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「AIで仕事がなくなる」は本当? 〜マイクロソフト最新論文による20万人データが示す職業的影響ランキング〜

マイクロソフトの大規模リストラに見る「AIシフト」

今年、マイクロソフトが業績好調の中、大幅に人員を削減する方針を発表したことがニュースになりました。その数は約15,000人。CEOは、その理由を「技術革新やAIシフトに伴う環境変化に備えるため」と言っています。
さらなるAI開発に巨額の投資を行うということです。

 レイオフは営業部門やXbox、中間管理職など多岐にわたっていますが、その中にはソフトウエア開発のエンジニア職に属している人も大量に含まれているようです。

AI時代に生き残っていけそうなIT系エンジニアでもレイオフされるということに驚いた人も多いと思いますが、実はその一方でクラウド(Azure)、AI(Copilot、OpenAI連携)、サイバーセキュリティ、データセンター関連のエンジニア職はむしろ採用を強化しているようです。

 

近年のAIの進化によって、シンクタンクなどから「未来にAIに仕事を奪われる職業」といったさまざまな「予測」が出されていますよね。そんな中、そのマイクロソフトのR&D部門であるマイクロソフトリサーチが、今年7月に「AIとの協働:生成型AIの職業的影響の測定」という研究レポートを発表しています(査読前論文)。
論文の中で、「AIの職業的影響を受けやすい職業ランキング」と、「AIの職業的影響を受けにくい職業ランキング」が記載されていて、メディアでも取り上げられて話題になっていました。

 今回は、その論文を紹介したいと思います。

最初にお伝えしておくと、論文タイトルやランキングタイトルが少々誤解しやすいのですが、この論文は実際のところ、「AI奪われる仕事、奪われない仕事」というものを分析や検証したものではありませんでした。

 

生成AIの影響を探る:マイクロソフトリサーチの最新研究

マイクロソフトリサーチの研究目的は、生成AI(人工知能)が経済や仕事にどのような影響を与えているのかを理解しよう、というもの。そのために次の方法で調査・分析を行いました。

 対象データ
     米国で20万人がCopilotを使った9か月分の会話ログ(2024年1月〜9月)

分析方法:  
     1.ユーザーがAIに求めた目標と、AIが実際にとった行動を比較
     2.アメリカの職業データベース「O*NET」と照合し、各職業の活動ごとにAIがどの程度影響したかを数値化

評価指標
   ・どの職業活動をどのくらいカバーしたか(カバレッジ)
   ・成功裏に完了した割合(完了率)
   ・全体への影響の広さ(影響範囲)

 それを研究者たちによって、AIがそれぞれの仕事の活動を「どのくらい手伝えているのか」を適用性スコアに表す、というやり方です。

 
わかりやすく説明すると、AIに求めた目標と、AIが実際にとった行動の一致度の評価は、例えば以下のように考えられます。ユーザーが「資料の書き方を知りたい」要望があったとします(ユーザーの目標)。それに対しAIが実際にした行動が「書き方を教えた」のか、「書き方を教える資料を提供した」のか、「関係ない答えを出した」のかで、目標の達成度は違ってきますよね。

このように、ユーザーの要望に対してAIが完全に要望を満たす働きをしていたのか、完璧ではないがある程度手伝えていたのか、まったく手伝えていなかったのか、を評価して、適用性スコアに反映させます。

 

AIはどの仕事を手伝えるのか? 研究の方法と分析視点

分析の結果、ユーザーがAIに最も求めていたのは

・情報収集
・文章作成
・プロジェクトの詳細に関するやり取り

でした。

 実際にAIが多く果たしていた役割は、

・情報提供
・文章作成
・支援・助言・指導

 であり、これらはユーザーの満足度も高く、AIが得意とする分野だと示されています。AIは特に「情報を集めて整理し、人にわかりやすく説明する」コーチやアドバイザー的な役割を果たすことが多い、と書いています。

 そして、スコア分析の結果で注目したいのが、ユーザーがAIに求めること(ユーザー目標)と、AIの回答(AIの実際の行動)です。
会話の40%はユーザーの目標とAIの行動に共通する活動がなかったと書いています。

 

AIが仕事の作業をカバーしやすい職業

では、どの仕事がAIの適用性スコアが高いのでしょう。AIがユーザーの要望に一致する回答を出している仕事は何か、をランキングにしたのが以下です。

 

 AI 適用性スコアが最も高い上位 40 の職業

1位:通訳者・翻訳者
2位:歴史家
3位:客室乗務員
4位:サービス営業担当者
5位:ライター・著者
6位:カスタマーサービス担当者
7位:CNCツールプログラマー
8位:電話オペレーター
9位:チケット販売・旅行代理店
10位:放送アナウンサー・ラジオDJ

以下(ランキング順)
⚫︎11位〜20位
証券事務員 、農場と家庭管理の教育者、テレマーケター、コンシェルジュ、
政治学者、ニュースアナリスト・レポーター・ジャーナリスト、数学者、
テクニカルライター、校正者・コピーマーカー 、接客係 
⚫︎21位〜30位
編集者、ビジネス教師(高等教育)、広報専門家、実演販売員および商品プロモーター、
広告販売担当者、新規口座事務員、統計アシスタント、カウンターおよびレンタル事務員、
データサイエンティスト、個人金融アドバイザー
⚫︎31位〜40位
アーキビスト(記録保管人)、
経済学教師(高等教育)、ウェブ開発者、
経営コンサルタント、地理学者、モデル、市場調査アナリスト、公衆安全通信士、
交換手、図書館情報学教師(高等教育)
※ 以上の職業表記はNotebookLM による翻訳


AI 適用性スコアが最も高い職業は、いわゆる知識労働とコミュニケーションが重要な職業が多い
ですね。たくさん書いてありますが、意外と特定の分野に固まっているように思います。

 

AIが仕事の作業をカバーしにくい職業

一方、AI適用度が低い職業も出しています。
ランキング順に記載します。

AI 適用性スコアが最も低い下位 40 の職業

1位:採血技師
2位:看護助手
3位:有害物質除去作業員
4位:塗装工・左官工などの助手
5位:葬儀屋(エンバーマー)
6位:プラント・システムオペレーター(その他全て)
7位:口腔顎顔面外科医
8位:自動車ガラス取り付け・修理工
9位:船舶機関士
10位:タイヤ修理・交換工

以下(ランキング順)
⚫︎11位〜20位
補綴歯科医(プロストドンティスト)、生産作業員助手、道路整備作業員、
医療機器準備作業員、梱包・充填機械オペレーター、機械サプライヤーおよびエジェクター、
皿洗い、セメント職人・コンクリート仕上げ工、消防士監督者、
産業用トラック・トラクターオペレーター0
⚫︎21位〜30位
眼科医療技術者、マッサージ療法士、外科助手、タイヤ製造工、屋根職人助手、
ガス圧縮機・ガス送油所オペレーター
屋根職人、油田・ガス田作業員、
メイド・ハウスキーピング清掃員、
舗装・路面仕上げ・タンピング機器オペレーター
⚫︎31位〜40位
伐採機器オペレーター、モーターボートオペレーター、病室補助員(オーダーリー)、
床研磨・仕上げ工、
杭打ち機オペレーター、線路敷設・保守機器オペレーター、
鋳物型・中子工、水処理プラント・システムオペレーター、
ブリッジとウォーターゲートウォッチャー、浚渫船オペレーター
※ 以上の職業表記はNotebookLM による翻訳

 
上記の職業から、AIがユーザーの要望をカバーしにくい職業は、人と物理的に接するのが必須の職業や、機械の操作や監視、いわゆるブルーカラー職業中心の肉体労働が多いことがわかります。

 この分析結果は、以前マイクロソフトの専門家が予測した結果とかなりの一致が見られたとのことです。

 

AIが役立つ業務と、人間が仕事を失う業務の間に必ずしも相関関係はない

いかがですか? このデータをみてどう思われたでしょうか。

繰り返しですが、このランキング表題を翻訳すると「AIの影響を受けやすい仕事、受けにくい仕事」という表現になるので、なんとなく、AIに奪われる仕事、奪われない仕事、という意味に捉えてしまうかもしれないのですが、そういう意味ではありません。

 著者も論文中の考察で、「AIがどう使われているか」を示しているだけで、AIによって仕事が「自動化されてなくなるのか」それとも「仕事のやり方が変わって効率的になるのか」は直接は予測できない。AIが仕事のタスクの大部分をこなせるようになる一方で、AIは万能ではないし、職業全体がなくなるわけではないことを強調しています。

 加えて、このデータはCopilotのみを使用していることや、会話データ分析は仕事とプライベートを区別していないことなどから、検証として不十分であることなども言及しています。

 

仕事が消える不安を、仕事がもっと面白く進化するというチャンスへ変える

予測できない理由として、著者は銀行の例を挙げて「昔ATMが登場したとき、銀行員の仕事は減ると思われていたけれども、より価値の高い人間的な顧客対応にシフトしたため、実際には銀行員の数は増えた」と言及しています。
このことは、冒頭で記載した、マイクロソフトは従来型のエンジニアは減ったけれども一方で、クラウド(Azure)、AI(Copilot、OpenAI連携)、サイバーセキュリティ、データセンター関連のエンジニア職が増えている、ことと類似していますよね。

著者は最後に結論と考察として以下のように述べています。
「AIは知識労働における協力なアシスタントだが、完璧な代替品ではない。だから私たちが今、本当に考えるべき問いは、自分の仕事がAIに代わられてなくなるかではなく、AIを使って自分の仕事をどう再発明できるかなのかもしれません」

 

どの職業でも職種自体がなくなるのではなく、求められるスキルや役割が変化していて、スキルチェンジが求められる時代に入っている、ということではないでしょうか。
仕事が消えるかもしれない不安から、仕事がもっと面白く進化するというチャンスへ。今回のデータは私たちにそんな視点の切り替えを迫っているのかもしれません。

 

 

この記事のまとめ

・ マイクロソフトは業績好調の中でも1.5万人をリストラし、AI・クラウド・セキュリティなどの分野では採用を強化している。
・Microsoft Researchは、Copilot利用者20万人のログを分析し「AIが職業にどう影響しているか」を調査した。
・AIは特に「情報収集・文章作成・助言」に強みを発揮し、知識労働やコミュニケーション重視の職業で適用性が高かった。
・一方で、看護助手や道路整備作業員など、人と直接関わる・物理的作業が中心の職業はAI適用性が低かった。
・分析は「仕事がなくなる」予測ではなく、「AIがどの程度サポートできているか」を示すものである。
・著者によると、ATM登場後も銀行員が減らず役割が変わったように、職業自体が消えるのではなく、求められるスキルや役割が変化していく。
・本当に問うべきは「AIに奪われるか」ではなく「AIをどう使って自分の仕事を再発明できるか」である。

文:鈴木素子

 

※本記事は、なるべく客観的に、最新の科学的知見を紹介できるように努めています。
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