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「うちの子、なんか変わった気がする」──その"気がする"を大事にしていい理由

体験教室から帰ってきた子どもの顔が、なんとなくいつもと違う。

スイミングの帰り道、「今日ね、25メートル泳げたんだよ」ではなく、「今日ね、○○くんと一緒にやったんだよ」と話し始める。ピアノの発表会のあと、上手に弾けたかどうかより、「楽しかった」とだけ言って、夜ごはんをたくさん食べる。工作教室で作った作品を、何日も机の上に飾っている。

こういう変化を、親は確かに感じ取っています。

でも、それを誰かに説明しようとすると、言葉が足りない。「なんか、前より積極的になった……ような気がする」「自信がついた……んじゃないかな」「特に変化は感じられないけど、楽しそうに通っている」。

同じような声は、あちこちで聞こえてきます。断定ではなく、「〜ような感じがします」「〜という印象は持っています」という、保留つきの言い方。これは、変化がないのではありません。確かに何かが起きています。でも、それをふだんの言葉で人に伝えるのが難しいだけなのです。

なぜ、言葉にしにくいのか

テストの点数が上がれば、「学力が伸びた」と言えます。タイムが縮まれば、「速くなった」と言えます。でも、「帰ってきたときの顔つきが違う」「以前より自分から動くようになった」「失敗しても泣かなくなった」──こういう変化には、日常で使える便利な言葉がありません。

教育の研究では、テストで測れるような知識や計算力を「認知能力」と呼び、それ以外の力をまとめて「非認知能力」と呼んでいます。

粘り強さ、自信、協調性、好奇心、感情のコントロール……ぜんぶ「非認知能力」です。

ただ、この言葉には2つの問題があります。

まず、名前がわかりにくい。「認知じゃない能力」と言われても、何のことだかピンとこない。

次に、入れ物が大きすぎる。何十もの力をひとまとめにしているので、「お子さんの非認知能力が伸びています」と言われても、具体的に何が育っているのかは伝わりません。「お子さんは健康です」と言われるようなもので、間違ってはいないけれど、答えにもなっていない。

親が「気がする」としか言えないのは、語彙が足りないからではありません。入れ物の名前はあるけれど、中身を説明するちょうどいい言葉が、ふだんの生活のなかに存在しないからです。

入れ物の中身を開けてみる

では、「なんか変わった気がする」の中身は、具体的に何なのか。

「非認知能力」という大きな入れ物を開けると、親が日常で観察している変化に対応する力が見えてきます。大きく4つに分けられます。

「自分を整える力」 ── 感情を落ち着かせる、気持ちを切り替える、自分の状態を自分で把握する。親の目には、「前より泣かなくなった」「癇癪が減った」「切り替えが早くなった」として映ります。

「人と関わる力」 ── 協力する、相手の気持ちを想像する、自分の考えを伝える。親は「お友だちと楽しそうにやっている」「自分から話しかけるようになった」と語ります。

「学び続ける力」 ── 自分にもできそうだと思う感覚、簡単に諦めない粘り強さ。「自分から練習するようになった」「目標を持つようになった」「最後までやりきった」という親の観察はここです。

「新しいものを生み出す力」 ── 好奇心、発想、「やってみたい」という気持ち。「こんな表現もするんだ、と驚いた」「自分のイメージを絵にできるようになった」というアート系の親の声は、まさにこれです。

こう整理してみると、親が「気がする」と保留つきで語っていた変化は、大切な変化に気づいていたことがわかります。研究者が質問紙やテストで一生懸命測ろうとしているものを、親は日々の表情と会話から感じ取っていたわけです。

「見えない」は「育っていない」ではない

目に見えにくい成長を大切にする子育てで最もしんどいのは、その価値を、自分だけが信じて走り続けることかもしれません。

テストの点数なら夫婦で共有できます。偏差値ならおじいちゃん、おばあちゃんにも伝わります。でも「最近、なんか前向きになった気がする」は、一緒に暮らしている人にしかわかりません。配偶者との温度差、周囲のママ友・パパ友との比較、「受験もあるのにこのままでいいの?」という焦り。こういう不安は、見えない成長を信じていればいるほど、強くなります。

ただ、ひとつ知っておいてほしいことがあります。

この分野の研究で繰り返し確認されているのは、目に見えにくい力ほど、長い時間をかけて人生に効くということです。テストの点数は短期で変動しますが、「自分にもできる」という感覚や、「失敗しても立て直せる」という経験は、10年後、20年後の選択に影響します。

つまり、今見えにくいのは当然なのです。すぐに数字に出る成長と、ゆっくり根を張る成長は、時間のスケールが違うだけです。

「気がする」は、もっと信じていい

もし今、お子さんの変化を「なんか変わった気がする」としか言えなくて、それが不安だとしたら、少しだけ安心してほしいと思います。

「気がする」は、あいまいなのではありません。ひとつの大きな言葉では言い表せないほど、具体的に子どもを見ているということです。

子どもの表情、帰り道の会話、家での過ごし方──親が一番近くで見ているからこそ気づける変化があります。それは、テストの点数のように他人に証明する必要はないけれど、確かにそこにある成長です。

次にお子さんの変化に気づいたとき、「これは4つのうちどれだろう」と考えてみてください。"気がする"の輪郭が、少しだけはっきりするかもしれません。


テクノプロデューサーは、発明と知財を軸に、企業の人材育成を支援する会社です。
「考える力を育てる」をテーマに20年以上活動するなかで、子どもの教育にも取り組みを広げています。

このコラムでは、教育研究や弊社の知見をもとに、
「言葉にしにくい教育の価値」を言葉にする記事を発信していきます。
ご紹介したい活動や気になっているテーマがあれば、お気軽にお知らせください。


執筆:内山和彦|テクノプロデューサー株式会社。二児の父。教育と人材育成の現場で得た知見を活かし、「教育を言葉にする」ことをテーマにコラムを執筆。

監修:楠浦崇央|テクノプロデューサー代表・発明塾塾長。発明塾を通じて15年以上、企業の人材育成に携わる。京都大学非常勤講師。

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