「発明塾」塾長の楠浦です。
今回は久しぶりに、技術ネタ(エッジ情報)です。
分野は、発明塾と言えば、、、の「靴」です。
e発明塾「課題解決思考(1)」の事例として靴を取りあげていますが、靴って、発明を考えるのに、ちょうどいいんですよね。
みんな履いてるし、ほどほどにテクノロジーが進化している。
そして、「廃棄物」として問題になる要素が結構ある。
僕が注目しているのは、以下の記事で取り上げられている、スイスのアパレル企業「On(オン)」の「3次元成型」技術です。
3Dプリンターとも少し違う、「ヤラレタ感」がある技術です。
スイス発「オン」、スニーカーの新製造技術「LightSpray」を日本で披露 26年中にアジアで工場が稼働
https://www.wwdjapan.com/articles/2207405
その技術は「LightSpray」と呼ばれ、ロボットアームからフィラメントをスプレー噴射してスニーカーのアッパーを製造する技術です。
世界陸上に合わせ、原宿でデモをやってたようですね。
見たかった、、、(笑)
記事にもありますが、靴のイノベーションは、ナイキが主導してきたと、よく言われます。
僕は、そうでもないと思ってますが(笑)、それはさておきOnの「LightSpray」は、靴のイノベーションの歴史に名を刻むものになるでしょうか。
OnのHPに動画がありますので、興味ある方はご覧ください。
OnのHP
https://www.on.com/ja-jp/lightspray
「LightSpray」で製造した靴が、限定販売で購入できるようです。
欲しい(笑)。
技術内容を簡単に紹介しておきます。
基本的な仕組みと特徴を、3点にまとめてみました。
ラスト(靴を作る際の足型構造体。ソールは既に取り付け済みで、アッパー部分を後付けする構造)をロボットアームがつかみ、回転させながらフィラメント(細い糸状素材)をスプレー(噴射)する方式でアッパーを成形する。
この方法では接着剤や縫い目を使わず、「シームレス(継ぎ目なし)」なアッパー構造が可能。
片足あたりの製造時間:噴射工程だけで約3分、プリント工程(ロゴやポイントカラーの塗装などを含む)まで含めると5分強という見込み。
面白い。
型を動かす(回転させる)という発想は、非常に良いですね。
学生さん向けの発明塾で、CFRPで複雑な構造物を作れる方法を考えてほしい、というお題が投資ファンドから出たときに、やはりこの「型を回転させて、そこにCFRPを積層させていく」という発明を提案したことがあります。
機械屋の発想としては、結構、よくあるアプローチなのです。
この時、先行技術を調べたら、なんと「トヨタ」が取り組んでいました。
ホント、何でもやってる会社ですね(笑)。
皆さん、3次元造形というと「X-Y」ステージを持つ「3Dプリンター」に囚われがちです。
半導体を含む「印刷」の流れなんですよね、これ。
一方、工作機械的な発想だと、軸が回転して加工するのは当たり前です。
Onのアプローチは、工作機械的で、とても面白いですね。
この種の製造法は、「直接形成技術」などと呼ばれます。
何が「直接」かというと、金型を使わないということですね。
今回は、型を使うので、ちょっとややこしい(笑)。
直接成型は、靴や衣料、複雑形状素材においても研究・応用例が多数あります。
LightSpray がそれらとどう違うか整理しておきましょうか。
靴のアッパーを糸を編む方式で一体成形する技術。Adidas の Primeknit、Nike の Flyknit、On の過去製品でもニット素材を用いたアッパーなどがある。
利点は、通気性・伸縮性・軽量性を活かせること。
欠点は、強度補強や構造制御の自由度がやや制限されること、ですね。
粉末・樹脂・金属を層ごとに積層する方式。フィラメント押出型(FDM)、光硬化型(SLA、DLP)、粉末焼結型(SLS など)など。
靴素材・中底・ソール部分ではすでに応用例がある。だが、柔軟性のある材料を扱うには制限がある。
LightSpray はこれとは異なり、「噴射」方式で、層を明確に区切らず、より連続的な形状制御を可能にするよう設計されている点が特徴。
塗料や樹脂をノズルから吹き付けて成形する方式。建築材料や補修用途などで見られる技術。
LightSpray はこれを応用・高度化したものと見做せますが、3次元回転体上に細かく制御して成形するという点で難易度は高い。
スプレーで素材を吹き付ける技術は、確かに多数あります。
僕も、バイクのエンジン開発でいろいろ試しましたし、採用したものもあります。
では、アパレルでは?
異分野融合ですね。
自分の分野だけ見ててもダメなんです、、、
やっぱり、特許は読んでおきたいですよね。
ということで、僕が読んだ特許を少しだけ紹介しておきますね。
興味ある方は、ぜひ熟読して、関連特許も読んでください。
アパレル以外でも、使える発想だと思いました。
僕の引き出しが、また一つ増えましたね(笑)
型の上に溶融ポリマーをノズルから噴射し、ループ状・ヘリカル状のフィラメントでメッシュを“直接成形”する手法に関する特許。
LightSprayの「長尺フィラメントを高速で噴射してアッパーを作る」技術そのものなので、コア技術に関する重要特許でしょうね。
例によって、分割されまくっています(笑)
特許公報は以下より参照
https://patents.google.com/patent/WO2022069583A1/en
熱可塑性素材のソールに、溶融物(アッパー材になるもの)を直接堆積
→同時に冷却・固化して、縫製や接着剤なしで強固に結合する工程に関する特許。
LightSpray製アッパーの“取り付け”プロセスの要と思われ、これも重要な技術なのかなと思ってます。
特許公報は以下より参照
https://patents.google.com/patent/WO2024133187A1/en
発明者分析なんかも、やってみると楽しいかなと思います。
この靴、欲しいですね。
というか、履いてみたい。
楠浦 拝
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