3行まとめ
「価値起点」への転換と「競争・協創・社会」3本柱の戦略を確立
事業転換に伴い、発明起点の旧来型から「価値起点」アプローチへ移行。「競争知財」(中核技術の保護)、「協創知財」(エコシステム構築)、「IP for society」(社会貢献)の3本柱で社会イノベーション事業を支える。
新中計「Inspire 2027」は1.3兆円のR&D投資と5万人のAI人材育成が柱
新中期経営計画「Inspire 2027」では、AI強化型「Lumada 3.0」の成長を核に据える。達成のため、累計最大1.3兆円の研究開発投資と、5万人の生成AIプロフェッショナル人財の育成を計画する。
「協創知財戦略」をテコにLumadaエコシステムの成長フライホイールを回す
パートナーとの知財の取り扱いを明確化する「協創知財戦略」を競合との差別化要因として活用。オープン&クローズ戦略によりパートナーの参画を促し、Lumadaエコシステムの成長を加速させる好循環を生み出している。
   
 
エグゼクティブサマリ
 
本レポートは、株式会社日立製作所(以下、日立)の知的財産(以下、知財)戦略について、一次情報を基にその構造、運用、および経営戦略との連関を網羅的に分析するものである。
	- 戦略転換の起点: 2009年3月期の巨額赤字を契機とした事業ポートフォリオ改革が、現在の知財戦略の原点である。従来の総合電機メーカーモデルから「社会イノベーション事業」へと舵を切ったことが、知財戦略の質的転換を促した¹⁵。
- 3本柱の戦略フレームワーク: 日立の知財戦略は「競争知財戦略」「協創知財戦略」「IP for society」の3本柱で構成される²⁷。これは、事業競争力の確保、パートナーとのエコシステム構築、そして社会課題解決という企業理念を、知財の側面から具現化するものである。
- 価値起点へのパラダイムシフト: 発明創出を起点とする従来型の知財活動から、顧客価値や市場機会の分析を起点として戦略的にポートフォリオを構築する「価値起点」のアプローチへと明確に移行している²¹。
- Lumada事業との不可分性: 知財戦略は、日立の成長エンジンであるLumada事業と不可分に結びついている。特に、再利用可能なデジタルアセットの保護、データ利活用に関する権利関係の整理、そしてパートナーとの協創を円滑化する知財フレームワークの構築が、Lumadaの事業拡大を直接的に支えている²⁰。
- CIPO主導のグローバル統治体制: Chief Intellectual Property Officer (CIPO) の設置は、知財を単なる法務・技術部門の機能から、経営レベルの戦略的資産へと引き上げたことを象徴する。グローバルに散在する事業部門やM&Aで獲得した企業の知財を統合・調和させる司令塔として機能している²⁰。
- M&Aを前提とした組織設計: 現在の知財組織は、GlobalLogicなどの大型買収を前提に設計されている。買収先のソフトウェアやノウハウといった無形資産を迅速に評価・統合し、グループ全体の価値向上に繋げるための体制が構築されている²⁰。
- IPランドスケープの戦略的活用: 知財情報を分析し、事業機会(ホワイトスペース)や協業パートナーを特定するIPランドスケープ活動を積極的に展開。これにより、知財部門は守勢的な役割から、事業創出に貢献する攻勢的な役割へと変貌を遂げている²⁰。
- 競合との戦略的差異: シーメンスが「価値の定量評価」を強く打ち出す一方、日立はLumadaを中心とした「エコシステム構築」を促す「協創知財戦略」を独自性の高い戦略として明確に位置付けている点で特徴づけられる²⁷, ⁴⁸。
- リスクの構造変化: 事業モデルの転換に伴い、知財リスクも従来の特許侵害訴訟中心から、AI・データ保護の法的未整備、地政学的なデータガバナンス、オープンソースソフトウェアの管理といった、より複雑でグローバルなものへと変化している。
- 「Inspire 2027」への貢献: 新中期経営計画「Inspire 2027」が掲げる高収益なLumada事業中心の成長は、強力な知財ポートフォリオによる事業の差別化と保護なくしては達成不可能である¹³, ¹⁷。
- 今後の課題: 今後の持続的成長には、無形資産の価値を投資家に対してより定量的に示していくこと、そしてグローバルなエコシステムが内包する複雑な知財リスクを管理する能力が不可欠となる。
 
背景と基本方針
 
株式会社日立製作所の現代における知的財産戦略は、独立した方針として存在するのではなく、過去15年間にわたる抜本的な企業変革の直接的かつ必然的な帰結として理解されなければならない。その構造と意図を解き明かすためには、まず、この変革の起点となった歴史的背景と、それによって形成された経営の基本方針を分析する必要がある。
 
2009年危機と社会イノベーション事業への転換
 
日立の知財戦略を理解する上で最も重要な転換点は、2009年3月期に記録した国内製造業として過去最大となる7,873億円の最終赤字である³。リーマンショックを契機としたこの経営危機は、同社に従来の多角的な総合電機メーカーという事業モデルの限界を突きつけ、生き残りをかけた事業ポートフォリオの抜本的な再構築を余儀なくさせた。この危機対応の中から生まれたのが、現在の企業活動の中核をなす「社会イノベーション事業」というコンセプトである³, ⁵。これは、単に個別の製品を製造・販売するのではなく、IT(情報技術)とOT(制御・運用技術)、そしてプロダクトを融合させ、エネルギー、モビリティ、インダストリーといった社会インフラが直面する複雑な課題に対して、顧客との「協創」を通じて包括的なソリューションを提供する事業モデルを指す¹。
この戦略的転換は、その後の10年以上にわたる徹底した事業の選択と集中を駆動した。日立化成(現:昭和電工マテリアルズ)や日立金属(現:プロテリアル)といったかつての中核事業や、日立建機などの上場子会社を次々と売却・非連結化し、2022年度には上場子会社はゼロとなった³。この一連の改革は、日立がハードウェア中心のコングロマリットから、データとテクノロジーを駆使して社会的価値、環境的価値、経済的価値を創出するソリューションプロバイダーへと自己変革を遂げるプロセスであった⁶。この企業アイデンティティの根本的な変化こそが、知財戦略の再定義を不可避なものとしたのである。創業以来の理念である「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という精神は維持しつつも⁵、その貢献の手段が、個々の「モノ」から、データと協創を基盤とする「コト」へと大きくシフトした。
 
知財戦略の3本柱の確立
 
社会イノベーション事業への集中という経営方針の変化は、知的財産の役割と活用方法に新たな要請を突き付けた。従来の、自社技術を防衛し、競合の参入を阻むという閉鎖的な知財戦略だけでは、多様なパートナーとの連携や顧客との協創を前提とする新しいビジネスモデルを支えることはできない。この課題認識から、日立は現在の知財戦略の根幹をなす、以下の3つの柱を策定した²⁷。
	- 競争知財戦略 (Competitive IP Strategy): 競争優位性を確保するため、特許権を中心とした知的財産権の取得・活用に焦点を当てる伝統的かつ重要な戦略である。Lumadaを支えるAIアルゴリズムやデータ分析技術といった中核技術を保護し、事業の収益性を担保する役割を担う²⁷, ᴮ⁵。
- 協創知財戦略 (Co-creation IP Strategy): パートナーシップの促進やエコシステムの構築において知的財産を活用することを目指す、社会イノベーション事業に不可欠な戦略である。オープンイノベーションを推進する上で、自社とパートナーが創出した知財の取り扱いを明確化し、円滑な協業を可能にする²⁷, ᴮ⁵。
- IP for society: 知的財産を社会課題の解決に広く役立てることを目的とする戦略である。例えば、環境関連技術をWIPO GREENのような国際的プラットフォームに登録・公開することで、技術移転を促進し、日立の「Climate Change Innovator」としてのブランド価値を高めるとともに、持続可能な社会の実現に貢献する²³, ²⁷。
この3本柱のフレームワークは、日立の事業戦略を鏡のように映し出している。すなわち、中核技術を守る「競争」、エコシステムを拡大する「協創」、そして企業理念を体現する「社会貢献」という、社会イノベーション事業の遂行に必要な3つの要素を知財の側面から支える構造となっている。
 
発明起点から価値起点へのパラダイムシフト
 
3本柱の確立と並行して、知財創出のプロセスそのものにも大きな変革が見られる。それは、「発明起点」から「価値起点」へのパラダイムシフトである。従来、知財活動は研究開発の現場で生まれた「発明」を事後的に保護するという受動的な側面が強かった。しかし、現在の日立が目指すのは、より能動的で戦略的なアプローチである。具体的には、個別の発明を起点とするのではなく、「顧客が求める価値、技術動向、競争力の分析などを起点として、知的財産ポートフォリオを事業部門とともに構築し、将来の市場機会を予測・保護すること」を目指している²¹。
これは、知財部門が単なる管理部門ではなく、事業戦略の立案段階から深く関与するパートナーへと役割を変えたことを意味する。IPランドスケープなどの手法を用いて市場や競合の知財動向を分析し、事業が次に進むべき方向性や、確保すべき技術領域を特定する。そして、その分析に基づいて、研究開発の方向性を定め、将来の事業展開を見越した戦略的な特許網を構築していく。この価値起点の考え方こそが、日立の知財戦略を単なる「権利の束」から、事業成長を能動的に駆動する「戦略的資産」へと昇華させるための基本方針となっているのである。
 
当章の参考資料
 
	- https://www.alterna.co.jp/103874/
- https://kitaishihon.s3.isk01.sakurastorage.jp/IrLibrary/6501_integrated_2019_89j7.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/IR/library/integrated/2024/ar2024j.pdf
- https://www.alterna.co.jp/41382/
- https://www.hitachi.co.jp/information/info/20240311.html
- http://fdn-ip.or.jp/files/ipjournal/vol19/IPJ19_18_28.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
 ᴮ⁵. https://www.hitachi.co.jp/information/info/20240311.html
 
全体像と組織体制
 
前章で概説した3本柱からなる先進的な知財戦略を実効性あるものにするためには、それを支える強固な組織体制とガバナンスが不可欠である。日立は、知的財産を経営の中核に据えるべく、グローバルに統合された専門性の高い組織を構築している。本章では、その全体像と、特にM&A(企業の合併・買収)を前提とした戦略的な組織設計に焦点を当てて分析する。
 
CIPO主導のグローバル知財ガバナンス
 
日立の知財戦略実行体制を象徴するのが、CIPO (Chief Intellectual Property Officer) の設置である²⁰。現在、スティーブン・マネッタ氏がその任にあり、日立グループ全体の知財活動を統括しているᴮ⁴。CIPOという役職は、単に知財部門のトップというだけでなく、経営執行役の一員として、知財の観点から経営戦略の策定と実行に深く関与することを示す。これは、知的財産を従来の法務・技術部門のサポート機能という位置づけから、事業価値を直接的に創造する経営資産へと格上げする明確な意思表示と見なすことができる。
CIPOが率いるグローバル知的財産統括本部の使命は、「グローバルで強力な日立の知的財産及びその活動によって、日立のイノベーションのグローバルなリーダーシップを加速する」こと、そして「Lumada事業の成長に貢献し、イノベーションの創造と進化を支える」ことにある²⁰。そのために、CIPOオフィスが司令塔となり、日立グループ全体でグローバルに知財活動を調和させ、推進する体制が敷かれている²⁰。この中央集権的なリーダーシップは、後述する自律分散的な事業運営とのバランスを取りながら、グループ全体としての一貫した知財戦略を担保する上で極めて重要な役割を果たしている。
 
事業部門・R&Dと一体化した推進体制
 
日立の知財組織のもう一つの特徴は、事業部門(BU)、研究開発(R&D)部門、そして成長戦略本部といった関連部門との緊密な連携体制にある²⁰, ᴮ⁴。知財部門は、もはや隔離された専門家集団ではない。組織図が示すように、グローバル知的財産統括本部は、各事業部門やR&D部門と透明かつ多面的な連携関係を構築しているᴮ⁴。
この統合体制により、前章で述べた「価値起点の知財戦略」が具体的に実行される。例えば、事業部門が新たな市場への参入を検討する際には、知財部門がIPランドスケープ分析を提供し、競合の動向や技術的な空白領域(ホワイトスペース)を提示する。R&D部門が次世代技術の開発に着手する際には、初期段階から知財担当者が参画し、将来の事業化を見据えた権利化戦略を共に策定する。このように、知財活動が事業活動の川上から川下まで一気通貫で組み込まれることで、研究開発投資の効率性と事業成功の確度を高めている。
さらに、この体制はM&AおよびPMI (Post-Merger Integration:合併後の統合プロセス) を円滑に進める上でも決定的な役割を果たす。日立の近年の成長は、日立エナジーやGlobalLogicといった大型買収によって大きく牽引されている²⁰。これらの買収は、単に事業規模を拡大するだけでなく、ソフトウェア、ノウハウ、データといった、従来のハードウェア特許とは性質の異なる多様な無形資産をグループ内に取り込むことを意味する。知財部門は、買収前のデューデリジェンス(資産査定)の段階で対象企業の知財ポートフォリオを精査し、リスクと価値を評価する。そして買収後は、PMIのプロセスにおいて、獲得した知財を日立の既存事業やLumadaプラットフォームとどのように連携させ、シナジーを最大化するかという戦略の策定と実行を支援する²⁰。静的な組織ではなく、M&Aによるダイナミックな事業ポートフォリオの変化に迅速に対応し、それを成長の糧とするために最適化された組織設計であると言える。
 
グローバル自律分散と専門特化の両立
 
日立は、経営方針として「グローバル自律分散型経営」を掲げている¹⁴, ¹⁷。これは、世界各地域の市場特性や顧客ニーズに迅速に対応するため、現地の組織に大きな裁量権を与える経営モデルである。この方針は知財組織にも反映されており、CIPOによるグローバルな戦略統括の下で、各地域や主要事業グループ(日立エナジー、日立レール、GlobalLogicなど)に専門の知財チームが配置されているᴮ⁴。これにより、各事業領域の深いドメイン知識に基づいた、現場感覚のある知財活動が可能となる。
同時に、全社的な戦略課題に対応するための専門組織も設置されている。その一例が、グローバル知的財産統括本部内に新設された「環境知財強化センタ」である²³。これは、日立が全社的に注力するGX (Green Transformation) 領域において、専門的な知見を集約し、戦略的な知財ポートフォリオ構築を加速させることを目的としている。
このように、日立の知財組織は、CIPOによる強力なグローバルガバナンスを基軸としながら、現場の事業に寄り添う分散型の実行部隊と、特定の戦略領域に特化した専門部隊を組み合わせた、複合的なマトリクス構造を有している。これは、グローバル企業としての規模と一貫性を保ちつつ、変化の激しい市場環境に対応するための俊敏性(アジリティ)を確保するための、極めて戦略的な組織体制であると評価できる。また、日立ハイテクの知的財産本部が日本弁理士10名、中国弁理士1名を擁する専門家集団であると公表しているように³³、グループ全体で高度な専門性を有する人材を確保・育成し、組織能力の向上を図っていることも、この体制を支える重要な基盤となっている。
 
当章の参考資料
 
	- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
 ᴮ⁴. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
- https://www.youtube.com/watch?v=0Quen9OANpo
- https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/2010738.html
- http://fdn-ip.or.jp/files/ipjournal/vol19/IPJ19_18_28.pdf
- https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/company/sustainability/governance/intellectual.html
 
詳細分析
 
日立の知財戦略は、その基本方針と組織体制に支えられ、具体的な事業活動の中で多角的に展開されている。本章では、「技術領域」「収益モデル」「パートナー/エコシステム」という3つの切り口から、その戦略がどのように実践され、事業価値の創造に貢献しているかを詳細に分析する。この分析を通じて、日立の知財戦略が単なる権利保護の枠を超え、事業成長を加速させる好循環(フライホイール)を生み出すメカニズムを明らかにする。
 
技術領域別分析:デジタル、グリーン、OTの三位一体
 
日立の知財戦略は、社会イノベーション事業を構成する主要な技術領域と密接に連動している。特に、デジタル、グリーン、そしてそれらの基盤となるOT(制御・運用技術)およびプロダクトの3領域において、それぞれの特性に応じた知財ポートフォリオが戦略的に構築されている。
 
デジタル領域 (Lumada, AI, データ)
 
デジタル領域は、日立の成長戦略の中核であり、知財戦略においても最重要領域と位置づけられている。その中心にあるのが、顧客データから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するためのソリューション群「Lumada」である¹³。新中期経営計画「Inspire 2027」では、AIによって強化された「Lumada 3.0」への進化が掲げられており¹⁷, ᴮ⁷、知財戦略もこのビジョンを強力にサポートする。
Lumadaにおける知財戦略は、単にソフトウェアのソースコードを著作権で保護したり、個別のアルゴリズムを特許化したりするだけにとどまらない。その本質は、再利用可能な知財アセットの確保にある²⁰, ᴮ¹。Lumadaのビジネスモデルは、特定の顧客向けに開発したソリューションの構成要素(アルゴリズム、分析モデル、ソフトウェアコンポーネントなど)を、他の顧客や異なる業種の課題解決にも応用・展開することで収益性と拡張性を高める点に特徴がある。したがって、これらの構成要素を汎用性の高い「アセット」として知財化し、グループ内で横断的に活用できる状態にしておくことが極めて重要となる。
さらに、AIとデータの活用が深化する中で、データそのものの取り扱いや分析手法の保護が新たな焦点となっている。日立は、顧客やパートナーとの間でデータ利用に関する法的・契約的枠組みを整備し、相互に利益のある関係を構築すると同時に、データ利用や分析方法そのものをノウハウや特許として確保することに注力している¹⁹, ²⁰。特に、日立が持つ各事業領域の深いドメインナレッジを学習させた特化型LLM (大規模言語モデル) の開発と保護は¹³、競合に対する決定的な差別化要因となり得るため、今後の知財活動の核心となる可能性が高い。
また、「Lumada」という名称自体も、約60の国・地域で商標出願されている強力な知的財産である²⁵。このブランド価値を保護・向上させることも、デジタル領域における重要な知財活動の一つである。
 
グリーン領域 (エネルギー、モビリティ)
 
グリーン領域、すなわちGX (Green Transformation) 関連事業は、日立が社会イノベーション事業を通じて最も注力する分野の一つである。この領域では、「IP for society」と「競争知財戦略」が相乗効果を発揮する。
一方では、「Climate Change Innovator」としての企業姿勢を明確にするため、社会貢献性の高い知財を積極的に活用する²³。例えば、国連の世界知的所有権機関 (WIPO) が運営する環境技術のマッチングプラットフォーム「WIPO GREEN」にパートナーとして参画し、自社の環境関連技術を登録することで、技術移転を促進し、地球規模での環境課題解決に貢献している²³。
他方で、事業としての競争力を確保するため、CO2排出量削減に直接貢献する技術や、持続可能な水素製造に不可欠な触媒技術など、具体的なソリューションを特許で強力に保護している²³。これにより、環境価値の創出と事業としての経済価値の獲得を両立させている。このオープンとクローズの巧みな使い分けが、グリーン領域における知財戦略の要諦である。
 
コネクティブインダストリーズ領域 (OT & プロダクト)
 
デジタルサービスやソリューションが価値を生み出すためには、その基盤となる高品質なOT製品や物理的な設備(インストールベース)が不可欠である。日立の知財戦略は、このOTとプロダクトの領域においても強固な保護網を築いている。
その典型例が、鉄道車両の製造に用いられるFSW (摩擦攪拌接合) 技術である。日立は、この技術に関して国内外で数百件規模の特許網を構築し、独占的に実施することで、高品質な鉄道車両の受注を拡大してきた⁵⁴, ᴮ¹⁸。このようにして築かれた物理的なインストールベースは、後に予兆保全や運行最適化といった高付加価値なデジタルサービスを提供する絶好の足場となる。つまり、プロダクトレベルでの強力な知財ポートフォリオが、将来のサービス事業展開の参入障壁を構築し、持続的な収益源を確保するための基盤となっているのである。
 
収益モデルと事業貢献の多角化
 
日立の知財戦略における成果の尺度は、もはや特許ライセンス収入の多寡だけではない。2008年の報告書では海外からの特許料収入の増加が強調されていたが⁵⁴、現在の戦略は、より多角的で戦略的な事業貢献を目指している。
	- 高収益な継続的収益モデルの実現: Lumadaソリューションの多くは、サブスクリプションやサービス利用料といった継続的な収益(リカーリングレベニュー)モデルで提供される。独自のアルゴリズムや分析モデルを知財で保護することは、これらのサービスの模倣を防ぎ、価格競争を回避し、顧客との長期的かつ安定的な関係を維持するための鍵となる。
- M&Aの成功確率向上: 知財部門がM&AのデューデリジェンスやPMIに深く関与することで、買収の戦略的価値を高めている。買収対象の知財リスクを正確に評価し、買収後のシナジーを最大化する知財統合計画を策定することは、数十億ドル規模の投資の成否を左右する重要な貢献である¹⁹, ²⁰。
- IPランドスケープによる新規事業創出: 知財部門は、単に既存事業を守るだけでなく、新たな事業機会を創出する役割も担い始めている。特許情報などの膨大なデータを分析し、市場の成長性や技術の空白領域を特定するIPランドスケープ活動は、その代表例である¹⁹, ²⁰。分析結果を事業部門に提案し、新たな研究開発テーマや事業化のアイデアを共に創出することで、知財部門は企業の成長エンジンそのものへと進化しつつあるᴮ⁴。
 
パートナー/エコシステム戦略の推進力
 
社会イノベーション事業の成功は、顧客や多様なパートナーとの「協創」にかかっている。この協創を円滑に進める上で、「協創知財戦略」が決定的な役割を果たす。その核心は、オープン&クローズ戦略の巧みな運用にある¹⁹, ²²。
	- クローズ戦略: Lumadaプラットフォームの基盤技術、差別化の源泉となる独自のAIアルゴリズム、そして日立やLumadaといったブランド価値の根幹をなす商標などは、厳格に保護され、競争優位の源泉として維持される。
- オープン戦略: 一方で、パートナー企業がLumadaエコシステムに参加しやすくするため、API(Application Programming Interface)やデータ連携の仕様などを公開し、サードパーティによるソリューション開発を促進する。
この戦略を実践するため、知財部門はパートナーシップのあらゆる段階をサポートする¹⁹。初期の概念実証(PoC)における秘密保持契約から、共同開発契約、事業化段階のライセンス契約に至るまで、双方にとって公正で(Win-Win)、かつ将来の事業展開を妨げない知財条項を設計する。このような明確で信頼性の高い知財フレームワークの存在は、優れた技術やアイデアを持つパートナー企業を惹きつける強力な誘因となる。パートナーは、自社の貴重な知財が不当に扱われるリスクを懸念することなく、安心して日立との協創に臨むことができるからである。
このように、日立の知財戦略は、競争力のある中核技術(競争知財)をテコに優れたパートナーを引き寄せ、協創を円滑化する枠組み(協創知財)を提供することでエコシステムを拡大し、そこで得られたデータや知見を基にさらに中核技術を強化するという、Lumada事業の成長を加速させる**好循環(フライホイール)**を生み出すための統合されたシステムとして機能している。そして、その全ての活動が「IP for society」という社会貢献の理念に裏打ちされることで、ブランド価値と求心力をさらに高めているのである。
 
当章の参考資料
 
	- https://altvega.com/hitachi-bp-20250428/
- https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/2010738.html
 ᴮ⁷. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2025/04/0428/f_0428pre.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
 ᴮ¹. https://www.hitachi.co.jp/information/info/20240311.html
- https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/company/sustainability/governance/intellectual.html
- https://japio.or.jp/00yearbook/files/2017book/17_a_07.pdf
- http://fdn-ip.or.jp/files/ipjournal/vol19/IPJ19_18_28.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/ICSFiles/afieldfile/2008/06/13/chizaihokoku2008_7.pdf
 ᴮ¹⁸. https://www.hitachi.co.jp/ICSFiles/afieldfile/2008/06/13/chizaihokoku2008_7.pdf
 ᴮ⁴. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
- https://yorozuipsc.com/uploads/1/3/2/5/132566344/hitachi_inspire_2027_ip_strategy_20250505142838a.pdf
 
競合比較
 
日立の知財戦略の独自性と有効性を客観的に評価するためには、同業他社との比較分析が不可欠である。本章では、グローバル市場で直接競合するシーメンス、国内の有力なライバルである三菱電機、そして事業構造転換の先行事例ともいえるゼネラル・エレクトリック(GE)を比較対象とし、戦略の主軸、組織体制、重点技術領域などの観点から、日立のポジショニングを明らかにする。
 
ベンチマークの選定と分析手法
 
比較対象として、以下の3社を選定した。
	- シーメンス (Siemens AG): 産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)において日立と直接競合するドイツの巨大企業。特に「量から質へ」の転換を明確に掲げ、「価値志向 (Value-Oriented)」「リーンIP (Lean IP)」といった先進的な知財管理哲学を公にしており、比較分析における最適なベンチマークとなる⁴⁸, ⁵¹。
- 三菱電機 (Mitsubishi Electric Corporation): FAシステムや電力システムなど多くの事業領域で競合する国内の主要電機メーカー。経営の重要課題(マテリアリティ)と知財戦略を直接的に連動させるアプローチや、AI関連特許比率に具体的な数値目標を設定するなど、日立とは異なる形で戦略の具体化を図っている⁴¹。
- ゼネラル・エレクトリック (General Electric Company): かつての複合経営モデルから航空宇宙とエネルギーに事業を集中させる大規模な再編を断行した米国企業。分社化後の新生GEが、コア技術とブランドという知的財産をどのように再定義し、活用しようとしているかは、事業ポートフォリオ改革を進めてきた日立にとって示唆に富む⁴², ⁴³。
分析は、各社が公開している統合報告書、年次報告書、公式ウェブサイト、および信頼性の高い第三者による分析レポートを基に行う。単なる特許件数の比較にとどまらず、その背後にある戦略的意図や組織的なアプローチの違いを浮き彫りにすることに主眼を置く。
 
競合比較分析表
 
以下の表は、4社の知財戦略を主要な項目で比較したものである。
| 項目 (Dimension) | 株式会社日立製作所 (Hitachi) | シーメンス (Siemens) | 三菱電機 (Mitsubishi Electric) | ゼネラル・エレクトリック (GE, Post-Split) | 
| 戦略の主軸 (Primary Strategic Focus) | 3本柱(競争/協創/社会貢献)。Lumadaエコシステム中心。価値起点への転換を志向²¹, ²⁷。 | 「価値志向」「リーンIP」。量から質への明確な転換を宣言。事業貢献の定量的評価を重視⁴⁸, ⁵¹。 | マテリアリティ(重要課題)との連携。両輪成長(コンポーネント×デジタル)。AI特許比率15%以上という数値目標を設定⁴¹。 | 事業特化型。GE Aerospaceは航空宇宙コア技術とGEブランドに集中。GE Vernovaはエネルギー転換技術に特化⁴², ⁴³。 | 
| 組織体制 (Organizational Structure) | CIPO主導のグローバル統括本部。BU/R&Dとの密連携。M&A/PMI支援機能を強化²⁰, ᴮ⁴。 | CIPO主導。IP弁理士が事業部に入り込み、価値の高い発明をプロアクティブに発掘する体制を構築⁵¹。 | 本社知的財産部門が全社横断テーマを主導。事業本部・関係会社と連携して活動を推進ᴮ¹⁴。 | 事業会社ごとの管理体制へ移行。GEブランドのライセンス契約がグループ間の連携において重要となる可能性が高い。 | 
| 重点技術領域 (Key Technology Areas) | デジタル(Lumada/AI)、グリーン(GX)、コネクティブインダストリーズ(OT/プロダクト)¹。 | デジタル化、自動化、スマートインフラ、ヘルスケア。AIやソフトウェア関連の特許を重視⁴⁸, ⁴⁹。 | FAシステム、自動車機器、空調、電力システム。既存製品へのAI組込み技術に注力⁴¹。 | 航空宇宙、防衛(GE Aerospace)。エネルギー転換技術(GE Vernova)⁴³。 | 
| エコシステム/協創 (Ecosystem/Co-creation) | 「協創知財戦略」を戦略の柱として明示。オープン&クローズ戦略でパートナー連携を積極的に促進¹⁹, ²²。 | パートナーシップやライセンスを通じた収益化を重視。エコシステム内でのIP活用を戦略的に展開⁵¹。 | オープンイノベーションを推進する方針は示すが、日立ほど体系化された協創知財戦略は公表されていない。 | 戦略的パートナーシップは存在するが、Lumadaのような広範なエコシステム構築は現在の事業戦略の主軸ではない。 | 
| 特許ポートフォリオの特徴 (Portfolio Characteristics) | グローバルで55,000ファミリー以上(2022年時点)ᴮ⁴。Clarivate Top 100 グローバル・イノベーターに13年連続で選出²⁷。 | 欧州特許出願数で常にトップクラス。100,000件以上の特許を保有⁵¹, ⁵²。 | 国内特許登録件数 第3位、WIPO国際出願件数 世界第7位(国内企業第1位)(2024年時点)⁴¹。 | 歴史的に巨大なポートフォリオを保有。現在は事業分割に伴い、各事業会社へ権利が再編・承継されている。 | 
 
分析と考察
 
この比較から、いくつかの重要な示唆が読み取れる。
第一に、日立とシーメンスは、産業DXという同じ戦場で、非常によく似た「価値志向」の知財戦略を展開している点が挙げられる。両社ともにCIPOを設置し、知財部門が事業戦略の策定段階から深く関与する体制を構築している。ただし、そのアプローチには微妙な差異も見られる。シーメンスは、PatentSight社の「Patent Asset Index™」のような外部の定量的評価ツールを活用し、「量から質へ」の転換の成果を客観的に測定・訴求することに積極的である⁵¹。一方、日立は「価値起点」という思想は共有しつつも、その戦略的フレームワークとして「協創」と「社会貢献」という独自の柱を立て、Lumadaエコシステムの拡大という事業モデルとより直接的に結びつけている点が特徴的である。
第二に、日立の「協創知財戦略」は、競合他社に対する明確な差別化要因となっている。三菱電機もオープンイノベーションを推進しているが、日立のようにそれを知財戦略の三本柱の一つとして体系化し、パートナーシップのライフサイクル全体をサポートする専門的なアプローチを明確に打ち出してはいない。GEは事業を特化させた結果、自社のコア技術の深化に集中する傾向が強まると推察され、Lumadaのような広範なエコシステム戦略とは異なる方向性を志向している。社会インフラという複雑な領域で、多様なプレイヤーとの連携が不可欠なソリューションを提供する上で、日立の協創を前提とした知財戦略は、強力な競争優位性をもたらす可能性がある。
第三に、ポートフォリオの規模と質の両面で、日立はグローバルトップレベルのポジションを維持していることが確認できる。Clarivate社から13年連続で「Top 100 グローバル・イノベーター」に選出されている事実は²⁷、単なる特許件数だけでなく、その影響力や国際性が高く評価されていることの証左である。三菱電機も国内外で高いランキングを維持しており⁴¹、日本の製造業が依然として強力な知財創出力を持っていることを示している。
総じて、日立の知財戦略は、グローバルなベストプラクティス(特にシーメンスが示す価値志向のアプローチ)を取り入れつつ、自社の事業モデル(社会イノベーション事業とLumadaエコシステム)に最適化された独自のフレームワークを構築している点で、先進的かつ戦略的であると評価できる。課題は、シーメンスのようにその「価値」を、投資家を含むステークホルダーに対して、より客観的かつ定量的に示していくことにあると言えるだろう。
 
当章の参考資料
 
	- https://ipbusinessacademy.org/lean-ip-how-siemens-uses-strategic-and-value-oriented-ip-management-to-drive-growth
- https://www.raconteur.net/sponsored/how-siemens-transformed-its-approach-to-ip-for-the-digital-age
- https://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/chiteki/hoshin/index.html
- https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/40545/000004054525000015/ge-20241231.htm
- https://www.ge.com/sites/default/files/ge_ar2023_annualreport.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/information/info/20240311.html
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
 ᴮ⁴. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
 ᴮ¹⁴. https://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/chiteki/hoshin/index.html
- https://www.alterna.co.jp/41382/
- https://www.greyb.com/blog/siemens-patent-strategy-2025/
- https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/company/sustainability/governance/intellectual.html
- https://yorozuipsc.com/uploads/1/3/2/5/132566344/hitachi_inspire_2027_ip_strategy_20250505142838a.pdf
- https://www.lexisnexisip.com/wp-content/uploads/2022/04/PatentSight-Case-Study-_-Siemens-New.pdf
 
リスク・課題
 
日立が推進する先進的な知財戦略は、多くの機会を創出する一方で、その複雑性と先進性ゆえに、多岐にわたるリスクと課題を内包している。本章では、これらのリスクを短期・中期・長期の時間軸で整理し、特に日立の事業モデルの根幹に関わる構造的な課題を分析する。
 
短期リスク:訴訟および権利侵害
 
短期的に最も顕在化しやすいリスクは、知的財産権をめぐる訴訟である。これは、日立が原告となる場合と被告となる場合の両方を含む。
	- 特許侵害訴訟: グローバルに事業を展開する以上、競合他社やNPEs (Non-Practicing Entities:特許不実施主体) からの特許侵害訴訟のリスクは常に存在する。過去には、日立グループ会社である日立金属(当時)が、希土類焼結磁石に関する特許を侵害されたとして、米国国際貿易委員会 (ITC) に提訴し、製品の輸入差止を求めるなど、自社の権利を積極的に行使する場面があった⁷¹。一方で、同じく日立金属が中国企業から、特許ライセンスを拒絶したことが独占禁止法に違反するとして訴訟を提起され、一審で敗訴するという事案も発生している⁷²。これらの事例は、知財権の行使が、時として独占禁止法などの別の法的論点に発展する複雑さを示している。
- 職務発明対価訴訟: 過去には、元従業員から職務発明の相当対価を求める訴訟が複数提起された歴史がある⁷³, ⁷⁴, ⁷⁶。日立は、他社に先駆けて報奨規定を整備し、その水準も遜色ないとの立場を示してきたが⁷³、裁判所の判断が常に会社の主張と一致するとは限らない。従業員の知財創出意欲を維持しつつ、法的なリスクを管理するための、公正かつ透明性の高い報奨制度の継続的な見直しと運用が求められる。
- 商標権侵害: ブランド価値の維持も重要な課題である。日立は、自社の「HITACHI」ブランドと混同を生じるおそれがあるとして、第三者による商標登録に異議を申し立て、登録を取り消させた事例がある⁷⁵。グローバル市場におけるブランドの希釈化を防ぐための、継続的な監視と迅速な対応が不可欠である。
 
中期リスク:デジタルアセットの保護と統合
 
中期的なリスクは、日立の事業の中核であるデジタル領域に集中している。
	- AI・データ関連知財の保護の難しさ: AIの学習モデルやアルゴリズム、そして事業の根幹をなすデータを、従来の特許制度で完全に保護することは極めて困難である。特許出願は技術内容の公開を伴うため、模倣のリスクを高める可能性もある。そのため、営業秘密(トレードシークレット)としての管理が重要になるが、情報の漏洩防止や、従業員の転職に伴うノウハウの流出など、管理上の課題は多い。また、顧客やパートナーとの間でやり取りされるデータの権利帰属や利用範囲を定める契約実務は、ますます複雑化しており、ここでの不備は将来の事業展開に大きな制約となり得る¹⁹。
- M&A後の知財統合 (PMI): GlobalLogicのようなソフトウェア・サービス企業を買収した場合、その価値の源泉は物理的な資産ではなく、人材、ノウハウ、ソフトウェア、顧客との関係性といった無形の知財アセットにある。これらのアセットを日立の既存の組織文化や事業プロセスに効果的に統合し、シナジーを創出するPMIのプロセスは、極めて難易度が高い。統合に失敗すれば、買収の価値を十分に引き出せず、巨額の投資が非効率に終わるリスクがある。
- オープンソースソフトウェア (OSS) の管理: Lumadaをはじめとするデジタルソリューションは、開発の迅速化とコスト削減のために、多数のOSSを利用していると推察される。しかし、OSSには多様なライセンス形態が存在し、その中には利用したソフトウェア全体のソースコード公開を義務付けるもの(コピーレフト型ライセンス)もある。意図せずして自社の独自技術を知的財産として保護できなくなる「IPコンタミネーション(知財汚染)」のリスクを回避するためには、全社的なOSSの利用状況の把握と、ライセンス遵守を徹底する厳格なガバナンス体制が不可欠である。
 
長期リスク:地政学と標準化、法制度の変化
 
長期的な視点では、日立一社の努力だけではコントロールが難しい、外部環境の変化が大きなリスク要因となる。
	- 地政学的リスクと技術覇権争い: 米中間の対立に象徴されるように、世界の技術覇権をめぐる競争は激化しており、技術やデータの国際的な流通に制約がかかるリスクが高まっている。日立のLumadaビジネスは、グローバルなデータの自由な流通と、世界中のパートナーとの連携を前提としている。特定の国や地域でのデータ移転規制(データローカライゼーション)や、輸出管理規制の強化は、このグローバルなエコシステムの分断を招き、事業の根幹を揺るがしかねない。
- 標準必須特許 (SEP) をめぐる競争: 5Gの次の通信規格であるBeyond 5G/6Gや、IoT関連の通信技術が社会に普及するにつれ、それらの技術標準に必須と認められる特許(SEP)の重要性が増大する。日本政府は、Beyond 5Gにおいて必須特許の10%以上を確保する目標を掲げている⁵⁵。日立がこれらの分野で事業を展開していく上で、自社の技術を標準規格に盛り込み、強力なSEPポートフォリオを構築できなければ、他社に対して高額なライセンス料の支払いを強いられ、コスト競争力を失うリスクがある。
- AI生成物に関する法制度の不確実性: 生成AIが自律的に生み出した発明や著作物の権利が誰に帰属するのか、また、AIの学習データとして利用された著作物の権利をどう扱うのかといった問題は、世界的に法整備が追いついていない状況にある。将来の法改正や司法判断の動向によっては、日立が保有するAI関連のデジタルアセットの法的保護の範囲や価値が、根本的に覆される可能性も否定できない。
結論として、日立の事業戦略の核心であるグローバルなLumadaエコシステムは、同社にとって最大の価値創造の源泉であると同時に、将来の知財リスクが最も集中する領域でもある。ハードウェア中心の事業モデルにおける特許紛争という比較的予測可能なリスクから、無形で、国境を越え、法的に未確定な要素を多く含むデジタルアセットの保護という、全く新しいパラダイムのリスク管理へと移行している。この新しいリスクプロファイルにどう対応していくかが、日立の長期的な成功を左右する重要な鍵となるだろう。
 
当章の参考資料
 
	- https://www.corporate-legal.jp/news/1140
- https://www.ip-fw.com/blog/c32
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/040129a_040129a.pdf
- https://www.soei.com/%E8%81%B7%E5%8B%99%E7%99%BA%E6%98%8E%E3%81%AE%E5%AF%BE%E4%BE%A1%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%AE%E6%9C%80%E9%AB%98%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA/
- https://www.inpit.go.jp/content/100870235.pdf
- https://japan.marks-iplaw.jp/newsletter-146/
- https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/company/sustainability/governance/intellectual.html
- https://www.ieice.org/jpn_r/activities/kikakusenryakushitsuevent/assets/pdf/20220907_03.pdf
 
今後の展望
 
日立の知財戦略は、過去の変革に対応するだけでなく、未来の成長を能動的に創り出すための羅針盤としての役割を担っている。本章では、2024中期経営計画の後継となる新経営計画「Inspire 2027」や、さらにその先を見据えた長期目標と、知財戦略がどのように連携し、将来の事業展開を支えていくのかを展望する。
 
新経営計画「Inspire 2027」と知財戦略の連動
 
2025年4月に発表された新経営計画「Inspire 2027」は、日立が「真のOne Hitachi」として持続的成長を実現し、次のステージへと進化するための3カ年計画である¹³。この計画が掲げる財務目標、すなわち為替影響を除いた売上収益の年平均成長率7~9%、Adjusted EBITA率13~15%といった高い目標は¹⁷、収益性の高いLumada事業の成長が前提となっている。この成長を確実なものにする上で、知財戦略は不可欠な基盤となる。
計画の中核には、AIによって強化された「Lumada 3.0」への進化が据えられている¹⁷。これは、日立が持つ鉄道やエネルギーといった事業領域の深いドメインナレッジと最先端のAI技術を掛け合わせ、社会インフラの運用効率を劇的に向上させることを目指すものである¹³。例えば、鉄道事業において、車両やインフラの資産効率を高め、保守コストや列車遅延を削減するといった具体的な価値創出が示されているᴮ⁷。このような高度なソリューションの競争優位性は、その中核をなすアルゴリズム、分析モデル、そしてドメインナレッジを体系化したノウハウを知的財産としていかに強固に保護できるかにかかっている。知財戦略は、「Inspire 2027」の目標達成を根底から支える、いわば事業の「OS」としての役割を担うことになる。
 
長期目標「Lumada 80-20」に向けたポートフォリオ構築
 
日立は、「Inspire 2027」のさらに先を見据えた長期目標として、「Lumada 80-20」を掲げた。これは、将来的にLumada事業の売上収益比率を80%、Adjusted EBITA率を20%にまで高めるという野心的な目標である¹⁷。この目標は、日立が「デジタルセントリック企業に変革するという揺るぎない決意」の表れであり¹⁷、もはや従来のハードウェア事業の延長線上にはない、全く新しい収益構造への転換を意味する。
この長期ビジョンを実現するためには、知財ポートフォリオの質と量を、デジタル領域において圧倒的なレベルにまで引き上げる必要がある。現在の知財活動は、まさにこの未来に向けた布石である。価値起点の知財創出アプローチを通じて、将来の市場で支配的な地位を築くために必要な技術領域を特定し、先行して権利を確保していく。成長性や収益性の向上が見込めないノンLumada事業については整理を進めるという方針も示されており¹⁷、経営資源を知財創出も含めてデジタル領域に集中させていく姿勢が鮮明である。
 
次世代技術へのR&D投資と先行的な知財確保
 
未来の成長の種をまく研究開発活動においても、知財戦略は中心的な役割を果たす。「Inspire 2027」の期間中、累計で最大1.3兆円という巨額の研究開発投資が計画されている¹⁴, ¹⁶。その投資先は、既存事業の強化に加え、治療、移動、量子、宇宙といった、将来の事業の柱となりうる次世代技術領域に重点的に配分される¹⁶。
これらの領域は、まだ技術が黎明期にあり、市場や標準が形成されていない。このような段階でこそ、先行的な知財活動が決定的な意味を持つ。研究開発の初期段階から知財部門が深く関与し、将来の技術動向を予測しながら、基本特許や周辺特許を網羅的に確保していく。これにより、将来、これらの技術が市場で主流となった際に、他社に対する優位性を確保し、「事業の自由度 (Freedom to Operate)」を担保することができる。これは、2030年代以降の日立の持続的成長を左右する、極めて重要な先行投資である。
 
人的資本投資と知財創出のエコシステム
 
イノベーションの源泉は「人」である。日立は、人的資本への積極的な投資も成長戦略の柱と位置付けている。「Inspire 2027」では、今後3年間で生成AIのプロフェッショナル人財を5万人に増やすという目標が掲げられている¹⁶。これは、知財創出のポテンシャルが飛躍的に増大することを意味する。
しかし、それは同時に新たな課題も提示する。高度な専門知識を持つ多数の人材が、日々の業務の中で新たな発明やノウハウを生み出す中で、それらをいかに効率的に吸い上げ、価値のある知的財産へと転換していくか。知財部門には、5万人のデジタル人財に対する知財リテラシー教育、発明報奨制度の最適化、そして発明発掘プロセスのDX化など、知財創出の全社的なエコシステムを設計・運用する役割が求められる。これまで役員層に限定されていた株式報酬を従業員にも拡大する方針が示されているが¹⁶, ¹⁴、これも企業価値向上へのコミットメントを高め、優れた知財創出を促すインセンティブの一つとして機能することが期待される。
 
「真のOne Hitachi」の実現
 
「Inspire 2027」が目指す姿の一つに、「真のOne Hitachi」がある¹⁷。これは、日立グループ内に存在する多様な事業、技術、人材といったリソースを有機的に結合させ、総合力を最大限に発揮する経営を意味する。このビジョンの実現においても、知財戦略は重要な接着剤の役割を果たす。
CIPOが主導するグローバルな知財管理体制は、グループ内に散在する知財ポートフォリオを可視化し、相互利用を促進するための基盤である²⁰, ²⁷。例えば、GlobalLogicが開発したソフトウェア技術を日立エナジーのエネルギーマネジメントシステムに応用したり、研究開発部門が生み出したAIアルゴリズムを日立レールの鉄道ソリューションに組み込んだりする。このような事業部門の垣根を越えた技術の再利用は、研究開発投資のROIを最大化し、イノベーションのスピードを加速させる。知財戦略は、個別の事業を守る「壁」としてだけでなく、グループ全体の知を繋ぎ、新たな価値を共創するための「橋」として機能することで、「真のOne Hitachi」の実現に貢献していくのである。
 
当章の参考資料
 
	- https://altvega.com/hitachi-bp-20250428/
- https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/2010738.html
 ᴮ⁷. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2025/04/0428/f_0428pre.pdf
- https://www.youtube.com/watch?v=0Quen9OANpo
- https://dempa-digital.com/article/656683
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/information/info/20240311.html
 
戦略的示唆
 
本レポートで実施した多角的な分析に基づき、日立製作所が知的財産をさらに強力な経営資産として活用し、持続的な企業価値向上を実現するために、経営、研究開発、事業化の各観点から取りうる戦略的なアクションを以下に提言する。
 
経営層(CEO/CFO)への示唆
 
提言:無形資産価値の定量的可視化と投資家対話への活用
日立が「デジタルセントリック企業」への変革を加速させる中で¹⁷、その企業価値は、もはや従来の財務指標だけでは正確に捉えきれなくなっている。Lumada事業の価値の源泉は、工場や設備といった有形資産ではなく、ソフトウェア、データ、ノウハウ、ブランドといった無形資産にある。この無形資産の価値を投資家や資本市場に対して、より客観的かつ説得力のある形で伝えていくことが、適正な企業価値評価を得る上で不可欠である。
アクション候補:
	- IP価値評価指標の導入と開示: 競合であるシーメンスがPatentSight社の「Patent Asset Index™」を活用しているように⁵¹、第三者機関による客観的な評価指標や、自社独自のKPI(Key Performance Indicator)を導入し、統合報告書などで継続的に開示することを検討する。例えば、「戦略的注力領域における特許ポートフォリオの質的評価スコア」や、「Lumada事業の収益に直接貢献するコアIPの数」といった指標が考えられる。
- IR活動における知財戦略の重点的説明: 決算説明会やInvestor Dayといった投資家との対話の場において、CIPOが登壇し、知財戦略が中期経営計画の達成や長期的なキャッシュフロー創出にどのように貢献するのかを具体的に説明する機会を設ける。これにより、知財が単なるコストではなく、将来の収益を生み出すための戦略的投資であることを明確に訴求する。
 
研究開発部門(CTO/R&D責任者)への示唆
 
提言:価値起点の知財創出プロセスの全社的な制度化
日立は既に「発明起点」から「価値起点」への転換を方針として掲げているが²¹、これを一部の先進的な取り組みにとどめるのではなく、全社の研究開発プロセスに標準的な仕組みとして組み込むことが重要である。
アクション候補:
	- IPストラテジストのR&D初期段階への常駐: 知財戦略の専門家を、基礎研究や応用開発といったR&Dの最も早い段階からプロジェクトチームの正式メンバーとして配置する。彼らの役割は、事後的に発明を権利化することではなく、プロジェクトの初期段階で市場ニーズ、競合の知財動向、標準化の動きなどを分析し、最も事業価値の高い「知財のスイートスポット」を特定し、そこに向けて研究開発の方向性を導くことである。
- 知財創出を評価する研究開発KPIの導入: 研究開発部門の業績評価に、単なる特許出願件数だけでなく、「重要特許取得率(競合他社の引用数が多い、あるいは特定技術領域で支配的な特許の取得率)」や、「事業化に結びついた特許の割合」といった、知財の質や事業貢献度を測る指標を組み込む。これにより、研究者の意識を「多くの発明を出す」ことから、「価値のある知財を創出する」ことへと転換させる。
 
事業開発・アライアンス部門(事業部長)への示唆
 
提言:「協創知財戦略」の競争優位性としての積極的活用
日立の「協創知財戦略」は、単なる内部的な方針ではなく、優れたパートナーを引きつけ、エコシステムを拡大するための強力な武器となりうる¹⁹。この戦略的資産を、事業開発やアライアンス活動において、より積極的に活用すべきである。
アクション候補:
	- 「IPパートナーシップ・フレームワーク」のマーケティング: 日立が提供する公正で透明性の高い知財協創の枠組みを、分かりやすいパッケージとして資料化し、潜在的なパートナー企業に対して積極的に提示する。特に、スタートアップや大学といった、大企業との連携に知財面での不安を抱きがちな相手に対して、「日立と組めば、知財は公正に扱われる」という安心感と信頼を醸成する。
- 協創スピードを加速する標準契約モデルの整備: パートナーシップの形態(共同研究、技術ライセンス、共同事業など)に応じて、知財条項の標準的なテンプレートを複数用意しておく。これにより、個別の交渉にかかる時間とコストを削減し、事業開発のスピードを加速させる。競合他社が複雑な知財交渉に手間取っている間に、日立は迅速にパートナーシップを締結し、市場投入で先行することが可能となる。
これらの示唆は、知的財産を企業のあらゆる活動の根幹に据え、その価値を最大化するための具体的なアクションである。これらを実行することで、日立は社会イノベーション事業のグローバルリーダーとしての地位を、より強固なものにできると推察される。
 
当章の参考資料
 
	- https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/2010738.html
- https://www.raconteur.net/sponsored/how-siemens-transformed-its-approach-to-ip-for-the-digital-age
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
- https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/company/sustainability/governance/intellectual.html
 
総括
 
本レポートの分析を通じて、株式会社日立製作所が、知的財産戦略を、かつてのハードウェア製品を守るための受動的・防衛的な機能から、グローバルな社会イノベーション事業を能動的に駆動する、経営の中核的機能へと見事に昇華させたことが明らかになった。2009年の経営危機をバネとした事業構造の転換は、知財戦略においても「発明起点」から「価値起点」へのパラダイムシフトを促し、「競争」「協創」「社会貢献」という3本柱からなる、事業モデルと完全に整合した戦略フレームワークを生み出した。
特に、成長エンジンであるLumadaエコシステムを支える「協創知財戦略」は、単なるオープンイノベーションの標榜にとどまらず、パートナーとの公正な関係構築を制度的に担保する仕組みとして機能しており、競合に対する明確な差別化要因となっている。CIPO主導の下、M&Aによる無形資産の統合やIPランドスケープによる事業機会創出を担うグローバルな組織体制は、この先進的な戦略を実行するための強固な基盤を提供している。
しかし、その成功は新たな挑戦も生んでいる。日立の事業の重心が、物理的なモノから、国境を越えるデータやAIといった無形の資産へと移行するにつれて、知的財産をめぐるリスクは、地政学的な分断や法制度の不確実性といった、より複雑で予測困難なものへと構造的に変化した。今後の日立の持続的成長は、この新たなリスク環境をいかに巧みに航海していくかにかかっている。
意思決定者にとっての含意は明確である。第一に、Lumadaを中核とする事業の真の価値は、バランスシートには現れない知的財産ポートフォリオの質と強さにこそある。この無形資産の価値を、投資家を含むステークホルダーに対して定量的かつ説得力をもって伝達する努力を強化する必要がある。第二に、最大の価値創造源泉(グローバルなデジタルエコシステム)が、同時に最大のリスク源泉でもあるという認識に立ち、技術、法務、事業の各部門が連携した、より高度なリスクマネジメント体制の構築が急務である。日立がこれらの課題に対応し、知的財産という無形の力を最大限に解き放つことができたとき、「Inspire 2027」とその先のビジョンの実現が確固たるものとなるだろう。
 
参考資料リスト(全体)
 
	- https://www.alterna.co.jp/41382/
- https://www.hitachicm.com/global/ja/sustainability/download/
- https://www.alterna.co.jp/103874/
- https://docs.publicnow.com/viewDoc.aspx?filename=22205\EXT\9BE936D9E939B0C65D5634575380B4230F7600A7_FB36D80AEB85A8BE3561B0779461852BF0EDA27E.PDF
- https://kitaishihon.s3.isk01.sakurastorage.jp/IrLibrary/6501_integrated_2019_89j7.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/IR/library/integrated/2024/ar2024j.pdf
- https://www.hitachi.com/ja-jp/ir/library/stock/
- https://www.hitachicm.com/global/ja/ir/library/securities-report/
- https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100TBXL.pdf
- https://www.hitachicm.com/content/dam/hitachicm/global/ja/ir/library/securities-report/docs/img-securities-report-10.pdf
- https://www.ullet.com/%E6%97%A5%E7%AB%8B%E8%A3%BD%E4%BD%9C%E6%89%80/EDINET
- https://www.ullet.com/%E6%97%A5%E7%AB%8B%E8%A3%BD%E4%BD%9C%E6%89%80/EDINET/ranking/report
- https://altvega.com/hitachi-bp-20250428/
- https://www.youtube.com/watch?v=0Quen9OANpo
- https://www.youtube.com/watch?v=m3lWrJkYhk8
- https://dempa-digital.com/article/656683
- https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/2010738.html
- https://www.hitachicm.com/global/ja/corporate/mid-term-management-plan/
- https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/company/sustainability/governance/intellectual.html
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/information/info/20250331.html
- https://yorozuipsc.com/uploads/1/3/2/5/132566344/hitachi_inspire_2027_ip_strategy_20250505142838a.pdf
- http://fdn-ip.or.jp/files/ipjournal/vol19/IPJ19_18_28.pdf
- https://www.hitachi-sis.co.jp/service/chizai/index.html
- https://japio.or.jp/00yearbook/files/2017book/17_a_07.pdf
- https://www.hitachi-systems.com/sustainability/management/intellectual_property/
- https://www.hitachi.co.jp/information/info/20240311.html
- https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2024/01/abstract/index.html
- https://www.hitachi.com/ja-jp/ir/library/stock/
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2025/04/0428/f_0428pre.pdf
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2025/04/0428/f_0428pre.pdf
- https://www.hitachi.com/ja-jp/ir/corporate/strategy/
- https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/company/sustainability/governance/intellectual.html
- https://www.inpit.go.jp/j-platpat_info/guide/j-platpat_notice.html
- https://www.inpit.go.jp/j-platpat_info/guide/index.html
- https://www.jpo.go.jp/support/startup/tokkyo_search.html
- https://www.inpit.go.jp/j-platpat_info/lecture/patent_intermediate.html
- https://www.youtube.com/watch?v=S8HCtHzvEKI
- https://www.inpit.go.jp/j-platpat_info/index.html
- https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/ir/corporate/library/annual-report/pdf/ar2024/tir2024_a3.pdf
- https://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/chiteki/hoshin/index.html
- https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/40545/000004054525000015/ge-20241231.htm
- https://www.ge.com/sites/default/files/ge_ar2023_annualreport.pdf
- https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/40545/000004054522000008/ge-20211231.htm
- https://www.ge.com/sites/default/files/GE_AR2021_AnnualReport.pdf
- https://www.ge.com/investor-relations/annual-report
- https://www.ge.com/sites/default/files/GE_AR20_AnnualReport.pdf
- https://ipbusinessacademy.org/lean-ip-how-siemens-uses-strategic-and-value-oriented-ip-management-to-drive-growth
- https://www.greyb.com/blog/siemens-patent-strategy-2025/
- https://www.siemens-energy.com/global/en/home/company/intellectual-property.html
- https://www.raconteur.net/sponsored/how-siemens-transformed-its-approach-to-ip-for-the-digital-age
- https://www.lexisnexisip.com/wp-content/uploads/2022/04/PatentSight-Case-Study-_-Siemens-New.pdf
- https://www.lexisnexisip.com/resources/increasing-patent-portfolio-strength-and-patent-income-at-siemens/
- https://www.hitachi.co.jp/ICSFiles/afieldfile/2008/06/13/chizaihokoku2008_7.pdf
- https://www.ieice.org/jpn_r/activities/kikakusenryakushitsuevent/assets/pdf/20220907_03.pdf
- https://www.inpit.go.jp/j-platpat_info/guide/FAQ.html
- https://www.inpit.go.jp/content/100877627.pdf
- https://www.jpo.go.jp/support/startup/tokkyo_search.html
- https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/stm/1ipdl
- https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
- https://japio.or.jp/00yearbook/files/2015book/15_2_01.pdf
- https://www.hitachi.com/ja-jp/ir/library/stock/
- https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100TBXL.pdf
- https://www.hitachicm.com/global/ja/ir/library/securities-report/
- https://www.ullet.com/%E6%97%A5%E7%AB%8B%E8%A3%BD%E4%BD%9C%E6%89%80/EDINET/ranking/report
- https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WEEK0010.aspx
- https://www.ullet.com/%E6%97%A5%E7%AB%8B%E8%A3%BD%E4%BD%9C%E6%89%80/EDINET
- https://www.jpo.go.jp/support/startup/tokkyo_search.html
- https://www.nagasakihatsumei.sakura.ne.jp/ippansyadan/20250806siryou2.pdf
- https://nakajimaip.jp/tokkyochosa/
- https://www.corporate-legal.jp/news/1140
- https://www.ip-fw.com/blog/c32
- https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/040129a_040129a.pdf
- https://www.soei.com/%E8%81%B7%E5%8B%99%E7%99%BA%E6%98%8E%E3%81%AE%E5%AF%BE%E4%BE%A1%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%AE%E6%9C%80%E9%AB%98%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA/
- https://japan.marks-iplaw.jp/newsletter-146/
- https://www.inpit.go.jp/content/100870235.pdf
- https://www.hitachi-solutions-create.co.jp/company/newsrelease/
 ᴮ¹. https://www.hitachi.co.jp/information/info/20240311.html
 ᴮ². https://www.hitachi.com/ja-jp/ir/library/stock/
 ᴮ⁴. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1205/20221205_03_ip_presentation_ja.pdf
 ᴮ⁵. https://www.hitachi.co.jp/information/info/20240311.html
 ᴮ⁶. https://www.ge.com/sites/default/files/ge_ar2023_annualreport.pdf
 ᴮ⁷. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2025/04/0428/f_0428pre.pdf
 ᴮ⁸. https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/company/sustainability/governance/intellectual.html
 ᴮ⁹. https://www.inpit.go.jp/j-platpat_info/guide/j-platpat_notice.html
 ᴮ¹⁰. https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/ir/corporate/library/annual-report/pdf/ar2024/tir2024_a3.pdf
 ᴮ¹². https://www.ge.com/sites/default/files/ge_ar2023_annualreport.pdf
 ᴮ¹³. https://www.hitachi.com/ja-jp/ir/library/stock/y_2023_4.pdf
 ᴮ¹⁴. https://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/chiteki/hoshin/index.html
 ᴮ¹⁵. https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
 ᴮ¹⁶. https://ipbusinessacademy.org/lean-ip-how-siemens-uses-strategic-and-value-oriented-ip-management-to-drive-growth
 ᴮ¹⁷. https://www.raconteur.net/sponsored/how-siemens-transformed-its-approach-to-ip-for-the-digital-age
 ᴮ¹⁸. https://www.hitachi.co.jp/ICSFiles/afieldfile/2008/06/13/chizaihokoku2008_7.pdf
 ᴮ¹⁹. https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
 ᴮ²⁰. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/040129a_040129a.pdf
 ᴮ²¹. https://www.jpo.go.jp/support/startup/tokkyo_search.html
 ᴮ²². https://www.corporate-legal.jp/news/1140
 ᴮ²³. https://www.ip-fw.com/blog/c32
 ᴮ²⁴. https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/040129a_040129a.pdf
PDF版のダウンロード
本レポートのPDF版をご用意しています。印刷や保存にご活用ください。
【本レポートについて】
本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。
情報の性質
	- 公開特許情報、企業発表等の公開データに基づく分析です
- 2025年10月時点の情報に基づきます
- 企業の非公開戦略や内部情報は含まれません
- 分析の正確性を期していますが、完全性は保証いたしかねます
ご利用にあたって
本レポートは知財動向把握の参考資料としてご活用ください。 重要なビジネス判断の際は、最新の一次情報の確認および専門家へのご相談を推奨します。
 →詳細なご相談はこちら