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​​「答えを出すAI」から「考えさせるAI」へ 〜物理学習に特化したAI個別指導システムの実験研究〜

​​「答えを出すAI」から「考えさせるAI」へ 〜物理学習に特化したAI個別指導システムの実験研究〜

AIで勉強できる時代、本当に「理解」は深まっている?

​​AIが普及し、特に中学生以上の子どもたちは、うまく活用しながら学習でわからないところを一人で解決できる場面も増えてきたのではないでしょうか。

それでも、まだ汎用のAIツール活用では教科によっては向き・不向きがあるように感じます。例えば、数学や物理など、解き方や正解を教えてもらうだけでは根本的な理解には繋がらない教科ですよね。
そういったことから近年では、各国で教科ごとに特化したAI学習ツールの開発が進められています。

 今回は、物理の学習に特化した、AI個別学習システムPhysics-STAR」を開発し、その効果を検証した中国の論文をご紹介します。

 論文タイトルは「Beyond Answers: Large Language Model-Powered Tutoring System in Physics Education for Deep Learning and Precise Understanding」(日本語訳:「答えを超えて:深い理解と正確な学習を実現する大規模言語モデル活用型・物理個別指導システム」)です。

 

なぜ汎用AIでは物理の理解が難しいのか

そもそも物理の学習において、今の既存のAI活用について何が課題なのでしょう。
論文には下記のことが書いてあります。

  • 汎用AIの限界:
    ChatGPTのような汎用的なLLMは、物理の問題に対して「もっともらしいが誤った回答(ハルシネーション)」を出したり、図面からの情報抽出を誤ったりすることがある。
  • 「答え」を教えるだけの弊害:
    多くのシステムは問題解決の「結果(答え)」に焦点を当てており、学生が深い理解を得るために必要な「誤りの分析」や「批判的思考」を育む設計になっていない。


物理は、目に見えない現象を頭の中でイメージして複雑な数式をこなす力が必要ですよね。
でも、汎用のAIでは、まだハルシネーションが起こったり、正解の提示に終始して、なぜ間違ったのかというプロセスを見てくれる仕様にはなっていないということですね。

 

「どこで間違えたか」を一緒に考えるPhysics-STAR

こうした課題を解決するために研究チームが開発したのがPhysics-STARです。

STAR、すなわちSituation(状況)–Task(課題)–Action(行動)–Result(結果)アプローチに基づいた構造化プロンプトを用いるフレームワークで、以下3つの段階でそれぞれ状況から結果までの流れで学生と対話をするものです。

ステップ1 知識の説明:基本概念・公式・解法を説明
ステップ2 誤答の分析:なぜ間違えたのかを生徒の思考過程に沿って分析
ステップ3 復習の提案:個別に復習ポイントと類題を提示。正答率が低ければ再度指導を繰り返す


例えばステップ2の「誤答の分析
」では、まず、学生が実際に行った「誤りを含む解答プロセス」を具体的に提示すると(状況)。LLMはなぜその誤りが生じたのか、原因を分析(課題)。そして間違っている箇所において、本来使うべき公式などを学生に思い出させるような働きかけをし(行動)、最後にその誤りを修正した内容を指示する(結果)という流れです。

 
つまり、Physics-STARは、答えを教えるのではなく、生徒がどこでつまずいたのか、そこからどう復習して応用につなげていくか、学習のサイクル全部をサポートするように作られているんですね。まさに学生主体の深い学習を実現するために開発されたものということです。

 

高校生を対象とした実験による効果検証

実験は、成績がほぼ同程度の中国・深圳の高校2年生12名に対して4名ずつ以下の3つのグループにわけて行われました。高校物理の重力・宇宙物理分野の復習授業を対象に、事前テスト・事後テストを実施しました。

  1. 教師による従来型の授業グループ
  2. 汎用LLM(GPT-4o)を自由に使用するグループ
  3. Physics-STARに基づいたGPT-4oを使用するグループ

 結果は以下の通りです。(各問題10点満点の点数 / 所用時間)

① 概念問題(基礎的な法則を問う問題) 

  • 教師授業:10点 / 約49.5秒
  • 汎用LLM:10点 / 約50.3秒
  • Physics-STAR:10点 / 約53.0秒
    結論3グループに有意な差なし。基礎知識の習得については、どの学習方法でも同様に効果的であることが示された。

② 計算問題(特定のシナリオに公式を当てはめて計算する問題

  •  教師授業:約7.5点 / 約113.5秒
  •  汎用LLM:約7.5点 / 約111.0秒
  •  Physics-STAR:約7.5点 / 約108.3秒
    結論得点差はほぼなし。計算手順を再現するタスクでは、AIの設計による優位性は現れにくい傾向にある。

③ 情報読解型問題(図面から物理情報を読み取り、深い思考を必要とする難問

  • 教師授業:約2.5点 / 約271.5秒
  • 汎用LLM:約2.5点 / 約262.0秒
  • Physics-STAR5.0点 / 約257.0秒
    結論Physics-STARが圧倒的。得点が他のグループの2倍(100%増)になり、解答時間も最も短縮された。

 

つまり、実験の結果、Physics-STARは、特に難易度の高い問題で顕著な成果を上げたことがわかります。計算問題までは差がつかなかったことを考えると、間違いの原因など、深く考える力が養われていたという結果と言えそうですね。

最後に著者の考察として、「誤答分析と振り返りを伴わないAI指導は浅い理解にとどまる。物理教育において重要なのは、AI中心ではなく生徒中心の設計である」と述べています。

 

AI中心ではなく、子ども中心の学びへ

以上が論文の内容です。
この実験はサンプル数が少ないため、結果の信憑性には限界があるとは思います。
それを考慮しても、答えを教えるのではなく、生徒がどこを間違えたのかをピンポイントで分析して、その生徒のためだけの復習プランを提案してくれるというシステムは理想的だと感じました。

間違いをポジティブな学びの機会に変えるアプローチは、失敗を恐れない気持ちや探究心が育ちそうですね。
「生徒を主役にするための設計」というのは物理に限らずいろいろな教科でこれからのAI学習ツールに求められている視点なのではないでしょうか。

 

◾️論文タイトル:Beyond Answers: Large Language Model-Powered Tutoring System in Physics Education for Deep Learning and Precise Understanding ◾️著者:Zhoumingju Jiang(Southern University of Science and Technology)、Mengjun Jiang(Hongshan Middle School)◾️掲載:ACM(Association for Computing Machinery) ◾️発行年:2024年

 この記事のまとめ

  1. 汎用AIは便利だが、数学や物理では「答えを知る」だけでは深い理解にはつながりにくい。
  2. 物理学習では、「どこで・なぜ間違えたのか」を振り返る思考プロセスが特に重要である。
  3. Physics-STARは、誤答分析と復習提案を重視した“考えさせるAI”として設計されている。
  4. 実験では、特に難易度の高い応用問題で学習成果と効率の大きな向上が確認された。
  5. AIの効果は性能そのものより、「生徒中心の設計」がなされているかどうかに左右される。
  6. これからのAI学習ツールには、子どもを主役にした“思考を支える役割”が求められている。

文:鈴木素子

 

 

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