3行まとめ
知財・法務統合で経営戦略と直結する体制を構築
ホンダは2023年1月に知財部門と法務部門を統合し、企業戦略本部配下に配置。IPランドスケープ手法により技術戦略・M&A・アライアンスとの連携を強化し、「第二の創業期」における競争優位の源泉と位置づけている。
約3.9万件の特許保有も競合トヨタとは差
2024年時点で登録特許約3.9万件(国内13,100件、海外26,600件)を保有するが、国内登録件数ではトヨタ(3,658件・2位)に対しホンダは1,651件で8位。特許資産価値ランキングではトヨタ1位、ホンダ2位と評価されている。
電動化・ソフトウェアへのシフトとオープンイノベーション推進
内燃機関関連の出願を減らし、カーボンニュートラルパワーユニット、AD/ADAS、IoT、eVTOL・ロボティクス等の重点領域へ特許出願比率をシフト。Honda Xcelerator VenturesやIGNITIONを通じた外部協業で、ソフトウェア定義車(SDV)時代への対応を強化している。
この記事の内容
ホンダは自動車や二輪車、パワープロダクツ、航空、ロボティクスなど幅広い事業分野でグローバル展開する製造業であり、知的財産の創造・活用は競争優位の源泉である。本レポートでは、ホンダの知的財産戦略の全体像を一次資料を中心に整理し、技術領域別の重点施策、組織体制、競合比較、リスク要因、今後の展望および経営への示唆を詳細に分析した。主なポイントは以下の通りである。
自動車産業は100年に一度の大変革期にあり、電動化や自動運転、コネクテッド化といった技術革新が進行している。ホンダは二輪車・四輪車に加えパワープロダクツや航空機、ロボティクス等多様な事業を持つが、主要市場での競争環境は激化し、巨額の研究開発投資やカーボンニュートラル対応が求められている。さらに、ソフトウェアやデータによる価値創造が重要となり、既存の機械工学中心のモノづくりから、ソフトウェア定義車(SDV)への転換が進む中、知財の在り方も変化している。
ホンダはこの状況を「第二の創業期」と位置づけ、長期的な価値創造の柱として知的財産を強化することを掲げている[1]。2023年1月には知的財産部門と法務部門を統合し、さらに同年4月には企業戦略本部の傘下に配置する組織改革を実施した[16][3]。これにより、知財戦略を経営戦略に直結させる体制が整った。
統合報告書では、知的財産を5~10年後の企業価値を左右する資産と捉え、「将来を拓く投資」と位置づけている[1]。従来は研究開発成果の権利化に重きを置いていたが、近年はIPランドスケープ分析を通じて事業戦略と技術戦略を統合し、必要な技術領域への投資や外部アライアンスの判断を行う。具体的には、外部環境や競合技術を分析して自社の強みや弱点を可視化し、技術ロードマップと特許出願計画を連動させる手法を採用する。[4]では、IPランドスケープの種類を「開発提案型」と「競争力分析型」に分類し、前者は将来必要となる技術・提携候補を洗い出すためのものであり、後者は現行の製品や技術の競争力を客観的に評価するためのものであると説明している。
ホンダは社会課題の解決に向けたオープンイノベーションの推進を掲げており、知財を他社に開放する取り組みも行っている。公式ライセンシングサイトでは、モビリティ製品のみならず、ロボティクスや航空、パワープロダクツ分野で開発した技術・ノウハウ・ソフトウェアを他社へ提供し、パートナー企業との共創を呼びかけている[9]。また、外部スタートアップや個人との共創を支援する「Honda Xcelerator Ventures」[10]や、新規事業創出プログラム「IGNITION」[11]など、知財と連動したオープンイノベーション施策を展開している。これにより、自社だけでは生み出せない新たな価値やビジネスモデルを模索している。
ホンダは2023年1月に知的財産部門と法務部門を統合し、同年4月に企業戦略本部へ組織横断的に配置した。この「知的財産・法務統括部」は7つの部から構成されると報じられており、管理支援部、法務部、訴訟・紛争部、ガバナンス&コンプライアンス部、戦略企画&標準化IP部、四輪事業IP部、二輪&パワープロダクツ事業IP部が存在する[2]。部門統合の目的は、急増するアライアンス契約やクロスライセンス交渉への対応力を高め、特許訴訟や各種法的リスクに統合的に取り組むためである[17]。
統合に伴い法務領域と知財領域の担当者間で人材交流が行われ、職種ローテーションを通じて契約法務、ガバナンス、訴訟対応、技術知財の全てに精通した人材育成を進めている[18]。また、知財部門から企業戦略部門への出向も積極的に行われており、IPランドスケープ分析結果を戦略策定に反映する機能を強化している[19]。
ホンダの知財・事業戦略は「IPランドスケープ」を核とする循環型プロセスで運用されている。統合報告書では、次の4つのステップから構成されるサイクルを示している[4]: 1. IPランドスケープ分析:自社と競合の特許動向、技術力、標準化動向を可視化し、今後の技術目標やアライアンス候補を設定する。開発提案型では将来必要な技術やビジネスパートナーを抽出し、競争力分析型では現在の技術優位性や弱点を評価する。 2. 研究開発および知財創出:設定された技術目標に基づき研究開発を実施し、特許やノウハウを創出する。重点領域に対しては、発明報奨金を従来比で複数倍にするなどインセンティブを強化している[20]。 3. ギャップ分析:獲得した特許ポートフォリオと初期設定した目標とのギャップをIPランドスケープで分析し、技術競争力を測定する。特許出願件数や技術範囲が不足していれば、追加研究や外部連携を検討する。 4. 戦略更新:分析結果に基づき事業戦略や技術戦略、M&A・アライアンス戦略を更新し、次期サイクルに反映する。2023年以降、IPランドスケープ機能を企業戦略本部に統合したことで、分析から戦略策定への反映が迅速になっている[21]。
ホンダグループが保有する登録特許は2024年3月期末時点で国内約13,100件、海外約26,600件であり、出願中特許は国内約4,800件、海外約11,900件に上る[7]。2024年の統合報告書では登録特許数が3.9万件超であると記され[22]、電動化や新価値領域に関する出願比率が増加し、内燃機関連の出願比率が減少している[8]。また、特許庁の統計では2024年の国内登録件数においてホンダは1,651件で8位であり、トヨタ(3,658件、2位)と比較すると件数面で差がある[13]。
重点技術領域での特許創出を促進するため、ホンダは発明報奨金の額を従来の数倍に増額し、ソフトウェアの著作権を含む知的財産貢献を評価軸に追加している[20]。さらに、標準化活動への貢献者を表彰する制度を導入し、2024年3月期には9名を表彰した[20]。知財部門と法務部門の職種ローテーションや海外赴任を通じて、国際的に通用する法務・知財人材を育成している[18]。
ホンダは2050年までに全製品と企業活動でカーボンニュートラルを実現する目標を掲げ、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCEV)、電動二輪、航空機などの電動化を急ピッチで進めている。特許戦略においても電動パワーユニット関連の出願を増やし、バッテリー、モーター、インバータ、電池マネジメントシステム(BMS)などのコア技術を重点保護している。統合報告書では、重点技術の一つに「カーボンニュートラルパワーユニット」を挙げ、電池調達やエネルギーマネジメントのためにパートナーとの連携が不可欠であると述べている[5]。
実際には、GMと共同で次世代EV用電池を開発する合弁会社や、日産系GSユアサとのEVバッテリー合弁など、外部パートナーとの協業が進んでいる。IPランドスケープ分析により各領域で自社が強みを持つ技術と不足する技術を明確化し、提携すべき領域を見極めることで、共同開発契約やライセンス交渉を円滑に進めている。知財・法務統括部は契約書作成や標準化活動を担当し、国際標準獲得に向けた活動も推進している。
電動化が進む中、車両単体でのエネルギー効率向上だけでなく、再生可能エネルギーと連携した社会全体のエネルギーマネジメントが重要となる。ホンダは家庭用蓄電システム「Power Exporter」などを展開し、車両の電池をエネルギーストレージとして活用するビークル・トゥ・ホーム(V2H)技術を開発している。統合報告書では、エネルギーマネジメントシステムを重点技術に位置付け、ソフトウェアプラットフォームやエネルギーマネジメントサービスのビジネスモデル構築を図っている[5]。
また、バッテリーの原料調達からリサイクルまでを含む資源循環型サプライチェーンの確立が課題となっており、使用済みバッテリーの再利用や再資源化技術に関する特許出願が増えている。2050年までのカーボンニュートラル実現には、これら資源循環技術が重要な役割を果たすと見られる。
自動運転分野では、レベル2+のADAS(先進運転支援システム)からレベル4の完全自動運転まで、各段階でソフトウェアとセンサーの高度化が求められる。ホンダはADAS機能を搭載した「Honda Sensing」を世界で展開し、GMとの自動運転子会社Cruiseへの出資や中国の自動運転スタートアップとの協業を行っている。特許戦略面では、センシング技術、認知判断アルゴリズム、制御ソフトウェア、ドライバー状態監視など幅広い領域で出願を行っている。特許結果の評価によると、ホンダの高価値特許の一例として「自動運転時の手動運転切り替え制御」や「燃焼技術の高度化」が挙げられており[14]、自動運転制御と内燃機関効率化の両方で技術優位を持つことが示されている。
コネクテッドカーでは車両がインターネットやクラウドと常時接続し、ソフトウェアアップデートやデータ活用、サービス課金が行われる。ホンダは車両データ基盤「Honda CONNECT」を展開し、バーチャルパーソナルアシスタントやメンテナンス予測サービスなどの開発を進めている。IPランドスケープの観点では、データ収集・解析に関する特許やソフトウェア著作権の保護が重要であり、個人情報保護法やGDPR(欧州一般データ保護規則)への対応も不可欠となる。2024年統合報告書では、ソフトウェア貢献度を評価基準に追加する計画が紹介されている[20]。
ホンダはeVTOL(電動垂直離着陸機)や自律型ロボット、宇宙探査など新規領域にも挑戦している。eVTOLでは、米国での実証飛行に向けて試作機開発を進めており、機体構造や航行制御、バッテリーシステムに関する特許出願を行っている。ロボティクスでは「ASIMO」で培った歩行制御技術を医療・物流等の用途に展開し、力覚制御やAI学習に基づくロボットアシスタンスの特許が増加している。宇宙関連では、月面ローバーや再使用型宇宙機器の電動化などの研究を行い、特許出願数はまだ多くないが、コア技術獲得を目指している。
知財は単なる権利保護の手段だけでなく、市場や顧客への価値提供を支える資産である。ホンダの製品は高い信頼性やブランド力を持つが、それを支えるのは安全性・環境性能に関する独自技術である。特許やノウハウをライセンスアウトすることで、他社製品にホンダ技術を実装させ、持続可能な社会に貢献しながらロイヤリティ収入を得る取り組みも行われている[9]。例えば、二輪車のCBS(コンバインドブレーキシステム)や自動化農機など、他社への技術提供によって社会実装が進んだケースがある。
また、ソフトウェア・サービス分野では、車両利用データを用いた新ビジネスが期待される。データ分析による予防整備サービスや保険料連動型サービスなどの提供には、データの収集・活用に関する契約や個人情報保護規制への対応が必要であり、知財・法務統括部が中心となって契約設計とリスク管理を行っている。
ホンダの主な収益源は製品販売であり、知財戦略は製品競争力を高めることで売上を最大化することに直結している。一方で、特許ライセンスや技術供与による収入も重要である。公式ライセンシングサイトでは、特許、ノウハウ、ブランド等を外部企業に提供し、新製品開発や商品力向上を支援するとともにライセンス料を得る仕組みが紹介されている[9]。さらに、強固な特許ポートフォリオは他社からの特許侵害訴訟に対する防御手段となり、クロスライセンス交渉を有利に進めることでライセンス支払い額を削減する「コスト回避」の効果もある。
統合報告書では、知的財産を「未来への投資」として位置づけ、短期的な収益ではなく長期的な企業価値創出を重視している[1]。また、発明者への報奨制度を強化し、ソフトウェア貢献への報酬を含めた評価軸を設けることで、インセンティブと人材確保を両立している[20]。
自動車産業では単独企業で全ての技術やサービスを完結することは困難であり、アライアンスやオープンイノベーションの重要性が増している。ホンダはGMやソニーといった企業との合弁会社を通じてEV開発を進め、電池企業と資本・技術提携を行っている。特にIPランドスケープ分析により、提携が必要な技術領域や潜在的なパートナーを事前に抽出し、法務・知財・企業戦略部門が一体となって交渉にあたる体制を整えている[17]。
オープンイノベーションとしては、Honda Xcelerator Venturesがスタートアップとの連携を推進し、資金提供や共同開発、PoC支援を行っている[10]。また、社内から起業家精神を育むIgnitionプログラムを一般の個人や企業に開放し、外部のアイデアとホンダの技術を組み合わせた新規事業創出を目指している[11]。これらプログラムでは、知財の取り扱いやライセンス契約について支援する体制が準備されており、共同で生み出した成果の知財権配分を明確化している。
トヨタは知財戦略を早期から経営に組み込み、知的財産委員会(IP委員会)を設置して重要な特許の取得・利用・リスク管理を審議している。IP委員会は研究開発・知財・事業部門が参加する横断組織であり、技術の囲い込みだけでなく社会的に有用な技術のオープンライセンスを推進している[12]。例えば、ハイブリッド車の基本技術や燃料電池技術を無償開放することで業界全体の普及を図り、自社の技術標準化とサプライチェーンの拡大を狙った。また、トヨタは特許情報分析サービス(Share Research)を活用して自社・他社の特許を定量評価し、開発戦略に反映している。
特許庁の統計によると、2024年の国内登録特許件数ではトヨタが3,658件で2位、ホンダが1,651件で8位に位置している[13]。出願件数でもトヨタは約6,504件(2023年時点)と増加傾向にあるのに対し、ホンダは1,602件に減少している[13]。また、特許資産価値のランキングではトヨタが特許資産スコア82,507.7ポイントで首位、ホンダは53,765.3ポイントで2位と評価されている[14]。この差は単純な件数だけではなく、特許の技術価値や市場への影響力を示している。
トヨタはIPランドスケープに加え、標準化活動や国際連携にも積極的であり、海外の特許訴訟対応に備えて法務部門と連携したリスク管理体制を整えている。さらに、コネクテッドサービスのプラットフォームやモビリティサービス企業の設立を通じてソフトウェア領域の知財を強化している。ホンダに比べ出願件数や資産価値では優位に立つが、オープンライセンスを通じたエコシステム戦略には共通項がある。
米国の電気自動車メーカーであるテスラは、2014年に保有特許をオープンソースにすると宣言し、善意の利用者に対して自社特許を無償で使用できるようにした。この方針はEV市場の拡大を促し、規格の統一やサプライチェーン拡大を狙ったものであるが、悪意ある模倣者に対しては訴訟を継続する姿勢を示している[23]。テスラはAI駆動のソフトウェア、電池製造技術、サプライチェーン管理などの領域で継続的に特許出願を行っており、オープンソース戦略と技術保護を両立させている。
特許庁の統計では、2024年の国内特許登録数上位企業に日立製作所やキヤノン、パナソニックなどが名を連ねる[13]。これら企業は電子機器や半導体、デジタル機器など他分野でも強固な知財ポートフォリオを有し、自動車関連技術でも出願が増えている。中国のBYDやNIOなど新興EVメーカーは特許出願件数が急増しており、電池や電動化技術で国際的な標準化を進めている。欧米ではフォルクスワーゲンやBMW、ボッシュなどがソフトウェアプラットフォームや自動運転領域で特許を蓄積している。
以下の表は、主要自動車メーカーの知財戦略を比較したものである(2024年時点、公開情報に基づく)。
企業名 |
組織体制 |
主な知財戦略 |
特許件数・資産 |
オープンイノベーション・ライセンス |
特徴 |
ホンダ |
2023年に知財部と法務部を統合し企業戦略本部配下に配置[16]。7部構成でIPランドスケープを企業戦略に反映 |
IPランドスケープによる重点技術選定とKPI設定、発明報奨金の増額[20] |
電動化・資源循環・AD/ADAS等の重点領域を設定し、外部協業を積極化 |
||
トヨタ |
IP委員会を設置し研究・事業・知財部門が連携して審議[12] |
社会に貢献する技術のオープンライセンス、特許情報分析サービス活用 |
ハイブリッドや燃料電池の特許を無償公開し業界普及を図る |
特許出願件数・資産価値とも高水準、標準化活動が強い |
|
テスラ |
法務・知財部門をシンプルな構成としCEOが強い指揮 |
2014年に特許をオープンソース化、悪意ある利用者には訴訟継続[23] |
出願件数は非公開だがAI・電池技術に注力 |
オープンソースながら独自技術の保護も継続、EV規格の普及を目指す |
オープンライセンスと技術保護を両立、ブランド力が高い |
その他日系企業 |
日立・キヤノン等が独自の知財部門を持ち、デジタル機器や電池技術を強化 |
製品別に特許ポートフォリオを構築 |
日立などは国内登録件数上位[13] |
産業別プラットフォーム構築や産学連携を推進 |
自動車部品や電子機器を横断する技術の標準化に注力 |
ホンダは有価証券報告書において、知的財産リスクを明示している。会社は多数の特許や商標を保有しているものの、各国地域で知的財産を保護できない場合や、模倣品や侵害行為が蔓延した場合には、競争力低下や損害賠償、ライセンス料支払いなどの損失が発生する可能性があると述べている[24]。そのため、外部の専門家やパートナー企業と連携して侵害訴訟に備え、法制度の動向を注視する対策を取っている[25]。
短期的には、内燃機関連特許のライフサイクル終了に伴い、既存事業の保護が弱まるリスクがある。EVやソフトウェア分野では既存特許が少ないため、他社の特許網に阻まれ技術開発が遅れる危険がある。また、生成AIやデータ活用に関する知的財産保護のルールが各国で整備されつつあり、予測不能な法改正に対応する必要がある。
中期的には、国際的な競争激化により特許侵害訴訟が増加する可能性がある。中国企業による特許の囲い込みや、ソフトウェアプラットフォーム企業とのアライアンス交渉において、交渉力の格差が顕在化するリスクも指摘される。さらに、標準必須特許(SEP)のライセンス料やFRAND条件を巡る紛争も増える可能性がある。
長期的には、気候変動対応やサステナビリティ規制の強化により、電池や資源循環技術のライセンス条件が厳格化し、過去に出願した特許が無効化されるリスクや、特許よりもオープンソース・データ共有モデルが優位となるパラダイムシフトが考えられる。また、デジタルサービスの比重が高まると、特許よりも著作権やデータ権利の管理が中心となり、これまでの制度に適合しない可能性がある。
ホンダは知財・法務統括部の統合を通じて、侵害訴訟や取引交渉への対応力を向上させている。具体策としては以下が挙げられる。
2025年以降、世界各国でEV普及を後押しする政策が強化される見通しである。欧州ではCO₂排出規制が厳格化されるとともに、バッテリーの原材料調達やリサイクル義務を定める「電池規則」が施行される。日本でもGX推進法に基づくカーボンニュートラル投資が活性化し、特に次世代電池や水素技術への補助金制度が拡充される見込みである。一方、データ保護やAI規制に関する法律が整備され、車両データや個人情報の扱いに厳格な規制が敷かれる。ホンダはこれら政策の変化を注視し、技術開発や知財戦略を適合させる必要がある。
ソフトウェア定義車(SDV)とクラウド連携の進展により、車両の価値はソフトウェアによって決まる比重が増している。生成AIが自動運転や人間機械インタフェースに応用され、知財保護だけでなく倫理的・社会的課題への対応が求められる。電池技術では全固体電池やリチウム空気電池の商用化が見えてきており、資源確保とリサイクル技術が競争力を左右する。ホンダはeVTOLやロボット、宇宙など新領域でも技術開発を続けており、これら技術の初期段階で強固な特許ポートフォリオを構築することが重要になる。
EVシフトにより中国や新興国メーカーの台頭が著しく、特許戦略でも中国企業が大型ポートフォリオを構築している。米国や欧州のOEMもソフトウェア企業や半導体メーカーとの協業を進めており、競争軸がハードウェアからソフトウェア・サービスへと移行している。消費者はサステナビリティや体験価値を重視し、サブスクリプションやオンデマンドサービスへの需要が高まっている。ホンダは品質やブランド力を強みに持つが、新興市場では価格競争力やスピードが求められるため、戦略的パートナーシップと柔軟な知財管理が不可欠となる。
ホンダの知財戦略を今後さらに強化するために、以下の施策を提言する。これらは経営・研究開発・事業化の観点から実践可能なアクションであり、短期的な効果と長期的な企業価値向上の両方を考慮している。
本レポートでは、ホンダの知財戦略を一次資料を中心に多角的に検証した。ホンダは電動化や自動運転といったモビリティの大変革期を「第二の創業期」と位置づけ、知的財産を長期的な企業価値創造の源泉とする基本方針を示している[1]。2023年に知財と法務を統合し、企業戦略本部に配置したことで、IPランドスケープ分析を経営戦略に反映する体制を整えた[16]。重点技術領域では電動パワーユニット、資源循環、AD/ADAS、IoT、eVTOL・ロボティクス等を設定し、発明報奨金の増額や共同開発を通じて特許出願比率をシフトさせている[6][20]。
一方で、国内外の特許出願・登録件数ではトヨタや他の競合企業が上回っており、特許資産価値ランキングでも差が見られる[13][14]。また、知財リスクとして各国の法制度差異、侵害訴訟、内燃機関特許の陳腐化などが存在し、ソフトウェアやデータ権利に関する新たな課題も生じている[24]。これらを踏まえ、経営層のコミットメントと情報開示、研究開発と知財の一体運営、標準化戦略やライセンシング拡大といった施策が求められる。
今後、政策や技術動向が急速に変化するなかで、ホンダはオープンイノベーションを通じて外部の知見を取り込み、柔軟で戦略的な知財管理を続けることが重要である。ソフトウェア定義車や生成AIの普及に対応しながら、社会的価値と企業価値を両立する知財戦略を推進することが、次の50年に向けた競争優位の鍵となるだろう。
[1] [4] [5] Honda_Report_2023-jp-all.pdf
[2] [16] [19] ホンダの経営に資する戦略的IPランドスケープ活動
https://yorozuipsc.com/blog/ip2986201
[3] [17] [18] [27] 本田技研工業株式会社 〖法務最前線〗 | Attorney’s MAGAZINE Online
https://legal-agent.jp/attorneys/workfront/workfront_vol87-2/
[6] [8] [20] [21] [22] [26] Honda_Report_2024-jp-all.pdf
https://global.honda/jp/sustainability/integratedreport/pdf/Honda_Report_2024-jp-all.pdf
[7] [15] [24] [25] FY202403_yuho_j.pdf
[9] コラボレーション / タイアップ | Honda公式サイト
https://www.honda.co.jp/license/
[10] Honda Xcelerator Ventures | Investment | Partnership | Open Innovation
https://xcelerator.hondainnovations.com/ja/
[11] Honda Ignition Program: Honda to open new business creation program 'Ignition' to all people, businesses in Japan, ETAuto
[12] d16524fb82974a6b879f.pdf
https://yorozuipsc.com/uploads/1/3/2/5/132566344/d16524fb82974a6b879f.pdf
[13] 020211.pdf
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2025/document/index/020211.pdf
[14] 〖自動車メーカー〗特許資産規模ランキング2024 トップ3はトヨタ、ホンダ、マツダ | 特許分析のパテント・リザルト
https://www.patentresult.co.jp/ranking/scale/2024/automobile.html
[23] Tesla's Innovative Patent Strategy: Revolutionizing IP in EVs - IP Front™ News
https://www.baxterip.com.au/ip-news/tesla-s-unconventional-patent-strategy
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本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。
情報の性質
ご利用にあたって
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