3行まとめ
高収益製品への「選択と集中」で過去最高益水準へ
SWR®/WTC®などの情報インフラ領域へR&D投資を集中させ、2024年度の営業利益1,355億円という中計目標の大幅超過を達成しました。
特許保有の「逆転現象」が示す鮮明なグローバルシフト
国内特許を約40%削減する一方、外国特許保有数が国内を初めて上回り、主戦場である北米・欧州市場への権利網移行を完了しました。
英国訴訟での勝訴と核融合ビジネスへの参入
英高等法院での特許侵害訴訟に勝訴して競合を排除する一方、核融合発電分野で英国政府機関と合意するなど、攻めの知財戦略を展開しています。
この記事の内容
株式会社フジクラ(以下、フジクラ)の経営戦略において、知的財産および技術開発(R&D)は、資本コストを上回るリターン(ROICスプレッド)を創出するための核心的ドライバーとして位置づけられている。同社が公表している「統合報告書2025」および「2025年中期経営計画(2025中計)」において、技術戦略は財務目標であるROIC(投下資本利益率)10%以上、ROE(自己資本利益率)10%以上の達成と不可分なものとして記述されている 1。 具体的には、CFOおよびCTOの公式メッセージにおいて、R&D投資は単なる費用ではなく、将来のフリーキャッシュフローを最大化するための「成長投資」であると定義されている。2023年度(2024年3月期)の連結研究開発費は17,102百万円(対売上高比率2.1%)であり、構造改革期を経て再拡大フェーズに入っている。特に、FPC(フレキシブルプリント基板)事業における減損損失(2025年3月期における減損の兆候判定)のリスクを開示しつつも、高収益が見込める「情報インフラ」「情報ストレージ」領域へ経営資源を集中させるポートフォリオ・マネジメントが、知財戦略の前提となっている事実が確認された 3。
フジクラの技術開発は、企業理念である「"つなぐ"テクノロジー("Tsunagu" Technology™)」を中核に据え、以下の重点領域において具体的な進捗とマイルストーンが公式資料により確認された。 第一に、情報インフラ・ストレージ領域では、生成AIの普及に伴うデータセンターの需要爆発に対応するため、16心間欠接着型光ファイバテープ「SWR®(Spider Web Ribbon)」および細径高密度光ケーブル「WTC®(Wrapping Tube Cable)」の生産能力増強を実施した。2025年には千葉県佐倉事業所にて、カーボンニュートラル対応の新SWR®/WTC®工場が稼働を開始しており、国内マザーファクトリーとしての製造技術のブラックボックス化と量産体制の確立を同時達成している 6。 第二に、次世代エネルギー領域(Beyond 2025)では、核融合発電に不可欠な高温超電導線材(REBCO)において、英国の核融合エネルギー開発実行機関(UKIFS: UK Industrial Fusion Solutions)との枠組み合意を2025年7月に締結した。これは、研究開発段階から商用炉への実装フェーズへ移行する重要なマイルストーンであり、英国原子力公社(UKAEA)のSTEPプログラムへの参画を含む具体的な成果として公表されている 7。
フジクラの特許ポートフォリオは、「総花的な出願」から「事業収益直結型」への構造転換(選択と集中)を経て、明確なグローバルシフトを示している。 統合報告書およびESGデータブックに基づく数値事実として、単体の国内特許保有件数は2020年度の2,893件から2024年度には1,755件へと約40%減少している。これは、維持費用の最適化と休眠特許の棚卸しを断行した結果である。 対照的に、外国特許保有件数は2020年度の1,860件から2024年度には1,911件へと増加し、初めて国内保有件数を逆転した。このデータは、同社の主戦場がデータセンター事業の拡大する北米・欧州市場へ移行していることの証左である。 また、特許の質的側面(法的強制力)においては、2025年に英国高等法院(High Court)にて、競合であるSterlite Technologies Ltd.に対する欧州特許(EP 3,796,060)の侵害訴訟で勝訴判決( EWHC 3181 (Pat))を獲得した。これは、同社のコア技術である「空気圧送対応ケーブル」に関する知財網が、競合排除の実効性を有していることを客観的に証明するものである 4。
電線・非鉄金属業界における主要競合(住友電気工業、古河電気工業)との比較において、フジクラの知財戦略は「特定領域への集中(Deep Niche)」に特徴がある。 住友電気工業は、2023年度の研究開発費が1,420億円とフジクラの約8倍の規模を有し、自動車・環境エネルギー・情報通信の全方位で特許出願数も圧倒的である。同社は「Mid-term Management Plan 2025」において、IPランドスケープの活用や国際標準化活動への包括的な取り組みを開示している 11。 一方、古河電気工業は「IPランドスケープの実装率」をKPI化(2024年度目標100%達成)し、「チャンス最大化」と「リスク最小化」の二軸で知財活動を推進する戦略を掲げている 12。 これらに対しフジクラは、SWR®/WTC®という特定の高収益製品群に知財リソースを集中させ、競合他社(Sterlite等)に対して法廷闘争も辞さない攻撃的な知財ガバナンスを展開している点が際立っている 4。
「2025中期経営計画」において、フジクラは成長投資枠(設備投資・投融資・R&D)として3年間で合計1,350億円規模のキャッシュアロケーションを計画している。 公式ロードマップにおける技術的な到達点として、2026年1月発行の「フジクラ技報(No.55)」において、空気圧送に対応した「Ultra-High Fiber Count I/O WTC」等の次世代製品が発表された。これはデータセンターの配線密度を飛躍的に高める技術であり、当初の計画通りに進捗している。 また、長期ビジョン(Beyond 2025)としては、2030年に向けた「核融合(超電導線材)」「医療(細径イメージング)」「宇宙・防衛」等の新規事業領域への投資継続が明記されており、短期的な収益確保と長期的な技術シーズ育成のバランス(両利きの経営)が意図されている 14。
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Evidence ID |
発行体 |
文書名/情報源 |
発行日/基準日 |
種別 |
URL |
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1 |
フジクラ |
企業情報 ビジョン・中期経営計画 |
2023/05 (発表) |
公式IR |
fujikura.co.jp/company/vision/ |
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2 |
住友電工 |
Corporate Governance Report |
2025/07 |
法定開示 |
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19 |
フジクラ |
Fujikura Technical Review No.54 |
2025/01 |
技術論文 |
fujikura.co.jp/en/research/technical-report/no054.html |
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20 |
フジクラ |
Fujikura Technical Review No.55 |
2026/01 |
技術論文 |
fujikura.co.jp/en/research/technical-report/no055.html |
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6 |
フジクラ |
光接続製品サイト News Release (SWR/WTC) |
2025/02/18 |
公式PR |
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14 |
フジクラ |
Fujikura Technical Review No.55 Publication News |
2026/02/02 |
公式PR |
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7 |
フジクラ |
Fujikura News No.505 (July 2025) |
2025/07/10 |
企業広報 |
fujikura.co.jp/en/news/pressrelease/20250710... |
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3 |
フジクラ |
Annual Report 2024 (Financial Data) |
2024/03/31 |
法定開示 |
afl-delivery.stylelabs.cloud/... |
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9 |
11 South Square |
Fujikura v Sterlite EWHC 3181 |
2025/10/15 |
判決速報 |
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24 |
TradeSecretsLaw |
Fujikura Composite America v. Alexander Dee |
2024/05/01 |
法的文書 |
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10 |
UK Courts |
Judgment Summary (EP 3796060) |
2025 |
判決文要旨 |
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11 |
住友電工 |
Integrated Report 2024 |
2024/10 |
統合報告書 |
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5 |
フジクラ |
Annual Report 2025 (Impairment) |
2025/03/31 |
法定開示 |
afl-delivery.stylelabs.cloud/... |
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4 |
フジクラ |
Integrated Report 2025 (ESG Data) |
2025/12 |
統合報告書 |
fujikura.co.jp/sustainability/pdf/report/en/2025... |
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16 |
フジクラ |
Integrated Report 2025 (CEO Message) |
2025/12 |
統合報告書 |
fujikura.co.jp/en/sustainability/top-message/ |
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8 |
フジクラ |
Press Release (RIEF Award) |
2026/01/26 |
公式PR |
fujikura.co.jp/en/news/pressrelease/20260126... |
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17 |
フジクラ |
Integrated Report 2022 (CTO Message) |
2022/12 |
統合報告書 |
fujikura.co.jp/sustainability/pdf/report/en/2022... |
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4 |
フジクラ |
Integrated Report 2025 (KPI & Mid-term Plan) |
2025/12 |
統合報告書 |
fujikura.co.jp/sustainability/pdf/report/en/2025... |
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15 |
フジクラ |
Capital Allocation Plan |
2023 |
経営資料 |
フジクラの研究開発投資は、過去5年間において「構造改革による抑制」から「戦略領域への集中投資」へと明確なフェーズ転換を経ている。法定開示資料(Annual Reports)に基づく連結研究開発費および財務指標の推移は以下の通りである。
表1:連結研究開発費および関連財務指標の推移 (百万円)
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会計年度 (Fiscal Year) |
売上高 (Net Sales) |
営業利益 (Operating Profit) |
研究開発費 (R&D Expenses) |
売上高対比 (R&D Ratio) |
戦略的フェーズの背景 (Context from Primary Sources) |
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FY2019 |
672,314 |
3,346 |
17,297 |
2.6% |
構造改革前の水準。低収益体質からの脱却が課題とされていた時期。 |
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FY2020 |
643,736 |
24,422 |
16,496 |
2.6% |
コロナ禍および事業再生計画(Operational Turnaround Plan)の実行期。 |
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FY2021 |
670,350 |
38,300 |
16,413 |
2.4% |
事業ポートフォリオの見直し(選択と集中)を加速。不採算事業の整理。 |
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FY2022 |
806,453 |
68,500 (Forecast) |
15,030 |
1.9% |
構造改革の完遂。R&D費の絶対額は底を打つが、利益率は大幅に改善。 |
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FY2023 |
799,760 |
Not Disclosed |
17,102 |
2.1% |
再拡大フェーズ。2025中計に基づき「情報インフラ」等へ投資を増額。 |
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FY2024 |
979,400 (Actual) |
135,500 (Actual) |
Not Disclosed |
-- |
2025中計目標(売上8,250億円、営業利益850億円)を大幅に超過達成 4。 |
解説: 2022年度(FY2022)にかけて研究開発費は150億円台まで圧縮されたが、これは「選択と集中」による効率化の結果である。特筆すべきは、2023年度(FY2023)にR&D投資が171億円へと反転増額されている点である。これは、2025中期経営計画における重点領域(情報インフラ、情報ストレージ)へのリソース再配分が実行に移されたことを示している。 さらに、2024年度(2025年3月期)の実績(2025年12月発行の統合報告書で公表)では、売上高9,794億円、営業利益1,355億円と、当初の中計目標を大幅に上回る業績を達成している。この高収益化は、SWR®/WTC®等の高付加価値製品の販売拡大に起因しており、R&D投資が確実にキャッシュフローとして結実していることを証明している 3。
フジクラの経営陣(CEOおよびCTO)は、技術開発を単なる「製品開発」ではなく、「企業価値(Corporate Value)および資本効率(ROIC)向上のための手段」として明確に定義している。以下に、過去3年間の公式資料からの発言を抜粋する。
岡田 直樹(代表取締役社長 CEO)の発言
「2025中期経営計画では、『情報インフラ』『情報ストレージ』『情報端末』の3つをコア事業領域と位置づけ、当社が誇る『つなぐ』テクノロジー™を活用していく。(中略)Beyond 2025として掲げている高温超電導線材やファイバレーザといった新規事業への挑戦も継続する。その上で、次のステージに向けた新たな事業領域を探索し、バランスよくリソースを投入することで更なる成長と企業価値向上を図る。」 (出典:Integrated Report 2025, CEO Message 16)
「SWR®/WTC®の生産のほぼ全てを日本国内で行っている。(中略)キーテクノロジーを社内に保持することの重要性と、人材育成の役割を考慮し、フジクラはマザーファクトリーとしての国内拠点を維持すべきだと考えている。」 (出典:Integrated Report 2025, CEO Message 4)
坂野 達哉(取締役 CTO)の発言
「経営戦略を実現するための技術戦略を策定・実行する。(中略)技術開発におけるCTOの重要な役割の一つは、研究開発を単なるコストセンターではなく、将来のキャッシュフローを生み出す源泉として機能させることにある。」 (出典:Integrated Report 2022, CTO Message 17) ※最新の2025年版レポートにおいても、CTOメッセージとして技術ポートフォリオの最適化と知財戦略の融合について言及が継続されている 4。
これらの発言からは、以下の戦略的意図が読み取れる:
フジクラの技術ポートフォリオは、収益の柱である「情報インフラ」と、将来の成長ドライバーである「エネルギー・エレクトロニクス」に大別される。各領域における開発プロジェクト、製品実装、および裏付けとなる特許動向を以下に詳述する。
データセンターのハイパースケール化により、最もリソースが集中し、かつ強力な特許障壁が構築されている領域である。
表2:光実装技術の開発と特許動向
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技術テーマ |
開発プロジェクト/製品 (Official Projects & Products) |
製品実装状況 (Implementation Status) |
関連特許・知財 (Patents & IP) |
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SWR® / WTC®
(高密度光ケーブル) |
16心間欠接着型光ファイバテープ
2025年7月発表。MMC/MPO等の多心一括接続コネクタとの適合性を高めた新製品。データセンター内配線の効率化に寄与。
Ultra-High Fiber Count I/O WTC
2026年1月技報にて発表。空気圧送(Jetting Installation)に対応した超多心ケーブル。 |
佐倉事業所 新工場
2025年稼働。カーボンニュートラル対応の製造ラインとして、SWR®/WTC®の量産を開始。
製品採用
北米および欧州のハイパースケールデータセンター向けに供給拡大中。 |
EP 3,796,060 (UK)
「リブ付き外被を持つ光ファイバケーブル」に関する欧州特許。空気圧送性能(Blowability)を向上させるためのシース表面形状と断面積(1.3mm²〜4.8mm²)を規定。
2025年に対Sterlite訴訟にて有効性と侵害認定を獲得(勝訴)。
国内・海外特許網
SWR構造(間欠接着)に関する基本特許群を日米欧で維持。 |
|
光コネクタ |
MMC High-Density Optical Connector
16F/24F 低損失フェルールの開発(技報No.54)。
One-Click™ Cleaner MPO ESD
静電気対策を施したMPOコネクタ用クリーナー(技報No.55)。 |
北米AFL社
連結子会社であるAmerica Fujikura Ltd. (AFL)を通じてグローバル販売を展開。
CEATEC 2024
展示会にてSWR/WTCと共に実機展示。 |
Not Disclosed
(具体的な特許番号は本調査範囲の一次情報では特定できず。ただし、AFL社独自の周辺特許が存在する可能性が高い) |
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融着接続機 |
100S Fusion Splicer
2026年1月発表。デュアルファイバサポート機能を搭載し、2本のファイバを同時に準備・装填可能。 |
AI制御技術の実装
作業時間を従来比で最大30%短縮。熟練度依存を低減する自動調整機能を搭載。 |
AI・制御特許
強化学習とSim2Realを用いた製造装置制御技術(技報No.54)の一部が、融着機の自動アライメント機能に応用されていることが示唆される。 |
詳細解説:SWR®/WTC®の特許障壁と「空気圧送」技術 SWR®(Spider Web Ribbon)およびWTC®(Wrapping Tube Cable)は、フジクラの収益源泉であり、その知財戦略は極めて堅牢である。特筆すべき事実は、2025年10月に判決が出された英国での特許訴訟(Fujikura v Sterlite EWHC 3181)である。 この裁判で争点となった「EP 3,796,060」は、単なるケーブル構造ではなく、マイクロダクトへの「空気圧送(Air-blown installation)」という施工プロセスにおける性能を最大化するための、ケーブル外被(シース)の「リブ形状」と「断面積」を数値限定した技術的特許である。 英国裁判所は、この特許の有効性を認めると同時に、競合であるSterlite社の製品が同特許を侵害していると認定した。これは、フジクラが「モノ(ケーブル)」だけでなく「コト(施工性の良さ)」に直結する技術要素を知財化し、実際に競合排除に成功していることを示す決定的な証拠である 9。
5G/6G通信インフラおよび次世代モビリティを見据えた高周波技術領域である。
表3:ミリ波・電子部品の開発動向
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技術テーマ |
開発プロジェクト/製品 (Official Projects) |
技術的成果・仕様 (Technical Specs) |
備考 |
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ミリ波無線通信
(28GHz / 60GHz) |
60GHz帯無線通信モジュール
実伝搬環境下での長距離伝送特性評価を実施。バックホール用途や低遅延映像伝送への適用を検証。
28GHz帯 5G基地局用PA
24-30GHz帯をカバーするパワーアンプICの開発。 |
Phased Array Antenna
サブアレイ構成を用いた屋内用ミリ波フェーズドアレイアンテナ(技報No.55)。
SiGe BiCMOSプロセスを採用し、最大利得30.3dB、PAE(電力付加効率)22%超を達成(技報No.54)。 |
技報No.54, No.55 19 |
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FPC / 電子部品 |
多層FPC / LCP FPC
高周波対応の液晶ポリマー(LCP)を用いた多層基板。
HDD用アクチュエータ
データ容量増大に対応する精密加工技術。 |
熱ソリューション
半導体発熱問題に対応する冷却技術(ヒートパイプ/ベーパーチャンバー等)によりデータセンターの省エネに貢献。 |
減損リスク
FPC事業については、2025年3月期(FY2024)決算において、事業環境の悪化による将来キャッシュフロー減少懸念から、固定資産の減損兆候判定が行われたことが開示されている 5。 |
詳細解説:ミリ波技術の深化とFPCの課題 ミリ波領域では、単なる部材供給にとどまらず、モジュール化による高付加価値化を進めている。技報No.54およびNo.55によれば、28GHz帯(5G FR2)および60GHz帯(V-band)において、自社開発のIC(パワーアンプ)とアンテナ設計技術(フェーズドアレイ)を組み合わせたソリューション開発を行っている。 一方、FPC事業に関しては、技術力はあるものの競争激化に晒されている。2025年3月期の有価証券報告書(Annual Report 2025)において、FPC事業の固定資産に関する減損の兆候が認定された事実は、同事業が技術的優位性を収益性に転換することに苦戦していることを示唆している。知財戦略としても、コモディティ化するFPC領域から、より参入障壁の高い高周波・放熱ソリューションへのシフトが急務となっている 5。
2030年以降の柱として期待される「核融合」および「産業用レーザ」領域である。
表4:新規事業領域の開発動向とアライアンス
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技術テーマ |
開発プロジェクト (Official Projects) |
提携・アライアンス (Partnership) |
備考 |
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高温超電導
(High-Temperature Superconductors) |
核融合炉用線材
レアアース系高温超電導線材(REBCO)の開発・量産化。
高磁場マグネット
UKAEA(英国原子力公社)のSTEP計画向けテストコイル開発。 |
UKIFS (UK Industrial Fusion Solutions)
2025年7月、枠組み合意(Framework Agreement)を締結。供給パートナーとしての地位を確立。
Kyoto Fusioneering
共同開発プロジェクトのPhase 1完了。 |
英国政府機関(UKAEA/UKIFS)との直接契約は、技術力の国際的な証明である 7。 |
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ファイバレーザ |
10kW Single Mode Fiber Laser
高効率かつSRS(誘導ラマン散乱)抑制機能を備えた10kW級シングルモードファイバレーザの開発(技報No.54)。 |
Not Disclosed |
省エネ加工技術として環境貢献をアピール 1。 |
詳細解説:核融合ビジネスの実質化 高温超電導線材は、フジクラが長年R&Dを継続してきた「死の谷」を超えつつある分野である。特に英国政府主導の核融合プロジェクト(STEP)において、UKIFSとの枠組み合意締結(2025年7月)に至った事実は、単なる研究協力の域を超え、サプライチェーン・パートナーとして選定されたことを意味する。これは、過酷環境(高磁場・極低温)での性能保証データや接合技術といった「利用技術」に関する知財・ノウハウが評価された結果であると推察される 7。
統合報告書2025のESGデータセクションに基づく、フジクラ単体の特許保有件数の推移は、同社の「グローバル・ニッチトップ」戦略を如実に反映している。
表5:特許保有件数の推移 (件)
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年度 (Fiscal Year) |
国内特許保有件数 (Domestic) |
外国特許保有件数 (Foreign) |
合計 (Total) |
傾向と分析 (Trend Analysis) |
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FY2020 |
2,893 |
1,860 |
4,753 |
国内中心のポートフォリオ。 |
|
FY2021 |
2,435 |
1,891 |
4,326 |
構造改革開始。国内特許の大幅削減(棚卸し)に着手。 |
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FY2022 |
2,257 |
1,874 |
4,131 |
削減継続。コスト効率の最大化を優先。 |
|
FY2023 |
1,861 |
1,867 |
3,728 |
国内と海外の件数が拮抗。 |
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FY2024 |
1,755 |
1,911 |
3,666 |
海外逆転。グローバルシフトが鮮明化。 |
解説: 2024年度において、ついに外国特許保有件数(1,911件)が国内特許保有件数(1,755件)を上回った。5年間で国内特許を約40%(1,100件以上)削減する一方で、外国特許は微増傾向を維持している。 このデータは、フジクラが「とりあえず出願する」という従来の日本的知財慣行から完全に脱却し、データセンター事業が拡大する北米・欧州市場や、製造拠点のある地域での権利網構築にリソースを集中させていることを示している。特許維持費用の削減分は、SWR®/WTC®等の戦略製品の海外出願や係争費用(対Sterlite訴訟等)に再投資されていると見られる 4。
フジクラは、自前主義に固執せず、特に先端領域において他社・他機関との連携を進めることで、開発リスクの分散と市場アクセスの加速を図っている。
表6:主要な提携・アライアンス (2023-2025)
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パートナー |
領域/案件 |
内容・目的 |
出典 |
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UKIFS
(UK Industrial Fusion Solutions) |
核融合エネルギー |
高温超電導線材の供給に関する枠組み合意。英国のSTEPプログラム(商用核融合炉建設)への参画。 |
7 |
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Kyoto Fusioneering |
核融合マグネット |
UKAEA(英国原子力公社)発注のR&Dプロジェクトにおける協業。超電導マグネット開発のPhase 1完了。 |
7 |
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NTT東日本 |
IOWN構想 / ミリ波 |
「IOWN Lab」への参画。オールフォトニクス・ネットワークとミリ波技術を組み合わせた低遅延・大容量伝送の実証実験を実施。国内通信インフラでのプレゼンス維持。 |
22 |
|
AFL
(America Fujikura Ltd.) |
光通信機器 |
北米子会社AFLを通じた新製品(Fujikura 100S等)のグローバル展開。AFLはフジクラの海外展開における販売・開発の重要ハブとして機能。 |
23 |
フジクラの知財ガバナンスは、権利の「創出」だけでなく、権利の「行使」およびリスクの「排除」において、極めて能動的かつ断固たる姿勢を示している。
現在進行形および直近の重要な係争案件として、以下のものが一次情報により確認されている。
対 Sterlite Technologies Ltd. 特許侵害訴訟 (UK)
対 Alexander Dee / Aretera Golf 営業秘密訴訟 (US)
国内電線大手3社(住友電工、古河電工、フジクラ)の知財・技術戦略を比較すると、フジクラの「選択と集中」戦略の特異性が浮き彫りになる。
表7:競合3社 知財・R&D指標比較 (FY2023/2024実績ベース)
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指標 |
住友電気工業 (Sumitomo Electric) |
古河電気工業 (Furukawa Electric) |
フジクラ (Fujikura) |
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R&D支出 |
1,420億円 (FY23) 11 |
247億円 (FY23 推計) 25 |
171億円 (FY23) 3 |
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対売上高比率 |
3.3% (FY24) 26 |
2%台後半 (推計) |
2.1% (FY23) 3 |
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特許戦略 |
全方位・規模重視
自動車、環境、通信の全領域で圧倒的な量。WIPO出願ランキング上位常連。 |
IPランドスケープ重視
「守り」から「攻め」への転換を掲げ、IPランドスケープ実装率100%をKPI化。 |
選択と集中・グローバル
特定製品(SWR/WTC)の特許網を強化し、海外保有比率が国内を逆転。訴訟による権利行使に積極的。 |
|
注力技術 |
自動車(ハーネス)、電力ケーブル(HVDC)、化合物半導体 |
フォトニクス、メタル、機能性樹脂 |
SWR/WTC、ミリ波、超電導線材、FPC |
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ガバナンス |
360億円規模の3カ年R&D投資枠を設定し、標準化活動も主導。 |
「リスク最小化」と「チャンス最大化」の二軸管理を明文化。 |
資本コスト意識が高く、不採算事業(FPC等)の減損処理と成長投資をシビアに判断。 |
分析:
フジクラはR&D投資規模において住友電工の約8分の1程度であり、全方位での競争は不可能である。そのため、SWR®/WTC®や超電導といった「ニッチトップ」領域にリソースを極端に集中させ、同領域における特許密度を高めることで参入障壁を築く「狭く深く」の戦略をとっていることが明確である。
2025中計および最新の技報から抽出した技術ロードマップは以下の通りである。
表8:技術開発・製品投入ロードマップ
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時期 |
領域 |
イベント/マイルストーン |
出典 |
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2025年 |
光インフラ |
佐倉事業所 新SWR®/WTC®工場稼働(カーボンニュートラル対応)。
16心SWR®/WTC®の販売開始。 |
7 |
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2025年 |
知財 |
英国対Sterlite特許訴訟 判決(勝訴確定)。欧州市場での権利行使開始。 |
9 |
|
2026年 |
光インフラ |
空気圧送対応 超多心I/O WTC (Ultra-High Fiber Count I/O WTC) 製品化(技報No.55)。 |
14 |
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2026年以降 |
超電導 |
英国UKIFS向け線材供給の本格化(核融合炉建設フェーズへの移行に伴う)。 |
7 |
|
~2030年 |
環境 |
スコープ1+2排出量の削減(2025年目標:2020年度比削減)と再エネ比率向上。 |
4 |
本調査において、一次情報のみでは確認・特定できなかった事項は以下の通りである。
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情報の性質
ご利用にあたって
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