3行まとめ
「ユニット体制」と「知財戦略会議」で事業横断の知財ガバナンスを確立、特許庁長官表彰を受賞
出光興産は事業部・研究所・知財部の三者で構成される知財戦略会議と、事業特性に応じて柔軟に組み替えるユニット体制を導入。燃料油ではクロスライセンス、潤滑油ではグローバル特許網、有機ELでは相互利用型提携と、領域ごとに最適化した知財戦略を展開し、平成30年度に特許庁長官表彰を受賞した。
売上高9.19兆円・営業CF4,767億円の財務基盤が、国内外17研究拠点の技術投資を支える
第110期(2025年3月期)の連結売上高は9,190,225百万円、営業活動キャッシュ・フローは476,742百万円を記録。この財務基盤のもと、千葉県袖ケ浦市の次世代技術研究所や電子材料開発センターを含む国内13・海外4の計17研究施設を擁し、知財ポートフォリオの継続的な創出を支えている。
製油所・事業所を次世代エネルギー拠点「CNXセンター」へ転換し、2050年カーボンニュートラルを目指す
既存の製油所インフラを水素・アンモニア・バイオ燃料等の供給基地へ転換する「CNX(Carbon Neutral Transformation)センター」構想を推進。徳山事業所でのCO2フリーアンモニアのサプライチェーン構築や、2025年6月の「姫路蓄電所」運転開始など、技術の社会実装が計画的に進行している。
この記事の内容
出光興産株式会社の知財活動における基幹的な組織体制として、「ユニット体制」および「知財戦略会議」の導入が一次情報において確認される。同社は、祖業である燃料油から先進的な高機能材に至る幅広い事業分野において、各事業の特性や戦略に合わせて柔軟に体制を組み替えることで、効率的な課題解決を図る仕組みを構築している。具体的には、ユニット毎に特許情報の調査・解析、特許出願の権利化等の知的財産活動が実践的に実行されている。さらに、事業部、研究所、知財部の三者によって構成される知財戦略会議において、全社的および事業領域ごとの知的財産活動計画の策定と継続的な実行が推進されている。これらの高度な組織統制と継続的な知的財産活動の成果が評価された結果として、平成30年度には経済産業省特許庁より知的財産権制度活用優良企業等表彰における「特許庁長官表彰」を受賞した実績が公式ニュースリリースにて公表されている。全社的な企業価値創造の文脈においても、同グループの『出光統合レポート2024』において「新たな価値・事業創出に向けた研究開発」および「知的財産活動」の項目が設けられており、サステナビリティと連動した知財活動が経営の重要課題として位置付けられていることが示されている1。
同社の技術経営の核となる取り組みとして、既存の広範な製油所および事業所群を次世代エネルギーの供給拠点へと転換する「CNX(Carbon Neutral Transformation)センター」化の推進が挙げられる。この取り組みは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた目標の達成を企図し、長年培ってきた既存拠点のインフラを最大限に活用して、水素、アンモニア、バイオ燃料、合成燃料、および再生可能エネルギー等の新たな供給基地を構築する方針である。具体的なプロジェクトの進捗として、徳山事業所においては、CO2フリーアンモニアのサプライチェーン構築や、カーボンニュートラル原料を利用したバイオマス発電所の稼働等のプロジェクトが進行している。また、社会実装の展開として、次世代技術研究所(千葉県袖ケ浦市)の敷地内においては、2024年8月9日に自社拠点の環境負荷低減を目的とした自家消費用太陽光発電所の建設開始が公表された。さらに、電力インフラの高度化に向けて、2025年6月30日には系統用蓄電池を設置した「姫路蓄電所」の運転開始が公表されるなど、インフラ整備と技術の社会実装が連続的かつ計画的に実行されている状況が確認される3。
基幹事業である燃料油および潤滑油分野においては、知的財産活動と強固な製造基盤の連携が事業競争力の中核を担っている。燃料油分野の特許戦略においては、他社との間でクロスライセンス契約を締結し、双方が相手方の特許を利用可能とすることによるコスト削減等の競争力強化が図られていることが公表されている。一方、高度な技術差別化が求められる潤滑油分野においては、冷凍機油等に関するグローバルな特許網が構築され、世界市場における事業展開への直接的な貢献が明示されている。これらの事業を物理的に支える製造インフラとして、国内最大級の処理能力を有する各製油所が稼働している。一例として、愛知事業所は日量165,000バレルの原油精製能力を有し、重質油流動接触分解装置等の高度な設備を用いて、重質油からガソリンや化学原料であるプロピレンを高効率に製造している。このような技術集約的な製造基盤と、戦略的に構築された知財網の組み合わせにより、製品の安定供給と高付加価値化が維持される構造となっている1。
先進マテリアルおよび石油化学製品の領域において、同社は独自の研究開発力と技術力、および蓄積されたノウハウを生かし、持続可能な社会に貢献する材料の開発と供給を推進している。特に高度な技術競争が展開される有機EL事業分野においては、自社単独の権利化にとどまらず、特許を相互に利用する提携関係を国内外の企業と積極的に構築する戦略が示されている。有機EL材料に関連する特定領域の特許を相互に利用可能とする提携契約を締結するなど、開発可能な領域を外部エコシステムを通じて拡大しながら、新たなビジネスの創出と市場の拡大を図る知財戦略が採られている。この分野の製造拠点である千葉事業所においては、年間374,000トンのエチレン製造能力を有する大規模な設備が稼働しており、同地区内には機能材料研究所や生産技術センターが併設され、ユーザーのニーズに直結したシームレスな生産・開発体制が構築されている。徳山事業所においても、国内第2位のエチレン生産能力を有するコンビナートの60%を担う設備基盤が存在し、石油化学事業の競争力を強力に支えている1。
知財および技術戦略を支える財務基盤として、有価証券報告書および決算短信に基づく経営指標の堅調な推移が確認される。第106期(2021年3月期)から第110期(2025年3月期)にかけての連結経営指標等の推移において、売上高は第106期実績の4,556,620百万円から拡大し、第110期(2025年3月期)実績においては9,190,225百万円を計上した。この強固な財務基盤を背景に、広範な研究開発施設ネットワークが維持されている。2024年3月31日時点において、同社グループは国内13拠点、海外4拠点(関連会社を含む)の合計17の研究施設を保有している。千葉県袖ケ浦市には次世代技術研究所や電子材料開発センターが集積し、環境対応技術を担う石炭・環境研究所も近接している。また、生産ラインへの技術実装を担う組織として生産技術センターが設置されている。特定の「連結研究開発費」の総額については調査範囲内では確認できずとするものの、第110期の提出会社の損益計算書における販売費及び一般管理費の実績は385,392百万円と開示されており、この財務の枠組みの中で各種の研究開発活動および知財戦略が遂行されている2。
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発行体(会社名) |
ドメイン |
文書名 |
発行日/対象期間 |
種別 |
URL |
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出光興産株式会社 |
prtimes.jp |
平成30年度 知財功労賞「特許庁長官表彰」を受賞 |
平成30年度内 |
ニュースリリース |
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出光興産株式会社 |
idemitsu.com |
国内外ネットワーク・事業所 |
未公表 |
公式Webサイト |
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出光興産株式会社 |
idemitsu.com |
北海道製油所 |
2025年8月28日 |
公式Webサイト |
https://www.idemitsu.com/jp/business/factory/hokkaido/index.html |
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出光興産株式会社 |
idemitsu.com |
千葉事業所 |
2026年3月5日 |
公式Webサイト |
https://www.idemitsu.com/jp/business/factory/chiba/index.html |
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出光興産株式会社 |
idemitsu.com |
愛知事業所 |
未公表 |
公式Webサイト |
https://www.idemitsu.com/jp/business/factory/aichi/index.html |
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出光興産株式会社 |
idemitsu.com |
徳山事業所 |
2026年1月8日 |
公式Webサイト |
https://www.idemitsu.com/jp/business/factory/tokuyama/index.html |
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出光興産株式会社 |
idemitsu.com |
製油所・事業所一覧 |
未公表 |
公式Webサイト |
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出光興産株式会社 |
idemitsu.com |
ニュースリリース一覧 |
未公表 |
公式Webサイト |
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出光興産株式会社 |
sakurastorage.jp |
出光統合レポート2024 |
2024年 |
統合報告書 |
https://kitaishihon.s3.isk01.sakurastorage.jp/IrLibrary/5019_integrated_2024_x2e7.pdf |
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出光興産株式会社 |
sakurastorage.jp |
有価証券報告書 第110期 |
2025年6月19日 |
法定開示 |
https://kitaishihon.s3.isk01.sakurastorage.jp/IrLibrary/5019_securities_2024_00mk.pdf |
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出光興産株式会社 |
idemitsu.com |
2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) |
2025年5月13日 |
決算短信 |
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案件名 |
Announcement |
Effective(Event) |
Completion |
Start |
状態ラベル |
根拠 |
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系統用蓄電池事業アワード受賞 |
2024/3/26 |
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完了 |
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Skye Renewables Energyへの英国政府系開発金融機関参入 |
2024/3/26 |
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計画/方針 |
4 |
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まいばすけっと・出光興産 川崎市の脱炭素化に向け連携 |
2024/4/24 |
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合意/契約 |
4 |
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次世代技術研究所敷地内で自家消費用太陽光発電所の建設開始 |
2024/8/9 |
- |
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2024/8/9 |
稼働/提供開始 |
4 |
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とちょう電力プラン 卒FIT電力の買い取り受付開始 |
2024/9/19 |
- |
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2024/9/19 |
稼働/提供開始 |
4 |
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令和6年度「電気・ガス料金負担軽減支援事業」 |
2024/11/18 |
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完了 |
4 |
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系統用蓄電池を設置した「姫路蓄電所」の運転開始 |
2025/6/30 |
- |
- |
2025/6/30 |
稼働/提供開始 |
4 |
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国 |
特許番号 |
発明名称(公式表記) |
正本一次情報(ページ名) |
出願人または権利者 |
扱い |
根拠URL |
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未確認 |
今回の調査では未確認 |
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研究開発組織(公式表記) |
根拠ページ名 |
URL |
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次世代技術研究所 |
国内外ネットワーク・事業所 |
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機能材料研究所 |
国内外ネットワーク・事業所 |
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営業研究所 |
国内外ネットワーク・事業所 |
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石炭・環境研究所 |
国内外ネットワーク・事業所 |
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アスファルト技術課 |
国内外ネットワーク・事業所 |
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電子材料開発センター |
国内外ネットワーク・事業所 |
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材料開発センター・生産技術開発センター |
国内外ネットワーク・事業所 |
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生産技術センター |
国内外ネットワーク・事業所 |
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拠点一覧(公式表記) |
根拠ページ名 |
URL |
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北海道製油所 |
国内外ネットワーク・事業所 |
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千葉事業所 |
国内外ネットワーク・事業所 |
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愛知事業所 |
国内外ネットワーク・事業所 |
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徳山事業所 |
国内外ネットワーク・事業所 |
出光興産株式会社の広範な知的財産戦略および技術開発インフラを支える強固な経営基盤は、直近の有価証券報告書等における詳細な財務実績の推移によって確認される。有価証券報告書(提出日2025年6月19日)「第1 企業の概況 1 主要な経営指標等の推移」によれば、第106期から第110期にかけての連結経営指標等の長期的な変動が明記されている5。これらの財務数値は、同社が推進する「CNX(Carbon Neutral Transformation)センター」構想や、各種研究機関への継続的な投資を可能にする原資の規模を示している。
有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」によれば、第106期(2021年3月期)実績として、売上高は4,556,620百万円を計上した。同期間の経常利益実績は108,372百万円、親会社株主に帰属する当期純利益実績は34,920百万円、包括利益実績は44,120百万円であった。純資産額実績は1,215,136百万円、総資産額実績は3,954,443百万円であり、1株当たり純資産額実績は774.34円、1株当たり当期純利益実績は23.49円を記録した。資本効率を示す自己資本比率実績は29.1%、自己資本利益率実績は3.0%であった。キャッシュ・フローの状況においては、営業活動によるキャッシュ・フロー実績が170,466百万円、投資活動によるキャッシュ・フロー実績が△109,851百万円、財務活動によるキャッシュ・フロー実績が△56,227百万円であり、現金及び現金同等物の期末残高実績は130,956百万円であった5。
続く第107期(2022年3月期)においては、有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」によれば、売上高実績は6,686,761百万円へと大幅な成長を示した。経常利益実績は459,275百万円、親会社株主に帰属する当期純利益実績は279,498百万円、包括利益実績は300,114百万円であった。純資産額実績は1,436,512百万円、総資産額実績は4,601,183百万円であり、1株当たり純資産額実績は949.94円、1株当たり当期純利益実績は188.03円へと伸長した。自己資本比率実績は30.7%、自己資本利益率実績は21.8%に上昇した。キャッシュ・フローについては、営業活動実績が146,111百万円、投資活動実績が△111,628百万円、財務活動実績が△30,003百万円であり、現金及び現金同等物の期末残高実績は139,030百万円となった5。
第108期(2023年3月期)においては、有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」によれば、売上高実績は過去最高水準となる9,456,281百万円に達した。経常利益実績は321,525百万円、親会社株主に帰属する当期純利益実績は253,646百万円、包括利益実績は272,406百万円であった。純資産額実績は1,629,308百万円、総資産額実績は4,865,370百万円であり、1株当たり純資産額実績は1,102.05円、1株当たり当期純利益実績は170.67円となった。自己資本比率実績は33.2%、自己資本利益率実績は16.8%を記録した。営業活動によるキャッシュ・フロー実績は△32,844百万円、投資活動によるキャッシュ・フロー実績は70,079百万円、財務活動によるキャッシュ・フロー実績は△90,416百万円であり、現金及び現金同等物の期末残高実績は103,079百万円であった5。
第109期(2024年3月期)の実績として、有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」によれば、売上高は8,719,201百万円であった。経常利益実績は385,246百万円、親会社株主に帰属する当期純利益実績は228,518百万円、包括利益実績は281,544百万円であった。純資産額実績は1,812,531百万円、総資産額実績は5,012,295百万円であり、1株当たり純資産額実績は1,305.18円、1株当たり当期純利益実績は161.32円であった。自己資本比率実績は35.9%、自己資本利益率実績は13.4%となった。営業活動によるキャッシュ・フロー実績は377,391百万円へと大幅なプラスに転じ、投資活動によるキャッシュ・フロー実績は△65,805百万円、財務活動によるキャッシュ・フロー実績は△280,506百万円であり、現金及び現金同等物の期末残高実績は136,517百万円であった5。
直近の第110期(2025年3月期)の実績として、「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」および有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」によれば、売上高実績は9,190,225百万円を計上した。経常利益実績は214,764百万円となり、親会社株主に帰属する当期純利益実績は104,055百万円であった。有価証券報告書の記載によれば、同期の包括利益実績は108,319百万円、純資産額実績は1,737,699百万円、総資産額実績は4,775,586百万円である。1株当たり純資産額実績は1,404.80円、1株当たり当期純利益実績は77.83円であり、自己資本比率実績は36.0%、自己資本利益率実績は5.9%を記録した。キャッシュ・フローの状況は、本業の安定的な資金創出力を示す営業活動実績が476,742百万円を記録し、投資活動実績が△118,514百万円、財務活動実績が△343,450百万円であり、現金及び現金同等物の期末残高実績は142,658百万円となった5。
第110期(2025年3月期)におけるセグメント別の実績について、「2025年3月期 決算短信」の「経営成績等の概況」によれば、電力・再生可能エネルギーセグメントの売上高実績は127,600百万円(前期比△9.9%)、セグメント損益実績は△12,300百万円(前期比△4,700百万円)であった。これはトラブルに伴う調達コストの増加やバイオマス原料コストの増加が要因と公表されている。また、資源セグメント(石油・天然ガス開発事業・地熱事業)における売上高実績は40,400百万円(前期比+5.4%)、セグメント損益実績は18,700百万円(前期比△2.3%)となった6。これらの全社的な財務実績と多額の投資キャッシュ・フローの枠組みの中で、知財・技術戦略に関わる設備投資や研究開発投資が実行されている。なお、個別の「連結研究開発費」の金額については、有報(直近FY)・決算短信(直近4四半期)・統合報告書(直近版)・公式IR/公式ニュース(直近24ヶ月)を確認した範囲では、当該情報を一次情報として特定できない(調査範囲内では確認できず)。しかし、第110期における有価証券報告書「提出会社の損益計算書」上の販売費及び一般管理費の実績は385,392百万円と記載されており、この経費構造の中で技術開発および知財ポートフォリオの維持・強化が図られていることが示されている5。
出光興産株式会社における知的財産活動の強固な基盤として、特許庁長官表彰の受賞理由にも明示された「ユニット体制」の構築と「知財戦略会議」の継続的な運用が確認される。同社は、燃料油分野から高機能材分野までの多岐にわたる事業領域において、各事業の特性や市場戦略に合わせて柔軟に組織体制を組み替えることで、迅速かつ効率的に技術的課題の解決を図る独自のユニット体制を導入している。この体制下において、研究開発の初期段階からユニット毎に特許情報の徹底した調査・解析が実施され、特許出願の権利化に至るまでの一貫した知的財産活動が実行されている1。
さらに、全社的な技術戦略と知財活動を統合する統治機構として、事業部、研究所、知財部の三部門によって横断的に構成される「知財戦略会議」が設置されている。この会議体において、全社的および各事業部門毎の知的財産活動計画が中長期的な視点で策定され、その実行プロセスが厳格に管理・推進されている。同社は長年にわたり、グローバル市場に影響を与える革新的な技術を継続的に創出し、これらの高度な知的財産活動を行ってきた実績が認められ、平成30年度には「知的財産権制度を有効に活用し円滑な運営・発展に貢献のあった企業等への表彰」として、経済産業省特許庁より知財功労賞における「特許庁長官表彰」を受賞したことが公表されている1。
同グループの統合的な情報開示文書である『出光統合レポート2024』(報告対象範囲:原則として2024年6月末時点の出光興産株式会社および出光グループ計248社)においては、「長期的な企業価値創造」という大項目の中に技術経営に関する方針が詳細に組み込まれている。同レポートの構成によれば、「43 新たな価値・事業創出に向けた研究開発」および「45 知的財産活動」という独立した項目が設けられており、全社的なサステナビリティ目標(2050年CN実現に向けた取り組みなど)と連動した知財活動が、企業の長期的な競争力維持のための重要課題として位置付けられていることが確認できる2。
同社の祖業であり、現在も収益の柱となっている燃料油分野および潤滑油分野においては、特許技術の囲い込みと相互活用のバランスを最適化する戦略的なアプローチが採用されている。燃料油分野の知的財産活動においては、他社との間でクロスライセンス契約を締結し、双方が相手方の保有する特許を相互に利用可能とすることにより、事業運営上のコスト削減や、業界全体における技術標準への対応を含めた競争力強化が図られている1。一方で、特殊な配合や製造プロセスによって高度な技術差別化が求められる潤滑油分野においては、冷凍機油等の特定の製品群について、世界市場をカバーするグローバルな特許網が緻密に構築されており、海外市場における事業展開の拡大と利益確保への貢献が明示されている1。
これらの製品群を安定的に市場へ供給するための物理的な製造インフラとして、国内最大級の処理能力を有する各製油所群が機能している。「愛知事業所」は、愛知県知多市南浜町11に位置し、1975年に中部圏および周辺地域へのエネルギー供給基地である「愛知製油所」として操業を開始した施設である。2022年10月1日には愛知事業所へと名称および体制を変更し、北浜地区(2022年10月にENEOS株式会社知多製造所から取得した製造設備)と南浜地区の2拠点で操業している。同事業所の原油精製能力は日量165,000バレルであり、年間生産量は約800万キロリットルに達する。製造される石油製品の90%以上はガソリン、灯油、軽油、化学原料などの高付加価値製品である。特に重質油流動接触分解装置等の高度なエネルギー効率設備を活用し、重質油から高オクタン価のガソリンや化学原料であるプロピレンを製造する技術基盤を有している。さらに、同事業所は重油を用いた発電事業も展開し、エネルギー供給の多様化を図っている。設備配置においては、保安や環境への配慮から海側に処理装置群、山側に貯蔵タンク群を配置し、敷地内に45万本の樹木を有するグリーンベルトを設けた「グリーン・パーク・ファクトリー」構想を導入している3。
また、「北海道製油所」は、北海道苫小牧市真砂町25番地1に位置し、1973年に操業を開始した日本最北の製油所である。北海道、東北、北陸地方へのエネルギー供給基地としての役割を担い、特に暖房用の灯油や軽油の需要が高い地域特性に合わせて、これらの生産比率を高めるための分解装置が装備された「高分解型」製油所である。同製油所は中東から輸送された原油を主として処理している。原油処理能力に関する数値について、公式Webサイトの「北海道製油所」紹介ページ内の記述では日量140,000バレルと記載されている一方で、同サイトの詳細設備能力一覧(2024年4月1日時点)においては常圧蒸留装置の能力が160,000 BDと記載されているため、一次情報間で不一致が確認される。敷地内には13の精製装置、タンク、出荷設備が効率的に配置されている。その他の主要装置能力(2024年4月1日時点)として、減圧蒸留装置が50,000 BD、残油流動接触分解装置が33,000 BD、アルキレーション装置が4,000 BD、連続触媒再生式改質装置が23,000 BD、灯軽油水素化脱硫装置が79,000 BD、減圧軽油水素化脱硫装置が40,000 BDである。同製油所は1997年3月25日にISO 14001認証を取得し、「安全最優先」を基本方針とするとともに、操業開始以来「北の大地の公園工場」を目指した環境保全活動を行っている3。
先進マテリアル領域、とりわけ高機能材事業部門においては、出光興産株式会社の独自の研究開発力と技術力、および長年の化学製品製造を通じて蓄積されたノウハウを生かした材料開発が行われている。この領域を代表する有機EL事業分野においては、自社単独での特許権利化のみに固執するのではなく、特許を相互に利用する提携関係を国内外の企業と積極的に構築するオープンイノベーション型の知財戦略が展開されている。具体的には、有機EL材料に関連する特定領域の特許について、相互に利用可能とする提携契約を締結するなどの取り組みが行われている。これにより、単一企業での開発の限界を超えて開発可能な領域を拡大し、急激に進化するディスプレイ市場等において新たなビジネスの創出と市場シェアの拡大を図る戦略が採用されている1。
石油化学製品およびこれら先進マテリアルの量産を支える国内最大の基盤が「千葉事業所」である。同事業所は、千葉県市原市姉崎海岸2番地1に位置するグループ最大規模のコンビナート拠点である。製油所としては1963年に操業を開始し、首都圏の需要に応えるため日量195,000バレルの常圧蒸留装置能力を有し、同社唯一の潤滑油生産拠点として稼働している。石油化学工場としては1975年に操業を開始し、年間374,000トンの生産能力を持つエチレン製造装置や、ベンゼン、パラキシレン用の芳香族製造装置を備えている。製造フローにおいて、製油所で生産されたナフサ、LPガス、重質油がパイプラインで石油化学工場へ移送され、モノマー(石油化学原料)やポリマー(合成樹脂)の製造に直接使用されるという一貫生産体制が最大の強みである。敷地内には機能材料研究所および生産技術センターが設置され、研究・生産・物流の最重要拠点として機能している。同事業所も「安全最優先」の基本方針のもと、緑地帯を有する「公園工場」として設計され、ISOの国際品質保証認証を維持している3。
また、山口県周南市新宮町1-1に位置する「徳山事業所」も石油化学基盤として重要な役割を果たしている。同事業所は1957年に出光興産初の製油所として操業を開始し、1964年に隣接地に石油化学工場を建設し周南コンビナートの企業へエチレンの供給を開始した。2014年に製油所としての機能は停止されたが、現在は石油化学製品の製造とコンビナートへの原料供給を中心として操業を継続している。ナフサやLPガスを原料としてエチレン、プロピレン、パラキシレン、スチレンモノマーなどを生産しており、同事業所が属するコンビナートのエチレン生産能力は国内第2位であり、徳山事業所はその生産量の60%を担っている。製造フローは副生品を相互活用して蒸気、電力、ガスなどのユーティリティを供給する高効率な設計となっている3。
出光興産株式会社の知財ポートフォリオを継続的に生み出し、未来の事業基盤を構築するためのハードウェアインフラとして、広範かつ専門的な研究開発施設ネットワークが国内外に維持されている。統合報告書によれば、2024年3月31日時点において、出光グループは国内13拠点、海外4拠点(関連会社を含む)の合計17の研究施設を保有しており、多角的な技術開発が進行している2。公式Webサイトの「研究所・開発センター」情報に示された主要な研究施設群は、それぞれの事業領域に応じた専門的な役割を担い、特に千葉地区への高度な集積が確認される。
千葉県袖ケ浦市上泉1280番地には、「次世代技術研究所」、「電子材料開発センター」、および「材料開発センター・生産技術開発センター」の三つの主要施設が集中して配置されている。このうち次世代技術研究所(電話番号:0438-75-2312)は、長期的な視野に基づく環境エネルギー技術や新素材の基礎研究を担う拠点として位置づけられる。また、同県市原市姉崎海岸地区には、大規模な生産拠点である千葉事業所に隣接する形で「機能材料研究所」(姉崎海岸1番地1)および「営業研究所」(姉崎海岸24番地4、電話番号:0436-61-2502)が配置されており、市場ニーズの探索から材料開発、そして実証・生産技術の確立までをシームレスに行う体制が構築されている。さらに、脱炭素化の潮流の中で重要となる化石燃料の環境負荷低減技術を担う研究拠点として、「石炭・環境研究所」が千葉県袖ヶ浦市中袖3番地1に置かれている3。
特殊な材料分野の開発拠点としては、「アスファルト技術課」が神奈川県愛甲郡愛川町4052番地2に位置している。なお、同課の所在地に関して、公式の日本国内拠点情報においては神奈川県愛甲郡愛川町と明記されている一方で、一部の検索由来情報においてオーストラリアの住所(Building 31, 350-374 Waterview Blvd, Craigieburn VIC 3064)が抽出される事象が見られたため、これらについては一次情報間で不一致が確認される。本報告書においては、対象企業の日本国内ネットワーク一覧ページで明示された神奈川県の所在地を正規の組織・拠点として扱っている3。
また、これらの研究所群で創出された新規のプロセス技術や製品設計を、全国の製油所およびコンビナートの量産ラインへと安全かつ高効率に実装するためのエンジニアリング中枢機関として、「生産技術センター」が千葉県千葉市美浜区中瀬二丁目6番地1のワールドビジネスガーデン・マリブイースト34階に配置されている。これらの多層的で専門分化された研究開発ネットワーク全体が、特許、ノウハウ、およびデータ群といった無形資産を継続的に生み出し、事業競争力の源泉となっている3。
同社は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた目標達成の要として、既存の製油所および事業所(コンビナート)の広大な土地や設備を、次世代エネルギーの供給基地へと転換する「CNX(Carbon Neutral Transformation)センター」化構想を推進している。この壮大なトランジション計画は、既存の化石燃料基盤を、水素、アンモニア、バイオ燃料、合成燃料、および再生可能エネルギー等のクリーンエネルギーの供給ハブへと転換するものである。前述の徳山事業所においては、このCNXセンター化が着実に進行しており、CO2フリーアンモニアのサプライチェーン構築や、カーボンニュートラル原料を利用したバイオマス発電所の稼働といった具体的な施策がすでに実行に移されている3。
既存インフラの転換に加えて、再生可能エネルギーの新規開発および電力システムインフラへの技術導入が、公式ニュースリリースにおいて連続的に公表されている。自社施設における再生可能エネルギーの導入プロジェクトとして、2024年8月9日に、出光興産の次世代技術研究所(千葉県袖ケ浦市)の敷地内において自家消費用太陽光発電所の建設を開始したことが発表された。これは研究開発拠点自体の環境負荷低減を図る直接的な取り組みである4。
さらに、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う電力系統の安定化に寄与するインフラ事業として、蓄電池関連プロジェクトが推進されている。2025年6月30日には、系統用蓄電池を設置した「姫路蓄電所」の運転を開始したことが公表され、大規模なエネルギー貯蔵技術の社会実装が実現した。これに先立つ2024年3月26日には、同社が参入する系統用蓄電池事業が、IJ Global APAC Awards 2023において「Renewable Energy Deal of the Year - BESS -」を受賞した実績が発表されており、同社の技術と事業構築力が国際的な外部評価を獲得していることが示されている4。
地域社会や一般消費者と連動した電力小売およびエネルギーサービス事業においても積極的な展開が確認される。2024年9月19日には、東京都の「とちょう電力プラン」供給事業者として、都内各ご家庭(低圧)からの卒FIT電力の買い取り受付を開始したことが発表された。また、企業間のパートナーシップによる地域課題の解決として、2024年4月24日に、まいばすけっと株式会社および出光興産株式会社が川崎市の脱炭素化に向けて連携を開始した旨が公表されている。さらに、エネルギー価格の変動に対する社会的責任の遂行として、2024年11月18日には令和6年度「電気・ガス料金負担軽減支援事業」に関する対応が、2024年12月18日には「電気・ガス料金負担軽減支援」に関する詳細が相次いで公表された。海外市場を見据えた再生可能エネルギー事業の布石としては、2024年3月26日に、当社関係会社である「Skye Renewables Energy」への英国政府系開発金融機関 British International Investment Plc.の参入に関する合意・方針が公表されており、グローバルな資本提携を通じた事業拡大の計画が示されている4。
本調査において対象企業の公式拠点案内ページを中心に組織および施設のリストを構築する過程において、一部の重要設備能力や所在地に関する一次情報間の齟齬が特定された。まず、「北海道製油所」の原油精製能力に関する数値について、公式Webサイトの「北海道製油所」紹介ページ内の記述では日量140,000バレルと記載されている一方で、同サイトの詳細設備能力一覧(2024年4月1日時点)においては常圧蒸留装置の能力が160,000 BDと記載されている。したがって、当該数値については一次情報間で不一致が確認される。
また、研究開発組織の一つである「アスファルト技術課」の所在地について、公式の日本国内ネットワーク案内ページにおいては「神奈川県愛甲郡愛川町4052番地2」と明記されているが、同組織に関する一部の公式ページ内リンクまたは検索付随情報において「Building 31, 350-374 Waterview Blvd, Craigieburn VIC 3064」というオーストラリアの住所および施設情報が抽出される事象が見られた。これらについても一次情報間で不一致が確認されるが、本レポートにおいては対象企業の国内ネットワーク一覧に記載された商号および所在地情報を正規のものとして採用している3。
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