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AIに「教える」ことで学力が伸びる? 〜数学の授業で試されたティーチャブル・エージェントとは〜

AIに「教える」ことで学力が伸びる? 〜数学の授業で試されたティーチャブル・エージェントとは〜

「教えることで学ぶ」学習が効果的な理由

学習において、人に教えることで自身の理解を深めていくという方法がありますよね。
学んだことを自分の言葉で誰かに説明すると、思考が整理されたり、改めてあやふやな箇所が発見でき、自分の理解度を確認(メタ認知)できたりします。そうすることで最終的に記憶の定着にも繋がります。この学習法は科学的にも効果的な手法と言われているものです。

しかし今、わからない勉強はAIに聞けば教えてくれる時代です。誰かに頼らずに学習習得が完結できてしまうことも多いので、仲間と教えあったりする機会も減ってきているのではないでしょうか。

 
この「教えることで学ぶ」という学習、逆にAIを相手にできたらどうでしょう。
今回ご紹介するのは、生成AIに対して教える側に立つ「ティーチャブル・エージェント(TA)」というシステムを開発し、アメリカの6年生6th-grade students)の数学の授業で導入した効果を調査した論文です。

 論文タイトルは「Students' Perceived Roles, Opportunities, and Challenges of a Generative AI-powered Teachable Agent: A Case of Middle School Math Class」(生成AI駆動型ティーチャブル・エージェントに対する生徒が認識した役割、機会、および課題:中学校の数学授業の事例)です。

生徒が“知識のないAI”に教えることで学ぶ「ティーチャブル・エージェント」システム

ここで、改めて「教えることで学ぶ」学習をシステム化したティーチャブル・エージェント(TA)について簡単に説明します。

通常AIは勉強を教えてくれる家庭教師のような存在ですが、ティーチャブル・エージェントは逆。AIが何も知らない生徒のように設定され、そのAIを相手に人間(生徒)が教えることで理解を深める、という仕組みです。

生徒の説明内容をもとに、AIがあえて間違った答えを出したり、理解したふりをせず「どうしてそうなるの?」と質問を返す設計がなされています。だから生徒はただ説明するだけでなく、AIからの質問にも答えていくといったことが必要になります。

 同システムはGPT-4-Turboをベースに開発され、方法はチャットで会話していく形式です。

 実験は、アメリカの6年生108人(性別、人種言語背景は多様)に対して数学の授業時間に行われました。
進め方は、一人ずつそれぞれティーチャブル・エージェントが与えられて、生徒たちは比率や割合といった単元から好きな数学の問題8問を選んで行われました。

 

生徒が感じた役割・成長・数学への意識の変化

授業観察やデータ分析、アンケート、インタビューなどからまとめた結果は以下の通りです。

1.生徒が認識した生成AI駆動型TAの「役割」
  生徒たちは、AIエージェントに対して以下の3つの役割を期待・認識していた。

  • 学習の仲間:
    知識が自分より乏しい「学業的に弱い仲間」として認識され、生徒が指導役(チューター)としての責任感を持つようになった。また、人間とは異なる能力を持つユニークな存在としても捉えられていた。
  • 学習のファシリテーター:
    自分の考えを深掘りするような質問をAIが投げかけることで、思考プロセスを整理し、理解を促す助けになると感じていた。
  • 協調的な問題解決者:
    単なるプログラムではなく、一緒に問題を解き、アイデアを共有してトラブルシューティングを行うパートナーとして見なされていた。

2.学習におけるメリット

  • 生徒中心の学習環境:
    リアルなシナリオに基づいた学習やゲーミフィケーション要素により、自主性が促進された。
  • 能力の向上:
    論理的思考(認知能力)だけでなく、AIの視点に立って説明するスキル(社会的能力)や、間違いを恐れずやり直すレジリエンス(感情的能力)の向上が見られた。
  • 数学への態度の改善:
    「数学は難しい」という苦手意識が、AIとの楽しい対話を通じて「楽しいもの」へと変化し、自己効力感や学習意欲が高まった。

 

生徒たちはAIに教えることで自分の理解が深まるだけでなく、AIが成長していく姿をみて、それがそのまま自信に繋がったり、自己有用感に繋がったりしたということですね。また数学が楽しくなり、数学に対する気持ちもポジティブに変わったということがわかりますね。

そのほかでは「AIがどのように学習するかを理解しようとする姿勢や、AIに対する肯定的な態度が育まれた」と、AIリテラシーについての学びがあったことも書いてありました。

 

AI任せでは解決できなかった課題

一方で以下のような課題も明らかになりました。

  • TA側の課題:
    AIの質問が表面的な計算の確認に留まる場合があることや、個々の学習スタイル(視覚的学習など)への配慮不足、生成される対話が時折整理されていない(ランダムな順序)点が指摘された
  • 生徒側の課題:
    自分自身の数学知識が不足していると、AIにうまく教えることができず、フラストレーションを感じることがあった。
  • 教師の不在感:
    AIとの対話で行き詰まった際、最終的には人間の教師による介入や励ましを求める声が多くあった。

 

補足すると、TA側には、例えばスラングが通じなかったり、簡単な質問しかできなかったり、図を描いて説明する機能がなかったという技術的な課題があったようです。
生徒側の課題としては、そもそも自分自身が十分に理解できておらず、教えられずに行き詰まってしまうケースがあったということですね。そして、教師の不在感については「AIとのやり取りで混乱したとき、やはり人間の先生による助けやアドバイスが必要だと感じた生徒が多くいた」ということです。 

つまり、人間の先生の重要性ですね。ここも大事なポイントかもしれません。

先生とAIが連携する重要性

最後にこの実験の結果について著者は、
「この研究は、生成AI駆動型のTAが、生徒に『教える』という主導的な役割を与えることで、数学学習の効果を多面的に高める可能性を示した」と書いています。
また、今後の展望として、技術的な改善の必要と同時に「AIと人間の教師が連携するハイブリッドな指導体制の重要性が強調されている」と述べています。


ここまでが論文の内容です。
知らないことを調べたり、聞く、というAIの使い方を逆にして活用する発想はユニークで興味深いシステムだと思いました。これは今後数学以外にも使えそうですね。

生徒たちが、ティーチャブル・エージェントを利用することで自信がついたりメリットを感じる
一方で、まだ人間の先生が必要だと感じたというところには、まだAIには代替できない人間の先生の役割の大切さも感じます。

AIが生徒役までこなせる時代ですが、AIは先生の仕事を奪う存在ではなく、共存し協力してく。先生はもっと違うステージに進化し、役割そのものが変わっていくのかもしれませんね。そんなことも改めて感じました。

◾️論文タイトル:Students' Perceived Roles, Opportunities, and Challenges of a Generative AI-powered Teachable Agent: A Case of Middle School Math Class ◾️著者:Yukyeong Songほか◾️発行日:2024年9月 

 

 この記事のまとめ

  1.   「教えることで学ぶ」教え学習は、AI時代でも学力と理解を深める有効な方法である。
  2.   ティーチャブル・エージェントは、生徒がAIに教える立場になることで主体性とメタ認知を育てる仕組みだ。
  3.   AIに説明する過程で、論理的思考力だけでなく自信や自己効力感も高まった。
  4.   数学への苦手意識が、AIとの対話を通じて「楽しい」「できそう」という前向きな態度に変化した。
  5.   一方で、AIだけでは行き詰まる場面もあり、人間の教師の支援は不可欠であることが明らかになった。
  6.   AIは先生の代わりではなく学びを支える道具として人と協力することで価値を発揮する。

文:鈴木素子

 

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