テーマ別 深掘りコラム 1分で読める!発明塾 塾長の部屋
会社概要 発明塾とは? メンバー
実績 お客様の声

東京電力ホールディングスの知財戦略:国際標準化とDXによる事業基盤の再構築

3行まとめ

知的資本の再定義:「守り」のDXで2030年度90億円の費用削減

統合報告書では知的資本を「事業基盤の強化」と位置づけ、DX推進による2030年度までに約90億円の費用削減と、サイバーセキュリティ対策を主要KPIとしています。

「攻め」の核心:IEC国際標準化を主導し、市場ルールを形成

特許より「国際標準化」を重視し、知財室が主導してIEC(国際電気標準会議)TC 123(資産管理)等で国際幹事や主査を務め、市場のルール形成を能動的に主導しています。

廃炉技術という「潜在知財」:コストから未来の収益源へ

福島第一原発の廃炉で集積されるロボティクス等の「特殊ノウハウ」は、現在はコストですが、将来的にはグローバル市場における巨大な「潜在的知的資産」(次世代の収益源)と評価されます。

この記事の内容

エグゼクティブサマリ

 

東京電力ホールディングス(TEPCO)の知的財産(知財)戦略は、伝統的な特許ポートフォリオ中心の製造業モデルとは一線を画し、エネルギーインフラ事業者としての特性に最適化された、多層的かつ高度なポートフォリオ戦略を採用していると分析されます。

本レポートで導出された主要な分析結果は以下の通りです。

  • TEPCOが統合報告書で定義する「知的資本」は、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進による費用削減(2030年度目標:約90億円)と、サイバーセキュリティ対策を主要なKPI(重要業績評価指標)としています³。これは、知財をまず「守り(事業基盤の防衛・効率化)」のツールとして再定義していることを示します。
  • 本戦略の核心は、R&D部門(経営技術戦略研究所)ではなく、「知的財産室」が主導するIEC(国際電気標準会議)における「国際標準化」活動にあります⁸˒ ¹⁰
  • TEPCOは、カーボンニュートラル(CN)の根幹となる系統運用(SC 8C)や電力流通設備のアセットマネジメント(TC 123)の分野で、日本が提案し設立した専門委員会の国際幹事や国際主査を務め、市場の「ルール形成」を能動的に主導しています¹⁰
  • これは、個別の「技術(特許)」で競うのではなく、自社が持つ長年の「運用ノウハウ(トレードシークレット)」を「市場のルール(標準)」に組み込む、高度なデジュールスタンダード戦略であると分析されます。
  • 経営技術戦略研究所によるR&D活動は、再生可能エネルギーの主力電源化、電力ネットワーク高度化、電力設備保全といった、重厚長大なインフラ技術に集中しています
  • これらのR&D成果は、特許として公開するよりも、運用ノハウとして秘匿され、国際標準化の場で日本の技術的優位性を示す「弾薬」として内部活用されている可能性が高いと推察されます。
  • 研究開発費総額は、有価証券報告書には記載があるものの、投資家向けのファクトブック¹¹では主要な財務指標として扱われておらず、知財戦略の広報(IR)の主軸ではないことが示唆されます。
  • BtoC(一般消費者向け)サービスは、本体R&Dとは切り離され、外部(ICMG社)とのJVTEPCO i-フロンティアズ」⁶˒ ⁸CVC「東京電力フロンティアパートナーズ」³˒ ⁴により、アジャイルなノウハウ(例:「引越れんらく帳」)を「獲得」する戦略が採られています。
  • このJV設立(2017年)は、TEPCO本体の「弱み(アジャイル開発能力)」を認識し、約2,000万軒の顧客基盤を収益化するために、あえて外部の知見を取り込む「オープンイノベーション」戦略であると見られます。
  • 福島第一原発の「廃炉技術開発センター」¹⁰は、ロボティクス、腐食評価など世界にも類を見ない「特殊ノウハウ(知財)」の集積拠点となっています。
  • 現時点では廃炉作業遂行¹⁰という「コスト」として認識されていますが、将来的にはグローバルな廃炉市場において、TEPCOの次世代の収益源となり得る、未商業化の巨大な「潜在的知的資産」であると評価されます。
  • TEPCOの知財戦略は、「DX(守り)」³、「標準化(市場形成)」¹⁰、「CVC(獲得)」、「廃炉(潜在資産)」¹⁰という、明確に分離・最適化されたポートフォリオで構成されていると結論付けられます。

 

背景と基本方針:TEPCOが再定義する「知的資本」

 

本レポートは、東京電力ホールディングス(以下、TEPCO)が、2011年の福島第一原子力発電所事故以降の経営環境の激変、電力システム改革による全面自由化、そしてカーボンニュートラル(GX)への国家的要請という「三重の課題(トリレンマ)」に直面する中で、その競争力の源泉である「知的財産(Intellectual Property: IP)」をどのように再定義し、戦略的に活用しようとしているかを、公表されている一次情報を基に網羅的に分析するものです。

伝統的に、企業の「知財戦略」は特許の出願件数やライセンス収益に代表される「パテント戦略」として語られることが多くありました。しかし、TEPCOのような巨大な社会インフラを運用・管理するサービス企業にとって、その価値の源泉は必ずしも特許という形で顕在化するとは限りません。むしろ、組織内に蓄積された膨大な「運用ノウハウ」、システム全体を最適化する「規格(ルール)」、そしてデジタル時代における「データ」や「顧客接点」こそが、中核的な知的財産であるとの見方が強まっています。

TEPCO自身、この点を明確に認識していると見られます。2025101日に公表された「TEPCO 統合報告書 2025」において、「知的資本(Intellectual Capital)」は、TEPCOグループの価値創造プロセスを支える6つの資本(人的資本、製造資本、自然資本など)の一つとして明記されています¹˒ ²

注目すべきは、TEPCOが投資家を含むステークホルダーに対し、この「知的資本」をどのように説明しているかです。同報告書では、マテリアリティ(重要課題)02「事業基盤の強化」の文脈で知的資本が語られています。そして、その戦略とKPI(重要業績評価指標)として設定されているのは、一般的な製造業で想起される「特許保有件数」や「ライセンス収益」といった項目ではありません。

具体的には、知的資本を構成する主要なアクションとKPIとして、「DX推進」と「サイバーセキュリティ対策」の2点が挙げられています³

第一に「DX推進」です。TEPCOは、知的資本を活用するアクションとしてDXの推進を掲げ、そのKPIを「DXによる費用削減効果(2024年度からの累積)」と定義しています。目標として「約90億円(2030年度)」という具体的な数値目標(5社計)が設定されています³。これは、TEPCOが知的資本を、短期的な「新たな収益源(プロフィットセンター)」としてではなく、まず「既存事業の徹底的な効率化(コスト削減)」と「事業基盤の安定化」に資する手段として捉えていることを明確に示しています。

第二に「サイバーセキュリティ対策」です。これも知的資本のアクションとして挙げられていますが、そのKPIは「非公表(開示に伴うリスク影響を考慮)」³とされています。TEPCOが日本の首都圏における電力供給という、国家レベルの最重要インフラを担っていることを鑑みれば、このKPI非公開という措置自体が、TEPCOの知財戦略のもう一つの側面、すなわち「事業の防衛(レジリエンス)」の重要性を物語っています。サイバーセキュリティに関するノウハウや体制(=知的資本)は、防衛上の観点から「秘匿」すべき最重要の知財であり、その詳細を開示しないこと自体が戦略的な判断であると推察されます。

このIR資料³における定義から、TEPCOの知財戦略の基本方針が、伝統的な知財観(=特許)から大きく転換していることが読み取れます。2011年の事故以降、TEPCOの経営における最優先課題が「福島への責任貫徹」「財務基盤の安定」、そして「社会からの信頼回復」であったことは論を俟ちません。

この文脈において、TEPCOの知的資本戦略は、まずリスク(セキュリティ)を最小化し、コスト(DX)を削減するという、最も直接的に経営の安定化と信頼回復に寄与する領域から定義し直される必要があったものと考えられます。

したがって、TEPCOの知財戦略の基本方針は、知財を「攻め(収益化)」のツールとして声高に語るのではなく、まず「守り(事業基盤の防衛・効率化)」のツールとして盤石に固めることにあると分析されます。

しかし、本レポートが以降の章で詳述するように、この「守り」の定義は、TEPCOの知財戦略の全体像から見れば、IR(投資家向け広報)という公的なコミュニケーションの「入口」に過ぎません。TEPCOは、この「守り」の知財を土台としつつ、水面下では、より戦略的かつ攻撃的な「攻め(国際標準化)」の戦略と、自社の弱みを補完する「獲得(オープンイノベーション)」の戦略を、多層的に展開しています。

 

当章の参考資料

 

  1. https://assets.money.st-note.com/documents/securities/9501/140120250930565473.pdf
  2. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/
  3. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou-j.pdf

 

全体像と組織体制:TEPCOの知財戦略を担う「4+1」の機能

 

TEPCOの知的財産(知財)戦略は、単一の「知的財産部」が特許や商標を一元管理するといった、伝統的な日本企業(特に製造業)のモデルとは大きく異なると見られます。その戦略は、対象とするドメイン(重厚長大、アジャイル)、目的(創出、獲得、防衛、標準化)、そして時間軸(短期、長期、超長期)に応じて、高度に分化・最適化された「4+1」の異なる組織・機能群によって実行されていると分析されます。

この機能分化こそが、TEPCOの知財戦略の全体像を理解する鍵となります。

 

機能1:【事業基盤】IR上の「知的資本」管掌部門(DX/セキュリティ)

 

第一の機能は、前章で述べた「守りの知財」を担当する機能です。これは「統合報告書 2025³において、マテリアリティ02「事業基盤の強化」の一環として位置づけられています。

  • 組織(推定): この機能は、特定の研究開発部門ではなく、CFO(最高財務責任者)が管掌する財務戦略³や、CDO(最高デジタル責任者)が推進するDX戦略、そしてリスク管理部門といった、コーポレート横断的な部門が担当していると推察されます。
  • 役割と知財: 役割は、DX推進による費用削減(2030年度目標 約90億円)³と、サイバーセキュリティ対策(KPI非公表)³の実行です。ここでいう「知財」とは、特許ではなく、効率化された「業務プロセス(BPR)」や、堅牢な「セキュリティ・プロトコル」、「防衛ノウハウ」そのものです。
  • 位置づけ: TEPCOの知財戦略における「公的な顔(IRにおける説明責任)」であり、すべての事業活動の土台となる「事業基盤」としての知財です。

 

機能2:【重厚長大】経営技術戦略研究所(R&D・ノウハウ創出)

 

第二の機能は、TEPCO本体の技術開発部門である「経営技術戦略研究所」が担う、中核的な知財の「創出(R&D)」機能です。

  • 組織: 経営技術戦略研究所
  • 役割と知財: TEPCOの基幹事業(エネルギーインフラ)に直結する、重厚長大かつ長期的な研究開発を担います。ここで創出される知財は、個別の製品ではなく、システムの「運用・保守・改善」に関する高度な「ノウハウ(トレードシークレット)」が中心です。
  • R&Dテーマ: 具体的な研究内容は、「再生可能エネルギーの主力電源化」(例:浮体式洋上風力)、「電力設備保全」(例:遠隔多目的水中点検ロボット、ドローン自律飛行システム)、「電力ネットワーク高度化」(例:VPP、マイクログリッド)、「防災・レジリエンス強化」など、極めてインフラ色の濃いものです。
  • 位置づけ: これらのR&D成果(ノウハウ)は、第一義的にはTEPCO自身のオペレーションを高度化するために利用されますが、それと同時に、後述する「機能3(国際標準化)」の活動において、TEPCOの主張の技術的論拠となる「弾薬」としての二重の役割を担っていると推察されます。

 

機能3:【市場形成】知的財産室(国際標準化戦略)

 

第三の機能は、TEPCOの知財戦略において、最も特徴的かつ「攻め」の戦略を担う「知的財産室」⁸˒ ¹⁰です。

  • 組織: 知的財産室⁸˒ ¹⁰
  • 役割と知財: TEPCOの公式ウェブサイト⁸˒ ¹⁰で開示されている本組織の業務内容は、一般的な特許出願やライセンス管理ではなく、「IEC(国際電気標準会議)等における国際規格策定活動のサポート」⁸˒ ¹⁰に特化しています。これは、TEPCOが「技術(モノ)」ではなく「ルール(規格)」を制することで市場の主導権を握る、「デジュールスタンダード(公的標準)戦略」を中核に据えていることを示します。
  • 位置づけ: カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、電力システムが世界的に変革期を迎える中、自社の運用ノウハウを「国際標準」として確立することは、TEPCOの競争優位性を将来にわたって担保する、最も攻撃的かつ効果的な知財戦略です。詳細は「3-4. 詳細分析(2)」で後述します。

 

機能4:【アジャイル】TEPCO i-フロンティアズ(CVC・ノウハウ獲得)

 

第四の機能は、本体のR&D(機能2)が手掛ける重厚長大なテーマとは対極にある、BtoC(一般消費者向け)サービス領域における、アジャイルな知財の「獲得」機能です。

  • 組織: TEPCO本体からスピンアウトさせた事業会社「TEPCO i-フロンティアズ株式会社」(20179月設立)と、その連携CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)「東京電力フロンティアパートナーズ合同会社」(2018年設立)³˒ ⁴
  • 役割と知財: 新商品・サービスの発掘から事業化までの企画・開発に特化しています。その知財は、技術特許ではなく、「引越れんらく帳」に代表されるような「サービスモデル」や「顧客接点ノウハウ」、「アライアンス網」です。
  • 特徴: TEPCOエナジーパートナーと、経営コンサルティングファーム「株式会社ICMG」の50:50JV(ジョイントベンチャー)という形態を取っています。ICMGは「シンガポールやシリコンバレーのスタートアップ企業との連携に強み」を有しており、TEPCOは自社の「約2,000万軒を超えるお客さま」という基盤と、外部の「ベンチャースピリット」を意図的に融合させ、外部の有望な知財(サービス)を「獲得」・「事業化」するエコシステムの構築を目指しています。
  • 位置づけ: TEPCO本体の組織文化(重厚長大)では対応が難しい、アジャイルなサービス開発領域を、あえて「外部化(出島戦略)」することで補完する、知財ポートフォリオの「探索」部門です。

 

特別機能:【ミッション】廃炉技術開発センター(特殊ノウハウの集積)

 

最後に、「4+1」の「+1」として、他のいかなる機能とも異なる、極めて特殊なミッションを帯びた知財集積機能が存在します。

  • 組織: 福島第一廃炉推進カンパニー配下の「廃炉技術開発センター」¹⁰
  • 役割と知財: 福島第一原子力発電所の廃炉という、3040¹⁰に及ぶ世界的にも類例のない困難なミッションを技術的に完遂するためのR&Dマネジメント(「産学連携の深化」「新技術の調査」など)¹⁰を担います。
  • 位置づけ: 燃料デブリ取り出し¹⁰、高放射線下ロボティクス、汚染水対策、長期的な腐食評価¹⁰など、ここで生み出され、集積される技術的知見は、現時点ではミッション遂行のための「コスト」として計上されています。しかし、長期的には、TEPCOの最もユニークかつ競争優位性の高い「潜在的知的資産」であると評価できます。

以上の「4+1」の機能(1.DX/防衛、2.R&D/創出、3.標準化/市場形成、4.CVC/獲得、+1.廃炉/潜在資産)が、それぞれ異なる目的と時間軸で稼働することにより、TEPCOの多層的な知財戦略ポートフォリオが形成されていると分析されます。

 

当章の参考資料

 

  1. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/
  2. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou05-j.pdf
  3. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou-j.pdf
  4. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000052578.html
  5. https://assets.money.st-note.com/documents/securities/9501/140120250930565473.pdf
  6. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/1453358_8662.html
  7. https://www.tepco.co.jp/technology/research/
  8. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/pdf/170919j0101.pdf
  9. https://www.tepco.co.jp/technology/research/renewable/
  10. https://dd-ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/pdf/decommissioning-research/dr-committee/materials/10/doc1-4.pdf

 

詳細分析(1)技術領域:R&D(ノウハウの創出と秘匿)

 

TEPCOの知財ポートフォリオにおいて、中核的な技術的知見を「創出」する源泉が、前章で「機能2」として位置づけた「経営技術戦略研究所」です。本章では、このR&D部門が生み出す技術的知財の性質と、その戦略的な管理方法について詳細に分析します。

 

R&D部門(経営技術戦略研究所)の主要テーマ

 

経営技術戦略研究所が公式ウェブサイトで公開している「研究内容紹介」は、TEPCOが知的財産を創出しようとしている中核領域を具体的に示しています。そのテーマは、TEPCOの事業ドメイン、すなわちエネルギーインフラの安定供給、脱炭素化、そしてレジリエンス強化に直結しています。

主な研究テーマは以下の7つに分類されます

  1. 再生可能エネルギーの主力電源化:
    カーボンニュートラル実現の鍵となる、再エネ(特に風力発電)の大量導入を目指す研究です。具体的には、「浮体式洋上風力発電の低コスト化」や、再エネ導入拡大に伴う「系統慣性低下対策」、離島などで想定される「オフグリッド系統(再エネ100%供給時)の短絡保護方式」など、系統安定化に関する高度な運用技術が含まれます
  2. 電力設備保全:
    広大な供給エリアに張り巡らされた電力流通設備を、効率的かつ高度に維持・管理するための技術です。水中設備の点検を行う「遠隔多目的水中点検ロボット」、送電線点検の自動化を目指す「ドローン自律飛行システム」、さらには「面電流センサによる機器異常診断」や「ACMセンサによる大気環境腐食性評価」など、センシング技術とAI・ロボティクスを駆使した予知保全技術が中心です
  3. 電力ネットワーク高度化:
    再エネやEV(電気自動車)など、多数の分散型エネルギーリソース(DER)が接続される次世代の送配電網(スマートグリッド)に関する研究です。「バーチャルパワープラント(VPP)実証事業」や、「DER接続基盤」、「地産地消型エネルギーシステム」など、電力ネットワークの「運用」そのものに関するノウハウ構築が含まれます
  4. 運輸・産業電化:
    需要側の脱炭素化を促進する技術です。「EV急速充電器の開発」や、「IoTを活用した飲食業態向けHACCP管理システム」など、電力の新たな需要創出と顧客ソリューションの提供を目指す研究が含まれます
  5. 廃炉対策:
    福島第一原子力発電所の廃炉作業に直結する技術開発です。「スマートフォンロボット」による調査技術や、「設備の腐食評価・対策技術」、「汚染水処理吸着材のコストダウン」など、極めて特殊な環境下でのエンジニアリング技術が対象です
  6. 原子力発電:
    既存の原子力発電所の安全性・信頼性をさらに向上させるための技術です。「フィルタベントシステムの自社開発」や、「ケーブルトレイ用消火装置・防火装置の開発」など、既存設備のレジリエンス強化に資する研究が含まれます
  7. 防災・レジリエンス強化:
    激甚化する自然災害に対応し、電力の安定供給を確保するための技術です。「災害等の分析手法(SAFER)」や、「気候変動による激甚気象の変化傾向」の分析など、リスク分析と対策技術に関する研究です

 

分析:特許(公開) vs ノウハウ(秘匿)という戦略的選択

 

上記のR&Dテーマを詳細に分析すると、TEPCOR&D戦略の際立った特徴、すなわち「知財の管理方法」に関する戦略的な選択が浮かび上がってきます。

これらの研究テーマの多くは、「新型半導体」や「革新的な電池材料」といった、単体で「製品(モノ)」として販売可能な発明を生み出すものではありません。むしろ、そのほとんどが、「電力網(システム)」や「発電所(プラント)」といった、既に存在する巨大なシステムを、いかに「安定的に(Safety)」「効率的に(Economy)」「環境に配慮して(Environment)」運用・保守・改善していくか、という「オペレーション技術(ノウハウ)」に関するものです。

この「ノウハウ中心」という性質が、TEPCOの知財管理戦略に決定的な影響を与えていると推察されます。

例えば、TEPCOR&D(例:「系統慣性低下対策」)を通じて、競合他社(他の電力会社や海外ユーティリティ)よりも優れた画期的な「系統運用ノウハウ」を開発したと仮定します。このノウハウを、もし特許として出願・公開した場合、どうなるでしょうか。

特許制度の性質上、その技術内容は詳細に公開(Public Domain)されることになります。これは、TEPCOが多大なコストと時間をかけて得た最も重要な競争優位の源泉を、競合他社に詳細に開示することを意味します。インフラ事業者であるTEPCOにとって、他社がその特許を侵害しているかを監視し、訴訟を起こすことは現実的ではなく、メリットよりもデメリット(競争優位の喪失)の方が遥かに大きい可能性があります。

したがって、TEPCOは、これらのR&D成果(特に系統運用や保守に関する核心的ノウハウ)の多くを、あえて特許出願による「権利化(公開)」を目指すのではなく、厳格な「トレードシークレット(営業秘密)」として管理・秘匿し、自社のオペレーションの優位性を維持するためにのみ活用している可能性が極めて高いと推察されます。

 

研究開発費の非可視性という傍証

 

この「ノウハウの秘匿」戦略を裏付ける傍証として、TEPCOIR(投資家向け広報)における研究開発費の扱いが挙げられます。

TEPCOの知財創出(R&D)への投資規模を測る指標として、研究開発費が挙げられます。20256月公表の「第101期有価証券報告書(2024年度)」の目次によれば、「第2【事業の状況】 6【研究開発活動】」(48頁)に研究開発活動の詳細が記載されていると見られます

しかしながら、TEPCOが投資家向けに財務・事業データを提供するために最終更新日(2025430日)¹¹時点で公開している「ファクトブック(データ集)」¹¹や、その中の「損益計算書(連結)」¹²、「全体版PDF¹³を分析した限りでは、「研究開発費」は主要な独立項目としてリストアップされていません。(一方で、「修繕費」や「人件費」は独立項目として時系列データが明示されています¹¹)。

この事実は、TEPCOが投資家に対し、R&D投資の「規模」そのものを、企業の成長性を示す主要なアピールポイント(Key Performance Indicator)としていないことを示唆しています。

これは、TEPCOR&Dが、ハイテク企業(例:製薬、IT)のように「将来の爆発的な新製品・新事業」を生み出すための直接的な「成長投資」として扱われているのではなく、むしろ、電力インフラ事業者として「事業の維持・改善・防衛」に不可欠な「必要コスト(経費)」として、会計的・戦略的に扱われている可能性を示しています。

 

結論:標準化のための「弾薬庫」としてのR&D

 

TEPCOのR&D部門(経営技術戦略研究所)は、その成果(ノウハウ)の多くをトレードシークレットとして「秘匿」し、自社の運用優位性を確保する役割を担っています。

そして、この秘匿されたノウハウは、単に内部留保されるだけではありません。次節(3-4)で詳述する「国際標準化(機能3)」の場で、TEPCO(および日本)が技術的な議論を主導し、自社の運用思想を世界のルール(標準)として昇華させるための、最も重要な技術的「弾薬庫」として機能していると分析するのが、TEPCOR&D戦略の最も妥当な解釈であると見られます。

 

当章の参考資料

 

  1. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/securities_report/
  2. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/securities_report/pdf/202506-j.pdf
  3. https://www.tepco.co.jp/technology/research/
  4. https://www.tepco.co.jp/technology/research/renewable/
  5. https://www.tepco.co.jp/technology/research/maintenance/
  6. https://www.tepco.co.jp/technology/research/gridinnovation/
  7. https://www.tepco.co.jp/technology/research/electrification/
  8. https://www.tepco.co.jp/technology/research/decommissioning/
  9. https://www.tepco.co.jp/technology/research/nuclear/
  10. https://www.tepco.co.jp/technology/research/resilience/
  11. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/factbook/
  12. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/factbook/pdf/p19-j.pdf
  13. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/factbook/pdf/factbook-j.pdf

 

詳細分析(2)エコシステム:国際標準化(知財の支配力)

 

TEPCOの知財戦略において、最も戦略的(Strategic)かつ攻撃的(Offensive)な機能を担っているのが、「機能3」として識別される「知的財産室」です⁸˒ ¹⁰。本章では、この組織が推進する「国際標準化戦略」が、いかにTEPCOの知財ポートフォリオの中核を成しているかを詳細に分析します。

 

TEPCO知財戦略の主戦場:「知的財産室」の特異な役割

 

TEPCOの「知的財産・標準化」に関する公式ウェブページ¹⁰を分析すると、極めて特徴的な点が浮かび上がります。一般的な企業の知的財産部門(知財部)がアピールするであろう「特許出願件数」「特許ポートフォリオ」「ライセンス収入」といった記述は、前面には出ていません。

その代わりに、ページの大部分を占めているのは、「IEC(国際電気標準会議)等における国際規格策定活動のサポート」、「カーボンニュートラル実現に向けた国際標準化活動」¹⁰、そして「IEC組織と当社関係者の参画状況」¹⁰といった、「国際標準化(Standardization)」に関する記述です。

これは、TEPCOが自社の知財戦略の主戦場を、個別の技術に関する「特許権の取得競争(パテント戦略)」ではなく、「国際標準(デジュールスタンダード)の策定プロセス」という、より上流の「市場ルールの形成(エコシステム戦略)」に置いていることを明確に示しています。

 

戦略的背景:なぜ「特許」ではなく「標準化」なのか

 

TEPCOが「標準化」を知財戦略の中核に据える背景には、電力インフラ事業者(オペレーター)という自社のビジネスモデルの特性と、カーボンニュートラル(CN)という外部環境の激変が深く関わっていると推察されます。

  1. 前提(ビジネスモデル): TEPCOは、重電メーカー(例:日立、シーメンス)とは異なり、電力機器(モノ)を製造・販売する企業ではありません。TEPCOの「製品」は「電力の安定供給(サービス)」であり、その「工場」は「電力ネットワーク(システム)」です。
  2. 課題(CNへの移行): カーボンニュートラルの実現には、太陽光や風力といった、天候によって出力が変動する再生可能エネルギー電源の大量導入が不可欠です。これにより、従来の大規模・中央集権型とは異なる、多数の分散型エネルギーリソース(DERが電力ネットワークに接続する、極めて複雑なシステムへと変貌しつつあります。
  3. リスク(システムの非整合): この変革期において、TEPCO(オペレーター)にとっての最大のリスクは、世界中のメーカーから供給される多種多様な機器(インバータ、蓄電池、EV充電器、VPPのアグリゲーターが用いる制御システムなど)が、TEPCOの電力ネットワーク(系統)の運用ルールと「非整合(Incompatibility)」を起こし、最悪の場合、大規模な停電やシステムダウンを引き起こすことです。
  4. 戦略的帰結(標準化の選択): したがって、TEPCOにとって最適な知財戦略は、個別の機器の特許を取ることではありません。むしろ、「TEPCO(および日本の電力会社)の電力ネットワークが、大量の再エネやDER⁹が接続されても安定運用できるための技術要件(ルール)」を、自ら「国際標準」として確立し、世界中のメーカーにその標準(ルール)に準拠した機器を製造させることであると結論付けられます。

 

具体的な標準化活動(IEC):「攻め」の知財戦略の実行

 

TEPCOの標準化活動¹⁰は、単なる国際会議への「参加」や既存の議論への「追随」ではありません。公表されている活動内容は、TEPCOが極めて能動的かつ戦略的に、国際標準化の「主導権」を獲得しようとしていることを示しています。

 

1. 日本主導による専門委員会の設立

 

TEPCOは、国内関係者(他電力、メーカー、大学など)と協力し、カーボンニュートラルと電力系統運用に不可欠な、以下のIEC(国際電気標準会議)の専門委員会(TC)および分科委員会(SC)の設立を、日本からIECに提案し、実現させています¹⁰

  • IEC/SC 8C(電力ネットワークの運用・管理): 再エネやDERが大量に導入された複雑な電力系統の運用・管理(Network Management)ルールを策定する、まさにCN時代の系統運用の「本丸」とも言える分科委員会です¹⁰
  • IEC/TC 122UHV交流送電システム): 大容量送電に関する技術標準を扱う専門委員会です¹⁰
  • IEC/TC 123(電力流通設備のアセットマネジメント): 電力設備のライフサイクル全体(導入、運用、保守、廃棄)を最適化する「アセットマネジメント」の考え方(Management of network assets)を標準化する専門委員会です¹⁰

 

2. 国際的な主導的役割(幹事・主査)の獲得

 

さらに重要なのは、TEPCOが、これら日本主導で設立した委員会において、議論をとりまとめる中核的な役割(国際幹事・国際主査)を担っている点です¹⁰

  • TC 123(アセットマネジメント): TEPCOが「国際幹事International Secretariat)」の役割を担い、傘下のWG(作業部会)に集う世界各国の専門家をとりまとめています¹⁰。国際幹事を務めることは、その委員会の運営実務と情報が集積する「事務局」の地位を握ることを意味します。
    • さらに、TC 123傘下のWG 2(アセットマネジメントの管理面)では、東京電力パワーグリッドが「国際主査Convener)」を務め、20255月には初の成果物である技術仕様書(IEC TS 63224:2025)を発行しています¹⁰
  • SC 8C(ネットワーク運用): TEPCOパワーグリッドが「国際主査」を務めるWG 2(電力市場の統合)において、日本から提案した技術報告書「Market Catalogue for Stable Grid Operation(系統安定運用のための電力市場カタログ)」の作成が進行中です¹⁰

 

標準化戦略がもたらす多層的メリット(知財の支配力)

 

TEPCOがIECの標準化活動を主導し、国際幹事・主査の地位を確保すること¹⁰は、単なる名誉ではなく、以下のような多層的かつ実利的な経営メリット(=「知財の支配力」)をもたらすと分析されます。

  1. 【リスク管理】 サプライチェーンの支配:
    自社のR&D(機能2で得た系統運用ノウハウや、長年の設備保全で培ったアセットマネジメントのノウハウを、国際標準(SC 8C, TC 123¹⁰の「技術要件」として組み込むことができます。これにより、世界中のメーカーが開発・製造する機器(例:インバータ、蓄電システム、アセットマネジメント用ソフトウェア)が、TEPCOの系統運用思想や設備管理手法に適合(準拠)することを、国際標準という形で「強制」できます。これは、機器の非互換性リスクをグローバルなサプライチェーンのレベルで最小化し、自社の系統安定性を確保する、最も強力な「防衛」戦略です。
  2. 【競争優位】 事実上の市場障壁と主導権:
    TEPCOが主導する標準¹⁰は、TEPCO(および日本)の技術的アプローチ(例:アセットマネジメントの手法)を「グローバルスタンダード(デファクトスタンダードに対するデジュールスタンダード)」にします。これにより、競合する技術的アプローチを採用する他国(例:欧州や中国)の電力会社やメーカーは、標準化の議論において不利な立場に置かれるか、あるいはTEPCO主導の標準に追随せざるを得なくなる可能性があります。
  3. 【将来の収益化】 ノウハウのライセンス化基盤:
    TEPCOが主導して策定したアセットマネジメント標準(TC 123¹⁰や系統運用標準(SC 8C¹⁰は、将来的にTEPCOがその運用ノウハウ(機能2や、関連するソフトウェア(例:2024年のIEC MSB白書で言及された「デジタルツイン」¹⁰)を、世界中の他の電力会社(特にインフラ構築がこれから進む途上国)に「コンサルティングサービス」や「プラットフォームライセンス」として販売する際の、極めて強力な営業ツール(「IEC標準準拠」というお墨付き)となり得ます。

 

結論:技術外交の実行部隊としての「知的財産室」

 

以上の分析から、TEPCOの「知的財産室」⁸˒ ¹⁰は、一般的な「知財管理部署」ではなく、事実上、TEPCOの「技術的な外交・通商戦略部隊」として機能していると結論付けられます。

R&D部門(経営技術戦略研究所)が創出し秘匿した「ノウハウ(弾薬)」を使い、国際標準化(IEC¹⁰という「戦場(ルール形成の場)」で、TEPCO(および日本)のエネルギー戦略上の優位性を確立する。これが、TEPCOの知財戦略の根幹を成す、最も攻撃的かつ高度な戦略であると分析されます。

 

当章の参考資料

 

  1. https://www.tepco.co.jp/technology/intellectual/standardization.html
  2. https://www.jpo.go.jp/resources/statistics/green_life/index.html
  3. https://www.tepco.co.jp/technology/research/
  4. https://www.tepco.co.jp/technology/research/gridinnovation/
  5. https://www.tepco.co.jp/technology/research/renewable/

 

詳細分析(3)市場/顧客:オープンイノベーション(知財の獲得と活用)

 

TEPCOの知財戦略ポートフォリオにおいて、本体が担う「機能2R&D(重厚長大)」や「機能3:標準化(超長期)」¹⁰が、数十年単位の「遅く」「重い」ドメインを対象としているのに対し、BtoC(一般消費者向け)サービス市場は、数ヶ月単位でトレンドが激しく変化する「速く」「軽い」ドメインです。

TEPCOは、このアジャイルな領域(市場・顧客)に対応するため、本体のR&Dプロセスとは明確に分離・隔離された「オープンイノベーション」の仕組みを構築しています。それが、本章で分析する「機能4」、すなわち「TEPCO i-フロンティアズ株式会社」(以下、TiFと「東京電力フロンティアパートナーズ合同会社」(CVC³です。

 

設立の背景:戦略的な「外部化」と「知財の獲得」

 

TEPCOは、電力小売全面自由化(2016年)後の新たな収益源を模索する中で、BtoCサービス開発に特化した新会社を設立するという戦略的判断を下しました。

  • TiFの設立(20179月): TEPCOの小売部門である東京電力エナジーパートナー株式会社(TEPCO EP)と、経営コンサルティングファーム「株式会社ICMG」の**50:50JV(ジョイントベンチャー)**として設立されました⁶˒ ⁸
  • CVCの設立(2018年): TiFが発掘・選定したベンチャー企業等に対し、積極的かつ機動的に出資(2020年までに総額8億円を計画)³を行うためのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)として、「東京電力フロンティアパートナーズ合同会社」が設立されました³˒ ⁴

この設立の形態(特にICMGとのJVは、TEPCOの知財戦略における深い自己認識を反映していると推察されます。

  1. (事実): TEPCOは、BtoCサービス開発のために、自社単独(100%子会社)ではなく、あえて外部のコンサルティングファーム(ICMG)とJVを設立する⁶˒ ⁸という、手間のかかる形態を選択しました。
  2. (推察1): これは、TEPCOの経営陣が「自社(TEPCO本体)の組織文化、人事制度、意思決定プロセスは、アジャイルなBtoCサービス(=知財)の開発・事業化には不向きである」という「自社の弱み(Capability Gap)」を明確に認識していたことを示唆します。
  3. (推察2): したがって、TiFのミッションは、TEPCO内部のR&D(機能2でゼロから知財を「創出」することではなく、ICMGが持つ「国内外のソリューション開発」「シンガポールやシリコンバレーのスタートアップ企業との連携」といった外部ネットワークを活用し、既に存在する有望なアイデア、サービスモデル、技術ノウハウといった「知財」を、世界中から探索・発掘することにあると分析されます。
  4. (結論): TiFとCVCは、TEPCOが自社の弱みを補完し、アジャイルな知財(サービスノウハウ)を外部から「獲得(Acquisition)」するための、戦略的な「オープンイノベーションの実行部隊」として設計されたものと見られます。

 

TiFの目的:「商品開発エコシステム」の構築

 

TiFの設立目的は、TEPCO EPのプレスリリースにおいて、「お客さまの多様なライフスタイルに合わせたサービスを継続的に産み出す、『商品開発エコシステム』の構築」と説明されています。

ここでいう「エコシステム」とは、TEPCO EPが保有する最大の資産(知的財産)である「2,000万軒を超えるお客さま」という強固な顧客基盤と、外部のベンチャー企業(起業家、研究所など)が持つ「ベンチャースピリット」や「アイデアレベルのサービス」を、TiF(およびICMGのノウハウ)を触媒として結びつけ、共同で事業化・スケール化(「EPの事業基盤とつないでスケール化を支援」)する仕組みを指します。

この仕組みは、TEPCO本体が持つ巨大な顧客基盤(アセット)を、外部の知財(アイデア)によって収益化(マネタイズ)する、高度な知財活用戦略と言えます。

 

具体的な取り組み(獲得したノウハウの活用事例)

 

TiFは、この「知財の獲得と活用」戦略に基づき、具体的なサービスを展開しています。TiFの公式ウェブサイトで紹介されている主な取り組みは以下の通りです。

  1. 引越れんらく帳:
    電気、ガス、水道、固定電話など、引越に伴う煩雑なインフラ手続きをインターネットで一元的に行うことができるプラットフォームサービスです。これは「モノ」の技術革新ではなく、「顧客体験(UX)」の向上と、「(NTTデータ、沖縄市上下水道局、株式会社りゅうせき、など)広範な他事業者・自治体とのアライアンス」そのものが中核的な知的財産(サービスモデル)となっています。
  2. TEPCO i-フロンティアズ 住宅設備機器保証:
    給湯器やキッチン設備などの住宅設備機器に対して、メーカー保証(通常1年間)が終了した後も、同等の無料修理を保証するサービスです。これも技術的な発明ではなく、TEPCOの顧客基盤(安心感)と、パートナー網(例:京王不動産が採用)を活用した、金融・保険的なサービスモデル(知財)です。

これらの事例からも明らかなように、TiFが扱う「知財」は、R&D部門(機能2が扱う「技術ノウハウ」とは全く異なり、「顧客の課題解決(ペイン解消)」に焦点を当てた「サービスモデル」や「アライアンス網」であることがわかります。

 

結論:知財ポートフォリオにおける「両利きの経営」

 

TEPCOの知財戦略は、TiFCVCの存在によって、経営学でいう「両利きの経営(Ambidextrous Organization)」、すなわち「知の深化」と「知の探索」のバランスを実現していると評価できます。

  • 知の深化(Exploitation):
    本体の中核部門(経営技術戦略研究所、知的財産室¹⁰)が、既存の電力インフラ事業の「深化」(効率化、安定化、標準化)を担う、重く、遅く、クローズド(秘匿)な知財戦略を推進しています。
  • 知の探索(Exploration):
    TiF(JVCVC³が、電力インフラの周辺領域(BtoCサービス)の「探索」を担う、軽く、速く、オープン(獲得)な知財戦略を推進しています。

JVという形態(すなわち本体からの「組織的な隔離」)は、この「探索」活動が、本体の「深化」活動を司る官僚主義的なプロセスや既存の価値観によって妨害されたり、潰されたりしないように保護するための、意図的な「出島(アイソレーション)」戦略として、極めて合理的に機能していると推察されます。

 

当章の参考資料

 

  1. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000052578.html
  2. http://www.tepco-if.com/info/181
  3. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2018/1489869_8663.html
  4. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/1453358_8662.html
  5. http://www.tepco-if.com/
  6. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/pdf/170919j0101.pdf
  7. https://www.tepco.co.jp/technology/research/
  8. https://www.tepco.co.jp/technology/intellectual/standardization.html
  9. https://www.tepco.co.jp/technology/research/gridinnovation/

 

詳細分析(4)特殊領域:廃炉技術という「潜在知財」

 

TEPCOの知財ポートフォリオにおいて、他のいかなる機能(DXR&D、標準化、CVC)とも異なる、極めて特殊な位置づけを占めるのが、「4+1」の「+1」として識別される「廃炉技術開発センター」¹⁰です。本章では、この特殊領域が集積する「知財」の性質と、それが持つ長期的なポテンシャルについて分析します。

 

ミッション・ドリブンR&D:「廃炉技術開発センター」の役割

 

この組織は、TEPCO本体の「福島第一廃炉推進カンパニー」の配下に設置されています¹⁰。その設立目的は、利益の追求や一般的な技術革新ではなく、「福島第一原子力発電所の廃炉作業を安全かつ着実に進めていく」¹⁰という、単一かつ極めて困難なミッションの完遂にあります。

このミッションは、TEPCOが公表する「中長期ロードマップ」¹⁰に基づき、完了までに「3040年後」¹⁰という超長期のタイムスパンが見込まれています。

「廃炉技術開発センター」の主な活動方針は、以下の3点に集約されます¹⁰

  1. 技術開発に係る課題のとりまとめ、進捗管理を通じた技術開発マネジメント
  2. 産学連携の深化
  3. 新技術の調査

これは、廃炉という前例のないプロジェクトを遂行するために、社内外のあらゆる知見を動員し、管理する「R&Dマネジメント(PMO)」機能に特化していることを示しています。そのR&Dサイクルも、「基礎・基盤研究」から始まり、「応用研究・開発」「実適用装置開発」を経て、「作業からのフィードバック開発」¹⁰へと至る、すべてが現場(廃炉作業)に直結した、ミッション・ドリブンの構造となっています。

 

集積される技術的知見(世界唯一の特殊ノウハウ)

 

福島第一原発の廃炉作業は、人類がこれまで経験したことのない技術的難題の連続です。その過程で、TEPCO(および、国、研究機関、協力企業群)には、膨大かつ世界唯一の「ノウハウ(=潜在的知財)」が集積されつつあります。

経営技術戦略研究所の公開テーマや、廃炉技術開発センターの資料¹⁰から、集積される知見の領域として以下が挙げられます。

  1. 遠隔操作・ロボティクス技術:
    人間が決して立ち入ることができない高放射線量環境下で、状況を調査し、作業(例:燃料デブリ取り出し¹⁰)を遂行するためのロボット技術(例:「スマートフォンロボット」)や、水中点検技術(例:「遠隔多目的水中点検ロボット」)の開発・運用ノウハウ。
  2. 物質・腐食評価技術:
    高放射線と海水(塩分)が複合的に作用する特殊な環境下で、原子炉建屋や各種設備(コンクリート、金属)が、数十年にわたりどのように変質・腐食していくかという「実データ」と、それに対処する「腐食評価・対策技術」⁹˒ ¹⁰
  3. 廃棄物処理・化学技術:
    発生し続ける汚染水を処理するための「吸着材のコストダウン」技術や、性状不明の燃料デブリ¹⁰の取り扱い技術、膨大な量の放射性廃棄物¹⁰の管理・処理技術。

これらの知見は、他のいかなる企業や研究機関も持ち得ない、福島第一原発という「現場」でのみ獲得可能な、極めて希少性の高い「経験知(エンピリカル・ナレッジ)」です。

 

分析:商業化されていない「負の遺産」としての知財

 

この廃炉技術(知財)は、TEPCOの知財ポートフォリオにおいて、最大のジレンマを抱えた領域であると分析されます。

  1. (事実): TEPCOは、廃炉という世界最難関の技術的課題¹⁰に、国家的な支援を受けつつ取り組んでいます。
  2. (推察1): この過程で得られる知見(例:高放射線下での材料腐食データ、遠隔解体ノウハウ、規制当局との折衝プロセス)は、将来、世界中で発生するであろう商業用原子炉の廃炉(デコミッショニング)市場において、他に類を見ない圧倒的な競争優位性を持つ「知的財産」です。
  3. (現状): しかし、現在のTEPCOにとって、これは福島第一原発の事故対応という「負の遺産」の後処理であり、技術開発はミッション遂行(=廃炉作業)のための「手段」¹⁰です。すなわち、知財は「コストセンター」の一部として認識されており、それを積極的に「収益化(商業化)」する対象とは見なされていない(少なくとも公表資料¹⁰からはそのように推察されます)。
  4. (結論): 「廃炉技術」は、TEPCOの知財ポートフォリオにおいて、長期的には最も価値が高まる可能性を秘めた「潜在資産」であると同時に、現在はその価値が「負債(賠償・廃炉費用)」の影に隠れて商業化のルートに乗っていない、最大のジレンマを抱えた領域であると分析されます。

この「負の遺産」から生まれた「潜在知財」を、将来(例:2030年代以降)、TEPCO(あるいは日本)がどのように戦略的に「資産」へと転換し、活用していくのか。これは、TEPCOの次世代の企業価値を左右する、極めて重要な経営課題となる可能性があります。

 

当章の参考資料

 

  1. https://dd-ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/pdf/decommissioning-research/dr-committee/materials/10/doc1-4.pdf
  2. https://www.tepco.co.jp/technology/research/decommissioning/
  3. https://www.tepco.co.jp/technology/research/maintenance/

 

競合比較:TEPCOの知財戦略の特異性

 

TEPCOが採用する「4+1」の知財戦略ポートフォリオ(「標準化」¹⁰と「DX³が主軸、「CVCが補完、「廃炉」¹⁰が特殊領域)は、他の国内電力会社や、関連する重電メーカーの知財戦略と比較することで、その独自性(特異性)がより明確になります。

本章では、これまで分析したTEPCOの一次情報を基に、他の主要プレイヤー(データは一般論および本レポートの分析に基づく推察)との間で、知財戦略モデルの対比を試みます。

 

比較対象(1):他の電力大手(例:関西電力、中部電力)

 

国内の他の大手電力会社は、TEPCOと同様に、電力システム改革(自由化)とGX(脱炭素化)という共通の経営課題に直面しています。

  • 共通点: R&Dのテーマにおいて、「再生可能エネルギーの導入拡大」、「既存設備の保守・保全のDX化」、「VPP(バーチャルパワープラント)」といった領域は、各社共通の課題であり、類似した技術開発(知財創出)が行われていると推察されます。また、BtoCサービス領域での顧客獲得競争(「機能4」の領域)も共通しています。
  • 相違点(推察): TEPCOの知財戦略における**「国際標準化(IEC)」¹⁰への突出したコミットメント(国際幹事・主査の獲得)**は、他社と比較して際立っている可能性があります。TEPCOは、日本最大の電力システム(首都圏)を運用する当事者として、また福島第一原発事故の深刻な経験から、「システムの安定」と「アセットマネジメント」に対する危機感とノウハウの蓄積が他社以上にあり、それが国際標準化活動(機能3)への強い動機となっていると推察されます。
  • 相違点(事実): 「廃炉技術開発センター」¹⁰に代表される、「事故炉のデコミッショニング」という特殊ドメインのR&D(機能+1)は、TEPCOが(良くも悪くも)独占的に保有する、他社にはない知財ポートフォリオです。

 

比較対象(2):重電メーカー(例:日立、東芝、シーメンス)

 

電力エコシステムにおけるもう一つの主要プレイヤーである重電メーカーとの比較は、TEPCOの戦略の核心を浮き彫りにします。

  • 戦略モデルの違い:「モノ(特許)」 vs 「コト(標準)」
  • メーカー(推察): 彼らの知財戦略の核は、伝統的に「特許ポートフォリオ」です。インバータ、蓄電池、発電タービン、監視システムといった「製品(モノ)」の技術的優位性を特許網で保護し、製品の販売やライセンスを通じて収益を上げることが主目的です。彼らにとっても標準化は重要ですが、それは自社製品の仕様を標準にねじ込む(あるいは標準に準拠する)ための活動という側面が強いと見られます。
  • TEPCO(事実): TEPCOは、これらの「製品」の*利用者(ユーザー)であり、電力システム全体の運用者(オペレーター)*です。TEPCOの戦略¹⁰は、メーカー各社が開発する「モノ」が、TEPCOの「システム(電力網)」の安定運用に悪影響を与えないよう、その「接続ルール(標準)」、すなわち「コト」のルールを、オペレーターの立場から自ら主導して策定することにあります。
  • インサイト: 両者は、エコシステムの中で「メーカー(製造者)」と「オペレーター(運用者)」という、明確に異なる役割を担っており、その知財戦略も必然的に異なります。メーカーが「特許」で戦うのに対し、TEPCOは「標準(ルール)」で戦うという、明確な戦略的棲み分けが見られます。

 

比較表:知財戦略モデルの対比

 

これまでの分析に基づき、各プレイヤーの知財戦略モデルを比較表として整理します(TEPCO以外は、本レポートの分析に基づく一般的な推察を含みます)。

比較軸

東京電力HDTEPCO

他の電力大手(推察)

重電メーカー(推察)

知財の主戦場

**国際標準化(IEC**¹⁰

 

(市場ルールの形成)

国内の系統運用、DX

特許ポートフォリオ

 

(製品(モノ)の保護)

IR上の「知的資本」

DX(費用削減)

 

サイバーセキュリティ³

同様にDX、効率化が中心と推察

R&D投資額、特許件数、

 

ブランド価値

中核R&D(知財源)

運用ノウハウ(系統、保守)

 

アセットマネジメント¹⁰

同様のインフラ運用ノウハウ

製品開発(半導体、タービン、

 

制御ソフトウェア)

知財の収益化モデル

(将来)標準準拠の

 

運用コンサル/ライセンス¹⁰

(推察)国内サービス、

 

一部技術の外部販売

製品販売

 

特許ライセンス

アジャイル領域

JV/CVCで外部から獲得

 

TEPCO i-フロンティアズ)⁶˒ ⁸

同様にCVC等で模索中と推察

自社R&DおよびCVC

特殊ドメイン

**廃炉技術(潜在資産)**¹⁰

(なし)

原子力関連機器(製造)、

 

(一般的な)廃炉技術

 

競合比較からの結論

 

以上の比較分析から、TEPCOの知財戦略の特異性が明確になります。TEPCOは、自らを「製品メーカー」ではなく、電力システムの「ルールメーカー(標準化主導者)」であり、高度な「オペレーター(運用ノウハウ保持者)」であると明確に定義し直しています。

その上で、

  1. 「守り(DX)」³: で足元の経営基盤を固め、
  2. 「攻め(標準化)」¹⁰: で将来のカーボンニュートラル市場(エコシステム)の主導権(ルール)を握り、
  3. 「補完(CVC)」⁶˒ ⁸: で自社の弱み(BtoCサービス)を外部から獲得し、
  4. 「特殊(廃炉)」¹⁰: という他社が持ち得ない超長期の知見を(現在は潜在的ながら)保有する、

という、全方位的なポートフォリオを構築していると分析されます。これは、伝統的な電力会社の枠を超えた、極めて洗練された知財戦略であると評価できます。

 

当章の参考資料

 

  1. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou-j.pdf
  2. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/1453358_8662.html
  3. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/pdf/170919j0101.pdf
  4. https://www.tepco.co.jp/technology/research/
  5. https://www.tepco.co.jp/technology/research/gridinnovation/
  6. https://www.tepco.co.jp/technology/intellectual/standardization.html
  7. https://dd-ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/pdf/decommissioning-research/dr-committee/materials/10/doc1-4.pdf

 

リスク・課題(短期/中期/長期)

 

TEPCOが構築した「4+1」の高度な知財戦略ポートフォリオは、その複雑さと時間軸の多様性ゆえに、短期・中期・長期の各フェーズにおいて、それぞれ固有のリスクと課題を内包していると見られます。本章では、これらのリスクと課題を時間軸に沿って分析します。

 

短期リスク:R&D投資の継続性と説明責任

 

  • 財務状況による圧迫リスク:
    TEPCOの経営基盤は、依然として福島第一原発の事故対応(賠償、廃炉、復興)という極めて重い財務的負担を抱えています。経営陣が短期的な収益改善やコスト削減を(外部のステークホルダーから)強く迫られた場合、知財戦略への投資が削減対象となるリスクが常に存在します。
    特に、R&D(機能2や国際標準化活動(機能3¹⁰は、成果が出るまでに5年、10年という長い時間を要し、その間、直接的なキャッシュフローを生み出しません。短期的な視点では「コスト(経費)」と見なされやすいこれらの「未来への投資」が、財務的なプレッシャーによって削減された場合、TEPCOの長期的な知財戦略(標準化による優位性確保)は根本から揺らぐことになります。
  • 投資家への説明責任(IR)の課題:
    この短期リスクを増幅させる可能性があるのが、IRにおけるR&D投資の扱いです。「3-3. 詳細分析(1)」で指摘した通り、TEPCOの「ファクトブック」¹¹において、「研究開発費」が「修繕費」や「人件費」¹¹のように主要な財務指標としてハイライトされていない事実は、知財創出への投資の重要性が、投資家(特に短期的なリターンを重視する投資家)に十分に伝わっていない可能性を示唆します。
    「守り(DX)」³以外の、「攻め(標準化)」¹⁰や「創出(R&D)」といった知財活動の戦略的価値を投資家コミュニティに理解してもらえなければ、R&D予算を継続的に確保するための社内外のコンセンサスが脆弱になる可能性があります。

 

中期リスク:国際標準化における主導権の喪失

 

  • 戦略の模倣と競合による陳腐化リスク:
    TEPCOが中核に据える「標準化戦略」¹⁰は、それ自体が非常に強力であるため、他国の巨大ユーティリティ(例:中国国家電網、欧州の主要TSO)や、VPP・デジタルツイン領域で電力市場への参入を狙う巨大IT企業(例:Google, Amazon, Microsoft)によって、模倣または対抗されるリスクがあります。
    TEPCOが主導するTC/SC¹⁰において、これらの強力なプレイヤーがより多くのリソース(人材、資金、技術データ)を投入し、TEPCOの意図とは異なる(あるいは不利な)規格を推し進めようとした場合、TEPCOは主導権を失い、中期的に(例えば2030年頃の)カーボンニュートラル市場のルール形成競争で敗北する可能性があります。
  • 「規格エキスパート」人材の枯渇リスク:
    国際標準化活動(特にIECの国際主査や幹事)¹⁰を主導するには、高度な技術的知見、語学力(英語)、そして国際的な利害を調整する交渉力(政治力)を兼ね備えた、極めて希少な「規格エキスパート」と呼ばれる人材が不可欠です。
    これらの専門的人材の育成には10年以上の時間がかかるとされ、その育成・維持が(例えば短期的なコスト削減や組織再編によって)途絶えた場合、TEPCOは標準化の「場」に中核メンバーを送り込めなくなります。その結果、TEPCOは日本主導で設立したTC/SC¹⁰の主導的地位を失い、他国が策定した不利なルール(標準)に、単なるユーザーとして従う側に転落するリスクがあります。
  • CVC(機能4)の機能不全リスク:
    アジャイルな知財獲得を担うTiFJV⁶˒ ⁸CVC³が、期待した成果を上げられないリスクも存在します。有望なスタートアップの発掘・提携に失敗した場合や、JVのパートナー(ICMGとの連携がうまくいかなくなった場合、あるいはTEPCO本体の文化との衝突(アラインメントの失敗)が起きた場合、BtoCサービス領域の「探索」機能は形骸化します。これは、約2,000万軒の顧客基盤という巨大な資産(知財)を収益化する機会を失うことを意味します。

 

長期リスク:廃炉技術(知財)の「塩漬け」

 

  • コストセンターとしての固定化と機会損失:
    TEPCOの知財戦略における最大の長期的リスクは、「廃炉技術開発センター」¹⁰に集積される世界最先端のデコミッショニング・ノウハウ(機能+1)が、純粋な「事故処理コスト」としてのみ認識され続け、商業的な「知的資産」として活用(マネタイズ)する戦略が策定・実行されないリスクです。
  • 技術の散逸(ロスト)リスク:
    廃炉は「3040年」¹⁰にわたる超長期プロジェクトです。この間に、技術やデータが組織的に(デジタルな形で)継承・管理されなければ、個々の技術者の退職や異動、あるいは協力企業(サプライチェーン)の撤退などによって、人類史的な経験から得た貴重な知見(暗黙知)が散逸(ロスト)してしまう可能性があります。
  • インサイト(機会損失): TEPCOは、廃炉の「技術的ロードマップ」¹⁰と同時に、そこで得られる知財の「商業化(マネタイズ)ロードマップ」を策定し、実行に移さなければ、将来(2030年代以降)立ち上がる「グローバルな廃炉市場」という巨大なビジネスチャンスを逃すことになります。これは、TEPCOが「負の遺産」から「未来の収益源」を生み出す最大の機会を、「塩漬け」にすることによる重大な機会損失を被る可能性を意味します。

 

当章の参考資料

 

  1. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/factbook/
  2. https://www.tepco.co.jp/technology/research/
  3. https://www.tepco.co.jp/technology/intellectual/standardization.html
  4. https://dd-ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/pdf/decommissioning-research/dr-committee/materials/10/doc1-4.pdf
  5. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2018/1489869_8663.html
  6. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/1453358_8662.html
  7. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/pdf/170919j0101.pdf
  8. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou-j.pdf
  9. https://www.tepco.co.jp/technology/research/gridinnovation/

 

今後の展望(政策/技術/市場動向との接続)

 

TEPCOの知財戦略ポートフォリオは、孤立して存在するものではなく、日本および世界の主要なトレンド(政策、技術、市場)と密接に連動しています。本章では、これらの外部動向とTEPCOの知財戦略がどのように接続し、将来どのような展望が開けるかを分析します。

 

政策動向(GX)との完全な同期

 

  • GX政策との接続:
    TEPCOの知財戦略、特に中核である「国際標準化戦略」¹⁰は、日本政府が国家戦略として推進するGX(グリーントランスフォーメーション)政策、および経済産業省が推進する「グリーンイノベーション」と、軌を一にしています。
  • 戦略的な連動:
    GXの核心は、再生可能エネルギーの大量導入(主力電源化)⁸˒ ⁹と、それを支える次世代電力ネットワークの安定化です。TEPCOIECで主導権を握る「SC 8C(電力ネットワークの運用・管理)」¹⁰や「TC 123(電力流通設備のアセットマネジメント)」¹⁰は、まさにこのGXを実現するための技術的な「土台(ルール)」そのものです。
  • 展望(追い風):
    今後、日本政府がGX政策(例:グリーンイノベーション基金)を加速させ、国策として日本の技術(特に系統運用やアセットマネジメント)の国際標準化を後押しするほど、TEPCOの「機能3(知的財産室)」¹⁰の活動は重要性を増します。TEPCOの標準化戦略は、国策の「追い風」を受ける形で、さらに強化・加速されると予想されます。TEPCOは、一企業の知財戦略を超え、日本のGX戦略における「技術的な国益」を(IECという国際舞台で)代弁・実現する役割を担っているとも言えます。

 

技術動向(デジタルツイン)との接続

 

  • デジタルツインとの接続:
    TEPCO(知的財産室)が関与したIECMSB(市場戦略局)白書プロジェクトには、「デジタルツイン」(2024年発行)¹⁰が含まれています。これは、TEPCOの知財戦略が、電力業界における最先端の技術動向と既に接続していることを示しています。
  • 知財ポートフォリオの統合プラットフォーム:
    「デジタルツイン」(物理空間に存在する電力網を、デジタルの双子としてサイバー空間にリアルタイムで正確に再現する技術)は、TEPCOが持つ「4+1」の知財ポートフォリオの「全て」を統合し、その価値を最大化する「キープラットフォーム」となる可能性があります。
    1. DX(機能1³との接続: デジタルツインは、設備保全や系統運用をサイバー空間でシミュレート・最適化することを可能にし、DXによる費用削減(KPI³を達成するための究極的な技術基盤です。
    2. R&D(機能2との接続: 経営技術戦略研究所が開発中の新技術(例:VPP、再エネ接続方式)を、物理的な系統で実証する前に、まずデジタルツイン上で安全かつ詳細にシミュレーションし、開発を加速させることが可能になります。
    3. 標準化(機能3¹⁰との接続: TEPCOが主導する系統運用(SC 8C¹⁰やアセットマネジメント(TC 123¹⁰の国際標準規格は、デジタルツインの「OS(基本ソフトウェア)」、すなわち「デジタル空間における物理法則や運用ルール」の仕様(プロトコル)そのものとなると考えられます。
  • 展望(新たなビジネスモデル):
    TEPCOが「デジタルツイン」の実装と、その基盤となる「標準化」¹⁰で主導権を握ることができれば、TEPCOは自社の電力網を(アナログに)運用する従来のビジネスモデルを超え、その「運用OS(デジタルツイン・プラットフォーム)」自体を、国内外の他の電力会社や、VPPアグリゲーター等の新興プレイヤーにライセンス供与する、全く新しい「知財ビジネスモデル」を確立できる可能性があります。

 

市場動向(廃炉市場のグローバル化)との接続

 

  • グローバル廃炉市場の立ち上がり:
    1970年代から80年代にかけて(スリーマイル島事故以前)世界中で建設された多数の商業用原子力発電所が、2030年代以降、順次、設計寿命を迎え、廃炉(デコミッショニング)の時期を迎えます。これは、世界的に巨大な「廃炉市場」が立ち上がることを意味します。
  • TEPCOのポテンシャル(機能+1):
    この巨大市場において、福島第一原子力発電所という「メルトダウン(炉心溶融)を経た原発」の廃炉¹⁰という、世界で最も困難なミッションを(現在進行形で)経験し、そこでノウハウ(知財)を集積しているTEPCOは、世界で唯一無二の「廃炉コンサルティング・エンジニアリング」企業(あるいはその中核)となる、圧倒的な潜在能力を持っています。
  • 展望(コストからプロフィットへ):
    3-8. リスク・課題」で指摘した「塩漬け」リスクを克服し、廃炉技術開発センター¹⁰に集積される膨大な知見(ロボティクス、腐食評価、廃棄物管理、規制当局対応プロセス等)¹⁰を、体系化・サービス化(知財化)する戦略的決定がなされれば、TEPCOは「廃炉」を、現在の「負の遺産(コストセンター)」から、将来(2030年以降)の「グローバルな収益源(プロフィットセンター)」へと、劇的に転換できる可能性を秘めています。

 

当章の参考資料

 

  1. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou-j.pdf
  2. https://www.tepco.co.jp/technology/intellectual/standardization.html
  3. https://www.jpo.go.jp/resources/statistics/green_life/index.html
  4. https://www.tepco.co.jp/technology/research/gridinnovation/
  5. https://www.tepco.co.jp/technology/research/renewable/
  6. https://dd-ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/pdf/decommissioning-research/dr-committee/materials/10/doc1-4.pdf

 

戦略的示唆(経営/研究開発/事業化の観点)

 

本レポートの分析に基づき、TEPCOがその独自の知財ポートフォリオの価値を最大化し、リスクを最小化するために、経営、研究開発、および事業化の各観点から検討すべき、3つの戦略的示唆を提言します。

 

1. 経営(特にCFO/CSO)への示唆:IRにおける「知的資本」の再定義

 

  • 現状の課題と機会:
    現在の「統合報告書 2025³における「知的資本」の定義(KPIDXによる費用削減 約90億円、サイバーセキュリティ)³は、TEPCOの知財戦略の「守り(機能1)」の側面しか捉えておらず、投資家に対して誠実であると同時に、過小評価(Understatement)であると言えます。TEPCOの企業価値の将来的な成長性を左右する、最も強力な「攻め(機能3:標準化)」¹⁰と「潜在資産(機能+1:廃炉)」¹⁰の価値が、現在の非財務情報開示(IR)では投資家に伝達されていません。
  • アクション提言:
    投資家向けの「知的資本」の開示(非財務情報)を、現在の「DXによる費用削減」³という「コスト」の側面だけでなく、「未来の収益(または支配力)」の側面を含む形に、戦略的に拡大・再定義することを推奨します。
    • 開示項目(例1): 「国際標準化活動(TC 123, SC 8C等)¹⁰の戦略的価値」。TEPCOが国際幹事・主査として主導する標準規格が対象とする(グローバルな)市場規模や、それによってTEPCO(および日本)が享受する(将来的な)技術的優位性や経済的インパクトを、定性・定量の両面で(例:KPIとして「主導した国際標準規格数」など)積極的に開示する。
    • 開示項目(例2): 「廃炉技術(ノウハウ)¹⁰の資産価値」。廃炉技術開発のミッション¹⁰(コスト)と並行して、その過程で得られたユニークなノウハウ(例:特許化・秘匿化された技術、論文発表数、産学連携の規模)¹⁰を「将来の成長に向けた潜在的資産」として明確に位置づけ、将来のグローバル廃炉市場への展開可能性(オポチュニティ)について、投資家に対話を開始する。
  • 期待される効果:
    これにより、TEPCOの企業価値評価(PBRなど)が、単なる「国内インフラ(規制と負債)」としてではなく、「グローバルなルールメーカー(標準化)」であり「ユニークなソリューションプロバイダー(廃炉)」でもあるという、「成長性(オポチュニティ)」の側面からも再評価される契機となり得ます。

 

2. 研究開発(R&D)部門への示唆:「標準化」を出口とするR&Dロードマップの策定

 

  • 現状の課題と機会:
    R&D部門(経営技術戦略研究所)と、標準化部門(知的財産室)¹⁰は、既に連携していると見られますが、その連動性をさらに意図的・戦略的に強化する余地があります。
  • アクション提言:
    R&Dの各テーマ(例:再エネ、ネットワーク高度化、設備保全)のロードマップを策定する際、単に「技術の完成」や「社内での実用化」をゴールとするだけでなく、そのノウハウを「IEC等での国際標準化(TC/SC/WGの新規設立提案、あるいは既存WGでの主査獲得)」¹⁰に繋げることを、明確な「出口(戦略的ゴール)」の一つとして設定することを推奨します。
  • 期待される効果:
    R&D投資(インプット)が、単なる「運用ノウハウの蓄積(内部価値)」に留まらず、R&Dの初期段階から「国際標準(市場価値)」へと、より確実に転換されるようになります。また、R&D部門の技術者にとっても、「自らの研究成果が国際標準になる」というキャリアパスは、強力なモチベーション(インセンティブ)となり、優秀な人材の確保・維持(人的資本の強化)にも繋がる可能性があります。

 

3. 事業開発(BizDev)部門への示唆:「廃炉知財」の商業化(マネタイズ)タスクフォースの設立

 

  • 現状の課題と機会:
    3-8. リスク・課題」で指摘した通り、「廃炉技術」¹⁰は、現在「コストセンター」として管理されており、その商業化(収益化)を専門に担う部署が(公表資料上は)不明確です。これは、最大の「機会損失」リスクを内包しています。
  • アクション提言:
    「廃炉技術開発センター」¹⁰、「R&D部門(経営技術戦略研究所)」、およびコーポレートの事業開発(BizDev)部門による、部門横断型の「廃炉知財・商業化タスクフォース」を(まずは水面下で)立ち上げることを推奨します。このタスクフォースは、アジャイルな事業化ノウハウを持つ「TEPCO i-フロンティアズ」の知見を活用することも一考に値します。
    • タスクフォースのミッション(例):
      1. 廃炉プロセスで得られる知見(技術、データ、プロセス)の棚卸しと「知財化(資産化)」の定義。
      2. 3040年後¹⁰の)廃炉完了を待たず、途上で得られた知見(例:腐食評価ソフトウェア、遠隔ロボットの運用パッケージ、高放射線下対応のサプライチェーン管理ノウハウ)をスピンアウトさせ、国内外の他の原発(廃炉前、あるいは建設中)や、他産業(例:化学プラント、海洋、宇宙)へライセンス供与・コンサルティング提供するビジネスモデルを検討・実証する。
    • 期待される効果:
      「負の遺産」を「未来の収益源」に転換する道筋を早期に検討・構築することが可能となります。これは、TEPCOの財務基盤の多様化に貢献するだけでなく、福島での過酷な経験から得た知見を世界に還元するという、TEPCOの社会的責務(CSR)を、持続可能な(サステナブルな)事業として果たす道にも繋がると考えられます。

 

当章の参考資料

 

  1. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou-j.pdf
  2. https://www.tepco.co.jp/technology/intellectual/standardization.html
  3. https://dd-ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/pdf/decommissioning-research/dr-committee/materials/10/doc1-4.pdf
  4. https://www.tepco.co.jp/technology/research/
  5. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/1453358_8662.html

 

総括

 

本レポートは、東京電力ホールディングス(TEPCO)の知的財産(知財)戦略について、公表されている一次情報に基づき、その全体像と構造を網羅的に分析しました。

分析の結果、TEPCOの知財戦略は、「特許出願件数」を追い求める伝統的な製造業モデルとは全く異なる、電力インフラ事業者(オペレーター)として、また、カーボンニュートラル(GX)と福島第一原発の廃炉という二重の国家的課題を担う当事者として、高度に最適化された「4+1」のポートフォリオ戦略を採用していることが明らかになりました。

その中核は、IR(統合報告書)で定義される「守りの知財(DX/セキュリティ)」³を経営の基盤としつつ、「知的財産室」¹⁰が主導するIEC(国際電気標準会議)での「攻めの知財(国際標準化)」⁸˒ ¹⁰にあります。TEPCOは、カーボンニュートラル時代の電力ネットワークの「ルールメーカー」として、自社(および日本)の運用ノウハウを国際標準に組み込むことで、将来のエネルギーエコシステム全体への支配力(ガバナンス)を確立しようとしています。

この中核戦略を、本体R&D(重厚長大ノウハウの創出・秘匿)と、外部JV/CVC(アジャイルノウハウの獲得)⁶˒ ⁸が「両利きの経営」として両輪で支えています。

本分析が経営層および意思決定者へ提示する最大の含意は、「廃炉技術」¹⁰という世界にも類を見ない「潜在的知的資産」の扱いです。これを「負の遺産(コスト)」としてのみ捉え続けるのか、あるいは「未来の収益源(資産)」として戦略的に商業化(知財化)する道筋に、今から(水面下でも)着手するのか。この経営判断が、TEPCOの長期的な企業価値と、社会における存在意義を大きく左右するものと結論付けられます。

 

参考資料リスト(全体)

 

  1. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000052578.html
  2. https://assets.money.st-note.com/documents/securities/9501/140120250930565473.pdf
  3. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/
  4. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou05-j.pdf
  5. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/annual_report/pdf/202510tougou-j.pdf
  6. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/securities_report/
  7. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/securities_report/pdf/202506-j.pdf
  8. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2018/1489869_8663.html
  9. http://www.tepco-if.com/info/181
  10. http://www.tepco-if.com/
  11. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/1453358_8662.html
  12. https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2017/pdf/170919j0101.pdf
  13. https://www.tepco.co.jp/technology/research/
  14. https://www.tepco.co.jp/technology/intellectual/standardization.html
  15. https://www.jpo.go.jp/resources/statistics/green_life/index.html
  16. https://www.tepco.co.jp/technology/research/renewable/
  17. https://www.tepco.co.jp/technology/research/maintenance/
  18. https://www.tepco.co.jp/technology/research/gridinnovation/
  19. https://www.tepco.co.jp/technology/research/electrification/
  20. https://www.tepco.co.jp/technology/research/decommissioning/
  21. https://www.tepco.co.jp/technology/research/nuclear/
  22. https://www.tepco.co.jp/technology/research/resilience/
  23. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/factbook/
  24. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/factbook/pdf/factbook-j.pdf
  25. https://www.tepco.co.jp/about/ir/library/factbook/pdf/p19-j.pdf
  26. https://dd-ndf.s2.kuroco-edge.jp/files/user/pdf/decommissioning-research/dr-committee/materials/10/doc1-4.pdf

PDF版のダウンロード

本レポートのPDF版をご用意しています。印刷や保存にご活用ください。

【本レポートについて】

本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。

情報の性質

  • 公開特許情報、企業発表等の公開データに基づく分析です
  • 2025年10月時点の情報に基づきます
  • 企業の非公開戦略や内部情報は含まれません
  • 分析の正確性を期していますが、完全性は保証いたしかねます

ご利用にあたって
本レポートは知財動向把握の参考資料としてご活用ください。 重要なビジネス判断の際は、最新の一次情報の確認および専門家へのご相談を推奨します。

→詳細なご相談はこちら

企業内発明塾バナー

最新レポート

5秒で登録完了!無料メール講座

ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。

・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略

無料購読へ
© TechnoProducer Corporation All right reserved