8月7日(金)に開催されたドリームロケットプロジェクト7周年記念講演会の日、講演に先立って、株式会社植松電機社長の植松努さんにお話しを伺いました。今回はロケット教室を通して、植松さんの想いや教育感、今後の展望などお聞きしました。その対談の一部をご紹介します。
植松努(うえまつ・つとむ)さん
株式会社植松電機 代表取締役。建設・解体・リサイクル現場などで使われるバッテリー式マグネットの開発・製造・販売を行う一方、ロケットや人工衛星、微小重力実験などの宇宙開発にも携わっている。「どうせ無理」をなくすことをテーマに、教育活動として全国で講演活動やロケット教室も開催。著書に『NASAより宇宙に近い町工場』『「どうせ無理」と思っている君へ』など多数。
楠浦:植松さんは子どもたちのためのロケット教室を長年開催していますよね。僕は植松さんの「どうせ無理をなくす」という想いや理念に共感し、今度、ロケット教室のマイスター講習会(ロケット教室を開催できる資格を取るための講習会)に参加させていただく予定です。
ここで、改めて植松さんのロケット教室への想いや、運営など裏側のことなどもお聞きしたいと思っています。まずは、このロケット教室を始めたきっかけを教えてください。
植松努さん(以下、植松):ロケット教室が始まったのが2005年からです。今から21年前ですね。その頃、うちの娘は小学校3年生だったのですが、16人のクラスで学級崩壊が起きていました。人数が少ないから総当たりなんですよ。いじめた子が翌週いじめられる。ものすごい陰湿で、何がいじめのきっかけなのかわからないんです。しぐさとか言葉とか行動とか、とにかく揚げ足取りなんですよね。今の社会と似たような感じなんですよ。
楠浦:小学校でも社会の縮図に似ているんですね。
植松:あまりにも陰湿でした。それで僕はPTA会長を志願したんです。自分の子どもたちがいる間9年間ずっとやりました。
そこで子どもらからいろいろ話を聞くと、どうやらみんな自信がない。自信を失ってしまった子たちが、自分の自信を守るために、他の人の自信を奪っている。それが繰り返されているんだと感じたんですね。だったら自信を増やせば解決するんじゃないかと思ったんです。
じゃあ自信を増やすにはどうしたらいいかを考えたのですが、それは単に褒めるとか称賛することではない、できなかったことができたらそれが一番自信になるだろうなと思ったんです。それでロケットを作ってみるか!と思いつきました。
楠浦:そうなんですね。植松さんが子どものころ夢中になっていた紙飛行機ではなく、ロケットにしたのは何故ですか?
植松:本当は紙飛行機のほうが得意です。でも紙飛行機って意外と難しいんですよ。それに比べてロケットは軸対称に作ったらまっすぐ上がるんです。
それで思い立って「ロケット教室をやらせてほしい」と、娘の担任だった先生に話をしたのですが、返ってきた答えが「この子たちは能力が低いので無理です」ですよ。ちょっと待ってよ、うちの娘もいるんだけど…と心の中で思いましたが、それでもいいからやらせてほしいとお願いして、始めさせてもらいました。
植松:実際にロケットを作り始めると、驚いたことに、先生が「ストップ!」って止めるんですよ。「はい、部品確認しなさい」「1番の部品はあるかい? 1番やりなさい」。「できたかい? じゃあ次は…」って言って指導し始めたんです。それを見てこれはダメだと思って先生の関与を一切なくしました。僕は子どもたちには「自分で説明書読んで好きなように作っていいからね。分からなかったら聞けばいいし、見ればいいし、好きにやっていいんだよ」って言って作ってもらったんです。そうしたら結果的に子どもたちがすごい勢いでロケットを作っていきましたね。
飛ばす段階になって僕が「一本飛ばしてみせるね」って見本のロケットを飛ばしたら、子どもたちは「うわー!あんなに飛ぶんだー!って」って驚く。なのに、それを見た後ほとんどの子は「自分のはダメかもしれない」「どうせ自分のは失敗する」って急に渋い顔し出すんですよ。みんな半信半疑なんです。でもちゃんと飛ぶ。子どもたちは「なんで飛ぶのよ」なんて言いながら嬉しそうにパラシュートで落下した自分のロケットを拾いに走るんです。
それでね、結局その後はいじめがなくなっちゃったんです。学級崩壊が収まっちゃって、みんなが仲良くなっちゃったんです。
楠浦:すごいですね。自信がついたんですね。
植松:やっぱり過度な管理が原因なんですよ。それがおそらく人の自信を奪うんだな、と。
自信の根源ってもしかしたら思考判断にあるんじゃないか、思考判断を奪ってしまうからこうなっちゃうのかなと思いました。その仕組みを変えていきたいと思ってスタートしたのが今のロケット教室なんです。
楠浦:そうなんですね。自分で考えて自分で決めてもらってやる、ということですね。
植松:そうです。ただ、自分で考えて自分でやったことって大体間違うんですよね。でも間違ったら修正すればいいだけなんですよ。ロケット教室はその経験を短期間にギュッと詰め込めるものだと思ったんです。
ロケット教室の時間の中で、スライドを使って映像を見せながら「最初に僕らもこんなに失敗してるんだよ。失敗っていうのは乗り越えるためのデータなんだよ」と、お話をする今のスタイルの基本もこの頃にできました。
楠浦:現在、ロケット教室はどのくらい広がっていますか?
植松:今、姫路の先生方がすごい頑張ってくれているんです。姫路では昨年だけでも4000機以上のロケットが飛びました。すごいペースで増えてきています。
楠浦:それはどなたかキーパーソンの先生とか、教育委員会の方がいるのでしょうか?
植松:昔、姫路東高校でロケット教室を開催したんです。実は台風だの吹雪だので何度も開催を延期しながらもなんとかできたというエピソードのある高校なのですが、その時の先生が何か感じたんでしょうね。それがきっかけで、仲間の先生にどんどん声をかけてくださっています。その先生は「間違いなく不登校が減るから、いじめなくなるから、絶対やったほうがいい」って力強く言ってくれているんです。だから今、姫路の学校がどんどん増えてきて嬉しいですね。
楠浦:みんな自信つけてくれるっていうのを実感したからこそ、伝えてくれているんですね。
植松:そうなんです。自信って本当に賞でもなければ評価でもないんですよね。「自分を信じる」なんです。
楠浦:字の通りですね。
植松:そう。すごいシンプルなことです。でもそれが持てない人がたくさんいるわけです。評価に晒されすぎなんだろうと思いますね。比べたら自分の性能が良くなるって思っている人がたくさんいて、切磋琢磨の意味を勘違いしてる人がたくさんいます。切磋琢磨ってライバルと競い合うことではなくて、本当は自分の研鑽なんですよね。それを間違えている人が大勢いる気がします。
楠浦:植松さんのロケット教室は学校で開催するのがほとんどだと思うのですが、それは何か理由があるのでしょうか?
植松:はい。僕らは基本的に学校でやりたいんです。なぜかというと、希望者参加型という形で学校以外の場所で開催すると、希望する子とその子を応援する親しか来ません。ある意味、その子たちって自分から参加できる子たちなので、そんなに心配はないんです。僕はできれば、自ら来られない子たちに関わりたいんです。
学校の感想文とか見させていただくとね、学校に居場所がない、学校に行きたくないけど不登校は許されない。家でも居場所がない、学校でも家でもひたすら演技をする子、「どっちにいても地獄です」って言っている子がたくさんいます。そういった子たちが自信を取り戻せるようにしたいなと思っているので、全員参加型の学校でやりたいんです。
ロケット教室は僕ともう一人の社員の2人で行っているのですが、今は、2人で160人規模くらいまでは対応できるようになっているんですよ。でも学校によっては1回で生徒200人以上になることもあります。しかも学校ですと平日昼間の開催になるので、普段は仕事をしている支援スタッフの人を呼ぶのも難しい。そのためにロケットの改良もひたすらやっています。いかに制作の工程数を減らし、いかにトラブルなくするかという改良を続けています。
楠浦:そうすると子によっては、易しすぎてしまって作った感がない、という子もでてきたりしませんか?
植松:難しい方がいいという人がたまにいるんですが、そうなると、できない子が出てきてしまう。その子たちができなかった、うまく飛ばなかったという結果にならないようにしたいんですよね。
楠浦:なるほどね。
植松:また、僕らのロケットですごい気をつけているのは、ロケット飛ばした後、パラシュートが落ちてくるんですが、そこで「キャッチだ、走れー」って言わないことなんです。取ることなんかどうでもいい。あれは結果でしかないんです。そうじゃないと、せっかくうまく飛んでいるのにキャッチできなかったら失敗の記憶として残るんですよね。そんなこと絶対にしちゃいけないので、取りに行ってもいいよというだけですね。
楠浦:僕も参加した時、子どもたちの様子を見ていたのですが、キャッチうんぬんではなくても、みんな喜んで取りに行っていました(笑)
植松:小学生だと全員走りますね。中学生、高校生はそうしない。それに、できればみんなが見ていないところで飛ばしたいという人もいるくらいなんです。発射台が2つ付いている理由も効率を上げることなんですけど、2人じゃなきゃ飛ばせない人もいるからです。逆に中には1人でしか飛ばせない人もいるんです。そういったことでどっちも対応できるように2つにしているんです。
楠浦:いろんなお子さんがいらっしゃる。それに対応できるようにちゃんと意味があるんですね。
植松:はい。これまでたくさんの子どもたちに関わってきましたから。「全員で掛け声をやって声をそろえて飛ばそう」って言ってもやらない、それができない子もいるんです。できている子や元気な子より、つらい子に関わりたいんです。そういう子に焦点を置いてやってますね。学校の中のおそらく数人でも構わない。そう思っています。

「編集後記」
以上は、対談の一部です。
私もこの日、対談の場に同席させていただきました。植松さんの書籍や動画はほとんど読んで、これまでに見聞したお話に関することも改めて質問させていただいたのですが、書籍にさらっと書いてあったようなことも、さらに深くお聞きでき、よりリアリティーを感じました。すべて実体験に基づいた、植松さんの言葉からしか伝えられない内容です。やっぱり目の前で伺うと心が動くのを感じます。そしてなにより植松さんの教育に対する考え方が改めてよくわかりました。
今回の対談(というよりインタビューに近いですが)でお聞きしたのは、ロケット教室の話が中心です。対談全体としては一言で言うと、「自分で考え、自分で決め、失敗しながら、自分の道をつくれる人をどう育てるか」という内容になりましたが、植松さんのロケット教室はこれだけでこのテーマが全部凝縮しているんです。
みなさんも、植松さんの講演やパートナー団体が開催するロケット教室にぜひ参加してみてほしいです。
写真・文 / 鈴木素子
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