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フェイク画像もAI音声も…子どもたちはどこまで見抜ける? 〜小学3年生のメディア・リテラシー教育〜

学校のタブレット端末活用は小学1年生から

現在、日本では小学校1年生からiPadなどタブレット端末が一人1台整備され、授業や宿題にタブレットを活用しています(文部科学省資料など参照)。
最初は制限されたアプリのみを使って調べ学習や作品づくりに活用されますが、その後、生成AIの活用を始める時期は学校ごとに異なり、早い学校では低学年のうちから始まっているようです。
 ご家庭によっては、子どもにスマホを持たせるよりも先に学校でインターネットや生成AI活用が始まっているという方もいらっしゃることと思います。

しかしそんな中、学校でAIリテラシー教育が追いついていないとの指摘があります。
その背景には、段階的に行う予定だったGIGAスクール構想(全国のすべての児童・生徒に公平なICT 〈情報通信技術〉環境を整備するための国家プロジェクト)が、コロナ禍での自宅学習に対応するために、前倒しになったことにあるようです。

個人的にも小学生の生成AI利用って大丈夫なの?と少々案じているのですが、今日、さまざまなリテラシー学習プログラムの開発と検証が行われているので、一つその論文を読んでみました。
小学校3年生を対象とした生成AIが生成した情報を読み解くためのメディア・リテラシー学習プログラムの開発」という国内の論文です。
※論文内容の記載にはNotebookLMの要約も利用しています。

 

“AIのウソ”を見抜けるか? 〜新しい授業の挑戦〜

論文の概要です。日本語で書かれており、難しい専門用語も少ないので、そのまま引用します。

 「本研究は、情報を読み解くために、生成AIが生成した情報を取り入れたメディア・リテラシー学習プログラムを開発し、その有効性を検証した。
対象児童に「生成AIの特性」、「生成AIが生成した画像、文章、音声、動画のフェイクニュース」に関する計6回のプログラムを実施し、質問紙調査を行った。
調査結果を基に「プログラム」と「項目」を要因とした参加者内の分散分析を行った。
結果、プログラムと項目の主効果に有意差が見られた。また、交互作用に有意差が見られた。
プログラムの単純主効果では10項目中7項目に有意差が見られ、
項目の単純主効果ではすべての項目に有意差が見られた。
以上より、本研究で開発した学習プログラムを実施することで、児童は生成AIの特性を理解した上で、生成AIが生成した画像、文章、音声、動画で段階的に情報を読み解き、メディア・リテラシーを向上させる可能性が示唆された。」

 

研究の背景と目的を要約すると、「生成AIを活用する場面が増えてきたが、フェイクニュースを読み解けなかったり、他者の利益や権利の侵害や社会的混乱を引き起こしたりする負の側面が顕在化しつつあること、そのためにフェイクニュースに対するファクトチェックを意識的に教える必要性がある」と書いています。

 
やはり、子どもの生成AI利用で特に懸念されるのがAIの「ウソ」を信じてしまうことなのかもしれません。
この論文は要するに「生成AIが作った情報をどのように読み解くか」をテーマにした学習プログラムの開発・実験の記録です。

 

小学3年生が挑んだ6つの実験授業

研究は、2023年12月から2024年2月までの3カ月で、36名の小学3年生が参加しました。
「事前に生成AIの実態についてのアンケートをとったところ、36人中28人の児童が、生成AIがどんなものかの知識や経験は持っていなかった」と書いています。

行われた学習プログラムは以下です

1、生成AIの特性の理解(自分たちの街についてChatGPTに質問など特性を理解する)
2、フェイク画像を分析する(本物の画像とAIが生成した画像の確認・検討)
3、AIアートを比較する(アーティストが作成した画像とAIが真似して生成した作品を比較・検討)
4、フェイク文章を調査する(AIが作成した偽ニュース番組紹介文を検討)
5、フェイク音声を検出する(AIアナウンサーの音声を検討)
6、フェイク動画を見抜く(実際のニュースとAIが模倣した偽ニュース動画を比較・検討)

この6つのプログラムに対して、個人で確認したり、グループで話し合ったり、インターネットで情報を収集しながら検討したこと、プログラム終了後はアンケートによる評価を行ったことが記してあります。

 

結果に見えた成長と、残された課題

研究の結果、「この学習プログラムで児童は生成AIの特性を理解した上で、生成AIが生成した情報を段階的に読み解き、メディア・リテラシーを向上させる可能性が示唆された」と書いています。具体的には以下です。

 向上した可能性のあるスキル

  • AIが生成した情報を事実と意見を区別して読み解く意識
  • AIが生成した情報を多角的な視点からクリティカルに読み解く意識
  • AIの特性を踏まえて効果的に表現しようとする意識


 
一方で、「児童はAIが生成した情報に対して多角的な評価ができず、自分のイメージに偏って読み解いていることと、送り手の思いや意図を意識して読み解いていない可能性が伸び悩んだスキルとして示唆していました。

 また、著者の今後の課題として、「学習プログラムにおいて、事実や証拠を確認する場面、そして送り手の思いや意図について考える場面を増やす必要がある」と結論づけています。

 

フェイクニュースの“裏側”を読む力をどう育てるか

いかがでしたか?

学習プログラムの有用性がわかった反面、個人的には、見えてきた課題が非常に興味深く感じました。
子どもたちにフェイクニュースを見抜く方法は教えられるかもしれないが、でも「なぜ」それがつくられたかを考えさせるにはどうしたらよいのか―。

フェイクニュースを見抜くのは言ってみれば技術的なスキルですよね。でも「なぜ」つくられたかを理解する力は別の種類のスキルではないでしょうか。洞察力や人間の心理を読み解く力といった非認知能力的なスキルかもしれませんね。

 ※参考資料
◾️論文タイトル:小学校年生を対象とした生成AIが生成した情報を読み解くためのメディア・リテラシー学習プログラムの開発 ◾️著者:後藤 宗(名古屋市立東丘小学校)、稲木 健太郎(鳴門教育大学大学院)、佐藤 和紀(信州大学)◾️掲載:日本教育メディア学会研究会論集 No.57

 

この記事のまとめ

  1. 小学3年生向けに生成AIを題材としたメディア・リテラシー学習プログラムを開発。
  2. プログラムは全6回で、AIが作った画像・文章・音声・動画などのフェイクニュースを見抜く内容。
  3. 36名の児童が参加し、多くがAIに関する知識や経験を持たない状態から学習を開始。
  4. 学習を通じて、事実と意見を区別する意識や多角的に考える姿勢が向上。
  5. 一方で、送り手の意図を読み取る力や、自分の先入観を抑える力は伸び悩んだ。

文:鈴木素子

 

※本記事は、なるべく客観的に、最新の科学的知見を紹介できるように努めています。また理解しやすい内容にするために平易な表現に直しています。
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