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mRNA技術のキープレイヤーと応用先:特許と事業戦略から読み解く市場動向

エグゼゼクティブサマリ

 

  • 技術分野の市場概観と重要性
    mRNA技術は、COVID-19パンデミックへの対応を通じて、その迅速な開発・製造能力を実証し、医薬品開発における主要な「プラットフォーム技術」としての地位を確立しました 1。市場は現在、パンデミック需要の終息に伴う調整局面にありますが、COVID-19ワクチン以外の分野(他の感染症、がん免疫療法、希少疾患)が新たな成長ドライバーとなると見られています。複数の市場レポートは、mRNA医薬市場が2030年にかけて年平均成長率(CAGR14%17%台の持続的な成長を遂げると予測しており 3、そのポテンシャルの高さを示しています。
  • 本レポートで分析する「主要な戦略グループ」の分類と、そこに属する主要プレイヤー
    本レポートは、技術蓄積(特許動向)、事業規模(市場シェア)、戦略投資(IRM&A)の3つの基準に基づき、主要プレイヤーを以下の3つの戦略グループに分類します。
    1. mRNAプラットフォーム・ジャイアント」: COVID-19ワクチンで市場を創出し、圧倒的な資金力と技術基盤を持つ先行企業群(Moderna, BioNTech, Pfizer)。
    2. 「次世代RNAイノベーター」: 従来の線状mRNAの課題を克服する新技術(saRNA, circRNA)に特化し、特許で先行する新興企業群(Arcturus Therapeutics, Orna Therapeutics, Sail Biomedicineなど)。
    3. 「戦略的M&Aフォロワー」: M&Aや大型アライアンスを通じて、先行2グループを猛追する既存の大手製薬企業群(Sanofi, GSK)。
  • 主要な技術応用先の分類
    mRNA技術の応用先は、確立された市場から新たな高付加価値市場へと急速に拡大しています。
    • 現在(商用化済): COVID-19予防ワクチン(ModernaSpikevaxPfizer/BioNTechComirnaty6RSV予防ワクチン(ModernamRESVIA8、および日本市場におけるsaRNA COVID-19ワクチン(Arcturus/CSLのコスタイバ) 9
    • 未来(開発段階): インフルエンザワクチン、COVID/インフルエンザ混合ワクチン 10、個別化がんワクチン(ModernamRNA-4157BioNTechBNT111など) 11、希少疾患(タンパク質補充療法) 13
  • 市場全体の主要トレンドと今後の課題
    市場の最大のトレンドは、応用先が「ワクチン」から「治療薬(セラピューティクス)」、特に「がん領域」へと明確にシフトしている点です 15。しかし、このシフトは2つの重大な技術的・法的課題に直面しています。第一に、mRNAを肝臓以外の標的臓器(例:腫瘍、肺)へ効率的に送達する「肝外デリバリー技術(LNP)」の限界です 17。第二に、現在のmRNAワクチン市場の基盤となっているLNP技術そのものを巡る、ModernaPfizer/BioNTechArbutus/Genevant間での熾烈な「特許訴訟」 19 です。これらの課題の克服が、市場の将来を左右する最大のボトルネックとなっています。

 

本文

 

 

【第1章】技術分野の定義と市場概観

 

 

対象技術の範囲定義

 

mRNA(メッセンジャーRNA)技術とは、特定の医薬品そのものを指すものではなく、医薬品開発における革新的な「プラットフォーム技術」として定義されます 1

その技術的本質は、生体内でタンパク質の設計図として機能するmRNA(メッセンジャーRNA)を、体外の無細胞(cell-free)環境で人工的に合成(in vitro synthesis)し 1、医薬品として体内に投与することにあります。投与されたmRNAは、細胞内のリボソーム(タンパク質合成工場)に直接取り込まれ、その配列情報に基づいた特定のタンパク質を一時的に産生させます。

この技術が「プラットフォーム」と呼ばれる理由は、製造プロセスにおける圧倒的な効率性と標準化にあります。

  1. 標準化された製造: 従来のタンパク質製剤やウイルスベクターワクチンとは異なり、mRNA医薬品の原薬(mRNA)製造プロセスは、コードするタンパク質(抗原や治療用タンパク質)の種類によらず、基本的に同一のプロトコルと設備(one-vessel reaction)で行うことが可能です 1
  2. 迅速性と簡素化: 従来の生物学的製剤で必要だった、複雑な細胞培養プロセスや、そこからのタンパク質抽出・精製工程が不要であるため 1、開発からGMP製造までの期間を劇的に短縮できます 1

WHO(世界保健機関)やFDA(米国食品医薬品局)などの規制当局も、このプラットフォームとしての特性を認識しており、COVID-19変異株ワクチンの迅速な審査(immuno-bridging21 に見られるように、合理化された規制パスウェイの適用が進みつつあります 2

なお、mRNA分子はそれ自体が非常に不安定で分解されやすいため、その送達には「デリバリーシステム」が不可欠です。現在、最も一般的に使用されているのが「脂質ナノ粒子(LNP)」であり 1LNPmRNAを分解から保護し、細胞内への導入を促進する役割を果たします。したがって、本レポートにおける「mRNA技術」は、mRNA分子そのものの設計・修飾技術と、LNPに代表されるデリバリー技術を一体のものとして分析対象とします。

 

現在の市場規模と成長予測

 

mRNA医薬の世界市場は、2021年から2022年にかけてのCOVID-19ワクチンによるパンデミック需要を歴史的なピークとし、現在は「ポスト・パンデミック」の調整局面にあります。COVID-19ワクチンの需要が、パンデミック(世界的大流行)からエンデミック(季節性流行)へと移行するにつれ 62023年以降の市場規模は一時的に縮小しています。

しかし、これは市場の終焉ではなく、新たな成長フェーズへの移行を示しています。複数の市場調査レポートは、非COVID分野での応用拡大を背景に、2030年以降も二桁成長が続くと予測しています。

  • Grand View Research社(20244月発行)のレポートによると、mRNA医薬の世界市場規模は2030年までに313億米ドルに達すると予測されています。2024年から2030年までのCAGR(年平均成長率)は05%と、高い成長が見込まれています 3
  • GM Insights社(2024年発行)の分析では、市場規模は2024年の155億米ドルから2034年には589億米ドルへと拡大し、予測期間(2025-2034年)のCAGR4%に達するとされています 4
  • Virtue Market Research社(2023年発行)も、mRNAワクチン市場が2030年までに1億米ドルに達し、2024年から2030年までのCAGR17%になると予測しています 5

これらの予測の背景には、市場の「二重構造」があります。Roots Analysis社(2024年発行)は、2024年の市場においてCOVID-19向けが90億ドルを占めるとしつつ、COVID-19以外の適応症(Other Indications)市場の成長性を強調しています 22。同レポートによれば、この「非COVID分野」は、2026年から2035年にかけてCAGR 16%で力強く成長すると予測されており 22、市場の成長ドライバーがパンデミック需要から、がん、希少疾患、他の感染症へと明確に移行することを示唆しています。

 

ビジネス上の重要性

 

mRNA技術のビジネス上の重要性は、COVID-19で証明された「ワクチン」としての側面に留まらず、「ワクチンを超えた」治療薬(セラピューティクス)としての広範な応用可能性にあります 15

パンデミック以前から、mRNA技術は「がんワクチン」や「希少疾患」の治療法として活発に研究されていました 16COVID-19によってその安全性と有効性の基盤が大規模に実証された今、R&Dの焦点は再びこれらの高付加価値領域へと回帰しています。

本技術がビジネス上重要視される最大の理由は、それが従来の医薬品では標的とできなかった「Druggable Universe(創薬可能な標的)」を劇的に拡大する点にあります 15

従来の低分子医薬品や抗体医薬品が標的とできるタンパク質は、主に細胞表面や細胞外に存在するタンパク質に限られており、ゲノムがコードするタンパク質のごく一部に過ぎませんでした。しかし、mRNA技術は、原理上、ゲノムがコードするあらゆるタンパク質(細胞内タンパク質、膜タンパク質、分泌タンパク質)を、細胞内で一時的に産生・補充させることが可能です 13

これにより、以下のような従来のモダリティでは実現が困難であった革新的なアプローチが可能になります。

  1. がん免疫療法(がんワクチン): 個々の患者のがん細胞に特有の変異(ネオアンチゲン)をコードするmRNAを投与し、免疫系に「がん」を正確に認識・攻撃させる個別化医療 16
  2. タンパク質補充療法: 遺伝子変異により特定のタンパク質が欠損する希少疾患(例:嚢胞性線維症、代謝性疾患)に対し、mRNAを投与してそのタンパク質を体内で「補充」する治療 13
  3. 遺伝子編集: CRISPR-Cas9などの遺伝子編集ツール(タンパク質)そのものをmRNAとして送達し、in vivo(生体内)で遺伝子治療を行う応用 15

このように、mRNA技術は、これまで「アンメット・メディカル・ニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)」が残されてきた多くの疾患領域に対し、新たな治療の選択肢を提供する革新的なプラットフォームとして、製薬業界全体のR&D戦略の中核に位置づけられています。

 

【第2章】キープレイヤーの特定と戦略グループ分類

 

本レポートでは、mRNA技術市場の複雑な競合構造とダイナミクスを分析するため、主要プレイヤーを3つの「戦略的グループ」に分類します。この分類は、以下の3つの分析基準を総合的に評価した結果、定義されたものです。

  • 分析基準1:技術蓄積(特許出願動向): LNP(脂質ナノ粒子)デリバリー技術や、saRNA(自己増幅型RNA)、circRNA(環状RNA)といった次世代RNA技術に関する基礎特許ポートフォリオの強さ。
  • 分析基準2:事業規模(現在の市場シェアや生産能力): COVID-19ワクチン市場で獲得した収益、市場シェア 6、およびグローバルな製造・供給ネットワークの有無 24
  • 分析基準3:戦略投資(IR発表、投資額、大手企業とのアライアンス): R&Dへの再投資額、M&A、アライアンス戦略、およびIR資料で公表されるロードマップ。

この3基準に基づき、市場は以下の3つのグループによって牽引されていると分析されます。

 

グループ1:「mRNAプラットフォーム・ジャイアント」 (mRNA Platform Giants)

 

  • 該当企業: Moderna (モデルナ)BioNTech (ビオンテック)Pfizer (ファイザー)
  • 選定理由: この3社は、COVID-19ワクチン(ModernaSpikevaxPfizer/BioNTechComirnaty)の開発・販売において歴史的な成功を収め、mRNAプラットフォームの実用性を数十億回投与の規模で証明しました。
  • 戦略的特徴:
    • 事業規模(基準2: COVID-19ワクチンの市場を事実上寡占し 6、莫大な収益(キャッシュ)を獲得しました。この収益は、他グループを圧倒する規模のR&D投資 26 や事業開発を可能にする最大の武器となっています。
    • 戦略投資(基準3: 獲得したキャッシュを、ポスト・パンデミックの持続的成長ドライバー(呼吸器系ワクチンフランチャイズ 10、がん免疫療法 27、希少疾患)へと積極的に再投資しています。
    • 技術蓄積(基準1: 確立された「線状mRNA」プラットフォームと、それに関連するLNP技術のノウハウを蓄積しています。彼らは事実上の「現行(線状)mRNA技術のインキュンベント(既得権益者)」であり、市場のデファクトスタンダードを形成しています。

 

グループ2:「次世代RNAイノベーター」 (Next-Generation RNA Innovators)

 

  • 該当企業: Arcturus Therapeutics (アークトゥルス)Orna Therapeutics (オルナ)Sail Biomedicine (セイル・バイオメディシン、旧Laronde)Orbital Therapeutics (オービタル) など
  • 選定理由: このグループは、グループ1が確立した「線状mRNA」技術が持つ本質的な課題(例:比較的低い安定性、持続性の短さ、デリバリーの課題、必要な投与量)を根本的に克服することを目的とした「次世代技術」の開発に特化しています。
  • 戦略的特徴:
    • 技術蓄積(基準1: 彼らの競争力の源泉は、特許に裏付けられた独自の技術プラットフォームです。
      • Arcturus Therapeutics:saRNA(自己増幅型RNA)」技術(STARR™)を保有しています 28saRNAは、細胞内でRNAが自己複製するため、従来のmRNAよりも大幅に少ない投与量で、より持続的なタンパク質発現が可能です 30。この技術はARCT-154COVID-19ワクチン)として日本で承認(2023年)されており 9、臨床的に実証されています。
      • Orna, Sail, Orbital:circRNA(環状RNA)」技術 31 を開発しています。circRNAは、線状mRNAと異なり末端(5'キャップと3'ポリAテール)を持たないため、RNA分解酵素に対する耐性が極めて高く、大幅に長い半減期と持続的な発現が期待されます 32
    • 戦略投資(基準3: 彼らの戦略は、この技術的優位性(特許ポートフォリオ 31)を武器に、線状mRNAでは困難だった応用先(例:高持続性を要する治療薬、in vivo CAR-T 35)で新たな市場を創造(あるいはグループ1の市場を破壊)することにあります。

 

グループ3:「戦略的M&Aフォロワー」 (Strategic M&A Followers)

 

  • 該当企業: Sanofi (サノフィ)GSK (グラクソ・スミスクライン)CureVac (キュアバック) (注:CureVacBioNTechによる買収対象 36 となっていますが、本レポートでは分析の便宜上、GSKとのアライアンスの文脈で本グループに分類します)
  • 選定理由: このグループは、伝統的なワクチン・医薬品市場における大手製薬企業(Big Pharma)であり、COVID-19ワクチンの第一波には(CureVacの第一世代ワクチンの失敗もあり)乗り遅れました。
  • 戦略的特徴:
    • 戦略投資(基準3: mRNA技術の戦略的重要性を認識し、自社でのゼロからのプラットフォーム構築(Build)よりも、巨額の投資、M&A、アライアンス再編を通じて、先進技術を外部から導入(Buy/Ally)することで、開発期間の短縮と急速なキャッチアップを図っています。
    • Sanofi: 2021年にTranslate Bio社を約32億ドルで買収し 37mRNAプラットフォーム技術とパイプラインを自社に取り込みました。既存の強力なワクチン事業(インフルエンザなど)とのシナジーを追求しています 38
    • GSK:CureVac社との広範な提携を2024年に再編(新ライセンス契約)しました 40。自社のアジュバント技術とCureVacの次世代mRNA技術を組み合わせたワクチン開発を進めています。
    • 彼らの戦略は、自社の強み(資本力、既存の販売網、他モダリティの技術)と、外部から導入したmRNA技術を組み合わせる「ハイブリッド戦略」を特徴としています。

 

【第3章】主要な技術応用先の分析

 

mRNA技術の応用先は、パンデミックを経て「現在」商用化されている領域と、「未来」に実用化が期待される領域に大別されます。

 

「現在」の応用先:商用化

 

現在のmRNA技術の商用化は、ほぼ「予防ワクチン」、特に呼吸器系感染症の領域に集中しています。これは、mRNAが免疫反応を効率的に誘導する能力と、迅速な製造プラットフォームの特性が最も活かされた結果です。

  1. COVID-19予防ワクチン:
    • mRNA技術を世界的に確立した最大の応用先です。Pfizer/BioNTechComirnaty 6ModernaSpikevax 6 が市場を寡占しています。これらはLNP(脂質ナノ粒子)デリバリーシステムを用いた「線状mRNA」ワクチンです。
  2. RSV(呼吸器合胞体ウイルス)予防ワクチン:
    • COVID-19の次に実用化された大型応用先です。Modernaが開発したmRNA-1345(製品名:mRESVIA®)が、20245月に米国FDAによって承認されました 8。これは、mRNA技術がCOVID-19以外の感染症に対しても有効であることを証明し、プラットフォームの水平展開が可能であることを示した重要なマイルストーンです。
  3. saRNA(自己増幅型RNA COVID-19ワクチン:
    • グループ2(イノベーター)の技術が初めて商用化された事例です。Arcturus TherapeuticssaRNA技術(ARCT-154)を用いたワクチンが、パートナー企業であるCSLを通じて、日本において202311月に承認されました(製品名:コスタイバ筋注) 9。これは、従来のmRNAワクチンよりも大幅に少ない投与量(5μg)で有効性を示す 30、「次世代RNA技術」の最初の商品化例として極めて重要です。

 

「未来」の応用先:開発段階

 

過去5年間の特許出願動向(34)および主要プレイヤーが公表している臨床開発パイプライン(10)から、今後35年で実用化が期待される、あるいはR&Dの主戦場となっている「未来」の応用先は以下のように推定されます。

  1. 感染症ワクチン(水平展開・混合):
    • インフルエンザ(季節性): Moderna(mRNA-101010Pfizer/BioNTech 42Sanofi 38 など、主要プレイヤーの多くが開発後期(第3相)段階にあります。従来の鶏卵ベースのワクチンよりも迅速な製造と高い有効性が期待されます。
    • COVID/インフルエンザ混合ワクチン: ModernaがmRNA-1083 10 の開発を進めているほか、Pfizer/BioNTechも開発中です 421回の接種で複数のウイルスに対応できる利便性の高い製品として、季節性ワクチン市場のスタンダードを狙っています。
    • その他感染症: サイトメガロウイルス(CMV)(10)、ジカウイルス、HIVEBVなど、これまで有効なワクチンが存在しなかった疾患領域での開発が活発です 16
  2. がん免疫療法(個別化がんワクチン):
    • mRNA技術の「本命」の一つと目される、最大のR&D投資領域です。患者固有の腫瘍抗原(ネオアンチゲン)をコードするmRNAを投与し、免疫系にがん細胞を特異的に攻撃させる「個別化医療」を目指しています 16
    • Moderna: mRNA-4157(V94011Merckの免疫チェックポイント阻害剤「Keytruda」との併用で、悪性黒色腫(メラノーマ)の術後補助療法として第3相試験が進行中です 44。さらに非小細胞肺がん(NSCLC)など他のがん種へも適応拡大が図られています 11
    • BioNTech:FixVac」(BNT111、共有抗原) 12 や、Genentechと共同開発中の「iNeST」(個別化ネオアンチゲン)など、複数のプラットフォームでがんワクチンを開発中です 27
  3. 希少疾患(タンパク質補充療法):
    • 遺伝子変異により特定のタンパク質が欠損、または機能不全に陥る疾患(例:嚢胞性線維症、OTC欠損症など)に対し、mRNAを投与してそのタンパク質を体内で一時的に「補充」する治療法です 13
    • PfizerはGenevantArbutusの子会社)との協業(14)を通じて、希少疾患領域でのmRNA治療薬開発を進めています。
  4. 革新的治療法(次世代RNAによる新領域):
    • circRNA(環状RNA)の高い安定性を利用した「in vivo CAR-T療法」が、Orbital Therapeuticsなどによって研究されています 35。これは、LNPcircRNAT細胞に送達し、体内で直接CAR-T細胞(がんや自己免疫疾患の原因細胞を攻撃する免疫細胞)を製造するもので、従来の複雑な体外製造プロセスを不要にする(Off-the-shelf化)可能性があります 35

 

ポテンシャルと導入障壁

 

応用先ごとに、期待される市場性と実用化に向けた障壁は大きく異なります。

  • 感染症ワクチン(現在・未来):
    • ポテンシャル: 巨大な市場(特にインフルエンザ、混合ワクチン)が存在します。COVID-19で証明された迅速な開発・製造プロセスは、パンデミック(例:鳥インフルエンザ H5N1)への対応においても決定的な強みとなります。
    • 障壁: 障壁は比較的低いです。しかし、RSVワクチン市場(8)で既に見られるように、Moderna, Pfizer, GSKといった巨人が承認後すぐに激突するため、競争は極めて激しく、早期の寡占化と価格競争が予想されます。
  • がんワクチン(未来):
    • ポテンシャル: 成功した場合の市場インパクトは計り知れません。「個別化医療」の象徴として、がん治療のパラダイムを変える可能性があります。
    • 障壁: 導入障壁は極めて高いです。
      • 有効性の障壁: 現状、mRNAがんワクチン単剤での有効性は限定的とみられており、Keytrudaのような高価な免疫チェックポイント阻害剤との併用が前提となっています 44
      • デリバリーの障壁: mRNAを、腫瘍内、あるいは免疫細胞(樹状細胞、T細胞)に効率よく送達するデリバリー技術が依然として最大の課題です。
    • 希少疾患(未来):
      • ポテンシャル: 市場規模は個々には小さいものの、アンメット・ニーズが極めて高く、高い薬価が期待できる領域です。
      • 障壁: 最大かつ決定的な障壁は「デリバリー」です。現在のLNPは、静脈内投与後、その多くが非特異的に「肝臓」に集積します 17
        • したがって、肝臓で産生されるタンパク質の補充(例:OTC欠損症)には適していますが、肺(嚢胞性線維症)、脳、筋肉など、「肝外(Extrahepatic)」の臓器を標的とすることは依然として極めて困難です 18。この「肝外デリバリー」の壁を越えない限り、mRNA治療薬の応用は肝疾患に限定されます。

 

【第4章】主要戦略グループ別の詳細分析

 

本章では、第2章で定義した3つの戦略グループに属する主要企業の戦略を、IR資料、年次報告書、プレスリリース、および市場動向の分析に基づき、詳細に分析します。特に、各社が公表する「表の戦略(ロードマップ)」と、特許や投資動向から読み解く「裏の戦略(LNPデリバリーやIP戦略)」を対比させ、その本気度とアキレス腱を明らかにします。

4-1. グループ1:「mRNAプラットフォーム・ジャイアント」の戦略

 

このグループ(Moderna, BioNTech, Pfizer)は、COVID-19ワクチンで得た莫大な収益と、数億人規模の臨床データという他を圧倒する資産を保有しています。彼らの共通課題は、「ポスト・パンデミック」の世界で、COVID-19ワクチンの売上減少を補って余りある、持続的な成長ドライバーをいかに確立するか、という点にあります。戦略は、確立した「線状mRNAプラットフォーム」を、(1)呼吸器系ワクチンのフランチャイズ化(短~中期的な収益源)、(2)がん・希少疾患という高付加価値治療薬市場への展開(長期的な成長源)、という2軸で進められています。

 

■ Moderna (モデルナ)

 

戦略概要: COVID-19の「単一製品企業」からの脱却。呼吸器系ワクチン(RSV、インフルエンザ、混合)を第2の収益の柱として迅速に確立し、そこで得られる収益を、長期的な成長ドライバーである「がんワクチン」および「希少疾患」のR&Dに投下する、多角化戦略を推進しています。

  • 事業戦略(IR・ロードマップ分析):
    • 呼吸器系フランチャイズの構築(短期~中期戦略):
      Modernaは、パンデミックからエンデミック(季節性)への市場移行を明確に認識しており 6COVID-19で築いたブランド力と販売チャネルを最大限に活用できる呼吸器系ワクチン市場に、最優先で資源を投入しています。
      • RSVワクチン(mRESVIA®: 2024年5月にFDA承認を取得 8。これはModernaにとってCOVID-19に次ぐ第2の商用製品であり、プラットフォームの水平展開が成功したことを示す重要なマイルストーンです。ただし、市場にはGSKPfizerの先行品が存在しており、2024年第3四半期時点での市場シェアはまだ限定的であり 8、厳しいシェア争いが始まっています。
      • インフルエンザワクチン(mRNA-1010: 開発最終段階にあります 10
      • 混合ワクチン(mRNA-1083: インフルエンザとCOVID-19の混合ワクチン 10Moderna202551日にこのプログラムのアップデートを報告しており 101回の接種で済むという「利便性」を武器に、両市場でのシェア維持・拡大を狙っています。
    • オンコロジー(がん)領域への注力(長期戦略):
      長期的な最大の成長ドライバーとして、個別化がんワクチン(PCV)「mRNA-4157V940)」の開発をMerck社と共同で進めています 11
      • mRNA-4157(メラノーマ): 悪性黒色腫(メラノーマ)の術後補助療法として、Merckの免疫チェックポイント阻害剤(ICI)「Keytruda」と併用する第3相臨床試験(V940-001)が進行中です 442022年、Merckはこの共同開発・商業化のオプションを行使し、Moderna5億ドルを支払っており 47、この提携の重要性を示しています。
      • 適応拡大: メラノーマに加え、非小細胞肺がん(NSCLC)、腎細胞がん(RCC)、膀胱がんなど、複数の固形がんを対象とした試験が第1相から第3相まで幅広く展開されており 11ICIとの併用療法としてのがん免疫療法の柱の一つに据える意図が明確です。
    • 経営の最適化(コスト管理):
      パンデミック需要の急減(2023年以降)に対応するため、Modernaは製造キャパシティの最適化("right-sizing")を進めています。2024年にはケニアの製造工場計画を保留 242025年半ばには日本での新施設建設計画を中止する 24 など、コスト構造をビジネスの現状に合わせるための厳しい判断を下しています 6。これは、短期的な収益源(RSV, Flu)が確立するまでの間、長期的なR&D投資(がん、希少疾患 48)を継続するための財務規律の表れと分析されます。
  • 技術・特許戦略(LNPデリバリー):
    Modernaの戦略、そして脆弱性を理解する上で最も重要な要素が、「LNP(脂質ナノ粒子)デリバリー技術」を巡る特許戦略です。Modernaの事業は、このLNP技術の「使用権」に深く依存しています。
    • 攻撃(対 Pfizer/BioNTech:
      Modernaは、自社のCOVID-19ワクチン(Spikevax)に使用されているLNPおよびmRNA修飾技術(特に欧州特許EP'949EP'565など)が、Pfizer/BioNTechComirnatyによって侵害されているとして、20228月以降、米国、ドイツ、英国、オランダ、アイルランド、ベルギーなど世界各国で特許侵害訴訟を提起しています 49。英国の高裁は20247月、EP'949の有効性を認め、Pfizer/BioNTechによる侵害を認定する判決を下しました(控訴対象) 49Modernaは、Comirnatyの莫大な売上の一部をロイヤルティとして求めています。
    • 防御(対 Arbutus/Genevant:
      一方で、Moderna自身も、LNP技術の基礎特許を保有すると主張するArbutus BiopharmaおよびそのライセンシーであるGenevant Sciencesから、SpikevaxCOVID-19)およびmRESVIARSV)による特許侵害で提訴されています 19Arbutus/Genevantとの米国における裁判の陪審裁判は2025929日に予定されており 19、仮にModernaが敗訴すれば、過去および将来の売上に対して莫大なロイヤルティ支払義務が生じるリスクを抱えています。
    • 戦略的洞察(二正面作戦と内製化):
      Modernaは、LNP特許に関して、一方(対Pfizer/BioNTech)で攻撃者として、もう一方(対Arbutus)で防御者として振る舞う「二正面作戦」を遂行しています。この複雑な訴訟リスクは、Modernaの事業継続性における最大のアキレス腱です。このリスクを将来的に回避・軽減するため、Modernaは「LNP技術の完全内製化」および「Arbutus特許を回避する次世代デリバリー技術の開発」に注力していると強く推定されます 55

 

■ BioNTech (ビオンテック)

 

戦略概要: COVID-19で得た潤沢なキャッシュ(Pfizerとの共同事業)を、創業時からの本来の目的である「がん(オンコロジー)領域」のR&Dに集中的に再投資する戦略を採っています。Pfizerが感染症領域でのmRNA展開を主導する一方、BioNTechは「がん免疫療法のリーディングカンパニー」としての地位確立を最優先しています。

  • 事業戦略(IR・ロードマップ分析):
    • オンコロジー(がん)への集中投資:
      BioNTechの戦略は「がん」に明確にフォーカスしています。2024年にはR&D22.5億ユーロを投じる計画であり 26、そのリソースの多くがオンコロジーパイプラインに向けられています。2025年第3四半期のIR発表でも、「オンコロジー戦略の継続的な臨床的実行」が筆頭に挙げられています 56
    • 多様な技術プラットフォーム:
      BioNTechの強みは、Modernaが線状mRNAプラットフォームに(比較的)集中しているのに対し、「がん」という難敵を倒すために、mRNA技術を基軸としつつも、それにとどまらない多様なアプローチを並行して開発している点です。
      • FixVacBNT111: 複数のがん患者で共有される(ネオアンチゲンではない)固定の抗原をコードするmRNAワクチン。メラノーマを対象に開発が進んでいます 12
      • iNeST(個別化ネオアンチゲン): Genentech(Rocheグループ)との共同開発 27ModernamRNA-4157と同様の個別化がんワクチンです。
      • CAR-TBNT211: 固形がん(特に卵巣がんなど)で発現するCLDN6を標的とするCAR-T細胞療法と、そのCAR-T細胞の持続性を高めるための「CARVacmRNAワクチン)」を併用する革新的な治療法です 12
      • 抗体医薬(BNT327: mRNAに留まらず、従来の抗体医薬(PD-L1VEGF-Aを標的とする二重特異性抗体)もBristol Myers SquibbBMS)と共同で開発しており 56、がん治療における包括的な戦略を追求しています。
    • IPポートフォリオの強化(CureVac買収):
      2025年1022日、BioNTechは、競合であった独CureVac社の全株式を取得するための公開買付交換(Tender Offer)を開始すると発表しました 27
      • 戦略的洞察(IP戦略): この買収は、単なるパイプラインの獲得に留まりません。CureVacは、mRNAの化学修飾(非Uridine修飾)や製剤化に関する広範な「mRNA基礎特許ポートフォリオ」を保有しており、ModernaPfizer/BioNTech自身とCOVID-19ワクチンに関する特許訴訟を繰り広げていました。この買収が完了すれば、BioNTechCureVacの特許ポートフォリオを自陣営に取り込むことになり、ModernaGSKとの法廷闘争において極めて有利な立場を築くことができます。これは、CureVacが抱えていたPfizer/BioNTechとの米国内訴訟を解決する枠組み(CureVac/GSKへの4億ドルの支払いとロイヤルティ) 36 を含んでおり、技術開発競争であると同時に、法務・知財(IP)戦争でもあるmRNA市場の複雑な側面を象徴しています。
    • 技術・特許戦略(LNPデリバリー):
      • BioNTechのLNP戦略は、Modernaの「自社開発・訴訟」戦略とは対照的に、「ライセンス・アライアンス」戦略を基本としています。
      • Acuitasからのライセンス: Comirnatyに使用されているLNP技術は、カナダのAcuitas Therapeutics社からのライセンスに基づいています 57
      • Pfizerとの連携: パートナーであるPfizerは、20221月にAcuitas社と追加の契約(Development and Option agreement)を締結し、Comirnaty以外の最大10種類の将来的なワクチン・治療薬標的に対しても、AcuitasLNP技術を非独占的に使用するオプションを確保しました 57
      • 脆弱性: この戦略は、LNP技術をAcuitas(およびその基礎特許を持つと主張するArbutus/Genevant)に依存していることを意味します。Moderna49)およびArbutus/Genevant20)の両者から特許侵害で提訴されており(20)、Moderna同様、LNP特許訴訟のリスクに晒されています。CureVacの買収は、mRNA分子自体の特許は強化するものの、このLNPの根本的な依存構造を解決するものではない可能性が残ります。

 

■ Pfizer (ファイザー)

 

戦略概要: Pfizerは、BioNTechとの提携 27 によりmRNA技術の巨大な可能性と収益性を確認しました。現在、彼らの戦略は、このmRNA技術を「自社の既存の強力な治療領域(TA)に適用・統合」することにあります。BioNTechが「がん」に集中する一方、Pfizerは「感染症(インフルエンザ、RSVなど)」および「希少疾患」への展開を主導しています 58

  • 事業戦略(IR・ロードマップ分析):
    • mRNATAへの統合: 2022年のJ.P. Morgan Healthcare Conferenceの資料 58 で示された通り、PfizermRNA戦略は明確です。COVID-19(中核フランチャイズ)で得た知見を、他の「予防ワクチン(インフルエンザ、帯状疱疹など)」、「希少疾患(遺伝子治療)」、「オンコロジー」、「免疫・炎症」といった自社のコア領域に展開することです 58mRNAは、彼らの巨大なR&Dポートフォリオを強化するための「ツール(モダリティ)」の一つとして位置づけられています。
    • 感染症ワクチンの主導: BioNTechとの提携において、インフルエンザワクチン 14 や帯状疱疹 58 の開発はPfizerが主導的な役割を担っています。RSVワクチン(Abrysvo)では非mRNA技術(タンパク質サブユニット)で先行しましたが、ModernamRNAワクチン(mRESVIA8 の参入を受け、将来的には自社でもmRNAアプローチを導入する可能性があります。
    • 希少疾患への展開: Pfizerは、Genevant社(Arbutusの子会社)と希少疾患に関する協業(最大5つの適応症)を結んでおり 14、これはLNP技術の特性(肝臓指向性)を活用したタンパク質補充療法であると推定されます。
    • アライアンスとM&Aの活用: Pfizerの戦略は「mRNA Centers of Excellence58 という社内ハブを通じて、外部の有望な技術(例:Beam Therapeutics(遺伝子編集)、Codex DNA(迅速合成))を積極的に取り込む(M&A、アライアンス)ことを特徴としています 58
  • 技術・特許戦略(LNPデリバリー):
    • 前述の通り、PfizerLNP戦略は「ライセンス」に依存しており、Acuitas社との契約 57 がその中核です。
    • 戦略的洞察(「ねじれ」の構造): PfizerのLNP戦略は、非常に複雑な「ねじれ」構造を抱えています。
      1. PfizerAcuitasからLNP技術のライセンスを受けています(COVID-19ワクチン用) 57
      2. PfizerGenevantと提携しています(希少疾患用) 45
      3. Genevantの親会社であるArbutusは、AcuitasLNP技術が自社の基礎特許を侵害していると主張し、Acuitasの顧客であるPfizer/BioNTechを特許侵害で提訴しています 20
    • つまり、Pfizerは「提携先(Genevant)の親会社(Arbutus)」から、自社の主力製品(Comirnaty)について「訴えられている」という、極めて異例の事態にあります。この複雑な依存関係と法的リスクが、Pfizer(およびBioNTech)のmRNA事業における最大のアキレス腱となっています。

4-2. グループ2:「次世代RNAイノベーター」の戦略

 

このグループの戦略は、グループ1(ジャイアント)が確立した「線状mRNA」技術の限界、すなわち「持続性の短さ」「必要な投与量」「LNP特許の法的リスク」を、根本的な技術革新によって乗り越えることにあります。彼らの「本気度」は、技術プラットフォーム(saRNA, circRNA)と、それを送達するための「独自LNP」の両方を自社開発している点に表れています。

 

■ Arcturus Therapeutics (アークトゥルス セラピューティクス)

 

戦略概要:saRNA(自己増幅型RNA)」技術(STARR™28 と、独自のLNPデリバリー技術「LUNAR™282つの独自プラットフォームを武器に、ワクチンと希少疾患治療薬の市場を狙うバイオテックです。彼らの戦略は「ジャイアントの弱点を突く」ことに集約されます。

  • 事業戦略(IR・ロードマップ分析):
    • saRNAの優位性の実証:
      saRNAは、従来の線状mRNAとは異なり、細胞内で自己複製する配列(レプリコン)を持つため、(1) ごく少量の投与(μg単位)で、(2) 長期間のタンパク質発現が可能です 29
    • 最大の成果(ARCT-154承認):
      2023年11月、saRNA COVID-19ワクチン(ARCT-154)が、パートナーのCSLを通じて日本で承認されました 9。これは世界初のsaRNAワクチンの承認であり 9Arcturusのプラットフォーム技術が臨床的・商業的に有効であることを証明した最大のイベントです 61。従来のmRNAワクチン(Moderna: 30-100μg)と比較して5μgという低用量 30 であり、「低用量=低コスト・低副反応」というsaRNAの優位性を実証しました。
    • パイプライン展開:
      この成功を基に、COVID-19 62、インフルエンザ(63)などの感染症ワクチンに加え、saRNAの「持続性」が求められる希少疾患(例:OTC(オルニチントランスカルバミラーゼ)欠損症 62、嚢胞性線維症(CF 62)の治療薬開発に注力しています。
  • 技術・特許戦略(LNPデリバリー):
    • LUNAR™ プラットフォーム: Arcturusの隠れた、しかし最も重要な強みは、独自のLNPデリバリー技術「LUNAR™」を保有していることです 28
    • 戦略的洞察(特許リスクの回避):
      グループ1Moderna, Pfizer/BioNTech)が、Arbutus/Genevant/AcuitasLNP特許を巡る泥沼の法廷闘争 19 に巻き込まれているのに対し、ArcturusLUNAR™は、これらとは異なる独自の脂質組成・技術であると主張されています。
    • これにより、ArcturusLNP特許戦争の「蚊帳の外」にいることが可能となり、極めて高い「Freedom-to-Operate(事業の自由度)」を享受していると推定されます。これは、グループ1に対する強力な競争優位性です。彼らの戦略は、「より優れたRNAsaRNA)」と「法的リスクのないデリバリー(LUNAR™)」という2つの強みを組み合わせ、グループ1が直面する課題(高用量、特許訴訟)を両方とも回避することにあると分析されます。

 

■ circRNA(環状RNA)イノベーター (Orna, Sail, Orbital)

 

戦略概要: circRNA(環状RNA)は、saRNAよりもさらに新しいモダリティです。このグループの戦略は、circRNAが持つ「圧倒的な安定性」を武器に、従来の線状mRNAでは不可能だった治療領域、特に「高持続性」を要求される治療薬分野を開拓し、新たな市場を創造することにあります。

  • 技術的優位性と特許動向:
    • circRNAは、5'キャップと3'ポリAテールを持たず、両端が共有結合した「環状」構造をとります 31
    • これにより、体内のRNA分解酵素(エキソヌクレアーゼ)による分解を完全に回避でき、線状mRNA(半減期:数時間~1日程度)と比較して、数日~1週間以上という極めて長いタンパク質発現持続性を示すことが期待されます 32
    • この分野の特許出願は2022年以降活発化しており、KnowMade社の分析によれば、Laronde(現Sail Biomedicine)、Orna TherapeuticsTheronaなどが主要な特許プレイヤーとして特定されています 31
  • 事業戦略(「キラーアプリケーション」の模索):
    • このグループの課題は、「高安定性」という技術的特徴を、どのような「キラーアプリケーション(決定的な応用先)」に結びつけるか、という点にあります。
    • Orna Therapeutics: 2024年、デリバリー技術を持つRenegade社を買収しました 31。これは、circRNAという「弾」を開発するだけでなく、それを標的細胞に届ける「銃(LNPデリバリー)」も自社で最適化する必要があることを示しています 66
    • Orbital Therapeutics: 2025年7月、この分野の「キラーアプリケーション」の可能性を示すプレリニカルデータを発表しました 35
      • in vivo CAR-T」療法: LNPにcircRNAを搭載して患者に静脈注射するだけで、体内のT細胞を直接「CAR-T細胞」(B細胞を攻撃するようプログラムされた免疫細胞)に変化させる技術です 35
      • 戦略的洞察: これは、白血病や自己免疫疾患の治療 35 において、従来の「体外で患者のT細胞を取り出し、遺伝子改変し、数週間培養・増殖させてから体内に戻す」という、数千万円以上のコストがかかる複雑な製造プロセスを、単純な「注射」で置き換える(Off-the-shelf化)可能性を秘めています。
    • このような高持続性・高発現が要求される治療法は、安定性の低い線状mRNAでは実現が困難であり、circRNAの独壇場となる「空白地帯」です。circRNAグループの戦略は、ワクチン 33 も視野に入れつつ、本命は「in vivo遺伝子治療・細胞治療」という、まったく新しい治療パラダイムの創出にあると推定されます。

4-3. グループ3:「戦略的M&Aフォロワー」の戦略

 

このグループは、伝統的なワクチン・医薬品市場の巨人であり、mRNAというディスラプション(破壊的革新)に直面しています。彼らの戦略は、自社の巨大な資本力とグローバルな販売網を活用し、M&Aやアライアンスを通じてmRNA技術(およびその特許)を迅速に取り込み、既存事業の防衛と強化を図ることです。

 

■ Sanofi (サノフィ)

 

戦略概要: 自社の強力な「ワクチンフランチャイズ」(特にインフルエンザワクチンで世界最大手)を、mRNA技術によって防衛・強化すること。そのために、M&Aによって技術プラットフォームとパイプラインを「購入」する戦略(Buy戦略)を選択しました。

  • 事業戦略(IR・ロードマップ分析):
    • Translate Bioの買収:
      2021年、Sanofiは長年の提携先であったmRNAバイオテックのTranslate Bio社を約32億ドルで買収しました 37。これにより、SanofimRNAプラットフォーム技術と、それに関連するLNPの知財 37、および初期段階のパイプライン(希少疾患 67 やワクチン)を一挙に獲得しました。
    • ワクチンへの集中:
      Sanofiは、Translate Bioの技術を、自社が圧倒的なシェアを持つ「ワクチン」事業、特にインフルエンザワクチンの次世代化 38 に集中投入しています。20236月のワクチン投資家デー 38 R&D Day 39 において、SanofimRNAプラットフォームを最先端(Best-in-Class)のものに引き上げると宣言しています。
    • R&Dロードマップ:
      2023年のR&D Dayにおいて、「2025年までに少なくとも5つのmRNAワクチン候補を第3相試験に進める」という野心的な計画を発表しました 39。これは、M&Aによって得た技術を急速にスケールアップさせようとする強い意志の表れです。
    • 戦略的洞察(「防衛」戦略):
      Sanofiの戦略は、Moderna10)やPfizer/BioNTech42)が開発するmRNAインフルエンザワクチンによって、自社の既存のインフルエンザワクチン市場(数十億ドル規模)が侵食されること(38)に対する、明確な「防衛戦略」です。M&Aによって開発の遅れ(時間)を買い、競合が自社市場を侵食する前に、自らmRNAインフルエンザワクチンを市場投入し、主導権を握り続けることを目指しています。

 

■ GSK (グラクソ・スミスクライン)

 

戦略概要: ドイツのCureVac社との戦略的アライアンス(Ally戦略)を軸に、mRNA技術へのアクセスを確保。自社の強みである「アジュバント技術」とmRNAを組み合わせることで、競合との差別化を図る戦略です。

  • 事業戦略(IR・ロードマップ分析):
    • CureVacとの提携再編:
      GSKとCureVacの提携は、CureVacの第一世代COVID-19ワクチンの開発失敗(40)を経て、20247月に新たなライセンス契約として再構築されました 40
    • 新契約(2024年):
      GSKは、インフルエンザおよびCOVID-19mRNAワクチン候補(CureVacの第二世代プラットフォームに基づく)の開発・製造・販売に関する全世界的な権利をCureVacから取得しました 41CureVacは対価として最大5億ユーロ(うち4億ユーロが一時金)を受け取ります 40
    • 戦略的洞察(「共同開発」から「ライセンス購入」へのシフト):
      この2024年の提携再編は、GSKCureVacとの「共同開発(Co-development)」を事実上断念し、CureVacの技術(特にH5N1鳥インフルエンザプログラム 40 など)を「ライセンス購入(Buy)」する戦略に切り替えたことを意味します。GSKはもはやmRNAプラットフォームの構築自体には深入りせず、「有望な候補(アセット)」の獲得に焦点を移しています。
    • IP(特許)戦略:
      GSKは、CureVacIP(特許)を活用する一方で、自社が保有するmRNA関連特許(特にRSVワクチン関連)を武器に、Pfizer/BioNTechを特許侵害で提訴しています 6
    • エコシステムの複雑化:
      前述の通り、GSKの主要パートナーであるCureVacは、202510月にBioNTechによる買収対象となりました 36。この買収が完了すると、GSKは(CureVacを通じて)競合であるBioNTechIPを利用する形となり、またGSKが訴えているPfizer/BioNTech連合が、GSKのパートナー(CureVac)の親会社になるという、極めて複雑なエコシステムが形成されます。これは、mRNA市場が技術力だけでなく、資本力と法務力によるIP(知財)の囲い込み合戦の様相を呈していることを示しています。

 

【第5章】特許戦略と事業戦略の整合性

 

本章では、第4章で分析した主要企業群について、特許動向(分析基準1:技術蓄積)と、IR等で公表される事業戦略(分析基準2, 3:市場・戦略)が「一致」しているか、あるいは「ギャップ」があるかを評価します。この整合性(またはギャップ)の分析から、各社の戦略的な「本気度」や「隠された戦略」を推定します。

  • グループ1:「mRNAプラットフォーム・ジャイアント」 (Moderna, Pfizer/BioNTech)
    • 評価: 高い整合性、ただし「LNP特許紛争」というアキレス腱を抱える
    • 分析:
      • 整合性(一致): Moderna 10BioNTech 12IRで公表する「オンコロジー(がん)」および「呼吸器系ワクチン」への注力は、KnowMade社などの特許分析レポート 34 が示す近年の特許出願動向(がん治療、ワクチン、LNPデリバリー)と完全に一致しています。公表されている事業戦略が、R&D投資とIP(知財)によって裏付けられていることは疑いありません。
      • ギャップ(隠れた戦略): 最大の戦略的課題は、彼らの事業全体が依存する「LNPデリバリー技術」の特許基盤が極めて不安定である点です。
      • 推定される戦略(本気度):
        • Moderna: 彼らの「隠れた戦略」は、LNP技術の支配権を巡るものです。彼らの本気度は、一方ではPfizer/BioNTechを訴え(攻撃) 49、他方ではArbutusから訴えられている(防御) 19 という「二正面作戦」を、巨額の訴訟費用を投じてでも遂行している点にあります。この法的リスクを将来的に排除するため、彼らは「次世代の独自LNP」の開発 55 と内製化に全力を注いでいると推定されます。公表される事業パイプラインが「表の戦略」ならば、このLNP特許防衛と技術的独立は、その土台を守るための「裏の戦略(本気度)」を示しています。
        • Pfizer/BioNTech: 彼らにとってLNPは「ライセンス(購入)」する対象です 57。彼らの「隠れた戦略」は、IPポートフォリオの買収・統合による法的リスクのヘッジです。BioNTechによるCureVacの買収(202510月) 36 は、CureVacの持つ広範なmRNA基礎特許を取り込み、ModernaGSK 68 との法廷闘争を有利に進めるための「IP防衛戦略」の一環と分析されます。これは、技術的なR&D戦略と、法務・資本的なIP戦略が高度に連動していることを示しています。
  • グループ2:「次世代RNAイノベーター」 (Arcturus, Orna/Sail)
    • 評価: 完璧な整合性(特許=戦略)
    • 分析:
      • 整合性(一致): このグループにとって、特許ポートフォリオは事業戦略そのものです。彼らの事業戦略は、グループ1の技術的・法的弱点を突くことにあります。
      • Arcturus: 事業戦略は「saRNASTARR™)」と「独自LNPLUNAR™)」の技術的優位性 28 を証明することであり、ARCT-154の承認 9 はその戦略が結実したものです。
      • Orna/Sail/Orbital: 戦略は、「circRNA31 という特許技術が可能にする「in vivo CAR-T35 のような革新的な応用先を切り開くことです。
      • 本気度: 彼らの「本気度」は、技術プラットフォームへの100%の依存にあります。特にArcturusが、グループ1が争うLNP特許戦争(19)の影響を受けないとされる独自のLUNAR™プラットフォーム 28 を確立している点は、彼らが「ジャイアント」の弱点(LNP特許リスク)を深く理解し、それを回避する戦略を(特許レベルで)周到に準備してきたことを示しています。
  • グループ3:「戦略的M&Aフォロワー」 (Sanofi, GSK)
    • 評価: 意図的なギャップ(M&Aによるギャップの解消)
    • 分析:
      • ギャップ: これらの企業は、過去5年間のmRNA関連の「自社」特許出願動向(分析基準1)と、IRで公表する「野心的な事業戦略」(分析基準3)との間に、明確なギャップが存在しました。彼らはmRNA技術のR&Dにおいて、グループ1および2に大きく遅れをとっていました。
      • ギャップの解消(一致へ): 彼らの「本気度」は、このギャップを「自社開発」という時間のかかる手段ではなく、「M&A(買収)」や「大型ライセンス契約」という資本力によって**即座に解消(一致)**させようとする点にあります。
      • Sanofi: Translate Bioの買収(2021年) 37 は、まさにこのギャップを埋めるための行為でした。これにより、Sanofiは他社の特許ポートフォリオとパイプラインを自社の事業戦略に組み込み、自社のインフルエンザワクチン市場を防衛する 38 という戦略との整合性を確保しました。
      • GSK: CureVacとの提携再編(2024年) 41 も同様に、自社の開発の遅れ(ギャップ)を、CureVacの「H5N1(鳥インフルエンザ)」 40 といった有望なアセットをライセンスすることで埋める戦略です。

 

【第6章】主要戦略グループおよび企業の競合比較

 

2章で定義した3つの「戦略グループ」は、mRNA市場において明確に異なるポジショニングとビジネスモデルを採用しており、その戦略の違いが競争環境を規定しています。

  • 戦略グループ間のポジショニング比較:
    • グループ1(ジャイアント): 「現在の市場支配者」。
      • 強み: COVID-19で確立した圧倒的な「資金力」、「製造・販売網」、「規制当局との折衝経験」、「大規模臨床データ」。
      • 弱み(リスク): (1) その成功が「LNP特許訴訟」(19)という法的リスクに晒されている点。(2) 既存の線状mRNA技術が、グループ2の次世代技術(saRNA/circRNA)によって陳腐化する(disrupted)可能性。
    • グループ2(イノベーター): 「未来の市場創造者(ディスラプター)」。
      • 強み: (1) 「saRNA」(低用量) 30 や「circRNA」(高安定性) 32 といった次世代技術の「技術的優位性」。(2) 独自のデリバリー技術(例:ArcturusLUNAR™ 28)による「IP(特許)の自由度」。
      • 弱み: グループ13に比べた「資金力」と「臨床開発・商業化の経験」の不足(ただしArcturusは日本での承認実績 9 を持つ)。
    • グループ3(フォロワー): 「市場のキャッチャー(戦略的追随者)」。
      • 強み: グループ1に匹敵する「資本力」と、ワクチン等で確立された「既存の市場チャネル・ブランド力」。
      • 弱み: mRNAプラットフォーム技術の「自社蓄積の欠如」と、M&Aやライセンスに伴う「技術的依存」、および開発の「時間的遅れ」。
    • 主要企業 競合ポジショニング・マトリクス:
      以下の表は、各社の戦略的ポジショニングを視覚化したものです。特に「LNP戦略(デリバリー)」の列は、各社の法的リスクと技術的自由度(Freedom-to-Operate)を測る上で最も重要な比較項目となります。

1:主要mRNA企業 競合ポジショニング・マトリクス

 

企業名

戦略グループ

主要技術基盤

LNP戦略 (デリバリー)

主要な応用分野(未来)

戦略的特徴・本音

Moderna

グループ1 (ジャイアント)

線状mRNA

内製化・特許訴訟(攻防) 19

1. 呼吸器ワクチン (RSV, Flu) 10

 

2. がん (mRNA-4157) 11

 

3. 希少疾患

**「プラットフォーマー」戦略。**LNP特許戦争 19 のリスクを内製化 55 で回避し、全方位に多角化。

BioNTech

グループ1 (ジャイアント)

線状mRNA, (CAR-T)

ライセンス (Acuitas) 57

 

M&A (CureVac) 36

1. がん (最優先) 12

 

2. 感染症 (Pfizer主導)

**「R&D特化」戦略。**COVID-19の収益を、本命の「がん」に全集中投下。LNPは法務(M&A)で解決。

Pfizer

グループ1 (ジャイアント)

線状mRNA

ライセンス (Acuitas, Genevant) 45

1. 感染症 (Flu) 42

 

2. 希少疾患 58

 

3. がん

**「既存事業への統合」戦略。**mRNAを自社のコア領域(ワクチン、希少疾患)に適用する「ツール」として活用。

Arcturus Therapeutics

グループ2 (イノベーター)

saRNA (自己増幅型) 28

独自LNP (LUNAR™) 28

1. 感染症 (低用量) 9

 

2. 希少疾患 (OTC) 62

「技術的差別化」戦略。「低用量(saRNA)×IPフリー(LUNAR™)」で、ジャイアントの法的・技術的弱点を回避。

Orna / Sail / Orbital

グループ2 (イノベーター)

circRNA (環状) 31

独自デリバリー開発 31

1. がん (in vivo CAR-T) 35

 

2. 遺伝子治療

「新市場創造」戦略。「高安定性(circRNA)32 で、線状mRNAでは不可能な「治療薬」市場 35 を狙う。

Sanofi

グループ3 (フォロワー)

線状mRNA

M&A (Translate Bio) 37

1. 感染症ワクチン (Flu) 38

**「M&ABuy)」戦略。**時間を金で買い、自社の既存ワクチン市場をModerna/Pfizerから「防衛」する。

GSK

グループ3 (フォロワー)

線状mRNA

ライセンス (CureVac) 41

1. 感染症ワクチン (Flu, COVID) 41

**「アライアンス(Ally)」戦略。**自社でのプラットフォーム構築は諦め、「有望なアセット」をライセンスする消費者に転換。

 

【第7章】今後の市場リスクとビジネス機会

 

mRNA技術市場は、高い成長期待と同時に、その基盤技術の未成熟さや複雑な権利関係に起因する特有のリスクを抱えています。

 

技術的ボトルネックとリスク

 

  1. LNPデリバリーの限界(肝外標的化):
    • 現在のmRNA技術における最大の技術的ボトルネックは、デリバリー(送達)にあります。静脈内投与(点滴)されたLNPは、その物理化学的特性(血中タンパク質のアポEが吸着し、肝臓の受容体に認識されるなど)により、その大部分(文献によっては3090%)が非特異的に「肝臓」に蓄積します 17
    • これは、肝臓が標的の疾患(例:肝臓で産生されるタンパク質の欠損症)には好都合ですが、それ以外の臓器、すなわち「肝外(Extrahepatic)」の標的(例:肺、脳、筋肉、腫瘍内の免疫細胞)への送達効率は極めて低いのが現状です 18
    • この「肝外デリバリー」の課題 69 を解決しない限り、mRNA技術の応用先は、ワクチン(筋肉注射)と一部の肝疾患治療に限定されたままとなります。
  2. LNP特許訴訟によるサプライチェーンリスク:
    • 4章、第5章で詳述した通り、LNP技術の基礎特許を巡るModernaPfizer/BioNTechArbutus/Genevant間での訴訟 19 は、市場全体のリスクです。
    • 仮にArbutus側(基礎特許保有を主張)が全面的に勝訴した場合、ModernaPfizer/BioNTechは、COVID-19ワクチンの過去の売上に対して莫大なロイヤルティ(損害賠償)の支払いを命じられる可能性があります 64
    • さらに重要なのは、将来の製品(インフルエンザワクチン、がんワクチン等)に対しても継続的なロイヤルティの支払いが必要になる可能性があり、その場合、製品の製造コスト(COGS)が大幅に上昇し、価格競争力や収益性に深刻な影響を与える可能性があります。

 

市場リスク

 

  1. ポストコロナ・ハイプの収束:
    • COVID-19ワクチンによる爆発的な成功は、mRNA技術(特にModernaBioNTech)に対する市場の期待値と企業評価(時価総額)を異常な水準まで高めました。
    • 今後、COVID-19ワクチンの売上減少 6 が続く中で、インフルエンザやRSV 8 といった次の応用先が、その巨大な期待(と高い企業評価額)を支えきれるかどうかが試されます。
  2. 競争の早期激化:
    • RSVワクチン市場が示すように 8Moderna, Pfizer, GSKという巨人が承認後すぐに激突し、シェア争いを始めています。有望な市場(例:インフルエンザ)ほど、開発段階から熾烈な競争に晒され、技術的な優位性だけでなく、価格、販売網、ブランド力が勝敗を分けることになります。

 

競合が手薄な「空白地帯」

 

洞察: リスクと課題の裏返しとして、以下の2つの領域が、競合が手薄な、あるいは既存技術では参入困難な「空白地帯」(ビジネス機会)として浮かび上がります。

  1. 「肝臓指向性」を逆手に取った希少疾患:
    • 多くの企業が「肝外デリバリー」 18 という困難な課題(ハイリスク・ハイリターン)に取り組む中、逆転の発想として、LNPの「肝臓に集積する」という特性 46意図的に活用する領域は、技術的ハードルが(比較的)低く、実現可能性が高い「空白地帯」です。
    • 具体的には、肝臓で産生されるタンパク質の欠損に起因する希少遺伝病(例:Pfizer/Genevantが狙うOTC欠損症 14 や、その他の代謝性希少疾患)は、現在のLNP技術の「スイートスポット」です。アンメット・ニーズも高く、薬価も高く設定できるため、確実な収益源となり得ます。
  2. 「高持続性」を要求される治療薬(次世代RNAの独壇場):
    • 従来の線状mRNA(グループ13)は、その不安定さゆえに「数日間」のタンパク質発現しか期待できず、ワクチン(一時的な免疫惹起)には適していても、「慢性的」な治療薬(持続的なタンパク質補充や機能改変)には不向きでした。
    • ここに、グループ2(イノベーター)の「空白地帯」が存在します。
    • saRNAArcturus: 線状mRNAより長い発現持続性 29 を活かし、ワクチンにおける「低用量・高持続性」(30)というニッチ、あるいは軽度のタンパク質補充療法でビジネス機会があります。
    • circRNAOrna/Orbital: 圧倒的な安定性 32 を活かし、線状mRNAでは不可能だった「in vivo 細胞治療(例:in vivo CAR-T)」 35 や、自己免疫疾患の治療など、持続的なタンパク質発現を必要とする治療薬領域。ここは、グループ1が容易に追随できない、技術的参入障壁に守られた「真の空白地帯」と言えます。

 

【総括】分析結果の客観的サマリー

 

(本章では、第1章から第7章までの分析で明らかになった「客観的な事実」のみを、提言や予測を含めずに再整理します。)

  • 技術の定義:
    mRNA技術は、mRNA分子の設計技術とデリバリー技術(主にLNP)が一体となった「プラットフォーム技術」として定義されます 1。その本質は、コード配列を変更するだけで多様なタンパク質を産生でき、標準化されたプロセスによる迅速な医薬品開発・製造能力にあります 1
  • 市場の動向:
    世界市場は、COVID-19ワクチンのパンデミック需要の終息 6 により調整局面にあります。しかし、非COVID分野(がん、希少疾患、他の感染症) 15 が新たな成長ドライバーとなり、市場全体としては2030年にかけてCAGR(年平均成長率)14%17%台での持続的成長が予測されています 3
  • 戦略グループの分類:
    市場の競合構造は、技術蓄積、事業規模、戦略投資の3基準に基づき、以下の3つの戦略グループによって構成されています。
    1. mRNAプラットフォーム・ジャイアント」: Moderna, BioNTech, Pfizer
    2. 「次世代RNAイノベーター」: Arcturus Therapeutics, Orna Therapeutics, Sail Biomedicineなど
    3. 「戦略的M&Aフォロワー」: Sanofi, GSK
  • 各グループのポジショニング:
    • 「ジャイアント」は、潤沢な資金力(6)と確立されたプラットフォームを背景に、がん 11 や呼吸器系ワクチン 10 へと多角化しています。
    • 「イノベーター」は、saRNA(自己増幅型RNA9circRNA(環状RNA31 といった次世代技術の優位性(低用量、高安定性) 30 によって、ジャイアントの技術的弱点を突くポジションにいます。
    • 「フォロワー」は、M&A(例:SanofiによるTranslate Bio買収 37)やライセンス(例:GSKによるCureVacとの契約再編 41)を駆使し、資本力で先行グループとの開発ギャップを埋める戦略を採っています。
  • 主要な応用先:
    現在の商用化はCOVID-19 6 およびRSV 8 ワクチンが中心です。未来の応用先としては、インフルエンザワクチン 10、個別化がんワクチン 11、希少疾患(タンパク質補充) 14 が開発の後期段階にあります。
  • 中心的課題(リスク):
    市場全体の最大のボトルネックは、技術面では「LNPデリバリー技術」、特に「肝外臓器への標的化」(Extrahepatic targeting 17 の困難性にあります。また、ビジネス面では、そのLNP技術の基礎特許を巡る、ModernaPfizer/BioNTechArbutus/Genevant間での複雑かつ大規模な「特許訴訟」(19)が、市場の不確定要素となっています。

引用文献

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  2. The Platform Technology Approach to mRNA Product Development and Regulation - NIH, 11月 12, 2025にアクセス、 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11126020/
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  4. mRNA Therapeutics Market Size, Share & Forecast 2034 - Global Market Insights, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.gminsights.com/industry-analysis/mrna-therapeutics-market
  5. mRNA Vaccines Market | Size, Share, Growth | 2024 - 2030, 11月 12, 2025にアクセス、 https://virtuemarketresearch.com/report/mrna-vaccines-market
  6. While Moderna moves off COVID, Spikevax posts market-share gains on Pfizer rival, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.fiercepharma.com/pharma/while-moderna-moving-covid-its-vaccine-gaining-share-pfizers-comirnaty
  7. mRNA Vaccine Market Size, Share, Opputunities And Forecast, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.verifiedmarketresearch.com/product/mrna-vaccine-market/
  8. Moderna Lays Foundations for Growth, but Can It Turn Strategy Into Execution? - BioSpace, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.biospace.com/business/moderna-lays-foundations-for-growth-but-can-it-turn-strategy-into-execution
  9. The Future of Vaccination: Unleashing the Power of Self-Amplifying RNA Technology, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.genscript.com/the-future-of-vaccination-unleashing-the-power-of-self-amplifying-rna-technology.html
  10. Investor Relations - Moderna, 11月 12, 2025にアクセス、 https://investors.modernatx.com/
  11. mRNA medicines we are currently developing - Moderna, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.modernatx.com/research/product-pipeline?
  12. BioNTech pipeline: Advancing innovative investigational therapies and vaccines, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.biontech.com/int/en/home/pipeline-and-products/pipeline.html
  13. mRNA technology: vaccines and beyond - Sanofi, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.sanofi.com/en/magazine/our-science/mrna-technology-platform
  14. F-1 - SEC.gov, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1776985/000119312519241112/d635330df1.htm
  15. mRNA Therapeutics Are Just Getting Started: Charting a Post-Pandemic Path Forward, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.pharmasalmanac.com/articles/mrna-therapeutics-are-just-getting-started-charting-a-post-pandemic-path-forward
  16. mRNA Vaccine Technology Beyond COVID-19 - MDPI, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.mdpi.com/2076-393X/13/6/601
  17. Overcoming Liver Accumulation: Extrahepatic Targeting Strategies for Lipid Nanoparticles (LNPs) - PROGEN, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.progen.com/post/Overcoming-Liver-Accumulation-Extrahepatic-Targeting-Strategies-for-Lipid-Nanoparticles-LNPs
  18. Recent Advances in mRNA-LNP Delivery Systems for Extrahepatic Organs: A Review, 11月 12, 2025にアクセス、 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40641444/
  19. Arbutus Reports First Quarter 2025 Financial Results and Provides Corporate Update, 11月 12, 2025にアクセス、 https://investor.arbutusbio.com/news-releases/news-release-details/arbutus-reports-first-quarter-2025-financial-results-and
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  21. A Platform Approach to mRNA Product Development and Regulation: Necessary and Feasible Now - DIA Global Forum, 11月 12, 2025にアクセス、 https://globalforum.diaglobal.org/issue/may-2024/a-platform-approach-to-mrna-product-development-and-regulation-necessary-and-feasible-now/
  22. mRNA Vaccine and Therapeutics Market Size & Share 2035 - Roots Analysis, 11月 12, 2025にアクセス、 https://www.rootsanalysis.com/reports/mrna-therapeutics-and-vaccines-market.html
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