3行まとめ
特許出願を避け「営業秘密」で守る独自の知財戦略
競争力の源泉であるアルゴリズムを特許化せず営業秘密(トレードシークレット)として秘匿し、33万人以上の医師会員基盤から得られる真正性の高いデータを独占することで、他社の参入を阻む強力な障壁を構築している。
売上2,849億円を支える技術投資と高収益体質
2025年3月期の売上収益は2,849億円、税引前利益は647億円に達し、売上原価に含まれる約894億円の技術関連投資が、高収益なプラットフォームビジネスを堅固に支えている。
リアルオペレーションへの拡張と予防医療への進出
M&Aを通じてリアルワールドデータの獲得を加速させ、「インターネット」から「医療現場のDX」へと事業領域を拡張し、予防医療や健康経営支援による新たな収益基盤の確立を目指している。
この記事の内容
エムスリー株式会社(以下、エムスリー)の2025年3月期における連結経営成績は、売上収益が2,849億円、税引前利益が647億円という高水準を維持している 1。この収益構造の特異性は、物理的な製造設備を持たず、33万人以上の医師会員基盤(m3.com)という「無形資産」と、そこから生成される「真正性の高い行動データ」を中核的な競争優位の源泉としている点にある。同社の知財戦略は、伝統的な製造業に見られるような「特許権による排他的独占」を追求するものではなく、プラットフォームのネットワーク効果を最大化し、限界費用ゼロに近い形で高付加価値サービス(MR君ファミリー等)を複製・展開するモデルを採用している。この戦略により、売上原価に含まれるシステム維持費や労務費が増加傾向にあるものの、営業利益率や税引前利益率は依然として20%超という高い水準を確保しており、知財(特にトレードシークレットとしてのアルゴリズムとデータベース)が直接的に高収益を生み出すドライバーとして機能していることが確認できる。特に、製薬企業のマーケティング支援においては、医師個々の嗜好や処方傾向を解析する独自アルゴリズムが、他社参入を阻む強力な参入障壁(Moat)となっており、財務数値上の「のれん」や「無形資産」の積み上がり以上に、バランスシートに表れない知的資産が企業価値を牽引している構造が浮き彫りとなっている 1。
現在、エムスリーの技術投資は、「インターネット上の情報提供」から「リアルな医療現場のオペレーション変革(DX)」へと重心を大きくシフトさせている。具体的には、クラウド型電子カルテ「エムスリーデジカル」を起点とした医療機関のDX支援に加え、2020年より開始された株式会社NOBORIとの提携による医用画像診断支援AIプラットフォームの社会実装が、2025年現在において本格的な普及フェーズに移行している 3。このプラットフォームは、病院内に設置されたエッジサーバー(M3 Edge Server)とクラウド環境をセキュアに接続し、複数のAIベンダーが提供する診断アルゴリズム(脳動脈瘤検知、肺結節検出等)を、病院側のシステム改修なしに利用可能にする技術的ブレイクスルーを実現している。さらに、2022年に始動した「ホワイト・ジャック・プロジェクト」は、一般生活者を対象とした予防医療領域への技術適用を加速させており、2025年4月に連結子会社化された株式会社イーウェルの福利厚生データ基盤との統合により、健康診断結果に基づく疾病リスク予測や行動変容介入技術の実装が進められている 1。これらは単なるWebサービス開発の域を超え、リアルワールドデータ(RWD)とAIを融合させた「サイバー・フィジカル・システム」としての医療インフラ構築を目指すものであり、技術開発の複雑性と深度は飛躍的に高まっている。
特許データベース(J-PlatPat等)の定性・定量分析において、エムスリーの特許出願戦略は極めて特異的かつ防衛的な傾向を示している。2026年時点での公開特許数は、同規模の時価総額を持つIT企業や医療機器メーカーと比較して著しく少なく、年間出願数は一桁台で推移している 5。これは、同社が競争力の源泉となるマッチングアルゴリズムやデータ処理ロジックを、公開が義務付けられる「特許」として権利化するのではなく、模倣困難な「営業秘密(トレードシークレット)」として内部に秘匿する戦略を徹底していることを示唆している。確認された数少ない特許出願(IPC分類:G16H 医療情報学、G06Q ビジネスモデル等)は、AIによる画像診断支援のワークフローや、特定のユーザーインターフェースに関するものが中心であり、これらは他社からの権利行使を防ぐための「防衛的出願」としての性格が強い。質的な変化としては、従来の「医師と製薬企業の情報のマッチング」に関する技術から、患者のバイタルデータ解析や予防医療における介入タイミングの最適化といった「治療結果(アウトカム)に寄与する技術」へと、知財保護の対象領域が拡張している点が挙げられる。このシフトは、同社のビジネスモデルが広告モデルからソリューションモデルへと進化している事実と整合的である。
エムスリーの最大の技術的優位性は、国内医師の9割以上をカバーする強固な認証基盤と、それに紐づくアクティビティデータの「真正性」と「網羅性」にある。競合であるJMDCが、健康保険組合由来のレセプトデータ(請求データ)という「結果」の分析に強みを持つのに対し、エムスリーは医師がどのような情報を閲覧し、何を考え、最終的にどのような処方判断を下したかという「思考プロセス(文脈)」のデータを保有している点で決定的な差別化を図っている 6。また、メドレー等のSaaSベンダーが特定の業務アプリケーション(電子カルテやオンライン診療)に特化しているのに対し、エムスリーは川上の製薬マーケティングから川下の患者支援、さらには福利厚生や介護(エラン買収による)まで、バリューチェーン全体をデータで連結するエコシステムを構築している点で優位にある。一方で、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の医療応用においては、グローバルなテックジャイアント(Google, Microsoft)や特化型スタートアップが急速に台頭しており、これら外部の革新的技術をいかに迅速に自社プラットフォームに取り込み、既存のアセットと統合できるかという「技術の目利き」と「インテグレーション速度」が、今後の競争優位維持における最大の課題となっている。自前主義にこだわらず、M&Aや提携を通じて外部技術を吸収する柔軟なアーキテクチャの維持が求められている。
今後のR&D投資および技術戦略は、既存のm3.comの機能改善に加え、M&Aを通じた「非連続的な技術・データ獲得」が主軸となる見通しである。特に、2024年の株式会社エラン(入院セット・リネンサプライ)および2025年の株式会社イーウェル(福利厚生・健診代行)の大型買収は、デジタル空間に閉じていたデータ収集のタッチポイントを、リアルの入院環境や企業の職場環境へと物理的に拡張するための戦略的投資であると位置づけられる 1。長期ロードマップにおいては、これらリアル接点から得られるバイタルデータ、健診データ、ライフログを、既存の診療データと統合し、AIによる「疾患発症予測」や「未病段階での介入」を実現する包括的なヘルスケア・プラットフォームの構築が企図されている。R&D投資の形態としては、純粋な研究開発費の計上よりも、データ連携のためのシステム統合コストや、新たなデータソースを持つ企業の買収資金(投資キャッシュフロー)としての支出が拡大する傾向にあり、財務諸表上の「のれん」と「顧客関連資産」の増加が、実質的な技術資産の蓄積を示す先行指標となるだろう。
エムスリーの財務報告において、伝統的な製造業のような「研究開発費」という単一の科目は、同社の技術投資の全貌を表していない。同社はソフトウェア開発やアルゴリズム構築にかかるコストの多くを、売上原価内の「労務費」「外注費」として計上しているためである。以下の表は、公開された財務データに基づき、技術開発およびプラットフォーム維持・拡張に関連すると推定されるコスト構造と、投資活動によるキャッシュフロー(技術・データ獲得のためのM&Aを含む)の推移を整理したものである。
表1:技術関連コスト構造および戦略的投資の推移(連結・IFRS)
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決算年度(Fiscal Year) |
売上収益 (百万円) |
売上原価内:労務費+外注費 (百万円) ※開発・運用コストのプロキシ |
投資活動によるCF (百万円) |
注力技術・戦略テーマ(当該年度資料より抜粋) |
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2021年3月期 |
169,198 |
Not Separately Disclosed |
▲22,143 |
「7Pプロジェクト」開始、クラウド電子カルテ普及、コロナ禍でのデジタル需要急増への対応 |
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2022年3月期 |
208,159 |
Not Separately Disclosed |
▲45,892 |
ワクチン接種支援システムの構築、AI画像診断支援の社会実装、海外データ事業の拡大 |
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2023年3月期 |
230,818 |
Not Separately Disclosed |
▲18,256 |
「ホワイト・ジャック・プロジェクト」始動、海外データ事業(Vidal)のPMI、コンシューマ向け遺伝子検査 |
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2024年3月期 |
238,883 |
Not Separately Disclosed |
▲25,600 |
リアルオペレーションDXの深化、企業の健康経営支援強化、治験DX(治験君)の機能拡張 |
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2025年3月期 |
284,900 |
89,416 (労務費63,176 + 外注費26,240) |
Data Pending |
株式会社エラン・株式会社イーウェルの大型買収によるデータ圏拡大、AIプラットフォームの収益化 1 |
詳細解説(Strategic Intent & Interpretation):
上記データの分析から、エムスリーの技術投資戦略には明確な特徴が見て取れる。まず、2025年3月期において売上原価に含まれる「労務費」と「外注費」の合計が約894億円に達している事実は、同社がもはや単なるWebメディア企業ではなく、巨大なエンジニアリング組織とオペレーション部隊を抱えるテクノロジー企業に変貌していることを示している 1。このコストの多くは、m3.comのサーバー維持だけでなく、電子カルテ「デジカル」の開発、AIアルゴリズムのチューニング、そして買収した企業のシステム統合(PMI)に投じられていると推測される。
特筆すべきは、投資キャッシュフローの変動である。2022年3月期の▲458億円や、2024年以降の大型買収に伴う支出は、自社内でのR&D(Organic Growth)よりも、すでに完成された技術やデータ資産を持つ外部企業を買収すること(Inorganic Growth)で、技術ポートフォリオを時間をかけずに拡張する戦略を優先していることを如実に表している。特に、2025年3月期における売上収益の大幅な伸長(前期比約19%増)は、これらのM&A効果が発現した結果であり、技術投資が直接的にトップラインの成長に寄与している成功例と言える。
経営陣は、単なる「IT化」ではなく「DX(デジタルトランスフォーメーション)」、すなわちビジネスモデルそのものの変革を志向しており、そのために必要なリソース配分を惜しまない姿勢を一貫して示している。特に「ホワイト・ジャック・プロジェクト」のような予防医療領域への進出は、従来の製薬マーケティング支援事業で培った高収益を原資として、より長期的な視点での技術開発(予測AI等)に再投資するサイクルを確立していることを意味する。これにより、短期的にはコストが増加しても、長期的には参入障壁がさらに高まるという「先行者利益の複利効果」を狙っていると分析できる。
エムスリーの技術戦略は、谷村 格 代表取締役のビジョンによって強力に牽引されている。過去3年間のCEOメッセージや統合報告書における記述を時系列で分析すると、技術に対する期待値と役割定義が進化していることが確認できる。
CEOメッセージの分析的要約(2023-2025):
この変遷は、エムスリーが「メディア企業」から「データ・テクノロジー企業」へと自己定義を再構築していることを示しており、今後の技術戦略もこの文脈に沿って展開されることが確実である。
本セクションでは、エムスリーが保有する知的財産と技術資産を、特許のような「見える資産」と、ブラックボックス化された「見えない資産」の両面から徹底的にカタログ化する。
エムスリーの知財戦略の核心は、「特許出願の抑制」と「ブランド保護の徹底」という二極化にある。以下は公開データベースに基づく分析結果である。
表2:エムスリー株式会社 知財出願・登録状況(概算および戦略的解釈)
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カテゴリ |
件数(推計) |
主要分類(IPC/CPC) |
戦略的意図と背景 |
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特許 (Patent) |
極小 (年間0-5件程度) |
G16H (Healthcare Informatics), G06Q (Business Methods) |
**** コアとなるマッチングロジックやAIアルゴリズムは、特許出願による公開(1年6ヶ月後の公開公報)を避けるため、意図的に出願されていない。ソフトウェアの進化速度が速いWeb業界において、権利化までのタイムラグがある特許は必ずしも有効な防御手段とならないという判断が働いている。代わりに、不正競争防止法上の「営業秘密」としての管理を徹底し、ブラックボックス化することで模倣を防いでいる 5。 |
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商標 (Trademark) |
多数 |
m3.com, MR君, Digi-Kar, AskDoctors, CaNoW |
**** サービスの名称やロゴを広範囲に商標登録し、ブランド価値を毀損する類似サービスの出現を阻止している。特に「MR君」などは、製薬業界におけるデファクトスタンダードとしての地位を法的に保護する役割を果たしている。 |
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意匠 (Design) |
少数 |
画面UI (GUI) |
アプリケーションのユーザーインターフェース(特に医師や患者が直接操作する画面)のデザイン保護。 |
詳細解説(Strategic Intent):
エムスリーが特許出願に消極的である事実は、同社が「技術そのもののライセンス」で稼ぐ企業ではなく、「技術を活用したサービス」で稼ぐ企業であることを如実に示している。例えば、創薬ベンチャーであれば特許がなければ収益化できないが、プラットフォーマーであるエムスリーにとって、アルゴリズムはあくまで「ユーザー体験を向上させるための裏方の仕組み」に過ぎない。
むしろ、特許を出願して詳細なロジックを公開してしまうことは、競合他社(JMDCやメドレー、あるいはGoogle等のテックジャイアント)にヒントを与えるリスクとなる。したがって、同社の知財ポートフォリオは、外形的に見える「商標」でブランドを守りつつ、核心部分の「技術」は社外秘として金庫の奥にしまうという、コカ・コーラのレシピのような管理体制が敷かれていると推測される。ただし、AI診断支援など、規制当局(PMDA等)の承認が必要な医療機器プログラム(SaMD)に関しては、承認プロセスの一環として技術開示が必要となるため、部分的かつ防衛的な特許出願が行われている可能性がある。
エムスリーにおける「知財」は、どのようにして具体的な収益(キャッシュフロー)に変換されているのか。そのメカニズムをIR資料ベースで解剖する。
エムスリーは、自前主義にこだわらず、必要な技術やデータを持つ企業を積極的にエコシステムに取り込む「連邦経営」的なアプローチを採用している。
表3:主要なM&Aおよび戦略的提携(技術・データ獲得関連・直近5年)
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時期 |
対象企業・パートナー |
領域 |
戦略的狙い・獲得アセット |
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2024年10月 |
株式会社エラン (公開買付により連結子会社化) |
入院サポート(CSセット) |
**** 入院患者および介護施設利用者への直接的な接点と、それに紐づく請求・利用データの獲得。退院後の在宅医療やケア領域へのシームレスなデータ連携基盤を構築し、m3.com外のリアルな患者データを捕捉する狙い 1。 |
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2025年4月 |
株式会社イーウェル (連結子会社化) |
福利厚生・健康診断 |
**** 企業の健康診断データ、従業員の健康管理プラットフォームの獲得。「ホワイト・ジャック・プロジェクト」における予防介入の実践フィールドを確保し、健保組合向けビジネス(BtoBtoE)を強化する 1。 |
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2023年 |
Kantar Health (事業譲受) |
海外調査データ |
[Global Intelligence] グローバル規模でのヘルスケア市場調査データおよび解析ノウハウの獲得。海外製薬企業への提案力を強化し、欧米市場でのデータビジネス展開を加速させる。 |
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2024年11月 |
ソニーフィナンシャルグループ (業務提携) |
保険・金融 |
[Fintech x Health] ヘルスケアデータに基づいた新しい保険商品の開発や、人生100年時代に向けたライフプランニングサービスの共同開発。リスク評価モデルの高度化を図る 4。 |
|
2024年8月 |
富士通 (提携) |
AI・データ解析 |
**** 富士通の「セルフケアAI」とエムスリーの「EBHS Lifeレポート(余命予測)」の統合。技術的補完関係を構築し、健康無関心層への行動変容アプローチを強化する 4。 |
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2020年5月 |
株式会社NOBORI (業務提携) |
画像診断AI基盤 |
**** 院内PACSとクラウドを接続するインフラ技術の共同利用。自前でハードウェアや専用線を敷設することなく、病院内システムへのアクセス経路を確保した戦略的提携 3。 |
詳細解説(Ecosystem Analysis):
このM&Aリストから読み取れるエムスリーの「隠れた意図」は、Web上の行動データ(Click Stream)だけでなく、物理的な生活空間における生体データ(Real World Data)の覇権を握ろうとしている点である。
特にエランとイーウェルの買収は象徴的である。エランは「入院中」という人生で最も医療ニーズが高まる瞬間の接点を持っており、イーウェルは「健康診断」という年に一度の健康評価のデータを持っている。これらをm3.comの医師データと結合することで、エムスリーは「医師の視点(診断・処方)」と「患者の視点(生活・状態)」の双方をデータとして保有する唯一無二のプレイヤーとなる。これは、単なる多角化ではなく、データの解像度を高めるためのパズルのピースを埋める作業であり、これら統合されたデータセットこそが、将来的に開発される予測AIの学習データ(教師データ)となり、最強の知的財産となるのである。
エムスリーは、厚生労働省やデジタル庁が推進する「医療DX」の潮流において、実質的なインフラ提供者としての地位を固めつつある。マイナンバーカードの保険証利用や電子処方箋の普及プロセスにおいて、同社のクラウド電子カルテ「エムスリーデジカル」が標準規格への迅速な対応を行うことで、国の施策を技術面から支えている。また、コロナ禍におけるワクチン大規模接種会場の運営支援や予約システムの提供実績は、自治体との強固な信頼関係(Social Capital)を構築し、今後の公的医療データ活用の議論においても有利なポジションを確保する布石となっている 1。
企業の存続を左右する「守り」の知財戦略について記述する。
現時点(2025年3月期末および2026年2月時点)において、エムスリーの経営に重大な財政的影響を及ぼすような進行中の特許侵害訴訟や知財係争の事実は、公開資料上確認されていない。しかし、有価証券報告書のリスク情報には、潜在的な脅威に対する認識が明記されている。
有価証券報告書「事業等のリスク」より引用・要約:
これは定型的なリスク開示ではあるが、医療IT領域では、米国を中心に「パテント・トロール(特許非実施主体)」による訴訟リスクが高まっており、エムスリーもグローバル展開(特に米国事業)において警戒レベルを引き上げていると推測される。
エムスリーにとって、情報漏洩は単なる事故ではなく、事業の根幹である「医師と患者の信頼」という無形資産を一瞬で破壊する最大のリスクである。そのため、サイバーセキュリティ対策は知財防衛の最重要項目として位置づけられている。グループ各社は、国際標準規格であるISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を取得し、ガバナンスを効かせている。
表4:ISMS認証取得状況(グループ主要企業・技術関連)
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組織名 |
認証規格 |
認証登録番号 |
登録範囲(Scope) |
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エムスリーヘルスデザイン株式会社 |
ISO/IEC 27001:2022 |
MSA-IS-164 |
遠隔読影、ストレスチェック、健康診断情報処理、従業員健康管理クラウドサービス。個人情報を含む機微なヘルスケアデータの取り扱い全般 8。 |
|
エムスリーAI株式会社 |
ISO/IEC 27001:2022 |
JMAQA-S233 |
医療AIサービスの提供及び販売。AI開発における学習データの管理プロセスを含む 9。 |
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エムスリー株式会社(本社) |
ISO/IEC 27001 / JIS Q 15001 (Pマーク) |
Disclosure in separate certs |
全社的な情報管理体制。プライバシーマークの取得により、日本国内法(個人情報保護法)への適合も担保している 10。 |
詳細解説(Governance Structure):
エムスリーAIやエムスリーヘルスデザインといった、特に機微な個人情報(PHR)やAI学習用データを扱う戦略子会社が、個別に最新のISO規格(ISO/IEC 27001:2022)を取得している点は極めて重要である。これは、親会社のガバナンス網を被せるだけでなく、各事業特性に応じた厳格なセキュリティ管理プロセス(アクセスコントロール、暗号化、ログ監視)が現場レベルで実装されていることを第三者機関が証明していることを意味する。
特に、医療データは「要配慮個人情報」に該当するため、一般の個人情報よりも厳格な管理が法的に求められる。ISMS認証の維持は、病院や健保組合といった保守的な顧客層とのBtoB取引において「取引参加資格(Ticket to Play)」となっており、営業上の信頼性を担保する重要な無形資産として機能している。
医療ビッグデータおよびDX領域における主要競合であるJMDCおよびメドレーとの比較を通じ、エムスリーの立ち位置を明確化する。
表5:主要競合3社 技術・戦略ベンチマーク比較
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比較項目 |
エムスリー (M3) |
JMDC |
メドレー (Medley) |
|
コア資産 (Data Asset) |
**** m3.com会員基盤(医師)、思考・処方意図データ、入院・健診データ(新規) |
[Payer & Claims] 健康保険組合由来の1,000万人規模のレセプト(診療報酬明細)データ、オムロン由来のバイタルデータ |
[Provider & Operations] 医療従事者求人データ、クラウドカルテ「CLINICS」の診療プロセスデータ |
|
技術戦略の重心 |
プラットフォーム×M&Aによる多角化(リアルオペレーションへの侵食) |
データの標準化・匿名化技術の高度化、ウェアラブル連携 |
SaaSのUI/UX磨き込み、オンライン診療システム、日医標準レセプトAPI連携 |
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R&D/投資傾向 |
買収による機能拡張(エラン、イーウェルなど大型案件主導)。技術を「買う」動きが顕著。 |
データ解析基盤への投資、PHRアプリ開発。オムロングループ内でのシナジー追求。 |
自社開発比率が高い(エンジニア組織の拡大)。オーガニックな機能改善に注力。 |
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収益モデル |
マーケティング支援(高利益率)、DXソリューション、エビデンス創出 |
データ販売(製薬・保険向け)、健保向け保健事業支援 |
人材紹介手数料(フロー)、SaaS利用料(ストック) |
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財務規模 (直近売上) |
約2,849億円 (FY2025) 2 |
成長中(数百億円規模) |
成長中(数百億円規模) |
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技術的強み (Moat) |
圧倒的な医師カバー率と、それを基盤とした「情報の信頼性」。 |
データの「量」と「長期追跡可能性」。 |
プロダクトの「使いやすさ」と医療機関への深い入り込み。 |
詳細解説(Competitive Analysis):
対 JMDC:
JMDCは「レセプトデータ(結果)」において圧倒的なシェアと歴史を持つが、レセプトには「なぜその薬を処方したか」という医師の思考プロセスは記録されていない。エムスリーはm3.comを通じてその「思考(文脈)」を捕捉できる点に構造的な優位性がある。また、JMDCがオムロン傘下でハードウェア(血圧計等)との連携を模索する一方、エムスリーはエラン(入院)やイーウェル(健診)を通じて「サービス」を通じたデータ収集網を広げており、アプローチが異なる。
対 メドレー:
メドレーは「CLINICS」等のSaaSプロダクトの品質(UI/UX)が高く、現場の支持を集めている。エムスリーの「デジカル」はこれに追随する形だが、エムスリーの強みはSaaS単体の機能よりも、「デジカルを使えばMR君とも連携できる」「開業支援も受けられる」といったグループ全体のエコシステム・パワーにある。また、資本力に大きな差があるため、エムスリーは時間を金で買う(M&A)戦略により、メドレーが時間をかけて構築したポジションを規模で圧倒する動きを見せている。
エムスリーは、中期経営計画や統合報告書において、以下の長期的な技術・事業ロードマップを提示している。
本レポート作成にあたり、公開情報(IR資料、特許DB、プレスリリース)からは以下の事項について詳細なファクトを確認することができなかった。これらは今後の調査課題としてリストアップする。
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本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。
情報の性質
ご利用にあたって
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