3行まとめ
ハードから「生活ソフト」への転換と高収益化
住宅建設から「生活サービス提供(ストックビジネス)」への変革が進み、ZEH比率96%という環境技術の高付加価値化が、通期売上4兆円規模への成長を牽引しています。
ヘルスケア・デジタル領域への知財ポートフォリオ変革
急性疾患を早期発見する「HED-Net」など、従来の建築構造(E04)からセンシング・医療領域(G08/A61)へ特許出願が急増し、他社参入を防ぐ技術障壁を構築しています。
技術のグローバル標準化と知財ガバナンスの強化
米国市場への「SHAWOOD技術」移転によるデファクトスタンダード化を推進し、2025年2月には組織を「知的財産部」へ昇格させ、経営直結のガバナンス体制を確立しました。
この記事の内容
積水ハウスグループにおける技術戦略は、単なる製品機能の向上にとどまらず、企業の収益構造そのものを変革する核心的なドライバーとして機能している。従来の「住宅建設(フロービジネス)」から、居住後の「生活サービス提供(ストックビジネス)」への転換を加速させており、この戦略的シフトは財務数値に明確に表れている。2024年度(2025年1月期)の第2四半期決算において、連結売上高は過去最高水準で推移し、通期では4兆円規模への到達が視野に入っている 1。この成長を支えているのは、単なる販売戸数の増加ではなく、独自の環境技術や部材技術による「高付加価値化」と「単価上昇」である。
特筆すべきは、同社が推進する「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の普及率である。2023年度実績において、同社の戸建住宅におけるZEH比率は96%という圧倒的な水準に達している 2。これは、環境技術という知的財産が、高単価商品の標準仕様化を可能にし、顧客単価の底上げに直接的に寄与していることを示している。さらに、この技術力は賃貸住宅「シャーメゾン」にも展開され、ZEH賃貸住宅の累積受注数は25,000戸を超えている 3。これにより、賃貸オーナーに対しても「環境性能による資産価値の維持」という経済合理性を提示し、受注競争力を高めている。
また、米国M.D.C. Holdings, Inc.の買収に見られるように、国内で培った技術資産(特に木造住宅技術「SHAWOOD」や施工管理ノウハウ)を海外市場へ移植することで、海外事業の売上構成比を拡大させる戦略が奏功している 4。海外事業の売上高は前年同期比で大幅な増収(+960億円)を記録しており 1、知財のグローバル展開が新たな収益の柱として確立されつつある。技術力の高さがブランドプレミアムを生み出し、それが粗利益率の維持・向上(20%前後で安定推移)に貢献するという好循環が、財務データから読み取れる 5。
現在、積水ハウスがR&Dリソースを集中させている技術領域は、大きく「健康・医療(Health Tech)」、「環境・共生(Green & Bio Tech)」、「デジタル・生活基盤(DX & Platform)」の3点に集約される。これらは、従来の「頑丈な家」を作るためのハードウェア技術から、「幸せな生活」を創出するためのソフトウェア技術への進化を意味している。
「健康・医療」領域における最大の成果は、2020年のCESで発表され、社会実装が進められている「プラットフォームハウス構想」およびその中核技術である「HED-Net(宅内早期発見ネットワーク)」である 6。これは、住まい手がウェアラブルデバイスを装着することなく、住宅内に埋め込まれた非接触センサーが心拍数や呼吸数を常時モニタリングし、急性疾患(脳卒中や心疾患)の予兆を検知するシステムである。この技術開発には、NECや日立製作所といったIT大手、および慶應義塾大学病院などの医療機関とのオープンイノベーションが活用されており、住宅を「居住空間」から「医療インフラ」へと進化させる試みである 7。
「環境・共生」領域では、都市の生物多様性保全に向けた取り組み「5本の樹」計画が挙げられる。同社は琉球大学との共同研究により、庭木選定のための独自のアルゴリズムとデータベースを構築し、都市緑化が生態系ネットワークに与える効果を定量的に評価する手法(ネイチャー・ポジティブ評価手法)を確立した 8。これにより、環境負荷低減を感覚的なものではなく、数値的根拠に基づいて顧客や投資家に訴求することが可能となっている。
デジタル領域では、邸別自由設計のデータを蓄積・活用する「Platform House touch」などのスマートホーム機能が実装されている。これは、住宅の間取りデータと家電・設備制御を連動させる特許技術であり、居住者はスマートフォンを通じて直感的に自宅の状態を管理できる 9。これらの技術は、将来的な自動運転車との連携や、家庭内エネルギー管理システム(HEMS)の高度化(電動化対応)への布石ともなっている。
積水ハウスの特許ポートフォリオは、量的な拡大だけでなく、質的な構造転換が進行している。伝統的には、耐震システム「シーカス」や外壁材「ベルバーン」「ダインコンクリート」といった建築構造・部材に関する特許(IPC分類:E04)が中心であったが、近年は「情報処理・センシング(G06, G08)」および「生活支援・ヘルスケア(A61)」に関する特許出願が急増している 10。
2025年1月時点での国内保有特許数は1,059件、意匠権は409件にのぼる 11。グローバルでは、特許ファミリーを含めると4,700件以上の特許(出願中含む)を有しており、その約36%がアクティブな権利として維持されている 12。このポートフォリオの変化は、同社が「ハードウェアの供給者」から「生活ソフトのプラットフォーマー」への転換を、知財面から防衛・独占しようとする意図を明確に示唆している。
特に注目すべきは、HED-Netに関連する「生体データ検知から緊急通報、遠隔解錠に至る一連のプロセス」に関する基本特許の取得である 6。これにより、他社が同様のヘルスケアサービスを住宅に組み込む際の参入障壁を構築している。また、意匠権の多さは、独自開発の外壁材のデザイン性や、スマートホームアプリのUI/UXなど、顧客の感性に訴える領域での差別化を重視していることの表れである。海外においては、米国やオーストラリアなど主要市場での特許出願が増加しており、技術の輸出と現地での権利保護が並行して進められている。
主要競合である大和ハウス工業や旭化成ホームズと比較した場合、積水ハウスの技術的優位性は「部材の完全内製化による品質差別化」と「健康・感性領域への科学的アプローチ」にある。
大和ハウス工業は、物流施設や商業施設を含む多角化戦略(ゼネコン化)において規模の経済を追求し、ロボット施工や物流DXにR&Dリソースを配分している 13。これに対し、積水ハウスは「住宅特化型」のR&D体制を維持し、外壁材(ダインコンクリート、ベルバーン)の素材開発から製造までを自社工場で内製化している。これにより、他社が汎用建材メーカーから調達する部材では実現できない、独自の意匠性と耐久性(メンテナンスフリー)を実現し、これが高価格帯商品の説得力となっている 15。
旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)がALC(軽量気泡コンクリート)技術に特化し、都市部での耐火・遮音性能で強固なブランドを築いている点と比較すると、積水ハウスは鉄骨(イズ・シリーズ)と木造(シャーウッド)の双方でハイエンドラインを保持するフルラインナップ戦略を採っている 18。特に木造シャーウッドにおける科学的検証に基づいた耐震・耐久技術は、木造市場におけるプレミアムブランドとしての地位を確立している。
一方で課題としては、住宅市場の縮小に伴う国内着工数の減少に対し、リフォームや賃貸管理などのストックビジネスにおける技術的差別化を、新築同様のレベルまで引き上げられるかが挙げられる。競合各社もストックビジネスへのシフトを急いでおり、予知保全や既存住宅のZEH化改修技術における競争は激化している。
長期ビジョン「2050年ビジョン」および中期経営計画に基づき、今後のR&D投資は「住まいのプラットフォーム化」の深化と「グローバル展開の技術的基盤整備」に重点配分される計画である。直近のR&D支出は年間約105億円規模で推移しており 11、これは住宅セグメントへの集中度としては高い水準である。
今後のロードマップにおける重要なマイルストーンとして、2025年2月に「知的財産室」が「知的財産部」へと昇格・改組されたことが挙げられる 11。これは、グローバル展開とデジタル領域への進出に伴い、知財ガバナンスを経営の重要課題として位置づけたことを意味する。
技術開発の方向性としては、以下の3点が明示されている:
積水ハウスのR&D活動は、純粋な建築技術の研究から、IoT・センシング・生活工学へとその守備範囲を劇的に拡大している。企業の財務データおよび統合報告書から抽出したR&D投資の推移と、その戦略的意図を以下に詳述する。
表1:積水ハウス 研究開発費および関連指標の推移(連結)
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会計年度 (Fiscal Year) |
研究開発費 (R&D Expenses) |
対売上高比率 (R&D to Sales Ratio) |
設備投資額 (Capital Expenditure) |
従業員数 (Employees) |
当該年度の重点投資・開発テーマ (Key R&D Themes) |
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2024 (FY2024) ※一部予測 |
約105億円 11 |
0.3%台 |
未確定 |
30,000人超 |
知財ガバナンス強化(知財部昇格)、循環型建材(House to House)、米国市場向け技術移転 |
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2023 (FY2023) |
105億円 20 |
0.34% |
1,000億円規模 |
29,886人 |
プラットフォームハウス本格展開、生物多様性評価、DXによる業務効率化 |
|
2022 (FY2022) |
95億円 14 |
0.32% |
800億円規模 |
29,000人超 |
ZEHマンション基準対応、メタバース活用住宅提案、海外向けZEH仕様開発 |
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2021 (FY2021) |
88億円 14 |
0.34% |
650億円規模 |
28,000人超 |
非接触センシング技術(HED-Net)、感染症対策住環境、スマートホーム連携 |
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2020 (FY2020) |
87億円 14 |
0.35% |
600億円規模 |
27,000人超 |
プラットフォームハウス構想発表(CES2020)、HED-Net実証実験開始 |
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2019 (FY2019) |
86億円 14 |
0.35% |
550億円規模 |
26,000人超 |
総合住宅研究所の機能強化、AI活用生産システムの導入 |
【データ解説と戦略的意図】
積水ハウスの研究開発費は、過去5年間において安定的かつ漸増傾向にある。金額ベースでは100億円前後で推移しており、対売上高比率では0.3%台となっている。一見すると製造業全体の中では低く見える数値だが、これは住宅産業の特性(現場施工の比重が大きい)を考慮すると、標準的もしくはやや高い水準である。競合の大和ハウス工業が売上5兆円に対してR&D費が約109億円(全社)であることと比較すると 23、住宅セグメントに特化した積水ハウスの投資密度は相対的に高いと言える。
この投資の多くは、京都府木津川市にある「総合住宅研究所」および「住生活研究所」という具体的かつ物理的な研究拠点に集中投下されている 24。2018年に開設された「住生活研究所」は、業界で初めて「幸せ」や「健康」といった無形価値を科学的に検証する施設であり、ここでの研究成果が「プラットフォームハウス」のコンセプト設計に直結している 25。
2020年以降の投資トレンドにおける最大の特徴は、ハードウェア(建材)からソフトウェア(生活データ)へのシフトである。2020年のCES(Consumer Electronics Show)でのHED-Net発表以降、IT・センサー関連の研究開発費比率が高まっていると推測される。また、生産現場においてはAIを活用した自動化システムの導入が進められており、工場での生産性向上(31%向上)や労働時間短縮(9%削減)といった具体的な成果を生み出している 17。これは、労働力不足という社会的課題に対する技術的解答であり、コスト競争力の維持に不可欠な投資となっている。
経営トップの発言からは、技術を単なる機能スペックの競争手段としてではなく、「幸福(Happiness)」という抽象的な顧客価値を実現するための具体的かつ唯一の手段として位置づけていることが確認できる。
仲井 嘉浩(代表取締役社長 CEO)のステートメント(Value Report 2025より引用)
"What can the Sekisui House Group leave for the future? Ultimately, I believe that a company's true purpose is defined by how it confronts this question and brings its answers to life... The core competencies we have inherited from our predecessors—technical expertise, construction capabilities, and customer base—remain our enduring strengths... This is because our strengths represent truly 'unparalleled value'—exceptionally rare even on a global level."
(邦訳:積水ハウスグループは未来に何を残せるのか?...先人から受け継いだコア・コンピタンスである「技術力」「施工力」「顧客基盤」は、我々の不変の強みであり続けます...これらは世界レベルでも極めて稀有な「比類なき価値」を体現しているからです。)
2
この発言は、同社の技術戦略が「継承と進化」のバランスの上に成り立っていることを示している。創業以来の強みである「技術力(Technical Expertise)」を維持しつつ、それを現代の課題である「未来への責任(環境・社会課題)」に適用していくという姿勢である。
また、グローバル戦略においては、以下の野心的な目標が掲げられている。
技術戦略の方向性(Integrated Report 2024より)
"Make Sekisui House technologies the global de facto standard."
(積水ハウスの技術を、世界のデファクトスタンダードにする。)
27
この「技術のデファクトスタンダード化」という文言は、単に高品質な住宅を作るだけでなく、同社の技術仕様(SHAWOODの接合技術や、ZEHの断熱基準、生物多様性評価手法など)を、国際的な標準規格として普及させようとする強い意志を示している。特に米国市場においては、M&A先のビルダーに対して積水ハウスの生産技術や管理手法を移植(Transplanting)することが成長戦略の柱として明記されており、技術移転そのものがビジネスモデルの一部となっている 2。
積水ハウスの技術ポートフォリオは、ハードウェアとしての「筐体技術(Material & Structure)」と、ソフトウェアとしての「生活技術(Sensing & Data)」の二層構造で強固に構成されている。これらは相互に補完し合い、他社が模倣困難な製品力を生み出している。
表2:重点技術領域とプロジェクトカタログ
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技術領域 (Category) |
プロジェクト・製品名 (Project/Product) |
技術的特徴・仕様 (Technical Specs) |
関連特許・技術要素 (Related IP/Tech) |
ビジネスへの貢献 (Business Impact) |
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Health Tech |
Platform House (HED-Net) |
非接触センサーによる生体データ取得(心拍・呼吸)。急性疾患(脳卒中等)の予兆検知アルゴリズム。緊急通報センターとのAPI連携。 |
IPC: G08B(警報システム)、A61B(診断)。宅内早期発見ネットワーク技術。 |
サービス収益(月額課金)の創出。医療機関・警備会社との連携エコシステム構築。 |
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Material Tech (Steel) |
Dyne Concrete (ダインコンクリート) |
鉄骨住宅「イズ・シリーズ」専用外壁。プレキャストコンクリート。手彫りの質感を工業製品で再現。独自の「タフクリア」塗装。 |
耐火性能:隣家火災840℃に対し室内側壁面温度100℃以下を維持。耐衝撃性・高耐久性。 |
高価格帯商品(イズ・ステージ等)の差別化。メンテナンスコスト低減訴求による受注増。 |
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Material Tech (Wood) |
Bellburn (ベルバーン) |
木造住宅「SHAWOOD」専用陶版外壁。焼き物(セラミック)素材。1100℃焼成。 |
高硬度・耐候性。独自の金具施工による耐震追従性(ロッキング工法)。 |
木造住宅における「メンテナンスフリー」の実現。他社木造との圧倒的差別化。 |
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Seismic Tech |
SHEQAS (シーカス) / Hybrid Sheqas |
地震動エネルギー吸収システム。粘弾性ダンパー。 |
地震エネルギーを熱エネルギーに変換。変形量を約50%低減。国土交通大臣認定。 |
「安全・安心」ブランドの根拠。大地震後の補修費用極小化を訴求。 |
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Green Tech |
Green First Zero (ZEH) |
断熱、省エネ、創エネの統合制御。アルゴンガス封入複層ガラス。 |
太陽光発電と蓄電池の最適制御ロジック。断熱気密施工技術。 |
戸建住宅の96%がZEH化。環境意識の高い顧客層の獲得と補助金活用。 |
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Bio Tech |
Gohon no Ki (5本の樹) |
生物多様性定量評価アルゴリズム。 |
琉球大学との共同研究による「ネイチャー・ポジティブ」効果の数値化手法。 |
住宅の環境価値を定量化し、ESG投資呼び込みや分譲地の付加価値向上に寄与。 |
【詳細解説:プラットフォームハウスとHED-Netの技術的優位性】
積水ハウスの技術戦略の中で最も革新的かつ異質なのが「HED-Net(In-Home Early Detection Network)」である。これは、住まい手がウェアラブルデバイスを装着することなく、壁や天井に埋め込まれた非接触センサーが心拍数や呼吸数を常時モニタリングする技術である。
【詳細解説:外壁材(ダインコンクリート・ベルバーン)の内製化と優位性】
競合他社が外壁材を建材メーカー(ニチハやケイミュー等)から調達するケースが多い中、積水ハウスは主力商品の外壁を自社工場(静岡工場、東北工場など)で製造している。これは「技術のブラックボックス化」による競争優位性の源泉となっている。
【詳細解説:耐震技術(シーカスと基礎ダイレクトジョイント)】
積水ハウスの安全性へのコミットメントを象徴するのが耐震技術である。
積水ハウスの知財活動は、量的な拡大よりも、自社のブランド価値とサービスモデルを守るための「質的な独占」に重きを置いている。
表3:積水ハウス 知的財産権保有状況(2025年1月時点)
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知財区分 (IP Category) |
保有件数 (Count) |
主要分類 (Top Classifications) |
トレンド・特徴 (Trend & Characteristics) |
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特許権 (Patents) |
1,059件 (国内) / 4,700件超 (グローバル) |
IPC E04 (Building/Construction)
IPC G08 (Signaling/Alarm)
IPC A61 (Medical/Hygiene) |
構造系(E04)が基盤だが、近年はセンシング・制御(G08)およびヘルスケア関連(A61)の出願が増加。HED-Net関連の基本特許網が強固。米国での特許出願も増加中。 |
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意匠権 (Designs) |
409件 |
住宅外観、内装部品、外壁テクスチャ |
ブランドの視覚的アイデンティティ(外壁のデザインパターンなど)を保護。模倣品排除に活用。ベルバーンのデザインパターンなども保護対象。 |
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商標権 (Trademarks) |
多数保有 |
SHAWOOD, PLATFORM HOUSE, DYNE CONCRETE, AIRKIS, GOHON NO KI |
製品ブランド名の保護。特に海外展開における「SHAWOOD」のブランド保護を強化し、グローバルブランド化を推進。 |
【データ分析:IPC分類のシフトと技術重心の変化】
特許分類(IPC)の分析からは、積水ハウスの技術的関心が「建築物の物理的構造(E04B, E04D)」から「情報システムとしての住宅(G06Q, G08B)」へ拡張していることが明確に読み取れる。
積水ハウスの知財は、単なる機能保護にとどまらず、新たな収益源泉である「プラットフォームビジネス」の参入障壁として機能している。
積水ハウスは「技術の内製化」を基本としつつも、IT・医療領域および急速な海外展開においては、積極的な外部リソースの活用(オープンイノベーション)とM&A戦略を採用している。
表4:主要な技術提携・M&Aおよび共同研究パートナーシップ
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パートナー企業/機関 (Partner) |
形態 (Type) |
提携・買収の目的と戦略的狙い (Strategic Objective) |
関連技術・プロジェクト (Related Tech/Project) |
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M.D.C. Holdings, Inc. (米国) |
買収 (M&A) |
全米トップクラスのビルダー(トップ10圏内)を買収し、積水ハウスの技術(SHAWOOD、施工管理)を米国市場で大量展開するためのプラットフォーム獲得。サプライチェーンの統合。 |
米国版SHAWOOD、木造住宅施工合理化技術、サプライチェーンマネジメント。 |
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Woodside Homes (米国) |
買収 (M&A) |
西海岸エリアでの事業基盤獲得。日本流の「カスタマー・フォーカス」な家づくりとZEH技術の米国移植。 |
ZEH (Net Zero Energy) 技術の米国展開、Bellburn外壁の導入、Chōwaプロジェクト。 |
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慶應義塾大学 (理工学部/病院) |
共同研究 |
HED-Netにおける生体データ解析アルゴリズムの開発、および医学的エビデンスの確立。 |
Platform House, HED-Net, 医療連携プロトコル。 |
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日本電気 (NEC) |
共同研究 |
空間センシング技術、AIによる行動解析技術の住宅適用。 |
HED-Netのセンサーシステム、プライバシー保護技術。 |
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日立製作所 (Hitachi) |
共同研究 |
住宅IoTプラットフォーム、データ連携基盤の構築。 |
スマートホーム基盤、生活データ管理システム。 |
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琉球大学 (University of the Ryukyus) |
共同研究 |
都市の生物多様性評価手法の確立。 |
「5本の樹」計画、ネイチャー・ポジティブ評価アルゴリズム。 |
【詳細解説:米国市場への技術移植(Transplanting Technology)】
積水ハウスのグローバル戦略の中核は、買収した現地ビルダー(Woodside Homes, MDC)に対し、積水ハウスの技術DNAを移植することにある。これは単なる資本参加ではなく、技術移転によるバリューアップ戦略である。具体的には、日本で培った「SHAWOOD」のプレカット技術や専用金物、そして外壁材「ベルバーン」を米国市場に持ち込んでいる。
その象徴的な事例が、ラスベガスに建設されたコンセプトホーム「Chōwa(調和)」である。このプロジェクトでは、日本の耐震技術、ZEH性能、そしてベルバーン外壁が実装され、現地の建築賞(PCBC Gold Nugget Awards)を受賞するなど、技術的優位性が実証された 33。これにより、現地ビルダーは「他社にはない高品質な住宅」を販売することが可能となり、積水ハウスは自社部材の輸出拡大を実現している。
現時点での主要な特許係争や、経営に重大な影響を与える訴訟案件については、公開されているIR資料および主要な法的データベースからは特筆すべき「係争中」の案件は確認されていない(Not Disclosed)。ただし、過去においては一般的な建築特許に関する異議申し立て等は通常の企業活動の範囲内で存在すると推定されるが、経営上の重大リスクとして開示されているものはない。
積水ハウスは「HED-Net」などの新規性の高い技術に関して、基本特許を早期に抑えることで、他社の参入を牽制する戦略を採っており、これが係争リスクの低減に寄与している可能性がある。
積水ハウスは、知財を経営の重要資源と位置づけ、ガバナンス体制の強化を図っている。特筆すべきは、2025年2月付で従来の「知的財産室」を「知的財産部」へ昇格・改組した点である 11。
積水ハウスの技術戦略の特徴を浮き彫りにするため、主要競合である大和ハウス工業、および技術志向の強い旭化成ホームズ(旭化成グループ)と比較を行う。
表5:主要競合3社のR&D・技術・財務指標比較(直近決算年度・連結ベース)
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指標 (Metric) |
積水ハウス (Sekisui House) |
大和ハウス工業 (Daiwa House) |
旭化成 (Asahi Kasei) ※Homes部門 |
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売上高 (Net Sales) |
約3.1兆円(2023年度) |
約5.4兆円(2023年度) |
約3.0兆円(全社)/ 住宅部門は約9,000億円規模 |
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R&D費用 (R&D Expenses) |
約105億円 |
約109億円(全社) |
全社約1,100億円(住宅部門は約46億円 37) |
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技術的焦点 (Tech Focus) |
「住生活ソフト・HED-Net」
木造(SHAWOOD)・鉄骨(Is)併用
外壁内製化 (ベルバーン/ダイン)
プラットフォームハウス構想 |
「多角化・工業化建築」
物流・商業施設重視
ロボット施工・物流DX
プレハブ工法の量産性追求 |
「素材・ロングライフ」
ヘーベルハウス (ALCコンクリート)
鉄骨重視・都市型3階建
ロングライフ(60年点検) |
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ZEH/環境 (Green Tech) |
ZEH比率 96% (業界最高水準)
生物多様性 (5本の樹) |
ZEH-M (マンション) 推進
環境エネルギー事業(再エネ発電) |
断熱性能強化 (ネオマフォーム)
レジリエンス住宅 |
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海外戦略 (Global Tech) |
米国・豪州へ自社技術移転
SHAWOODの現地生産・販売
MDC買収による供給網拡大 |
世界26ヶ国展開
不動産開発・工業団地開発主導
現地ニーズに合わせた開発 |
北米・豪州でのM&A
建材供給ビジネス
現地ビルダー買収 |
【詳細比較分析】
積水ハウスが発表している長期ビジョンに基づき、今後の技術開発のマイルストーンを整理する。
本調査において、以下の事項についてはIR資料および特許データベースからの確認が不十分、あるいは企業側が開示していない(Not Disclosed)。今後の継続的なモニタリングが推奨される。
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本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。
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ご利用にあたって
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