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トヨタ自動車の知的財産戦略に関するレポート

3行まとめ

米国特許取得数11年連続首位、全世界で約26,000件を保有

トヨタは2024年に米国で2,428件の特許を取得し、自動車メーカーとして11年連続で首位を維持。グローバルでは約26,000件の特許を保有し、そのうち63.8%が存続中である。

約3万件の特許を無償開放する戦略的オープンイノベーション

燃料電池関連約5,680件、電動車関連約24,000件の特許をロイヤルティフリーで開放。業界全体の電動化を促進し、自社の部品供給や技術サービスの需要創出を狙う。

電動化・自動運転へ特許ポートフォリオを大転換

2022年取得特許の26%が電動化14%が自動運転・安全技術と次世代技術にシフト。電池関連では15,000件超、固体電池では約1,400件の特許を保有し、モビリティ企業への変革を推進。

1. 特許の取得・出願数と分野

  • 米国における特許件数と出願動向
    2024
    年、トヨタは米国特許商標庁(USPTO)から2,428件の特許を取得し、米国で自動車メーカーとして11年連続で首位となった[1]。この数は全産業中でも上位10社に入る規模であり、トヨタの特許取得件数は2013年以降増加を続けているとみられる。2022年には3,056件の特許が授与され、約26%が電動化(電池や材料を含む)に関する技術、約14%が自動運転や安全技術など将来のモビリティ関連であった[2]。このことから、トヨタの出願は従来の機械系だけでなく電動化・自動運転技術へシフトしていると考えられる。
  • 技術領域の多様化
    トヨタが取得した2024年の特許は、サイバーセキュリティ、ドライバー支援技術、エッジコンピューティング、電動車(EV・燃料電池)、モビリティ・アズ・ア・サービス、製造技術、材料、ロボティクス、テレマティクス、車車間・路車間通信(V2V/V2X)など多岐にわたる[3]。例えば、LiDAR用の黒色顔料を繊維に組み込んで反射率を高める技術や[4]、リアルタイムの電力価格情報を利用してEVの充放電を最適化する方法[5]、自動運転車同士の協調操縦を管理する方法[6]、モジュール型燃料電池システムの制御技術[7]など、次世代モビリティを支えるソフトウェア・通信・エネルギー管理技術が多数含まれている。
  • グローバルでの出願数
    2024
    年時点で、トヨタおよび関連会社は全世界で約26,000件の特許・特許出願を保有し、そのうち約11,540件が登録済みで63.8%が存続中である[8]。出願の大部分は日本が占めるが、米国や欧州、中国にも多数出願しており、国際的に権利を確保している。特許分類では電池に関するH01Mと電動推進に関するB60Lが最も多く、電動パワートレーンやエネルギー貯蔵技術への集中を示す[9]
  • 電池関連特許
    専門調査機関によると、トヨタはリチウムイオン電池を中心に15千件を超える特許を持ち、固体電池に関する特許は約1,400件とされる[10][11]。電池特許の51%がリチウムイオン関連、約40%が特定技術に限定されない電池技術、ニッケル水素電池関連は約300件と少ない[12]。またシリコン負極材料に関する特許は490件以上で、トヨタはトップ5の権利者の一つである[11]。これらはEVやハイブリッド車の競争力を高める技術基盤となっている。

2. オープン特許・ライセンス戦略

  • 燃料電池特許の開放
    2015
    年のCESでトヨタは燃料電池車向け特許5,680をロイヤルティフリーで開放すると発表した。内訳は燃料電池スタックに関する特許約1,970件、高圧水素タンクに関する約290件、システム制御ソフトウェア約3,350件、燃料製造・供給関連約70件である[13]。これらの特許は市場導入初期(当初は2020年まで)に無料で提供され、同時に他社にも技術の共有を呼びかけることで水素社会の構築を促した[14]
  • 電動車技術の特許無償提供
    2019
    4月には電動化技術に関する24,000件の特許2030年までロイヤルティフリーで提供すると発表した[15]。対象はハイブリッド・プラグインハイブリッド・燃料電池などの電動システムで、電動モーター、パワーコントロールユニット、システム制御、エンジンとトランスアクスル、充電器、燃料電池などを含む[16]。トヨタは技術サポートも有償で提供し、電動車普及の加速を狙っている。
  • ライセンスプログラム「Toyota IP Solutions
    2019
    12月に米国でToyota IP Solutionsプログラムを開始し、自社保有特許を第三者にライセンスする仕組みを整えた[17]。当初はオムニディレクショナル構造色、バイオアクティブ材料、ナノ材料合成、電子機器の熱マネジメントという4領域の特許ポートフォリオを提供し、非自動車分野も含めた幅広い応用を想定している[18]。このプログラムは米国およびグローバル企業に向けた窓口として機能しており、ライセンス収入の創出や技術普及を目的としている。
  • 協業・オープンイノベーション
    トヨタはオープンイノベーションプログラム「Toyota Open Labs」を通じてスタートアップや中小企業と協業し、共同開発やライセンス供与、戦略的パートナーシップを行っている。プログラムではコーディベロップメント、概念実証、パイロットプロジェクト、商業契約、戦略的提携と投資など複数のコラボレーションモデルが用意されている[19]。これにより新興企業の技術を早期に取り込み、IPライセンスを含む柔軟な形で事業化を図っている。

3. 知財と経営戦略の連携

  • モビリティ企業への転換と知財
    トヨタは「自動車メーカー」から「モビリティ企業」への変革を掲げ、特許ポートフォリオをその証と位置付けている。2024年に取得した特許群は電動化、エネルギーマネジメント、V2V/V2X通信など次世代モビリティを支える技術が中心であり、EVの充放電最適化技術や自動運転車の協調走行技術など、モビリティサービスやスマートグリッドにも応用可能な発明が含まれている[20]。このような特許を活用することで、単に競合の参入を阻むだけでなく、社会インフラの構築に寄与するというビジョンを示している[21]
  • 研究開発投資との連動
    トヨタはグローバルで1時間あたり100万ドル超の研究開発投資を行っており、知財活動はR&D戦略と一体である[22]。北米や日本、欧州、中国の研究拠点が連携し、グループ会社(トヨタ研究所、トヨタ・コネクティッド、Woven by Toyota等)とも協働しながら特許ポートフォリオを構築している[23]。電池分野ではパナソニック(Primearth EVエナジー、PPES)との合弁事業を通じて160件以上の共同特許を保有し、300以上の企業や研究機関と協力している[24]。こうした提携により、サプライチェーン全体の技術優位性と資本効率を高めている。
  • 収益化とパートナー連携
    トヨタは自社の特許をオープンライセンスすることで電動車市場全体を拡大し、自社製品の部品供給や関連サービスの需要を創出する戦略を採っている。無料開放した電動車特許に対して技術支援サービスを提供し、将来の部品供給や提携機会を確保する狙いがある[25]。またToyota IP Solutionsでは非自動車分野への特許ライセンスを進め、新たな収益源を模索している[26]。将来的には特許ライセンス料や技術協力による収益が経営の一部を支える可能性がある。
  • 組織体制
    統合報告書2024によると、トヨタは知的財産・プライバシーを専任部署が担当し、各事業本部と連携して知財戦略を策定する。また、R&Dセンターや海外拠点にも知財部門を配置し、取締役会や経営会議で知財戦略を報告・討議する枠組みを整えている(報告書の紙面から読み取った内容)[27]。この体制により経営と現場の情報共有が進み、知財リスクへの対応やライセンス戦略の迅速な意思決定が可能となっている。

4. 海外における知財保護・訴訟対応

  • 日本国内での訴訟:電磁鋼板訴訟
    日本製鉄は2021年、電磁鋼板の特許を侵害されたとしてトヨタと材料供給元の三井物産に対し損害賠償を求める訴訟を提起した。日本製鉄は供給チェーン全体に責任を問う異例の提訴であったが、202311月に同社はトヨタと三井物産に対する請求を放棄し、訴訟は終結した[28]。専門家によると、特許の有効期間が短く、市場競争力を優先したため和解に至ったと考えられる[29]。この事例はサプライチェーンにおける特許保護の重要性と、企業間協議の必要性を示している。
  • 米国での訴訟例
    2024
    10月、特許保有企業インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV)がトヨタとホンダに対し、短距離通信と車載WiFi技術が自社の特許を侵害していると主張して米国で訴訟を提起した。報道によると、IVはトヨタの「プリウス」などで使用される車載通信システムが特許を侵害しているとし、ライセンス料の支払いを求めている。これに対しトヨタは争う姿勢であり、仮に敗訴すればライセンス費用の増加や技術変更が必要になる可能性がある[30][31]。このようにコネクテッドカー技術の拡大に伴い、通信関連の特許訴訟が増加している。
  • インターパーテスレビュー(IPR)への対応
    トヨタは米国で特許の有効性を争うインターパーテスレビュー(IPR)にも積極的に参加している。例えば20244月にはEmerging Automotive LLCが保有する米国特許に対するIPRを提起したが、202411月に審査開始が却下され終結している[32]。このような手続きは、特許リスクを減少させるための防御戦略の一環である。
  • 海外での商標・模倣品対策
    カナダでは2024年にトヨタが自動車部品の模倣品販売業者を商標権侵害で訴えた事例が報道されている。裁判所は商標権侵害の主張を一部認め、偽造部品に対する差止めと損害賠償を命じた[29]。他国でもオンラインプラットフォームを通じた偽造部品の流通が増加しており、トヨタは現地法律事務所と連携して権利行使を行っているとみられる。

5. 最近のトレンドや公開事例

  • 特許出願技術の変化
    近年、トヨタの特許ポートフォリオは電動化、ソフトウェア、通信、AIなどに重点が移っている。2022年の特許では電動化関連が26%、自動運転や安全技術が14%を占めた[2]。これは従来のエンジン・シャシー中心の特許から、EV、燃料電池、ADAS(先進運転支援システム)、V2X通信、エネルギーマネジメントへ重心が移っていることを示す。固体電池やシリコン負極など次世代電池に関する特許も増加しており、競争力を高めると同時にサプライチェーンへの影響も大きい。
  • SDGs・脱炭素との関連
    トヨタはカーボンニュートラルの実現を経営の中心に据えており、電動化や燃料電池技術の特許開放はその一環である。2019年に電動車特許を無償開放したのは、電動車市場全体を活性化し温室効果ガス削減に貢献するためであり、2030年までの提供を通じて社会実装の加速を目指している[15]。また、固体電池や水素関連技術の開発を強化することで、多様な電動パワートレーンを用意し、地域や用途に応じた脱炭素を推進している。
  • 共同開発とオープンイノベーションの拡大
    トヨタはオープンイノベーションを通じて外部パートナーとの共同開発を拡大している。特に「Toyota Open Labs」ではエネルギー、カーボンニュートラル、循環型社会、スマートコミュニティ、モビリティ・フォー・オールの5分野でスタートアップ募集を行い、共同開発やIPライセンスを含む提携を進めている[33][19]。こうしたプラットフォームは、スタートアップ技術の迅速な実用化とトヨタの知財の補完を目指す。
  • 知財活動の成果指標
    統合報告書2024の「知的財産・プライバシー」ページでは、特許ファミリーの地域別割合や技術別割合を示したグラフが掲載されている[27]。具体的な数値は画像で読み取りづらいものの、日本・北米・欧州・中国でバランスよく特許を保有し、技術分野では電動パワートレーン、車体/シャシー、運転支援・自動運転、ソフトウェアなどに分散していることが示されている。これはグローバルに均衡のとれた特許網を構築していることを裏付けている。

結論

トヨタ自動車は、従来の自動車製造からモビリティサービス企業への転換を進める中で、知的財産を戦略的資産と位置付けている。特許件数では世界トップクラスであり、電動化、AI、通信、材料など未来志向の技術に重点を置いている。さらに、燃料電池や電動車技術の特許を無償開放し、Toyota IP Solutionsを通じて特許の外部ライセンスを行うことで、業界全体の技術普及と自社の収益化を両立させる戦略を採用している。また、国際訴訟や模倣品対策への対応、オープンイノベーションを活用した共同開発など、海外での知財保護・活用にも積極的である。このように、トヨタの知財戦略は単なる防御ではなく、経営戦略や社会的課題と連動した包括的な取り組みであり、SDGsや脱炭素社会の実現に寄与するものである。

[1] [3] [4] [5] [6] [7] [20] [22] [23] Toyota Maintains Top Automotive Spot in Annual U.S. Patent Ranking - Toyota USA Newsroom

https://pressroom.toyota.com/toyota-maintains-top-automotive-spot-in-annual-u-s-patent-ranking/

[2] Toyota Moves into Top Five of Intellectual Property Owners Association Rankings - Toyota USA Newsroom

https://pressroom.toyota.com/toyota-moves-into-top-five-of-intellectual-property-owners-association-rankings/

[8] [9] Toyota Patent Portfolio: Innovative Technologies Unveiled

https://www.iiprd.com/toyota-patent-portfolio-exemplary-landscape-overview/

[10] [11] [12] [24] Toyota’s strategy to conquer the EV market

https://www.knowmade.com/technology-news/energy-technology-news/batteries-news/toyotas-triptych-ip-strategy-on-batteries-to-conquer-the-ev-market/

[13] [14] Toyota Opens the Door and Invites the Industry to the Hydrogen Future - Toyota USA Newsroom

https://pressroom.toyota.com/toyota-fuel-cell-patents-ces-2015/

[15] [16] [25] Toyota Promotes Global Vehicle Electrification by Providing Nearly 24,000 Licenses Royalty-Free | Corporate | Global Newsroom | Toyota Motor Corporation Official Global Website

https://global.toyota/en/newsroom/corporate/27512455.html

[17] [18] [26] Toyota Launches New Intellectual Property Licensing Program - Toyota USA Newsroom

https://pressroom.toyota.com/toyota-launches-new-intellectual-property-licensing-program/

[19] [33] Platform - Toyota Open Labs

https://toyotaopenlabs.com/platform/

[21] Toyota’s Evolution Strategy Decoded Through Patents: Transformation into a Mobility Company and Its IP Strategy in the U.S. | KOTOBUKI PATENT & TRADEMARK OFFICE OFFICIAL WEB SITE

https://kotopat.com/en/toyotas-evolution-strategy-decoded-through-patents-transformation-into-a-mobility-company-and-its-ip-strategy-in-the-u-s/

[27] 2024_001_integrated_en.pdf (842×596)

http://localhost:8451/image/https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/library/annual/2024_001_integrated_en.pdf

[28] Termination of litigation concerning electrical steel sheets | Corporate | Global Newsroom | Toyota Motor Corporation Official Global Website

https://global.toyota/en/newsroom/corporate/40025349.html

[29] Nippon Steel Terminated Patent Infringement Litigation against Toyota and Mitsui while Continues Litigation against Baosteel | Articles | Shiga International Patent Office

https://shigapatent.com/en/topics/nippon-steel-litigation/

[30] [31] Toyota & Honda Sued for Patent Infringements - Am Badar

https://ambadar.com/insights/patent/toyota-honda-sued-for-patent-infringements/

[32] Toyota Motor Corp. et al. vs Emerging Automotive LLC - IPR2024-00785 - IP Verse

https://ipverse.greyb.com/ptab-web/cases/case-details/IPR2024-00785

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【本レポートについて】

本レポートは、公開情報をAI技術を活用して体系的に分析したものです。

情報の性質

  • 公開特許情報、企業発表等の公開データに基づく分析です
  • 2025年10月時点の情報に基づきます
  • 企業の非公開戦略や内部情報は含まれません
  • 分析の正確性を期していますが、完全性は保証いたしかねます

ご利用にあたって
本レポートは知財動向把握の参考資料としてご活用ください。 重要なビジネス判断の際は、最新の一次情報の確認および専門家へのご相談を推奨します。

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