3行まとめ
防御から協調へ:約6万件の特許を無償開放
マイクロソフトは2018年にOIN(Open Invention Network)に加入し、約6万件の特許をLinux関連技術に無償開放。かつて「Linuxは知的財産の癌」と批判していた同社が、オープンソースとの共存を図る協調路線へ大転換した。
収益モデルの転換:年間20億ドルから顧客保護戦略へ
2013年にAndroid特許ライセンスで年間約20億ドルの収益を得ていたが、近年は直接収益よりもAzure IP Advantageで1万件の特許を顧客に提供し訴訟リスクから守る戦略にシフト。特許を攻撃的収益源から顧客価値創出の手段へと再定義した。
AIとクラウド時代の知財戦略:独占と共有のバランス
R&D投資243億ドル(2023年度)を背景に、コア技術は特許で保護しつつ周辺領域では開放する戦略を推進。今後はAIやクラウド分野で「知財エコシステム全体の健全性」を重視し、協調と独占のメリハリある運用で持続的成長を目指す。
この記事の内容
背景: マイクロソフトは1975年創業以来ソフトウェア製品で成功を収め、その競争力の源泉として知的財産を重視してきました。1980年代にはPC用基本ソフト市場を独占する中で、他社による模倣やソフトウェア海賊版の横行に直面し、知財保護の必要性を強く認識しました。ビル・ゲイツ氏が1976年に発表した「ホビイストへの公開書簡」では、ソフトウェアも著作権で守られるべき資産であり無断コピーは開発者の努力を損なうと訴えています。この思想は同社文化に根付き、「知的財産=価値の源泉」との考えが早期から明確でした。
1990年代から2000年代にかけ、マイクロソフトはWindowsやOfficeなどのソフトウェア著作権保護はもちろん、ソフトウェア特許の取得にも乗り出しました。米国でソフトウェア関連発明の特許付与が本格化したのは1980年代後半以降ですが、同社はその流れを捉え自社技術の特許化を推進しました。1990年代後半には特許取得件数でIBMなどと並び業界トップクラスとなり、2000年代には特許ポートフォリオを攻守両面で活用し始めます。当時は他社から同社への特許侵害訴訟も増え始めたため(例:1999年のサンとのJava関連係争、2007年のEolas社によるブラウザ特許訴訟等)、特許クロスライセンス締結や買収を通じて防御力を高める方向に舵を切りました。
一方で2000年代にはLinuxを代表とするオープンソースソフトウェア(OSS)の台頭がありました。旧経営陣(スティーブ・バルマーCEO期)はLinuxを「知的財産の癌」と強い言葉で批判し、自社特許がOSSに侵害されているとして法的措置の可能性を示唆するなど、当初は対決姿勢が目立ちました。しかしこうした強硬路線はITコミュニティからの反発を招き、またクラウド時代の到来でOSSとの共存が不可避になる中、路線修正を迫られます。2014年にサティア・ナデラ氏がCEOに就任すると「Microsoft ❤️ Linux(マイクロソフトはLinuxを愛している)」と自ら発言するなど姿勢転換が鮮明になり、OSSとの協調を前提に知財戦略も変革しました[26]。
以上の歴史的経緯を踏まえ、マイクロソフトの知財戦略には「自社技術を守り収益化する伝統」と「オープンな技術共有を通じ市場全体を拡大する革新」の二面性が織り込まれています。同社は現在、知財を単なる独占権として行使するだけでなく、パートナーや顧客のイノベーションを促進するための資源と捉え直しています[25][27]。この背景には、自社プラットフォーム(Windows, Azure等)上で他社が安心して開発・提供できる環境を整えることが、長期的に自社の利益につながるとの戦略判断があります。当章以降では、この基本方針を軸にマイクロソフトの知財戦略を詳細に分析します。
基本方針: マイクロソフトの知財戦略の基本方針は、一言でいえば「イノベーションの促進と保護の両立」です。同社法務部門は「責任ある知的財産の管理」を掲げ、健全な特許システムがイノベーションを促進すると強調しています[4]。具体的なポリシーとしては以下のような点が挙げられます。
以上のように、マイクロソフトの知財戦略の基本には「技術革新を促進しつつ、自社と顧客の利益を最大化する」という整合的なポリシーが存在します[25][27]。知財を盾に競合を排除するだけでなく、知財を橋渡しに協業や市場拡大を図るという両面戦略が、同社の基本方針として定着していると言えるでしょう。
知財資産の全体像: マイクロソフトは現在、世界中で数万件規模の特許群と膨大なソフトウェア著作物・商標を保有しています。その全体像を捉える一つの指標として、前述の通り2015年時点で約5.7万件の有効特許を保有していました[7]。その後も毎年数千件規模の特許取得を継続しているため、2025年現在の累積特許保有件数は6万件台後半に達している可能性があります。もっとも特許は20年で期限切れとなるため、単純な累計ではなく毎年の出願・権利維持動向も考慮する必要があります。近年の米国特許付与ランキングでは、マイクロソフトは取得件数で5位前後(IBMやサムスン電子、キヤノン、アルファベット〔グーグル〕などに次ぐ水準)に位置しています[33]。またAI関連やクラウド関連といったカテゴリー別でもトップ5に入る存在感を示しています[24]。
地域別には、米国特許商標庁(USPTO)での登録が最も多く、次いで欧州特許庁(EPO)、中国国家知識産権局(CNIPA)、日本特許庁(JPO)と主要市場に広く出願しています。同社は売上の約半分以上を米国以外から得ているグローバル企業であるため、知財もグローバル対応が必須です。特許以外にも数千件規模の商標(製品名・サービス名・ロゴ等)を世界各国で登録し、自社ブランドを守っています。著作権ではWindowsやOfficeのプログラム、Xboxゲーム、クラウドサービスコンテンツまで幅広く自動的に保護されており、これらも知財資産として重要です。また営業秘密(トレードシークレット)として公開せず社内管理している技術情報も数多くあります。特許化するより秘匿した方が競争優位となる技術(例:コカ・コーラのレシピのようなもの)は秘密として扱われますが、マイクロソフトの場合ソフトウェアのソースコード(Windowsの内部実装など)が典型例でしょう。同社は政府機関向けにソースコードの一部開示プログラムを持つものの、基本的には商業ソフトウェアのソースコードは非公開が原則です。
収益モデル上の位置付け: マイクロソフトの収益において、知財(特許やライセンス供与)が直接占める割合は年によって変動します。2010年代前半には、特許ライセンス収入が推定で年間数十億ドル規模に達し、営業利益にも大きく寄与していました[11]。例えばNomura証券の分析によれば2013年時点でAndroid関連特許ライセンスだけで年間約20億ドルの収益があり、しかもその95%が純利益(コストがほとんどかからないロイヤリティ収入)だったとされています[34][35]。これは当時マイクロソフトの営業利益全体(2013年約270億ドル)の約7%強に相当し、知財が一事業として無視できない規模だったことが伺えます。
しかし近年、この構造には変化が生じています。Androidメーカーからの特許料収入は、マイクロソフト自身がスマートフォン事業を終了したことや、主要メーカーとのクロスライセンス締結(訴訟でなく相互利用合意)により徐々に減少したとみられます[36]。実際、サムスンとは2014年に特許係争を経て和解・クロスライセンス契約を締結し、それ以降サムスンからの単独ロイヤリティ収入は開示されていません。また2018年のOIN加入により、Android/Linux関連の特許についてメンバー企業に対してはロイヤリティ請求しない方針となったため、将来的な収益源としての特許ライセンスビジネスは縮小傾向です[11][37]。IBMのように毎年安定的に特許収入を稼ぐモデルとは異なり、マイクロソフトは知財収益をあくまで副次的なものと位置づけ、主力のクラウド・ソフトウェア製品の売上拡大を優先する方向へシフトしています。ただし知財は直接収益よりも交渉力や市場牽制に有効な戦略資産であるため、引き続きライセンス契約から生まれるロイヤリティ以外の価値(例えば他社からの技術提供やAzure採用促進など間接的利益)は享受していると考えられます。
組織体制: マイクロソフトの知財関連業務は、最高法務責任者(President兼Chief Legal Officerであるブラッド・スミス氏が長年担当)の指揮下にあります。法務・渉外を統括するCELA部門(Corporate, External, and Legal Affairs)が社内の知財チームを擁し、特許出願管理から契約交渉、訴訟対応まで一元管理しています。同部門には元エンジニア出身の弁理士や特許弁護士が多数在籍しており、自社技術に精通した専門家集団である点が特徴です。
組織構造として特筆すべきは、2014年に設立されたMicrosoft Technology Licensing LLC (MTL)です。これはマイクロソフトの完全子会社で、文字通り特許資産の管理とライセンス契約を専業とする法人です[9]。大企業が知財管理専門会社を設立する例は他にもあります(例えばパナソニックの子会社Panasonic Intellectual Property Corp.など)が、マイクロソフトの場合MTLが対外的な特許ライセンス契約の主体となるケースが多いようです。実際、特許譲渡やライセンスの公的記録(USPTOへの譲渡登録など)でもMTL名義が登場します。これは、大量の契約処理を円滑化し法的リスクを限定する目的と思われます。たとえば特許侵害での訴訟リスクを本体から切り離し、MTLとして行うことで本社資産への影響を抑える狙いも推察されます。
MTLはまた、先述のAzure IP Advantageプログラムの運営にも関与しています。このプログラムで提供される1万件の特許リストも、MTL保有の権利群から選定されています[18]。エンジニアリング部門(Azure開発チームなど)と法務部門(MTLチーム)が連携して、クラウドビジネス戦略に資する知財活用策を設計しているわけです。こうした部門横断の仕組みは、知財戦略を経営戦略に緊密に統合するうえで重要な役割を果たしています。
さらに知財訴訟対応チームも社内に置かれています。マイクロソフトは世界各地で毎年多数の知財係争案件(特に特許訴訟)を抱えますが、社内弁護士と外部弁護士事務所を組み合わせて防御・攻撃の双方を遂行しています。著名なケースでは、2010年前後にモトローラ(当時Google傘下)と相互に多数の特許侵害訴訟を提起し合った例があります[38][39]。この時マイクロソフトは、モトローラによる標準必須特許のライセンス提供義務違反を主張し(いわゆるFRAND紛争)[39]、一方で自社のAndroid関連特許侵害でも反訴しました[40]。結果的に和解しましたが、こうした大規模訴訟戦も支える専門部隊があるわけです。また近年はNPE(特許非実施主体)による訴訟にも対処が必要で、社内には特許トロール対策チームも存在します。LOT Network加盟や他企業との共同行動(例:Unified Patentsへの参画など)も、このチームが中心となり推進していると考えられます。
技術部門との連携: マイクロソフトの知財創出の源泉は研究開発部門です。同社は2023年度に約243億ドルを研究開発費に投入しており(売上高の12%程度)、世界有数のR&D企業です[41]。社内には基礎研究部門のMicrosoft Researchと製品開発部門があり、前者は学術寄りの研究成果(論文・プロトタイプなど)も多数生み出します。知財部門は発明の発掘を奨励するため、発明報奨金制度を設け研究者からの発明届出を受け付けています。届出が特許出願に至れば発明者に報酬が支払われ、さらに特許登録され商業上重要と認められれば追加報奨がある仕組みです。マイクロソフトは長年発明者への報奨金額を公表していませんが、一般的な米IT企業(例: IBMで1件$1,500程度)と同等かそれ以上を支給していると推測されます。この制度によって従業員の知財意識を高め、会社への発明帰属を円滑にしています。
組織体制として重要な点をまとめると、「経営層-法務(MTL)-技術部門」が三位一体となった知財戦略運営がマイクロソフトの強みです。知財は法務事項に留まらず、ビジネス戦略・技術戦略と表裏一体であるとの共通認識が社内に浸透しています。その結果、特許を取得するか公開するか、ライセンス供与するか自社専有にするかといった判断が、経営目線で行われます。組織面の整備と文化醸成により、知財戦略が全社戦略の有機的な一部となっている点が、同社の全体像と言えるでしょう。
マイクロソフトの知財戦略を深掘りするにあたり、まず技術領域別の動向を分析します。同社は幅広い技術分野で事業展開していますが、知財の重点配分は各領域の戦略的重要性に応じて異なります。主要な技術領域ごとに特許・知財戦略の特徴を整理します。
OS(オペレーティングシステム): Windowsに代表される基本ソフト分野は伝統的にマイクロソフトの中核事業であり、知財による参入障壁の構築が図られてきました。Windows関連ではユーザインタフェース、ファイルシステム、ネットワークプロトコルなど多岐にわたる特許を保有し、競合OSへの技術流出を防いでいます。例えばファイルシステム「exFAT」に関する特許群は同社が積極的に管理してきた技術の一つです。exFATはSDカードなどで使われるファイル形式ですが、マイクロソフトは各機器メーカーにライセンス供与することで事実上標準化させました[12][43]。ただし近年このexFATについてはLinuxカーネルに組み込むため、2020年に特許をOIN経由で開放しOSSでの利用を認める決定をしています。これはOS分野でもクローズ戦略一辺倒でなく、普及と互換性を優先して知財方針を調整した例といえます。
Windows OS自体のGUI操作や機能に関する特許も多数存在しますが、近年はクラウド時代を見据えOS単体の権利行使は控えめとの見方があります。というのもPC向けOS市場ではWindowsが事実上独占に近く、特許侵害で争う相手が乏しい状況です(過去にLinuxデスクトップへの権利主張は示唆したものの、大きな訴訟には至っていません)。むしろWindows関連技術は他社ソフトとの相互運用性確保が重視され、「オープンスペック計画」としてWindowsの各種通信プロトコルやファイル形式の技術情報を公開する取り組みも行われました[44]。これは2004年の欧州委員会による独占禁止法措置への対応として始まったものですが、結果として開発者がWindowsと連携しやすい環境が整い、Windowsの市場地位維持に貢献しています。このようにOS領域では、コア部分の秘匿と周辺部分の公開を使い分け、知財で競争力を担保しつつエコシステムとの両立を図る戦略がとられています。
クラウド(Azure): クラウドサービス分野は現在のマイクロソフトの成長ドライバーであり、知財戦略上も最重要領域です。同社はAzureクラウド基盤に関連する発明を数多く特許出願しており、例えばデータセンター管理、仮想化技術、分散データベース、AIサービス基盤などに多数の特許が存在します。外部分析では「もしAzure関連特許群を一社が保有すれば世界第3位の質量を持つ」と評価されたほどで[45]、クラウドインフラ技術での知財蓄積は競合のAmazonやGoogleに比べても豊富と見られます[46]。もっとも、クラウド領域では特許係争は表面化していません。主要プレイヤー同士(Microsoft, Amazon, Google, IBM, Oracle等)は相互に多分野で特許を持つため、暗黙の相互抑止が働いている可能性があります。もし訴訟合戦になれば泥沼化するリスクが高く、各社クラウド特許は専ら自衛(ディフェンシブ)目的で保有していると推察されます。この点、Azure IP Advantageで提供する特許ピック(後述)は、万一クラウド顧客が他社から訴えられた際に反撃材料として使えることを意図しています[18][47]。つまり同社自身はクラウド特許で他社を訴えない代わり、顧客を守る盾として活用するという防御的戦略を採用しています。
ビジネスアプリケーション: Officeスイート(Word, Excel, PowerPointなど)やDynamics(業務アプリ)は、長年の開発で多くの独自技術を蓄積しています。これらのUI操作性向上の発明や、編集機能に関する特許も多岐にわたります。ただ、アプリケーションソフト分野では直接的な特許訴訟は目立っていません。他社オフィス製品(LibreOfficeなど)はオープンソースで開発されているため、ここに特許行使すると反発が大きくリスクが高いのも一因でしょう。その代わり、マイクロソフトはファイル形式の標準化を通じて間接的に知財優位を保ちました。Office Open XML形式をISO標準に押し上げる過程で、自社の文書形式特許を無料で実装可能にする措置を取り(標準必須特許としてFRAND提供)[48][49]、結果としてOffice互換ソフトでもマイクロソフトの知財を一定程度利用できる代わりにフォーマット主導権は同社が握る形を作りました。アプリ領域ではこのように仕様特許の戦略的開放が競争戦略と結びついています。
マイクロソフトはソフトウェア企業のイメージが強いものの、SurfaceシリーズやXbox、周辺機器などハードウェア開発も手掛けており、その知財戦略も存在します。とりわけXboxゲーム機は独自設計のハードとソフトの融合製品であり、関連するグラフィックス処理技術やコントローラ、通信プロトコルなどで特許を保有しています。ゲーム機市場では任天堂・ソニーとの競争がありますが、これまで特許係争は表面化していません。各社が暗黙の了解で干渉を避けているか、事前にクロスライセンス合意がある可能性があります。実際、マイクロソフトとソニーは2019年にクラウドゲーミングなどで戦略提携を発表しており、その中で特許クロスライセンスも含まれていると報じられています(正式な契約詳細は非公開)。
PC周辺機器(マウスやキーボード等)やSurfaceタブレットでは、エルゴノミクスデザインや特殊ヒンジ構造などの特許出願があります。ただこの領域も模倣品対策は主に意匠権や商標で行い、特許で他社を訴える動きは限定的です。ハードウェアではアップルのように積極的に特許訴訟を提起する例(例:スマホのスライド解除特許訴訟など)もありますが、マイクロソフトはむしろ特許交渉で解決する傾向です。例えばAndroidデバイスを製造するFoxconn(鴻海)やDell、Acerなどとは、2013~2014年に特許ライセンス契約を結び[50][51]、Chrome OS・Androidデバイスの製造にマイクロソフトの特許実施料を課す代わりに係争しないという形を取りました。これにより自社が直接製造しないPC・スマホ分野からもライセンス収入を得つつ、デバイス市場での影響力を維持しました。
またIoT(モノのインターネット)分野では、2016年頃から車載や産業機器メーカーとの提携・ライセンス供与が増えました。例えばトヨタ自動車とは車載OSで協業し特許の相互利用関係にありますし、2016年にはRakuten(楽天)と家電領域での特許クロスライセンス契約を締結しています[52]。IoTは異業種との連携が不可欠であり、異なる業界同士の特許クロスライセンスでWin-Winを図る戦略が見て取れます。マイクロソフトが強みを持つ通信・クラウド技術特許と、電機メーカー側のセンサーや機器制御特許とを交換することで、双方が包括的に技術を使える環境を整えています。
半導体設計については、マイクロソフト自身は製造工場を持たず、SurfaceやXbox向けに他社(Intel, AMD, Qualcomm等)のチップを採用する立場です。しかし近年は専用チップ(例えばクラウド用AIプロセッサやXbox用のカスタムSoC)の共同開発も行っており、この分野の知財も蓄積しつつあります。競合のGoogleやAmazonが独自半導体を設計し特許出願しているのと同様、マイクロソフトもFPGA(Intel傘下のAlteraとの連携で生まれたAzure向けアクセラレータ)などの分野で特許を取得しています。ただし半導体分野の特許訴訟は高度で、専門プレイヤー(半導体企業)も絡むため、当面は大きな知財係争には発展していません。いずれにせよ、ハードウェア領域では直接的な特許紛争は極力避け、提携とライセンスで処理するのがマイクロソフトのスタンスです。
マイクロソフトは将来を見据え、AI(人工知能)、MR(複合現実)、量子コンピューティングといった新技術にも研究開発投資を行っています。これらの領域では知財の取り扱いも新たな挑戦となっています。
AI(人工知能): AI分野は急速に発展しており、機械学習アルゴリズムや大規模言語モデル、クラウドAIサービスなど広範囲です。同社は機械学習の基盤技術(ニューラルネットワークの最適化、分散学習手法など)に関して相当数の特許出願を行っています。ただ、AIアルゴリズム自体は数学的手法であるため特許が認められにくい面もあります。そのためソフトウェア特許に対する審査基準の変化(2014年の米国最高裁Alice判決以降、抽象的アルゴリズムは特許適格性が厳格化)がAI特許戦略に影を落としています。マイクロソフトはこの流れに対応し、アルゴリズム単体よりAIの応用(応用システムやハードとの組み合わせ)に特許クレームを書くなど工夫しているようです。またAIモデルの学習に必要な大規模データやクラウド計算資源自体は特許で守れないため、営業秘密(モデルの重みやノウハウを非公開)として囲い込む戦略も並行しています。
一方でAI分野はオープンソースコミュニティも活発で、マイクロソフトはOpenAI社との協業を通じてGPT系モデルをサービス提供するなど、開発スピードを優先しています。知財上の課題として、生成AIの出力物の著作権やトレーニングデータの権利など未整備な点が多く、業界としてルール形成段階です。マイクロソフトは自社のAIサービス利用者を守るため、Copilot等のAI搭載ソフト利用で第三者から著作権侵害で訴えられた場合の補償を約束するなど(2023年の発表)、プロバイダとして法的リスクを引き受ける姿勢を示しつつあります。これは知財リスクを恐れてAI活用を躊躇する顧客に対し、安心材料を提供する戦略であり、Azure IP AdvantageのAI版とも言えるでしょう。総じてAI領域では、「特許で囲い込む部分」と「開放して普及を促す部分」を選別しつつ、契約上の保護で顧客を支えるアプローチが見られます。
MR(複合現実): HoloLensに代表されるMRデバイスは、マイクロソフトが先行する分野です。MRゴーグルのハードウェア(光学系、センサー、ディスプレイ制御)からソフトウェア(空間マッピング、ジェスチャー認識)まで社内技術を投入しており、この分野での特許出願も活発です。競合にはMagic Leapやメタ(旧Facebook)などがありますが、HoloLens技術に関するコア特許はマイクロソフトが押さえていると考えられます。実際、HoloLensの開発リードだったAlex Kipman氏らの名で多数の特許が米国出願されています。MR分野は市場自体が新しく、標準も確立していないため、知財を将来の交渉カードとして蓄積している段階です。同社は他社MRとの相互運用(例えば共有プラットフォームMeshの構想)も提唱しており、その際は特許クロスライセンス交渉が必要になるでしょう。まだ大きな特許訴訟は起きていませんが、MRが次世代の主要プラットフォームになれば知財紛争も発生し得ます。マイクロソフトはその時に備え、自社の基本特許ポートフォリオを構築している段階と見られます。
量子コンピューティング: 将来的なブレークスルーが期待される量子計算分野にも、マイクロソフトは研究投資しています。ただし量子アニーリング方式で先行するカナダD-Wave社や、超伝導量子ビット開発のGoogle・IBMなど、競合も限られた世界です。マイクロソフトはトポロジカル量子ビットという独自路線を追求してきましたが、未だ実用化に至っていません。知財面では、量子アルゴリズムや量子エラー訂正などに一部特許出願がありますが、装置そのものの特許は他社と比べ目立ちません。これは量子技術の不確実性から来る慎重さでしょう。しかしソフトウェア会社らしく、量子コンピュータのシミュレーション技術や開発ツールについては特許出願が確認されています。今後量子分野で各社がしのぎを削る際には、マイクロソフトも持ち前のソフトウェア資産(量子言語Q#やAzure Quantumプラットフォーム)を活かし、関連知財でポジションを確保するとみられます。現時点では実用段階でないため表立った知財戦略は見えにくいですが、「将来の果実」に備えた知財の先行取得という点で他の先端企業同様に動いていると推察されます。
以上、技術領域ごとの戦略を概観すると、成熟領域では知財を駆使して独占力を維持し、新興領域では将来のための知財投資と業界整合を図るというメリハリが見て取れます。マイクロソフトは自社ビジネスのライフサイクルに応じ、知財戦術を変化させているのです。
マイクロソフトの知財戦略は技術分野だけでなく、市場セグメントや顧客層ごとにも異なるアプローチがとられています。同社が事業展開するコンシューマー市場、企業(エンタープライズ)市場、新興国市場など、それぞれで知財活用の重点や課題が異なるためです。本章では市場・顧客別視点での知財戦略を分析します。
個人ユーザーを対象とするWindows搭載PCやXbox、Office個人版、スマホ関連サービスなどでは、ブランド価値とコンテンツ保護が重視されます。まず商標戦略として、「Windows」「Microsoft」「Xbox」等のブランドを世界各国で商標登録し、不正利用を防止しています。特に「Windows」は汎用名詞化する恐れもあったため、一貫して商標として扱い、「ウィンドウズ」という語が一般的にOSを指す代名詞にならないよう管理してきました。またXboxのロゴやキャラクターなども含めエコシステム全体でブランド保護を行っています[54]。
コンシューマー市場では違法コピー対策も重要です。ソフトウェア著作権侵害(海賊版)は90年代から大きな問題でしたが、マイクロソフトは技術的手段(プロダクトキー認証やWindows Genuine Advantageプログラム)と法的手段(大規模な海賊版業者への訴訟)を組み合わせ、違法コピー率の高かった市場(中国など)で徐々に改善を図りました。中国では2000年代後半に政府と協力して海賊版取締りキャンペーンを展開し、また低価格版OSの提供など柔軟策も取り入れました。こうした対策は知財戦略の一環であり、価格政策と権利行使を組み合わせて市場フォローする例と言えます。
また、コンテンツ分野では著作権管理が前面に出ます。例えばXbox向けゲームや音楽・映像配信サービスでは、DRM(デジタル権利管理)技術によるコピーガードやライセンス認証を用いており、これ自体もマイクロソフトの知財(特許技術)です。さらに第三者コンテンツとの契約でも、自社プラットフォーム上の権利処理を周到に行っています。消費者に直接提供するサービスでは、知財侵害が発生すれば企業イメージ失墜につながるため、利用許諾契約(EULA)やサービス規約で利用者にも遵守を求めています[48]。
興味深いのは、消費者訴求のための知財の使い方です。マイクロソフトは近年、消費者に「当社製品を使うことで知財リスクが低減する」というプロモーションをすることがあります。例えばOffice 365とGoogle Docsを比較し、マイクロソフト製品は商用利用時に特許侵害訴訟から全面的にユーザーを保護する(必要なら代わりに戦う)が、Googleの無料サービスはそうした明確な補償がない、とアピールしたことがあります[55]。これは企業向けメッセージにも思えますが、中小含む幅広いユーザーへのアピールとしても機能します。つまり「マイクロソフト製品なら安心」というブランドイメージを醸成し、知財保証を付加価値として提供する戦略です。
マイクロソフトの主要顧客である企業や官公庁向けには、知財戦略も一層緻密です。企業は自社が使うソフトやクラウドサービスが第三者特許を侵害していないか、常に不安を抱えています。その不安を解消し採用を促すため、マイクロソフトは利用者への知財補償を契約上明文化しています。典型例がエンタープライズ契約における特許補償条項です。Microsoftは大口契約で「当社製品の利用に起因して第三者から知財侵害で訴えられた場合、マイクロソフトが代わりに対応し必要なら損害賠償金を支払う」という補償を約束します。これは知財インデムニティ(Indemnification)と呼ばれ、エンタープライズ分野では一般的ですが、マイクロソフトはその範囲を広く取り、オープンソース部分まで含めるケース(Azure IP Advantageではオープンソース由来サービスも対象[55])も示しています。
さらに、2017年開始のAzure IP Advantageでは、クラウド利用企業が被る特許リスクを包括的にカバーしました[56]。これは単なる訴訟補償にとどまらず、前述の通り10,000件の特許利用権提供やスプリンギングライセンスといった攻めの対策も含まれます。エンタープライズ顧客にとって、これだけの保護があれば安心してAzureを採用でき、仮に競合クラウドより料金が高くても価値を感じるでしょう。実際、Azure IP Advantage発表時には多くの顧客企業から支持コメントが寄せられました[57]。
官公庁向けには、知財よりセキュリティと信頼性が強調されますが、知財面でも例えば政府機関向け特許ライセンス優遇や、ソースコード開示(中国やロシア政府が要求)の範囲調整など、特殊な対応がみられます。マイクロソフトは各国政府との間でGovernment Security Program (GSP)を結び、Windows等の源コード閲覧を許可しつつ知財保護も担保する仕組みを導入しています。これは知財そのものではありませんが、知財(ソースコード著作権)を守りながら顧客の信頼を得る戦略です。
エンタープライズ市場ではまた、他社商用ソフトとの知財摩擦も問題になります。顕著だったのがLinux対Windowsの競合時代です。Linux導入企業に対し、マイクロソフトは「Linuxにはマイクロソフトの特許が数百件含まれている可能性があるが、NovellのSUSE Linuxを使えばマイクロソフトとの特許協約下にあるため安全だ」といった宣伝を2006年に行いました(Novellとの協業契約による)[58]。これは競合OSSを選ぶ顧客に対し、知財リスクを印象付け自社陣営(Windowsまたは提携Linux)に引き込む戦略でした。賛否を呼びましたが、結果としてNovellとの提携は数年続き、その間SUSE Linux採用企業はマイクロソフトが訴えないという安心感を得ました。現在はLinux全般に対し特許不行使の方向に転じましたが、エンタープライズ顧客を囲い込む手段として知財リスクを操作する一例でした。
新興国や中小企業は、知財戦略上コスト意識が高く、違法コピーやライセンス無視も起こりやすいセグメントです。マイクロソフトはこの層に対し、海賊版対策と普及促進の両面作戦を取ってきました。前述したように、中国では低価格版OS(スタータエディション等)提供や学生向け無償プログラムを行う一方、悪質業者には法的措置も実行しました。結果として、中国におけるWindows正規版使用率は徐々に改善し、現在では企業用途では高い割合で正規ライセンスが使われるようになったと報告されています(ただし依然個人利用では非正規も多い)。
インドや東南アジアでも類似の取り組みを実施し、各国政府と協力した知財教育キャンペーン(知財の重要性を啓発するセミナー開催等)も行いました。これは業界団体BSA(Business Software Alliance)の一員としての活動でもあり、マクロな視点で市場全体の知財遵守レベルを上げることに貢献しています。
中小企業向けには、過度に厳しい知財行使は評判悪化に繋がるため、柔軟な対応がみられます。例えば小規模企業でライセンス違反が判明しても直ちに訴訟にせず、まずは正規版へのアップグレード提案や一時的救済措置を提示するケースがあります。また、中小にはオープンソース利用も多いことから、前述のAzure IP Advantageで「オープンソース基盤上のサービスでも守る」と謳ったのはこの層へのメッセージでもあります[17]。つまり「マイクロソフトを使えば、オープンソースを含め全て面倒を見る」とアピールすることで、OSSに詳しくない中小IT部門でも安心感を得られるわけです。
さらに特許トロール訴訟では、中小企業が標的にされやすい問題があります。LOT Networkの調査では、特許訴訟を受けた中小企業の4割が「事業に深刻な影響」を被ったと報告されています[59]。マイクロソフトがLOT Networkに加盟したのも、自社コミュニティのパートナーや顧客(多くは中小を含む)を特許リスクから守る狙いがあります[3]。自社が関与しないNPE訴訟でも、LOT Network参加企業同士であれば特許譲渡時に相互にライセンスが発動し訴訟を防げます。コミュニティ全体の防衛策としてマイクロソフトが参加を表明したことは、中小含む広範なエコシステムへの貢献と評価されました。
まとめると、新興国や中小企業市場では、過剰な知財行使は避けつつ教育や補償で信頼を醸成するのがマイクロソフトの戦略です。知財は本来大企業に有利な武器ですが、それを弱者保護にも使うことで長期的な市場育成につなげています。同社の知財戦略は単に権利主張するだけでなく、顧客セグメントごとに最適化されたアプローチで市場拡大とブランド向上を図っている点が特徴と言えるでしょう。
マイクロソフトの知財戦略を企業収益モデルの観点から見ると、知財を直接収益化するモデルと知財で本業収益を支えるモデルの両面があります。本章では、ライセンス収入など直接モデルと、顧客囲い込みなど間接モデルの2軸で分析します。
前述の通り、マイクロソフトは特許ライセンス事業を2000年代以降本格化させ、大きな収入源としてきました。その典型がAndroidデバイスからのロイヤリティ収入です。2010年頃から、Androidスマホメーカー(HTC、サムスン、LG、ソニーなど)は次々とマイクロソフトと特許ライセンス契約を締結しました[50][13]。各契約の詳細は秘密ですが、多くは1台あたり数ドルの料率と言われ、2013年時点で推定年間20億ドル規模に達したとされています[11]。これにより、マイクロソフトは自社がシェアを取れなかったスマホ市場からも安定収入を得ることに成功しました。いわば「他社成功の上前をはねる」収益モデルであり、一部では批判的に「Android税」とも呼ばれました。しかし特許権者としては合法的な収益化であり、この資金がWindows Phoneなど自社モバイル戦略の穴埋めになった面もあります。
さらに過去には、特許売却による収入も発生しています。例えば2011年にNortel特許をコンソーシアムで買収した後、一部特許を他社に転売または実施許諾して収益を上げています。また自社不要となった特許を知財仲介会社に売却することもあり、表には出ませんが資産売却益として計上されるケースもあります。こうしたポートフォリオの整理売却は定期的に行われ、現金化することで知財部門が利益センターとして貢献することもあるようです。
ただし近年、この直接収入モデルは縮小傾向です。理由は、(1)大口契約が一巡したこと、(2)クロスライセンス化により純支払いが減ったこと、(3)同社が知財を攻撃的に使わなくなったこと、です。実際、IBMのように毎年10億ドル超を特許ライセンスで稼ぐ企業と比べ、マイクロソフトは2020年代に入り特許収入が減少しています。公開情報は限定されますが、IBMの2018年特許収入約12億ドル[60]に対し、マイクロソフトは特許を含む「ライセンス&その他収入」で数億ドル規模との推計があります[61]。この差は、マイクロソフトが収益源としての特許ビジネスより、クラウドやサブスクリプション本業に集中していることを示唆します。
それでも特許ライセンスは完全になくなったわけではありません。例えばIoT分野では、新規にマイクロソフトの特許を利用する企業からロイヤリティ収入が発生しています。2018年にはAzure Sphere関連技術をシリコンメーカーMediaTekにライセンスする契約を結んだ例があります。また車載分野でも、コネクテッドカー技術で特許収入を得始めていると報じられます[12]。このように新規領域からの特許収入開拓は続いており、特許ライセンス事業の種は絶やしていません。
また、技術ライセンスプログラムも収益モデルの一環です。同社は必要に応じソースコードライセンス(Windows Embedded向けに一部ソース開示しOEMにライセンス)や、各種プロトコルの実装ライセンスを提供しています[48]。例えば前述のWindows通信プロトコル開示プログラムでは、有償で仕様特許の使用を許諾することで多少の収益を上げています。規模は特許ライセンスほど大きくないものの、技術提供サービスとして売上計上されています。
なお、知財訴訟の和解金も潜在的収益です。マイクロソフトは自ら訴訟を起こして得た和解金・判決金は多くないですが、相手からの提訴を跳ね返し逆に相手が特許実施料を払う事例はあります(例:2007年にCADソフトのAutoCAD開発企業から特許侵害で訴えられた件で逆に相手とクロスライセンス&和解金取得)。ただこれらは単発であり、戦略的収益源ではありません。
総じて、マイクロソフトにとって知財はかつて主要収益源の一つでしたが、現在は補助的な位置付けに変化しています。しかし過去のライセンス契約には長期のロイヤリティ支払いを伴うものもあり、例えばある契約では2020年代半ばまで継続収入があるとも言われます。したがって今後数年は、細くなりつつも知財直接収入が利益を下支えする構図が続くでしょう。
直接収益よりも重要なのは、知財が本業の売上・利益を守り高める役割です。これには以下のような形態があります。
以上のような間接効果によって、マイクロソフトの知財は同社のビジネスモデルを支えています。特許の権利行使で短期利益を追うよりも、知財をテコに顧客価値を高め長期的収益を極大化する発想が強まっていると言えます。同社Presidentのブラッド・スミス氏も「イノベーションは当社だけでなく顧客・開発者に行き渡って初めて当社の利益になる」旨を述べており[25]、知財戦略を単独の収益源ではなくエコシステム戦略の一部と捉えていることがわかります。
マイクロソフトの知財戦略は、自社単独だけでなく業界パートナーやオープンエコシステムとの関係構築にも深く関与しています。ここでは、他社との提携・標準化活動・コミュニティ参加などエコシステム戦略における知財の役割を分析します。
マイクロソフトは長年にわたり、ハードウェアOEMやソフトウェアベンダーとの間で知財提携(クロスライセンスや協業契約)を結んできました。これはPC業界でのWintelアライアンス(Microsoft+Intel)のように、互いの技術を補完して市場を拡大する目的があります。知財的には、Intelが半導体特許を提供しマイクロソフトがOSソフトウェア特許を提供することで、互いに安心して製品開発できました。他にもHP、Dellといった主要OEMとも、PCに関わる広範な特許クロスライセンス契約を交わしています。これによりPCエコシステム全体が特許訴訟に煩わされず成長でき、結果的にWindowsの普及にも繋がりました。
近年では、モバイルやクラウド分野でも大企業間クロスライセンスが増えています。例として、サムスン電子とは2011年にスマホ特許を巡り訴訟寸前まで行きましたが、2014年に和解し包括クロスライセンス契約を締結しました。これには特許料の受払いも含まれていますが、以後両社のスマホ・クラウド事業で相互に特許を気にせず協業できる土壌ができました。また2020年にはMicrosoftとSamsungは5G/クラウドでの協力を発表し、知財障壁なく共同マーケティングする様子が見られます。大企業同士のクロスライセンスは一種の軍縮条約のようなもので、莫大な知財戦費をイノベーションに振り向けることを可能にします。マイクロソフトはそうした合意に積極的であり、Googleとも2015年に特許訴訟の取り下げと包括クロスライセンスに合意しています(Android・Xbox関連の相互訴訟終結)。
エコシステム全体を見ると、マイクロソフトは「主要プレイヤーとは争わず協調し、業界外の脅威に対して結束する」戦略です。業界外の脅威とは、NPE(パテント・トロール)や異業種からの新規参入企業を指します。例えば特許訴訟を繰り返すNPEに対しては、クロスライセンス網に入らないため業界各社でLOT NetworkやUnified Patentsといった共同防衛策を取っています。マイクロソフトはGoogleやIBMと共にそれらに参加し、知財で共闘する姿勢を示しています[3]。また、自動車業界など異業種がIT領域に入ってくる際も、積極的にライセンス提案して取り込みます。2015年のトヨタ連合によるOSS団体(AGL)の設立時には、マイクロソフトは自社車載特許を有償提供する協定を結び、敵対せず参加企業として連携しました。こうした垣根を越えたクロスライセンスが、マイクロソフトのエコシステム拡大に寄与しています。
マイクロソフトは標準化団体や業界コンソーシアムにも積極参加しており、知財戦略はその活動とも連動しています。代表例として、Web標準(W3C)や映像コーデック標準(MPEG-LAなど)での動きがあります。かつて同社独自技術だったインターネットエクスプローラーの機能も、標準化に伴い特許をフィードバックしています。例えばブラウザのHTMLレンダリングに関する特許は標準団体でのRAND条件で許諾するなど、オープン標準形成に協力しました。このように標準必須特許(SEP)のFRAND提供は同社も遵守しており、前述のモトローラとの係争でも相手のFRAND義務を主張する立場に立ちました[39]。
オフィス文書の標準(OOXML vs. ODF)では積極的ロビー活動を展開し、自社提案のOOXMLをISO標準化しました。その際、関連特許について無償ライセンス宣言を行い標準承認を得やすくしました[63]。これは標準採用後も自社Officeが優位性を持つと踏んでの戦略で、実際にOffice文書標準はマイクロソフト主導で制定され、市場でもOfficeが依然デファクトです。同社は標準化を恐れるのでなく、知財を駆使して主導権を取りつつ自社に有利な標準を形成する動きをとっています。
コンソーシアム活動としては、OpenAIへの巨額投資(約100億ドル規模)も注目されますが、これは厳密には知財コンソーシアムではありません。ただ知財面でマイクロソフトはOpenAIの技術を独占的ライセンスする権利を得ており(GPT-4など)、事実上OpenAIの知財をAzureで活用できる体制です。従来の標準団体やオープンソース基金とは異なり、投資契約を通じて先端技術の知財を囲い込む新しいエコシステム戦略といえます。今後AI開発で他社と共同歩調を取る際も、このように資本提携+独占ライセンスという手法が増えるかもしれません。
OSSコミュニティは近年マイクロソフトの重要なエコシステムとなっており、知財戦略の大転換が見られます。かつてはOSSを知財脅威とみなし距離を置いていましたが、現在はGitHubの母体企業としてOSS促進の旗振り役に回りました。知財方針もそれに合わせ、OSS開発者に対する特許主張を控える宣言や、Linux関連特許の無償開放といった具体策が講じられています[2]。
2018年のOpen Invention Network参加はその象徴で、ここではマイクロソフト自身も他社のLinux特許利用を許容する立場になりました[8]。OIN加入企業(GoogleやIBM等)は互いにLinux Systemに関する特許を行使しない契約で結ばれ、メンバーは安心してLinux関連開発ができます。マイクロソフトは6万件以上の特許を提供し、一躍OIN最大の貢献者となりました[64]。これにより、以前懸念されていた「マイクロソフトがLinuxユーザーに特許訴訟を仕掛ける」というシナリオはほぼ消滅しました。同社の知財戦略がコミュニティ寄りに大きく舵を切った画期的出来事です。
また、特許非主張宣言も行っています。例えばAzure IoT分野で開放した一部特許について、自社技術をOSSプロジェクトに提供しつつその特許を無償使用許諾する形を取っています。さらに2021年にはMicrosoft Plutonセキュリティチップの技術仕様をオープン化し、他社が実装可能としました。これも実質的には特許権の不行使を示唆する動きです。
一方で、OSSとの共存には課題もあります。例えば2019年、マイクロソフトはexFATのLinuxカーネル取り込みをサポートすると表明しましたが、完全オープンにするには特許処理が必要でした。そのためLinux Foundation経由でexFAT特許をすべて無償提供する対応をとり、カーネルコミュニティの要求に応えました。こうした調整を各所で行っており、コミュニティの信頼を得るための知財措置が随時取られています。
OSSエコシステムとの関係では、特許だけでなく著作権も重要です。GitHub上のコード利用やLinuxカーネル貢献では、参加各社は著作権を共有する形になります。マイクロソフトはGitHubを運営する中で、利用規約で開発者の著作権を尊重しつつ、サービス提供に必要なライセンスを得るバランスを取っています。GitHub Copilotのコード生成問題などでは一部から著作権侵害の指摘があり、訴訟も起きていますが、前述のように利用者補償を打ち出すことでコミュニティ側と対話しようとしています。OSSとの共生には知財リスクの分散と共同行動が欠かせず、マイクロソフトは自身がかつて経験した批判(特許FUD=Fear, Uncertainty, Doubt戦術への嫌悪など)を踏まえ、透明性を重視する発言を増やしています。
総じてエコシステム戦略では、マイクロソフトは「知財で壁を作るより橋をかける」方向に舵を切りました。他社とのクロスライセンス連携や標準化へのコミット、OSSコミュニティとの融和など、攻撃的知財戦略から協調的知財戦略への転換です。これはひとえに、自社がクラウドサービス企業へ転身し、囲い込みより共創で市場を拡大する方が利益に適うとの経営判断が背景にあります。知財戦略はそれに追随し、エコシステム全体の繁栄と自身の成長を両立させるツールとして再定義されているのです。
マイクロソフトの知財戦略を浮き彫りにするため、同業他社や関連プレイヤーと比較します。ここでは特にIBM、Google(Alphabet)、Appleの3社を取り上げ、それぞれの知財の考え方とマイクロソフトの立ち位置を対比します。
IBMは30年以上連続で米国特許取得件数トップを誇り、知財収益化の先駆者です。IBMの知財戦略は「発明の創出とそのライセンス収入化」に重きがあります。例えばIBMは1990年代後半に特許ライセンスで年間10億ドル以上を稼ぎ「知財部門はIBM最大の事業部」などと揶揄されたほどです[61]。2010年代でも依然10億ドル超のライセンス収入がありましたが、近年は減少傾向で2016年約17億ドル→2018年約12億ドル[65]。それでもマイクロソフトの推定数億ドル規模を大きく凌ぎます。
IBMの特許は広範囲で、ハードウェア(半導体、メインフレーム)、ソフトウェア、サービス手法(ビジネス方法特許)に及びます。一方マイクロソフトはソフトウェア・クラウド中心で、ハード特許は限定的です。IBMは自社で半導体開発・製造してきた歴史から、装置やプロセスの基本特許を多く持ち、サムスン等にライセンスしています。マイクロソフトはその点“軽量”で、IBMほど他社にライセンス提供する基盤技術はありません。この違いは事業モデルの違い(IBMはハード込み、MSはソフト中心)を反映しています。
クロスライセンス面では、IBMもまた主要企業と交差しています。マイクロソフトとは1990年代からクロスライセンス関係にあり、互いの基本ソフトやミドルウェア特許は相互利用可能とされてきました。IBMは訴訟より交渉でライセンスを獲得するスタイルで、マイクロソフトも同様の傾向です。ただIBMは時に特許訴訟も起こします。近年では2016年に特許侵害でNetflixやTwitterを提訴しライセンス料を得るなど、権利行使で収益を上げるケースがあります。一方マイクロソフトは2010年代後半以降、自ら訴えるケースは減っています。この積極行使度でいうと、IBMの方が収益化のためには厳格に権利主張する姿勢が残っています。マイクロソフトはコミュニティ配慮などから多少柔軟になっています。
とはいえ、IBMもLinuxの普及に貢献する立場として2005年に特許500件無償提供を宣言するなどオープン寄りの面も持ちます。マイクロソフトの2018年OIN参加は、IBMが主導するLinux保護網に合流する意味があり、ここで両社は協調にあります。競合というより、IBMとマイクロソフトは棲み分けつつ知財で共闘する局面が増えています。例えば特許制度改革では双方とも品質向上を訴えるロビー活動をしていますし、特許トロール対策でも歩調を合わせLOT Networkに参加しています。
Googleはインターネットサービス主体で成長した企業で、伝統的に「特許は守りの手段」とみなす傾向が強いです。創業当初のGoogleは特許取得に消極的とも言われ、サービス公開して技術優位を確保する方針でした。しかしAndroid買収後、スマートフォン特許紛争が激化すると事情が変わりました。2011年、Googleは特許確保のためMotorola Mobilityを125億ドルで買収し、約17,000件の特許資産を手に入れました[11]。これはAndroid陣営を守る防御策でした。同時期、マイクロソフトとAppleにNortel特許をさらわれた経験もあり、Googleは知財戦略を真剣に考えるようになります。
Googleの特許保有件数は2020年代にIBM並みに増え、AIやクラウド関連でマイクロソフトとトップ集団を競います[24]。しかしGoogle自身が特許訴訟を仕掛ける例は少ないです。むしろ2013年に「Open Patent Non-Assertion (OPN) Pledge」として自社特許の一部をOSS用途に非行使と宣言[26]したり、2014年に反トロールのLOT Network創設メンバーになるなど、攻撃より防御と共有の姿勢です。Androidで得たMotorola特許も、敵対より訴訟解決に使い、AppleやMicrosoftと相次いでクロスライセンスする方向へ動きました[36]。Googleとマイクロソフトは2015年に特許係争を全て取り下げ、以降協調路線です[20]。
OSS重視はGoogleの社是であり、ChromeやAndroidなど大規模OSSプロジェクトを主導しています。GoogleはAndroid特許問題に対し、2017年に「Android PAX」というメンバー間特許相互不行使協定を結成し、サムスン等とスマホ関連特許を無料共有しました。これもOSSコミュニティ内では歓迎されました。マイクロソフトも2018年OIN参加で似た姿勢を取りましたが、Googleはそれより前からOSSに関して特許主張しない文化を醸成してきました。
ただGoogleも攻撃を受ければ反撃します。代表例は2010年以降のOracle対Google訴訟(Java API著作権問題)で、これは特許ではなく著作権争いでしたが、Googleは10年戦い最終的に勝利しました。このように法廷闘争を辞さない部分もあります。マイクロソフトはOracleほどOSSに敵対しませんでしたが、かつてLinuxに批判的だったためGoogleとは一時対立もありました。しかし現在は両社ともクラウドAIで競う一方、知財では共通利害(トロール対策や標準推進)があるため協調的です。両社ともLOT Network、OINの主要メンバーであり、知財エコシステムを共同で形作るパートナーと言えます。
総じてGoogleとマイクロソフトの差異は、知財収益への執着度でしょう。Googleは広告で稼ぐモデルゆえ、知財から直接収入を得る発想が薄く、あくまで製品・ユーザー増に資するなら知財放出も厭わない傾向です。マイクロソフトも従来は特許収益を重視していましたが、クラウド移行でGoogleに近い考えに寄ってきました。Azure IP Advantageなど、Googleが打ち出さないほど手厚い特許保護策は差別化点ですが、根底には顧客志向があり、Google的な防御知財思想に近づいています。今や両社の知財戦略は「顧客・開発者エコシステムを守りつつ競争する」という点で共通基盤に立っていると言えます。
Appleはマイクロソフトと対照的に、クローズドな製品エコシステム戦略を採ります。それを知財が強力に支えています。Appleはハード・ソフト・サービスを一体で設計し、その独自性を知財(特に意匠・トレードドレス・商標も含む)で守ります。最も有名なのがスマートフォン特許戦争で、Appleは2011年以降SamsungをはじめとするAndroidメーカーを特許・意匠侵害で提訴し、米国で10億ドル超の賠償を勝ち取ったり、販売差止め圧力をかけたりしました。これはジョブズCEOの「Androidは盗用」で「核戦争も辞さない」との宣言に象徴される攻撃的知財戦略でした。
マイクロソフトはAndroidメーカーと同じ時期に交渉で解決していたため、このような法廷闘争は回避しました。この違いは興味深く、Appleは自社製品の模倣は断固許さないスタンス、マイクロソフトは相手と取引することでwin-winを模索するスタンスでした。結果として、Apple vs Samsungの争いは2018年に和解まで7年かかりましたが、マイクロソフトは2013年頃までに主要Androidメーカーとの合意を完了していました。それぞれ自社の事業モデルに合った知財戦略と言えます。Appleはハード販売が利益源なのでコピー品排除が至上命題、一方マイクロソフトはソフトライセンス収入モデルだったため相手からロイヤリティを取る方が得策でした。
Appleの特許ポートフォリオはマイクロソフトより件数では少ないですが、デザインやユーザインタフェース関連の戦略特許が多いです。有名な例ではiPhoneのピンチ操作やスライド解除特許で、これらは競合に真似させずUXの差別化を維持しました。マイクロソフトもタブレットUI(Surface用のGUI)などで特許出願していますが、Appleほど訴訟で活用した例はありません。またAppleは商標・ブランド訴訟にも敏感で、他社が似た名称やアイコンを使うと法的措置を取るケースが多々あります。マイクロソフトも商標には厳格ですが、Appleの「App Store」商標を巡る争い(Amazonとの係争など)を見るに、Appleの方がブランド独占への執念が強いようです。
オープンソースに関して、Appleは必要最小限しか公開せず、基本はクローズドソースです。Macの基盤DarwinやWebKitエンジン等一部OSSはありますが、Linuxに特許提供したりはしていません。むしろAppleはOINにもLOT Networkにも加入していない(2025年時点)と報じられており、特許共有ネットワークに背を向けている稀な巨大企業です。これはAppleがNPE訴訟を大量に抱える被害者側でありつつ、自らが他社に特許を使われにくい立場(独自路線が多い)ため、コミットしづらいからかもしれません。そのため、Appleは個別対策(自社で弁護士集団を抱えNPEと法廷で戦う)を選んでいます。マイクロソフトはLOTなど共同戦線に立っていますので、この点両社のアプローチは分かれています。
ただAppleも知財に柔軟な一面があり、2017年に参加企業間で特許放棄する「LOT Network」に遅れて加盟したとの情報もあります[66](※正確には未確認、Appleは2020年LOT参加報道あり)。仮にAppleもLOTに加われば、Google・Microsoft陣営との溝は埋まりつつあると言えます。実際、2020年にAppleはMicrosoftやIBMと共同でOpen COVID Pledge(COVID対策技術の特許無償開放)に参加するなど、社会的課題では協調しています。
総じてAppleの知財戦略は「垂直統合モデルの牙城を守る盾」であり、マイクロソフトの「水平展開モデルの潤滑油」とは哲学が異なります。Appleが知財を競合排除や自社プレミアム維持に使うのに対し、マイクロソフトは共存と収益バランスの手段として使います。しかしながら、クラウド時代にはAppleもサービス分野で他社と組む機会(AzureをiCloudに採用等)が増え、マイクロソフトもSurfaceなどハードを手掛けるようになり、両者の境界は以前ほど鮮明ではなくなりました。知財戦略も今後、Appleがもう少しオープンに、マイクロソフトがもう少し垂直統合型ビジネスで独自色を出す可能性があり、動向が注目されます。
知財戦略には常に不確実性や外部環境からのリスクが伴います。マイクロソフトが直面する知財上のリスク・課題を、時間軸で短期・中期・長期に分けて整理します。
以上、短期・中期・長期にわたりリスクと課題を概観しました。マイクロソフトは巨大全球企業ゆえ多方面の知財リスクに晒されていますが、同時にそれを乗り越える資源と知見も蓄積しています。重要なのは、変化を見据えたプロアクティブな戦略修正と、ステークホルダー(開発者・顧客・社会)からの信頼を損なわない対応でしょう。これらを怠ると、一夜にして知財優位が覆り得る厳しい環境にあることを認識する必要があります。
最後に、マイクロソフトの知財戦略を取り巻く外部環境の今後の展望と、それに対する同社の対応方向を述べます。政策動向、技術トレンド、市場変化が知財戦略にどう影響し、どう接続していくかを考察します。
各国政府は知的財産制度の見直しやデジタル政策を推進しており、マイクロソフトはそれらに関与しつつ自社戦略を調整しています。特に注目すべきは米国の特許制度改革です。前述のようにソフトウェア・AIの特許適格性や、標準必須特許のライセンスガイドライン制定などが議論されています。マイクロソフトはICT業界団体等を通じ意見を表明しており、概ね特許の質改善と訴訟乱用抑制に賛成の立場です[28]。将来的に米国でソフトウェア特許の明確な指針が出れば、それに沿った特許出願戦略(アルゴリズム単体は避け実装形態を詳述する等)を深化させるでしょう。また、仮にAI発明の扱いについて立法がなされれば、自社AIが生み出す成果の権利取得方法を再検討する必要があります。政策変更への迅速適応が今後も求められます。
EUではデジタル市場法(DMA)やデジタルサービス法(DSA)が発効し、ビッグテック規制が強まります。知財直接ではありませんが、例えばDMAではOSに他社アプリをプリインストールできるよう強制するなど、Windows独自機能の優位を削ぐ動きです。このような競争政策により、知財で築いた囲い込みが緩和される懸念があります。マイクロソフトは欧州規制当局との対話を重ね、規制遵守しつつも知財価値を損ねない折衷策を模索しています。例えばTeamsとOfficeのバンドル販売に関し、独禁懸念に対応して分離オプションを提供する方針を2023年に発表しました。今後も独禁法と知財のバランスが論点となり、同社は政策順守を優先しつつもイノベーション阻害にならないよう主張していくでしょう。
中国の政策も見逃せません。中国は自国IT産業振興のため、標準必須特許のライセンス料算定に積極介入したり、海外特許に基づく差止めに対抗する「反外国差止め命令」を制定するなど独自色を強めています。マイクロソフトは中国市場でビジネス継続するため、現地法に従いつつ自社知財を守る難しい舵取りを迫られます。現地企業との提携(例: C&M合弁でWindowsカスタム版提供)などを通じ、中国政府の要求(ソースコード開示など)と知財保護の妥協点を探っています。長期的には、中国での知財紛争は増えると予想されるため、現地訴訟にも備えてグローバルな知財戦略を構築するでしょう。
さらに、各国のAI政策やデータ政策が知財に影響します。EUのAI規則案では生成AIの訓練データ開示義務などが盛り込まれ、著作権との衝突が懸念されます。マイクロソフトはOpenAI連携で生成AIを展開中ゆえ、AI規制の行方に神経を払っています。またデータ利活用政策(オープンデータ推進やデータ共有義務など)が進めば、従来のデータ独占モデルが崩れます。Azureが差別なくデータポータビリティを保証するなど適応を迫られるでしょう。知財以外の無形資産(データなど)の制度化は大きな潮流であり、同社戦略もそれに合わせて知財の役割を再定義する必要があります。総じて、政策面では「協調とロビー活動」がキーワードです。マイクロソフトは規制に抵抗するのではなく、業界全体の利益になる方向で政策形成に参加し、自社にもメリットのある制度設計を後押しするでしょう。
技術革新そのものが知財戦略の方向性を決めます。まずAIの高度化は特筆すべき動向です。生成AIがコードを書く時代に、従来のソフトウェア知財は再考を迫られます。マイクロソフトはGitHub CopilotやAzure OpenAIで先陣を切っていますが、ユーザーは「AIが生成したコードの知財は誰のものか?」といった疑問に直面します。将来、AIが著作権や特許を自動回避しつつ生成するようになると、人間の開発した知財の価値が相対的に下がる可能性もあります。マイクロソフトとしては、自社AIが安全に第三者知財を避け、なおかつ独自IPも生み出せるように技術開発を進めるでしょう。具体的には特許データを学習させた侵害予測AIや、OSSライセンス整合性チェックAIなど、知財マネジメントにAIを活用する方向も考えられます。またAI同士が特許を出願し合う未来も議論されています(すでにDABUSというAI発明者問題が国際論争に)。その時マイクロソフトはAIを発明者と認める法制度整備を支持するか、逆に人間中心主義を貫くか、戦略判断が迫られます。
クラウドとエッジの進化も重要です。クラウド市場は成熟してきましたが、エッジコンピューティングが広がると、知財の主戦場も変わります。従来クラウド内部で完結していた機能がデバイス側に移ると、またソフト・ハード一体の特許が意味を持つでしょう。マイクロソフトはAzureとエッジ(IoT)を連携する戦略なので、エッジデバイス特許(例えばAzure Sphereのセキュアチップなど)も抑えつつあります。今後、エッジ領域で例えば独自AIチップを開発すれば、その特許を競合(AWSやGoogle Cloud)に使わせないという選択肢も出てきます。クラウドでは協調路線でも、エッジではデバイス特許で差別化という戦略の二枚腰が予想されます。
産業構造の変化も見逃せません。ソフトウェア産業がSaaS化し、一部ではオープンコアモデル(OSS版+商用拡張)などハイブリッドが主流化しています。マイクロソフトもAzureでオープンソースDBサービスを提供する際、ベンダーから「ソースはOSSなのにマイクロソフトが利益を取るのか」と批判されたことがあります(MongoDBなどがライセンス変更でクラウド事業者対策をした例)。今後もクラウド vs OSSベンダーの軋轢は続き、マイクロソフトはOSSコミュニティとの共存策をアップデートする必要があります。例えば、収益の一部をOSS開発者に還元する仕組みや、クラウド上のOSS利用での特許保証をさらに拡充するなどが考えられます。これは市場からの要請でもあり、知財戦略で市場の信頼を得る取り組みとして期待されます。
ハードウェア市場では、Apple・Google・Amazonなど他の大手が独自チップ開発を進めています。マイクロソフトも据置型Xboxからクラウドゲームへシフトしつつありますが、長期的にデバイスless時代が来るかもしれません。そうすると物理ハードに紐づく特許より、サービスロジックやUXの知財(UI特許やノウハウ)が鍵になります。またバーチャル空間メタバースが盛り上がれば、そこでのデジタル資産権利(NFT等)が知財の一部を代替する可能性もあります。同社は企業向けメタバースを視野に入れHololens等に投資していますが、市場がどう展開するか読みづらく、知財の押さえどころも難しいです。例えば仮想商品デザインの保護は現行意匠法で足りるのか、など法整備が追いついていません。マイクロソフトは自社エコシステム内で仮想アイテムのライセンス管理(Xboxのゲーム内スキン等)をやってきましたが、メタバース間で互換が出ると統一仕様・権利管理が課題になります。もしかすると、業界共同でメタバースIP権の標準を作る動きが出るかもしれず、その際同社もリードするでしょう。
市場動向としては、M&A戦略と知財も挙げられます。マイクロソフトは大型買収(LinkedInやActivision Blizzardなど)を繰り返していますが、その際被買収企業の知財資産も取得します。ActivisionのゲームIPやキャラクター著作権は貴重な資産で、エンタメ市場での布石となります。こうしたコンテンツIPへのシフトも見られ、ソフトウェア特許だけでなくブランド・キャラといった知財の扱い比重が増す可能性があります。将来、ディズニーやNetflixと競うようになれば、コンテンツIP戦略がより重要になるでしょう。知財部門としても特許・OSSだけでなく、著作権・商標含め包括的IP戦略に対応していく展望が考えられます。
以上を踏まえ、マイクロソフトの知財戦略は今後次のように進化する可能性があります。
結論として、知財戦略は静的ではなく動的に進化し続ける必要があります。マイクロソフトは過去45年以上にわたり、技術と市場の変革に合わせて知財戦略を柔軟に調整してきました。その実績からすれば、今後も政策対話や技術革新の最前線で主導的に役割を果たし、自社のみならず業界全体の健全な知財エコシステム構築に貢献していくと見られます。それが結果的に自社の持続的成長にもつながるというWin-Winのビジョンが、同社の今後の知財戦略展望の核となるでしょう。
マイクロソフトの知財戦略分析から、一般企業や組織が得られる示唆を整理します。経営全般、R&D、事業化(ビジネスモデル)それぞれの観点で、知財戦略上の示唆とアクション候補を提言します。
結局のところ、マイクロソフトの知財戦略は「技術・知識をビジネス価値に変換し、リスクを管理し、協調を創出する」高度な実践例です。自社もそれにならい、知財を攻めと守りの両輪として活用する発想転換が重要と言えます。技術系企業のみならず、DXが進むあらゆる企業にとって、知財戦略の巧拙が競争優位を左右する時代です。本分析を踏まえ、自社状況に合わせた知財戦略を再構築・強化することが、将来的な成長と生存のカギとなるでしょう。
マイクロソフトの知財戦略は、その企業進化の歴史と軌を一にし、閉鎖から開放へ、対立から協調へと大きな転換を遂げてきました。Windows帝国を築いた20世紀末には、自社ソフトウェアを特許・著作権で厳格に守り、市場独占力を最大化する戦略が目立ちました。しかし21世紀に入りオープンソースやクラウド時代を迎えると、同社は知財戦略を動的に見直し、知財を競争武器であると同時に交渉資産・協業資源として活用する柔軟な姿勢へ移行しました。
分析の結果浮かび上がる最重要論点は、知財戦略のバランス感覚です。マイクロソフトはコアなイノベーション(AI、クラウド基盤等)は依然しっかり特許で囲い込む一方、周辺領域や業界標準では特許を公開または共同利用に供し、エコシステム全体の利益を図っています[6][2]。このバランスにより、自社の革新力と業界からの信頼を両立させ、知財による摩擦を最小化しつつ自社価値を極大化しているのです。言い換えれば、知財独占力と共有インセンティブの最適点を探り当て、それを組織能力として体現している点が同社戦略の妙と言えます。
また、知財戦略が経営意思決定と一体となっていることも重要な論点です。知財は単なる法務事項ではなく、Azureの成長戦略やOSSコミュニティとの関係構築、ひいてはブランドイメージにまで影響します。ナデラCEO体制下、マイクロソフトは知財戦略を企業ミッション「Empower everyone」に沿う形で再定義しました[25]。例えば顧客への特許補償サービス提供は、「顧客の安心を支援する」というミッション実践でもあります。知財戦略を企業価値と整合させたことで、個別の特許紛争対応が全社戦略と矛盾せず、長期的視座で判断できるようになりました。これは経営陣のコミットなしには成し得ず、知財を経営資源として扱う覚悟が意思決定に現れていると言えます。
意思決定への含意として、本分析から浮かぶのは次の点です:「知財戦略は守りではなく攻めの経営ツールである」という認識を持つことの重要性です。多くの企業で知財は訴訟対応や権利維持のコストセンターと見做されがちですが、マイクロソフトのケースはそれを価値創出のプロフィットセンターに変え得ることを示しました。実際、Android特許収入は一時期同社に多大な利益をもたらし[11]、Azure IP Advantageはクラウド市場での差別化要因となりました[55]。知財戦略を適切に設計すれば、リスクを金に換え、競争制約を商機に変えることが可能なのです。この視点に立つと、経営者は知財部門をコスト削減対象ではなく投資対象と見做し、知財戦略策定を経営計画に組み込むべきことがわかります。
最後に、マイクロソフトの知財戦略から読み取れる将来展望は、協調的知財エコシステムの構築です。同社は自らが利益を享受すると同時に、競合他社や中小企業、開発者コミュニティも含めた全体最適を追求する方向に進んでいます[26]。これは単なる慈善ではなく、エコシステムが成長すれば自社も伸びるという戦略的合理性に裏打ちされています。知財を独占の源泉からエコシステム繁栄の基盤へと再定義するこのアプローチは、今後の知財戦略の主流となる可能性があります。意思決定者は、自社もその潮流に乗り遅れず、オープンとプロテクトの両輪で持続的成長を図る意思決定を行う必要があるでしょう。
本レポートの分析と示唆は、マイクロソフトという巨人の事例ではありますが、規模の大小を問わず多くの組織に通じる普遍性を持ちます。知財戦略はもはや専門部門だけの課題ではなく、企業価値創造の中核に位置付けられつつあります。マイクロソフトの知財戦略から学べる最大の教訓は、「知財を制する者が市場を制する」だけでなく「知財を活かす者が未来を制する」ということではないでしょうか。
第1章 背景と基本方針:
- [4][5]Microsoft公式「Microsoft Patents」 – 特許ポートフォリオ戦略(質重視・将来志向・制度調和)
- [7]Microsoft年次報告書2015 – 知財保護と活用方針(保有件数・クロスライセンス・無償開放例)
- [1]Microsoft公式「Intellectual property and open innovation」– イノベーション投資と知財・オープンイノベーションの位置付け
- [30]Microsoft公式「Licensing Policy」– 学術研究機関への特許無償提供(特許非行使)方針
- [32]Microsoft公式「Intellectual property and open innovation」– オープンソースへの全面コミット表明
- [2]OIN公式ニュース – 2018年MicrosoftがOIN参加し6万件超特許を無償開放したニュース
- [26]SiliconANGLE – OSSコミュニティとの軋轢と進化に関するMicrosoft法務責任者コメント
第2章 全体像と組織体制:
- [7]Microsoft年次報告書2015 – 当時の特許保有(57k)・出願(35k)件数、知財活用方針
- [33][24]The Stack (2023) – 2022年米国特許取得ランキングとAI特許主要企業(Samsung, IBM, Microsoft等)
- [11]SiliconANGLE – 2013年Nomura推計Android特許ロイヤルティ$2B/年および2018年OIN参加による今後の収入影響
- [9]Microsoft公式「Microsoft Technology Licensing」– MTL子会社の役割(特許管理・技術移転)
- [18]Microsoft公式ブログ – Azure IP Advantageの特許提供リスト1万件について説明(MTL関与)
- [38][39]Microsoft年次報告書2015 – Motorolaとの特許紛争詳細(ITC提訴・RAND特許問題)
- [42][3]Microsoft Azure Blog – LOT Network加盟やAzure IP Advantage導入経緯(NPE訴訟経験・開発者保護策)
- [34]BusinessInsider (2013) – Android特許収入~20億ドル/年(ほぼ純利益)Nomura分析
第3章 詳細分析:技術領域別
- [12][43]Microsoft News – 2013年exFATファイルシステム特許を自動車・カメラメーカーにライセンスしたニュース
- [44]Microsoft公式 – オープンスペックライセンスプログラム(通信プロトコル等特許ライセンス提供)説明
- [45]Microsoft公式ブログ – Azure IP Advantage特許群の質評価(TechInsights: Azure特許群は世界3位相当)
- [50]Microsoft News – 2014年Dellと特許クロスライセンス契約(Chrome/Android機器含む)発表
- [52]Microsoft News – 2016年Rakutenと特許クロスライセンス契約(Linux/Androidデバイス)発表
- [18][47]Microsoft公式ブログ – Azure特許ピック権は訴訟抑止効果が狙いとの説明
- [49]Microsoft公式「Licensing Policy」– 特許ライセンス方針(商業合理的条件で非独占許諾、一部技術はライセンス拒否権留保)
- [53]SiliconANGLE – MicrosoftがOIN参加で60k特許無償提供決断、以前の特許収入を手放す点
第4章 詳細分析:市場・顧客別
- [54]Microsoft公式 – 商標・ブランドガイドライン(Microsoftブランド保護)
- [55]Microsoft Azure Blog – Azure IP Advantageでオープンソース由来サービスのIP侵害も保護/移転特許に無償ライセンス約束
- [57]Microsoft公式ブログ – Azure IP Advantage立ち上げは顧客要望に応えたものと説明
- [58]Microsoft Technetブログ – 2013年ZTEが特許契約加入し「主要Androidメーカー大半がライセンス選択」との言及
- [59]Microsoft Azure Blog – Entrepreneur調査引用「中小企業の40%が特許訴訟で重大影響」
- BSA Global Software Survey 2018 – 各国ソフト違法コピー率と改善傾向(海賊版対策の成果参考)
第5章 詳細分析:収益モデルと知財活用
- [11]SiliconANGLE – Nomura推計Android特許ロイヤルティ約20億$/年に関する記述
- [60]Medium/SeekingAlpha – IBM2018年特許収入約12億$とのデータ記載
- [13]Microsoft News – 2014年Dellライセンス契約プレスリリース(特許共有で革新加速と記載)
- [25]Microsoft公式 – イノベーションは顧客・開発者にも恩恵があってこそとの理念表明
- [3]Microsoft Azure Blog – LOT Network参加でリスク低減コミット/Azure IP Advantage説明
- [62]SECフォーム10-K2018 – Microsoftの「Patent licensing includes… mobile devices and cloud offerings」記載(特許ライセンス収入の主因説明)
第6章 詳細分析:パートナーシップ・エコシステム
- [36]SiliconANGLE – Nomura2013後、MicrosoftがAndroid主要企業とクロスライセンス合意(範囲不明だが紛争回避)
- [3]Microsoft Azure Blog – LOT Network参加で業界と協調、Azure IP Advantage導入で開発者保護する旨
- [63]Microsoft公式「Licensing Policy」– WindowsやOfficeスキーマ等のライセンスプログラム維持(標準化対応含意)
- [39]Microsoft年次報告書2015 – Motorolaが標準特許をRAND提供義務負う旨・Microsoftがそれを主張した件
- [64][11]SiliconANGLE – MicrosoftがOIN加盟で60k特許共有、Linux SystemにはAndroid含まれAndroid特許収入減の可能性
- [2]OIN公式 – MSがOIN加入し特許無償提供コミュニティ入り
第7章 競合比較
- [65]IP CloseUp – IBM特許収入2016年17億$→2018年12億$減少記事
- [11]SiliconANGLE – 2011年GoogleがMotorola買収し17k特許取得、Nomura推計Android収入等背景
- [20]SiliconANGLE – Microsoftが主要Androidプレイヤーとクロスライセンス締結しGoogleとも摩擦解消した旨
- [67]Reuters – 2018年MicrosoftのLOT Network加盟報道(Appleは不参加)
- Apple vs Samsung訴訟資料 – 2012年Apple勝訴判決内容(1審$10.5億賠償等)
- Google OPN Pledge公式 – 2013年Googleの特許非主張宣言対象特許リスト
第8章 リスク・課題
- [21]Henry.law – IPA対Microsoftで2.42億$評決例(Cortana特許訴訟)
- [68]Microsoft年次報告書2015 – 2012年ドイツでH.264特許差止め命令・米裁判所が差止め禁止命令出した経緯
- [59]Microsoft Azure Blog – Entrepreneur調査:中小企業40%が特許訴訟で重大影響
- [26]SiliconANGLE – Erich Andersenコメント「かつてOSSと摩擦あったが進化に伴い次の論理的一歩」
第9章 今後の展望
- [28]Microsoft公式「Patents」– 特許制度改善(明確な請求・効率的審査)支持表明
- [26]SiliconANGLE – Microsoft法務責任者コメント:顧客・開発者の声を反映し進化、今回OIN加入は自然な流れ
- EU DMA原文 – Gatekeeper義務一覧(OS上プリインアプリ許可等)
- 中国特許法2021 – SEP紛争調停規定・反外国禁令規定
- WIPO「AI and IP: A vision for the Future」レポート – AIが知財制度に与える影響
- Microsoft Green Patent Pledge (2020) – 気候変動技術500件特許無償提供宣言
第10章 戦略的示唆
- [6]Microsoft年次報告書2015 – 特許クロスライセンスや知財無償開放(標準化・互換推進)の例
- [3]Azure Blog – 開発者・顧客の特許リスク低減策Azure IP Advantage/LOT Network
- [63]Microsoft公式 – Windowsソースや通信プロトコル等のライセンスプログラム列挙
- METI「知財金融化に関する研究会報告書」(2020) – 特許の流動化・特許保険等の知財マネジ手法
- 特許庁「中小企業のためのクロスライセンス契約ガイド」(2019) – 提携時知財契約の留意点
[1] [25] [32] [54] Intellectual Property & Open Innovation | Microsoft Legal
https://www.microsoft.com/en-us/legal/intellectualproperty
[2] Microsoft Just Did Something Big With 60,000 Patents - Open Invention Network
https://openinventionnetwork.com/microsoft-just-did-something-big-with-60000-patents/
[3] [17] [19] [22] [23] [42] [55] [59] Microsoft joins LOT Network, helping protect developers against patent assertions | Microsoft Azure Blog
[4] [5] [28] [29] Microsoft Patents | Microsoft Legal
https://www.microsoft.com/en-us/legal/intellectualproperty/patents
[6] [7] [10] [14] [27] [38] [39] [40] [68] Microsoft 2015 Annual Report
https://www.microsoft.com/investor/reports/ar15/index.html
[8] [11] [20] [26] [36] [37] [53] [64] Microsoft opens up its vast patent portfolio to the Linux community - SiliconANGLE
https://siliconangle.com/2018/10/10/microsoft-opens-vast-patent-portfolio-linux-community/
[9] Microsoft Technology Licensing
https://www.microsoft.com/en-us/legal/intellectualproperty/mtl
[12] [13] [15] [16] [43] [50] [51] [52] [58] IP Agreements - Stories
https://news.microsoft.com/ip-agreements/
[18] [45] [46] [47] [56] [57] Microsoft Azure IP Advantage: A closer look at the ‘patent pick’ - Microsoft On the Issues
[21] Patent Trials and Triumphs: IPA v. Microsoft
https://henry.law/blog/patent-trials-and-triumphs-ipa-v-microsoft/
[24] Semiconductor Tech Received Most Granted Patents in 2023
https://www.semiconductor-digest.com/semiconductor-tech-received-most-granted-patents-in-2023/
[30] [31] [48] [49] [63] Intellectual Property Licensing Policy | Microsoft Legal
https://www.microsoft.com/en-us/legal/intellectualproperty/tech-licensing/policy
[33] Most patents granted in 2022: Asian firms dominate US list - The Stack
https://www.thestack.technology/most-patents-granted-in-2022-list-top-10/
[34] Microsoft Earns $2 Billion Per Year From Android Patent Royalties
[35] Microsoft gets $2 billion a year in Android patent fees. Really?
[41] [PDF] 2018 Annual Report - IBM
https://www.ibm.com/investor/att/pdf/IBM_Annual_Report_2018.pdf
[44] Technology Licensing & Transfer Programs | Microsoft Legal
https://www.microsoft.com/en-us/legal/intellectualproperty/tech-licensing
[60] Case Study (Business Law Perspective): IBM's Strategic Use of ...
[61] [65] IBM's Drop in Direct IP Licensing Revenue May be a Reflection of ...
[62] msft-10k_20180630.htm - SEC.gov
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/789019/000156459018019062/msft-10k_20180630.htm
[66] [67] Microsoft joins 'patent troll'-fighting alliance LOT Network | Reuters
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