「発明塾」塾長の楠浦です。
今回は、最新コラムの紹介と、関連情報の深堀りです。「4.」で、「なるほどそういうことか」という、非常に参考になる特許を出してくれているエッジ企業を1社紹介しますね。
特許情報から読み解く自動車部品大手の生存戦略~デンソー・ボッシュに学ぶ事業転換の実例
https://www.techno-producer.com/column1min/automobile-parts-survival-strategy/
自動車産業の覇権争いが始まった - ソフトウェア定義型モビリティ時代の事業戦略
https://www.techno-producer.com/column1min/software-defined-mobility-strategy/
いずれのコラムも、主役の1つは「デンソー」です。
事業再編とともに、ROIC(投下資本利益率)がWACC(資本コスト)を超えてきており、知財&投資家目線で大変注目しております。
ここでは、デンソーが商機を見出している「ソフトウェア定義型モビリティ」(SDV)のトレンドに着目し、最新情報を紹介します。
上記2つコラムのうち、特に2つ目に関する話題ですね。
この記事の内容
「ソフトウェア定義型モビリティ」(SDV)とは、Software Defined Vehicles(ソフトウェア・デファインド・ビークル)とも呼ばれます。
何それ、となりますが、お堅い定義では、以下だとされます。
クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車
僕なんかは、これでも「要するに何なん?」となるわけですが、要するに「携帯電話と一緒で、ソフト(アプリ)やらOS(基本ソフト)が、インストールされたりアップデートされて、機能が追加されたりするクルマ」ってことです。ざっくりいうと、「携帯電話みたいな使い勝手のクルマ」ですよー、って感じです。クアルコムの知財戦略を題材に、「クルマはいずれ、携帯電話みたいになりますよ」と、大学のOBOGが集まる場でお話して、「クルマは携帯電話とは違う!」と関係者がブチ切れし、場を騒然とさせたのが10年以上前でしたが、ようやくそういう時代になったわけです(笑)。
技術・製品の進化には法則性があって、それが知財戦略と結びついている、というだけの話です。だから、各社の知財戦略に注目すると、「こういう可能性があるな」という、確度の高い未来(未来に関する蓋然性の高い仮説)がいくつか見えてくる。そういうことです。今日はこの話は、深追いしません。
コラムを読んでください、というのも何なので、コラムの大まかな内容を記しておきます。
ついでに僕が、知財や新規事業の視点で気になった点も、補足コメントしておきますね。
①「SDV」って、何が新しいの?
自動車産業は、ハードウェアからソフトウェアへと価値がシフトする段階に来ていて、ソフトウェア定義型モビリティ(SDV)という考え方に注目が集まっています。ハードからソフトへ、モノからコトへ、というのは昔から言われていることだが、自動車にもいよいよ、ということでしかない。既視感はあるので、対応は可能ですね。
②デンソーのSDV戦略と、その背景
デンソーは、トヨタ依存の事業体質からの脱却を目指し、安全技術、特にソフトウェアによる「ぶつからない安全」の実現に注力する戦略へと大きく舵を切っています。同社は衝突防止関連の技術開発に力を入れ、長年取り組んでいることが、特許からも読み取れますね。
③ボッシュのSDV戦略
ボッシュはAI技術、特に生成AIを自動運転に応用することに注力しており、NVIDIAやマイクロソフトと提携を進めています 。ハードウェアの安定供給を他社との協業で確保し、ソフトウェアでの差別化を図る戦略を取っています。
まさに、ハードからソフトへ、事業転換を図ってきたわけですね。
④自動車の機能がリアルタイムでアップデートされる時代
OTA(Over-The-Air)アップデートは、自動車のソフトウェアをリアルタイムで更新する技術であり、安全性や認証に関する課題がある一方で、安全に関わるソフトウェアを常に最新の状態に保つという新たなビジネスチャンスを生み出す、新しいトレンドです。
ちなみに携帯電話では普通に行われていることなのに、これが自動車になった瞬間に、あらたな課題が出てきて、そこがビジネスチャンスになっているところが非常に面白いですね。
⑤自動車に不可欠な「安全」を誰がどう担保するのか
自動車産業における覇権争いは、単なる新技術の開発競争だけでなく、「誰が安全を保証するのか」という社会的信頼の獲得競争の側面があります。携帯電話のように、いろいろなソフトが勝手にインストールされてよいかというと、そうではない。
特に究極の目標である「自動車事故ゼロ」に向けては、安全性が担保され、承認を受けたソフトだけが適切な状態でインストールされるよう、誰かが管理しないといけない。そのポジションを狙うのがデンソーなんですね。
僕は、川崎重工で「カワサキのオートバイのエンジン」を開発していた人間です。当時、まさに「モノ」中心時代の技術屋だったわけですが、その視点で、「SDVになって、何が変わるん?」と自問自答してみると、おおよそ以下のような感じかなと思います。
「モノ」「ハード」中心時代のクルマの価値提案の典型は、エンジンの「馬力」「トルク」などですね。数字として、非常にわかりやすいスペックですので、次のモデルはXX馬力だ!などという競争を行っていた時期もありました。あれ、どこかで聞いたような話ですね、、、家電業界かな(笑)。
もちろん、これらはクルマの基本性能ですから、これからも必要なのですが、「勝負の土俵はそこではない」時代になってきた、ということです。いずれにせよ、なんか既視感のある議論です(笑)。
一方、「SDV」(ソフトウエア定義型モビリティ)時代では、ドライバー支援機能、インフォテインメント(音楽やゲームなど)など、よりパーソナライズされた「使いやすさ」「快適さ」が、主戦場になってくるわけです。データに基づいて、ドライバーの特性や嗜好にあわせた機能の提案、調整ができるのも、魅力ですね。
「モノ」「ハード」時代に、「この人はスピードを出さないから、馬力(最高速)よりトルク(加速)重視で、きびきび走れるようにしてあげよう」みたいなことはできなかった。でも、SDV時代には、「今はもっとキビキビ走れるようにしてあげよう」とか、好みやTPOに合わせた変更が、自在に可能になるわけです。ハードだけでは限界があったクルマの可能性を拡大してくれるわけで、僕は大歓迎ですね。もちろん、安全であることが最優先ですが。
ここでは、デンソー・ボッシュ以外に、SDV時代をリードする企業の一つ「Sonatus」を取りあげます。Sonatusは、自動車向けソフトウェアの大手プロバイダーで、同社の製品は既に300万台のクルマに搭載されています。
今年ラスベガスで行われた展示会、CES2025では、ドライバーの運転や快適性の好みに自動的に適応する車両を、SDVで実現するデモンストレーションを行っています。
Sonatus Showcases Leading-Edge Software-Defined Vehicle Innovations, Including Generative AI at CES 2025
https://www.sonatus.com/company/press-release/sonatus-at-ces2025-showcases-leading-edge-software-defined-vehicle-innovations-including-generative-ai/
どのような技術が気になったので特許を見てみると、「SDV」が持つ別の顔が浮かび上がってきました。Sonatusは、実は「データ収集」に関する特許を多く出願しています。つまり、「SDV」には2つの段階があって、まずは、「ドライバー」「乗員」についてのデータを収集することが重要なんですよね。
データが集まって初めて、「好みに合わせますよ」と言えるわけですから、当然ですね。自動車メーカーは、まずは「ドライバーがクルマを、どこで、どのように運転して、何をしているか」を詳細に知る必要があるし、知りたい。
そこに課題があり、顧客ニーズがあり、それが新たな製品やサービスのヒントになる。
そういうことです。
もちろん、顧客ニーズがわかれば即時にサービスを提供し、テストもできる。
Webマーケティングの世界と同じですね。
SDVで、いろいろなものが加速しそうな予感がします。
自動車業界は、ますます「スピード」が重要になってくるわけですね。
「SDV」開発競争、ますます熱くなりそうで、要注目です。
楠浦 拝
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