務実績については、2025年11月6日に提出された2026年3月期第2四半期(中間)決算短信および関連報告書において、同社グループにおける2025年4月1日から2025年9月30日までの期間における研究開発費の総額が75億円(7,500百万円)であることが報告されている。最新有報、最新決算短信、および統合報告書を確認した結果、研究開発費として計上された明確な金額が開示されており、技術力を競争優位性の源泉と位置づける同社の経営方針が、具体的な財務支出額というファクトによって裏付けられている。また、2025年3月期の決算説明資料における連結売上高は2兆6,201億100万円、営業利益は1,434億4,200万円に達しており、国内建築事業および国内土木事業を中心とする強固な収益基盤が、持続可能かつ大規模な技術投資を可能にする直接的な原資として機能している構造が示されている。2
グリーンテクノロジー(GX)の展開において、大林組は地球環境の持続可能性と事業活動の両立を図るため、脱炭素化および資源循環を推進する技術の実装を加速させている。公式ニュースリリースの記録によれば、2024年から2026年にかけて環境負荷低減に直結する材料開発とエネルギー利用技術の導入が顕著に進展している。特筆すべき成果として、2026年2月に実施された国内初となる水素燃料電池搭載油圧ショベルの建設現場での実証実験が挙げられる。これにより、重機稼働時の二酸化炭素排出削減に向けた物理的なアプローチが具現化されている。材料工学の領域においては、カーボンネガティブを実現する「クリーンクリートN」を2024年9月にプレキャストコンクリートカーテンウォールへ初適用したほか、2025年12月にはシールド工事において「クリーンクリートセグメント」を使用し、二酸化炭素排出量を約66.2%削減することに成功している。さらに、地盤改良材「インフィルハードGeo」の開発によって製造時の二酸化炭素排出量を60%削減するなど、施工プロセスの随所で脱炭素化技術が稼働している。エネルギー調達の側面では、2024年12月に国内消費電力における再生可能エネルギー導入率100%を達成し、2025年12月にはFIP制度を活用したバーチャルPPAによる環境価値の取得を開始するなど、自社インフラの脱炭素化を完了させている。加えて、洋上風力発電施設の建設に向けたTLP型浮体式モデルの実証など、再生可能エネルギー創出事業における技術的プレゼンスの確立に向けた取り組みが進行している。6
デジタルコンストラクション(DX)および次世代自動化技術の導入は、建設業界に内在する労働力不足の解消と施工生産性の抜本的向上を企図して強力に推進されている。大林組は情報通信技術やロボティクスを駆使し、危険作業の無人化や遠隔施工の実現に向けた実証と実装を重ねている。2026年1月には、遠隔操作における力触覚伝達技術である「リアルハプティクス」を活用し、山岳トンネル工事の切羽直下における装薬作業の無人化を達成している。また、2025年12月には能登半島地震の災害復旧現場において、国土交通省のDXルームと現場を接続し、建設機械の遠隔操作による施工実証を完了している。全社的な情報基盤の整備としては、2024年2月に日本電気株式会社(NEC)と共同で「建設PLM(Product Lifecycle Management)システム」を構築し、設計から施工、アフターサービスに至るライフサイクル全般のデータを一元管理する体制を稼働させている。現場管理においては、完全自律飛行ドローンを用いた巡回監視の実証(2024年3月完了)や、仙台市役所および東北大学キャンパスにおける人工知能(AI)を活用した実証実験(2025年12月開始)が実施されている。さらに、山岳トンネル向けデジタル統合技術「OTISM/TUNNELING」が2025年11月に新笹子トンネル工事へ適用されるなど、部分的な自動化からプラットフォーム基盤を通じたシステム全体の最適化へと技術革新が進展している。6
大林組における知的財産の管理と活用は、単一の権利確保の枠組みとしてではなく、事業競争力そのものである「技術力」の強化という文脈のなかで包括的に扱われている。技術力は同社の最重要のマテリアリティとして設定されているが、知的財産の運用における詳細な戦術的アプローチに関する公開情報は限定的である。一般に先進的な製造業やテクノロジー企業で開示されることの多い、自社技術を独占的に保護するクローズ領域と、外部との協業を促進するオープン領域を切り分ける「オープン・クローズ戦略」に関する具体的な取り組み方針については、統合報告書等において明示的な開示がなされていない。また、同社が保有する特許権の実数、特許出願動向、あるいは外部評価機関による知財関連ランキングの成績といった定量的な指標に関しても、公式のIR資料およびサステナビリティ関連の報告書において確認することができない状況である。最新有報(注記/販管費内訳/研究開発費)、最新決算短信(注記/補足)、および統合報告書を確認した結果、研究開発費の開示は存在するものの、知財戦略の構造的詳細や特許件数に関する記述は見当たらない。これらの事実から、同社の知財戦略は、特許ポートフォリオの規模や権利の独占状態を外部へ定量的にアピールすることよりも、実際の現場への技術適用や事業実装を通じた実質的な競争優位の確保に重点が置かれている構造が示されている。1
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発行体 |
文書名 |
発行日 |
種別 |
URL |
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大林組 |
提出書類一覧ページ(有価証券報告書等) |
2025年 |
公式IRページ |
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大林組 |
公式ニュースリリース一覧 |
2026年02月 |
公式ニュース |
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大林組 |
Obayashi Corporate Report 2025 |
2025年08月 |
統合報告書 |
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大林組 |
Obayashi Corporate Report 2025 (p.46等) |
2025年08月 |
統合報告書 |
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大林組 |
2026年3月期 第2四半期決算短信 |
2025年11月06日 |
決算短信 |
https://data.swcms.net/file/obayashi-ir/dam/jcr:e33ff96f-0bbc-4876-abb0-f20a32a17a05/S100WYRC.pdf |
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大林組 |
サステナビリティビジョン2050 |
2019年06月 |
公式ポリシーページ |
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大林組 |
2025年3月期 決算短信 |
2025年 |
決算短信 |
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案件名 |
Announcement |
Effective(Event) |
Completion |
状態ラベル |
根拠 |
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NECとの「建設PLMシステム」構築 |
2024/02/28 |
2024/02/28 |
2024/02 |
稼働/提供開始 |
6 |
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完全自律飛行ドローンによる進捗管理実証 |
2024/03/22 |
Not Disclosed |
2024/03 |
完了 |
6 |
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TLP型浮体式洋上風力発電施設の着床 |
2024/08/27 |
Not Disclosed |
2024/08 |
完了 |
6 |
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「クリーンクリートN」のPCaカーテンウォールへの初適用 |
2024/09/02 |
Not Disclosed |
2024/09 |
完了 |
6 |
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国内消費電力の再生可能エネルギー導入率100%達成 |
2024/12/04 |
Not Disclosed |
2024/12 |
完了 |
6 |
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統合デジタル技術「OTISM/TUNNELING」新笹子トンネル適用 |
2025/11/26 |
2025/11 |
2025/11 |
稼働/提供開始 |
6 |
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能登半島復旧現場での国交省DXルームからの建機遠隔操作実証 |
2025/12/12 |
2025/12 |
2025/12 |
完了 |
6 |
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「クリーンクリートセグメント」のシールド工事への使用 |
2025/12/26 |
Not Disclosed |
2025/12 |
完了 |
6 |
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リアルハプティクス技術を活用した装薬作業の無人化 |
2026/01/20 |
2026/01 |
2026/01 |
完了 |
6 |
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水素燃料電池搭載油圧ショベルの建設現場での実証実験 |
2026/02/16 |
2026/02 |
2026/02 |
完了 |
6 |
大林組の技術・知財戦略は、単独の研究開発部門に閉じた独立の活動としてではなく、全社的な財務基盤および事業戦略と密接に連動した統合的な投資活動として展開されている。同社が公表している「中期経営計画2022」(対象期間:2022年度から2024年度)においては、技術開発を通じた競争力強化に向けた明確な投資目標が設定されている。統合報告書2025の記載によれば、同計画期間中における技術関連投資額は累計505億円、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連投資額は累計512億円という大規模な資本投下枠組みが算定されている。これらの投資計画に対して、2022年度から2023年度までの最初の2年間における執行実績は、技術関連投資額が332億円、DX関連投資額が319億円であることが報告されている。この資金投下の実績は、同社が掲げる「技術とビジネスのイノベーション」という経営基盤戦略が、単なるスローガンにとどまらず、確固たる財務的な裏付けをもって着実に遂行されている事実を示している。技術力は同社の「誠実なものづくり」を支える中核的な強みとして位置づけられ、開発から設計、施工、さらには竣工後のリニューアルに至る建設バリューチェーン全体において、付加価値を継続的に創出することが意図されている。2
研究開発活動の最新の財務的状況については、法定開示書類においてその実態が明示されている。最新有報(注記/販管費内訳/研究開発費)、最新決算短信(注記/補足)、および統合報告書を確認した結果、2025年11月6日に提出された2026年3月期第2四半期(中間)決算短信(対象期間:2025年4月1日から2025年9月30日)において、大林グループ全体で計上された研究開発費の総額が75億円(7,500百万円)であることが確認された。このように、同社は四半期ベースにおいても継続的かつ安定的な研究開発投資を維持しており、技術力の維持・強化が短期的な業績変動に左右されない構造的な取り組みとして定着している。また、これらの投資活動は、単なる技術的な優位性の獲得にとどまらず、ESG(環境・社会・ガバナンス)におけるマテリアリティである「技術力強化による品質の確保と信頼の維持」を達成するための直接的な手段として位置づけられている。2
これらの積極的な技術投資を支える強固な経営体力は、同社の事業別売上高および営業利益の構成に顕著に表れている。2025年3月期の決算短信における連結財務情報によれば、大林組の事業群は多岐にわたり、それぞれが巨額の収益を生み出している。以下の表は、当該期間における事業別の売上高および営業利益の構成を示したものである。
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区分(事業別) |
売上高(百万円) |
営業利益(百万円) |
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国内建築 |
1,337,171 |
62,784 |
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海外建築 |
498,777 |
13,443 |
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国内土木 |
402,252 |
40,576 |
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海外土木 |
258,678 |
8,277 |
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建設事業計 |
2,496,880 |
125,081 |
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不動産事業 |
72,932 |
16,138 |
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その他 |
50,289 |
2,222 |
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合計 |
2,620,101 |
143,442 |
このデータが示す通り、国内建築事業単体で1兆3,371億円規模の売上高を誇り、国内土木事業と合わせた国内建設基盤が圧倒的な収益の源泉となっていることが確認できる。建設事業全体で2兆4,968億円の売上高と1,250億円を超える営業利益を確保しており、この安定した巨大なキャッシュフローが、総額1,000億円規模に迫る技術・DX関連の累積投資目標を現実のものとする財務的バックボーンとして機能している。海外建築や海外土木、さらには不動産事業といった多様なポートフォリオが構築されていることで、特定の市場環境の変動に対するレジリエンスが確保されており、結果として長期的な視野に立った研究開発計画の完遂が保証される構造となっている。5
また、同社はステークホルダーに対する透明性の高い情報開示を継続的に実施しており、IRライブラリにおける有価証券報告書や四半期報告書の公開体制も整備されている。以下の表は、公式IRページにおいて開示されている直近数年間の主要な法定開示書類の状況を示したものである。
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対象期間(会計年度) |
第1四半期 |
第2四半期 |
第3四半期 |
有価証券報告書等 |
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2025年3月期(第121期) |
未開示 |
未開示 |
未開示 |
半期報告書(164KB), 有価証券報告書(3,723KB) |
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2024年3月期(第120期) |
四半期報告書(92KB) |
四半期報告書(162KB) |
四半期報告書(101KB) |
有価証券報告書(2,687KB) |
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2023年3月期(第119期) |
四半期報告書(98KB) |
四半期報告書(123KB) |
四半期報告書(96KB) |
有価証券報告書(1,949KB) |
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2022年3月期(第118期) |
四半期報告書(309KB) |
四半期報告書(357KB) |
四半期報告書(315KB) |
有価証券報告書(8,997KB) |
このような継続的かつ詳細な財務・非財務情報の開示体制は、同社の技術経営に対する市場からの信頼を担保する基盤となっている。技術開発がどのような財務的成果と連動しているかを追跡するための基礎情報が、これら法定開示書類を通じて提供されていることが確認できる。7
地球規模の課題である気候変動問題に対処するため、大林組は建設事業における脱炭素化と環境負荷低減を実現する多角的なグリーンテクノロジー(GX)の実装を極めて高い優先度で加速させている。施工現場における直接的な温室効果ガス削減の取り組みとして、特に注目されるのが代替燃料の活用である。2026年2月に実施された国内初となる水素燃料電池搭載油圧ショベルの稼働実証実験は、その象徴的な事例として記録されている。この実証実験は、建設機械の主力動力源を従来の化石燃料(軽油)から二酸化炭素を一切排出しないクリーンエネルギーへと転換するための物理的な検証であり、現場レベルでのゼロエミッション化に向けた極めて重要な進展である。同時に、企業活動全体におけるエネルギー消費の抜本的な見直しも完了しており、2024年12月には自社の国内消費電力において再生可能エネルギー導入率100%を達成したことが報告されている。これに加え、2025年12月からはFIP(フィードインプレミアム)制度を活用したバーチャルPPA(電力購入契約)による環境価値の取得が開始されており、エネルギー調達手法の高度化を通じた脱炭素経営が全社規模で推進されている。6
建築材料および施工技術の領域においても、二酸化炭素排出量を大幅に削減する革新的なマテリアル開発とその適用が次々と具現化している。以下の表は、近年の主要な脱炭素・環境負荷低減資材の開発および適用実績を整理したものである。
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技術・資材名称 |
特徴・効果 |
適用時期・マイルストーン |
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クリーンクリートN |
二酸化炭素排出量を相殺しカーボンネガティブを実現 |
2024年09月:プレキャストコンクリートカーテンウォールへの初適用完了 |
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インフィルハードGeo |
製造時の二酸化炭素排出量を約60%削減する低炭素型地盤改良材 |
2024年03月:開発完了および技術発表 |
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クリーンクリートセグメント |
シールド工事において二酸化炭素排出量を約66.2%削減 |
2025年12月:実工事(シールド工事)への使用完了 |
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CLTユニット工法 |
木造建築の可能性拡張によるCO2排出削減と資源の有効活用 |
継続推進中(カーボンニュートラル戦略の一環として公式マガジンで紹介) |
特筆すべきは、これらの技術が単なる研究室レベルの成果にとどまらず、実際のインフラ整備や巨大建築物の部材として社会実装されている点である。地下空間のインフラ構築を担うシールド工事においては、2025年12月に「クリーンクリートセグメント」が使用され、従来比で約66.2%の二酸化炭素排出量削減が実現している。地盤改良の分野でも、製造時の二酸化炭素排出量を60%削減した低炭素型地盤改良材「インフィルハードGeo」が2024年3月に開発されるなど、土木・建築を問わず多様な工種において脱炭素素材の標準化が徹底されている。さらに、建設現場から発生するアルミスクラップを回収し、新品のアルミサッシとして再利用する水平リサイクルのスキームが2025年12月に確立されたほか、同年11月には建設作業服の大規模なリサイクルが実施されるなど、サーキュラーエコノミー(循環型経済)に直接的に寄与する包括的なグリーンテクノロジーの展開が確認できる。6
再生可能エネルギー創出のインフラ整備に関しても、同社の技術力が大々的に投入されている。2024年8月、大林組は国内初となるTLP(Tension Leg Platform:緊張係留式)型浮体式洋上風力発電施設の着床を実海域において完了させた。このプロジェクトに先立つ2023年11月には、当該施設の設置手法を検証するために3Dプリンタを用いて製造された模型が活用されており、先端的な造形技術が巨大インフラプロジェクトの事前検証プロセスに高度に統合されていることが示されている。その後、2024年9月にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公募した浮体式洋上風力に関する次世代技術開発プロジェクトに採択されるなど、洋上風力分野における技術的プレゼンスが飛躍的に向上している。これらの成果は、同社が「Obayashi Sustainability Vision 2050」において掲げている「グリーンエネルギー事業」の展開という事業領域拡張方針を具体的なプロジェクトとして実現するものである。1
労働力不足の深刻化や技能継承の困難さといった建設業界固有の構造的な社会課題に対応すべく、大林組はデジタルコンストラクション技術の開発と現場への適用を極めて高い優先順位で実行している。最も顕著な技術的飛躍を見せているのが、高リスク作業の無人化および遠隔操作技術の領域である。2026年1月、同社は山岳トンネル工事において最も危険が伴う切羽直下での作業に関して、「リアルハプティクス」と呼ばれる力触覚伝達技術を活用した装薬作業の無人化に成功した。この技術は、機械の操作アームにかかる反力や物理的な感触を遠隔地の操作者に正確に伝達するシステムであり、火薬を扱うような極めて精密な作業を安全な場所から遂行することを可能にしている。遠隔操作の枠組みは平時の施工だけでなく、緊急時の災害対応にも迅速に応用されている。2025年12月には能登半島地震の災害復旧現場において、国土交通省内に設置されたDXルームから現地の建設機械を遠隔操作する実証実験が行われ、物理的な距離の制約を完全に超越した施工能力の提供が実証されている。6
施工管理から設計、運用に至るデータの一元化とプラットフォーム化も、全社的なDX推進の中核として進められている。以下の表は、大林組が近年構築・適用した主要なデジタルプラットフォームおよび情報管理システムを整理したものである。
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システム・技術名称 |
目的および機能 |
実装・稼働時期 |
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建設PLMシステム |
製品ライフサイクル管理の概念を導入し、設計から施工、アフターサービスまでの情報を一元管理 |
2024年02月(NECとの協業により構築完了) |
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OTISM/TUNNELING |
山岳トンネル工事向けに多様なデジタル技術を統合した総合管理プラットフォーム |
2025年11月(新笹子トンネル工事現場への適用完了) |
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火薬類デジタル台帳 |
トンネルやダムの工事現場において、厳格な管理が求められる火薬類の使用履歴をデジタル化 |
2025年12月(開発完了および展開) |
2024年2月に日本電気株式会社(NEC)と協業して構築された「建設PLMシステム」は、製造業で広く普及している製品ライフサイクル管理(PLM)の概念を建設業に適用した画期的な取り組みである。これにより、設計段階から施工、さらには竣工後のメンテナンスに至る全工程の情報を統合データベースで一元的に管理・運用する体制が稼働を開始している。特定工種に特化したデジタル基盤としては、山岳トンネル工事向けに開発された「OTISM/TUNNELING」が挙げられる。本システムは個別最適化されがちな多様なデジタル技術を一つのプラットフォームに統合したものであり、2025年11月に新笹子トンネル工事の現場へ本格的に適用され、実稼働を開始している。さらに、火薬類の厳格な管理が求められる特殊工事現場向けに、2025年12月に火薬類デジタル台帳が開発されており、コンプライアンスの遵守と業務効率化をデジタル技術によって両立させている。6
現場における自律的かつインテリジェントなデータ収集の手段として、ロボティクスおよび人工知能(AI)の活用も急速に進展している。2024年3月には、完全自律飛行機能を備えたドローンを用いた建設現場の巡回による進捗管理の実証が完了し、人間の手を一切介さない継続的な現場モニタリング手法が確立されている。加えて、2025年12月からは仙台市役所や東北大学キャンパスといった実際の稼働中の大規模建設現場において、AI技術を活用した実証実験が開始された。これらのデジタルコンストラクション施策は、単なる部分的な作業の効率化にとどまらず、IoTやAIを駆使したスマートビルディングの構築へと接続されており、最終的にはテナント企業の事業継続性(BCP)支援や持続可能な都市空間の創造を目指す統合的な技術戦略として展開されていることが確認できる。2
大林組における知的財産の管理と活用は、単一の権利確保の枠組みとしてではなく、事業競争力そのものである「技術力」の強化という文脈のなかで包括的に扱われている。統合報告書2025の記載によると、同社は長年蓄積された技術力を自社の核となる強み(Our Strength)として明確に位置づけている。この技術力は、開発、設計、施工から引き渡し後のメンテナンスに至るまで、顧客へ提供するサービスの付加価値を向上させるための原動力と定義されている。経営計画のレベルにおいても、技術を通じた付加価値の創出はESGマテリアリティにおける重要課題として設定されており、企業としての品質確保と社会的な信頼獲得のための不可欠な基盤として機能している。2
一方で、知的財産の運用における詳細な戦術的アプローチに関する公開情報は極めて限定的である。一般に先進的な製造業やテクノロジーを牽引する企業で開示されることの多い、自社技術を独占的に保護して他社の追随を許さないクローズ領域と、外部との協業や標準化を促進するオープン領域を明確に切り分ける「オープン・クローズ戦略」に関する具体的な取り組み方針については、統合報告書等において明示的な開示がなされていない。また、同社が保有する特許権の実数、国内外での特許出願動向の推移、あるいは外部評価機関による知財関連ランキングの成績といった定量的な指標に関しても、公式のIR資料およびサステナビリティ関連の報告書において一切確認することができない状況である。これらの非開示事項について、最新有報(注記/販管費内訳/研究開発費)、最新決算短信(注記/補足)、統合報告書を確認したが、前述の通り研究開発費の投資金額そのものは開示されているものの、オープン・クローズ戦略の全体像や特許件数といった知財マネジメントの詳細に関する記載は見つからず、明確なデータを得ることはできなかった。これらの事実から、同社の知財戦略は、特許ポートフォリオの規模そのものを外部へ定量的にアピールすることよりも、実際の現場への技術適用や事業実装を通じた実質的な競争優位の確保に重点が置かれている構造が示されている。1
同社が推進する技術的マイルストーンとなる主要案件の進捗は、公式発表を通じた明確なフェーズの移行として継続的に追跡および記録されている。まず、インフラ構築の根幹をなすグリーンテクノロジーの領域では、2024年8月に国内初となるTLP型浮体式洋上風力発電施設の着床プロセスが完了している。これは再生可能エネルギー分野における大規模施設の実証として極めて重要な完了案件である。また、建築部材の脱炭素化を象徴する案件として、2024年9月にカーボンネガティブ材「クリーンクリートN」を用いたプレキャストコンクリートカーテンウォールの初適用が完了した。さらに、2025年12月にはシールド工事において「クリーンクリートセグメント」の実現場での使用が完了しており、要素技術の開発から実証試験、そして実案件への実装というプロセスが、設定されたスケジュールに従って着実に進行していることが確認できる。6
デジタル化および自動化関連のプロジェクトにおいても、実証フェーズから実際の稼働および提供開始フェーズへの移行が複数確認されている。2024年2月にはNECとの協業による全社的な「建設PLMシステム」の構築が完了し、建設ライフサイクル全体のデータを統合管理する基盤としての本格的な稼働が開始された。現場作業の自動化案件としては、2025年11月に山岳トンネル向けのデジタル統合技術「OTISM/TUNNELING」が新笹子トンネル工事へ適用され、システムの提供および稼働が開始されている。遠隔操作技術に関しては、2025年12月に能登半島における災害復旧現場での実証が完了したことに続き、2026年1月にはリアルハプティクス技術を用いた切羽での装薬作業無人化の実証が完了している。直近の2026年2月には、水素燃料電池を搭載した油圧ショベルの建設現場での稼働実証実験が完了しており、重機領域における次世代動力技術の検証が完了フェーズに達している。これらの案件の連続的な完了と稼働は、大林組の技術開発が単なる研究室内での概念実証にとどまらず、実際の商用環境における確実な社会実装の段階へと到達している事実を示している。6
大林組における技術開発と事業創出の推進体制は、「Obayashi Sustainability Vision 2050」という長期的なサステナビリティの枠組みによって厳格に統制されている。同社の経営理念の根底には「三箴の精神」が息づいており、これを現代の事業環境に適合させる形で発展させたものが本ビジョンである。2011年に策定された「Obayashi Green Vision 2050」は、当初「低炭素・循環・自然共生」という環境側面に焦点を当てたものであったが、2019年6月の改定を経て、現在のビジョンへと進化を遂げた。この改定により、目標設定のスコープは単なる環境保全(Green)から、地球・社会・人の全体的な持続可能性(Sustainability)の実現へと大幅に拡張されている。このビジョンのもと、全社的なガバナンス体制は、気候変動対策、資源保全、そして従業員や社会全体のウェルビーイング向上を統合して管理する方向へ再構築されている。1
技術開発のテーマ設定や資源配分に関するガバナンスは、事業展開の方向性として定められた戦略的枠組みに準拠して実行されている。具体的には、インフラや都市のライフサイクルマネジメントの高度化、ロボット化による施工生産性の極大化、そして物理空間とデジタルサービスを融合させた新しい価値の提供といった方針が設定されている。これにより、単一の事業部門が独立して無秩序に技術開発を行うのではなく、全社的なサステナビリティ目標(例えば脱炭素化や省資源・レジリエンスの強化)を達成するために、部門横断的な技術シーズの創出と統合が求められる体制となっている。このビジョンに基づくガバナンス構造は、短期的な利益追求のみならず、2050年のマクロな社会環境に適合した次世代事業(グリーンエネルギー事業や新領域ビジネス)を創出するための戦略的指針として機能しており、経営トップから現場のエンジニアに至るまでの一貫した行動規範を提供している。1
建設業界は、大手ゼネコンをはじめとする多数のプレイヤーが激しい技術開発競争を展開している産業である。しかしながら、大林組の相対的な技術ポジショニングについて、同社が公表している有価証券報告書や統合報告書等の一次情報において、競合他社との明示的な比較データや相対的な優位性を示す定量評価に関する記載は一切確認されていない。各技術案件、例えば「クリーンクリート」による具体的な二酸化炭素削減率や、国内初となるTLP型浮体式洋上風力発電施設の着床実績、あるいは「リアルハプティクス」を用いた無人化施工の成功といった単独の達成ファクトは極めて詳細に公表されている。しかし、それが市場全体における技術シェアの何割を占めるのか、あるいは特許競争力のランキングにおいて他社と比較してどの位置にあるのかといった自社評価は提供されていないため、推測を完全に排除したファクトベースの相対評価を行うことは不可能である。したがって、本報告書における同社の技術的競争力の分析は、あくまで自社が設定した「中期経営計画」や「サステナビリティビジョン」における目標の達成度合い、および実行された個別プロジェクトの稼働実績や投資額の推移という絶対評価の観点からのみ検証されるべき構造となっている。1
大林組の長期的な技術ロードマップは、「Obayashi Sustainability Vision 2050」に規定された「バックキャスティング」の手法によって緻密に設計されている。この手法では、2050年における「あるべき姿(地球・社会・人と自社のサステナビリティが完全に両立した状態)」を最終ゴールとして設定し、そこから逆算して2030年および2040年を中間的なマイルストーンとして位置づけている。このロードマップにおいて、2040年から2050年に向けた期間は、技術とビジネスの完全な変革を達成するためのアクションプランと数値目標(KPI)が設定されており、単なる建設業の枠を超えた総合的なソリューションプロバイダーへの転換が企図されている。3
技術ロードマップにおける具体的な展開方針として、第一に「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」のさらなる深化が挙げられる。脱炭素化された資源循環型の都市インフラや、大規模自然災害に耐えうるレジリエントな空間の提供に向け、自然と共生する技術の開発が継続される。第二に、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の高度化である。施工現場のロボット化や無人化技術をさらに推し進め、労働集約的なプロセスを排除して生産性を飛躍的に高めるだけでなく、デジタルプラットフォームを活用してインフラの全ライフサイクルを最適化する事業モデルへと完全に移行する。第三に、これらの技術を統合し、人々の働き方や生活様式に直結する「ウェルビーイング」の実現に寄与するサービスの創出が設定されている。大林組は、これらの技術イノベーションを原動力として、既存の国内および海外建設事業の強固な基盤を維持・強化しつつ、洋上風力や水素利用を中心とするグリーンエネルギー事業、さらには未踏の新領域ビジネスにおけるビジネス機会の獲得を目指し、社会課題の解決に対する多様なアプローチを継続していく展望が明確に示されている。1
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