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みんな同じ教科書で学ぶ時代は終わる? 〜Googleが開発した「Learn Your Way」〜

子どもの学習もAIで分析

学校は、道徳や社会性を学んだり、友達ができたり、さまざまな体験ができるかけがえのない場所であると思います。

ただ、学習の習得面だけを考えると、子どもたちの能力や習得スピードがそれぞれ違うなかで、一つの教科書、集団授業で全員が満足する学習にするのは限界がありますよね。

近年、学習塾では形態として個別指導型のシェアが伸びているそうです(学習塾の現状と今後)。
特に、個別指導型塾では、AIによる学習分析と個別カリキュラム+先生(人間)による個別指導という、ハイブリッドで行うところも増えてきているようです。効率的に個人の能力に合わせて学習効率が高い指導を行えるということも、シェアが伸びている一つの要因かもしれません。


そうすると、学校の授業もそのような「個別型」を取り入れて授業をする未来もあるのではないか…。
そんなことを考えて調べていたところ、Googleの研究チームが今年9月に、生成AIを活用する学生向けの教科書となる「Learn Your Way」というシステムを発表していて、その研究実験の技術レポートも出ていました。

今回はそのご紹介です。レポートタイトルは「Towards an AI-Augmented Textbook」(AI拡張教科書を目指して)です。
※翻訳や要約はすべてNotebookLMを使用しています。

 

Googleがつくる“あなた専用”の教科書「Learn Your Way」

まず、レポートの概要です。

本稿は、生成AIを活用して教科書を強化し、学習体験を個別化するアプローチである『Learn Your Way』システムについて概説している。
このシステムは、教科書の内容を学習者のレベルや興味に合わせて書き換え(テキストの個別化)、さらにスライド、音声レッスン、マインドマップなど複数の形式に変換して提供することで、学習効果の向上を目指す。
記事では、教育専門家による評価を通じて各コンポーネントの質を検証するとともに、従来のデジタルリーダーと比較したランダム化比較試験の結果を報告し、「Learn Your Way」が即時および長期的な学習効果を統計的に有意に向上させたことを示している。
最終的に、本システムは生成AIが教育における個別化された適応学習を実現する可能性を実証している」

 

簡単に説明すると、Googleは生成AI(特にGemini2.5Pro)を活用し教科書を自動的に変換・拡張することでパーソナライズされたAI教科書」を実現する方法を提案している、ということです。
それが「Learn Your Way」というシステムで、学習者一人ひとりに合わせて内容や形式・難易度を調整できる教育体験を提供できるものだと書いています。

また、同じ内容の教科書データを用いて、従来型のデジタルリーダーと比較実験した結果、学習効果が上がった、とも書いています。

ここで記載されている「従来のデジタルリーダー」とはAdobe Acrobat Readerのことです。単に従来型の教科書をPDFなどの形式で閲覧するということです。

 

AIが一人ひとりの興味に合わせて授業を変える

では、具体的にどんなものなのでしょう。
論文によると以下の2段階のプロセスからできています

  1. テキストの個別化(Text Personalization): まず、元の教科書の内容を学習者の特定の属性に合わせて書き換える

  2. コンテンツの変換(Content Transformations): 個別化されたテキストを基に、複数の表現形式を作成します。これにより、学習者は自身の学習パスを選択する裁量(エージェンシー)を持つことができ、自己調整学習(SRL)をサポートする

 

もう少しわかりやすく説明すると、まず、個人に合わせて、例えば難しい言葉は平易な言葉に書き換え、説明部分なら好きなことに関連付けて書き換えてくれます(テキストの個別化)。
そして次に自分専用になったテキストをスライドや音声レッスンなど、その人が理解しやすい形式に変えてくれるというものだというわけです。


論文にある例を挙げると「例えばニュートンの、ある物体が別の物体に力(作用)を及ぼすとき、必ずそれと同じ大きさで逆向きの力(反作用)が、最初の物体に及ぼされるという『作用・反作用の法則』を教える時、バスケ好きな人には『リバウンドでジャンプする際の地面があなたを押し返してくれる力だ』、と説明したり、アート好きな人には『彫刻家が粘土をこねる時の手応えのこと』というように説明する」と書いています。

そして、パーソナライズされた専用のテキストは、さらに移動中に聞ける音声レッスンになったり、スライドにまとめたり、確認クイズとして出したり、個人が習得し、記憶に残りやすい形式にして情報を提供する仕組みになっているということです。

 

「Learn Your Way」が見せた驚きの結果

Learn Your Wayが本当に役立つものなのでしょうか。

論文では15~18歳の高校生60人の対象に、従来型のデジタルリーダーとLearn Your Way使用者とに分かれて、全く同じ内容の勉強をしてもらい、純粋にツールの違いが結果にどう出るかを見る実験を行っています。
結果は以下のようでした。

  1. 教育学的専門家による評価
    複数の教育学の専門家が、Learn Your Wayの多様な構成要素(スライド、マインドマップ、タイムライン、クイズなど)の品質を、精度、網羅性、認知負荷、エンゲージメントといった様々な基準で評価

  2. 成果
     Learn Your Wayを使用した学生は、学習直後の「即時評価」および3日後の「定着評価」の両方で、従来型のデジタルリーダーを使用した学生よりも有意に高いスコアを獲得

  3. 学習者の体験
    アンケート調査の結果、Learn Your Wayは従来型のデジタルリーダーと比較して、学習体験を評価するすべての尺度において一貫して肯定的に評価された。例えば、「この教育ツールはテストを受ける自信を持たせてくれた」という項目では、Learn Your Way使用者の100%が同意/強く同意した(従来の教科書は70%)

 

つまり、専門家の評価も、学習成果も、アンケート結果もほぼすべて、Learn Your Wayが高評価、高スコアを出したということですね。

また、アンケートについて論文中からもう少し引用すると、『理解が深まった』と回答した人が97%、『楽しく学べた』と回答した人が90%、『今後も使いたい』と回答した人が93%いた」と書いてありました。専門家の評価や数字だけでなく、学生自身の学習意欲も高かったということですね。

 

実証実験から見えるAI教材の有効性

結果を踏まえ、著者は考察と今後の展望として、以下のように書いています。

「本研究は、生成AIを活用した2段階のアプローチ(Learn Your Way)が、従来の教科書の媒体を再考する可能性を示した。教育学の専門家による評価に加え、実験によって、Learn Your Wayが標準的な教科書と比較して、実際の学生の学習効果を高める可能性が実証された。
参加者の大部分は、パーソナライズされたテキストに加えて少なくとも1つのコンテンツ変換を使用しており、全員が学習セッション中にクイズを利用していた。
この研究は、生成AIが学習全般、特に学習の個別化にもたらす可能性の始まりに過ぎず、将来的には、さらなる学習者属性の探求や、学習プラットフォームへの組み込みなどが期待される」

 

つまり、このシステムと実証実験の結果は、未来の学習が大きく変わるかもしれないほんの始まりで、教育のあり方を根っこから変えてしまうかもしれないくらいの可能性を秘めている、と言っているんですね。

 

AIが変える“学ぶ”という行為の意味

いかがでしたか?
私が印象的だったのは、実証実験の結果について、専門家の評価や数字だけではなく、学生自身の「AI教科書の効果や学習意欲を感じた」という実際の声です。ここに意味があると思いました。勉強するのは子どもですからね。

また、「楽しかった」だけではなく、学習習得で本当に大事なのは、定着したかどうかだと考えるのですが、3日後のテストでも従来型のデジタルリーダーよりLearn Your Way使用の方が高得点だったことにこのツールの可能性を感じます。

未来の学校、学ぶという行為はどんなふうになるのでしょう。近い将来、何十年も変わらなかった学校の授業風景が変わりそうなほどの変化の兆しを垣間見た気がしました。
さらに、このようなツールは学校だけでなく、会社の研修など仕事にも応用できそうですね。

※参考資料 ◾️論文タイトル:Towards an AI-Augmented Textbook ◾️著者:LearnLM Team, Google ◾️発行:Google Report 2025.10.1


この記事のまとめ

  1. 学校教育には価値があるが、学習習得の面では子ども一人ひとりに合わせた個別最適化が必要になっている。
  2. Googleは生成AIを使って学習内容を個別化するシステム「Learn Your Way」を開発した。
  3. このシステムは、学習者の属性に応じてテキストを書き換え、さらにスライドや音声など多様な形式に変換する。
  4. 実験では、高校生60人を対象に従来型教科書と比較し、理解度・定着度ともにLearn Your Wayの方が高かった。
  5. 学習者の満足度も高く、理解が深まった・楽しく学べたと感じる学生が多数を占めた。
  6. AIによる学習の個別化は、「学ぶ」という行為そのものを変える可能性を示している。

文:鈴木素子

 

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