3行まとめ
「建設の工業化」による急成長と収益構造の変革
創業以来の理念を物流施設やデータセンターに応用し、連結売上高は2009年比約3.4倍の5兆4,348億円に到達しています。
非住宅領域への技術投資シフトとDXによる生産革新
R&D投資の約6割を物流・環境等の非住宅分野へ配分し、D's BIMによるデータ連携や現場ロボット活用で「循環型バリューチェーン」を構築しています。
グローバル技術移転と堅牢な知財ガバナンス体制
欧米への工業化・モジュラー建築技術の移転を加速させる一方、約4,000件の特許資産と厳格な発明委員会による管理で事業リスクを低減しています。
この記事の内容
大和ハウス工業株式会社(以下、「当社」または「大和ハウス」)の2025年3月期(FY2024)における連結業績は、創業以来の企業理念である「建設の工業化」が、現代の多様な事業ポートフォリオにおいてどのように結実しているかを鮮明に示している。創業者の石橋信夫氏が提唱した、建築を「現場での手仕事」から「工場での生産プロセス」へと転換させる思想は、単なるコスト削減の手法に留まらず、今日ではデータセンターや物流施設といった高機能アセットの迅速な供給を可能にする核心的な競争優位性へと進化している。
2024年度の連結売上高は5兆4,348億円に達し、前年度比で着実な成長を遂げた。この数値は、2009年度の1兆6,098億円と比較すると約3.4倍の規模であり、過去15年間における当社の技術経営が、市場の拡大だけでなく、事業構造の根本的な変革を伴いながら推し進められてきたことを証明している。特に営業利益に関しては、退職給付に係る数理計算上の差異を含めた数値で4,402億円を記録しており、原材料価格の高騰や労働力不足といった建設業界全体の逆風下においても、工業化による生産性向上と高付加価値化が利益率の維持・向上に寄与していることが読み取れる 1。
表1.1:連結業績の推移と技術的マイルストーン(単位:億円)
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年度 |
売上高 |
営業利益 |
従業員数 |
技術・事業のマイルストーン |
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FY2009 |
16,098 |
- |
- |
スマートハウス実証実験開始、リチウムイオン蓄電池搭載住宅の先駆け |
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FY2015 |
31,929 |
2,374 |
- |
第5次中期経営計画、「xevoΣ(ジーヴォシグマ)」発売による耐震技術の革新 |
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FY2018 |
41,435 |
3,721 |
- |
第6次中期経営計画、物流施設開発の加速 |
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FY2021 |
44,395 |
3,322 |
- |
第7次中期経営計画開始、「生きる場所」の価値最大化へ |
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FY2023 |
52,029 |
4,402 |
49,820 |
売上高5兆円突破、海外事業(米国・ASEAN)の本格寄与 |
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FY2024 |
54,348 |
4,402 |
50,390 |
過去最高売上更新、データセンター事業への参入本格化 |
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FY2025(予) |
55,000 |
5,000 |
- |
第7次中計最終年度目標(前倒し達成視野)、累積住宅供給数202万戸へ |
この成長の軌跡において特筆すべきは、従業員数が2010年の26,542名から2025年には50,390名へとほぼ倍増している点である。通常、急速な人員拡大は組織の非効率化や技術継承の希薄化を招くリスクがあるが、当社においてはBIM(Building Information Modeling)をはじめとするデジタル技術の標準化と、マニュアル化された施工技術のグローバル展開によって、品質の均一性を保ちながらのスケールアップに成功している。これは、技術が単に製品の一部にあるのではなく、組織運営のOSとして機能していることを示唆している 1。
現在進行中(2025年11月時点)の第7次中期経営計画(2022年度~2026年度)は、当社の技術戦略を「収益モデルの進化」と「経営基盤の強化」という二つの軸で再定義している。本計画において、従来の「請負型フロービジネス」から、開発した施設を保有・運営し、その価値を高めて循環させる「ストック型ビジネス」への転換が明確に打ち出された。
この転換を支えるのが、技術本部が主導する「循環型バリューチェーン」の構築である。具体的には、建物のライフサイクル全体(設計・施工・管理・修繕・解体・再利用)をデータで繋ぎ、資産価値を維持・向上させる技術基盤の整備が進められている。例えば、既存住宅事業「Livness(リブネス)」においては、点検ロボットや建物履歴データを活用したリノベーション提案が行われており、技術が不動産流通の触媒として機能している。
表1.2:第7次中期経営計画の技術・事業戦略骨子
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戦略方針 |
重点テーマ |
技術的アプローチ・KPI |
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収益モデルの進化 |
循環型バリューチェーンの拡充 |
3つの本部制(住宅・特建・海外)による技術シナジーの発揮
Livness事業売上高4,000億円目標 |
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海外事業の成長加速 |
地域密着型の海外展開 |
米国:パネル工法・合理化技術の導入
欧州:モジュラー建築(DHME)による短工期・循環型建築 |
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カーボンニュートラル |
すべての建物の脱炭素化 |
ZEH・ZEB比率の向上、再エネ100%(RE100)達成
サプライチェーン全体のGHG排出量削減 |
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DXによる基盤強化 |
デジタルコンストラクション |
BIMの全社標準化、施工現場の無人化・省人化(2024年問題対応) |
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経営効率の最適化 |
資本効率と成長投資の両立 |
ROE 13%以上、D/Eレシオ 0.6倍程度の維持
技術投資による生産性向上と原価低減 |
第7次中計の進捗については、FY2024時点で主要な数値目標の多くが計画を上回るペースで達成されており、特に海外事業の売上高1兆円目標の達成が視野に入っていることは、技術移転戦略の有効性を裏付けている。米国においては、買収した住宅会社(Stanley Martin, CastleRock, Trumark)に対し、日本で培った工程管理や資材調達のノウハウを注入することで、現地の労働力不足や資材高騰に対応し、利益率の改善を図っている。また、2026年度から開始予定の第8次中期経営計画に向けた準備も進められており、次なる成長ドライバーとしてデータセンターや陸上養殖といった新規領域へのR&D投資が加速している 2。
大和ハウスの技術経営を支えるガバナンス構造は、迅速な意思決定と厳格なリスク管理のバランスの上に成り立っている。2019年に発生した戸建住宅・賃貸住宅における型式適合認定不適合事案(あご付支柱や基礎の仕様不適合)は、同社にとって技術ガバナンスのあり方を根本から見直す契機となった。これを受け、技術本部および法務・コンプライアンス部門の権限が大幅に強化されている。
表1.3:技術ガバナンス・組織体制
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会議体・組織 |
役割・機能 |
構成員・頻度 |
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取締役会 |
技術開発の重点テーマ決定、DX計画の承認 |
社外取締役比率42.9%(女性2名含む)、多様な視点での監督 6 |
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技術本部 |
全社的な技術戦略の立案・実行、品質基準の策定 |
本部長:村田 佳之(代表取締役副社長) 7 |
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総合技術研究所 |
基礎研究・応用研究、実証実験、性能評価 |
奈良県奈良市に所在。環境・構造・居住快適性の検証拠点 8 |
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発明委員会 |
知的財産の出願・維持・放棄・ライセンスの意思決定 |
技術系役員・部門長で構成。月次開催 9 |
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商品設計チェッカー |
設計プロセスの客観的監査・検証 |
本社技術部から選任された専任者が各事業部の設計を監査 8 |
特筆すべきは、「商品設計チェッカー」制度の導入である。これは、開発部門とは独立した権限を持つ本社技術部の専門家が、新商品や仕様変更の詳細をチェックする仕組みであり、多角的な視点(防耐火、構造安全性など)からコンプライアンスを担保する「ゲートキーパー」の役割を果たしている。また、取締役会においても「総合技術研究所における技術開発重点テーマの決定」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画の策定」が審議事項として定着しており、技術課題が経営の最上位レベルで扱われていることが確認できる 6。
大和ハウスの研究開発投資は、安定的な水準を維持しつつ、その配分先を「住宅」から「非住宅・新規事業」へと戦略的にシフトさせている。これは、国内の新設住宅着工戸数が長期的に減少傾向にある中で、成長領域である物流施設や環境エネルギー事業へリソースを集中させるポートフォリオ変革の一環である。
表2.1:研究開発費の推移と分野別内訳(単位:億円)
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年度 |
研究開発費総額 |
住宅分野 |
非住宅・その他分野 |
投資トレンド分析 |
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FY2023 |
109 |
44 |
64 |
商業・物流・環境エネルギーへの配分が住宅を上回る(約60%) |
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FY2024 |
108 |
46 |
61 |
住宅分野への回帰が見られる(ZEH基準厳格化への対応等) |
FY2023およびFY2024のデータによると、年間約110億円規模の研究開発費が投じられている。内訳を見ると、FY2023では非住宅分野(物流、商業、環境エネルギー)への投資が64億円と全体の約6割を占めており、これは同社の収益構造の変化(物流施設等の利益貢献拡大)と整合している。一方で、FY2024には住宅分野への投資が46億円へと微増しており、これは2025年以降の省エネ基準適合義務化やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及加速に向けた、断熱性能や創エネ技術の更なる高度化ニーズに対応したものと推察される 10。
競合他社である積水ハウスと比較すると、積水ハウスの研究開発費も同規模で推移しているが、積水ハウスが「シャーウッド」等の木造技術や「5本の樹」計画などの生物多様性保全に重点を置くのに対し、大和ハウスは「Dプロジェクト」に代表される大型物流施設の自動化技術や、データセンターの冷却システムといった産業インフラ技術への投資比重が高い点に独自性がある 12。
奈良県奈良市に位置する「総合技術研究所」は、大和ハウスグループの技術開発の心臓部である。ここでは、創業以来のテーマである「安全・安心」に加え、現代社会が直面する4つの主要課題を起点としたR&Dが展開されている。
表2.2:総合技術研究所の重点研究テーマ
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社会課題 |
研究開発の方向性 |
具体的な技術プロジェクト |
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ストック型社会 |
建物の長寿命化、維持管理の容易化 |
「xevoΣ」の持続型耐震技術、外張り断熱通気外壁による結露防止 |
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少子高齢化 |
ロボティクスによる支援、バリアフリー |
点検ロボット「moogle」、介護支援ロボット、ユニバーサルデザイン |
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環境・エネルギー |
脱炭素、再生可能エネルギーの活用 |
ZEH/ZEBの実証、リチウムイオン蓄電池システム、オンサイトPPA |
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食の安定供給 |
アグリテック、植物工場 |
閉鎖型植物工場システム、陸上養殖技術(Regional Fishとの連携) |
研究所内には、実大サイズの振動実験施設や環境試験室が完備されており、理論上の計算だけでなく、物理的な実証実験を通じて性能を担保する「実証主義」が貫かれている。特に、2019年の不適合事案以降は、法規制適合性の確認プロセスが強化され、開発された新構法や部材は、量産工場(ISO 9001認証取得済み)へ移管される前に、この研究所で徹底的な検証を受けるフローが確立されている。また、「ミライ価値共創センター(コトクリエ)」という施設も併設されており、ここでは技術者だけでなく、多様なステークホルダーとの対話を通じて未来の暮らしを構想する「共創」の場としても機能している 8。
自前主義からの脱却も近年の顕著な傾向である。大和ハウスは、大学や外部研究機関、スタートアップとの連携を加速させ、自社のリソースだけでは解決できない課題にアプローチしている。
表2.3:主要な産学連携・共同研究プロジェクト
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連携パートナー |
拠点・プロジェクト名 |
技術・研究内容 |
インパクト・狙い |
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東京大学 |
ダイワユビキタス学術研究館 |
ユビキタスコンピューティング、IoTセンサー |
建物自体がセンサーとなり環境データを収集・解析する「インテリジェントビル」の実証。杉板の外装技術の実用化 15 |
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熊本大学 |
ジェネレーティブ・デザイン共同研究 |
AIによる建築設計の自動化 |
敷地条件や法規制を入力すると、最適な配置計画や間取りをAIが自動生成。設計業務の省力化と最適化 17 |
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WHA Corporation |
DH WHA Logistics Property (JV) |
物流施設開発、オンサイトPPA |
タイ最大の物流デベロッパーとの合弁。日本の高品質な物流施設仕様と環境技術(太陽光発電)をASEANへ移転 18 |
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内閣府 |
戦略的イノベーション創造プログラム (SIP) |
国家プロジェクトへの参画 |
自動運転やスマートシティ関連の国家戦略に基づく技術実証への参加 6 |
特に東京大学への「ダイワユビキタス学術研究館」の寄贈と共同研究は、単なるCSR活動を超えた戦略的意味を持つ。隈研吾教授の設計によるこの建物は、多数のセンサーを内蔵し、温度、湿度、風速、人流などのデータを常時収集・解析している。ここで得られた知見は、スマートホームや物流施設の環境制御システムへとフィードバックされており、ハードウェアとしての「箱」から、データを生成する「デバイス」としての建築への進化を象徴している。
大和ハウスの知的財産戦略は、コア技術の「権利化」と、事業リスクを低減するための「防衛」の両面から構築されている。2025年時点での特許ポートフォリオは、国内建設業界においてトップクラスの規模と質を誇る。
表3.1:特許ポートフォリオの統計データ(グローバル)
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指標 |
数値 |
分析・インサイト |
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総特許数 |
約3,978件 |
累積出願数。建設業界における圧倒的な技術蓄積を示す。 |
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有効特許数 |
約2,927件 |
有効比率約74%。維持年金のコストをかけてでも保持する価値のある権利が多いことを示唆。 |
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主要出願国 |
日本 (3,781件) |
事業基盤が日本にあるため圧倒的多数。国内市場の防衛に重点。 |
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海外出願 |
中国 (74), 米国 (10), 欧州 |
海外事業の拡大に伴い増加傾向。特にモジュラー建築(欧州)や工業化住宅(中国)に関連。 |
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年間出願数 |
300〜400件/年 |
コンスタントな出願により技術障壁を構築。2022年以降の公開数減少は公開ラグの影響 19。 |
技術分野別の構成(IPC/CPC分類に基づく)では、E04(建築物)、E04B(一般構造)、E04H(特定用途の建物)といった建設関連の特許が中心である。しかし近年では、G(物理学・制御)やH(電気)セクションへの出願も見られ、これはスマートホーム、HEMS、物流ロボット制御といったデジタル・IT領域への技術シフトを裏付けている。海外出願においては、中国での出願数が74件と突出しており、これはかつて中国市場で展開していた工業化住宅事業や、現在のサプライチェーン拠点としての重要性を反映している 19。
知的財産の管理は、「発明委員会」を中心とした厳格なガバナンス体制の下で行われている。この委員会は技術本部、商品開発部、生産部門の責任者で構成され、月次で開催される。ここでは、単なる出願の可否だけでなく、保有特許の棚卸し(維持か放棄か)、他社へのライセンス供与の戦略的判断、さらには職務発明に対する報奨金の決定などが行われている。
この体制は、知財を「法務部門の管理物」ではなく「経営資源」として扱っていることを示している。特に、建設業界では工法や部材の特許が競争力に直結するため、競合他社の特許動向(パテントマップ)を分析し、自社の開発方針にフィードバックする機能も果たしていると考えられる。また、著作権(設計図面やソフトウェアコード)や商標権(ブランド保護)についても、知的財産の一部として包括的に管理されている 9。
建設業界における知財リスクの高さを示す象徴的な事例として、住友ゴム工業および日本製鉄との間で争われた「制振ダンパー(制震装置)」に関する特許侵害訴訟がある。
表3.3:主要な知財・法務リスク事例
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事案 |
相手方 |
技術・争点 |
経緯・結果 |
戦略的示唆 |
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制振ダンパー特許訴訟 |
住友ゴム工業 / 日本製鉄 |
地震エネルギー吸収用粘弾性ダンパー(高減衰ゴム) |
知的財産高等裁判所が「均等論」の適用を厳格に制限する中間判決を下す。一部侵害認定等の判断も 22。 |
部材調達における他社特許リスクの顕在化。独自技術(KyureK等)への切り替えや、特許網の精緻な回避設計の重要性が高まる。 |
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型式不適合問題 |
国土交通省(規制) |
戸建・賃貸住宅の基礎・柱の仕様不適合 |
2019年に発覚。第三者委員会による原因究明と再発防止策策定。 |
設計プロセスのデジタル化(BIM)と人間による監査(チェッカー制度)の二重化によるコンプライアンス強化へ直結。 |
住友ゴム工業等との訴訟は、住宅メーカーがサプライヤーから調達する重要部材(この場合は制振装置)に関しても、知財リスクの当事者となり得ることを示した。特に「均等論(特許請求の範囲と完全に一致していなくても、実質的に同一であれば侵害とする法理)」の適用範囲が争点となったことは、技術開発において「完全な独自性」を証明することの難しさを浮き彫りにした。
この経験は、大和ハウスのR&D戦略に大きな影響を与えている。他社特許に抵触しない独自の制振技術(後述の「KyureK」など)の開発を加速させるとともに、サプライヤー選定における知財デューデリジェンス(DD)を強化する契機となった。また、2019年の不適合問題以降、法務・コンプライアンス部門が技術開発の上流工程から関与する体制が敷かれ、技術的な性能だけでなく「法的安全性」も設計品質の一部として定義されるようになった 22。
大和ハウスの住宅事業の代名詞とも言えるのが、軽量鉄骨造の工業化住宅「xevo(ジーヴォ)」シリーズであり、その最上位モデルが「xevoΣ」である。この商品は、耐震性、断熱性、大空間という相反する要素を高度な技術で統合している。
表4.1:xevoΣの主要技術スペック
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技術要素 |
名称・仕様 |
メカニズム・顧客メリット |
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耐震構造 |
Σ形デバイス (Sigma-Shape Device) |
断面が「Σ(シグマ)」形状をした衝撃吸収デバイス。地震エネルギーを吸収し、揺れを軽減。繰り返す地震に対しても初期性能を維持する粘り強さを持つ 25。 |
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制振技術 |
KyureK (キュレック) |
独自のエネルギー吸収システム。建物の変形を抑え、内外装の損傷を最小限に留める。 |
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断熱技術 |
外張り断熱通気外壁 |
鉄骨柱の「外側」を断熱材で包み込む工法。鉄骨特有のヒートブリッジ(熱橋)を防ぎ、壁体内結露を抑制。省エネ性能を飛躍的に向上 26。 |
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大空間設計 |
2m72cmの天井高 |
強靭な構造体により、柱や壁の少ない大空間リビングと高い天井高を実現。グランリビングなどの商品力の源泉。 |
「Σ形デバイス」の開発は、物理学的なエネルギー吸収原理の応用である。従来の筋交い(ブレース)が地震力に「抵抗」するのに対し、このデバイスはあえて「しなやかに変形」することでエネルギーを熱に変換し、構造体へのダメージを防ぐ。これは、自動車のサスペンションやバンパーのような発想を住宅構造に取り入れたものであり、数理シミュレーションと実証実験の繰り返しによって生み出された。また、外張り断熱技術は、鉄骨造の弱点である「熱を伝えやすい」という特性を、断熱材で構造体を覆うことで克服し、木造住宅並みかそれ以上の断熱性能を実現している。これにより、2025年以降の省エネ基準適合義務化や、より厳しいZEH基準にも余裕を持って対応可能となっている 25。
脱炭素社会の実現に向け、大和ハウスはZEHの普及を強力に推進している。住宅を単なる「消費の場」から「エネルギーの自給自足の場」へと転換させるための技術パッケージが標準化されている。
表4.2:ZEH/ZEB実現のための技術スタック
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技術区分 |
要素技術 |
機能・役割 |
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創エネ |
太陽光発電システム |
屋根一体型パネル等による高効率発電。 |
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蓄エネ |
家庭用リチウムイオン蓄電池 |
「POWER YIILE」等。発電した電力を貯め、夜間や停電時に使用。災害時のレジリエンス強化(全天候型3電池連携システム等) 28。 |
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省エネ |
HEMS (Home Energy Management System) |
エネルギーの見える化と家電制御。「D-HEMS」により最適制御。 |
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断熱 |
高性能断熱材・サッシ |
アルゴンガス封入トリプルガラス樹脂サッシ等による熱損失の最小化。 |
2010年に業界に先駆けて開始された「SMA×Eco HOUSE(スマ・エコ ハウス)」の実証実験は、現在の「全天候型3電池連携システム」(太陽光、エネファーム、蓄電池の連携)へと結実している。これにより、雨天時でも安定した電力供給が可能となり、顧客に対し「光熱費削減」と「防災」という二つの価値を提供している。ZEH比率の向上は、国の補助金政策とも連動しており、営業戦略上の重要指標となっている 28。
新築市場の縮小を見据え、既存住宅の売買・仲介・リノベーションを行う「Livness」事業が拡大している。ここでの技術的課題は、既存建物の「状態把握」の不確実性をいかに低減するかにある。
表4.3:Livness事業を支える検査・情報技術
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技術・ツール |
用途・機能 |
ビジネス上の効果 |
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狭小空間点検ロボット |
「moogle (モーグル)」 |
床下などの人が入れない狭い空間を走行。レーザー距離計、WiFi、CCDカメラ、LED照明を搭載。リアルタイムで映像を送信・記録 28。 |
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住宅履歴情報システム |
D's File / データベース |
新築時の図面、部材仕様、点検履歴、修繕履歴を一元管理。 |
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インスペクション技術 |
既存住宅状況調査 |
専門家による建物診断。サーモグラフィ等を用いた非破壊検査。 |
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リブネスタウン |
ネオポリス再生 |
ドローン測量や人流データを活用した団地再生計画。 |
点検ロボット「moogle」は、2010年の開発以来、改良が重ねられている。高さ15cmの段差を乗り越え、暗所の基礎クラックや水漏れを発見する能力は、人間の目視点検では不可能な領域をカバーする。これにより、リフォーム工事の「予期せぬ追加費用」のリスクを減らし、顧客の信頼獲得に繋がっている。また、「リブネスタウンプロジェクト」では、かつて自身が開発した郊外型団地(ネオポリス)に対し、MaaS(Mobility as a Service)や遠隔医療といった現代技術を導入することで、オールドニュータウンをサステナブルな街へと再生させる壮大な社会実験を行っている 6。
大和ハウスの現在の収益柱である物流事業「D-Project」は、BTS(Build-to-Suit:専用センター)型と、マルチテナント型物流施設「DPL」の両輪で展開されている。DPLの競争力は、単なる倉庫ではなく、巨大な「物流マシン」としての機能性にある。
表5.1:DPL(マルチテナント型物流施設)の技術的特徴
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技術要素 |
仕様・機能 |
物流効率への貢献 |
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ランプウェイ |
ダブルランプウェイ(上り・下り専用) |
40フィートコンテナ車が各階のバース(荷降ろし場)へ直接アクセス可能。垂直搬送機待ちのタイムロスを解消。 |
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免震構造 |
免震ゴム・ダンパー |
地震時に建物と地盤を絶縁。荷崩れを防ぎ、テナントの高価なマテハン機器(自動倉庫など)を保護。BCP(事業継続計画)対応。 |
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コールドチェーン |
DPLコールド / マルチ温度帯 |
冷凍・冷蔵・常温の3温度帯に対応した断熱・空調設備。フロン排出抑制機器の導入。 |
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環境性能 |
ZEB認証、オンサイト太陽光 |
屋根全面への太陽光パネル設置による自家消費。省エネ照明・空調。 |
例えば「DPL流山」のような超大型施設では、敷地内に保育所やコンビニを併設し、働きやすさを提供することで、テナント企業の人材確保を支援している。技術的には、PC(プレキャストコンクリート)工法の採用により、巨大な躯体を短工期かつ高精度で建設する生産技術が確立されている 34。
「2024年問題(ドライバーの労働時間規制)」に対応するため、大和ハウスは物流施設の「中身」の自動化にも深く関与している。ここでは、自社開発にこだわらず、有力なスタートアップとの資本業務提携を通じたエコシステム形成が特徴的である。
表5.2:物流テックのエコシステム
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パートナー企業 |
提供技術・ソリューション |
連携内容・DPLへの実装 |
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株式会社Hacobu |
トラック予約受付システム「MOVO Berth」 |
トラックの入場時間をデジタル管理し、待機時間を削減。DPLへの標準導入を推進。 |
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GROUND株式会社 |
物流ロボット「Butler(バトラー)」 / AMR |
商品棚が人の元へ移動するGTP(Goods-to-Person)システム。AIによる在庫配置最適化。 |
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Daiwa LogiTech |
システムインテグレーション |
物流ロボットやシステムの導入支援、従量課金型サービス(Robot as a Service)の提供。 |
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Bureau 0-1 |
インテリジェント・ロジスティクス・センター |
人とロボットが協働する未来型物流センターの設計・デザイン 36。 |
千葉県市川市の「Intelligent Logistics Center PROTO」は、これらの技術のショールーム兼実証実験場である。ここでは、GROUND社のロボットが稼働し、AIがシェアリング倉庫内の在庫配置を最適化する様子が可視化されている。大和ハウスは、物流施設の「大家」から、物流オペレーションの「ソリューションプロバイダー」へと進化しようとしている 36。
新たな成長領域として、データセンター(DPDC)事業への投資が加速している。物流施設で培った土地仕入れ力と、産業用建築のノウハウが転用されている。
表5.3:データセンター事業の展開モデル
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モデル |
代表プロジェクト |
技術的要件 |
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郊外型(ハイパースケール) |
DPDC印西パーク(千葉県) |
巨大な受電容量、高負荷対応の冷却システム、敷地拡張性。クラウド事業者向け。 |
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都市型(低遅延) |
DPDC品川(東京都) |
ネットワーク接続性、都心部での高層・高密度設計。エッジコンピューティング向け。 |
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半導体関連(シリコンヒルズ) |
熊本県菊陽町周辺 |
半導体工場のクリーンルーム技術、振動制御、大量の水処理インフラ支援 35。 |
熊本県における半導体クラスター向け開発は、国家戦略とも合致した動きである。ここでは、TSMC等の進出に伴う関連企業の工場・倉庫需要に対し、精密機器の製造に耐えうる微振動制御やクリーン環境の構築技術が求められている 5。
米国市場において、大和ハウスはStanley Martin、CastleRock、Trumarkの3社を傘下に収め、さらに2024年にはAlliance Residentialへの出資(35%)を行い、賃貸住宅開発のパイプラインを強化した。米国住宅市場は伝統的に現場施工(フレーミング)が主流であるが、職人不足と賃金高騰が深刻化している。
表6.1:北米事業における技術移転戦略
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対象企業 |
地域 |
戦略・技術移転 |
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Stanley Martin |
東海岸 |
戸建住宅。パネル工法(オフサイト生産)の導入検討、資材の共通購買プラットフォーム化。 |
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CastleRock |
南部(テキサス) |
ボリュームゾーン向け。生産性向上ノウハウ(工程管理、標準化)の注入。 |
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Alliance Residential |
全米 |
賃貸住宅(マルチファミリー)。モジュラー建築技術の活用による工期短縮の可能性探索 32。 |
大和ハウスの戦略は、日本の「工場で作って現場で組み立てる」という工業化プロセスを米国に持ち込み、施工の合理化を図ることである。これにより、品質のバラつきを抑え、工期を短縮し、回転率を高めることで、現地のビルダーに対する競争優位を築こうとしている 32。
欧州では、オランダのDaiwa House Modular Europe(DHME)を拠点に、「モジュラー建築」を展開している。これは、部屋単位のユニットを工場で完成させ、現場で積み木のように組み立てる工法である。
表6.2:欧州モジュラー建築の技術的優位性
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特徴 |
詳細 |
欧州市場との親和性 |
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生産能力 |
オランダ・ドイツ工場で年産10,000ユニット体制(計画含む) |
急増する住宅需要や難民支援住宅への即応が可能。ウクライナ避難民向けに1,800ユニット供給実績あり 35。 |
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再利用性 |
ユニットの移設・再利用が可能 |
欧州の厳しい環境規制・サーキュラーエコノミー(循環経済)政策に合致。建築廃棄物の極小化。 |
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工期短縮 |
従来工法比で最大50%短縮 |
労働力不足の解消と、早期収益化を実現。 |
DHMEのモジュラー技術は、一度建設した建物を「分解」し、別の場所で「再構築」することを前提に設計されている。これは、環境負荷低減を至上命題とする欧州市場において極めて強力な武器となっている。ドイツのベルリン近郊に建設中の新工場は、このモジュラーユニットの量産拠点となり、欧州全域への供給網を強化するものである 35。
大和ハウスのDXの中核は、独自のBIM戦略「D's BIM」である。多くの建設会社がBIMを「設計の可視化」に使っているのに対し、当社は「生産データの生成」まで繋げている点が特徴である。
表7.1:D's BIMの実装フェーズ
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フェーズ |
技術内容 |
効果 |
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設計 |
Revitベースの完全3D設計 |
意匠・構造・設備の不整合(干渉)を設計段階で解消。手戻りの削減。 |
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生産連携 |
BIMデータから加工データを自動生成 |
工場の溶接ロボットや切断機へデータを直結。図面作成作業の廃止(図面レス)。 |
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施工・営業 |
コンフィギュレーター、現場タブレット |
顧客との商談で確定した仕様を即座にBIM化。現場での施工手順の3D確認 17。 |
Autodesk社との戦略的提携(2020年MOU締結)により、BIMのプラットフォーム開発を共同で進めており、日本の建設業におけるBIM標準をリードする立場にある。熊本大学との共同研究による「ジェネレーティブ・デザイン(自動設計)」もこの基盤の上で動いており、将来的には設計者の単純作業をAIが代替し、人間はクリエイティブな業務に集中する体制を目指している 42。
「DigiCon」プロジェクトは、現場作業員の負担を軽減し、生産性を劇的に向上させるための取り組みである。目標として「現場作業員の8割削減(将来的ビジョン)」を掲げ、ロボティクスの導入を進めている。
2023年に設立されたCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)である「Daiwa House Ventures」は、300億円規模のファンドを運用し、自社のR&Dを補完するスタートアップへの投資を行っている。
表8.1:主な投資先ポートフォリオ(2024-2025年の動向)
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投資先企業 |
分野 |
シナジーの想定 |
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Craif (クライフ) |
ライフサイエンス |
尿によるがん早期発見技術。シニア向け住宅やフィットネス事業への健康サービス付加 45。 |
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LocationMind |
AI・位置情報 |
人流データの解析。商業施設や物流施設の最適立地選定、リブネスタウンの分析 45。 |
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Regional Fish |
フードテック |
ゲノム編集による水産物の品種改良。陸上養殖事業への技術応用。研究所の「食」テーマと合致 45。 |
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RUTILEA |
AI・ハードウェア |
画像認識AIによる外観検査。工場の品質管理や現場の安全管理の自動化 45。 |
これらの投資は、単なるキャピタルゲイン目的ではなく、当社の事業領域(住まい、建設、物流、食)における技術的ミッシングピースを埋めるための戦略的提携である。
大和ハウス工業の2025年における技術経営の姿は、創業時の「プレハブ住宅メーカー」という枠組みを遥かに超えている。同社は今や、デジタル技術(BIM、AI)と物理的技術(ロボティクス、工業化建築)を高度に融合させた「総合生活産業のプラットフォーマー」である。
第7次中期経営計画の早期達成を支えたのは、物流施設における自動化技術の標準化や、海外市場への工業化技術の移転といった、技術の「横展開」と「スケーリング」の成功である。一方で、知財訴訟の教訓から学んだガバナンスの強化や、CVCを通じた外部知見の取り込みは、組織としての学習能力の高さを示している。
今後の課題は、データセンターや陸上養殖といった新規事業を、住宅・物流に次ぐ第3、第4の柱へと技術的に成熟させることができるかにある。また、2024年問題や労働人口減少という日本の構造的課題に対し、DigiConによる現場革新がどれだけのスピードで実装されるかが、次期中期経営計画の成否を握る鍵となるだろう。
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