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ASMLの知財戦略:技術的独占を支えるエコシステムと地政学的要塞

3行まとめ

売上高の15%超を研究開発に投じ年間43億ユーロの巨額投資

ASMLは年間売上高の15.2%(2024年実績:43億ユーロ)という巨額を研究開発に継続投資し、2004年以降の累計投資額は80億ユーロ超に達しており、この投資が競合を凌駕する知財ポートフォリオの基盤となっている。

全世界で最大33,000件の特許による「要塞」で新規参入を阻止

全世界で約25,000〜33,000件の特許・出願を保有し、特にリソグラフィ技術の中核領域に集中させることで、競合他社が侵害を回避して同等のシステムを開発することを事実上不可能にしている。

Carl ZeissやIMECとの排他的エコシステムで競合を構造的に排除

Carl Zeiss(光学系)やIMEC(先端研究)といった代替不可能なパートナーと戦略的投資・共同研究開発を通じて、エコシステム内に知財を囲い込み、競合を構造的に排除するプラットフォーム戦略を展開している。

エグゼクティブサマリ

 

本レポートは、半導体製造装置市場において圧倒的な地位を築くASML Holding N.V.(以下、ASML)の知的財産(以下、知財)戦略について、網羅的かつ多角的な分析を提供するものです。ASMLの知財戦略は、単なる特許ポートフォリオの管理に留まらず、研究開発、パートナーシップ、法務、地政学リスク管理が一体となった、事業モデルそのものを規定する核心的機能であることが明らかになりました。本分析から得られた主要な洞察は以下の通りです。

  • 知財創出の源泉としての巨額な研究開発投資: ASMLは、年間売上高の15%以上に相当する研究開発費(2024年実績:43億ユーロ)を継続的に投下しており³、これが競合を凌駕する質と量を兼ね備えた知財ポートフォリオの基盤を形成しています。この投資は、ムーアの法則の継続という業界全体の課題解決を自社の責務と捉え、次世代技術の主導権を握るための能動的な戦略です。
  • 「特許の要塞」による圧倒的な参入障壁: ASMLは、全世界で約25,000から33,000件に及ぶ特許・出願を保有し¹⁵, ²²、特にリソグラフィ技術の中核をなす領域に集中させています。この膨大かつ高密度な「特許の要塞」は、競合他社が侵害を回避して同等のシステムを開発することを事実上不可能にし、極めて高い参入障壁を構築しています。
  • 排他的エコシステムを通じた知財の独占: ASMLの戦略の真骨頂は、Carl Zeiss(光学系)やimec(先端研究)といった代替不可能なパートナーとの共創エコシステムにあります³⁵, ⁴⁹。戦略的投資や共同研究開発を通じて生まれる知財は、このエコシステム内に囲い込まれ、ASMLのプラットフォームの価値を増幅させると同時に、競合を構造的に排除する役割を果たしています。
  • 攻守一体の訴訟・ライセンス戦略: 特許紛争に対しては、ニコンとの和解に見られるように³⁰、事業の自由度を確保するための現実的なクロスライセンス契約を締結する柔軟性を見せます。一方で、ソフトウェアのソースコードなど中核的な営業秘密の窃取に対しては、XTAL社への訴訟で84500万ドルの賠償金を得たように¹⁰³, ¹⁰⁵、事業の根幹を揺るがす脅威には徹底して対抗する二段構えの姿勢を貫いています。
  • 地政学リスクの増大と知財の国家安全保障資産化: 米中技術覇権競争の激化に伴い、ASMLの最先端技術(特にEUVリソグラフィ)は、西側諸国の安全保障上の重要資産と見なされるようになりました。これにより、米国主導の輸出規制が事業上の大きな制約となる一方⁶⁵、国家主導の技術窃取リスクも増大しており、知財管理は地政学的な文脈で捉える必要性が高まっています。
  • 競合との非対称な戦略: 競合であるニコンが既存のDUV市場での地位維持に注力し⁵⁵、キヤノンがナノインプリントリソグラフィ(NIL)という全く新しい技術パラダイムで市場の破壊を狙うのに対し⁹⁸, ¹⁰¹ASMLEUVおよび次世代のHigh-NA EUVというプラットフォーム全体を支配する戦略を採っています。これは製品レベルではなく、エコシステムレベルでの競争優位を確立するものです。
  • 将来の知財は「データとAI」へ: ASMLの戦略は、ハードウェアの販売から「ホリスティック・リソグラフィ」による歩留まり保証へと進化しています³。今後は、世界中の最先端工場から得られる膨大な稼働データを活用したAIによるプロセス最適化技術が、新たな知財の源泉となり、自己強化的で模倣困難な競争優位性を築くと推察されます。
  • 技術流出への継続的な対策: 過去の事例から、ASMLは従業員による内部犯行を含む技術流出のリスクを深刻に受け止めています⁷⁰, ¹⁰⁴。全社的なリスク管理体制の一環として知財保護を位置づけ³⁶、情報セキュリティの強化と従業員教育を継続的に実施していると見られます。
  • パートナーシップにおける知財の明確な管理: imecとの共同研究では、既存知財(Background)とプロジェクト成果(Foreground)を明確に区別し、共有と独占を組み合わせた柔軟なIPモデルが採用されています⁷⁷, ⁷⁸。これにより、オープンイノベーションの利益を享受しつつ、自社の競争優位の源泉となる中核技術は保護されています。
  • 輸出規制へのコンプライアンス体制: ASMLは、オランダおよび米国の輸出管理規則を遵守するための厳格な体制を構築しています¹。これは、事業継続性の観点からも、また地政学的な要請に応える上でも不可欠な要素であり、知財管理と密接に連携していると考えられます。
  • 戦略的示唆: ASMLの知財戦略は、技術系企業に対し、知財を単なる法務マターではなく、事業モデルとエコシステム戦略の中核に据えることの重要性を示唆しています。

 

本文

 

 

背景と基本方針:ムーアの法則を支配するための知財基盤

 

半導体産業の進化を40年以上にわたり規定してきた経験則「ムーアの法則」は、集積回路上のトランジスタ数が約2年で倍増するというものです。この法則の継続は、より微細で、より高性能、かつエネルギー効率の高い半導体チップの実現を意味し、現代社会のデジタル化を支える根幹となっています。しかし、その実現は、回路パターンをシリコンウェハ上に転写するリソグラフィ技術の絶え間ない革新なくしてはあり得ませんでした。この技術的挑戦の最前線に立ち続け、事実上の独占を築き上げたのがASMLです。同社の成功の根源には、ムーアの法則を支配し、その進化を自ら主導するという明確な意志に基づいた、長期的かつ体系的な知的財産戦略が存在します。

ASMLの歴史は、1984年にオランダの巨大電機メーカーであるフィリップス(Philips)と、半導体製造装置メーカーのASMIAdvanced Semiconductor Materials International)との合弁事業として、アイントホーフェンにあるフィリップスのオフィスの隣の「雨漏りのする小屋」で始まったことは有名です²⁴。この決して恵まれているとは言えないスタート地点から、同社が今日の地位を築き上げるに至った原動力は、創業当初から一貫して研究開発(R&D)に経営資源を集中投下し、そこで生み出された独自の技術を知的財産として確立・保護してきたことにあります。1970年代初頭からフィリップス内部で進められていた研究開発を礎に、ASMLは創業同年に最初の製品であるステッパー「PAS 2000」を市場に投入しました²⁴

真の飛躍のきっかけとなったのは、1986年に市場投入された「PAS 2500」ステッパーに搭載された新しいアライメント(位置合わせ)技術でした²⁴。この独自技術は、その後の多くの技術革新の基礎となり、ASMLの技術的優位性の源泉となりました。さらに、業界をリードする生産性と解像度を誇った画期的なプラットフォーム「PAS 5500」の成功により、ASMLは利益を確保し、自立するための重要な顧客基盤を確立することに成功しました²⁴。これらの初期の成功は、独自の技術、すなわち知的財産が、いかに事業の存続と成長に直結するかを明確に示しています。この成功体験が、知財を事業戦略の中核に据えるという同社の基本方針を揺るぎないものにしたと推察されます。

この基本方針は、同社の財務データにも如実に表れています。ASMLは、景気の変動期であってもR&Dへの投資を継続的に拡大してきました²³2024年の年次報告書によると、同年の研究開発費は43億ユーロに達し³、これは同年の総売上高283億ユーロの約15.2%に相当します³, ⁷。過去を遡っても、2004年以降のR&Dへの累計投資額は80億ユーロを超えるなど³¹、その規模は競合他社を圧倒しています。この巨額の投資こそが、ASMLの知財創出エンジンの燃料であり、他社が追随できない技術的障壁、すなわち「知財の要塞」を築き上げるための礎となっているのです。

ASMLの知財戦略は、単に既存の製品や発明を法的に保護するという受動的なものではありません。むしろ、ムーアの法則の次なるフロンティアを自ら切り拓き、その過程で生まれるであろう未来の技術標準を知財として先んじて押さえるという、極めて能動的(プロアクティブ)な性格を持っています。半導体産業では、技術の進化から一歩でも遅れることは市場からの退場を意味します。ASMLの経営陣は、漸進的な改良では早晩限界が訪れることを理解し、EUV(極端紫外線)リソグラフィのような、実現までに数十年を要するハイリスクなブレークスルー技術に早期から賭けてきました⁸²。このような超長期的な研究開発を支え、その果実を独占するためには、短期的な製品特許だけでなく、基礎的な概念やアーキテクチャレベルでの広範な知財保護が不可欠です。1986年という早い段階で、後にEUV技術の心臓部となる光学系を供給するドイツのCarl Zeiss社との戦略的パートナーシップを締結したのも²⁴、この長期的な視点に基づいた知財戦略の一環と解釈できます。

結論として、ASMLの知財戦略の基本方針は、「ムーアの法則の継続に不可欠なブレークスルー技術を創出し、その成果を知的財産として網羅的に保護・独占することで、半導体リソグラフィ市場における永続的な技術的リーダーシップを確立すること」にあると言えます。知的財産は、事業活動の副産物ではなく、事業そのものであり、ASMLの存在そのものを規定する基盤なのです。

当章の参考資料

  1. ³ https://www.asml.com/en/investors/annual-report/2024
  2. https://ourbrand.asml.com/m/62a213cac2117ee6/original/2025_01_29-Presentation-Investor-Relations-Q4-FY-2024.pdf
  3. ¹⁵ https://www.iiprd.com/asml-inc-patent-portfolio-exemplary-landscape-overview/
  4. ²² https://insights.greyb.com/asml-holding-patents/
  5. ²³ https://www.asml.com/en/company/about-asml/locations/veldhoven
  6. ²⁴ https://www.asml.com/en/company/about-asml/history
  7. ³¹ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2017/asml-files-patent-infringement-lawsuits-against-nikon---asml-forced-to-go-to
  8. ³⁵ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2016/zeiss-and-asml-strengthen-partnership-for-next-generation-of-euv-lithography
  9. ⁴⁹ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2025/asml-and-imec-sign-strategic-partnership-agreement
  10. ⁶⁵ https://cepa.org/article/dutch-dilemma-caught-in-the-middle-of-the-us-china-tech-cold-war/
  11. ⁷⁰ https://semiwiki.com/forum/threads/asml-stolen-data-came-from-technical-repository-for-chip-machines.17444/
  12. ⁸² https://www.asml.com/en/products/euv-lithography-systems
  13. ⁹⁸ https://www.etcentric.org/canon-could-begin-shipping-chip-stamping-machine-in-2024/
  14. ¹⁰¹ https://www.yolegroup.com/industry-news/canon-aims-to-ship-low-cost-stamp-machine-this-year-to-disrupt-chipmaking/
  15. ¹⁰³ https://www.spilmanlaw.com/resource-article/trade-secret-misappropriation-and-employee-fiduciary-breach-in-asml-v-xtal-results-in-large-judgment/
  16. ¹⁰⁴ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2019/asml-disagrees-with-implication-of-chinese-espionage
  17. ¹⁰⁵ https://www.winston.com/en/blogs-and-podcasts/privacy-law-corner/court-finally-awards-asml-dollar845-million-in-damages-and-an-injunction

 

全体像と組織体制:知財を管理・防衛する全社的フレームワーク

 

ASMLの知的財産戦略がその絶大な競争優位性を維持する上で決定的な役割を果たしていることは前述の通りですが、その戦略を実効あらしめているのは、知財を単なる法務部門の管轄事項としてではなく、企業全体の戦略的資産および経営リスクとして捉える、高度に統合された組織体制とガバナンスフレームワークです。同社の知財管理体制は、特定の部門に閉じたものではなく、経営トップから研究開発、製造、法務、リスク管理に至るまで、全社的に張り巡らされた神経網のように機能しています。

ASMLが公開している情報から、同社の詳細な組織図を直接的に把握することは困難ですが、そのコーポレートガバナンスやリスク管理に関する開示情報から、知財管理体制の輪郭を推察することは可能です。最も重要な点は、知的財産権が経営上の最上位リスクの一つとして明確に認識されていることです。ASMLが定義する「リスクユニバース(Risk universe)」において、「知的財産権(Intellectual property rights)」は、「戦略および製品(Strategy and products)」という大分類の中に位置づけられています³⁶。このカテゴリには、「業界サイクル(Industry cycle)」や「競争(Competition)」、「イノベーション(Innovation)」といった、事業の根幹を揺るがしかねない他の重大リスクと並列で記載されており、知財の保護と活用が取締役会レベルの重要関心事であることを示唆しています。

このリスク認識は、具体的な組織体制にも反映されています。ASMLの全社的リスクマネジメント(ERM)フレームワークの展開と維持を担うのは、「リスク・ビジネスアシュアランス(Risk and Business Assurance)」チームです。このチームは、最高財務責任者(CFO)の直属組織として、セキュリティ、内部統制、コンプライアンスも所管しており、知財リスクの特定、管理、監視を行っています³⁶CFO直下にこのような専門チームが置かれているという事実は、知財リスク管理が財務戦略や投資判断と不可分であり、経営の中枢で一元的に管理されていることを物語っています。これにより、知財戦略の実行に必要なリソースが適切に配分され、経営戦略との整合性が常に確保される体制が構築されていると考えられます。

法務部門(Legal)もまた、ASMLの事業運営を支える主要なコーポレート機能の一つとして位置づけられています³⁷。同社の経営委員会(Board of Management)のメンバーリストには、「最高知財責任者(Chief IP Counsel)」のような役職は公表されていませんが²⁵, ⁴⁰、これは知財の重要性が低いことを意味するものでは決してありません。むしろ逆で、知財戦略がCEOCFO、そしてCTO(最高技術責任者)といった経営トップの職責に深く組み込まれているため、あえて独立した役職を設ける必要がないと解釈するのが妥当でしょう。実際、外部のカンファレンスなどでは、ASMLのシニアIPカウンセル(Senior IP Counsel)といった役職者の存在が確認されており⁷⁴、法務部門内に高度な専門性を持つ知財チームが存在することは明らかです。この専門チームは、経営委員会が下す戦略的な意思決定に対して、専門的な知見を提供し、その実行を担う実働部隊としての役割を果たしていると推察されます。例えば、同社の購買に関する一般取引条件では、「知的財産権」が特許、営業秘密、著作権などを含む包括的な概念として厳密に定義されており²⁶, ³⁸、あらゆる商取引において知財が保護されるよう、法的に堅牢な枠組みが整備されています。

さらに、知財保護は専門部署だけの課題ではなく、全従業員の責務として浸透させるための仕組みも構築されています。2023年末時点で全従業員の87%が修了した「行動規範(Code of Conduct)」に関するオンライン研修は、事業活動における明確な期待と指針を示すものであり、知財の適切な取り扱いに関する意識の基盤を醸成しています¹。また、内部通報制度である「スピークアップ(Speak Up)」プログラムも活発に利用されており、2023年には613件の報告が寄せられました¹。従業員数の増加を考慮しても、この報告件数の多さは、潜在的な規約違反(知財の不正利用や情報漏洩の懸念を含む)を積極的に報告する健全な企業文化が根付いていることの証左と言えます。

このような組織体制から導き出される重要な示唆は、ASMLにおいて知財戦略は「委任されるもの」ではなく、経営トップ自らが「遂行するもの」であるという点です。次世代のEUV装置開発に不可欠な光学技術を確保するために、Carl Zeiss SMT社に10億ユーロを投じて株式の24.9%を取得するというような重大な経営判断は³⁵、本質的には知財を確保するための戦略的行動であり、これはCEOCFOCTOが主導しなければ不可能です。したがって、ASMLの知財管理体制は、経営委員会を司令塔とし、CFO傘下のリスク管理チームが全社的な統制と監視を行い、法務部門内の知財専門チームが実務を執行するという、強力な中央集権型のフレームワークであると結論づけられます。この体制こそが、同社の知財戦略が常に技術戦略や財務戦略と完全に同期し、一貫性と実効性を保ち続けることを可能にしているのです。

当章の参考資料

  1. ¹ https://www.asml.com/en/investors/annual-report/2023
  2. ²⁵ https://www.asml.com/en/company/governance/board-of-management
  3. ²⁶ https://www.asml.com/en/general-terms-and-conditions
  4. ³⁵ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2016/zeiss-and-asml-strengthen-partnership-for-next-generation-of-euv-lithography
  5. ³⁶ https://www.asml.com/en/company/governance/risk
  6. ³⁷ https://www.asml.com/en/company/about-asml/organization
  7. ³⁸ https://www.asml.com/en/general-terms-and-conditions
  8. ⁴⁰ https://www.asml.com/en/company/governance/board-of-management
  9. ⁷⁴ https://dealmakersforums.com/event/ip-europe-2025/

 

詳細分析:特許ポートフォリオの量的・質的分析

 

ASMLの知的財産戦略の中核をなす物理的な証左は、同社が世界中に張り巡らせた膨大かつ高品質な特許ポートフォリオです。このポートフォリオは、単なる発明の集合体ではなく、競合他社の参入を阻み、技術的優位性を永続させるために戦略的に構築された「特許の要塞」と形容することができます。その特徴は、圧倒的な「量」、事業戦略と完全に一致した「地理的・技術的集中」、そして他社の技術開発に影響を与えるほどの「質」の三点に集約されます。

第一に、その圧倒的な「量」が挙げられます。複数の調査機関による分析では、ASMLが全世界で保有する特許および出願件数は、約24,956¹⁵から33,311²²に上ると推定されています。これらのうち半数以上が有効な権利として維持されており(アクティブな状態)¹⁵, ²²、膨大な数の独自技術が法的に保護されていることを示しています。これほど大規模な特許網は、いわゆる「パテント・シケット(特許の茂み)」を形成します。競合他社がリソグラフィ装置を開発しようとした場合、この複雑に絡み合った特許群のすべてを回避することは極めて困難であり、多大な時間とコストを要します。結果として、この特許ポートフォリオの規模自体が、新規参入や技術開発に対する強力な抑止力として機能しているのです。

第二に、特許出願における戦略的な「集中」が見られます。出願先の地理的分布を見ると、米国が最大の出願国であり、次いで台湾、日本が続きます¹⁵, ²²。この分布は、偶然の結果ではありません。米国にはIntel、台湾にはTSMC、そして韓国(主要顧客国)にはSamsungといった、ASMLの最重要顧客であり、かつ最先端半導体の開発・製造をリードする企業群が拠点を置いています。また、日本には競合であるニコンやキヤノンが存在します。つまり、ASMLは自社の技術が最も活用され、同時に最も脅威に晒される可能性のある主要市場と競合国の双方で、集中的に権利保護を図っているのです。これは、顧客を防衛し、競合を牽制するという明確な意図に基づいた戦略的配置と言えます。

技術分野においても同様の集中が見られます。ASMLの特許の大部分は、国際特許分類(IPC)において「G03F(光学的手段による材料の処理;写真平版)」や「H01J(放電管;放電ランプ)」といった、リソグラフィ技術そのものに関連する分類に属しています¹⁵, ²²。これは、同社が事業のコア領域から逸脱することなく、リソグラフィおよびその光源技術に関するあらゆる側面にわたって、深く、そして網羅的に特許網を構築していることを示しています。この技術的な集中の結果、リソグラフィ装置を構成する個々のサブシステム、例えば光源⁸⁵, ⁸⁶、ミラー光学系⁸⁷, ⁸⁹、ウェハステージ⁸²、計測システム¹⁷に至るまで、あらゆる要素技術がASMLの特許によって保護されています。

第三に、ポートフォリオの「質」の高さが挙げられます。特許の価値を測る指標の一つに、後発の特許にどれだけ引用されたかを示す「被引用数」があります。ASMLの特許ポートフォリオには、極めて被引用数の多い、影響力の大きな特許が多数含まれています。例えば、特許番号US6952253B2は、ニコンをはじめとする企業から1,939回以上も引用されており²²、この技術が業界における基礎的かつ重要な発明であることを物語っています。さらに重要なのは、ASMLの特許が、競合他社であるCarl Zeiss、ニコン、キヤノンといった企業の特許出願審査において、先行技術として引用され、それらの出願が拒絶される一因となっているという事実です²²。これは、ASMLの技術が他社の新規開発の障壁として機能している直接的な証拠であり、その発明が持つ先進性と独創性の高さを如実に示しています。

これらの量的・質的分析から見えてくるのは、ASMLの特許戦略が単一の画期的な発明に依存するものではないという事実です。リソグラフィ装置は、数十万点の部品と数百万行のソースコードから構成される、人類が作り出した最も複雑な機械の一つです⁸²。このような複雑なシステムを、単一あるいは少数の特許で保護することは不可能です。競合は特定のキーとなる特許を回避する設計を試みるかもしれません。しかし、ASMLは、装置のあらゆる構成要素と動作原理を網羅する数万件の特許を、多層的かつ重複的に配置することで、回避が事実上不可能な知財の壁を築き上げています。競合がASMLのシステムと同等の性能を実現するためには、装置のすべてのサブシステムにおいて、ASMLの特許を侵害しない全く新しい代替技術を発明しなくてはならず、これは現実的には不可能です。

結論として、ASMLの特許ポートフォリオは、その量、集中度、質のすべてにおいて、競合を圧倒する戦略的資産です。それは、他社を自社の技術領域から締め出し、侵害が不可避な状況を作り出すことで、あらゆる紛争や交渉において絶大な交渉力をASMLにもたらします。この「特許の要塞」は、最先端リソグラフィという技術分野全体を封鎖し、ASMLの独占的地位を盤石にするための、最も強力な武器の一つなのです。

当章の参考資料

  1. ¹⁵ https://www.iiprd.com/asml-inc-patent-portfolio-exemplary-landscape-overview/
  2. ¹⁷ https://patents.justia.com/assignee/asml-holding-n-v
  3. ²² https://insights.greyb.com/asml-holding-patents/
  4. ⁸² https://www.asml.com/en/products/euv-lithography-systems
  5. ⁸⁵ https://patents.google.com/patent/US7453077B2/en
  6. ⁸⁶ https://patents.google.com/patent/US20070102653A1/en
  7. ⁸⁷ https://patents.google.com/patent/US20160195648A1/en
  8. ⁸⁹ https://patents.google.com/patent/US7843632B2/en

 

詳細分析:共創と独占のエコシステムパートナーシップにおける知財戦略

 

ASMLの知的財産戦略を真に理解するためには、同社が単独で生み出した発明の数々を分析するだけでは不十分です。その戦略の最も強力かつ独創的な側面は、個々の特許ではなく、代替不可能なパートナー企業を巻き込んで形成された、共創的でありながら極めて排他的なイノベーション・エコシステムそのものにあります。特に、光学技術を担うドイツのCarl Zeiss社と、最先端の半導体研究を主導するベルギーの研究機関imecとのパートナーシップは、ASMLの技術的独占を支える両輪です。これらの連携の中で構築された知的財産の共有と管理の仕組みは、共同での技術開発を加速させる一方で、競合他社を構造的に排除する巧妙な設計となっています。

Carl Zeissとの関係は、単なるサプライヤーとメーカーの関係を遥かに超えた、運命共同体とも言える「 unbreakable bond(破壊不可能な絆)」です。1986年に始まったこの協力関係は30年以上に及び²⁴, ⁸⁸、特にEUVリソグラフィ技術の開発において決定的な役割を果たしてきました。EUV光は、従来のレンズでは吸収されてしまうため、極めて平滑な多層膜ミラーを用いた光学系が不可欠です⁸⁸。この世界最高精度のミラーを製造できるのは、世界で唯一Zeissのみです⁹²。この唯一無二の技術へのアクセスを恒久的かつ排他的に確保するため、ASMLは大胆な一手を打ちました。次世代のHigh-NA(高開口数)EUVリソグラフィに不可欠な新しい光学系の開発を促進するため、2016年にZeissの子会社であるCarl Zeiss SMT社の株式24.9%10億ユーロで取得し、さらに今後6年間で約76000万ユーロを共同の研究開発および設備投資に拠出することを合意したのです³⁵。これは、単なる部品調達契約ではなく、両社の技術ロードマップと運命を完全に一体化させる戦略的投資です。この共同投資から生まれる知的財産は、事実上ASMLのプラットフォームのためだけに利用されることが暗黙のうちに保証されており、他社がZeissの最先端光学技術にアクセスする道を完全に閉ざしています。

もう一方の柱であるimecとのパートナーシップは、ASMLの技術を業界標準へと昇華させるための「研究開発の実験場」としての役割を担っています。imecは、半導体メーカー、材料サプライヤー、装置メーカーなど、業界のあらゆるプレイヤーが集う中立的な研究開発ハブです⁴⁵, ⁴⁹, ⁵⁰ASMLは、このimecのプラットフォームを巧みに活用しています。例えば、2024年に開設されたASMLimecが共同で運営する「High-NA EUVリソグラフィ・ラボ」では、半導体メーカーが自社工場に装置を導入する前に、imecで最新鋭のHigh-NA EUVプロトタイプ機にアクセスし、次世代プロセスの開発や技術リスクの低減を行うことができます⁵¹

この協力関係の根底にあるのが、imec独自の「インダストリアル・アフィリエーション・プログラム(IAP)」と呼ばれる知財モデルです⁵⁴。このモデルでは、プロジェクト開始前から存在する各社の知財を「バックグラウンドIP」、プロジェクトの過程で共同開発された成果を「フォアグラウンドIP」として明確に区別します⁷⁸。参加パートナーは、フォアグラウンドIPへのアクセス権を得て自社の開発に利用できますが、多くの場合、imecはそのIPの共同所有権を保持します⁷⁷, ⁸⁰。そして、imecはその共同所有したフォアグラウンドIPを、次の新しいIAPにおけるバックグラウンドIPとして活用するのです。これにより、imecを中心にイノベーションが継続的に創出される好循環が生まれます。ASMLは、このプログラムの中心的プレイヤーとして、この循環から多大な利益を得ています。さらに、この枠組みとは別に、特定の課題解決のためにimecと二社間での共同研究を行うことも可能であり、そこから生まれたIPは排他的に所有することもできます⁷⁷

このパートナーシップ戦略を深く考察すると、ASMLが「オープンイノベーション」を自社の利益のために戦略的に活用していることがわかります。次世代の半導体ノード(例えば2nm以下)を開発するには、リソグラフィ装置本体の革新だけでは不十分であり、フォトレジスト(感光材)、フォトマスク、計測技術といった周辺技術のブレークスルーが同時に必要となります⁴⁷, ⁸⁴。これらの課題すべてをASMLが単独で解決するのは非効率です。そこでASMLは、imecという開かれた場に自社のリソグラフィ装置という「中心的なプラットフォーム」を提供します⁴⁵, ⁴⁹。すると、imecに参加する他のすべてのエコシステム・プレイヤー(材料メーカーやEDAベンダーなど)は、このASMLのプラットフォーム上で自社の技術革新を進めざるを得なくなります。彼らが新しいレジスト材料を開発したり、新しい計測手法を考案したりすると、その知見はIAPの枠組みの中で共有され、ASMLもその恩恵を受けます。最終的に、エコシステム全体で生み出されたこれらの周辺技術のイノベーションを最大限に活用できる唯一の装置を販売するのがASMLなのです。

結論として、ASMLのパートナーシップ戦略は、強力なネットワーク効果を生み出しています。imecのエコシステムにASMLのプラットフォームを核として参加するパートナーが増えれば増えるほど、そのプラットフォームの価値と不可欠性は増大します。このエコシステム自体が、顧客とサプライヤーをASMLの技術ロードマップに深く結びつけ(ロックイン)、競合他社をその輪の外に締め出す(ロックアウト)という、強力な競争上の堀(モート)となっているのです。ASMLの真の知的財産とは、個々の特許証の束だけでなく、業界全体の集合知が依存する、この独占的なプラットフォームそのものであると言えるでしょう。

当章の参考資料

  1. ²⁴ https://www.asml.com/en/company/about-asml/history
  2. ³⁵ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2016/zeiss-and-asml-strengthen-partnership-for-next-generation-of-euv-lithography
  3. ⁴⁵ https://www.photonics.com/Articles/ASML_imec_Launch_Sustainable_Solutions-Focused/p5/a70814
  4. ⁴⁷ https://silicon-saxony.de/en/asml-and-imec-strategic-partnership-agreement-to-support-semiconductor-research-and-sustainable-innovation-in-europe/
  5. ⁴⁹ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2025/asml-and-imec-sign-strategic-partnership-agreement
  6. ⁵⁰ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2023/imec-and-asml-sign-mou
  7. ⁵¹ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2024/asml-imec-opening-high-na-euv-lithography-lab
  8. ⁵⁴ https://www.asianometry.com/p/imec-the-semiconductor-watering-hole
  9. ⁷⁷ https://www.researchgate.net/figure/MEC-s-IAP-IP-Model_fig1_259729376
  10. ⁷⁸ https://www.imec-int.com/en/icon/faq/faq-about-intellectual-property-rights-ipr
  11. ⁸⁰ https://link.epo.org/elearning/Case_studies_for_use_with_IP_Teaching_Kit_en.pdf
  12. ⁸⁴ https://eureka.patsnap.com/report-the-seismic-shift-in-patent-activity-due-to-euv-lithography-breakthroughs
  13. ⁸⁸ https://www.asml.com/en/technology/lithography-principles/lenses-and-mirrors
  14. ⁹² https://www.zeiss.com/semiconductor-manufacturing-technology/smt-magazine/euv-lithography-as-an-european-joint-project.html

 

詳細分析:ライセンスと訴訟攻守一体の知財活用

 

ASMLの知的財産戦略は、その創出と保護に留まらず、活用においても極めて洗練された二元的なアプローチ(デュアル・トラック・ストラテジー)を採用しています。一方では、市場の安定と事業の自由度(Freedom to Operate)を確保するために、主要な競合他社との間で現実的なクロスライセンス契約を締結します。もう一方では、自社の競争力の根幹をなす中核技術、特に営業秘密が不正に窃取されたと判断した場合には、相手企業の存続を揺るがすほどの断固たる法的措置を講じます。この「外交官」と「戦士」の顔を使い分ける戦略は、ASMLが自社の知的財産を階層的に捉え、その重要度に応じて最適な活用・防衛策を講じていることを示しています。

戦略的なクロスライセンス契約は、主に成熟した技術分野における無用な消耗戦を避けるための合理的な選択として用いられます。その代表例が、キヤノンおよびニコンとの間で締結された合意です。2007年、ASMLCarl Zeissと共に、キヤノンとの間で半導体リソグラフィ装置関連の特許ポートフォリオをグローバルに相互利用可能にするクロスライセンス契約を締結しました³², ³³, ³⁴, ˢ̷¹, ˢ̷⁸。この合意で特筆すべきは、「技術の移転は伴わない(no transfer of technology)」という点が明記されたことです。これにより、各社は特許権の制約を気にすることなく自由な製品開発が可能になる一方で、競争の軸は特許の保有数ではなく、あくまで「技術的な専門知識と実装能力」に置かれることになりました。これは、特許訴訟による泥沼化を避け、製品の性能向上という顧客にとって本質的な価値で競争するための、賢明な判断であったと言えます。

ニコンとの関係はより複雑で、長年にわたる激しい法廷闘争を経て和解に至りました。ASMLは、ニコンが自社の特許を侵害しているとして、日本や米国を含む複数の国で訴訟を提起しました³¹。これに対しニコンも反訴するなど、両社の対立は先鋭化しました。しかし、2019年、両社は包括的な和解に合意しました³⁰, ˢ̷⁷。この和解には、ASMLZeissからニコンへ総額15000万ユーロの和解金が支払われること、そして今後10年間にわたり、液浸リソグラフィ装置の売上に対して互いに0.8%のロイヤリティを支払い合うクロスライセンス契約が含まれていました。これは、長期にわたる訴訟のコストと不確実性を考慮し、一定の対価を支払ってでも市場の安定と予測可能性を確保するという、ASMLの現実的な経営判断を反映しています。

また、ASMLは防御的なライセンス供与だけでなく、自社の特定技術を顧客にライセンスすることで、新たな収益源を開拓し、顧客との関係を深化させる戦略も採用しています。例えば、2004年には、解像度向上に寄与する「スキャッタリングバー技術」をサムスン電子にライセンス供与し、特許の有効期間にわたるグローバルな使用を許諾しました²⁷。これは、装置販売というコアビジネスを補完する、巧みな知財収益化の一例です。

一方で、ASMLは自社の「聖域」と見なす技術、すなわち事業の根幹をなす営業秘密の保護に関しては、一切の妥協を許しません。その姿勢が最も顕著に表れたのが、元従業員が設立したXTAL Inc.に対する訴訟です。ASMLは、XTAL社がマスク最適化ソフトウェアのソースコードを含む、自社の営業秘密を不正に流用したとして提訴しました¹⁰³, ¹⁰⁴。このソフトウェアは、リソグラフィ装置という「身体」を制御する「頭脳」に相当する部分であり、そのアルゴリズムやノウハウは数十年にわたる研究開発の結晶です。

この訴訟において、カリフォルニア州の裁判所はASMLの主張を全面的に認め、XTAL社に対して84500万ドルという巨額の賠償金の支払いを命じました¹⁰³, ¹⁰⁵。この賠償額の算定根拠が極めて重要です。それはASMLが失った売上(逸失利益)ではなく、XTAL社が知的財産を窃取することによって「支払いを免れた研究開発コスト」でした¹⁰³。これは、知的財産の不正利用に対する強力な懲罰的措置であり、同様の行為を試みる者への強い警告となりました。さらにASMLは、XTAL社が破産申請した後の和解交渉を通じて、XTAL社が保有していた知的財産のほとんどすべてを取得することに成功しました¹⁰³, ¹⁰⁵。これにより、競合を無力化するだけでなく、その資産を吸収するという、徹底的な勝利を収めたのです。

これらの事例を分析すると、ASMLが自社の知的財産を明確に階層化して管理していることが浮かび上がります。液浸リソグラフィのような、市場が成熟し複数のプレイヤーが特許を保有する技術分野では、特許は「取引可能な資産」と見なされ、クロスライセンスの対象となります。これにより、事業の自由度を確保し、無益な訴訟合戦を回避します。しかし、計算リソグラフィのソフトウェアのような、競争優位の源泉であり、他社に模倣されることが致命的な脅威となる営業秘密は、「交渉不可能な至宝(Crown Jewels)」と位置づけられます。この領域への侵害に対しては、和解やライセンスという選択肢はなく、相手を市場から完全に排除することを目的とした、最大限の法的措置が講じられます。

このように、ASMLは知的財産という武器を、状況に応じて外交交渉のカードとしても、あるいは殲滅戦の兵器としても使いこなします。この攻守一体の柔軟かつ徹底した知財活用戦略こそが、同社が技術的リーダーシップを維持し、あらゆる脅威からその独占的地位を防衛し続けることを可能にしているのです。

当章の参考資料

  1. ²⁷ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2004/asml-and-samsung-sign-global-ip-licensing-agreement
  2. ³⁰ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2019/nikon-asml-and-carl-zeiss-sign-agreement-to-settle-all-litigation
  3. ³¹ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2017/asml-files-patent-infringement-lawsuits-against-nikon---asml-forced-to-go-to
  4. ³² https://www.emerald.com/mi/article/doi/10.1108/mi.2008.21825bab.008/297958/ASML-Zeiss-and-Canon-cross-license-lithography
  5. ³³ https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/mi.2008.21825bab.008/full/html
  6. ³⁴ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2007/asml-zeiss-and-canon-cross-license-lithography-equipment-patent-portfolios
  7. ¹⁰³ https://www.spilmanlaw.com/resource-article/trade-secret-misappropriation-and-employee-fiduciary-breach-in-asml-v-xtal-results-in-large-judgment/
  8. ¹⁰⁴ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2019/asml-disagrees-with-implication-of-chinese-espionage
  9. ¹⁰⁵ https://www.winston.com/en/blogs-and-podcasts/privacy-law-corner/court-finally-awards-asml-dollar845-million-in-damages-and-an-injunction
  10. ˢ̷¹ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2007/asml-zeiss-and-canon-cross-license-lithography-equipment-patent-portfolios
  11. ˢ̷⁷ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2019/nikon-asml-and-carl-zeiss-sign-agreement-to-settle-all-litigation
  12. ˢ̷⁸ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2007/asml-zeiss-and-canon-cross-license-lithography-equipment-patent-portfolios

 

競合比較:ニコン・キヤノンとの知財戦略の相違点

 

ASMLの知的財産戦略の独自性は、同業の競合他社であるニコン(Nikon)およびキヤノン(Canon)の戦略と比較することで、より一層鮮明になります。ニコンとキヤノンが、それぞれ自社の強みとする特定の製品技術や市場セグメントを知的財産で保護・強化する戦略を採っているのに対し、ASMLの戦略は、EUVリソグラフィという次世代技術プラットフォーム全体と、それを取り巻く広範なエコシステムそのものを支配することを目的としています。これは、製品レベルの競争ではなく、産業構造レベルでの主導権争いであり、その戦略思想において根本的な違いが存在します。

ニコンは、長年にわたりリソグラフィ市場でASMLと覇を競ってきた強力な競合です。同社の知的財産ポートフォリオは、特にArF液浸リソグラフィ(DUVの一種)の分野で強力であり、デジタルカメラ関連技術においても豊富な蓄積があります⁵⁸。しかし、EUVリソグラフィという次世代技術への移行競争においてASMLに後れを取った結果、ニコンの知財戦略は、新たな市場を創造する攻撃的なものから、既存の強みを最大限に活用する防御的なものへとシフトしているように見受けられます。同社の統合報告書からは、半導体リソグラフィ事業において、既存の装置群(インストールベース)を活用した保守・サービス事業からの安定収益確保を重視する方針が読み取れます⁵⁵。また、EUV関連のコンポーネント事業も手がけてはいますが⁵⁵、これはASMLが支配するEUVエコシステム内での部品サプライヤーとしての立ち位置であり、プラットフォーム全体を握る戦略とは異なります。ASMLとの間で繰り広げられた激しい特許訴訟が、最終的にニコンへの和解金支払いと液浸技術に関するロイヤリティの相互支払いという形で決着したことは³⁰、ニコンがEUV時代の覇権争いから一歩退き、自社の得意とするDUV市場での収益性を確保する現実的な戦略を選択したことを象徴しています。

一方、キヤノンは、ASMLが築き上げたEUVエコシステムとは全く異なる土俵で勝負を挑む、野心的な知財戦略を推進しています。キヤノンもまた、長年にわたり米国での特許取得件数でトップ5にランクインし続けるなど⁶¹、強固な知財基盤を持つ企業です⁶²。彼らが次世代リソグラフィの切り札として開発を進めているのが、「ナノインプリントリソグラフィ(NIL)」という革新的な技術です⁹⁸, ¹⁰¹, ¹⁰²NILは、EUVのように高価な光源や巨大なミラー光学系を必要とせず、回路パターンが刻まれたモールド(型)をウェハ上のレジストに直接押し付けて転写する「スタンプ」方式です¹⁰²。キヤノンは、この技術がEUVに比べて「一桁」安価で、消費電力も最大90%削減できると主張しており⁹⁸, ¹⁰¹、半導体製造のコスト構造を根本から覆す可能性を秘めています。

キヤノンの知財戦略は、このNIL技術に関連する基本原理、プロセス、装置、材料といったあらゆる側面を網羅的に保護し、全く新しい技術パラダイムをゼロから構築・独占することに焦点を当てています。彼らは、まず比較的導入のハードルが低い3D NANDフラッシュメモリ市場をターゲットとし、5nmプロセスから実用化を進め、将来的には2nmプロセスへの到達を目指すとしています⁹⁸202410月には、最初のNILシステムを米国の研究開発コンソーシアムに出荷するなど⁹⁹, ¹⁰⁰、実用化に向けた動きを具体化させています。これは、ASMLEUVという既存のゲームのルールに従うのではなく、全く新しいゲームを創造しようとする、ハイリスク・ハイリターンな挑戦です。

これら二社に対し、ASMLの戦略は、前述の通り、EUVおよび次世代のHigh-NA EUVという単一のプラットフォームを、パートナーであるZeissimecと共に完全にコントロールすることにあります³⁵, ⁴⁹, ⁸², ⁸⁸。その知的財産は、装置単体の設計図に留まらず、光学系、光源、ソフトウェア、計測技術、さらにはそれらを統合して最適化する「ホリスティック・リソグラフィ」というプロセスノウハウ全体に及んでいます。

この比較から明らかになるのは、現在のリソグラフィ市場における競争が、もはや三社による同質の競争ではないという事実です。それは、異なる戦略思想のぶつかり合いです。

  1. ASML: EUVという現行のプラットフォームを独占し、そのエコシステム全体を支配する「プラットフォーム戦略」。
  2. ニコン: 競争の主戦場から退き、自社の得意とするDUV市場という収益性の高いニッチを防衛する「レガシー製品戦略」。
  3. キヤノン: EUVとは異なる技術原理で市場の前提を覆し、新たなエコシステムを創造しようとする「ディスラプティブ(破壊的)技術戦略」。

ニコンとキヤノンの戦略は、いずれもASMLの圧倒的な支配力に対する合理的な応答と見ることができます。彼らは、ASMLと同じ土俵で戦うことを避け、ニコンは自社の砦を守り、キヤノンは新たな戦場を切り拓こうとしています。この構図において、ASMLの独占に対する長期的かつ潜在的な脅威は、キヤノンのNIL技術の成否にかかっていると言えるでしょう。したがって、ASMLの今後の知財戦略は、既存の競合を監視するだけでなく、全く新しい技術経路の台頭を注視し、必要に応じてそれに対抗する準備を怠らないことが求められます。

当章の参考資料

  1. ³⁰ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2019/nikon-asml-and-carl-zeiss-sign-agreement-to-settle-all-litigation
  2. ³⁵ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2016/zeiss-and-asml-strengthen-partnership-for-next-generation-of-euv-lithography
  3. ⁴⁹ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2025/asml-and-imec-sign-strategic-partnership-agreement
  4. ⁵⁵ https://www.nikon.com/company/ir/management/nikon-report/pdf/2024/24nikonreport_e.pdf
  5. ⁵⁸ https://ipwatchdog.com/tag/nikon-corporation/
  6. ⁶¹ https://www.usa.canon.com/newsroom/2024/20240405-cinc
  7. ⁶² https://www.usa.canon.com/bin/canon/downloadasset?path=/content/dam/canon-assets/about-canon-assets/about-us/kyosei-our-corporate-philosophy/environment-and-sustainability/additional-initiative-detail-environmental-initiatives/canon-sustainability-report/management-foundation/intellectual-property-management.pdf
  8. ⁸² https://www.asml.com/en/products/euv-lithography-systems
  9. ⁸⁸ https://www.asml.com/en/technology/lithography-principles/lenses-and-mirrors
  10. ⁹⁸ https://www.etcentric.org/canon-could-begin-shipping-chip-stamping-machine-in-2024/
  11. ⁹⁹ https://www.theregister.com/2024/10/01/canon_nanoimprint_lithography_machine/
  12. ¹⁰⁰ https://www.usa.canon.com/newsroom/2024/20241001-tie
  13. ¹⁰¹ https://www.yolegroup.com/industry-news/canon-aims-to-ship-low-cost-stamp-machine-this-year-to-disrupt-chipmaking/
  14. ¹⁰² https://global.canon.com/en/technology/nil-2023.html

 

リスク・課題:地政学と技術流出の脅威

 

ASMLが築き上げた知的財産の要塞は、商業的な競争相手に対してはほぼ難攻不落に見えます。しかし、現代のグローバル環境において、同社が直面する最大のリスクは、もはや市場内の競合ではなく、国家間の対立、すなわち地政学の領域から生じています。米中間の技術覇権競争が激化する中で、ASMLの最先端リソグラフィ技術は、単なる一企業の商業的資産から、西側諸国の経済安全保障を左右する戦略的資産へとその性格を変えました。この変化は、ASMLの知財戦略に二つの深刻な脅威をもたらしています。一つは、事業の自由度を直接的に制約する「輸出規制の強化」、もう一つは、技術的優位性を根底から覆しかねない「国家主導の技術流出」です。

輸出規制は、ASMLの知財活用のあり方を根本から揺るがす直接的な脅威です。米国政府は、中国の半導体技術の進展を阻止するため、自国の輸出管理規則(EAR)を強化すると同時に、同盟国に対しても同様の措置を講じるよう強い圧力をかけてきました⁶⁴, ⁷²。この圧力の結果、ASMLの母国であるオランダ政府は、米国の意向に同調し、まず最先端のEUVリソグラフィ装置の対中輸出を事実上禁止し、その後、20249月からは高性能なDUV(深紫外線)液浸リソグラフィ装置の一部についても輸出許可制を導入しました²⁸, ⁶⁵。中国はASMLにとって極めて重要な市場であり、過去には売上高の約15%を占めるほどの規模でした⁶⁵。これらの規制は、ASMLが自社の知的財産を製品化し、最大の市場の一つで販売する権利を直接的に制限するものであり、収益機会の損失に繋がります。ASMLChristophe Fouquet CEOも、米国からのさらなる規制強化圧力が続くと予想しており⁶⁷、この地政学的な制約は、今後も同社の事業運営における恒常的な課題であり続ける可能性が高いです。

もう一つの、より深刻な脅威が技術流出です。輸出規制によって正規のルートでの技術導入が困難になった国、特に半導体の自給自足(セルフサフィシエンシー)を国家的な最優先課題に掲げる中国は⁷²、非合法な手段を含め、あらゆる方法で先端技術を獲得しようとする動機を強めています。ASMLは、これまでにも中国に関連する複数の技術流出事件に見舞われてきました。20232月に公表された事例では、中国に拠点を置く元従業員が、装置に関する技術情報を保管する社内システムからデータを不正に窃取したことが発覚しました⁷⁰。それ以前にも、元従業員が設立したXTAL社および関連する中国企業Dongfang Jingyuan Electron社が、ASMLの技術を組織的に窃取し中国に移転しようとしたとして、ASMLは法廷で争いました⁶⁸, ⁷⁰。これらの事件は、内部関係者による情報漏洩のリスクと、背後に国家的な意図が疑われる経済スパイ活動の脅威が、現実のものであることを示しています。

ASMLは、この地政学的な板挟みの中で、極めて難しい舵取りを迫られています。一方では、装置に不可欠な米国製の部品や技術ライセンスへのアクセスを維持するため⁶⁵、米国の輸出規制方針に協力せざるを得ません。他方では、巨大な中国市場での事業を継続し、顧客との関係を維持する必要があります。この緊張関係は、ASMLの知財管理に新たな次元の複雑さをもたらしています。もはや、知財保護は単に競合他社によるリバースエンジニアリングや特許侵害を防ぐという商業的なレベルに留まりません。国家の情報機関が関与する可能性のある、高度なサイバー攻撃や内部協力者の獲得といった、防衛産業レベルのセキュリティ対策が求められるようになっています。オランダ政府自身が、国家安全保障を理由に中国資本の半導体メーカーNexperia社の経営に介入する⁶³など、ASMLを取り巻く環境はますます安全保障色が強まっています。

この状況をさらに深く考察すると、現在の輸出規制が、皮肉にも長期的にはより大きな知財リスクを生み出す可能性があるというジレンマが浮かび上がります。最先端装置へのアクセスを断たれた中国は、自国でのリソグラフィ技術開発に国家の威信をかけて巨額の投資を行っています。これは、ASMLの技術を模倣・再現しようとする、より決意の固い、そして潤沢な資金を持つ長期的な競争相手を、西側諸国自らが作り出している構図とも言えます。短期的には中国の技術進展を遅らせることができても、長期的には、あらゆる手段を尽くして知財を獲得しようとする強力な動機を与えてしまうのです。

したがって、ASMLの知財戦略は、従来の商業的な競合からの防衛というパラダイムから、国家レベルのアクターによる諜報活動や研究開発キャンペーンに対抗するという、新たなパラダイムへと移行せざるを得ません。これには、技術的な情報セキュリティの強化はもちろん、従業員の身元調査の厳格化、サプライチェーン全体のセキュリティ監査、そして各国政府との緊密な連携といった、従来の民間企業の枠を超える対策が必要となります。さらに、ブルームバーグの報道によれば、TSMCASMLの装置には、地政学的有事の際に遠隔で機能を停止させる「キルスイッチ」のような機能が備わっている可能性も示唆されており⁶⁹ASMLの知的財産がもはや純粋な企業資産ではなく、地政学的な駆け引きの道具となりつつある現実を浮き彫りにしています。この「兵器化」する技術をいかに管理し、商業的利益と国家的要請の狭間でバランスを取るか、それがASMLの知財戦略における最も困難な課題と言えるでしょう。

当章の参考資料

  1. ²⁸ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2024/dutch-governments-updated-export-license-requirement
  2. ⁶³ https://moderndiplomacy.eu/2025/10/13/netherlands-seizes-control-of-chinese-owned-chipmaker-nexperia-in-rare-national-security-move/
  3. ⁶⁴ https://www.csis.org/analysis/understanding-us-allies-current-legal-authority-implement-ai-and-semiconductor-export
  4. ⁶⁵ https://cepa.org/article/dutch-dilemma-caught-in-the-middle-of-the-us-china-tech-cold-war/
  5. ⁶⁷ https://www.youtube.com/watch?v=Fyc8Pc-7CyU
  6. ⁶⁸ https://semiwiki.com/forum/threads/engineer-who-fled-charges-of-stealing-chip-technology-in-us-now-thrives-in-china.16180/
  7. ⁶⁹ https://www.youtube.com/watch?v=wHadtnI6CZ8
  8. ⁷⁰ https://semiwiki.com/forum/threads/asml-stolen-data-came-from-technical-repository-for-chip-machines.17444/
  9. ⁷² https://www.csis.org/analysis/intellectual-property-rights-us-china-innovation-competition

 

今後の展望:High-NA EUV時代と次世代知財の方向性

 

ASMLの知的財産戦略は、過去の成功に安住することなく、常に未来の技術革新を見据えて進化を続けています。今後の半導体産業のロードマップを規定するのは、現行のEUV技術をさらに進化させた「High-NA(高開口数)EUVリソグラフィ」であり、この新技術への移行は、ASMLの知財戦略の焦点を新たな領域へとシフトさせるでしょう。これからの知財の主戦場は、もはや装置のハードウェア設計そのものだけではありません。ハードウェア、ソフトウェア、そして膨大なプロセスデータを三位一体で統合し、顧客の工場で最高の歩留まりを実現する「ホリスティック・リソグラフィ」という包括的なソリューションの保護へと移行していきます。

未来の方向性を指し示す最も重要な技術トレンドは、High-NA EUVプラットフォームの導入です。開口数(NA)を現行の0.33から0.55へと向上させたこの新世代の装置は、2025年から2026年にかけての量産適用が予定されており、2nmノード以降の超微細な半導体製造を可能にします⁸²。この技術的飛躍は、Zeissとの緊密なパートナーシップによって開発された全く新しい光学設計に依存しており³⁵, ⁸⁸ASMLZeissはこの次世代プラットフォームに関連する知的財産を共同で固く守っています。High-NA EUVは、今後10年以上にわたるムーアの法則の継続を物理的に可能にする唯一の技術であり、この技術プラットフォームに関連する知財を独占することが、ASMLの将来の収益基盤を盤石にする上で不可欠です。

しかし、回路の微細化が物理的限界に近づくにつれて、単に解像度の高い装置を提供するだけでは、顧客が求める高い生産性と歩留まりを達成することは困難になります。そこでASMLが推進しているのが、「ホリスティック・リソグラフィ」というコンセプトです³。これは、リソグラフィ装置(スキャナー)単体だけでなく、描画されたパターンの精度を測定する計測(Metrology)装置、欠陥を検出する検査(Inspection)装置、そしてこれらすべてを統合制御してプロセス全体を最適化するソフトウェア群を一つのソリューションとして提供する考え方です。このアプローチにおいて、知的財産の価値の源泉は、ハードウェアからソフトウェア、アルゴリズム、そしてデータ解析技術へと大きくシフトします。将来のASMLの競争優位性は、「世界最高の露光装置」というだけでなく、「世界最高のパターン形成ソリューション」という、より抽象的で模倣困難な領域で築かれることになります。

この動きを加速させるのが、人工知能(AI)の爆発的な普及です。AIの進化は、より高性能で電力効率の高い半導体チップへの需要を急増させており、これがHigh-NA EUVのような先端リソグラフィ技術の必要性を高める最大の市場ドライバーとなっていますASMLは、2030年までに年間売上高が440億から600億ユーロに達するという長期的な成長シナリオを描いていますが、その根拠となっているのが、AI時代における半導体の重要性増大と、それに伴うリソグラフィ工程の複雑化・高度化(リソグラフィ・インテンシティの上昇)です⁷, ⁸

興味深いことに、ASMLAIを単なる市場ドライバーとして捉えているだけではありません。同社は、フランスの有力AI企業であるMistral AIとの戦略的パートナーシップを発表するなど¹⁰, ¹²AI技術を自社の製品やサービスに積極的に取り込もうとしています。これは、リソグラフィプロセス自体をAIによって最適化するという、新たな知財フロンティアの開拓を示唆しています。例えば、世界中の顧客の工場で稼働する数千台の装置から得られる膨大な稼働状況、エラーパターン、歩留まりに関するデータを収集・分析し、AIモデルをトレーニングすることで、欠陥の発生を予測したり、最適な露光条件を自動で算出したりすることが可能になるかもしれません。

この展望から導き出されるのは、ASMLのビジネスモデルが「高性能な装置を販売する」モデルから、「顧客の成功(=高い歩留まり)をサービスとして提供する」モデルへと進化しつつあるということです。この新しいビジネスモデルにおける最も価値のある知的財産は、装置の設計図や特許そのもの以上に、その装置群から生成される独自の運用データと、そのデータを解析して価値ある知見を生み出す独自のAIアルゴリズムになる可能性があります。

これは、極めて強力な「データとAIによる堀(モート)」を形成します。ASMLのプラットフォームを利用する顧客が増えれば増えるほど、収集できるデータが増加し、AIモデルはより賢くなります。そして、より賢くなったAIが提供する最適化ソリューションは、プラットフォームの価値をさらに高め、新規顧客を惹きつけ、既存顧客の乗り換えを困難にします。この自己強化的でポジティブなフィードバックループは、一度確立されれば他社が追いつくことはほぼ不可能です。

結論として、ASMLの未来の知財戦略は、High-NA EUVという次世代ハードウェアの独占を基盤としつつ、その上で展開される「ホリスティック・リソグラフィ」というソフトウェアとデータ駆動型のソリューション・プラットフォームの保護に重点が置かれるでしょう。同社は、物理的な機械の製造における独占的地位を、半導体製造プロセスに関するデジタルな知見における独占的地位へと昇華させようとしています。この戦略が成功すれば、ASMLの競争優位性は、単に模倣が困難であるだけでなく、使えば使うほど強固になるという、究極の持続可能性を獲得することになるでしょう。

当章の参考資料

  1. ³ https://www.asml.com/en/investors/annual-report/2024
  2. https://ourbrand.asml.com/m/62a213cac2117ee6/original/2025_01_29-Presentation-Investor-Relations-Q4-FY-2024.pdf
  3. https://www.asml.com/en/news/press-releases/2024/asml-investor-day-2024
  4. ¹⁰ https://www.asml.com/en/news/press-releases
  5. ¹² https://www.globenewswire.com/search/organization/ASML%2520Netherlands%2520BV
  6. ³⁵ https://www.asml.com/en/news/press-releases/2016/zeiss-and-asml-strengthen-partnership-for-next-generation-of-euv-lithography
  7. ⁸² https://www.asml.com/en/products/euv-lithography-systems
  8. ⁸⁸ https://www.asml.com/en/technology/lithography-principles/lenses-and-mirrors

 

戦略的示唆:ASMLの知財戦略から学ぶべき教訓

 

ASMLが半導体リソグラフィ市場で築き上げた圧倒的な地位は、単一の優れた技術や幸運な市場環境によってもたらされたものではありません。それは、数十年にわたり一貫して実行されてきた、包括的かつ多層的な知的財産戦略の必然的な帰結です。ASMLの事例は、特に複雑で資本集約的なハイテク産業において事業を展開する他の企業にとって、多くの貴重な戦略的示唆を与えてくれます。本章では、これまでの分析を総括し、経営、研究開発、事業化の観点から、ASMLの知財戦略から導き出される普遍的な教訓を提示します。

第一に、知的財産を「企業戦略の中核」として位置づけることの重要性です。 多くの企業において、知財部門は、開発された技術を事後的に保護したり、他社からの侵害訴訟に対応したりする、法務部門内の防御的な機能と見なされがちです。しかしASMLは、知財戦略を事業戦略そのものと不可分なものとして捉えています。ムーアの法則を継続させるという事業目標を達成するために、どのような技術を、誰と、どのように開発し、その成果をいかに独占するかという問いが、常に知財戦略の出発点となっています。巨額の研究開発投資、Zeissへの戦略的出資、imecとの共同研究体制といった経営上の最重要判断は、すべてが次世代技術の主導権を知財として確保するという目的と直結しています。この教訓は、経営トップが知財の重要性を深く理解し、事業戦略の策定段階から知財戦略を不可欠な要素として組み込むべきであることを示唆しています。

第二に、閉鎖的な自前主義よりも「管理されたエコシステム」の構築が、より強固な競争優位を生むという点です。 複雑な技術分野では、すべての課題を自社単独で解決することは非効率かつ不可能です。ASMLは、Zeissimecといったパートナーとの間に、共生関係にありながらも排他的なエコシステムを構築しました。このエコシステム内では、オープンイノベーションを通じて業界全体の知見を結集し、開発コストとリスクを分散させることができます。しかし、その成果は最終的にASMLのプラットフォームに統合され、その知財はエコシステム内に囲い込まれます。これにより、ASMLは自社のリソースを最も重要な中核技術に集中させつつ、エコシステム全体のイノベーションの果実を独占的に享受することが可能になっています。これは、単に技術を内製化するよりも、はるかに持続可能で模倣困難な堀(モート)を築くことができる、高度な戦略です。

第三に、すべての知的財産を同等に扱わず、「階層に応じた差別化された防衛戦略」を採ることの有効性です。 ASMLは、自社の知財ポートフォリオを明確に階層化し、その重要度に応じて異なる対応をとっています。液浸リソグラフィのように、市場が成熟し複数の競合が存在する技術分野の特許については、事業の自由度を確保するために現実的なクロスライセンス契約に応じます。これは「取引可能な知財」です。一方で、計算リソグラフィのソースコードのように、競争優位の源泉であり、一度流出すれば回復不可能な損害をもたらす営業秘密は「交渉不可能な至宝」と位置づけ、いかなる侵害に対しても徹底的な法的措置をもって対抗します。この差別化されたアプローチは、リソースを最も重要な資産の保護に集中させると同時に、不必要な紛争を回避し、事業の柔軟性を維持することを可能にします。

第四に、重要技術分野においては、「知財戦略を地政学戦略と統合」する必要があるという、現代的な課題です。 ASMLの事例が示すように、最先端技術はもはや一企業の商業的資産であるだけでなく、国家の経済安全保障を左右する戦略的資産です。したがって、特に半導体、AI、通信、バイオといった戦略的に重要な分野の企業は、自社の知財戦略を策定する上で、輸出規制、投資規制、国家主導の技術窃取といった地政学的な要因を無視することはできません。これには、各国政府の政策動向を常に監視し、規制当局と緊密な対話を行うだけでなく、国家レベルの脅威を想定した高度な情報セキュリティ体制やカウンターインテリジェンス(防諜)の視点を取り入れることが不可欠です。

最後に、競争優位の未来が「データの堀(データ・モート)」にあることを認識し、その準備を始めるべきであるという点です。 ASMLの戦略が示唆する未来は、ハードウェアの性能競争から、データを活用したソリューション提供能力の競争へと移行する姿です。同社は、世界中の最先端工場で稼働する自社装置から得られる、他社には決して真似のできない独自の高品質な運用データを生成・収集する立場にあります。このデータを活用して訓練されたAIモデルは、顧客に比類なき価値(歩留まりの向上)を提供し、顧客を自社プラットフォームにさらに強く結びつけます。この「データとAIによる堀」は、一度構築されると後発企業が追いつくことは極めて困難です。他の多くの産業においても、独自の価値あるデータを生成・制御するビジネスモデルを構築し、それを知的財産として保護・活用する戦略を今から構想することが、将来の競争力を決定づける鍵となるでしょう。

これらの教訓は、ASMLという特異な企業の成功物語に留まるものではありません。技術の進化が加速し、グローバルな競争環境が複雑化する現代において、すべての企業が自社の知的財産をいかに戦略的に創造し、保護し、活用するかを再考するための、普遍的な指針を提供するものです。

 

総括

 

本レポートは、ASMLの知的財産戦略が、単なる法的防御手段ではなく、同社の技術的独占と市場支配を支える、能動的かつ多層的な事業戦略の核心であることを明らかにした。その戦略は、巨額の研究開発投資による圧倒的な知財創出、代替不可能なパートナーとの排他的エコシステム構築、状況に応じた柔軟なライセンス・訴訟戦略、そして地政学的環境への巧みな適応という四つの柱から構成されている。

ASMLは、特許ポートフォリオの量と質で競合を圧倒する「特許の要塞」を築き上げる一方、Carl Zeissimecとの深い連携を通じて、イノベーションの源流そのものを支配下に置いている。このエコシステムは、共同で技術開発を加速させると同時に、その成果を知的財産として囲い込み、競合他社を構造的に排除する強力なメカニズムとして機能している。さらに、同社は知的財産を階層化し、成熟技術の特許は市場安定のために取引する一方、競争力の根幹をなす営業秘密は断固として守り抜くという、洗練された攻守一体の活用法を実践している。

この盤石な知財の城壁に対し、今日、最大の脅威となっているのは、もはや商業的な競合他社ではない。米中技術覇権競争の激化は、ASMLの最先端技術を国家安全保障の領域へと引き込み、輸出規制という形でその商業的活用を直接的に制約している。同時に、技術の戦略的重要性の高まりは、国家が背後にいる可能性のある、より高度で執拗な技術窃取のリスクを増大させている。

今後の意思決定において、経営陣、研究開発責任者、そして投資家が留意すべきは、ASMLの競争優位の源泉が、物理的な装置から、ソフトウェア、そして運用データに裏打ちされたAIによる最適化ソリューションへと移行しつつあるという点である。この「データの堀」は、将来的にASMLの独占をさらに揺るぎないものにする可能性を秘めている。したがって、ASMLの持続的成長を評価する上での最重要論点は、同社がこの地政学的な荒波を乗りこなし、複雑巨大化するエコシステム全体を国家レベルの脅威から守り抜き、次世代のデータ駆動型知財への移行を成功させられるかどうかにかかっている。ASMLの未来は、もはや技術ロードマップだけでなく、地政学的な地図の上で描かれることになるだろう。

 

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【本レポートについて】

本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。

情報の性質

  • 公開特許情報、企業発表等の公開データに基づく分析です
  • 2025年10月時点の情報に基づきます
  • 企業の非公開戦略や内部情報は含まれません
  • 分析の正確性を期していますが、完全性は保証いたしかねます

ご利用にあたって
本レポートは知財動向把握の参考資料としてご活用ください。 重要なビジネス判断の際は、最新の一次情報の確認および専門家へのご相談を推奨します。

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