3行まとめ
「THE STAR」等のプラットフォームによる約5割の市場シェアと事実上の独占
リテール証券口座の約5割を管理する「THE STAR」を筆頭に、特許権よりも強固なデファクトスタンダード(事実上の標準)を確立し、高いスイッチングコストで顧客をロックインしています。
特許化を避けて「ノウハウ(営業秘密)」を徹底的に秘匿・契約で防衛
競争力の源泉である独自のコンサルティング手法やシステム技術を公開せず、営業秘密として内部に留保し、法務部門主導の緻密な契約設計によって模倣や流出を防ぐ戦略を採用しています。
AI戦略は「攻めの特許」より「守りのガバナンス」で著作権リスクを回避
競合他社と異なりAI特許出願数よりも「著作権等の権利侵害」リスクへの対応を最優先し、2024年策定のAI基本方針に基づく厳格なガバナンス体制でブランドの「信頼」を守り抜く方針です。
エグゼクティブサマリ
本レポートは、株式会社野村総合研究所(以下、NRI)の知財戦略について、一次情報(IR資料、公的機関レポート等)に基づき網羅的に分析したものです。NRIの戦略は、伝統的な特許ポートフォリオの構築とは一線を画し、「知的資本」の防衛と活用に最適化された独自の形態を採っていると見られます。
本分析から得られた主要な調査結果および推察は以下の通りです。
- 基本方針: NRIは、サステナビリティ・IR情報において、特許権等の「知的財産権」よりも広範な「知的資本」(卓越したビジネスモデル、進化し続けるブランド、事業展開を支えるケイパビリティ)の創出・蓄積を最重要視していると見られます¹。
- ガバナンス体制: 競合他社(例:富士通)が知財ガバナンス体制を詳細に開示している² ⁶のに対し、NRIのコーポレート・ガバナンス報告書⁷ ⁵では、知財・R&Dに特化した監督体制の具体的な開示が限定的です。
- 戦略的秘匿の可能性: このガバナンスの「不透明性」は、NRIの競争優位性の源泉が、公開を前提とする特許ではなく、「ノウハウ(営業秘密)」³に強く依存しているため、その管理体制自体を戦略的に秘匿している可能性が推察されます。
- 戦略の第1柱(ブランド): 知財戦略の最重要の柱は、金融ITソリューションにおける「デファクトスタンダード」の地位確立です。「THE STAR」(リテール証券)は個人証券口座管理の約5割¹⁵ ⁷を占め、「I-STAR」(ホールセール証券)は1987年以来のべ100社超の導入実績⁶ ¹⁴を有します。
- 模倣防衛(ロックイン): これらプラットフォーム(商標)⁷ ⁶が持つ市場支配力は、顧客の莫大な「スイッチングコスト」と「制度変更への迅速な対応力」⁶に支えられており、特許以上に強固な「事実上の知的独占」状態(=卓越したビジネスモデル¹)を形成していると分析されます。
- 戦略の第2柱(ノウハウ): コンサルティング領域やカスタムSIにおける競争優位性は、特許化(公開)を避け、「営業秘密」³として管理される方法論(メソッド)や業務知識にあると推察されます。
- 契約による防衛: ノウハウの防衛は、法務部門が主導する「取引先との契約内容」³(例:知的財産権の帰属、機密保持条項)の設計・交渉が最前線となっていると考えられます。
- 戦略の第3柱(AIガバナンス): NRIは、AI(特に生成AI)の急速な普及に対し、AI関連特許の出願²⁴(5)による「攻め」よりも、2024年2月の「NRIグループ AI基本方針」⁸ ⁹策定による「守り」を選択したと見られます。
- AIリスクへの対応: 新方針では、生成AI特有の「著作権等の各種権利侵害」⁹リスクへの対応が明記されました。これは、クライアント(特に金融機関)の基幹システムを預かる事業者として、法的リスクを管理・無害化する「AIガバナンス」を最優先する戦略の表れです。
- 競合との差異: NRIの戦略は、AI特許出願数(攻め)を強調する富士通²とも、知財の社会実装(ビジョン)を提示するNTTデータ²¹ ⁹とも異なる、「ノウハウ秘匿」³と「リスク防衛」⁹を中核に据えた独自のポジショニングであると結論付けられます。
- 短期的リスク: 最大のリスクは、現場でのAI利用における「著作権侵害」⁹の発生であり、これはNRIの「信頼」という「ブランド」¹を直接毀損する可能性があります。
- 中長期的課題: デファクトスタンダード・プラットフォーム⁶ ⁷の「レガシー化(技術的負債)」リスク、および「ノウハウ」¹ ³を属人的に支える高度専門人材の流出リスクが、中長期的な課題として識別されます。
本文
背景と基本方針
株式会社野村総合研究所(以下、NRI)の知財戦略を分析する上で、まず同社が「知的財産」という概念をどのように定義し、経営戦略の根幹に位置づけているかを理解することが不可欠です。NRIの公式な開示情報、特にIR(Investor Relations)資料やサステナビリティ関連の報告を精査すると、同社の戦略的資産の定義が、一般的な製造業が用いる「知的財産権(Intellectual Property Rights)」とは異なる、より広範な概念に基づいていることが明らかになります。
NRIは、自社の持続的な価値創造を支える基盤として複数の「資本」を定義しており、その中で「知的資本の創出・蓄積」を重要なマテリアリティ(重要課題)の一つとして掲げています¹。注目すべきは、この「知的資本」の内実です。NRIの定義によれば、知的資本とは「卓越したビジネスモデル」「進化し続けるブランド」「事業展開を支えるケイパビリティ」の3つの要素で構成されています¹。
この定義は、NRIの知財戦略の基本方針を読み解く上で、極めて重要な示唆を与えます。第一に、特許権、実用新案権、意匠権といった、伝統的かつ法的に登録・排他独占を目的とする「知的財産権」への言及が、少なくとも経営方針の最上位レベルでは前景化していません。これは、NRIの知財戦略が、例えば競合他社(後述する富士通など)のように、特定技術分野における特許出願件数やポートフォリオの規模を競争優位の主要な源泉とする戦略とは、根本的に異なるアプローチを採っていることを示唆しています。
第二に、NRIが挙げる3つの要素(ビジネスモデル、ブランド、ケイパビリティ)¹は、いずれも法律によって直接的に保護される「財産(Property)」というよりも、事業活動そのもの、あるいはその結果として市場で獲得した「地位」や「能力」に近いものです。これは、同社の戦略的資産が、登録された権利そのものよりも、事業プロセスや市場での認知、人材の質といった、より広範な「無形資産(Intangible Assets)」にあると、NRI自らが定義しているものと推察されます。
この「知的資本」という用語の採用は、単なる言葉の綾ではなく、NRIの経営姿勢を反映したものと考えられます。これらの無形資産は、単に所有・防衛されるべき「財産」ではなく、継続的に新たな価値を生み出し、経営に再投資されるべき「資本(Capital)」として取り扱われていることを示しています。
この基本方針は、NRIが長年にわたり培ってきた独自の事業モデルと不可分に結びついています。NRIの事業は、大別して「コンサルティング」と「ITソリューション」という2つの異なるサービス領域で構成されています。
コンサルティング領域では、NRIは「未来創発センター」¹⁷ ¹⁸に代表されるシンクタンク機能を擁し、社会・経済・経営に関する洞察、政策提言、経営戦略の策定支援などを行います。ここで生み出される主要な知的生産物は、各種の調査レポート、提言書、あるいは問題解決のための独自の方法論(メソッド)です。これらの成果物は、その性質上、特許権による保護には馴染みにくいものが多く、主に「著作権(レポート等の著作物)」や、公開されない「営業秘密(ノウハウ)」によって保護・管理される対象であると推察されます。
一方、ITソリューション領域では、NRIは特に金融分野、次いで流通、公共分野において、顧客の基幹業務を支える大規模な情報システムの開発、運用、保守を手掛けています。ここで生み出される知的生産物は、ソフトウェア(プログラムの著作物)、独自のシステムアーキテクチャ、あるいは特定の業務プロセスを効率化するアルゴリズムやビジネスモデル(ソフトウェア特許、ビジネスモデル特許の対象)です。さらに、これらのソリューションは「THE STAR」や「I-STAR」といった強力な「商標権」に紐づくサービスブランドとして市場に提供されています。
NRIの最大の強みは、これら2つの領域が独立して存在するのではなく、緊密に連携している点にあると見られます。すなわち、コンサルティング活動を通じて得られた業界の深い知見や未来予測(「ケイパビリティ」¹)が、ITソリューションの設計・開発(「卓越したビジネスモデル」¹)にフィードバックされ、逆に、ITソリューションの運用を通じて蓄積された膨大な実務データやノウハウが、コンサルティングの精度を高める、という循環(「未来創発」の具現化)です。
したがって、NRIの知財戦略の基本方針は、個別の特許や著作権を単体で保護することに留まらず、この「コンサルティングとITソリューションの連携プロセス」全体をいかにして模倣困難なものとし、持続的な競争優位性を確保するか、という点に主眼が置かれていると考えられます。
この方針は、同社の長期経営ビジョン「NRI Group Vision 2030(V2030)」および「中期経営計画(2023–2025)」⁸の文脈においても明確です。NRIは、DX(デジタルトランスフォーメーション)とグローバル化を主要な成長ドライバーとして位置づけています⁸。この戦略遂行における「知的資本」¹の役割は、DXやグローバル展開を加速するための「羅針盤」であり「推進力」です。例えば、「卓越したビジネスモデル」¹という知的資本は、単に国内の金融システムを構築するに留まらず、海外の顧客に対しても適用可能な、スケーラブルなグローバル・ソリューション(例:「I-STAR/GV」の海外拠点向けバックオフィスソリューション¹⁶)の開発・展開として具現化されています。
しかしながら、DX(特にAI技術の急速な進展)とグローバル化は、NRIにとって新たな機会であると同時に、深刻な知的財産リスクをもたらします。AIの利活用に伴う「著作権等の各種権利侵害」や、グローバル展開に伴う国際的な権利侵害(被侵害・侵害)リスクの増大です。
この新たなリスク環境に対応するため、NRIの知財戦略の基本方針は、「知的資本の創出・蓄積(価値創造)」と、それらの資産および事業活動全体を新興リスクから防衛する「ガバナンス(リスク管理)」を、不可分な両輪として重視する方向へと進化していると見られます。この戦略的転換は、NRIが2019年の「AI倫理ガイドライン」を抜本的に改定し、2024年2月に「NRIグループ AI基本方針」⁸ ²⁴を策定したこと²⁴に、最も象徴的に表れています。この新方針では、生成AIの登場に伴う著作権侵害等のリスクが明確に認識され、法令遵守と権利保護が強調されています⁸ ²⁴。
結論として、NRIの知財戦略の基本方針は、特許出願件数のような「量の追求」ではなく、「知的資本」¹(ブランド、ビジネスモデル、ケイパビリティ)という独自の経営資産の「質の維持・向上」にあります。その戦略は、事業モデルと密接に連動しており、コンサルティング領域では「ノウハウ(営業秘密)」の秘匿と保護、ITソリューション領域では「ブランド(商標)」による市場支配と「システム(著作権・ノウハウ)」の複合的防衛、そして全社的には「新興技術(AI)のリスクガバナンス」⁸ ²⁴が中核となっていると推察されます。
当章の参考資料
- https://www.nri.com/jp/sustainability/materiality/capital_creation/intellectual_capital.html
- https://ir.nri.com/jp/ir/library/report.html
- https://www.nri.com/jp/service/solution/i_star_gv.html
- https://www.nri.com/jp/service/souhatsu/index.html#:~:text=%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E5%89%B5%E7%99%BA%E3%S%BB%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AF%E3%80%81%E4%B8%8D%E9%80%8F%E6%98%8E,%E6%8F%90%E6%A1%88%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
- https://www.concord-career.com/industry/sdgs/nri_sustainability/
- https://www.nri.com/jp/news/info/files/900037489.pdf
全体像と組織体制
NRIグループ全体における知財戦略を所管する組織体制、およびそのガバナンスの枠組みを分析することは、前章で定義した「知的資本」¹を同社がいかにして管理・防衛しているかを理解する上で不可欠です。しかし、NRIが公開している一次情報、特にコーポレート・ガバナンス報告書や統合報告書を詳細に分析した結果、この点に関する具体的な情報は著しく限定的であることが判明しました。
NRIが2024年に提出したコーポレート・ガバナンス報告書⁷ ⁹を精査しても、知的財産権(知財)や研究開発(R&D)に特化したガバナンス体制、例えば取締役会配下の「知財委員会」や「技術戦略委員会」といった専門組織の設置、あるいはCSO(最高戦略責任者)やCTO(最高技術責任者)と知財部門長の連携体制図といった具体的な記載は、提供された資料の範囲内では確認されませんでした。同報告書では、会社法上の監査等委員会設置会社への移行⁹や、取締役会の実効性評価の実施⁷といった、ガバナンス全般の枠組み強化については言及があるものの、知財や無形資産といった特定の経営課題・リスクが取締役会レベルでどのように監督・議論されているかについての具体的なプロセスは、開示されていません。
この状況は、国内の主要な競合他社の動向と比較すると、その特異性が際立ちます。例えば、富士通株式会社は、サステナビリティ情報の一環として「パーパスの実現を支える知財戦略」と題する詳細なウェブページを公開しています⁶ ²。そこでは、ゼネラルカウンセル(法務担当役員)配下に「知財グローバルヘッドオフィス」という専門組織が存在し、それが「知的財産戦略室」と「知的財産センター」から構成されること、さらにCTO(最高技術責任者)が率いる技術部門と密接に連携していることなどが、組織図と共に詳細に開示されています²。また、ビジネス法務知財本部長が社外取締役・社外監査役も参加する独立役員会議などの場で、知財戦略の進捗を報告し、経営層と議論する場が設けられていることも明記されています²。
NRIによるこの「情報開示の欠如」は、単なるIR活動の怠慢ではなく、前章で分析した同社の知財戦略の「基本方針」¹と密接に関連した、意図的な戦略的判断を反映している可能性があります。この点に関して、2つの相反する仮説が導かれます。
第一の仮説は、「戦略的秘匿」です。前章で述べた通り、NRIの競争優位性の源泉が、法的に登録・公開される「特許」よりも、公開を前提としない「ノウハウ(営業秘密)」に大きく依存している(2011年の資料³が「ノウハウの要素が強い」と示唆)場合、その管理体制やガバナンスの枠組み自体が、企業の最重要の経営秘密となります。このような体制を詳細に開示することは、競合他社に対し、NRIがどの領域のノウハウを、どのような体制で管理・防衛しているのか、という「手の内」を明かすことに繋がりかねません。したがって、投資家や市場の「開示要求」に応じることのメリットよりも、機密性を維持する(意図的に「非開示」または「秘匿」を選択する)ことの戦略的メリットが上回ると経営陣が判断している可能性が推察されます。
第二の仮説は、「分散的・暗黙的体制」です。NRIの知財管理は、富士通の「知財グローバルヘッドオフィス」²のような中央集権的な専門部門に集約されているのではなく、各事業部門(例:金融ITソリューション事業本部)の内部、あるいは全社的な経営資源配分を決定する経営会議のレベルで、分散的かつ暗黙的に組み込まれている可能性です。コーポレート・ガバナンス報告書⁵には、経営資源の配分について「案件開始時の審議とモニタリングを通して、DX・グローバルを中心とした中長期的な戦略や技術的観点も踏まえて資源配分の妥当性や効率性を確認しています」⁵とのみ記載されています。この「技術的観点」という非常に広範な表現の中に、個別のR&D案件の特許性、他社特許への侵害リスク評価、あるいは特許出願(公開)せずに「ノウハウ」として秘匿するという戦略的判断が、暗黙知的に含まれていると考えられます。しかし、この審議プロセスが、経済産業省などが推進する「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」が要求するレベル、すなわち経営戦略と連動した知財ポートフォリオの構築と取締役会による明示的な監督、に達しているかは、現在の公開情報からは判断不能です。
NRIグループの知財戦略体制を考察する上で、NRIサイバーパテント株式会社(現・サイバーパテント株式会社)の動向は重要な示唆を与えます。同社は、NRIと連携し、少なくとも2014年時点において、テキストマイニング技術を活用して特許文献や論文データをマクロ分析するサービス「TRUE TELLER(トゥルーテラー) パテントポートフォリオ」¹⁰ ¹¹を提供していました。このサービスは、企業の事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の立案・評価を支援する¹¹ものであり、この事実は、NRIグループ内部に高度なIP(知的財産)分析のケイパビリティ(知的資本¹の一つ)が存在していたことを明確に示しています。
しかし、同社の沿革によれば、NRIサイバーパテント株式会社は2020年1月にフランスのQuestel SASのグループ会社となり、社名をサイバーパテント株式会社に変更しています²⁶。NRI本体が、この高度なIP分析サービス事業を(少なくとも直接的な資本関係上は)グループ外へ移行させたと見られるこの動きは、NRI本体の知財戦略における「選択と集中」を象徴している可能性があります。すなわち、自社で「特許ポートフォリオ分析」の高度なケイパビリティを保持し、それを外部に販売する¹⁰ ¹¹という事業よりも、自社の中核事業(コンサルティングとITソリューション)の遂行に不可欠な「ノウハウ(営業秘密)」³と「ブランド」¹の管理、および「AI等の新興リスク対応」⁸ ²⁴といった、より内部的かつ防衛的な知財活動に経営資源を集中させる、という戦略的判断が働いた可能性が推察されます。
結論として、NRIの知財ガバナンス体制は、富士通のような競合他社と比較して意図的に「不透明」に保たれていると見られます。これは、同社の競争優位が、公開情報である登録特許ポートフォリオよりも、秘匿された「ノウハウ(営業秘密)」³に強く依存している(と推察される)ことと、表裏一体の戦略的選択である可能性が高いと考えられます。R&D投資の判断基準である「技術的観点」⁵の中に知財評価が暗黙的に含まれていることは確実と見られますが、取締役会レベルでの具体的な監督体制は、戦略的な理由から外部からは意図的に見えにくい構造になっていると分析されます。
当章の参考資料
- https://www.nri.com/jp/sustainability/materiality/capital_creation/intellectual_capital.html
- https://global.fujitsu/ja-jp/sustainability/intellectual-property
- https://www.chubu.meti.go.jp/b36tokkyo/sesaku/houkokusyo/fy23chizaibunsekijireisyu.pdf
- https://www.nri.com/content/900038246.pdf
- https://pr.fujitsu.com/jp/ir/library/intellectualproperty/
- https://www.nri.com/jp/company/co_governance/governance.html
- https://www.nri.com/jp/news/info/files/900037489.pdf
- https://www.nri.com/content/900038246.pdf 1
- https://www.nri.com/content/900036784.pdf
- http://kayudamaya.ikidane.com/service/macro/
- https://www.nri.com/jp/news/info/files/900037489.pdf 2
- https://www.patent.ne.jp/company/history.html
詳細分析(NRI知財戦略の3つの柱)
前章までの分析に基づき、NRIの知財戦略は、特許出願件数のような単純な指標では測れない、事業モデルと深く結びついた複合的な形態を採っていると推察されます。本章では、その戦略を具体的な3つの柱(①ブランドIPとプラットフォーム、②ノウハウと契約による防衛、③IPリスクガバナンス)に分解し、それぞれを詳細に分析します。これにより、NRIが「知的資本」¹をいかにして競争優位性に転換し、また防衛しているかを解明します。
第1の柱:ブランドIPとプラットフォーム戦略(市場支配的地位の確立)
NRIの知財戦略において、最も強力かつ明確な形態で現れているのが、金融ITソリューション分野における「ブランド(商標)」と、それに紐づく「プラットフォーム(システム)」の確立です。これは、同社が知的資本の構成要素として掲げる「卓越したビジネスモデル」と「進化し続けるブランド」¹を体現するものです。
この戦略の中核を成すのが、証券バックオフィスシステムである「THE STAR」および「I-STAR」と名付けられたソリューション群です。
まず、「THE STAR」は、主にリテール(個人向け)証券業務の勘定系といわれる領域を支える「総合証券バックオフィスシステム」です¹³ ¹⁵。このプラットフォームは、特に中堅・準大手の証券会社を中心に、リテール証券業務における「デファクトスタンダード」¹⁵ ⁷としての地位を確立しています。この支配的な地位は、抽象的な名声に留まらず、極めて具体的な数値によって裏付けられています。NRIの公式情報によれば、「個人証券口座管理の約5割」が「THE STAR」によって管理されています¹⁵ ⁷。さらに、東京証券取引所の1日の出来高(株式トレーディング)の「約50%」が、NRIの提供するインフラ・ソリューション(「THE STAR」および後述の「I-STAR」)を通じて管理されているとされています⁷。2025年3月時点で、この「THE STAR」の利用社数は83社に達しています⁷。
次に、「I-STAR」は、ホールセール(法人向け)証券業務を対象としています。その中核である「I-STAR/CORE」は、約定から決済・会計に至るホールセール証券会社の複雑な業務をきめ細かくサポートする証券バックオフィスシステムです¹⁴ ⁶。このソリューションは1987年にサービスを開始して以来、のべ100社以上の金融機関への導入実績を誇り¹⁴ ⁶、「ホールセール証券業務システムのデファクトスタンダード」であるとされています¹⁴ ⁶。この「I-STAR」ブランドは国内に留まらず、海外拠点を含む複数拠点のバックオフィス業務を一括処理するグローバル対応版「I-STAR/GV」¹⁶としても展開されており、NRIのグローバル戦略⁸(10)を支える知的資本としても機能しています。
知財戦略の観点からこの状況を分析すると、以下の2点が明らかになります。
第一に、「THE STAR」¹² ¹³ ¹⁵や「I-STAR」¹⁴ ¹⁶という名称は、それ自体が「商標権」によって法的に保護される重要な知的財産です。これらのブランドは、金融業界という極めてミッションクリティカルな領域において、「安定性、信頼性、堅牢性」¹³、そして日本の頻繁な「証券制度の変更に速やかにキャッチアップ」⁶できる能力の象徴として機能しています。この「信頼」こそが、NRIが長年蓄積してきた「進化し続けるブランド」¹という知的資本そのものです。
第二に、そしてより本質的な点として、NRIの真の参入障壁は、商標権という法的な権利そのものよりも、これらのプラットフォームが数十年にわたって構築してきた「エコシステム」と、そこから生まれる顧客の「高額なスイッチングコスト」にあると推察されます。
この「ロックイン」による模倣防衛のメカニズムは、極めて強固です。
第一の要因は、データの移行コストです。一度「THE STAR」のような勘定系システムを導入した金融機関が、数十年にわたって蓄積された膨大な顧客データや取引履歴を、ミスの許されない形で別のシステムへ移行するために必要な技術的コスト、業務的コスト、および時間は莫大です。
第二の要因は、法制度への対応力です。NRIは「I-STAR/CORE」の概要で「日本の証券制度の頻繁な変更に速やかにキャッチアップ」⁶していることを明確に謳っています。顧客である証券会社は、自社で多大なリソースを割いて法改正対応のシステム開発・改修を行うよりも、業界標準であるNRIのプラットフォームを利用し続ける方が、コスト面でもリスク管理面でもはるかに合理的です。
第三の要因は、ネットワーク外部性です。リテール口座管理の「約5割」⁷という圧倒的な市場シェアは、業界の業務プロセス自体(例えば、証券会社間の連携や監督官庁への報告様式など)が、事実上「THE STAR」の仕様に最適化されていく効果(デファクトスタンダード化)を生む可能性があります。
結論として、NRIは「THE STAR」と「I-STAR」というブランドIP(商標)を核に、技術、法制度対応、市場シェアを組み合わせることで、競合他社が容易に模倣できない、極めて参入障壁の高い「プラットフォーム」を構築しました。この「デファクトスタンダード」の地位こそが、NRIにとって最も強力かつ収益性の高い「模倣防止策」であり、個別の特許権による技術的独占よりも遥かに強固な、事実上の「知的独占」状態を形成していると分析されます。これこそが、NRIが自ら定義する「卓越したビジネスモデル」¹という知的資本の、最も成功した具体例であると言えるでしょう。
第2の柱:ノウハウ(営業秘密)と契約による防衛(コンサルティングとSIの価値源泉)
NRIの知財戦略の第一の柱が、金融ITソリューションという「システム」と「ブランド」¹ ¹⁵ ⁶による市場支配であったとすれば、第二の柱は、それらのシステムを設計・構築し、あるいはクライアントの経営課題を解決する「コンサルティング」活動の価値の源泉、すなわち「ノウハウ(営業秘密)」の管理と防衛にあると推察されます。
NRIのコンサルティング・サービスや、金融分野以外も含むカスタムSI(システムインテグレーション)における競争優位性は、最終的に納品される成果物(調査レポートやプログラムコード)そのものにあるというよりも、それらの高品質な成果物を生み出すに至る「プロセス」、独自の「方法論(メソッド)」、そして「未来創発センター」¹⁷などに蓄積された深い「業務知識」にあると考えられます。これらは本質的に、体系化された「ノウハウ」の集合体であり、法的には「営業秘密」として保護されるべき対象です。
しかし、これらのノウハウは、「特許化のジレンマ」(あるいは「ノウハウのパラドックス」)と呼ばれる、知識集約型企業に特有の課題を抱えています。
もし、NRIが独自に開発した画期的なコンサルティング・メソッドや、特定の業務プロセスを最適化するビジネスモデルを「特許」として出願した場合、その内容は出願公開(出願から1年6ヶ月後)によって全世界に開示されることになります。これにより、競合他社(他のコンサルティングファームやSIベンダー)に模倣のための重要なヒントを与えてしまい、かえって競争優位性を損なうリスクがあります。また、そもそもコンサルティング・メソッドやビジネスプロセス自体を、特許法が要求するレベル(進歩性、発明の明確な特定)で権利として成立させることは、技術的なハードルが高いと一般に見られています。
このジレンマに関する重要な示唆が、2011年に中部経済産業局が発行した報告書³(特定の企業名は明記されていないものの、文脈上、同様の課題を持つ企業事例として)に見られます。同資料では、「これらの技術内容はノウハウの要素が強いが、当社の権利を確保して他社に模倣されない対策と、単にノウハウの開示にならないような対策が必要になる」³と指摘されています。
この記述は、NRI(あるいは同種の知識集約型企業)にとっての合理的な知財戦略が、重要な技術的知見や経営ノウハウの多くを、あえて特許出願(公開)せず、「営業秘密」として内部に秘匿し、不正競争防止法や契約によって管理・防衛することであることを強く示唆しています。
そして、この「ノウハウ」による防衛戦略の成否を分ける鍵として、上記2011年の資料³は「取引先との契約内容も重要になる」³と明確に結論付けています。
これは、NRIの知財戦略において、特許庁への出願業務を担う「知財部」以上に、クライアントとの契約交渉を担う「法務部門(あるいは契約担当部門)」が、事実上の「知財防衛の最前線」として極めて重要な役割を果たしていることを示唆しています。
この「契約」による防衛が重要となる背景には、NRIの事業の特質である「知の交換」があります。NRIは、クライアント(金融機関、流通業者、官公庁など)の経営戦略や基幹業務(例:データガバナンス²⁵)に関わるコンサルティングやシステム開発を行うため、必然的にクライアントが保有する最も機密性の高い情報(顧客データ、経営戦略、業務プロセス)に深くアクセスします。それと同時に、NRIはプロジェクトを遂行するために、自社が蓄積してきた開発手法、独自コンポーネント、分析モデルといった「NRI側のノウハウ(営業秘密)」をプロジェクトに投入します。
プロジェクトが完了(=納品)した際、この「知の交換」の結果として生み出された成果物(システム、レポート)の知的財産権は誰に帰属するのか。また、プロジェクトの過程でクライアント側に開示・移転されたNRIのノウハウが、プロジェクト完了後に、クライアントによって(あるいはクライアントが発注する別のベンダーによって)目的外に利用されたり、不当に流用・流出されたりすることを、いかにして防ぐか。
これらのリスクを管理し、NRIの中核的「知的資本」¹であるノウハウを守るため、業務委託契約書やライセンス契約書における「知的財産権の帰属(特に、NRIがプロジェクト開始前から保有していた「バックグラウンドIP」の留保)」「機密保持義務の範囲と期間」「ノウハウの具体的な定義」「成果物の目的外使用の禁止」といった契約条項の設計、交渉、そしてその履行管理が、特許権による防衛以上に、NRIの競争力を支える極めて重要な知財防衛戦略となっていると考えられます。コンサルティングファームによるデューデリジェンスの事例⁷a(9)が存在することからも、M&Aや取引(=契約)の場面における無形資産の取り扱いの重要性が裏付けられます。
第3の柱:IPリスクガバナンス(AIとデータの防御戦略)
NRIの知財戦略の第一の柱が「ブランドとプラットフォーム」¹ ¹⁵ ⁶による市場支配(攻め)、第二の柱が「ノウハウと契約」³による価値源泉の秘匿(守り)であったとすれば、第三の柱は、現代のデジタル社会における新たな、そして最大の経営リスク、すなわち「AI(人工知能)とデータ」の利活用に伴うIPリスクを管理・防衛する「ガバナンス」戦略です。
現代のITソリューション企業にとって、知財戦略は「攻め(権利創出)」の側面以上に、「守り(リスク回避)」の側面が、事業継続性を左右するほどに重要性を増しています。NRIは、その中核事業領域である金融機関向けに、データガバナンスの確立を支援するコンサルティング・サービス²⁵を提供しています。同社は、金融機関が直面する課題として「情報漏洩などのミスや事故が発生した場合には、企業経営に重大な影響を及ぼす」²⁵と指摘しており、データとそれに伴うリスクの深刻さを深く認識していることが伺えます。この認識は、当然ながらNRI自身の経営にも向けられているはずです。
この「守り」の知財戦略が最も明確に表れたのが、AI、特に「生成AI(Generative AI)」の急速な普及に対するNRIの対応です。
NRIは、AI技術がもたらす倫理的・社会的課題を早期に認識し、2019年には既に「NRIグループ AI倫理ガイドライン」を策定していました⁸ ⁹。しかし、2022年末以降の生成AIの爆発的な進展を受け、NRIは2024年2月13日に、このガイドラインを全面的に改定し、より強力な「NRIグループ AI基本方針」⁸ ⁹として発表しました。
この改定の戦略的な意味は、極めて重大です。NRIの発表によれば、この改定は、従来のAIが持っていた「情報漏洩」や「バイアス・不公平」といったリスクに加え、「生成AIの登場によりさらに懸念が高まる」「著作権等の各種権利侵害」や「誤謬性・正確性」、「不適切コンテンツの生成」といった「新たなリスクに対応すべく」⁹行われたものです。
この「著作権等の各種権利侵害」⁸ ⁹という文言こそが、NRIのAI時代における知財戦略(IPリスクガバナンス)の核心であると分析されます。
NRIの数万人規模に及ぶと推察されるコンサルタントやエンジニアが、日々の業務(調査レポートの作成、プログラムコードの開発)の効率化のために、外部の生成AIサービス(例:ChatGPT, GitHub Copilotなど)を利用するケースは、既に一般化しているか、急速に増加していると想定されます。
しかし、これらの生成AIが、インターネット上の膨大なデータを学習する過程で、第三者の著作権で保護された文章、画像、あるいはプログラムコードを不適切に取り込んでいる可能性は、世界的に指摘されている法的論点です。
もし、NRIの従業員が、そうした「汚染された」AIの出力を、著作権侵害の可能性を認識せずに(あるいは認識しつつも工数削減のために)利用し、それがNRIの最終的な納品物(クライアント向けレポート、システム)に混入した場合、NRIは深刻な法的リスクを負うことになります。具体的には、クライアント(特に金融機関や官公庁)に対しては契約不適合責任(納品物に権利侵害の瑕疵があった)を問われ、元の著作権者である第三者からは著作権侵害で直接訴えられるリスクを負います。
NRIが、国内の規制動向(例:「広島AIプロセス」「AI事業者ガイドライン案」⁹)を踏まえ、競合他社に先駆けて(あるいは同時に)この「AI基本方針」⁸ ⁹を策定・公開したこと自体が、同社の「防衛的知財戦略」の明確な表れです。
このアプローチは、一部の競合他社とは対照的です。例えば富士通は、AI関連技術(AIのコア技術および「応用技術」)の積極的な「特許出願」² ⁶を推進し、AI分野での国内特許出願数1位²であることを主張するなど、「攻め」のAI知財戦略を鮮明にしています。これは、AI技術の基盤(例:トランスフォーマ・モデル)²⁴(5)に関する特許ポートフォリオを構築することで、技術的優位性を確保しようとする戦略です。
これに対し、NRIが選択した戦略は、AIのコア技術(トランスフォーマ・モデルなど)を自社で開発・特許出願して競争することではなく、他社(OpenAI, Google, あるいは富士通)が開発したAI技術を、いかに「安全に利活用する」か、いかに「法的に無害化する」か、という「AIガバナンス」⁸ ⁹の枠組みを構築・徹底することにあると見られます。
クライアント(特にNRIの主要顧客である金融機関や官公庁)にとって、AI導入の最大の懸念は、その技術的革新性もさることながら、それに伴う法的・倫理的リスク(特にデータ漏洩と著作権侵害)です。
NRIが「AIガバナンス」⁸ ⁹の体制を厳格に構築し、それを遵守している(あるいは遵守を支援する)という事実は、クライアントにとって「NRIが提供するAI活用ソリューションやコンサルティングは、著作権等のIPリスクが管理されており、安全である」という「信頼」の証となります。
この「信頼」こそが、NRIがAI時代において提供する最も中核的な価値であり、「進化し続けるブランド」¹、「事業展開を支えるケイパビリティ」¹という「知的資本」そのものであると結論付けられます。
当章の参考資料
- https://www.nri.com/jp/sustainability/materiality/capital_creation/intellectual_capital.html
- https://global.fujitsu/ja-jp/sustainability/intellectual-property
- https://www.chubu.meti.go.jp/b36tokkyo/sesaku/houkokusyo/fy23chizaibunsekijireisyu.pdf
- https://www.nri.com/jp/service/solution/i_star_core.html 3
- https://www.nri.com/jp/service/industry/finance/fis_about.html 4
https://www.duediligence-dict.com/casestudy/
- https://www.nri.com/jp/news/info/files/900037489.pdf
- https://www.nri.com/jp/sustainability/social/policies#AI_Ethics_Guidelines
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- https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/ai_shutsugan_chosa.html 5
- https://it.impress.co.jp/articles/-/18809
競合比較
前章までに分析したNRIの知財戦略(知的資本¹の定義、ガバナンスの不透明性⁷ ⁵、ブランド・プラットフォーム⁷ ⁶による市場支配、ノウハウ・契約³による防衛、防衛的AIガバナンス⁸ ⁹)は、同業の主要な競合他社と比較することで、その戦略的ポジショニングと特異性がより明確になります。
本章では、NRIと同様にコンサルティングとITソリューション(SI)を国内外で手掛ける主要な競合企業として、富士通株式会社(以下、富士通)および株式会社NTTデータグループ(以下、NTTデータ)を取り上げ、各社の公開情報(統合報告書、知財レポート等)に基づき、NRIの戦略を比較分析します。
比較分析の軸として、以下の3点を設定します。
- IPガバナンスの透明性: 知財管理体制(組織、プロセス、取締役会の関与)を、投資家やステークホルダーに対してどの程度詳細に開示しているか。
- IP戦略の焦点: 競争優位の源泉として、特許ポートフォリオ(技術的独占)、ブランド(市場支配)、ノウハウ(秘匿)の何を最も重視しているか(公開情報からの推察を含む)。
- AI知財へのアプローチ: AI(特に生成AI)の急速な普及に対し、特許出願(攻め)とリスク管理(守り)のどちらに戦略の力点を置いているか。
競合分析:富士通株式会社 (Fujitsu Limited)
- IPガバナンスの透明性(高い):
富士通は、過去には「知的財産報告書」⁵(7)を発行しており、現在もサステナビリティ情報の一環として「パーパスの実現を支える知財戦略」⁶ ²と題する詳細なウェブページを公開しています。この開示レベルは、本レポートで分析対象とした企業の中で最も高いものです。具体的には、「知財グローバルヘッドオフィス」がゼネラルカウンセル配下に設置され、「知的財産戦略室」と「知的財産センター」から構成される体制図が開示されています²。さらに、CTO(最高技術責任者)部門と連携し、ビジネス法務知財本部長が独立役員会議などで戦略の進捗を報告する²といった、取締役会レベルでの監督プロセスが具体的に明記されています。これは、コーポレート・ガバナンス報告書⁷ ⁵に関連組織の具体的な記載が見当たらないNRIとは、際立って対照的です。
- IP戦略の焦点(特許ポートフォリオ重視):
富士通の戦略は、NRIが「知的資本」¹という広範な概念を掲げるのに対し、より明確に「特許ポートフォリオ構築」²を中核に据えています。同社は、AI、Computing、Network、Data & Security、Converging Technologiesという5つの「Key Technologies (KT)」に研究開発リソースを集中させ、特許出願によって技術的優位性を確保しようとする、ハードウェア(例:スーパーコンピュータ)開発を祖業の一つとする企業に特徴的な「攻め」の知財戦略を採っています。その結果として、AI関連技術では2014年以降の国内特許出願数が1位であること、量子コンピュータ開発分野でもパテントファミリー件数で日本企業1位(世界9位)である²ことを、具体的な成果として主張しています。
- AI知財へのアプローチ(攻め:特許出願):
上記の方針に基づき、AI知財へのアプローチも極めて「攻撃的」です。AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」のFujitsu Uvance(事業ブランド)への実装に合わせて、AIのコア技術のみならず、特定の業種ナレッジと融合した「応用技術」の権利化に注力しています²。NRIが2024年の「AI基本方針」⁸ ⁹で「著作権等の各種権利侵害」⁹という「守り」の側面を強く打ち出したのに対し、富士通の開示情報は「特許出願数1位」²という「攻め」の側面が強く表れています。
競合分析:株式会社NTTデータグループ (NTT DATA Group Corporation)
- IPガバナンスの透明性(中程度・分散的):
NTTデータは、2024年をもって「統合レポート」の発行を終了し、今後は「会社案内」や「サステナビリティレポート」等での情報開示に移行するとしています⁴(11)。このため、知財戦略に関する集約的なIR情報はNRI同様に限定的になる可能性があります。ただし、NTTグループ全体としては、NTT(持株会社)の研究開発(R&D)と連動する「NTT知的財産センタ」²²(12)が存在し、標準化活動などを推進していると見られます。また、NTTデータ(国内事業会社)の採用情報からは、「第一公共事業本部」といった事業部門が、中央省庁(例:特許庁)向けに「知的財産関連システム開発」²⁰(13)を大規模プロジェクトとして手掛けていることが読み取れます。これらの情報から、NTTデータの知財ガバナンスは、NTT R&D(知財センタ)からの基盤技術移転と、各事業本部(例:公共)による顧客(官公庁)向けSIプロジェクト、という二元的な構造を持っている可能性が推察されます。
- IP戦略の焦点(社会実装・プラットフォーム型):
NTTデータは、2025年8月付(未来の日付)のリリース情報として、「知的財産が創り出す未来の社会像」と題するホワイトペーパーを公開しています²¹ ⁹(6)。このホワイトペーパーでは、日本企業における無形資産の価値評価の低さや、国内特許の約半数が事業に活用されていない⁹(6)といった課題を指摘し、「知的創造サイクル」(創造・保護・活用)の円滑化を提唱しています。このアプローチは、自社が特許出願で覇権を握る(富士通型)というよりも、知的財産が円滑に流通・活用されるための「プラットフォーム」や「社会システム」(例:官公庁の知財システム²⁰)の構築者・支援者としての側面を打ち出すものです。この点(プラットフォーム戦略)はNRIの「デファクトスタンダード」⁷ ⁶戦略と類似性がありますが、NRIが金融分野¹⁵ ¹⁴に深く特化しているのに対し、NTTデータはより汎用的・公共的な領域(司法、自動車登録、知的財産行政など²⁰)を志向している点で異なると推察されます。
- AI知財へのアプローチ(課題解決・将来ビジョン型):
NTTデータのAIに対するアプローチは、上記ホワイトペーパー¹⁹ ⁹(6)に示されるように、AI(生成AI)を「知的創造サイクルを円滑化する」ためのデジタル技術として位置づけ、企業価値向上と社会課題解決への貢献を謳うものです。NRIが「AI基本方針」⁹(2)で直面する「著作権侵害リスク」という具体的な「守り」を強調しているのに対し、NTTデータの開示は、AI活用による「未来の社会像」²¹(6)の提示という、「ビジョン」や「啓発」の側面が強いように見受けられます。
比較表:主要ITコンサルティングファームの知財戦略(推察を含む)
本分析で得られたNRI、富士通、NTTデータの知財戦略の差異を、以下の比較表にまとめます。本表は、各社の公開情報(一次情報)に基づき、知財戦略の「タイプ」が根本的に異なることを可視化するために作成されました。
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比較軸
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株式会社野村総合研究所
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富士通株式会社
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株式会社NTTデータグループ
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IPガバナンスの透明性
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低い(意図的な非開示の可能性)
・CG報告書⁵ ⁷に知財専門組織の記載見当たらず。
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高い
・「知財グローバルヘッドオフィス」の体制とミッションを詳細に開示⁶ ²。
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中程度(分散的)
・NTT知財センタ²²と各事業本部²⁰が関連。統合レポート廃止⁴により集約的開示は減少傾向の可能性。
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IP戦略の主たる焦点(推察)
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①ブランド(商標)
・「THE STAR」¹⁵等の市場支配的ブランド。
②ノウハウ(営業秘密)
・コンサルティング・メソッド、システム・ノウハウを契約³で防衛。
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特許ポートフォリオ
・AI、Computing等の「KT」分野における特許出願数(AI国内1位)²をKGIとする「攻め」の戦略。
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プラットフォーム・社会実装
・知財流通の円滑化⁹や、官公庁の知財関連システム構築²⁰による社会インフラ化。
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AI知財へのアプローチ
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防衛的(リスクガバナンス)
・「AI基本方針」⁸ ⁹を改定し、「著作権等の各種権利侵害」リスクへの対応(守り)を最優先事項として明文化。
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攻撃的(特許出願)
・AI関連技術(コア・応用)の積極的な特許出願²による技術的優位性の確保。
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啓発的(ビジョン提示)
・AIによる「知的創造サイクル」の加速⁹や「未来の社会像」²¹をホワイトペーパーで提示。
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IP関連サービス
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あり(ただし縮小か)
・特許分析「TRUE TELLER」¹⁰ ¹¹((旧)NRIサイバーパテント²⁶)。
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あり(IP活用)
・「FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs」²等による自社特許のライセンス活動。
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あり(SIサービス)
・官公庁(例:特許庁)向けの知財関連システム開発²⁰。
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当章の結論的考察
上記の比較分析から、NRIの知財戦略は、競合他社と比較して極めて「内向き(ノウハウの秘匿)」かつ「防衛的(リスク管理)」であると特徴づけられます。
富士通が、製造業の強みを活かして「特許(攻め)」と「ガバナンス(開示)」²を両立させようとしているのに対し、NRIは、コンサルティング&SIという事業モデルの特性から、「ノウハウ(営業秘密)」³と「ブランド(市場支配)」¹⁵ ¹⁴を知財戦略の核に据えています。そして、その管理体制(ガバナンス)の開示を(戦略的に)控える⁷ ⁵一方で、AIのような全社的な新興リスクに対しては、「著作権侵害」⁹という法務・リスク管理(守り)の側面から最優先で対応⁸する、という非対称な戦略を採っています。
NTTデータが「知的創造サイクル」の円滑化⁹という「社会インフラ」構築の視点²⁰を提示しているのとも異なり、NRIの戦略は、自社の「知的資本」¹(特に金融分野における卓越したビジネスモデルとブランド)を守り抜くために、内向きに最適化された、独自の戦略的形態であると高く評価される可能性があります。
当章の参考資料
- https://www.nri.com/jp/sustainability/materiality/capital_creation/intellectual_capital.html
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- https://www.chubu.meti.go.jp/b36tokkyo/sesaku/houkokusyo/fy23chizaibunsekijireisyu.pdf
- https://www.nttdata.com/global/ja/investors/ar/
- https://www.nri.com/content/900038246.pdf
- https://pr.fujitsu.com/jp/ir/library/intellectualproperty/
- https://www.nri.com/jp/company/co_governance/governance.html
- https://www.nri.com/jp/news/info/files/900037489.pdf
- https://www.nri.com/jp/sustainability/social/policies#AI_Ethics_Guidelines 2
9(B9). https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/081800/ 6
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- https://nttdata-career.jposting.net/u/job.html?job_code=1498
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- https://www.rd.ntt/chizai/overview/
- https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/ai_shutsugan_chosa.html 5
- https://www.patent.ne.jp/company/history.html
リスク・課題(短期/中期/長期)
NRIの知財戦略(①デファクトスタンダード・ブランド、②ノウハウ・契約重視、③防衛的AIガバナンス)は、前章までの分析の通り、現在の事業環境(特に国内金融市場)において極めて効率的に機能し、高い参入障壁と収益性を実現していると見られます。しかし、この戦略は「両刃の剣」であり、その成功要因そのものが、将来の環境変化に対する脆弱性、すなわち潜在的なリスクと課題を内包していると分析されます。
本章では、NRIの知財戦略が内包するリスクと課題を、短期(1〜3年)、中期(3〜5年)、長期(5年以上)の3つの時間軸で整理し、その深刻度と影響を考察します。
短期リスク(直近1〜3年)
- リスク:生成AI利活用における「著作権侵害」訴訟リスク
- (内容): NRIは2024年2月に「NRIグループ AI基本方針」⁸ ⁹を策定し、組織的なAIガバナンス構築(「守り」)にいち早く着手しました。これは、生成AIがもたらす「著作権等の各種権利侵害」⁹リスクを経営陣が正確に認識している証左です。しかし、このリスクの本質は「方針」の策定にあるのではなく、その「運用」にあります。
- (分析): 数万人に及ぶと推察されるNRIのコンサルタントやエンジニアが、日々の業務(レポート作成、コーディング、データ分析)で外部の生成AIツールを利用する際、この全社方針が現場の末端まで「絵に描いた餅」とならずに遵守されるかどうかが、最大の不確実性です。納期のプレッシャーや工数削減の誘惑の中で、現場レベルでリスクのあるコードや文章が(意図的か否かにかかわらず)流用・混入される可能性はゼロではありません。
- (影響): もしNRIがクライアント(特に金融機関や官公庁)に納品したシステムやレポートが、第三者の著作権を侵害していると認定された場合、その影響は計り知れません。クライアントからの損害賠償請求や契約不適合責任を問われるだけでなく、最悪の場合、「THE STAR」⁷(4)のような社会インフラとしての基幹システムを提供する事業者としての適格性、すなわち「信頼」を根本から問われることになります。これは、NRIが知的資本の中核と定義する「進化し続けるブランド」¹を、短期間で深刻に毀損する最大の短期リスクであると評価されます。
- リスク:ノウハウ(営業秘密)の防衛不全(契約不備・内部流出)
- (内容): NRIの戦略の第二の柱が、特許(公開)ではなく「ノウハウ(営業秘密)」³と「契約」³による防衛に依存している場合、その防衛ライン(=契約書)に不備があれば、ノウハウは法的な保護を失います。
- (分析): このリスクは、特にM&A(NRIによる他社買収、あるいはクライアントによる事業買収)の際のデューデリジェンス(DD)プロセス⁷a(9)や、クライアントとNRIの担当者が密接に協働するアジャイル開発のようなプロジェクト形態において高まります。これらの場面では、どこまでがクライアントの財産で、どこからがNRIの「ノウハウ(バックグラウンドIP)」なのか、その境界線が曖昧になりがちです。
- (影響): 契約条項の不備、解釈の相違、あるいは内部(または元従業員)からの意図的な流出により、NRI独自のコンサルティング・メソッドやシステム・アーキテクチャが競合他社に渡った場合、その模倣困難性、すなわち「卓越したビジネスモデル」¹は即座に失われます。
中期リスク(3〜5年)
- リスク:デファクトスタンダード・プラットフォームの「レガシー化」と技術的負債
- (内容): 「THE STAR」¹³ ¹⁵や「I-STAR」¹⁴ ⁶は、NRIの現在のキャッシュフローを生み出す強力な知的資本であると同時に、数十年にわたり(I-STARは1987年から⁶)改修を重ねてきた、いわゆる「レガシーシステム」としての側面も持っていると推察されます。
- (分析): これらのプラットフォームが持つ「デファクトスタンダード」⁷ ⁶の地位は、金融業界の「安定」や「制度変更への追随」⁶といったニーズには完璧に応えるものの、新興技術(例:クラウドネイティブ・アーキテクチャ、マイクロサービス、DeFi(分散型金融)、ブロックチェーン)を活用した、異業種からのFinTech企業の破壊的イノベーションに対しては、その巨大さ故に、アーキテクチャの柔軟性やコスト面で不利になる可能性があります。
- (影響): 現在、顧客を強固に「ロックイン」⁷ ⁶している要因(データ移行コスト、業務プロセスの最適化)が、中期的には、NRI自身が大胆な技術革新(例:全面的なクラウドネイティブ化)を行う際の「足枷(技術的負債)」となるリスクがあります。もし、新興FinTech企業が、NRIのプラットフォームよりも劇的に低コストで、かつ現行の法規制(例:データガバナンス²⁵)にも準拠した(あるいは規制の枠外の)サービスを提供し始めた場合、「THE STAR」が持つ5割のシェア⁷も徐々に侵食され、NRI最大の知的資本が「負の資産」に転化するシナリオも、中期的には想定されます。
- リスク:知財ガバナンスの不透明性に伴う投資家評価の低下
- (内容): 本レポートで繰り返し指摘した通り、NRIの知財ガバナンス体制は、開示情報が限定的です⁷ ⁵。
- (分析): 一方で、国内外の機関投資家は、ESG投資の進展やコーポレートガバナンス・コードの改定(知財・無形資産の開示要求)を背景に、企業のPBR(株価純資産倍率)を決定する重要な要素として、「無形資産」への投資とそのガバナンス体制の開示を、年々強く求める傾向にあります。
- (影響): NRIが現在の「不透明」な開示スタンス(ノウハウ保護のために意図的に非開示にしていると推察)を続けた場合、投資家からは「NRIは、知財・無形資産(ノウハウ流出、レガシー化、AIリスク)に関連するリスクと機会を、取締役会が適切に監督していないのではないか」という疑念(ガバナンス・ディスカウント)を招く可能性があります。これは、富士通(開示に積極的⁶ ²)のような競合他社と比較した場合、資本市場での評価(株価、PBR)において不利に働く中期的な課題です。
長期リスク(5年以上)
- リスク:ノウハウ(営業秘密)に依存するビジネスモデルの人材流出耐性の低さ
- (内容): NRIの知的資本の中核が「ケイパビリティ」¹(=人材)と、それに付随する「ノウハウ」³にある場合、その最大の「担い手(器)」は、システムや特許証書ではなく、個々のコンサルタントやエンジニアの「頭脳」です。
- (分析): 終身雇用が前提でなくなった現代において、これらの高度専門人材(特に、金融業務とAI技術の両方に精通した人材、あるいは「THE STAR」⁷の深層構造を理解するベテランエンジニア)が、より高い報酬や魅力的なポジション(例:FinTech企業のCTO)を求めて、競合他社(外資系コンサル、FinTech企業、GAFAM)へ流出することは、不可避的な経営課題です。
- (影響): 重要な人材が流出すれば、その人物がキャリアを通じて体得していた暗黙知的な「ノウハウ(営業秘密)」も、事実上、競合他社に流出します(競業避止義務契約や不正競争防止法による保護には限界があります)。長期的にこのような人材の流出と、それに伴うノウハウの陳腐化が進めば、NRIの「ケイパビリティ」¹は失われ、「THE STAR」¹⁵のような基幹プラットフォームを維持・革新する能力自体が失われる可能性があります。これは、権利(特許)が人材の流出に関わらず企業に残り続ける「特許ポートフォリオ」中心の戦略(例:富士通²)に比べ、「ノウハウ」³中心の戦略が本質的に抱える、長期的な脆弱性です。
当章の結論的考察
NRIの知財戦略は、現在の市場(特に国内金融)において、極めて効率的に機能するよう最適化されていると見られます。しかし、その成功要因となっている「デファクトスタンダード」⁷ ⁶、「ノウハウ重視」³、「ガバナンスの不透明性」⁵ ⁷といった要素そのものが、将来の外部環境の変化((短期)AIの急速な普及、(中期)技術的負債の顕在化、(長期)人材流動性の高まり)に対応する上での「アキレス腱」となっていると分析されます。
当章の参考資料
- https://www.nri.com/jp/sustainability/materiality/capital_creation/intellectual_capital.html
- https://global.fujitsu/ja-jp/sustainability/intellectual-property
- https://www.chubu.meti.go.jp/b36tokkyo/sesaku/houkokusyo/fy23chizaibunsekijireisyu.pdf
- https://www.nri.com/content/900038246.pdf
- https://www.nri.com/jp/service/solution/i_star_core.html 3
- https://www.nri.com/jp/service/industry/finance/fis_about.html 4
https://www.duediligence-dict.com/casestudy/
- https://www.nri.com/jp/news/info/files/900037489.pdf
- https://www.nri.com/jp/sustainability/social/policies#AI_Ethics_Guidelines
- https://www.finbridge.jp/product/nri-the-star/
- https://www.nri.com/jp/service/solution/i_star_core.html
- https://www.nri.com/jp/service/industry/finance/fis_about.html
- https://it.impress.co.jp/articles/-/18809
今後の展望(政策/技術/市場動向との接続)
前章ではNRIの知財戦略が内包するリスクを時間軸で分析しました。本章では、NRIの外部環境、すなわち「政策」「技術」「市場」の3つのメガトレンドが、NRIの知財戦略(ノウハウ・ブランド重視、防衛的AIガバナンス)と今後どのように相互作用し、どのような戦略的変容を迫る可能性があるかを展望します。
政策動向:「知財・無形資産ガバナンス」開示要求の高まり
- 外部環境: 日本国内において、経済産業省と金融庁は、日本企業の国際競争力と企業価値の向上を目的として、「知財・無形資産」を経営アジェンダの中心に据えるよう強く促しています。コーポレートガバナンス・コードの改定や「知財・無形資産の投資・ガバナンスに関するガイドライン」の策定は、その具体策です。これらの政策は、企業に対し、経営戦略(例:NRIのV2030⁸)と連動した知財・無形資産投資(R&D、M&A、ブランド、ノウハウ管理)を定量・定性の両面で実行し、そのガバナンス体制(取締役会がどのように監督・議論しているか)を、統合報告書⁸やコーポレート・ガバナンス報告書⁷ ⁵で積極的に開示するよう求めています。
- NRIとの接続: 前述の通り、NRIの現在のガバナンス開示(CG報告書⁷ ⁵)は、この政策トレンドと逆行しているように見受けられます。知財・R&Dに特化したガバナンス体制の具体的な開示は限定的であり、投資家からは「不透明」と評価されるリスク(中期リスク)を抱えています。
- 展望: NRIは今後、投資家との対話(IR活動)において、このギャップを埋めるための戦略的選択を迫られる可能性が高いと見られます。
- (選択肢A:現状維持) 現在の「不透明」なスタンス(「ノウハウ保護のために意図的に非開示にしている」と推察)を維持する。この場合、ノウハウ保護のメリットは享受できますが、資本市場からの「ガバナンス・ディスカウント」を受け続ける可能性があります。
- (選択肢B:開示への転換) 政策トレンドに歩み寄り、ノウハウ戦略の「ガバナンス体制」について(秘密の内容そのものに触れない範囲で)開示レベルを引き上げる。この場合、競合他社(例:富士通⁶ ²)と同様に、知財担当役員(CIPO)のミッションや、取締役会で無形資産リスク(例:AI、レガシー化、人材流出)をどのように議論・監督しているかの実態を、より具体的に開示する必要が出てくると推察されます。
中長期的には、資本市場からの圧力の高まりにより、選択肢Bの方向へ(少なくとも形式的には)移行せざるを得なくなる可能性が高いと考えられます。
技術動向:AI関連発明の爆発的増加と「トランスフォーマ」
- 外部環境: 技術面での最大のメガトレンドは、AI、特に生成AIの進化と普及です。日本特許庁(JPO)の調査によれば、AI関連発明の特許出願件数は2014年以降、世界的に急激に増加しており、2023年には国内で約11,400件に達しています²⁴。
- 注目すべき技術: このAI特許群の中で特に注目すべきは、生成AIの基盤技術である「トランスフォーマに言及するAI関連発明」です。2017年の論文発表以降、その出願件数は一貫して増加し続けており²⁴、AI技術のパラダイムシフトが特許ランドスケープにも明確に表れています。
- NRIとの接続: この技術トレンド(AI特許の爆発的増加)に対し、NRIの戦略的対応は、競合(例:富士通のAI特許出願1位主張²)とは明確に異なっています。NRIの対応は、特許出願(攻め)ではなく、2024年の「AI基本方針」⁸ ⁹策定による「リスクガバナンス(守り)」でした。
- 展望: この戦略的ポジショニングは、今後も継続されると推察されます。NRIは、AIのコア技術(トランスフォーマ・モデルなど)を自社で開発・特許出願してGoogleや富士通²と競争するのではなく、他社が開発した最先端のAI技術を「目利き」し、それを「安全にインテグレーションする」能力(=ケイパビリティ¹)と、「法的に無害化する」能力(=AIガバナンス)を知的資本として磨き込む戦略を採ると見られます。
- 新たな事業機会の可能性: NRIは、AI特許の「出願者」ではなく、爆発的に増加するAI特許の「分析者」および「インテグレーター」としてのポジションを確立する可能性があります。かつてグループ会社(旧NRIサイバーパテント)が「TRUE TELLER」¹⁰ ¹¹で培った特許・論文のテキストマイニングおよびマクロ分析能力¹は、AI時代のコンサルティング・サービスとして再構築できる可能性があります。例えば、「貴社が導入しようとしているAIサービスは、世界で出願が急増しているこれら1万件のAI特許²⁴に抵触するリスクはありませんか?」といった、AI導入に伴うIPリスクアセスメント・サービスは、NRIの「信頼」ブランド¹と「ガバナンス」⁸ ⁹の知見を活かせる、新たな事業機会となり得ると考えられます。
市場動向:オープンイノベーションとエコシステムの形成
- 外部環境: サステナビリティ、DX、金融のデジタル化といった現代の複雑な社会課題の解決には、一社単独のR&D(自前主義)では限界があり、スタートアップ、大学、あるいは競合他社とも連携する「オープンイノベーション」や「エコシステム」の形成が不可欠であると、広く認識されています。
- 競合の動き: 富士通は、自社の保有特許を社会課題解決(SDGs)のためにライセンス供与する「FUJITSU Technology Licensing Program™ for SDGs」²や、スタートアップ(ソノファイ社)が富士通のAI技術を活用する「知的財産を活用したオープンイノベーション」²を推進し、自社の「特許(IP)」を外部連携の「触媒」として積極的に活用しています。
- NRIとの接続: NRIの知財戦略が「ノウハウ(営業秘密)」³の秘匿に偏重している場合、オープンイノベーションには構造的な困難が伴う可能性があります。ノウハウは、その性質上、開示しなければ連携(イノベーション)が起こせず、開示すれば流出リスク(価値の毀損)を伴うからです。したがって、NRIがオープンイノベーションを本格的に推進する場合、自社の「ノウハウ(絶対に秘匿すべき中核)」と「公開可能なIP(連携の触媒として活用できる特許やAPI仕様)」を厳密に切り分ける、高度な「IPトリアージ(選別)」が必要となります。
- 展望: NRIの現在の強みである「デファクトスタンダード」プラットフォーム(「THE STAR」⁷(4)等)は、顧客を囲い込む「クローズド」なエコシステム(ロックイン)を形成してきました。しかし、中期的な「レガシー化」リスク(前章)を回避し、FinTechなどの新興プレイヤーがもたらすイノベーションを取り込むためには、今後はAPI(Application Programming Interface)の解放などを通じて、外部の技術を戦略的に取り込む「オープン」なエコシステムへの転換を(部分的にでも)迫られる可能性があります。その際、API仕様の公開範囲の定義、データ連携の標準化ルール、そして「THE STAR」⁷のような強力なブランドのライセンス供与(例:「THE STAR Certified Partner」)といった、プラットフォームの「開放」と「秩序維持」を両立させるための、新たな「知財戦略(オープン&クローズ戦略)」の構築が、将来的な急務となると推察されます。
当章の参考資料
- https://www.nri.com/jp/sustainability/materiality/capital_creation/intellectual_capital.html
- https://global.fujitsu/ja-jp/sustainability/intellectual-property
- https://www.chubu.meti.go.jp/b36tokkyo/sesaku/houkokusyo/fy23chizaibunsekijireisyu.pdf
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- https://www.nri.com/jp/company/co_governance/governance.html
- https://ir.nri.com/jp/ir/library/report.html
- https://www.nri.com/jp/news/info/files/900037489.pdf
- https://www.nri.com/content/900036784.pdf
- http://kayudamaya.ikidane.com/service/macro/
- https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/ai_shutsugan_chosa.html 5
戦略的示唆(経営/研究開発/事業化の観点でアクション候補)
本レポートの分析結果(NRIの知財戦略は「デファクトスタンダード・ブランド」「ノウハウ・契約」「防衛的AIガバナンス」の3本柱で構成)に基づき、NRIの持続的な成長(「知的資本」¹の創出・蓄積)に向けて、経営層、研究開発部門、および事業化部門がそれぞれ取るべき具体的な戦略的アクション(提言)を、以下に提示します。
【経営層への戦略的示唆】
- アクション候補1:ガバナンスの「意図的開示」への戦略的転換
- (現状の課題): 知財ガバナンス体制の開示が限定的⁷ ⁵であり、これは「ノウハウ」³保護の観点から「意図的」であると推察されるものの、資本市場やESG投資家からは「ガバナンスの欠如」または「リスクの不透明性」と見なされる(ガバナンス・ディスカウントの)可能性があります。
- (提言): 現在の「非開示」戦略から、「ガバナンス体制の意図的開示」戦略へ転換することを推奨します。これは、ノウハウの中身(秘密)を開示するのではなく、「ノウハウを守るための厳格なプロセス」を取締役会が監督している事実を開示するものです。
- (具体策): 統合報告書⁸やコーポレート・ガバナンス報告書⁷において、「ノウハウ(営業秘密)」を中核的な知的資本¹と明確に位置づけた上で、①ノウハウの特定・管理プロセス、②厳格な契約審査プロセス³、③AI著作権侵害リスク⁹の管理体制、④人材流出に伴うノウハウ流出防止策(長期リスク対応)といった重要アジェンダを、全社リスク管理委員会や取締役会で議論・監督している事実を具体的に開示します。これにより、競合(富士通⁶ ²)との「開示ギャップ」を埋め、資本市場の要求に応えることが可能になると考えられます。
- アクション候補2:「知的資本」の価値測定とKPI設定
- (現状の課題): 「知的資本」¹(ブランド、ビジネスモデル)を掲げているものの、その価値(Value)や健全性(Health)を測定する具体的なKPI(重要業績評価指標)は外部に開示されていません。
- (提言): 「知的資本」の管理を、経営の「実行」に落とし込むため、内部的なKPIを設定し、その管理プロセスを(KPIの数値自体を公開せずとも)IR情報として開示します。
- (具体策): 例えば、「THE STAR」¹⁵や「I-STAR」⁶の「ブランド価値(推定)」や「顧客ロックイン度(例:主要顧客の解約率、推定スイッチングコスト)」、あるいは「ノウハウの体系化・継承度(例:重要ノウハウの形式知化率、専門人材の育成・リテンション率)」などを測定する内部KPIを設定し、経営陣がこれをモニタリングしている体制を構築します。
- アクション候補3:「AIガバナンス」の最高レベルでのコミットメント
- (現状の課題): 「AI基本方針」⁸ ⁹を策定しましたが、その実効性を担保する実行責任と監督体制は外部からは不明確です。
- (提言): AIによる著作権侵害リスク⁹は、技術的な問題ではなく、全社の「信頼」ブランド¹を毀損する最大の「経営リスク」(短期的リスク)であると再認識し、ガバナンス体制の最高レベルに明確に位置づけます。
- (具体策): このリスクを、CISO(最高情報セキュリティ責任者)またはCRO(最高リスク管理責任者)の管掌に明確に位置づけ、AI基本方針⁹の全社的な遵守状況、インシデント(ニアミス含む)の発生状況、および教育・監査の実施状況を、取締役会(または監査等委員会)へ定期的に報告する体制を構築し、その枠組みを開示します。
【研究開発(R&D)部門への戦略的示唆】
- アクション候補1:厳格な「IPトリアージ(選別)」プロセスの導入
- (現状の課題): ノウハウ(営業秘密)³としての秘匿と、特許出願(公開)の判断基準が、属人的または暗黙的になっている可能性があります。
- (提言): オープンイノベーション(今後の展望)への対応や、防衛的な特許出願の必要性(例:レガシー脱却時の障害除去)に対応するため、すべての研究開発・システム開発プロジェクトにおいて、生み出された技術的知見を「IPトリアージ」にかけるプロセスを義務化します。
- (具体策): R&D部門と法務・知財部門が連携し、各技術要素を以下の3つに分類・管理します。
- 秘匿(ノウハウ): 「THE STAR」¹⁵の根幹業務ロジック、独自のコンサルティング・メソッドなど、模倣されてはならない「王冠の宝石(Crown Jewels)」。
- 防衛特許(出願): 競合他社(例:FinTech)に先に押さえられると、自社プラットフォームの改修(レガシー脱却)の足枷になりかねない技術(例:クラウド移行に関するインターフェース技術、データ連携技術)。
- 公開(エコシステム): オープンイノベーションのために、あえて公開・標準化するAPI仕様やデータフォーマット。
- アクション候補2:内部向け「IP分析ケイパビリティ」の再強化
- (現状の課題): (旧)NRIサイバーパテント²⁶の売却¹⁰により、グループ内の高度な特許分析能力が(外部からは)低下したように見える可能性があります。
- (提言): 上記の「IPトリアージ」を高度化し、またAI技術動向²⁴(5)を正確に把握するため、R&D部門(または「未来創発センター」¹⁷)内に、競合(FinTech、外資コンサル)のAI特許動向や技術トレンドを分析する専門チームを(再)構築します。「TRUE TELLER」¹¹のようなツールを自社で最大限活用し、インテリジェンス機能(CIPO機能)を強化します。
【事業化・法務部門への戦略的示唆】
- アクション候補1:「契約書」を中核とする知財防衛の徹底
- (現状の認識): NRIのノウハウ防衛の最前線は「契約」³であると推察されます。
- (提言): 法務部門と事業部門(コンサルティング、ITソリューション)が緊密に連携し、顧客との契約(業務委託、ライセンス)における知財条項を、AI時代のリスクに合わせて全面的に見直し、強化します。
- (具体策): 特に「ノウハウ(バックグラウンドIP)の厳密な定義」「権利帰属」「生成AIのアウトプット(納品物)に関する責任分界⁹」「侵害時のペナルティ」といった条項を精緻化します。さらに、営業担当者やプロジェクトマネージャーに対し、これらの知財条項の重要性に関する研修を徹底し、「契約交渉」の現場を知財防衛の第一線として強化します。
- アクション候補2:「AIガバナンス」のサービス商品化(「守り」から「攻め」へ)
- (現状の認識): AI基本方針⁸ ⁹の策定により、「守り」の体制(AIガバナンス)を構築中です。
- (提言): この「守り」のノウハウ自体を、NRIの「信頼」ブランド¹と組み合わせ、新たなコンサルティング・サービスとして商品化します。
- (具体策): NRIが金融機関のデータガバナンス確立を支援している²⁵のと同様に、「AI導入・利活用における著作権侵害リスク・アセスメント」「AIガバナンス体制構築支援コンサルティング」「AI倫理・知財研修サービス」を、NRIと同様のリスク(特に金融・公共分野)を抱えるクライアントに提供します。これは、NRIが自ら実践して得た知見を収益化する、「卓越したビジネスモデル」¹の新たな形態となり得ます。
- アクション候補3:デファクトスタンダードの「オープン化」による防衛的革新
- (現状の課題): 「THE STAR」¹⁵等のクローズドなプラットフォームは、中期的には「レガシー化」のリスク(前章)を抱えています。
- (提言): 完全にクローズドな「ロックイン」戦略から、API連携などを核とした「オープン・エコシステム」戦略へ部分的に移行し、プラットフォームの延命と革新を図ります。
- (具体策): API仕様を「知財(連携のルール)」として管理・公開し、外部のFinTechスタートアップ(NRIが自社で開発するにはリスクやコストが高い新技術を持つ企業)を、NRIのエコシステムに取り込みます。これにより、自社ですべての開発を行うリスク(レガシー化)を回避しつつ、NRIは「プラットフォーマー」としての知的資本¹(ブランド、ビジネスモデル)を維持・強化することが可能になると推察されます。
当章の参考資料
- https://www.nri.com/jp/sustainability/materiality/capital_creation/intellectual_capital.html
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- https://www.chubu.meti.go.jp/b36tokkyo/sesaku/houkokusyo/fy23chizaibunsekijireisyu.pdf
- https://www.nri.com/content/900038246.pdf
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- https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/ai_shutsugan_chosa.html 5
- https://it.impress.co.jp/articles/-/18809
- https://www.patent.ne.jp/company/history.html
総括
本レポートは、株式会社野村総合研究所(NRI)の知財戦略について、同社が公開する一次情報および関連する公的資料に基づき、その全体像と特性を網羅的に分析しました。
本分析によれば、NRIの知財戦略は、特許出願件数やポートフォリオの規模といった「量」の指標では測れない、独自の「質」を追求する形態であることが明らかになりました。その戦略は、伝統的な「知的財産権」の保護に留まらず、同社がIR資料¹で定義する広範な「知的資本」(すなわち、「卓越したビジネスモデル」「進化し続けるブランド」「事業展開を支えるケイパビリティ」)の維持・強化に明確に主眼が置かれています。
具体的には、NRIの知財戦略は以下の3つの柱から構成されていると分析されます。
- 市場支配的ブランド(攻め): 金融ITソリューション分野における「THE STAR」¹⁵ ⁷や「I-STAR」¹⁴ ⁶といった、市場のデファクトスタンダード(事実上の標準)となっている強力な「ブランド(商標)」を確立し、顧客の莫大なスイッチングコストによって「ロックイン」する戦略。
- ノウハウの秘匿(守り): コンサルティング・メソッドやシステム開発の優位性の源泉を、特許化(公開)を避け、「ノウハウ(営業秘密)」³として管理し、それを「契約」³の力で法的に防衛する戦略。
- リスクガバナンス(防衛): 生成AIの急速な台頭という新たな技術トレンドに対し、AI関連特許の出願²⁴(5)競争(攻め)ではなく、AI利用に伴う「著作権等の各種権利侵害」⁸ ⁹リスクを回避・管理する「AIガバナンス」の構築(防衛)を最優先する戦略。
この戦略的ポジショニングは、AI特許の「出願(攻め)」で競争優位を築こうとする富士通²や、知財の「社会実装(ビジョン)」を提示するNTTデータ²¹ ⁹とも明確に異なり、NRIは「リスク管理」の徹底を通じて「信頼」というブランド¹を強化する、非対称なアプローチを選択していると見られます。
意思決定への含意:
NRIの経営層にとっての最大の示唆は、この「ノウハウ依存」³と「ガバナンスの不透明性」⁷ ⁵という現在の成功モデルが、中長期的には「レガシー化」や「人材流出」といった深刻なリスクの源泉でもあるという点です。
今後は、資本市場の要求に応えるための「ガバナンス体制の意図的開示(守りの可視化)」と、自社で構築した「AIガバナンス」⁸ ⁹のノウハウ自体を、クライアント向けの新たな「コンサルティング・サービスとして事業化(守りの収益化)」するという、「守り」を「攻め」に戦略的に転換するイニシアチブが、持続的な成長のために求められると推察されます。
参考資料リスト(全体)
- https://www.nri.com/jp/sustainability/materiality/capital_creation/intellectual_capital.html
- https://global.fujitsu/ja-jp/sustainability/intellectual-property
- https://www.chubu.meti.go.jp/b36tokkyo/sesaku/houkokusyo/fy23chizaibunsekijireisyu.pdf
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- https://pr.fujitsu.com/jp/ir/library/intellectualproperty/
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- https://www.concord-career.com/industry/sdgs/nri_sustainability/
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- https://digital-shift.jp/flash_news/FN240123_3
- https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/ai_shutsugan_chosa.html
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- https://www.patent.ne.jp/company/history.html
(注:引用番号7a 9は、本文中での補助的な言及に留まるため、本リストでは主要な出典との重複を避け、代表的な出典に統合しています。)
(注:引用番号8 10は、統合報告書全体への参照として本文中で使用されています。)
(注:引用番号9 2は2と同一URLですが、本文中の文脈に応じて引用番号を付与しています。)
(注:引用番号6 3は3と、引用番号7 4は4と、それぞれ同一URLですが、本文中の文脈に応じて引用番号を付与しています。)
(注:引用番号2 8は8と、引用番号9(B9)は6と、それぞれ同一URLですが、本文中の文脈に応じて引用番号を付与しています。)
(注:引用番号5 1は1と同一URLですが、本文中の文脈に応じて引用番号を付与しています。)
引用文献
- コーポレート・ガバナンスの考え方と体制 | コーポレート ..., 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.nri.com/jp/company/co_governance/governance.html
- 野村総合研究所、「NRI グループ AI 基本方針」を策定, 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.nri.com/jp/news/info/files/900037489.pdf
- I-STAR/CORE | サービス・ソリューション一覧 | 野村総合研究所(NRI), 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.nri.com/jp/service/solution/i_star_core.html
- 金融ITソリューションのミッション | 金融 | 野村総合研究所(NRI), 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.nri.com/jp/service/industry/finance/fis_about.html
- AI関連発明の出願状況調査 | 経済産業省 特許庁, 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/ai_shutsugan_chosa.html
- 知的財産が創り出す未来の社会像を描くホワイトペーパーを公開 ..., 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/081800/
- 株主・投資家の皆様 知的財産報告書 : 富士通, 11月 15, 2025にアクセス、 https://pr.fujitsu.com/jp/ir/library/intellectualproperty/
- パーパスの実現を支える知財戦略 | 富士通 - Fujitsu, 11月 15, 2025にアクセス、 https://global.fujitsu/ja-jp/sustainability/intellectual-property
- コンサル会社によるデューデリジェンス事例, 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.duediligence-dict.com/casestudy/
- 統合レポート(アニュアルレポート) | IRライブラリ | 株主・投資家 ..., 11月 15, 2025にアクセス、 https://ir.nri.com/jp/ir/library/report.html
- 統合レポート | NTTデータグループ - NTT DATA GROUP, 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.nttdata.com/global/ja/investors/ar/
- NTT知的財産センタについて - NTT R&D Website, 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.rd.ntt/chizai/overview/
- 【公共】モビリティ・防衛・知財・司法法務領域でのシステム開発におけるアプリケーションエンジニア・PM<1265> - NTTデータ, 11月 15, 2025にアクセス、 https://nttdata-career.jposting.net/u/job.phtml?job_code=1498
- 知的財産が創る より豊かで調和のとれた社会への道筋 - NTT Data, 11月 15, 2025にアクセス、 https://www.nttdata.com/global/ja/-/media/nttdataglobal-ja/files/news/topics/2025/081800/pdfnttdata_whitepapera3_20250808.pdf?rev=f81bd33f7a5c4f55b68fa8c0e6816bfd
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【本レポートについて】
本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。
情報の性質
- 公開特許情報、企業発表等の公開データに基づく分析です
- 2025年11月時点の情報に基づきます
- 企業の非公開戦略や内部情報は含まれません
- 分析の正確性を期していますが、完全性は保証いたしかねます
ご利用にあたって
本レポートは知財動向把握の参考資料としてご活用ください。 重要なビジネス判断の際は、最新の一次情報の確認および専門家へのご相談を推奨します。
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