本コラムでは、子育てや教育に関するお困りごとを解決するヒントになる内容をお届けしています。
今回、みなさんの子育ての悩みのお声にも多かったIT機器との付き合い方、特に日進月歩で進化する生成AIとの付き合い方について取り上げます。
弊社では15年以上にわたり人材育成に取り組んでおり、AIを活用した教育についてもさまざまな知見があります。
代表の楠浦に、AIとの付き合い方に関する悩みを相談してみました。
この記事の内容
―― 子どものIT機器を利用については、今や小学校低学年でもiPadが貸与され、宿題やレポートの一環で、AI、特に、ChatGPTなどの生成AIを利用することも増えてきています。こんな現状なので、生成AIの活用はもう避けられないのですが、活用することのメリットもあると感じる一方で、なんとなく、子どもが生成AIに頼りすぎてしまうのは危険な面もあるのではないかと思っているんです。
例えばですが、正解が一つではない質問に対してAIが出した答えを素直に信じてしまうのではないかという怖さもあります。また、心が育つ大事な時期に、問いかけたらすぐに答えが出てくるというは、子どもの右脳的な感性や考える力、想像力が育たなくなるのでは、という不安があります。
楠浦:その心配、非常によくわかります。考えた先に何かが降りてくるようにポンと閃くことってありますし、僕たち親世代が育った環境では「考え抜いて自分でたどり着くこと」に重きを置いてきましたからね。
僕が問題だと思うのは、自分で考えないうちに答えが出ることがいいか悪いか、というところではなくて、AIが出した答えを素直に信じてしまうのではないか、というところですね。
AIは「先生」ではなく「壁打ち相手」として使う道具だ、という意識を持てるかどうかが重要だと思います。
発明塾でも強調しているんですけど、AIは「思考の補助輪」であって、「答えを教えてくれる存在」ではありません。自分の中にある仮説や問いを投げかけて、返ってきた答えをまた吟味し、考えを深めるための道具です。あくまでもそのような道具にすぎません。子どもがこの構造を理解できているかどうかが大事なポイントですよね。
僕はこのように対話を通じて思考を深め、適切な答えを導き出す能力を、「対話的知性」と呼んでいます。この対話的知性の有無が、AI活用においても、非常に重要なんですね。
ですので、まだ「AIはあくまで一つの意見を返しているだけ」というのが理解できないうちは、なるべく意見を求めるような使い方はしない方がよいと思います。
ちなみに大人でもまだその点を誤解している人が多いかもしれません。子どもが正しく使うために、まずは親もその姿勢を学ばなくてはいけません。そして使い方のモデルを提供する必要があると思います。
つまり、AIに何かを聞いたとき、返ってきた答えを「そうなんだ」で終わらせるのではなく、「本当にそうなの?」「他にも考え方があるんじゃない?」といったやり取りができるように教えてあげる。「対話の相手として、使い方を教える」ということですね。
親が子どもをコントロールできる段階にあるうちに、その基礎を家庭でつくってあげるのがいいと思います。子どもの成長具合とか資質など、その子と家庭によりますが、最初にAIを利用し始める時とか、素直に親のいうことを聞くうちがいいでしょうね(笑)。
―― そうなると、対話するための能力が必要になってきますね。
楠浦:その通りです。AIは壁打ち相手ではありますが、その壁に向かって的確に問いを投げられるかどうかです。
「自分が何を知りたいのか」「どこが分からないのか」を言葉にできる力がないと、AIとの対話は成り立ちません。学校や家庭で「答えを与える」教育をしすぎていないかどうかも問われると思いますが、まず自分の考えを言葉にすることで初めて他人と分かち合える。その土台があってこそだと思います。
僕の場合ですが、両親は僕に勉強を全く教えてくれませんでしたが、本は大量に与えてくれたんですよね。本を読むことで、僕は自然と語彙力や表現力が身につきました。例えばですが、こういうことだと思います。AIを使いこなす以前に学校や家庭の中で育むことが大切だと思っています。
言葉ってこちらが思っていることを一生懸命伝えたつもりでも、相手がどんなイメージで受け取っているかはわからないですよね。1回では伝わらないこともあります。
AIに対しても同じで、使いこなせるようになるためにはやりとりも必要ですし、言葉や表現をたくさん知っていた方がいいわけです。
つまるところ、AI時代の教育は、「どういう対話力・言語化力を持った子どもを育てるか」が核心の一つなると思います。そして、それを支えるのは特に家庭での教育が大きいように思います。
―― では、現在の生成AIの有用な面、子どもができる安全で有効な使い方としてはどんなものがあるのでしょうか。
楠浦:AIは、語学や数学、物理など、ほとんどすべての勉強に使えます。加えてプログラミング学習においても、非常に有効なツールですね。使う人の能力に合わせてどんどん学習できますし、僕の子ども時代にこれがあったらもう僕は学校には行ってなかったかもしれません(笑)。
「もっと分かりやすく説明して」「別の解き方を教えて」と投げかければ、必ず何かしら返してくれる。それを受け取る中で、自分の思考力も磨かれていきます。
特に算数でなく数学になると、「答え」そのものに価値はなく、「どんな解き方があるか」に価値があったりするんですが、AIは、教師一人では到底網羅できない無数の解法パターンを教えてくれますね。これは本当にすごいことです。
語学なら、英会話など、ChatGPTの有料版とかにすると、かなりなナチュラルな英語で話したことに対して返してくれて会話ができます。英語力と対話力の訓練ができそうです。
他の言語を学びたかったら、英語や日本語との対訳もできるし、本当にいくらでも学習に使えると思います。
―― AIは使い方次第でいくらでも効率よく学習の習得はできそうですね。本当にあとはリテラシー次第ですね。
楠浦:そうです。使い方を教えずに子どもにいきなり包丁を持たせることはできないのと一緒です。何歳からとか、一般論で考えず、子どもの性格や興味に合わせて親が一緒に模索する時代になりました。
AIが与えてくれるのは「その子にもっとも適した支援を実現できる可能性」(個別最適化の可能性)であって、親も「正しい使い方はこれ」と型にはめようとするのではなく、「どういう支援がその子に合うか」を一緒に考える伴走者になるべきです。それを忘れずに、AIを「子どもの学びを広げるツール」として、うまく活用していってほしいと思います。
―― ありがとうございました。
楠浦より、最後に一言。ここで僕が回答した内容は、鈴木からの質問に対して、何らかの前提を置いて答えているものです。したがって、前提を変えれば、まったく逆の回答になる可能性もあります。次回以降で、僕の回答に対して、僕自身で反論してみたいと考えています。これが「対話的知性」です。対話を通じて、自分なりの真理に至る。これも、AIによって容易になっています。自分で自分の意見に冷静に反論するのは、なかなか難しいですからね(笑)。
語り:楠浦崇央
聞き手・構成:鈴木素子
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