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旭化成の知財戦略 – 公開情報に基づく分析

3行まとめ

組織体制の強化

2022年に知財インテリジェンス室を新設し、経営戦略と知財戦略を連動させる二層体制を構築。IPランドスケープを武器に経営層への戦略提案を強化。

特許ポートフォリオ

国内約6,800件、海外約7,800件を保有。マテリアル領域が出願の65%を占め、質を重視した戦略的出願を推進。国内特許の65%が実施済み・ライセンス供与中。

オープンイノベーション

IPランドスケープで40以上の案件を分析し、TBCプロジェクトを通じて外部との共創による新規事業創出を積極展開。アセットライト型ライセンスビジネスを志向。

概要

旭化成グループは「新しい価値を創造し、世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する」という理念のもと、素材・住宅・ヘルスケアの三領域で事業を展開している。近年は中期経営計画 “Be a Trailblazer” で掲げた「無形資産の最大活用」を経営の柱に据え、知的財産(IP)を経営戦略と結び付ける取り組みを強化している。特に2022年に 知財インテリジェンス室 が新設され、従来の知的財産部とともに経営レベルから事業部門までを連携する体制を整えたことが特徴である[1]

出願動向と保有件数

  • 特許保有件数統合報告書2024年によると、旭化成は国内に 6,800、海外に 7,800 の特許を保有している[2]。特許出願はマテリアル領域が中心だが、企業方針の変化に合わせて医療・環境などの新規分野への出願も増加していると考えられる。知的財産報告書2024年では、2023年度の出願件数がおよそ 678件(国内)293件(海外) であり、国内出願の約65 %がマテリアル領域、海外出願の約84 %が同領域であると報告している[3]
  • 実施率と用途国内特許の約 65 % が自社で実施される技術やライセンス収入を伴う権利であり、残りは関連技術の確保や防衛的出願といった目的とされている。海外特許では約 43 % が実施済み、約 25 % が将来の実施を見据えたもので、残りは防衛・他用途である[3]
  • 商標・意匠旭化成ホームズは住宅ブランド「ヘーベルハウス」「ヘーベルメゾン」のデザインを守るため意匠権取得にも力を入れ、国内で約 550 の意匠権を保有している[4]。住宅領域では約 750 の国内特許も保有しており、特許と意匠を組み合わせてブランド価値を高めている[5]

重点技術分野と知財取得戦略

  • マテリアル領域化学品・エレクトロニクス・蓄電池素材など多様な事業で、材料の機能性や製造プロセスに関する特許出願が多い。知財報告書では、マテリアル領域の出願比率が国内65 %、海外84 %と突出しており、業界内で優位性の高い技術を権利化している[3]。また水素関連や自動車用材料などの新規成長分野では、IPランドスケープによるバリューチェーン分析と共創候補の抽出を行い、重点領域にリソースを集中する戦略が示されている[6]
  • 住宅領域住宅の安全性・耐久性・快適性に関わる「シェルター技術」や、暮らしを支えるソフトウエア、CO₂削減技術、デジタルを活用したウェルネス・レジリエンスサービスなどを重点テーマとし、特許出願を強化している[7]。意匠権と商標を組み合わせてデザインとブランドを保護し、住宅の付加価値を高めている[4]
  • ヘルスケア領域医薬・医療機器・クリティカルケア等の事業では、自社技術の特許保護に加え、医療現場のニーズに応える共同開発やライセンス獲得も重視している。知財報告書ではヘルスケア領域の海外出願比率は約3 %に留まるが、成長分野として今後の出願拡大が予想される[3]。バイオプロセスや医療材料などの新規領域でも、IPランドスケープ分析を活用した戦略策定が行われていると見られる。

グローバル展開と海外出願方針

旭化成は海外事業の比率が40 %を超え、米欧・アジアに多数の製造・販売拠点を持つ。海外展開に伴い、特許や商標の取得方針もグローバルに最適化されている。JAPIOの記事では、同社が海外で高い登録率を維持している背景として、各国の法制度に応じた手続きの知見と、現地法人や特許事務所との強力なネットワークが挙げられている[8]。国や技術分野により費用対効果を精査し、実施予定の高い案件を優先して出願することが特徴とされる。近年は成長市場である北米や中国に重点を置き、グローバルポートフォリオを構築している。

オープンイノベーションと連携

旭化成は自前主義にこだわらず外部との共創を重視しており、知的財産戦略もオープンイノベーションと連動している。知財報告書は「TBCTechnology Value Business Creation)」プロジェクトを紹介し、自社の特許・ノウハウ・データをパートナー企業の技術や顧客基盤と組み合わせて新規事業を創出する仕組みを説明している[9]。このプロジェクトでは、①テーマ・技術の理解とIPランドスケープ分析、②最適な共創パートナーの探索と共創・知財戦略の策定、③ライセンス契約や事業設計の交渉という三段階を踏む[9]。投資額を抑えつつ早期収益化を目指す「アセットライト型」事業を志向し、知財を活用したライセンスビジネスの拡大を目指していることが特徴である。

知財組織の体制と方針

旭化成の知財組織は 研究・開発本部傘下の「知的財産部」 と、経営企画担当役員直轄の「知財インテリジェンス室」 の二つで構成される。統合報告書ではこの体制を「企業価値向上に向けた知的財産活動」と位置付け、両組織が連携して高度化する事業を支援していると説明している[1]

  • 知的財産部事業に貢献する知財網の構築、知財クリアランス、グローバル化支援、DXによる事業高度化への貢献、中長期的な人財育成の5項目を重点活動としている[10]。知財戦略を策定・実行する「価値最大化サイクル」を回すことで事業戦略の実現を支える[11]
  • 知財インテリジェンス室 – 2022年に新設され、IPランドスケープを駆使して無形資産の活用戦略を提案する役割を担う。経営戦略や事業戦略の策定に貢献する分析を提供し、知財情報の開示を通じたステークホルダーとの関係強化を図っている[1]。同室は経営層に新たな視点を提供し、意思決定の高度化を促すことが求められている[12]
  • 人財育成とダイバーシティ知財部門は国内外に拠点を設け、女性管理職比率の高さや多様なバックグラウンドを持つ人材を強みとしている[13]。デジタルトランスフォーメーションに対応した発明教育や全社員向けの知財教育を実施し、企業全体の知財リテラシー向上を目指している[14]

他社との差別化戦略における知財の活用

旭化成は知財を「攻め」と「守り」の両面で活用し、他社との競争優位性を確保している。

  1. IPランドスケープによる戦略的分析 – 40以上の案件でIPランドスケープを実施し、自社と他社の技術ポジションや市場動向を可視化している。例えば水素関連ビジネスでは、バリューチェーン全体の特許を俯瞰し、自社の強みと外部パートナーの技術の空隙を特定したうえで、協業や新規投資の方向性を提案する[6]。これにより特許網の構築だけでなく、市場設計や規格づくりにおいても主導権を握ることを目指している。
  2. 攻めのライセンス戦略コア技術を自社で確保しつつ、非コア技術や特定用途に限定した技術を他社にライセンス供与することで収益を獲得する方針が示されている[6]。住宅領域では特許と意匠を組み合わせ、ブランドイメージと技術を保護しながら住宅サブスク事業など新しいサービスモデルを展開して差別化を図っている[4]
  3. 透明性と情報開示 – 2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂以降、知財情報開示が重要視されている。旭化成は知財報告書や統合報告書で活動内容や実績を積極的に公開し、外部からの評価を得ている。2024年には『Asia IP Elite』賞を2年連続で受賞しており、透明性の高い知財戦略が評価された[15]

知財戦略に関するFAQ

  1. 旭化成はどの程度の特許を保有していますか?
    統合報告書2024年によると、国内で約6,800件、海外で約7,800件の特許を保有しています[2]。この数値は2010年代半ばから大きく変動しておらず、出願数よりも質を重視する方針と見られます。
  2. 知財インテリジェンス室とは何ですか?
    2022
    年に設置された組織で、IPランドスケープなどを用いて経営・事業戦略に資する知財情報を提供し、無形資産活用戦略を提案しています[1]
  3. どのような技術分野で特許出願が多いのですか?
    マテリアル領域(化学品、蓄電池材料など)が出願件数全体の約65 %を占めていますが、近年は水素関連やカーボンニュートラル技術、医療・バイオ分野にも注力していると考えられます[3]
  4. 海外出願の方針は?
    海外出願は北米や中国など事業の成長が見込める地域に重点を置き、海外出願件数は2023年度で約293件でした[3]。費用対効果を評価して絞り込むため、国内より海外出願割合が低く、登録率は高いと報じられています[8]
  5. 旭化成はオープンイノベーションにどのように取り組んでいますか?
    自社の特許やノウハウとパートナー企業の資産を組み合わせて新規事業を創出するTBCTechnology Value Business Creation)プロジェクトを推進し、協業先の探索・選定からライセンス交渉までを一体的に支援しています[9]
  6. 知財部門の体制はどうなっていますか?
    研究・開発本部の知的財産部が出願や権利化を担当し、経営企画担当役員直轄の知財インテリジェンス室が戦略提案と情報開示を担う二層体制です[1]
  7. 知財の人財育成はどのように行われていますか?
    デジタルトランスフォーメーション時代に対応した発明教育や全社員向けの知財教育を用意し、高度専門職制度による専門家の育成・処遇に取り組んでいます[14]。女性管理職比率の高さも特徴です[13]
  8. 旭化成ホームズの知財戦略は?
    住宅の耐久性や快適性に関する技術・デザインを守るため、約750件の国内特許と550件の意匠権を保有し、IPランドスケープで環境技術などのテーマ分析を行っています[7]。特許と意匠を組み合わせてブランド価値を高める戦略です[4]
  9. 他社との差別化につながる知財の活用方法は?
    IP
    ランドスケープで市場・技術動向を把握し、自社の強みと空白領域を認識したうえで特許網とライセンス戦略を構築することです。水素関連事業では、バリューチェーン全体の特許分析を基に共創候補を選定し、市場設計にも関与しています[6]
  10. 近年の外部評価は?
    旭化成は知財活動の透明性を高く評価され、2024年には知財専門誌『Intellectual Asset Management』の「Asia IP Elite」賞を2年連続で受賞しました[15]。ガバナンスコードの改訂を機に知財情報の積極的な開示を進めていることが背景にあります。

結論

公開情報からは、旭化成が知的財産を経営の重要資源と位置付け、経営戦略と連動した知財戦略の高度化 に取り組んでいることが読み取れる。マテリアル領域での既存技術の深化に加え、環境・医療といった新領域への進出や、TBCプロジェクトを通じた共創型事業の創出など、知財を活用した事業モデルの転換が進んでいると考えられる。国内外の特許ポートフォリオを最適化しつつ、ライセンスビジネスや情報開示で企業価値の向上を目指す姿勢は今後も継続すると見込まれる。

[1] [2] [10] [11] [12] 24jp.pdf

https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/library/asahikasei_report/pdf/24jp.pdf

[3] [9] [13] ip_report2024.pdf

https://www.asahi-kasei.com/jp/r_and_d/intellectual_asset_report/pdf/ip_report2024.pdf

[4] [5] [7] 知的財産権の有効活用|With Customers|サステナビリティレポート2025|サステナビリティ|旭化成ホームズ|Asahi Kasei

https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/sustainable/customer/intellectual_asset/index.html/

[6] [8] 22_2_02.pdf

https://japio.or.jp/00yearbook/files/2022book/22_2_02.pdf

[14] siryou5.pdf

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai12/siryou5.pdf

[15] 知財戦略における表彰「2024 Asia IP Elite」を受賞 | 2024年度 | ニュース | 旭化成株式会社

https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2024/ze241212.html

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【本レポートについて】

本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。

情報の性質

  • 公開特許情報、企業発表等の公開データに基づく分析です
  • 2025年10月時点の情報に基づきます
  • 企業の非公開戦略や内部情報は含まれません
  • 分析の正確性を期していますが、完全性は保証いたしかねます

ご利用にあたって
本レポートは知財動向把握の参考資料としてご活用ください。 重要なビジネス判断の際は、最新の一次情報の確認および専門家へのご相談を推奨します。

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