3行まとめ
中期経営計画「YX2026」と連動し、年間50件以上の重要テーマを知財部門と事業部門が共同設定
横浜ゴムは2007年から「知的財産ポートフォリオ推進プログラム」を全社展開し、特許権と意匠権を組み合わせる「権利ミックス」や毎年の有効性評価によるポートフォリオの継続的な最適化を実践している。
AI利活用構想「HAICoLab」で人間のひらめきとAIのデータ処理能力を協奏させ、非連続的イノベーションを創出
2020年に実用化された独自フレームワーク「HAICoLab」は、テストコースの走行データやシミュレーションの仮想データを統合し、ゴム材料の最適配合やトレッドパターン設計など10年以上の計算科学の蓄積を活かした研究開発を推進している。
FY2025は売上・利益ともに過去最高を更新、売上収益1兆円規模の事業体へ成長
FY2024実績で売上収益1,094,746百万円を計上し、FY2025上半期も前年同期比10.3%増の成長を維持。GoodyearのOTR事業買収やEV向け「E+マークタイヤ」の開発加速など、M&Aと気候変動対応を両輪に中計「YX2026」の最終年度目標を上方修正した。
横浜ゴム株式会社は、創業時より継承する「心と技術をこめたモノづくりにより、幸せと豊かさに貢献する」という基本理念を経営の根幹に据え、次なる100年に向けた事業基盤の強化と変革を推進している。同社の知的財産戦略は、単なる技術の保護という枠組みを超え、中期経営計画「Yokohama Transformation 2026(YX2026)」と密接に連動する極めて重要な経営戦略として位置づけられている。この戦略的統合を具現化する中核的なメカニズムが、2007年から全社的に展開されている「知的財産ポートフォリオ推進プログラム」である。本プログラムの運用において、知的財産部門は独立して機能するのではなく、各事業部門との緊密な協働体制を構築しており、年間50件以上におよぶ重要テーマを共同で設定している。このプロセスでは、全社的な経営戦略、各事業部門の事業戦略、および中長期的な技術・商品戦略を踏まえたうえで、知的財産部門が社内外の技術動向や市場環境を定期的に収集・分析し、特許、意匠、商標などの最適な権利取得方針を事業部門に対して能動的に提案するアプローチが採用されている。さらに、個別の開発テーマにおいては、単一の特許権への依存を避け、特許権と意匠権などを複合的に組み合わせる「権利ミックス」の検討を含む統合的な知的財産活動が展開されている。このような多角的なアプローチにより、技術開発の成果を多面的に保護し、事業活動を強力にバックアップする体制が確立されている。また、保有する知的財産権に対しては、毎年その有効性や費用対効果を厳格に評価するプロセスが導入されており、維持コストの最適化を図ると同時に、事業の競争優位性を担保するために不可欠な権利の入れ替えやポートフォリオの再構築が継続的に実行されている。1
横浜ゴム株式会社における研究開発戦略の最大の特徴は、データサイエンスと人工知能(AI)を高度に統合した独自の研究開発フレームワークの実用化にある。同社は10年以上にわたり、計算科学や機械学習をゴム高分子材料などの基盤技術開発に応用するための研究を蓄積しており、その集大成として2020年より独自のAI利活用構想「HAICoLab(ハイコラボ)」を本格的に稼働させている。「Humans and AI collaborate for digital innovation」を語源とするこのフレームワークは、AIによる単なるプロセスの自動化を目的とするものではなく、人間の特性に深く着目している点に独自性がある。具体的には、技術者や研究者が経験を通じて培った「人間特有のひらめき」や「発想力」と、「AIが得意とする膨大なデータ処理・予測能力」を協奏させることにより、従来の延長線上にはない新たな発見を促し、不連続かつ急進的なイノベーションを創出することを目指している。このプロセスにおいては、テストコースでの走行試験結果や製造現場での加工条件といった「現実のデータ(リアルデータ)」と、コンピュータ・シミュレーションによって生成される「仮想データ」を収集・統合し、AIを用いて高度な予測、分析、および探索が実行される。ここから得られた新たな知見は、タイヤ技術の革新に直接的にフィードバックされ、競争力の源泉となっている。さらに同社は、過去の製品テスト結果、ラボにおけるサンプル試験結果、シミュレーション結果、製造条件など、多岐にわたる膨大なR&Dデータを一元的に管理・活用するためのプラットフォーム構築を推進している。このデータ基盤の整備により、技術者がより容易にデータへアクセスできる環境を提供し、個々のスキル向上を促進するとともに、従来は技術者個人の「暗黙知」として留まっていた高度な技能を定量化し、組織的な技能伝承を実現することが今後の重要課題および対応策として明確に位置づけられている。2
多様化する世界の市場ニーズに迅速かつ的確に対応するため、横浜ゴム株式会社は「地産地消」を基本テーマに掲げ、グローバルな研究開発および製品評価ネットワークの構築を推進している。同社の研究開発活動の総本山であり、基礎研究から応用技術までのハブとして機能しているのが、神奈川県の平塚製造所内に設置された研究開発センター「RADIC(ラディック)」(1991年建設)である。ここでは、ゴム高分子技術をはじめとする基盤技術の探求から、次世代を見据えた新素材の開発、さらには最新のシミュレーション技術を駆使した商品設計が行われている。この日本国内の中枢機能を補完し、各地域固有の環境や顧客要求に密着した開発を推進するため、同社は海外の主要市場にも重要な研究開発拠点を展開している。具体的には、アジア地域の開発ハブとしてタイに「Tire Test Center of Asia」、中国市場のニーズに対応する「Yokohama China Technical Center」、および北米市場向けの技術開発を牽引する米国ノースカロライナ州の「Yokohama Development Center America」が設置されている。これらの拠点で生み出された新技術や製品設計は、世界各地に配置された専門的なテストコースにおいて、極めて厳密な実証評価を受ける。評価拠点としては、国内の茨城県に位置する「D-PARC(ディー・パーク)」や、冬季路面での性能を評価する「北海道タイヤテストセンター」が稼働している。さらに海外においては、タイの「Tire Test Center of Asia」が多角的なテストを実施しているほか、寒冷地における過酷な条件での氷雪上性能を検証するため、スウェーデンに「Yokohama Test Center of Sweden」が整備されている。これら世界中のテストコースでの過酷な走行試験から得られた精緻なデータは、前述のAIフレームワーク「HAICoLab」に継続的に取り込まれ、解析・学習されることで、次なるタイヤ開発の品質向上と開発期間の短縮という好循環を生み出している。2
横浜ゴム株式会社の技術開発および知的財産活動を支えるのは、継続的な成長を示す強固な財務基盤と、戦略的なM&Aを通じた事業ポートフォリオの最適化である。第149期有価証券報告書の連結財務諸表(IFRS)における「主要な経営指標等の推移」によれば、対象期間であるFY2024実績の売上収益は1,094,746百万円、税引前利益は115,359百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は74,919百万円に達しており、1兆円規模の事業体を形成している。続く第150期半期報告書(対象期間:2025年1月1日〜2025年6月30日)においても、売上収益は前年同期比10.3%増の579,201百万円、事業利益は同13.8%増の62,119百万円と、力強い成長軌道を維持している。この業績拡大の背景には、既存事業の強化に加え、大規模なM&Aによる非連続な成長戦略が存在する。第150期半期の対象期間中、同社はJapan Giant Tire Co., Ltd.およびGoodyear Earthmover Pty Ltdの全株式を取得して完全子会社化し、さらにメキシコにおいてYokohama Tire Manufacturing Mexico S.A. DE C.V.を新設して連結範囲に含めている。セグメント別に見ると、売上収益の90.4%を占める中核の「タイヤセグメント」は、日本および中国での新車用タイヤの好調(特に中国のNEVs向け)や、欧州・アジアでの高インチ市販用タイヤの拡販、さらには2025年2月に買収が完了したGoodyearのOTR(Off-The-Road)事業の収益寄与により、売上収益523,556百万円(FY2025第2四半期累計実績)を記録した。一方、「MB(マルチプル・ビジネス)セグメント」は、国内建設機械向けホースの需要減などにより売上収益は微減(51,316百万円、FY2025第2四半期累計実績)となったものの、コンベヤベルト等の高付加価値製品への注力により事業利益は前年同期比52.3%増の大幅な改善を見せている。さらに2026年2月19日の公式発表によれば、FY2025の連結決算において売上・利益ともに過去最高を更新し、中期経営計画「YX2026」の最終年度目標の上方修正が行われている。1
技術経営の観点において、横浜ゴム株式会社は知的財産権の厳格な保護と、地球環境課題への積極的な対応を、サステナビリティ戦略の重要な両輪として位置づけている。リスクマネジメントの領域では、研究開発の各フェーズにおいてFTO(Freedom to Operate:侵害予防)調査を体系的に実施し、他者の知的財産権を侵害するリスクを未然に排除する仕組みが確立されている。同時に、自社のブランド価値と消費者の安全を脅かす第三者の知的財産権侵害行為に対しては、断固たるエンフォースメント(権利行使)活動を展開している。その具体例として、2023年11月には、同社が権利を有するアルミホイールの模倣品に対して行政摘発を実施した事実が報告されており、厳格な法的措置を通じて市場の健全性とブランドの信頼性を保護している。一方、気候変動対応については、2022年1月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明し、全社的なガバナンス体制を構築している。代表取締役会長CEOを議長とするCSR会議や、環境推進会議を通じて、気候変動が事業に及ぼすリスクと機会の定量的なシナリオ分析(1.5℃および4℃シナリオ)を実施している。移行リスクとしてカーボンプライシングの導入やMaaSの普及に伴う需要構造の変化を認識する一方で、電気自動車(EV)向け専用要件を満たす「E+マークタイヤ」の開発・投入や、再生可能素材を活用した新製品の提供を通じて、気候変動対応そのものを新たな市場機会(ビジネスチャンス)として捉え、知的財産戦略および研究開発活動の方向性と完全に同期させている。このように、攻め(新たな環境対応技術の創出と権利化)と守り(侵害予防とエンフォースメント)を統合した技術経営が実践されている。2
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発行体(会社名) |
ドメイン |
文書名/ページ名 |
発行日/公表日 |
種別 |
URL |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
統合報告書 2024 (p01-25) |
2024年度版 |
統合報告書 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2024/p01-25.pdf |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
統合報告書 2024 (p44-45) |
2024年度版 |
統合報告書 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2024/p44-45.pdf |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
統合報告書 2025 (p45-46) |
2025年度版 |
統合報告書 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2025/p45-46.pdf |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
第149期 第2四半期 半期報告書 |
2024年08月09日 |
法定開示 |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
第149期 有価証券報告書 |
2025年03月28日 |
法定開示 |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
第150期 第2四半期 半期報告書 |
2025年08月12日 |
法定開示 |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
ニュースリリース(統合報告書2025) |
2025年07月31日 |
公式ニュース |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
ニュースリリース(FY2025連結決算等) |
2026年02月19日 |
公式ニュース |
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横浜ゴム株式会社 |
y-yokohama.com |
主な事業拠点 |
該当記載なし |
公式サイト |
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案件名 |
Announcement |
Effective(Event) |
Completion |
Start |
状態ラベル |
根拠 |
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知的財産ポートフォリオ推進プログラムの展開 |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
2007年 |
稼働/提供開始 |
2 |
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TCFD提言への賛同表明 |
2022年1月 |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
完了 |
5 |
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AI利活用構想「HAICoLab」の実用化 |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
2020年 |
稼働/提供開始 |
2 |
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アルミホイール模倣品に対する行政摘発 |
調査範囲内では確認できず |
2023年11月 |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
完了 |
2 |
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第149期有価証券報告書の提出 |
調査範囲内では確認できず |
2025年3月28日 |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
完了 |
4 |
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統合報告書2025の発行 |
2025年7月31日 |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
完了 |
7 |
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第150期半期報告書の提出 |
調査範囲内では確認できず |
2025年8月12日 |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
完了 |
5 |
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FY2025連結決算およびYX2026上方修正発表 |
2026年2月19日 |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
調査範囲内では確認できず |
完了 |
6 |
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国 |
特許番号 |
発明名称(公式表記) |
正本一次情報(ページ名) |
出願人または権利者 |
扱い |
根拠URL |
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日本 |
特許第6081644号 |
調査範囲内では確認できず |
フリマサイト(非公式) |
未確認 |
今回の調査では未確認 |
(注:フリマサイトに「センサータイヤ」の特許表示があるものの、公式一次情報または公的DBにおける出願人・権利者の照合ができないため、当社特許ポートフォリオの根拠としては採用せず「今回の調査では未確認」として取り扱う。)
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名称 |
根拠ページ名 |
URL |
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研究開発センター「RADIC(ラディック)」 |
統合報告書 2025 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2025/p45-46.pdf |
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Tire Test Center of Asia |
統合報告書 2025 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2025/p45-46.pdf |
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Yokohama China Technical Center |
統合報告書 2025 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2025/p45-46.pdf |
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Yokohama Development Center America |
統合報告書 2025 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2025/p45-46.pdf |
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D-PARC(ディー・パーク) |
統合報告書 2025 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2025/p45-46.pdf |
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北海道タイヤテストセンター |
統合報告書 2025 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2025/p45-46.pdf |
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Yokohama Test Center of Sweden |
統合報告書 2025 |
https://www.y-yokohama.com/sustainability/information/backnumber/pdf/2025/p45-46.pdf |
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名称 |
根拠ページ名 |
URL |
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Yokohama Tire Manufacturing Virginia, LLC |
主な事業拠点 |
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Yokohama Tire Manufacturing Mississippi, LLC |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS North America, Inc. Charles City Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS North America, Inc. Spartanburg Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS Brazil Industria e Comercio de Borrachas e Polimeros Ltda. Feira De Santana Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS S.p.A. Tivoli Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS Slovenija d.o.o. Kranj Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS Serbia d.o.o. Ruma Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS Czech Republic a.s. Otrokovice Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS Czech Republic a.s. Prague Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS Czech Republic a.s. Zlin Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS Latvia LSEZ SIA Liepaja Plant |
主な事業拠点 |
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LLC Yokohama R.P.Z. |
主な事業拠点 |
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Yokohama India Pvt. Ltd. |
主な事業拠点 |
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ATC Tires Private Ltd. Tirunelveli Plant |
主な事業拠点 |
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ATC Tires Private Ltd. Dahej Plant |
主な事業拠点 |
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ATC Tires AP Private Ltd. Visakhapatnam Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS LK (Pvt.) Ltd. Malwana Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS Tyres Lanka (Pvt.) Ltd. / Yokohama TWS Lanka (Pvt.) Ltd. Sapugaskanda Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama Tire Manufacturing (Thailand) Co., Ltd. |
主な事業拠点 |
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Suzhou Yokohama Tire Co., Ltd. (蘇州優科豪馬輪胎有限公司) |
主な事業拠点 |
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Hangzhou Yokohama Tire Co., Ltd. (杭州優科豪馬輪胎有限公司) |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS (Hebei) Co. Ltd. Hebei Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama TWS (Xingtai) Co. Ltd. Xingtai Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama Tire Philippines, Inc. |
主な事業拠点 |
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Yokohama Tyre Vietnam Inc. |
主な事業拠点 |
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Alliance Tire Company Ltd. Head office, Hadera Plant |
主な事業拠点 |
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Yokohama Industries Americas Ohio Inc. |
主な事業拠点 |
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Yokohama Industries Americas Inc. |
主な事業拠点 |
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Yokohama Industries Americas de Mexico, S. de R.L. de C.V. |
主な事業拠点 |
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PT. Yokohama Industrial Products Manufacturing Indonesia |
主な事業拠点 |
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Yokohama Rubber (Thailand) Co., Ltd. |
主な事業拠点 |
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Shandong Yokohama Rubber Industrial Products Co., Ltd. (山東横浜橡胶工業制品有限公司) |
主な事業拠点 |
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Hangzhou Yokohama Rubber Products Co., Ltd. (杭州優科豪馬橡胶制品有限公司) |
主な事業拠点 |
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Shieh Chi Industrial Co., Ltd. (協機工業股份有限公司) |
主な事業拠点 |
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Y.T. Rubber Co., Ltd. |
主な事業拠点 |
横浜ゴム株式会社は、創業時から連綿と受け継がれる基本理念として「心と技術をこめたモノづくりにより、幸せと豊かさに貢献する」ことを宣言している。この理念は単なるスローガンではなく、同社が次なる100年に向けて、未知なる道の先駆けとなるためのあらゆる企業活動の指針として機能している。代表取締役会長CEOの山石昌孝氏は、統合報告書におけるメッセージの中で、現在の売上規模が過去の6,000億円水準から事業買収などを経て1兆円規模へと急拡大している状況に触れている。この急激な組織拡大と海外売上の増加に伴い、企画から開発、生産、物流、販売に至るバリューチェーン全体での意思疎通において「間延びしている部分」が生じているという経営課題を明確に認識している。そのため、企画部門、営業部門、マーケティング部門の変革を先行して進めるとともに、技術部門および生産部門においても一層の意識改革が不可欠であると位置づけ、これらの課題に本気で取り組むために新たな責任者を配置するなどの組織的な変革を推進している。1
このような全社的な事業構造の改革、すなわち中期経営計画「Yokohama Transformation 2026(YX2026)」が推し進める「深化×探索」の戦略において、知的財産戦略はイノベーションの実現と持続的な事業成長を支える最重要の経営基盤として位置づけられている。同社の知的財産活動の目的は、単に生み出された技術を特許として出願することにとどまらない。知的財産に関する活動の継続的な見直しと強化を行い、常に全社最適化された知的財産体制を構築することが目指されている。具体的には、研究開発活動の成果である新技術や新素材を権利化し、独自技術を保護することで市場における競争優位性を確立するとともに、ROI(投資利益率)の最大化に資する合理的な知的財産ポートフォリオを構築することが、同社の知財戦略の核心である。M&Aによって新たに横浜ゴムグループに加わった企業群(Yokohama TWSやGoodyearのOTR事業部門など)については、基本的には各事業会社が主体となって独自の知的財産活動を推進する方針が採られているが、グローバル展開を加速する中において、本社側の専門的な知的財産部門がグループ横断的なサポートを提供する体制が整備されている。1
経営戦略と研究開発活動を高度に統合し、実効性のある権利網を構築するための具体的な枠組みとして、横浜ゴム株式会社は2007年より「知的財産ポートフォリオ推進プログラム」を継続的に展開している。このプログラムは、知的財産部門が単独で特許実務を行うのではなく、事業の最前線に立つ事業部門と緊密に連携する点に特徴がある。具体的には、知的財産部門と各事業部門が共同で、事業戦略上極めて重要とされるテーマを年間50件以上(数十の重要テーマ)設定している。テーマの設定においては、全社的な経営戦略、各部門の事業戦略、および中長期的な技術・商品戦略が綿密に擦り合わせられる。そのうえで、知的財産部門が社内外の最新の技術状況や競合他社の動向を能動的かつ定期的に収集・把握し、特許、意匠、商標などの権利取得方針を事業部門に対して直接アプローチ・提案することで、総合的かつ戦略的な知的財産活動を通じた事業のバックアップが行われている。2
このプログラムに基づく活動は、「権利取得内容の統合化」と「権利の有効性管理」という2つの実務的側面を持っている。第一の側面として、個別の技術テーマに関して、単一の特許権による保護にとどまらず、技術構造を保護する特許と、製品の視覚的デザインを保護する意匠権とを意図的に組み合わせる「権利ミックス(Rights Mix)」の検討が積極的に行われている。これにより、競合他社による模倣を多角的に防ぎ、製品のライフサイクル全体を通じて競争力を維持する強固な防壁が構築されている。また同時に、新製品の開発や新たな市場への参入に際して、他社が保有する知的財産権を侵害してしまうリスクを未然に排除するため、開発の各フェーズにおいてFTO(Freedom to Operate:侵害予防)調査が徹底されている。第二の側面として、すでに保有している特許や意匠などの知的財産権群に対して、毎年その有効性や事業への貢献度を評価するモニタリングプロセスが導入されている。この評価結果に基づき、陳腐化した権利や事業方針から外れた権利を放棄し、代わりに新たな競争力の源泉となる権利を取得するという継続的な見直しと入れ替えが実施されており、これにより権利維持コストの最適化とポートフォリオの質の向上が図られている。2
横浜ゴム株式会社の技術力を牽引するもう一つの柱が、データサイエンスと人工知能(AI)を融合させた独自の研究開発基盤である。同社は、多様化する顧客の要求性能に応えるため、タイヤ、ホース配管、工業資材といった幅広い分野において、ゴム高分子技術をはじめとする広範な技術の研究開発に取り組んでいる。その一環として、10年以上にわたって計算科学および機械学習を材料開発に応用するシミュレーション技術の蓄積を続けてきた。この長年にわたるデジタル技術開発の集大成として、2020年から実用化されたのが、AI利活用構想「HAICoLab(ハイコラボ)」である。HAICoLabは、「Humans and AI collaborate for digital innovation」という概念に由来する造語であり、AIによる完全な自動化を目指すものではなく、人間の思考特性とAIの処理能力の融合を主眼としている。熟練の技術者や研究者が有する「人間特有のひらめき」や「発想力」と、「AIが得意とする膨大なデータの処理・予測能力との協奏」を通じて、従来のアプローチでは到達し得ない新たな発見を促し、不連続な急進的イノベーションを創出することが同フレームワークの最大の目的である。2
HAICoLabの実践的なプロセスにおいては、テストコースでの実車走行データや製造工場での生産条件などの「現実のデータ(リアルデータ)」と、コンピュータ上の精緻なシミュレーションによって生成・収集される「仮想データ」が統合的に活用される。これらの多次元のデータをAIモデルに入力し、予測、分析、および広大な解空間の探索を実行することで、ゴム材料の最適な配合比率や、タイヤの新しいトレッドパターンの設計などに関する新たな知見が導き出される。ここで得られた知見は、直ちにタイヤの技術開発の革新プロセスに適用されている。さらに、同社は今後の研究開発部門における重要課題として、これまでに蓄積された膨大なR&Dデータ(過去の製品テスト結果、ラボでのサンプル試験結果、シミュレーションの実行結果、および製造・加工条件のログなど)を、より効果的に統合・活用するためのプラットフォームの構築を進めている。このプラットフォームにより、世界中の技術者が必要なデータにシームレスにアクセスできる環境を整え、個人のデータ解析スキルの向上を図るとともに、長年の経験に基づく「暗黙知」を定量化し、次世代の研究者への確実な技能伝承を実現することを目指している。2
先進的な知財ポートフォリオ構築とAI技術の活用を物理的な環境で実証・展開するために、横浜ゴム株式会社は「地産地消」というテーマに基づいた広範なグローバル研究開発および評価ネットワークを構築している。研究開発の中枢機能は、日本国内の神奈川県に所在する平塚製造所内に設置された研究開発センター「RADIC(ラディック)」が担っている。1991年4月に建設されたこの施設は、基礎となるゴム高分子技術の研究から、既成概念にとらわれない斬新な発想に基づく新素材の開発、さらには商品設計に至るまで、全社の技術開発を統括する役割を果たしている。一方、グローバルな事業展開を支えるためには、世界各地で異なる気象条件、路面状況、および地域特有の顧客ニーズを迅速に製品開発に反映させる必要がある。そのため、同社は海外の主要地域における研究開発活動を積極的に強化しており、これまでにタイにおいてアジア地域の拠点となる「Tire Test Center of Asia」、中国市場向けの技術開発を担う「Yokohama China Technical Center」、そして北米の自動車市場に近接した米国ノースカロライナ州の「Yokohama Development Center America」をそれぞれ設立し、現地主導の開発体制を敷いている。3
これらの国内外の研究開発拠点で設計された試作タイヤや新素材は、シミュレーション上の評価にとどまらず、世界各地に配置された専用のテストコースにおいて徹底的な実証評価を受ける。日本国内の評価拠点としては、茨城県に位置する総合的なテストコースである「D-PARC(ディー・パーク)」や、冬季路面環境に特化した「北海道タイヤテストセンター」が機能している。海外においては、タイの「Tire Test Center of Asia」が熱帯地域やアジア特有の路面条件での走行試験を実施している。さらに欧州では、極寒冷地における氷上および雪上性能の限界をテストするため、スウェーデンに「Yokohama Test Center of Sweden」が設けられている。これら4カ国にまたがる各テストコースにおいて、高速走行、耐久性、制動性能など多角的なテストが反復して実施され、そこで得られた膨大なテストデータは即座にデータベースへ蓄積される。蓄積されたテスト結果は、前述の「HAICoLab」システムを通じてAIによる解析に回され、次世代タイヤの設計パラメータの最適化や新素材の配合改善に直接活かされるという、高度に統合された研究開発サイクルが実現されている。2
研究開発によって生み出された技術を市場へ供給するための基盤として、横浜ゴム株式会社は世界各地域に強固な生産ネットワークを構築している。海外における生産拠点は、主力のタイヤ事業、MB(マルチプル・ビジネス)事業、および原材料調達部門に大別される。タイヤ事業の北米・南米地域(米州)においては、米国にYokohama Tire Manufacturing Virginia, LLC、Yokohama Tire Manufacturing Mississippi, LLC、およびYokohama TWS North America, Inc.のCharles City PlantとSpartanburg Plantが生産・販売拠点として稼働しており、ブラジルにはYokohama TWS Brazil Industria e Comercio de Borrachas e Polimeros Ltda.(Feira De Santana Plant)が位置している。欧州地域においては、イタリアのYokohama TWS S.p.A.(Tivoli Plant)、スロベニアのYokohama TWS Slovenija d.o.o.(Kranj Plant)、セルビアのYokohama TWS Serbia d.o.o.(Ruma Plant)、チェコのYokohama TWS Czech Republic a.s.(Otrokovice Plant、Prague Plant、Zlin Plantの3拠点)、ラトビアのYokohama TWS Latvia LSEZ SIA(Liepaja Plant)、およびロシアのLLC Yokohama R.P.Z.がそれぞれ生産を担い、欧州市場への安定供給体制を敷いている。8
アジア地域(タイヤ事業)の生産拠点は極めて多岐にわたる。インドにおいてはYokohama India Pvt. Ltd.に加え、ATC Tires Private Ltd.のTirunelveli PlantおよびDahej Plant、ならびにATC Tires AP Private Ltd.のVisakhapatnam Plantが大規模な生産活動を行っている。スリランカではYokohama TWS LK (Pvt.) Ltd.(Malwana Plant)およびYokohama TWS Tyres Lanka (Pvt.) Ltd.(Sapugaskanda Plant)が稼働している。東南アジアでは、タイのYokohama Tire Manufacturing (Thailand) Co., Ltd.、フィリピンのYokohama Tire Philippines, Inc.、ベトナムのYokohama Tyre Vietnam Inc.が重要な輸出・域内供給拠点として機能している。世界最大の自動車市場である中国においては、蘇州のSuzhou Yokohama Tire Co., Ltd.(蘇州優科豪馬輪胎有限公司)、杭州のHangzhou Yokohama Tire Co., Ltd.(杭州優科豪馬輪胎有限公司)、さらにYokohama TWSのHebei Plant(河北)およびXingtai Plant(邢台)が生産を担っている。中東地域には、イスラエルにAlliance Tire Company Ltd.(Head office, Hadera Plant)が配置されている。8
一方、多角化領域であるMB(マルチプル・ビジネス)事業の生産拠点として、米州では米国のYokohama Industries Americas Ohio Inc.とYokohama Industries Americas Inc.、およびメキシコのYokohama Industries Americas de Mexico, S. de R.L. de C.V.が展開している。アジアでは、インドネシアのPT. Yokohama Industrial Products Manufacturing Indonesia、タイのYokohama Rubber (Thailand) Co., Ltd.、中国のShandong Yokohama Rubber Industrial Products Co., Ltd.(山東)およびHangzhou Yokohama Rubber Products Co., Ltd.(杭州)、台湾のShieh Chi Industrial Co., Ltd.(協機工業)がホース配管や工業資材を生産している。また、これらの生産網を下流から支える上流の原材料調達拠点として、タイに天然ゴム加工工場であるY.T. Rubber Co., Ltd.が設置されており、原材料の安定確保から最終製品の出荷に至るまでの垂直統合的なサプライチェーンが構築されている。8
高度な研究開発とグローバル生産体制への投資を支える源泉として、横浜ゴム株式会社は極めて強固な財務基盤と業績成長を実現している。第149期有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」セクションに記載された連結財務諸表(IFRS準拠)の数値によれば、売上収益は1,094,746百万円(対象期間FY2024実績)、税引前利益は115,359百万円(対象期間FY2024実績)、親会社の所有者に帰属する当期利益は74,919百万円(対象期間FY2024実績)、親会社の所有者に帰属する当期包括利益合計額は173,585百万円(対象期間FY2024実績)をそれぞれ計上している。同年度末における総資産は1,735,544百万円(対象期間FY2024末実績)、親会社の所有者に帰属する持分比率は51.51%(対象期間FY2024末実績)、基本的1株当たり当期利益は467.81円(対象期間FY2024実績)であった。この期間の投資活動によるキャッシュ・フローは1,392百万円の支出超過(対象期間FY2024実績)となっている。なお、提出会社単体の第149期実績としては、売上高458,857百万円(対象期間FY2024実績)、経常利益103,857百万円(対象期間FY2024実績)、当期純利益125,462百万円(対象期間FY2024実績)、1株当たり配当額98.00円(中間配当46.00円を含む)が報告されている。4
直近の半期実績を示す第150期半期報告書の連結損益計算書等の数値によれば、売上収益は579,201百万円(対象期間第150期半期実績)となり、前年同期の525,283百万円から10.3%の堅調な増加を示している。売上収益から売上原価および販売費・一般管理費を差し引いた事業利益は62,119百万円(対象期間第150期半期実績)となり、前年同期の54,567百万円から13.8%の増益となった。一方で、営業利益は54,858百万円(対象期間第150期半期実績、前年同期比2.5%減)、親会社の所有者に帰属する中間利益は35,535百万円(対象期間第150期半期実績、前年同期比23.7%減)となっている。同半期末の総資産は1,843,577百万円、親会社の所有者に帰属する持分は870,231百万円(持分比率47.20%)に達している。キャッシュ・フロー計算書によれば、同期間の営業活動によるキャッシュ・フローは税引前利益や減価償却費の計上により25,273百万円の収入(対象期間第150期半期実績)となり、投資活動によるキャッシュ・フローは子会社を含む事業買収の支出等により190,346百万円の支出(対象期間第150期半期実績)、財務活動によるキャッシュ・フローは有利子負債の増加等を主因として139,712百万円の収入(対象期間第150期半期実績)を計上した結果、現金及び現金同等物の期末残高は96,014百万円となっている。5
事業セグメント別の状況について、同半期報告書のセグメント情報によれば、中核となる「タイヤセグメント」は売上収益523,556百万円(対象期間第150期半期実績、前年同期比11.5%増)を記録し、連結売上収益全体の90.4%を占めている。事業利益も56,595百万円(対象期間第150期半期実績、前年同期比9.5%増)と好調である。この成長の要因として、新車用(OE)タイヤにおいては日本および中国市場での販売が堅調に推移し、特に中国では新エネルギー車(NEVs)向けの販売拡大が寄与した。市販用(リプレイスメント)タイヤ分野では、国内での需要増に加え、欧州およびアジア市場での高インチ商品の拡販戦略が成果を上げている。また、OHT(Off-Highway Tires)分野においては、農業機械用タイヤの市場環境が依然として厳しいものの「Mitas」ブランドが欧州および北米で回復基調を示したことに加え、2025年2月に買収を完了したGoodyearのOTR(Off-The-Road)事業の新規連結が売上高の増加に大きく貢献した。一方、「MB(マルチプル・ビジネス)セグメント」の売上収益は51,316百万円(対象期間第150期半期実績、前年同期比0.5%減)と微減であった。これはホース配管事業において国内の建設機械向け需要の低下や北米自動車メーカー向けの販売減が影響したためである。しかしながら、工業資材事業において国内市場シェアトップを維持するコンベヤベルトの安定した需要や、マリンプロダクツ(海洋関連製品)の販売好調に支えられ、セグメントの事業利益は5,157百万円(対象期間第150期半期実績)となり、前年同期比で52.3%増という大幅な収益性改善を達成している。さらに、2026年2月19日の公式リリースにおいて、FY2025の通期連結決算が売上・利益ともに過去最高を記録し、5期連続の増収増益を達成したことが発表されるとともに、中期経営計画「YX2026」の最終年度目標を上方修正する経営判断が示されている。5
知的財産戦略や研究開発の成果を滞りなく製造・販売に結びつけるためには、原材料の安定的かつ持続的な調達基盤が不可欠である。横浜ゴム株式会社は、純然たる投資目的ではなく、取引先との円滑な事業関係の維持およびサプライチェーンの強靭化を目的とした「特定投資株式」の保有を戦略的に行っている。第149期有価証券報告書の記載によれば、同社はタイヤ等の主原料である合成ゴムの供給元である日本ゼオン株式会社の株式を2,139,400株(対象期間FY2024末実績、評価額3,207百万円)保有し、安定調達の確保に努めている。同様に、ゴム製品の物性を左右する配合剤の供給元として株式会社ADEKAの株式を443,200株(対象期間FY2024末実績、評価額1,255百万円)保有し、またタイヤの骨格を形成する主原料であるスチールコードの供給元として東京製綱株式会社の株式を267,121株(対象期間FY2024末実績、評価額349百万円)保有している。これらの株式保有は、研究開発部門が要求する高品質な原材料を継続的かつ安定的に調達するためのコーポレートガバナンスの一環として機能している。また、同社の資本基盤を支える株主構成(2025年6月30日時点)の状況として、日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)が18.37%、株式会社日本カストディ銀行(信託口)が14.50%、朝日生命保険相互会社が6.91%を保有し、上位株主を構成していることが報告されており、安定した株主構成を背景に中長期的な技術開発投資が実行可能となっている。4
近年、気候変動への対応は製造業における技術開発の最重要テーマとなっており、横浜ゴム株式会社においても経営の根幹をなす課題として位置づけられている。同社は2022年1月に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を公式に表明した。これを契機として、代表取締役会長CEOを議長とし、年2回(5月および11月)開催されるCSR会議を通じて、サステナビリティに関する方針決定とガバナンスの強化を図っている。さらに、CSR本部長を委員長とする環境推進会議を設置し、その配下に4つの委員会と2つの部会を設けることで、環境活動の実務的な実行と管理を推進している。取締役会に対しては、サステナビリティに関する重要事項が年4回以上報告・付議される体制が構築されている。5
同社の気候変動リスクマネジメントの核となるのが、IEA(国際エネルギー機関)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が提示する「1.5℃シナリオ」および「4℃シナリオ」を用いた精緻なシナリオ分析である。この分析を通じて、将来事業に影響を及ぼす重大なリスクと機会が特定されている。重大な「移行リスク」としては、カーボンプライシングの導入による直接的なコスト増加、化石燃料由来の資源・原材料価格の高騰、さらにはMaaS(Mobility as a Service)の進展に代表される自動車産業のビジネスモデル転換に伴う製品需要の構造的シフトが想定されている。また、重大な「物理的リスク」としては、異常気象の激甚化によるサプライチェーンの分断や生産設備の損壊、気候変動に起因する天然ゴムの生育環境悪化・資源枯渇リスク、ならびに降雪量の減少による高収益な冬用タイヤの需要低下が挙げられている。一方で、これらの環境変化は同社の研究開発力と知的財産を活かす「機会」としても認識されている。具体的には、電気自動車(EV)特有の要求性能(航続距離延長のための転がり抵抗低減、バッテリー搭載による高荷重への対応、静粛性の向上等)を満たす「E+マークタイヤ」の開発を加速し、市場へ早期投入することによるシェア拡大が重要な成長機会とされている。また、生産工程における年間1%のエネルギーコスト削減活動による経費圧縮や、再生可能素材・リサイクル素材を積極的に活用した競争力のある新製品の提供が、同社のサステナビリティ戦略と技術・知財戦略が交差する重点領域として推進されている。5
技術開発による価値創造と並行して、その価値を毀損から守るための厳格なリスクマネジメントも、横浜ゴム株式会社の技術経営における重要な責務である。自社が多大な投資を行って構築したブランド価値の維持と、何より顧客の安全を確保するため、同社は第三者による自社の知的財産権の侵害行為に対して、断固たる姿勢で法的措置を講じる方針を明確にしている。この知財エンフォースメント(権利行使)の具体的な実践例として、2023年11月に実施された行政摘発の事例が報告されている。この事案では、同社が意匠権などの知的財産権を保有するアルミホイールのデザインを無断で模倣した製品に対し、行政機関と連携した摘発が実行された。自動車の重要保安部品であるホイールの模倣品は、外観が似ていても同社の厳格な品質基準や安全基準を満たしていない可能性が極めて高く、使用中の破損等により消費者の生命や安全を直接的に脅かすリスクを孕んでいる。したがって、このような模倣品の流通を市場から排除する活動は、単なる企業の利益保護(売上機会の損失防止)という経済的な動機にとどまらず、ブランドに対する社会的信頼の保護、および品質保証の観点から不可欠なプロセスとして位置づけられている。このように、FTO調査による「侵害予防」と、法的措置による「権利行使」を統合的に運用することで、同社はグローバル市場における競争優位性とブランド・エクイティを確固たるものにしている。2
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