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「どうせ無理」ではなく「だったらこうしてみたら?」 〜ドリームロケットプロジェクト講演会報告〜

植松電機社長の理念とドリームロケットプロジェクト

池井戸潤の小説「下町ロケット」シリーズはご存知でしょうか。10年ほど前には同名でドラマにもなったので覚えている方もいると思います。そのモデルとなったのが植松電機という、ロケット関連や宇宙開発を中心とした研究開発支援を行なっている従業員30人ほどの会社(北海道)です。

同社は教育事業にも尽力しており、ドリームロケットプロジェクトは、その植松電機公認のパートナーとして、主に子供向けの「ロケット教室」の企画・運営を行っている団体です。

「どうせ無理」ではなく「だったらこうしてみたら?」。
これは「できない理由」を挙げるのではなく、「どうすればできるか」を考え続けるという植松電機社長の植松努氏が掲げた会社の理念であり、夢や挑戦を応援する会社として教育事業にも掲げているものです。

今回は、「どうせ無理」ではなく「だったらこうしてみたら?」。一人ひとりが「よりよく」を追求し続ける社会のために、できることは何かー。この問いをテーマに開催されたドリームロケットプロジェクト講演会(9月24日/日比谷図書文化館日比谷コンベンションホール)参加のご報告です。

 

講演会は
第一部 中道春菜さん:植松電機社員
第二部 武田信子さん:臨床心理士、一般社団法人ジェイス代表理事、東京学芸大学教育学部研究員
第三部 安居長敏先生:ドルトン東京学園中等部・高等部校長
第四部 ファシリテーター地神貴史さん(早稲田大学理工センター技術部教育研究支援課長)を交えたトークディスカッション
という四部構成で行われました。 

どの講演も共感する内容でしたが、全部で5時間近くに及ぶ内容を詳細にはお伝えしきれないので、個人的に感銘を受けた箇所、学んだ話を中心にご紹介します。

 

出会いは行動から生まれる 〜中道春菜さん講演〜

最初は中道さんの講演です。中道さんは植松電機の社員で、電磁石やロケット開発に携わり、入社5年目で自分が関わったロケットが大空へ飛ぶ経験もされています。

中道さんは、高校生の頃、家庭環境や経済的不安から進路に迷っていたとき、図書室で目について手に取ったのが植松努社長の本『NASAより宇宙に近い町工場』。その本の中の「諦めなくていい」という言葉に強く心を動かされたそうです。
そこで、勇気を出して県外まで一人で講演会を聴きに行き、その行動が憧れの植松社長との出会いにつながり、のちに植松電機に入社するきっかけとなったそうです。

現在、子ども向けのロケット教室も担当されていて、子どもたちに「失敗はデータ」ということを伝えているそう。挑戦に失敗はつきもの。でも「だったらこうしてみたら」と、工夫を重ねることで、できなかったことができるようになる。その経験こそが本当の自信を育てる、と仰っていました。

 

失敗はデータ。恐れずに踏み出せばいい仲間と出会える

中道さんが繰り返し伝えていたのは、夢は就職や職業に限定されるものではなく、「これが好き」という気持ちの延長線上にある、ということそして、好きなことに素直になり、失敗を恐れず一歩を踏み出す。そうすれば必ず仲間や応援者と出会い、社会を少しずつよりよくしていける、と強調されていました。。

また、出会いは、偶然ではなく「行動の結果」として生まれるもの。「好き」を大事にすることや、自分がどうしたかを考え積み重ねることで、いい出会いがあり、仲間ができ、社会をよりよくしていけるのだと仰っていました。

講演では、自身の家庭環境についても率直に語られ、不安定な生活の中で心が限界に達し家を離れた経験から、「逃げていい。逃げることは悪くない。自分を守ることこそ大切だよ」、と語られていたことも印象的でした。


夢を追いかける途中でたくさんの迷いや我慢や挫折を数多く経験してきた人だからこそ語れる、等身大で心強いメッセージでした。

 

日本は大人の都合で子供を育てていないか? 〜武田信子さん講演〜

第二部の武田信子さんの講演です。
「『よりよく』を追求する社会とは何か」を参加者と共に考える場として開かれ、子どもと教育をめぐる問題や、社会的マルトリートメント(個人が属する社会の当たり前とされる価値観や習慣が、社会的弱者の幸福を阻害する状況)、民主主義と子育てについて話をしていただきました。

武田さんはまず、日本社会では「よりよく」という言葉が「収入や学歴、地位を得ること」と狭く解釈されがちな現状を指摘されています。

日本は大人の都合で子供を育てていないか? 教育の目的は、誰か一人が突出することではなく、社会全体が安心し幸福を感じられる状態、すなわちウェルビーイングに近づくことではないか、と問いかけていました。

また、オランダやデンマークでは地域や社会全体で子どもを育てるという文化があり、そのような文化では親の過干渉や教育虐待もおこりにくい。日本もそのような意識が不可欠なのではないか、と問いかけていました。

 

子供とともに育む「民主主義」

武田さんの話の中で、特に印象的だったのは、「民主主義を子どもにどう伝えるか」というテーマです。デンマークの親御さんは、子育てに必要なことは何か?と質問すると「民主主義を教えること」と答えるそうです。

武田さんは、民主主義の本質は「対話と協議、相互理解」。意見が異なるときに、互いの声を聞き合い、より良い方法を模索し続ける。この営みこそが民主主義であり、それは日々の暮らしの中で体験的に学んでいくものだ、と強調されていました。

例えば、母親が『右足が赤い靴、左足が青い靴だよ。こう履かないと滑ってしまうよ』と注意しても、子どもが『左右逆にして履きたい』と主張したとき、親はあえて試させてみる。子どもはやっぱり滑って転ぶ。それで、次に母親の言う通りに履いてみたら上手に歩けた。子どもは、そうやって自分の意見と他人の意見を比較し学んでいく。失敗を恐れずこうした日常の小さな経験の積み重ねが、子どもに民主主義的な感覚を根づかせる」と言っていました。

 

また、日本の教育や子育てが「一本道の成功モデル」に偏り、多様な生き方を認めにくくしている点も問題視されていました。学力や偏差値の競争が強調される一方で、子どもの精神的な健康や幸福感は国際的に低い水準にあることをデータで示し、これは個々の家庭の問題ではなく、社会全体が抱える構造的な課題「社会的マルトリートメント(社会的虐待)」であると語っていました。

どうすれば「よりよく」へと向かえるのかは、親が全責任を背負うのではなく、地域や社会全体で子どもを育てる文化を取り戻す必要がある、と。


「よりよく」を追求する社会とは、だれか一人の成功物語ではなく、互いの声に耳を傾けながら全体がより良く生きる道を模索し続ける営みだという、武田さんの言葉は、私たち大人が、自らの価値観を問い直し、子どもと共に新しい学びの形をつくっていくための大きな示唆を与えてくれました。

 

学校の役割は「大学合格」ではなく「生きる力のOSをインストールすること」 〜安居長敏先生講演〜

第三部の講演は安居長敏先生です。安居先生は今日本の教育制度がAIの急速な進化している現代社会と合わなくなっていることの問題点と、校長を務めるドルトン東京学園の取り組みについて話されていました。

最初、安居先生は、日本の教育制度は戦後復興を支えた6・3・3制で80年きているが、今や制度疲労を起こしていると話します。

教育は効率化ではなく、非効率な経験や失敗を通して人間性を育む営みのはず。それにもかかわらず、現在の学校は一律のレールに子どもを乗せ、テストによって「できる・できない」でラベリングしてきた、と指摘。入試がゴールとなり、学びそのものが目的化されていないことが大きな課題であり、その結果、子どもや保護者の多くが「先が見えない不安」にとらわれてしまった、と強調されていました。

 

では教育はどう変わるべきなのでしょうか。安居先生は、自らが校長を務めるドルトン東京学園の取り組みを紹介してくれました。

 

未来を共につくるドルトン東京学園の挑戦

2019年に開校した、中高一貫校のドルトン東京学園。同校は「子どもの自由と主体性を尊重し、異年齢が協働して学ぶ仕組みを整えている学校で、学校ではチャイムや定期テストを廃止し、探究型学習や選択制カリキュラムを取り入れているそうです。

安居先生は「目指すのは大学合格ではなく、自主性・社会性・創造性という“生きるためのOS”を子どもに育てることだ」と力を込めて仰っていました。

また、教師や大人の役割についても言及がありました。「教師は知識を教える人ではなく、子どもと共に考え、支え、軌道を修正する伴走者であるべきだ」と述べられました。子どもの可能性を信じ、失敗を見守り、必要なときだけ手を差し伸べることが大切だと強調されていました。

講演の最後には、「教育は正解を教え込む場ではなく、未来を共につくる場である」と改めて語り、そして「大人が少しマインドを変えるだけで教育は大きく変わる」と力強く訴えていました。


実際に教育の現場に携わり、新しい教育への挑戦を行っている安居先生。「教師や保護者が少しマインドをかえるだけで教育は大きく変わる可能性がある」というメッセージに考えさせられました。

最後のファシリテーター地神貴史さんを交えたトークディスカッションでは、参加者からの質問に答える形で行われ、「進路選択は多様であってよい」「小さな行動や対話が社会を変える力になる」といったことを話されていました。

 

今回の講演は大変学ぶことが多かった講演で、ドリームプロジェクトの活動と講演がもっと多くの人に広まってほしいと思っています。子どもも大人も、挑戦から生まれる小さな成功の積み重ねが大きな未来、よりよい未来をつくると信じています。

 


この記事のまとめ


植松電機の理念とドリームロケットプロジェクト
「どうせ無理」ではなく「だったらこうしてみたら?」という考え方を掲げ、挑戦を応援する教育活動を展開。ドリームロケットプロジェクトはその理念を子どもたちに伝える活動を担っている。
・中道春菜さん講演
植松社長の本との出会いから人生が変わり、行動が出会いを生み出すことを体験。「失敗はデータ」と捉え、挑戦を通じて自信と仲間を得られることを強調した。
武田信子さん講演
日本社会は「大人の都合」で子どもを育てていると批判。教育は一人の成功ではなく社会全体のウェルビーイングを目指すべきであり、民主主義的な対話や相互理解を子育てに根づかせる必要性を説いた。
安居長敏先生講演
日本の教育制度は時代に合わなくなっており、テスト偏重から「生きる力=OS」を育む教育への転換が必要。ドルトン東京学園では探究型学習や自由・主体性を尊重する取り組みを実践していると紹介。
全体のメッセージ
講演会全体を通して、挑戦や行動の積み重ねが出会いや学びを生み、社会をよりよく変えていく力になることが示された。子どもも大人も共に未来をつくる仲間であるという希望が語られた。

文:鈴木素子


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